歴史的な偉大な解剖学書
人間を他のあらゆる動物から一目ではなはだたやすく区別することができるが,目の前に存在しているその著明な差異を認識しても人体の設計に関する知識は全く得られないのである.この問題を解くつもりで進んでいくと,間もなくわれわれは人体の形を幾何学が教えるところのいろいろな規則正しい形のものと比較しようとする試みに達するであろう.そして人体の基本形は1つの円柱Zylinderと似ていることをみいだすであろう.この円柱をその長軸をとおる1平面に対してやや平たくして,中央より上方で1つのつよいくびれをおくならば,人体の形におおよそ似るところの1つの形態ができるのである.このさい四肢については考えてないのだが,これを考えるとすれば,やはり円柱に近い形のものが,太い円柱形の胴体に付属していることがわかるのである.
G. Fechnerは全身の表面の形,とに顔面の形を数学的に表現しようと試みた.鳥類の卵の殻や多くの無脊椎動物の非常におもしろい形をした外殻については数学的なとりあつかいがなされている.しかしこういうことをしてみても人体の設計に関する知識はいずれも得られないであろう.
H. Lotzeがそれに反対して正しく述べているように,高度の有機体である生物の体は決して単なる形をあらわすのでなく,内部の複雑な組み立てを包んで,外界から境しているものである.“大多数の人々は身体が内容をもって充たされた立体のもので,その内部を充たす構造が外形を決するものであることを看過している.だから身体の形を単なる形と比較できるという希望を持って満足し,またいくつかの係数を変えるとカニの表面をクモの表面にかえることができるというような空想をえがいて喜ぶのである.ところが数学上の線や面は発生学を持っていないし,内臓を持っていないのである”.
しかしこんな数学的なものに内臓をあたえることも考えられるであろう.またこれとは別にしても,われわれは外形をみることによって,人体の設計という問題に価置のある若干の事柄を知ることができる.これを認めることをLotzeも決して看過ごしたわけではない.
[図141]二等辺の錐体形 1つの側面を下にして倒してある.abcが底であって,acとbcが底の二等辺であり,abは底の不等辺である.
人体の内部に直角の軸系をおいてみると,すぐ分かるのは,長軸にそって体は非対称を示し,同様に背腹軸でもほい対象であるが,横軸では対称性が存在している.
これと同様な軸の違いは動物界ではひろい範囲に著しくみられるのであるが,しかし何れの動物もそうというわけではない.すべての軸がみな平等という場合を持って,他の2つの軸が同価置の極をもち,そしてその互いの間では同じという場合がある.
人間やすべての脊椎動物,多くの無脊椎動物,さらにまた植物の葉にも明瞭である体形をHaeckel (Generelle Morphologie)いらい正二側型eudipleure Korperform, Typus der Eudipleuren, Homo-Form(人間型の意)とよんでいる.
人間の立体器楽的な基本形は二等辺の錐体である.すなわちその底が二等辺三角形をしているピラミッドである.この基本形では正に長軸にそって非対称があり,残りの2軸の中の1つで非対称,今1つでは対称性があるわけである.
この正二側型では身体が2つの相反部分Antimeren oder Paramerenkらできていて,この2部は対照的にだけ同じであるが,重ね合わせて一致するものでない.2つの交叉する軸の中で左右方向のもの(radial)だけが同じ極を持っている.前者は内外側の方向軸と,後者は背腹の方向軸と一致する.正中面によって身体は対照的に同じ左右の両半に分けられる.すなわち右と左の相反部分Antimerである.その各半にそれぞれ右の体肢と左の体肢がついている.内外側にむかう面によって身体は2つの同じでない部分,すなわち背方部と腹方部に分けられる.不同極性である長軸では1つの極が口極Mundpolであり,他が逆口極Gegenmundpolである.
[図142]Zeisingの研究によるアンチノウス像
[図143]黄金分割の比例
体の両半の対称性は著しいものであるから,長軸や背腹軸における非対称性を吟味するばあいもそうであるが,左右対称という考えをあまり速くこえて先に進むことができないで,そこに長く停滞することを余儀なくされる.まあつぎのことを考えてみるがよい.2つの大体において同じ形をした,そして内部の構造も同じにできており,且つ一致したはたらきをもっている半分ずつが正中面で合して1つの完全体をなしている.その対称的な両半が単一の目的にむかって共同に働いているのである.しかしまた注意を要するのはその対称性は完全でないことである.すでに発生の初期に非対称性がとくに内臓の領域にあらわれる.そうして内臓はついに体の両半に不公平に配分されることになる.この点では不正二側型dysdipleure Formということになる.
非対称性についてはおもしろいことが沢山ある.C. Hasseが精しく述べたように,成長した体を大きく区分してみるとその各々がどれも正確に対称的にはできていない.頭,頚,胸,腹,骨盤部をそれぞれ左右でくらべると違っているし,上肢と下肢も右と左でちがうのである.こういう非対称性をいちいち述べることは後廻しにしよう.ここの点では多くの不同があるけれども,大体において左右両側の対称性はやはり典型的なものといえよう.
上に述べたごとく,軸系統を論じたなかで身体の設計のことがいくらか出たのであるが,設計の全部がそれに含まれるわけでない.
身体の大きさとその各部分の大きさを比較してしらべることがおそらくその設計をいっそう正確に分からせるのではあるまいか?
身体およびその各部分を線や面で測ったり,また立体的に測って研究することは,それらの重さをしらべることと共に,じっさい解剖学のなすべき大きい役目の1つなのである.大きさについての学間は2つの方面にむかって試されてきた,すなわち科学の目的と芸術の目的である.大きさに関する学間,ことにその比較解剖学的な方面は身体およびその各部の正確な知識にとってもちろん非常にだいじなことではあるが,これは設計の問題についてわれわれを深く教えるものではない.
しかし大きさの学間について興味をよびおこすために,つぎのことを紹介しよう.すでにローマ時代の建築家のVitruviusが人体の形について頭の高さは全身の高さの8分の1,足の長さはお同じく6分の1であると述べたのである.ちSchadowによると体幹および体肢の大きさは3インチの倍数になっているという.彼の測ったところではまず頭の全高が3インチの3倍すなわち9インチで,この大きさが体幹の主な区分でいつもくり返されるのである.
一方,Zeisingは人体の形の大きさの比例Proportionenは全体の身長を黄金分割の法則に厳重に従って幾度も分けることにできているのだと証明しようと試みた.黄金分割とは周知のごとく,あたえられた1線を大小の2部に分けて,その小さい方の部分が大きい方の部分に対する比が,大きい方の部分が全体に対する比に等しくすることである.
C. G. Carusはその著書“Symbolik der menschelichen Gestalt”1853 (2. Aufl.1858)において身体の大きさの相対比を脊柱のうちで真椎からできている部分(頚椎の上端から腰椎の下端までを指す)と関係づけたのである.この範囲の脊柱がCarusやその他の人々によると全身の区分の原尺Vorbildである.その長さを彼は3等分して,その1つを“心の自然原尺”すなわち人体の生物的な計測単位であるとした.健康な新生児の背骨の長さがちょうどこの単位に一致するのであって,Carusはこの単位を模数Modulusとよんだ.その長さは18cmである.人体の全高は模数の9 1/2倍である.下顎を除いた頭の高さは1倍,頭の長径がやはり1倍,胸骨から臍までの長さが1倍,臍から恥骨弓の下端までの長さが1倍,鎖骨にそうた肩幅の半分がやはり1倍,肩甲骨の長さが1倍,坐骨から腸骨稜までが1倍,恥骨結合から腸骨稜までが1倍,左右の前腸骨棘の間が1倍である.同じぐあいにしてCarusは四肢について彼の計測を行なった.
[図144]Liharzekの考えた人体比例の図
Carusは芸術家のためになる目的でこの研究をしたのみでなく,明らかに自然の探求者としての自信を持って,科学のためにつくすことを努力したのである.じっさい彼のいう模数が如何にしばしばくり返されるか,もちろん模数の1 1/2,1 1/3,1 2/3(四肢において)というものがあるが,それはおもしろいことである.またSchadowの模数すなわち3インチとその3倍の9インチがたびたびくり返されることをみるのも,それに劣らず興味がある.また黄金分割の法則がかなり多くの計測においてはてはまることも分かる.
人体の形についての新しい基準をLiharzekがだした.彼の考え方は主としてC. Schmidtの学説,すなわち身体がどんな姿勢を取ったばあいにも成り立つような合理的な比例学は,あらゆる姿勢のばあいにも変わらない身体諸部の自然の境界として,すべての関節の廻転の中心Drehpunkteあるいは運動軸Bewegungsachsenを求めなければならないということを基礎にしている.
合理的な比例学はこれらの境界点相互の距離を測って,その結果から系統を組み立てなければならないというのである.
