Rauber Kopsch Band1. 08

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各論Besonderrer Teil

I. 骨格系Systema sceleti, Skeletsystem

 骨格系はまた受動的運動器官passive Bewegungsorganeの系統ともいうべきもので,骨とそれに付属する軟骨,ならびにここの骨を結合している靱帯からなる.この章ではまず骨を対称とする骨学Osteologia, 次いで関節を対称とする関節学Arthrologiaという順序で述べることにする.

骨学Osteologia, Knochenlehre

A. 骨学総論

1. 序言

 骨Ossa, Knochenは硬い丈夫な弾力のある器官で,各個が集まって骨格Sceletum, Gerippeをなす(図176).骨は新鮮な上体では白色調で,ふくまれる血液の量に応じて,黄色みが勝つこともあり,赤みが勝つこともある.形は実に多種多様である.

 *骨は第一に骨組織からなることは勿論であるが,1個の骨が構成されるには,ほかに多くの要素が必要である.隣接する骨との結合面は,たいていの骨では軟骨組織で被われており,この部分が結合組織で被われている骨もある.残りの骨表面も,骨組織がはだかで露出しているわけではなく,骨膜Periosteum, Beihhautで被われているのである.肋骨のように比較的長い軟骨部が骨に付着している場合には,骨膜は軟骨膜Perichondriumとなて軟骨の表面に続いている.さらに骨の他の構成要素を挙げれば,血管・リンパ管・神経・黄色および赤色骨髄,それから骨膜に相当するもので,骨髄を包む薄い線維性の膜,すなわち骨