ミケランジェロの偉大な言葉があって以来,芸術家は彼等の目のなかに物差しをもっているにちがいないが,すぐ上に述べたことはそれと同時に大きさを測ることの重要性をはなはだよく示すものである.そして最高級の芸術家達は,その中にはもちろんミケランジェロも含まれるが,人体の大きさの比例について深い研究をなすことを怠らなかったというのは全く当然といえる.ここではとくにレオナルド・ダ・ヴィンチとアルブレヒト・ヂューラーの名前をあげておく.
人間は年齢により,個体により,人種および人種のなかの区別により,さらにまた時代によって(何千年も前に生きていた人類は現代のものと全く同じではなかったと思われる)たがいに一定のぐあいで異なっている.これは見てたやすく理解することができる.しかし性差Geschlechtsverschiedenheitとよばれる差異は全く関係が違っていて,あらゆるちがいの中で最も著明なものであり,またもしも人間が他の地球上の生物界に対して完全に独立した立場にあって,他の生物と何も本質的につながりをもたないとすると全く理解できないことであろう.ところが植物界と動物界にはこの点についてもはなはだ重要な手がかりが存在する.この問題についての経験を集めようとすると,その道は単細胞の生物にまで下りてゆく.生物のありとあらゆる変わった方の増殖現象をしらべるときに,研究者の目は鋭くしていなければならない.そうでないと性の問題は闇に閉ざされ,みることができないであろう.
まず人体の性差について知るのがよい.そのばあい生殖器のことがもちろん第1線に立っている.生殖腺とその他の生殖器が初めは両性に同じ形であらわれて,その後に別々の道を取るようになる.生殖器のちがいがいわゆる一次性差primäre Geschlechtsunterschiedeである.しかしここでは二次性差sekundäre Geschlechtsunterschiede(図145)についてつぎのことを述べておく.
概して男の体はいっそう力強く,大きくできていて,筋肉と骨組みが外面からいっそうつよくうかがえる.女の体はそれに反して普通はいっそう小さくて,かよわくできており,その外形が円みをおびて,それ自身弱く発達している筋肉と骨組みが良く発達した脂肪層によって包まれて,その輪郭をあまり外面にあらわさない.
全身がそうであると同じに,女の頭が男のそれより小さくて,頭蓋腔は比較的ぜまく,前頭部が概して低くて,ここで頭蓋骨は円蓋の上部から急に曲がって下方におりている.その前傾がこどもの頭にいっそう似ている.これに反して男の前頭部は力強く発達して,いっそうつよく突出している.
頭頂部もまた男では女よりもいっそう強く突出している.女の顔面部は繊細であり,頬骨の突出は少なく,顔面の円みがいっそう軟らかである.毛は女の頭では上面と後面,ならびに側面の一部,および眉毛と睫毛にかぎられているが,男ではその他に顔面のひろい範囲まで及んでいる.しかし頭髪の長さは女の方が大きい.
女の頚部では喉頭が小さくて子供のそれに近いので,喉頭による高まりが全体の円みのなかにかくれている.その円み男の頚部には欠けていて,喉頭の上部と筋肉が皮膚を持ち上げている.女の頚部は側方ではゆるやかな弓状をえがいて肩の高まりに移行するが,男の頚は肩とのあいだが鋭く曲がっている.
肩幅が女では狭くて,男では広い.女の胸郭はその中の肺が比較的弱く小さいので狭くできている.男の胸郭は下方に向かっていっそう強く広がり,且つ腹部といっそう明瞭に境されている,女ではその境が全体の膨らみのためにみえない.男の前胸壁では大胸筋による高まりが著しくあらわれるが,女ではこの筋は比較的弱くて,左右の乳房が左右で高まるので,その間で胸壁の正中部にへこみがある(Sinus mamarum, Busen).男では乳腺は退化して痕跡的な存在となっている.男の乳房はやはり痕跡的であるが,女のそれよりやや上方の位置を胸壁で示している.女では腹直筋は普通のばあい外から見える高まりをおこさないし,また腹部中央の縦の溝が消えている.しかし前腹壁の全体が強く高まって,とくに下方に向かって円くなり,よく発達した恥丘に達する.しばしば上方に凹をむけた1本の曲線があって,腹部の高まりと恥丘の間を境している.臍は女では男よりも高いところにあり,男の臍はしばしば腸骨稜の高さにある.
骨盤は女では幅がひろく低く,男では狭くて高い.鼡径の溝が男ではいっそう著明である.肩が広くて腰が狭いので,男の胴は両脚を合わせているときは下方に細くなる楔形である.しかし女の胴は肩が狭くて,腰が広いため,むしろ円柱状に近く,あるいは楔の刃が上にむかっているとさえいえる.上肢と下肢は男では筋肉の線が鋭くみえて,角のある形を呈するが,女ではそれがみな円みをおびている.殊に膝がまたそうである.
また女の姿勢Haltungが普通,男のそれと違っているのであって,女は比較的に前方へ曲がるが,男の体幹はそれよりまっすぐで,時には軽く後方へ曲がるまでになっている.この姿勢を保つために女の脚は男よりもいっそう急な傾斜をしている.これに反して男では直立の姿勢のために脚の軸がその上端のところで比較的前方へかたよっている.大腿骨の頚がその骨幹部に女では直角に近い角度で着くが,男ではそれが鋭角である.そして大転子は男でいっそう強く後方に向かっている.
[図145]男女の体を例示する.Albrecht Durerの銅板画「アダムとエヴァ」.
次ぎに二次性徴の説明に関しては,比較解剖学が確実にそれを証拠だてるように,これはじっさいの役に立つしくみなのであって,これにはまた分業Arbeitsteilungということが大きい役割を演じている.実際の役に立つという原則のためにその多様な現われ方が理解できる.また二次性徴はどこにも必ずあるというわけでない.動物によると雄が生殖器以外の体の構造では雌と同じというものもある.その他のばあいは雄と雌とのあいだに著明の度にちがいがあるが多少なりとも体の構造の差がある.すなわち雄がめすをしっかりもっための特別な道具をそなえていることもあり(ガムシ,ゲンゴロウダマシの類Wasserkäfer,カエルの類),あるいは雄が装飾器官,武器を持ったり,特別な大きさに達したりしている.しかし雌の方が体が大きいこともある(猛禽類,環形動物のボネリアBonellia,円形動物,多くの寄生甲殻類Schmarotzerkrebseなど).他方では雌が子供をも育てることに役立つ道具をもっていることがあり(乳腺),また反対に雄がそんな道具を備え付けていることもある(ヨウジウォの類Seenadeln).端的に云って個体の二次性徴は実用をねらったものであることが分かる.
ところで,一次性徴のちがい,すなわち生殖腺の差異は如何なる関係があるのだろうか?卵Eierも精糸Samenfäden, (精子Spermien, 以前には精虫Spermatozoenとよばれた)も細胞である.同じ性質の細胞identische Zellenとはいえないが,例えば甲殻類に属するテイザノプスThysanopus(アミの類)の精子は卵円形の細胞で,その他に特色が何もない.円形動物の一部のものでは精子が偽足を出すことができて,それによってアメーバと同様に動きまわる.
しかし普通は,精子が1本の長短いろいろの鞭毛をそなえていて,これで運動する.この2種の生殖細胞は同じ上皮性の原基からできてくる.すなわち一次性差もまたその差がごく小さくなって,なくなってしまう.そして卵と精子は異なる方向への分業が起こったために,かくもたがいに違った外観をもつにいたったことが分かるのである.卵すなわち雌の細胞は原形質と栄養物質を,他の細胞には全くみられないほど多量に集めてもつ.そのために卵は大きくなり,あまり運動ができなくなる.雄の細胞にはもはやそういう物質を集める必要がない.その個々の成分はできるだけ小さい体積に減らされる.ある程度濃縮されるのである.これは小さいままに止まって,運動性を獲得してゆく.そして小さい体をもつ鞭毛細胞となるのである.しかしたとえ雌の細胞と雄の細胞がたがいに見間違えるほど似ていても(最初の原基のときのように),これらは決して同じ性質のものと考えてはいけない.ただ縁が近いだけのことである.
つぎに生殖Fortpflanzungの問題では本質的に何が大切であるかというと,それは二次性差のなかに含まれていないし,卵と精子との大きなちがいの中のもないのであって,2つの性質を異にする細胞の合一ということにある.その手本は単細胞生成物の接合Konjugationにみられる.
しかしこの接合という現象は多くは本の周期的に起こるのだが,如何に必要なのであろうか?如何に無性生殖は充分なものでないのだろうか?この疑問に対してあらゆる方面から満足できるような解答はまだ得られていない.いろいろと内容の違った答えが可能である.
無性生殖に対して有性であることSexualitätの利点は,今までに知られたことがらを見渡すかぎりでは,主としてつぎのことである.第1に2つの近縁な,しかし同じ性質でない細胞が合一して精子卵Sperm-Oonができると,この新しい生活体にはいっそう大きい力量Kraftsummeが賦与されるということ.第2には種の形成Artbildungが促進をうけるということである.かくして個体の生命および種の生命が有性生殖によってよい影響を受ける.生物の種が下等のものから次第に高等なものに進化するに伴って,動物でも植物でも,無性生殖は有性生殖に圧されて主な舞台からは影をひそめるようになっている.
両性の数の関係Zahlenverhältnisはどうであろうか?現在生きている人類については,数多くの民族では両性の数の比が知られているが,多くの他の民族では充分な統計が得られていない.中部ヨーロッパでは100人の女児に対して大体105ないし108人の男児が生まれる.しかしすでに胎児の期間でも,生まれてから後でも男児の方が女児より多く死ぬそこでおよそ15才から20才台の初めまでは両性が同数である.その後女性の方が多くなってくる.男が多く死ぬこと,また外の土地にでてゆくのも男が多いことが,この数の推移の主な原因とみなされる.
体質Konstitutionとは個体の形態的および機能的な性質を総合したものであって,またその諸性質が外部および内部の刺激に対して如何に反応するかということもそれに含まれるのである(Kopsch).
その礎石は両性の生殖細胞が合一したときに据えられている.
体質人類学Konstitution-Anthropologieはかなり長い文章をもって定義されている(W. Jaensch, Konstitution und Klink,1938による):“ひとりの人間の体質というのは形とはたらきにあらわれたその人間の体の全く特別な状態と構成である.すなわち個体的な特性であって,先祖からうけついだ遺伝素質によってまず生じ,受精の瞬間からその人間の死ぬときまで絶えずはたらきかける周囲からの刺激の造形力の下に形成されるのである“.
個体は性および人種によって異なるので,人種の体質Konstitution der Rassenというべきものが区別できるし,それを区別する必要がある.人種の体質のなかに性の体質Konstitution der Geschlechterがある.そして終わりに両性において種々の年齢における体質Konstitutionen der verschiedenen Lebensalterがある.何となればここの人間の体質は固定して変わらないというものではない.それは同一の人でも一生涯の間に大なり小なり変わる.最もそれは決まっている体質の許す範囲内だけではあるが.
体質学Konstitutionslehreすなわち体の状態に関する学間Lehre von der Körperverfassungはそれゆえ非常に大きいヒロ外をもっていて,医学にとって最も重要な意味があるものといえる.
特にそれと遺伝との関係が大切である.しかし遺伝との関係は問題の一部分にすぎない.もっともこの一部分は今まではなはだ多く取り扱われてきたのである.このばあい,体質が表現型Phänotypusにあたるか,あるいは因子型Genotypusであるかを決定しようと欲しても,その試みは成功する見込みがない.
記載解剖学にとっては体質学の形態的方面が主として問題となる.実際にはちょうど個人の数だけ,それぞれ異なった体質があるわけであるから,わえわれはこの現象の混乱した集まりから分類をして,その記載や理解や学習にたやすいようにしなければならない.
容易に外から分かる目標(骨ぐみ,筋肉,脂肪層をもつ皮膚,身体各部の比例)がいろいろの体質型Konstitutions-Typenを区別することに役だつ.この体質型Wolf-Heideggerは体格型Körperbautypenとよぶのがいっそう良いことだと云った.この人は胸郭内部の大きさをよりどころにして新しい体格示数Körperbauindexを樹てたのである.(Acta anat.11. Bd. .1950. )
そういう分類としてはいろいろと変わったもの(Jankowskey)が考えられたことは当然といえる.それらの価置については将来が決定するであろう.ここではKretschmerが豊富な経験をもとにして唱えた3つの主な型を分ける学説に従っておこう.すなわち細長型Leptosomer (asthenischer) Typus, 闘士型athletischer Typus, 肥満型pyknischer Typusである.それになお異形成の特殊型dysplastische Spezialtypenが加わる.
1. 細長型Leptosomer Typus(図146).男では幅のせまい体つきがめだって,顔が細くて,鼻が鋭い.最も大事な点は平均して身の丈は小さくないが,太さが少ないことである.太さの不足は全身およびその各部についてみられる.重量も周径も幅も平均値を下廻る.筋張って細長い,あるいはやせた多数の人間がこの型に属する.しかしこの人たちは全般的な生活力は良くて,粘り強い体力をもっている.細長型は一方では次第に闘士型に移行するとともに,他方では肥満型との間にも明瞭な境がない.
高度な細長型の人はやせて,ひょろ長く丈が伸びており,皮膚は乾いて血液も乏しく,肩幅はせまくて,腕も足も細い.頚は長くて細く,胸郭も細長くて鋭く尖った助骨角を示し,腹部は脂肪が少ない.体重は体長のわりに少ない(50.5Kg:168.4cmというぐあい).また胸囲が腰囲よりも小さい(84.1cm:84.7cmというぐあいである).
子供のときは後に細長型となる人は繊細で弱々しく,思春期には速やかに成長するが,太さは依然あまり増やすことなく,壮年や老年になっても筋肉の充分な発達や脂肪蓄積の傾向を少しも示さない.細長型の人がしばしば早期に老衰vorzeitiges Alternにおちいることは特に注意を要することである.
女性の細長型weibliche Asthenikerも大体において男性のばあいと同じ性質を示すが,その上にしばしばからだが小さいのである(低形成細長型asthenischhypoplastisch).
細長型の人の代表的計測値.(Kretschmer. )
男 |
女 |
男 |
女 |
|||
身長 |
168.4 |
153.8 |
寛骨部のまわり |
84.7 |
83.2 |
|
体重 |
50.5 |
44.4 |
前腕のまわり |
23.5 |
20.4 |
|
肩幅 |
35.5 |
32.8 |
手の周り |
19.7 |
18.0 |
|
腕のまわり(呼気,の時と吸気のときときの中間値である) |
84.1 |
77.7 |
下腿の周り |
30.0 |
27.7 |
|
腹のまわり |
74.1 |
67.7 |
下肢長 |
89.4 |
79.2 |
[図146]細長型の模型図.(Kretschmer)
2. 闘士型athletischer Typus (図147).男では篩骨がたくましくて,脂肪の蓄積は少なく,皮膚が厚くて固い.
一般的な現われとしては:丈はは中等大ないし背の高い人であって,肩幅がひろくて,胸郭は円くもりあがり,腹は硬くひきしまって,型や腕の筋肉胃から強く発達し,頭は頑丈で高く,頚も丈夫にできていて,良くは立つ下僧帽筋が頚に特別な形をあたえている.胴体は骨盤にむかって細くなる.下肢は筋肉がよく発達しているにかかわらず,体幹の上半分にくらべると,しばしば比較的小さい.
思春期にすでにこの型を特色づける諸性質がはっきり.とあらわれくる.
闘士型の女はやはりその方の男と相通ずる体つきであるが,脂肪が時として豊富に発達する.この型の女は概して強く成りすぎたような,むしろ気持ちの悪いほど頑丈で量のある感じがするのである.
闘士型の人の代表的計測値.(Kretschmer. )
男 |
女 |
男 |
女 |
|||
身長 |
170.0 |
163.1 |
寛骨部のまわり |
91.5 |
95. 8 |
|
体重 |
62.9 |
61.7 |
前腕のまわり |
26.2 |
24.2 |
|
肩幅 |
39.1 |
37.4 |
手の周り |
21.7 |
20.0 |
|
腕のまわり |
91.7 |
86.0 |
下腿の周り |
33.1 |
31.7 |
|
腹のまわり |
79.6 |
75.1 |
下肢長 |
90.9 |
85.0 |
[図147]闘士型の模型図.(Kretschmer)
3. 肥満型pyknischer Typus (図148).男ではその特色が最もよくあらわれている中年の時には大きい体腔をもつ部分(頭,胸,腹)の周りが著しく大きいのであって,体幹には脂肪が豊富に蓄積されて,四肢の発達が弱いのである.
その方の全体像は典型的なばあいにははなはだ特徴がある.ずんぐりした形で,中等大である.顔が幅広くて軟らかであり,短い太い頚が,両方の肩のあいだに坐っている.胸郭は深くて,円く高まりを示し,堂々たる脂肪腹,四肢は脂肪が少なくてしばしばかわいくみえる.肩はいくらか高く引き上げられていて,三角筋の内側縁のところに目だった屈曲を示している.両肩のあいだで頭が前方に傾いて立っているが,それは胸椎の上部が軽く後方に曲がるために頚部が斜め前方にむかっているのである.皮膚は軟らかで,中くらいの厚さであり,筋肉も中等度の強さであって,軟らかくできている.
この型の特徴である脂肪蓄積がもしも起こっていないばあいにも,胸と肩と頚の比例や頭蓋骨,顔面骨,手の骨格の大きさの関係によってこの型を決めるのが容易である.
肥満型では年齢別による差異が比較的大きい.その特色が最もよく現われるのが30才から60才までである.
20才から30才までの若い肥満型では脂肪の蓄積がまだ明瞭でないので,闘士型と間違えられることがあるが,しかしちゅういしてみると,頭や胸や腹の周りが大きくできているのに,肩幅が闘士型のものより小さいのである.
60才よりうえんあると腹の脂肪ぶくれが多少ともなくなり皮膚はたるんで萎える.
肥満型の女では脂肪がやはり体幹に蓄積するが,胸と寛骨でそれが最も強度である.この型の女ではなはだ若い人はまだ脂肪蓄積があまり多くないときにはその構造がかよわくみえて,ややもすると細長型と間違えられることがある.
男 |
女 |
男 |
女 |
|||
身長 |
167.8 |
156.5 |
寛骨部のまわり |
92.0 |
94.2 |
|
体重 |
68.0 |
56.3 |
前腕のまわり |
25.5 |
22.4 |
|
肩幅 |
36.9 |
34.3 |
手の周り |
20.7 |
18.8 |
|
腕のまわり |
94.5 |
86.0 |
下腿の周り |
33.2 |
31.3 |
|
腹のまわり |
88.8 |
78.7 |
下肢長 |
87.4 |
80.5 |
[図148]肥満型の模型図.(Kretschmer)
4. 異形成の特殊型dysplastische Spezialtypenは上に述べた3つの主な型とははなはだ違っている.これは多少とも病的なものであるから,正常解剖学のらち外である.それゆえだだ名前だけあげておこう.Kretschmerはこれにa)宦官性の異常に丈が高い人,b)宦官性で同時に多種の線の異常が原因をなしている脂肪過多の人,c)幼い状態に止まっているものおよび低形成hypoplastischの人,という3群を区別している.
Bauter, J., Vorlesungen über allgem. Konstitutions-und Vererbungslehre. 2. Aufl.1923.-Pfuhl., Die Beziehungen zwischen Rassen u. Könstitutionforsch. Z. Konst.-Lehre,9. Bd.,1923.-Kretschmer, E., Korperbau und Charakter.15. /16. Aufl.1943.-Nägeli, O., Allgemeine Konstitutionslehre. 2. Aufl.1934.-Jankowsky, W., Konstitution, Körperhbau und Rasse. Anat. Anz., 70. Bd.,1930.-Brandt, W., Grundzüge einer Konstitutionsanatomie.1931.-Much, H., Ist die Konstitution veränderlich? Med. Welt.1932.-Jaensch, W., Konstitution und Klinik.1. Jhrg.1. Heft,1938.-Martius, F., Konstitution und Vererbung. Berlin,1914.
身体は体幹Stammとそれぞれ1対の上肢および下肢obere und untere Gliedmaßenすなわち四肢より成る.
四肢が体幹に対する形態学的な関係としては,上肢も下肢も中心部をなす体の壁から左右対称的に伸び出したものという形をしている.それゆえ四肢は体幹の一部であるごとくみえる.機能の点からいうと,四肢は知覚および運動の主要な器官である.体幹は知覚および運動の一部を受け持つが,生きてゆくためのその残りの仕事はすべて体幹のつかさどるところである.
体幹の立体的基本形はやや平らにされた円柱,あるいはまた二等辺の底をもつ錐体とも考えることができるが,これに3つの主要部すなわち頭Caput, Kopfと頚Collum, Halsと胴Truncus, Rumpfを区別する.
胴にはまたつぎの3つの部分がある:胸Thorax, Brustと腹Abdomen, Bauchと骨盤部Pelvis, Becken.
胴体をみると,その前面では頚と胸Pectusとの境界が鎖骨之位置によってある程度示されている.鎖骨の外側部は肩甲骨と結合して,相ともに上肢帯をなしており,これが上肢の自由部をたもっている.これによって胸の上部の両側にある肩峰という高まりが生じ,またこの部分で胴の幅が著しくひろいのである.鎖骨のすぐ下には左右おのおのの1つのへこみ,すなわち鎖骨下窩Fossa infraclavicularisがある.また胸の前面のはなはだめだつ特色として女では乳頭Papilla mammae, Brustwarzeをもつ乳房Mammae, Brüsteがあり,男では乳頭が痕跡的に小さくて,その周りに乳頭と同じように褐色を呈する乳輪Areola mammae, Warzenhofeがある.
胴の前面の中央部で胸が腹Abdomenに移行するところに1つのへこみすなわち心渦Herzgrube(あるいはMagengrube)がある.その両側で胸壁の下縁はやはりこれも外から見えるところの頬骨弓によって,いっそう軟らかい腹壁から境されている.頬骨弓は心渦から下外側,そして後方にすんでいる.心渦から上方に向かって頚の根まで正中の溝がのび,また下方は恥丘Mons pubis, Schambergにむかって正中溝が達する.腹の正中線の溝の中1/3と下1/3の境に臍Umbilicus, Nabelがある.臍のインドの回々教の僧が特別な注意を向けるのはもっともなことである.壊疽は大事な場所で,円く高またっていたり,引っ込んでいたり,あるいは円く高まると同時にへこんでいたりして,独特な形である.胎児の時にはここから臍帯Funiculus umbilicalis, Nabelstrangというその胎児に属する索がのびて胎盤に達しており,この胎盤によって母胎との結合が実現されていたのである.生まれてから2,3日のうちに臍帯は新生児から離れ落ちる.その傷の面が瘢痕性になり,かくして臍ができる.臍のある部分の両側のところが側腹Latusである.そこから背中がわにつづいて腹の後面になたところが腰Lumbusである.これと腹との移行部および骨盤部がつよく高まっていて寛骨部Coxae, Hüfteとよばれる.腹の下部と大体前面との境をなす溝が鼡径溝Leistenfurcheであって,これは前腸骨棘から恥丘の側方まで下りている.この溝のすぐ上のところが鼡径部Inguen, Regio inguinalisで,溝の下方には鼡径下窩Fossa subinguinalisがある.
腕を上方にあげて,胴を側方からみると,その側面の上部に腋窩Fossa axillaris, Achselgrubeというへこみがあって,これは前と後ろから皮膚で被われた筋肉の高まりによって縁がつけられている.
前方にあるのが前腋窩ヒダPlica axillaris ventralisで大胸筋によって作られ,後方の後腋窩ヒダPlica axillaris dorsalisは広背筋と大円筋によってできている.腋窩は外側は自由上肢により,内側は胸の外側壁によって境される.
胴の後面すなわち背Dorsumでは胸と腹との境はみえないか,あるいいは不確実に現われいるのみである.これに反して頚は胴からはっきりと肩の高まりによって境されている.背部の対称的な左右両半は正中線にそってのびて下方に向かって深さを増す溝すなわち背溝Rückenfurcheによってたがいに分かたれている.この溝は寛骨部に達するとまず幅の広いへこんだところすなわち仙骨部Regio sacralisとなる.それから臀のたかまりの間でふたたび狭くなり,同時に深さを増す.ここを臀裂Crena ani, Gesäß-oder Afterspalteという.臀裂の奥に腸管の出口すなわち肛門Anus, Afterがある.その付近を含めて肛門部Regio analisという.肛門部の前方に尿生殖部Regio urogenitalisがあり,これは外陰部Regio pudendalisをもっている.肛門の開口から陰嚢をつけ根あるいは腟口までが会陰Perineum, Dammであって,その付近一帯が会陰部Regio perinealisとよばれる(図152,153).
仙骨部Regio sacralis, Kreuzrauteは次ぎに述べるような骨の個所によって境されている::第5腰椎の棘突起;薦骨の下端(左右の臀部がぶつつかるところ);上後腸骨棘に相当して皮膚に左右1つずつの小さいへこみがある.男ではこのへこみより上方で,腸骨稜Crista ilicaの高さに第2の小さいへこみがあることが稀でない.
[図149]人体の諸部分Regiones corporis humani. 前面(His, Die anatom. Nomenclatur1895の図に基づいて,Fr. Kopschが用語をJ. N. A. に合わせて書き改めもの.)
股を開いて体幹の下端部あるいは骨盤部を,左右の大腿のつけ根の間から腹方へ恥丘にむかってたどると,肛門と外陰部との間にあるせまい場所として本来の会陰Perineum, Dammがみえる.会陰の腹方に外部生殖器がある.しばしばまた肛門と外部生殖器を含む全体の部分が会陰とよばれる.
[図150]人体の諸部分Regiones corporis humani. 後面.(His, die anatom. Nomenclatur 1895の図に基づいて,Fr. Kopschが用語をJ. N. A. に合わせて書き改めたもの.)
頭と胴との結合部である頚Collum, Cervixはことにその中央部が円柱の形にはなはだ近いのであって,それ下り上方では頭とつづくために特に背腹の方向に広くなり,下方では太さの増し方はいっそう著しいが,ことに横の方向でその増加がめだつのである.前面では頚は比較的短くみえる.それは頭の顔面部が頚の上部の前になっているからである.頭を普通の姿勢に保つときは頚の前面の上部は口腔の底のあたりで,オトガイにむかっておよそ直角に曲がっている.
頚では前頚部Vorderhalsと後頚部Hinterhalsを区別することが多い.前者は頚の内臓部Eingeweideteilであり,後者は同じく脊椎と筋肉の部分である.前傾の上部に喉頭隆起Prominentia laryngica, Adamsapfelがみえている.前傾の下方の境で正中部の頬骨縁によって区切られる頚窩Fossa jugularis, Kehl-oder Drosselgrubeがある.鎖骨の上方には大鎖骨上窩Fossa supraclavicularis majorがある.後頚の上部は項Nucha, Nackenであって,喉頭との境に項部Regio nuchae, Nackengrubeというへこみをもっている.
頭部Kopf. 頚の上にのっている頭はかなり自由によく動くのである.頭には幾多のめだった特性があるが,それは次に述べる3つのことがらによっている.1. 脳がはなはだ大きく発達していること;2. 特別な感覚器(眼Oculus, Augeと耳Auris, Ohr)がここに存在すること;3. 呼吸器と消化器の最初の部分(鼻Nasus, Naseと口Os, Mund)がここに加わっていることである.
動物界を通じてみると,頭を特徴づける上述の諸点がいっそう著しいものほど,頭がいっそうよく胴から区別されている.逆にその著明さが少ないと,それだけ頭が胴と似てしまうのである.例えばナメクジウォAmphioxus lanceolatusがこれである.
頭は外から見てもかなりはっきりと境のつけられる2つの部分からできている.すなわち頭蓋Cranium, Hirnteil,と顔面Facies, Gestichtsteilである.
言葉の慣用に従うと,額(すなわち前頭)Frons, Strirnも顔面の一部である.しかし,解剖学では額は脳をつつむ頭蓋の一部に数えられるので,顔面は鼻根の高さ,その外側では眉毛の下からはじまる.
脳を包む頭蓋の部分を前方からみると,額は円蓋状の頭,ことに前頭部Vorderhauptを前方より仕切るものとしてみえる.そして下方へは鼻根と左右お目に境を接し,眼との境界に弓状をなして眉毛Supercilium, augenbrauenbogenがある.額の上外側に前頭結節Tubera frontalis, Stirnhöckerという2つの円みをおびた高まりがある.側頭隆起Schläfenwulstによって額は側頭(こめかみ)Tempora, Schlägenから境される.また額は上方と側方へ向かっては毛がたくさん生えている頭蓋の領域につづいて,頭頂Vertex, Scheitel, すなわち頭蓋上の頭のここでは頭頂結節Tubera parietaliaと側頭隆起Schlägenwulsteが特別なところとしてあげられる.側頭隆起の下方に側頭があって,これは頬骨弓Jochbogenというだいたい水平に走る高まりまで伸びる.この頬骨弓が頭の側面で顔面との境をなしている.とうとうすなわち中等部の後につづいて後頭Occiput, hinterhauptがあって,これが円蓋状の頭を後下方から閉じる部分である,後頭には項の初まりの上方に後頭結節Hinerhaupthöckerという横に伸びた高まりが認められる.また側方では耳介Auricula, Ohrmuschelの後ろに乳突隆起Warzenwulstがあって,その名前は側頭骨の乳突部によるものである.乳突隆起と耳介と後下顎隆起hinterer Unterkieferwulstとの間に下顎後部Regio retromandibularis, Unterohrgegendとよばれるへこみがあって,これは下方に向かって頚の外側面につづいている.
[図151]人体の諸部分 頚と頭.(His, Die anatom. Nomenclutur 1895の図を基にして,Fr. Kopschが用語をJ. N. A. に合わせて書き改めたもの.)
もう一度前の方をみると,眉毛の下方につづいて上下の眼瞼Palpebra superior, inferior, Augenlinderがあり,その間から眼裂Rima palpebrarum, Lidspalteを開いているときは眼球Bulbus oclui, Augapfelの一部がみえる.眼の部分は下方は頬に対して下眼瞼溝Sulcus palpebralis inferiorという深い溝によって境されている.左右の眼の間に錐体状の高まりとして外鼻Nasus, Naseがあり,これは嗅覚器の正面構造であり,同時に呼吸器の入り口をなしている.
鼻背Dorsum nasi, Nasernrückenは下方は鼻尖Apex nasi, Nasenspitzeで終わり,ここから鼻翼Alae nasi, Nasenflugelが両側に出ている.2つの開口すなわち外鼻孔Nares, äußere Nasenlöcherをはいると鼻腔の前庭である.外鼻は広い底をもって顔面の中央部に坐っていて,下方は上唇Labium maxillareに境する.上唇の左右両側の間に浅い溝である人中Philtrum, Unternasenrinneがある.上唇は左右の後角において下唇Labium mandibulareと合する.下唇はオトガイ唇溝Sulcus mentolabialisによってオトガイMentum, Kinnから分かれている.口裂Rima oris, Mundöffnungをへて口腔Cavum oris, Mundhohleにはいると,ここに舌Lingua, Zungeがある.口腔は後方は咽頭腔につづくが,その境は口峡(あるいは咽峡ともいう)Faucesである.栄養のよい人ではオトガイの下方の部分が特別な高まりをしていることが稀でなくて,この高まりとオトガイじしんを合わせて2重のアゴDoppelkinnというわけである.また鼻唇溝Sulcus nasolabialisという特別な溝によって上唇が頬Buccae (Malae), Backenから境され,頬は後下方に向かってのびて下顎部に移行している.頬の上部で頬骨弓のあるあたりがWange(頬上部)とよばれる.
[図152]人体の諸部分 男の会陰部(His, Die anatom. Nomenclature 1895による.)
[図153]人体の諸部分 女の会陰部(His, Die anatom. Nomenclature 1895による.)
体肢Extremitates, Extremitäten:体幹の大部分の場所では外液画素の骨性の基礎をかなり明瞭にあらわしているが,体肢の大部分では軟部の発達のために骨性の基礎がいっそう被いかくされている.
上肢Extremitas thoracica, obere Exteremitätは肩からはじまる.肩Axilla, Schulterは円みのある高まりで,胸の上外側部を観察したときに肩さきの円い高まりとしてすでに述べたものである.骨の諸部が結合しているところをほとんど完全に包んで,強い筋肉の集まりがあるが,肩峰Acromion, Schulterecke(あるいはSchulterhöhe)という個所でだけ肩甲骨の一部が皮膚の直下にある.三角筋と大胸筋の下縁が上腕Brachium, Oberarmの前面に1つのへこみをつくり,このへこみは腋窩の前縁と同じ高さにある.上腕の前面Facies volarisは筋肉によって生じた縦走の高まり,すなわち二頭筋隆起Bicepswulstを示し,その内外両側に尺側および橈側上腕二頭筋溝Sulcus m. bicipitis brachii ulnaris, radialisが上腕のそれれぞれの面,すなわち尺側面Facies ulnarisと橈側面Facies radialisを下方に伸びている.二頭筋隆起は下方に向かって低くなってしまって,前腕との移行部にあるへこみ,すなわち肘窩Fossa cubiti, Ellenbogengrubeにつづく.このへこみは上下に長くて,下方に向かってやや尖って終わっている.上腕の後面すなわち背側面Facies dorsalisはかなり一様に円みを呈しており,下方はすでに前腕に属する肘Cubitus, Ellenbogenをもって終わる.上肢は上腕と前腕Antebrachium, Unterarm (Vorderarm)との移行部で幅がひろくなっている.この幅が増すことは一部は骨によるが,それより多く筋肉のためである.それから下方は手に向かってわずかずつ上肢の幅が減る.それゆえ前腕には背側面Facies dorsalisと掌側面Facies volarisと橈側縁Margo radialisと尺側縁Margo ulnarisとが区別される.とにかく前腕が上腕と形のうえで著しくちがう点は前者では幅が,後者では厚さが主になっていることであって,骨性の基礎がすでにこの差異をおこすようにできている,前腕と手Manus, Handとの境は掌側面では1本の溝により,背側面では前腕の骨に属する2つの高まりによって示されている.この2つの高まりのうちで小指の側にあるものがいっそう限局性でありしたがっていっそうめだっている.
手の近位部は手根Carpus, Handwurzelとよばれて,幅がせまい,手根から遠位に向かって手の幅が急に増す.その増加はとくに母指側で著しい.かくして中手Metacarpus, Mittelhandとなり,これが5本の指のつけ根までのびている.手背Dorsum manus, Handrückenは両側縁の間で一様に球形に軽く高まっていて,指との浅木のところで中手の背側面は,指を曲げたときに強い突出部すなわちFingerknöchel(指の踝の意)を示す.中手の背側面の皮下には個人的にその程度が違うが,多少とも明瞭の腱性の索や静脈が透いてみえる.手掌Vola manus (Palma), Hohlhand(Handteller)の近位部には両側に1つずつの高まり,すなわち母指球Thenar, Daumenballenと小指球Hypothenar, Kleinfingerballenとがある.手掌の皮膚には若干の溝が走っていて,そのでき方が個人的にちがうので,手相術Chiromantieで重要な役目をしている.1本の溝が母指球をめぐっている.2本はむしろ横の方向に走っていて,そのうち遠位のものは指在る方に凹面をむけており,小指の側でいっそうはっきりしている.ところが近位のものは凹面を手根の方にむけていて,母子の側でいっそうよく発達している.この溝は母指側でしばしば,母指球をめぐる上述の溝の端と合する.その他にも溝がみられることがあるが,その重要性はわりに低いのである.手の表と裏で指のつけ根の具合が違っている.裏すなわち背側面では指の間の溝が中手の近くまではいりこんでいるのに反して,表すなわち手掌では5本の指の近位端が,中手の範囲から指に向かってのびたよくはったつした1つの共通の皮膚の板で被われている.
5本の手指Digiti manusはいずれも円柱状であるが,その長さと太さがいろいろと異なる.5本のうちの4本は腕の長軸の方向に伸びているが,残りの1本すなわち母指Pollex, Daumen (第1指Digitus manus I)はその方向が著しく橈側へ偏している.それのみでなくこの指は他のすべての指が3節より成るのに,これだけは2節しかないという点で例外的な立場にある.しかし母指は最も力強くできており,その根本の中手部がはなはだよく運動して,一種の退行手の根本の中手分がはなはだよく運動して,一種の退行主Gegenhand古代ギリシャ人のΆνtιχeιρをなしている.指が休止の状態にあるときに母指の屈側面は他の4本の指の屈側面に対して垂直になっているが,母指の運動によって,その面を平行にすることもできるし,対抗して接しさせることもできる.他の4本の指は示指Index, Zeigefinger(第2指Digitus manus II), 中指Digitus medius, Mittelfinger(第3指Digitus manus III), 薬指Digitus anularis, Ringfinger (第4指Digitus manus IV),小指Digitus minnimus, kleiner Finger(第5指Digitus manus V)である.その各々が背側面Facies dorsalis(その一部が爪部Regio unguicularis),掌側面Facies volaris, 橈側面Margo radialis, 尺側縁Margo ulnarisをもっている.
各々の使節は屈側面では深側面よりもいっそうつよく円味を呈している.そしてどの指でも基節が最も長くて,末節が最も短い.間説では深側面と屈側面のちがいが前者に角質盤が存在することによってはなはだきわだったものとなっている.屈側面は触覚と深い関係を持ち,この感覚は何しろこの所で発達の頂点にあるのである.5本の指の中で中指が最も長い.それについで薬指である(稀に示指の方が長いことがある).つぎの示指,そのつぎに小指である.母指の先端は示指の基節の中央に達している.各指節の境の所は伸側面では弓状および横走の溝により,屈側面ではただ横走する溝によって示される.
下肢Extremitas pelvina, untere Extremitätは脚Beinともいい,その上部はやはり体幹と結合しているが,その結合が腕のそれよりもずっと密接である.下肢の役目が上肢のものとちがうので,それに応じて結合が強固となり,同時にその運動性が減じている.肩に相当する寛骨部Coxa, hüfteは機能の上では体幹の一部となっている.寛骨部Regio coxaeは上方に向かって凸の1線をもって腹部から境され,下方は平たい円い高まりである臀部Regio glutaeaに移行する.臀部の終わりのところには転子隆起Rolhügelwulstといういっそう強い高まりがある.左右の臀部を合わせたものがいわゆる臀Nates (Clunes), Gesäß (Hinterbacken)である.その左右の間に臀裂Crena ani, Gesäßspalte (Afterspalte)という深い切れ込みがあって,ここに腸の末端が開口している.また臀を大腿の後面から境するものとそして臀溝Sulcus glutaneus, Gesäßfurcheがあり,これは軽く球形に曲がって横走する溝で,多くのばあい深い.
大腿Femur, Oberschenkelは外から見るとき,みる方向によって違った高さにその境界がある.前面では鼡径溝まで,外側面では転子隆起まで,後面では臀溝まで達する.しかし実際には大腿の上部は臀の下にかくれている.ピラミッド形を呈する大腿が膝に向かって次第に細くなり,同時にその横断面が円形に近づく.しかし下端部はふたたび角だって横の方向にやや平たくした形になる.鼡径溝の下方に三角形のへこみがあって,これを鼡径下窩Fossa subinguinalis, Leistengrubeという.このへこみは大腿三角Trigonum femoraleとよばれるいっそう大きい三角形部分の上部をなしている.大腿三角の底辺は鼡径溝であり,比較的長い方の二辺は縫工筋と長内転筋の縁に相当している.大腿の前面Facies (femoris) ventralisの下部に膝Genu, Knieとう高まりがあり,これは膝蓋骨Patella, Kniescheibeの存在による高まりである.それに相当して前膝部Regio genus anteriorと膝蓋部Regio patellarisがある.その反対がわ,すなわち後面Facies (femoris) dorsalisに筋肉の隆起で境されて膝窩Fossa poplitea, Kniekehleがある.大腿の内外両側面は腓側面Facies fibularis, 脛側面Facies tibialisとよばれる.
脚の下部は下腿Crus, Unterschenkelとよばれ,これは前面Facies (cruris) anateriorが角だっていて,後方が円くなっており,上部は力強い3面の錐体形としてはじまり,その下方で太さをさらに増し,それから著しく細くなって足に達する.下腿の脛骨稜の内側につづいて筋肉のない幅の広い面があって,これは下方は脛骨踝Malleolus tibialis(内側の踝innere Knöchela)に移行する.ここが脛側踝部Regio malleolaris tibialisである.下腿の後面Facies (cruris) posteirorは頚窩の下方で,腓腹Sura, Wadeという著しい隆起をなしていて,その最も高いところは下腿の上1/3と中1/3の境あたりである.
腓腹のつづきをなして下方にアキレス腱の存在による強い縦の隆起があって,踵にまで達している.このアキレス腱による隆起の両側に,つまりこの高まりと内外の両踝との間にへこんだ場所すなわち脛側と腓側の踝後部Regiones retromalleolares tibialis, fibularisがあって,これらのへこみも下方は踵に達する.下腿の下部には内側にも外側にもそれぞれ1つ,瘤状の骨が突出している.そのうちの腓骨踝Malleolus fibularis(外側の踝äußerer Knöchel)は脛骨踝よりも下方に達していて,そこが腓側踝部Regio malleolaris fibularisに当たるのである.
足Pes, Fußは直立した体ではその長軸が下腿の長軸とほとんど直角をしている.足では手におけるよりも円蓋形成がいっそう著しくあらわれている.その円蓋の形は前後の方向にも,脛側から腓側への方向にも存在する.足背Dorsum pedis, Fußrückenはその円蓋の最高所を腓腹縁よりもお脛側縁に近く有っている.足の後部は足根Tarsus, Fußwurzelともいい,その前方につづく中足Metatarsus, Mittelfußよりもいっそう強い凸をえがいている.足の円蓋の後方の支持点をなしているのが踵Calx, Ferseであって,これはアキレス腱による高まりより少し後方まで出ており,そこが踵部Regio calcanearisに当たるのである.足の下面の内側縁すなわち脛側縁Margo pedis tibialisは弓状をえがいて床から上方に離れていて,母指の近位端と第1中足骨の遠位端と所でやっとふたたび床に接するのである.これに反して外側縁すなわち足の腓側縁Margo pedis fibularisはほとんど床から離れていない.足底Planta pedis, Fußsohleはその近位部が遠位部よりも著しくせまい.背側縁では幅の増加は足の後端から中足の遠位端まで一様におこっているが,脛側縁では幅の増加がその長さのおよそ中央から前方で起こるのである.足底の幅が最もひろいのは中足の遠位端であって,ここにはいわゆる足球Fußballenがある.これは比較的小さい球状の高まりが1列にならんでいるのであって,母指の根もとにある球状部が最も大きい.
足指Digiti pedis, Zehenは足の母指を除けばみな手指よりも小さい.そして足の全体が足根の力強い発達のために堂々とした大きさであるだけに,足指がその大きい足の小さい付属物としてみえるのである.足の母指Hallux, große Zehe(足の第1指Digitus pedis I)はその隣の2指にくらべて,幅が2倍以上もある.その屈側面は他の足指(足の第2-第5指Digitus pedis II-V)の屈側面と同じ方向にある.残りの4本の足指の長さは母指を最長として腓側に向かって順序に減ずる.あるいは第2指が母指よりも少しく遠位に突出している.各々の指では中節がいつも最も短い.第2から第5までの足指の末節は床の方にむかっていて,その先端が床に接触している.正常な形を保っている足では母指の脛側縁はほとんど足の脛側縁の延長線上にある.足の小指Digitus pedis minimus, kleine Zehe(足の第5指Digitus pedis V)が最も短い.各々の足指が背側面Facies dorsalis(その一部が爪部Regio unguicularis), 底側面Facies plantaris, 腓側縁Margo fibularis, 脛側縁Margo tibialisをもっている.
身体各部の表面の形をしらべるつことははなはだ大切であって,それを成しとげさえすれば体表の解剖学Anatomie der Oberflachenという広い範囲をもった独立した業績が生まれるのである.またこの場合,当然それが必要であるごとく,身体を生きて働いているものとして考えるときは,この研究領域はなおいっそう広がりと深さと美しさを同じ程度にましてゆくのである.こういうとり扱い方によって生体の解剖学Anatomie des lLebendenができてくる.
われわれはa)線の計測lineare Messungen,これには角の計測Winkelmessungenも属する,b)面の計測Flachenmessungen, c)立体的計測kubische Messungenを区別する.
ここでは内部の諸器官の大きさは考慮しないで,全身,身体の各部および体表の諸区域の大きさを取り扱うこととする.身体の各部の大きさの比例のもんだ一またこれに属する.
1. 線の計測
身体の長さの計測は体幹の長さ,すなわち真の身長wirkliche Körperlänge(体幹長Stammlänge)をしらべることおあり,あるいは直立しているときの全身の長さ(Standlänge, Standhöhe), もしくは横たわっているときの身長を測ることもある.体幹は決してまっすぐな柱をしているのでなくて,数多くの曲がりをもった線の形をもつのであるから,両端の間の直線が真の長さを示さない.それゆえ,計測に当たってその線の曲がりを考慮して,その曲線を測ることが試みられたのである.頚と胴の合したものをわれわれは“大きな胴”(großer Rumpf)とよんで,狭い意味の胴体すなわち“小さい胴”(kleiner Rumpf)と区別するのであるが,この“大きい胴”の真の長さを測ることは大して困難でない.しかし頭がこれに加わるとはなはだむつかしくなる.いったい,生きている体で真の体幹長を測ることが疑問なのである.死体を正中断すればなるほどその計測が可能であろう.しかしそれでもなお測るべき曲線の上端と下端の位置をどこにするかということが決してはっきりしたものでない.また直線的に測るにしてもその両端をどこにおくかがやはり同じように疑問となりうる.
さらに人間の体幹長をたがいに比較するのみでなく,動物のそれとも比較しなければならないとすると,誰でもすぐに気がつくであろうが,尾方の境界点を定めることの困難がのし上がってくる.そういうばあいに,何しろ必要なことは,比較する要素をよく考えて,計測の基礎をできるだけ正確にすることである.
これに反して直立長Standlängeあるいは直立高Standhöheの計測は簡単である.これは頭頂と足底のあいだの直線距離をいうのであって,普通それは直立した体位において測る.しばしばこれが身長Körperlängeとよばれるがそれは正しくない.平面上に体をのばして横たわっている状態で測ると直立長は立って測ったときより大きくなる.また朝に眠りから覚めて測ったものは夜に就床する前に測ったものより大きい.
成長したヨーロッパ人の男の平均直立長は154cmと162cmの間である(Dechambre).体が特に発達した人々で平均値を超えているものとしてZeisingは直立長がおよそ172cmであるとしている.女の直立長は男より8~16cmだけ少ない.
体の成長はドイツ人では普通に23才ないし25才で終わる.
新生児の直立長は平均して50cmに少し欠ける.それゆえ成人の直立長のおよそ1/3である.双生児は約2cm小さいことが普通である(Fesser).また初産のときの新生児は0.5cmほど短い(Fasbender).
乳児の身長が生後いかなるぐあいに増すか,,またその後の各年齢における直立長の平均についてはH. Vierordtの数値表(Anatomische, physiologische und physikalische Daten und Tabellen. 3. Aufl. Jena 1906)をみることをすすめる.この本には必要な文献もあげられている.体幹長としてはC. E. E. Hoffmannが頭頂と会陰の間の距離を測ってつぎの値を上げている.
男では98.5cm(直立長167.8cmのもの)
女では93.7cm(直立長156.5cmのもの)
またHoffmannはそれに属するものとして対の数値をあげた.
男(平均) |
女(平均) |
|
頭高(頭頂から下顎角まで) |
18.5cm |
17.4cm |
頚長(後頭から第7頚椎の棘突起まで) |
24.6cm |
23.4cm |
胴長(第7頚椎から会陰まで) |
61.6cm |
58.2cm |
下肢長(腸骨稜から足底まで) |
103.0cm |
98.4cm |
上肢長(肩の高まりから中指の先端まで) |
74.2cm |
69.2cm |
肩幅(左右の肩の高まりの間) |
39.1cm |
35.2cm |
腰幅(腸骨稜の外側部の間) |
30.5cm |
31.4cm |
上腕 |
31.2cm |
29.0cm |
前腕 |
24.6cm |
22.8cm |
手 |
18.4cm |
17.4cm |
脚(大転子まで) |
89.8cm |
84.8cm |
大腿(大転子から膝まで) |
41.9cm |
39.8cm |
下腿 |
39.6cm |
37.8cm |
足高(腓骨踝の下方) |
7.8cm |
7.8cm |
体の表面にはもちろんはなはだたくさんの重要な個所があって,その相互の距離を測ることは大事な意味を持ち得るのである.いままでに決定された数値も甚大な量に達している.それらの統計の中に事実Tatsachenがはっきりとあらわれており,個体的および性的の差異がその中に見られ,いろいろの年齢階級や種族の特徴がそれらの数値を特別なぐあいに影響するということを考えると,それだけでも綿密な計測が充分やりがいのある仕事であることはすぐに分かるのである.
しかしまた,他の目的でもこういう計測値が役にたつ.1例をいうと,Fetzerは(軍務にとって)能力の充分な胸部の極小値としてつぎの数を上げている.
呼息時の胸囲 |
75-76cm |
吸息時の胸囲 |
85cm |
胸郭運動範囲(Brustspielraum) |
5cm |
上部の前後径 |
12cm |
中部の前後径 |
16cm |
下部の前後径 |
18cm |
上中下の前後径を合わせて |
46cm |
上部の左右径 |
26cm |
中部の左右径 |
35cm |
下部の左右径 |
19cm |
上中下の左右径を合わせて |
80cm |
それに劣らぬ実地上の重要性(助産術にとって)をもつのは軟部にかこまれている骨盤を外から測ることである.
頭すなわち軟部をつけたままの頭蓋を外から測ることははなはだ広く行なわれてきている.それは成人でも新生児でも,またここの年齢のものでも,そして男女両性,いろいろの人種に行なわれている.
C. Krauseによると成人の体表の面績はおよそ16,000qcmである.FubiniとRonchiは162cmの体長で,50kgの重さの男の体表の面績を16,066.85qcmであるとし,Funkeは16,517qcmであるとした.
Meehこの問題を深く研究して,異なる年齢で表面積が如何に増加するかを述べている.
生後6日の子供の全表面積は 2,504.8qcm
6 1/2月の子供の全表面積は 4, 221.6qcm
6 3/4年の子供の全表面積は 8,018.2qcm
15 3/4年の子供の全表面積は 14,988.5qcm
またMeehによると成人の体表面積は17,587.4qcmと22,434. 9qcmの間にある.
36才の男で身体各部の表面積を測った結果:
頭 |
803.8qcm |
頚 |
456.6qcm |
胴 |
2941.6qcm |
上腕 |
781.5qcm |
前腕 |
678.6qcm |
手 |
538.5qcm |
上肢 |
1998.6qcm |
大腿 |
2012.5qcm |
下腿 |
1269.2qcm |
足 |
669.3qcm |
下肢と骨盤部を合わせて |
5016.8qcm |
左右の上肢と胴体の上部すなわち剣状突起,肋骨弓,第1腰椎までを含み,頭と頚を除いた部分が全表面積の1/3をなしている.
体重1kgにたいして成人では表面積が約300qcmである.子供ではこの数字がずっと大きい.例えば生後6日の子供で829qcm,12 1/2月の子供で562qcm,12 3/4年の子供では421qcmである.
H. Biastoch (Dissertation Greifswald,1928)の比較に的新しい研究によると女子において体重1kgに対して,2 3/4年のもので330qcm,11年1月のもので280qcm,17年2月のmので246qcmである.体重および体の大きさから体表の面積を計算する最もよい公式をLissauerがだしている:
O=37 G/L
Krauseは体重64kgのものの容積が57,110ccm;体重52kgのものでは容積は1cbmのおよそ1/20すなわち50,000ccmであるという.
Queteletは71,900ccmという数字をあげた.
Meehによると20~45才の男の体の容積は:
最もつよい吸気のとき 61,856ccm;
最もつよい呼気のとき 59,028ccm.
1. 全身の比重は
静かな呼吸で軽く息をはいたあと1.0551(Krause);肺と腸から全く空気をのぞくと1.1291Hermannは正常な死体で比重を測った:
11才から20才まで 0.9021;
21才から40才まで 0.9345.
Meehの計測による比重は:
6 2/3才~13 1/8まで平均 1.01241;
16才~45才のお琴(最もつよい呼気,のとき)1.01241;
16才~45才の男(最も深い吸気のとき).0.96702.
2. 体重は:
成長した男では60~70kg(Quetelet);
大よその平均65kg
成長した女では52~56kg
大よその平均55kg
Vierordtによると中部ヨーロッパでは新生児の体重は平均しておよそ3, 250gである.しかも:
男児では3,333g(目標数値として)
女児では3,200g.
双生児であるばあいはこれよりずっと軽い.男児は女児よりも重いことが普通である.
生後52週における体重はK. Vierordt, Physiologie des Kindesaltersによるとつぎのごとくである.
週 |
平均値 |
比較を容易にするために換算した値 |
1 |
3,228g |
1,000 |
2 |
3,367g |
1,035 |
3 |
3,412g |
1,096 |
4 |
3,532g |
1,135 |
5 |
3,802g |
1,199 |
6 |
3,931g |
1,250 |
7 |
4,103g |
1,301 |
8 |
4,259g |
1,363 |
9 |
4,440g |
1,421 |
10 |
4,600g |
1,472 |
11 |
4,755g |
1,521 |
12 |
4,874g |
1,565 |
13 |
5,022g |
1,613 |
14 |
5,151g |
1,659 |
15 |
5,315g |
1,700 |
16 |
5,529g |
1,768 |
17 |
5,659g |
1,808 |
18 |
5,748g |
1,844 |
19 |
5,864g |
1,881 |
20 |
6,072g |
1,928 |
21 |
6,390g |
1,904(!) |
22 |
6,497g |
1,937 |
23 |
6,751g |
1,964 |
24 |
6,751g |
1,996 |
25 |
6,925g |
2,037 |
26 |
7,026g |
2,067 |
28 |
7,187g |
2,125 |
30 |
7,446g |
2,192 |
32 |
7,622g |
2, 262 |
34 |
7,842g |
2, 328 |
36 |
8,042g |
2, 376 |
38 |
8,232g |
2, 426 |
40 |
8,344g |
2, 508 |
42 |
8,480g |
2, 549 |
44 |
8,615g |
2, 590 |
46 |
8,760g |
2, 633 |
48 |
8,846g |
2, 669 |
50 |
9,102g |
2, 709 |
52 |
10,172g |
2, 748 |
(終わりの方の数字ははなはだ正確なものとはいえない) |
出産時の重さの23/4倍である |
Schulzによると3, 300gの重さのシンセ時は生まれて間もなく178.1gすなわち最初の重さの5.39%を失って,第3日以降後第9日までに160.7gをまして,第10日目に最初の重さまで戻るのである.
身体の各部の重さについてはHarlessが筋肉のよく発達した1男子でつぎの計測値を上げている:
全身 |
64.00kg |
胴の上部 |
23.07kg |
胴の下部 |
6.56kg |
胴の全部 |
29.63kg |
大腿 だいたいの計算 |
7.16kg |
下腿 だいたいの計算 |
2.81kg |
足 だいたいの計算 |
1.17kg |
下肢の全部 |
11.14kg |
上腕 だいたいの計算 |
2.07kg |
前腕 だいたいの計算 |
1.16kg |
手 だいたいの計算 |
0.54kg |
上肢の全部 |
3.77kg |
頭 |
4.56kg |
Hをもって体の大きさ(頭頂足底長),Cをもって乳頭の高さで測った胸囲(単位はcm),Pをもって体重をあらわすとすると次の式によって体重が得られる(Bornhardt):
中等度の体格のもので P=H・C/240
実際の体重がこの式により体調と胸囲から計算したものより大きければ,体格が普通よりも力強くできており,小さければ体格が弱いのである.
Krauseはよく均斉の取れた人体では体重が1kg増すごとに身長は約0.3cm大きいという計算をなしている.
対称的といえる左右両半身の重さは全く同じというわけでなく,右半身の方が重いことが普通である.
全身の重心Schwerpunktは直立した姿勢では仙骨管の中で,第2仙椎の上方にある(M. Meyer).下肢を除いた場合には重心は脊柱の前面で,第9胸椎と第10胸椎の間にある.
身体の設計にはいかなる軸系が用いられているかは前に述べたのである.すなわち縦軸は非対称性を示し,横軸は対称性をあらわし,背腹軸では非対称性が著しいのである.
縦軸を含み,且つ他の2つの軸に対して垂直な平面が体の正中面Medianebeneをなしている.正中面は身体をほとんど対称的な両半に分けるのである.
この正中面に平行して身体をとおるたくさんの平面は矢状面sagittale Ebenenとよばれる.正中面もまた矢状面の1つであるが,特別な確定性をもっている.
横の方向に身体を通って,正中面に対して垂直をなす多数の平面は横面Querebenen, Transversalebenenとよばれる.また人体は直立しているのを状態と考えて水平面Horizontalebenenともいう.
つぎに正中面に垂直に身体を通り,直立した体では上下の方向にのび,且つ左右の方向にのびる平面が前額面Frontalebeneである.
同じ意味で矢状断,横断,前額断という言葉が用いられるし,またちょうどそういった軸があるのである(図154,155).
正中面に近く存在するか,遠く存在するか,あるいは正中面に向かっているか,それに反しているかを云いあらわすのに内側medialと外側laeralをの語を用いる.また方向を云いあらわすために内側へmedianwärts, 外側へlateralwärtsという副詞が用いられる.
[図154]l 縦軸;b 横軸;d 背腹軸
[図155]身体の水平断の模型 M正中面;sag:矢状断,矢状面あるいは矢状断;fr前額軸,前額面あるいは前額断.(Panschによる.)
図156の身体の軸を示す模型図では人体を他のすべての脊椎動物に自然であるような位置に置いてある.しかしもちろん人体の本当の自然の姿勢は直立したものである.
比較にあたってはこの事情がよく考慮されなければならない.頭方kranialが直立の体では上obenであり,尾方kaudalが下unten,腹方ventralが前vorn,背方dorsalが後hintenである.
頭方kranial,近位proximalの位置と方向という表現はその逆であるところの尾方kaudal,遠位distalの位置と方向とくらべると自ら明らかとなる.背方dorsalの位置と方向は腹方ventralと逆だから,これもすぐわかる.近位および遠位という表現は上肢と下肢の場所について用いられて,それが体幹に近いか遠いかを意味するのである.また橈側radialis,尺側ulnaris,脛側tibialis,腓側fibularisという表現は体肢においてそれぞれの骨との局所的な関係が示されるのである.これらの語によって,体肢が全身に対していかなる位置をとっていても,それとは無関係に方向をいうことができる.体肢の伸側は背側dorsalとよばれ,上腕と前腕と手の屈側は掌側volarといい,足の屈側は底側plantarの面とよばれる.大腿の屈側は腹側面ventrale Flächeといわれるが,下腿は前面と後面vordere und hintere Flächeをもっている.視覚器と聴覚器では位置を云いあらわすのにいくつかの特別な名称が必要であり,じっさい慣用されている.左links, 右rechtsという表現は少しも混同される心配がない,内方innen,外方außenという表現は空所についての位置の関係にのみ用いられる.また浅superficialis,深profundusという表現は全身の表面,あるいは1つの器官の表面に近いか遠いかをいうのに用いるのである.図156は上に述べたことがらを示している.
次ぎに位置および方向を云いあらわすのに慣用されている語を集めておこう(Jenaer Nomina AnatomicaすなわちJ. N. A. による):
medianus(正中),sagittalis(矢状),frontalis(前額,前頭),transversalis(横),medialis(内側),intermedius(中間),lateralis(外側),anterior(前),medius(中),posterior(後),ventralis(腹方,腹側,前),dorsalis(背方,背側,後),internus(内方,内),externus(外方,外),dexter(右),sinister(左),longitudinalis(縦),transversus(横)「1」ある器官の軸に対して横であるときはtransversusといい,体軸に対して横であるときはtransversalisという(原著註)」,cranialis(頭方,上),rostralis(吻方「2」体軸の前方(すなあち頭方)の極に近い,あるいはそれに向かっての意である.(原著註)),caudalis(尾方,下),superior(上),inferior(下),superficialis(浅),profundus(深),nasalis(尾側,内側).
Termini ad extremitates spectantes
proximalis(近位,上),distalis(遠位,下),radialis(橈側,外側),ulnaris(尺側,内側),volaris(掌側,前),dorsalis(背側,後),tibialis(脛側,内側),fibularis(背側,外側),plantaris(底側),dorsalis(背側).
[図156]身体の水平断模型に方向などを示す言葉を書き入れた.
最終更新日 13/02/03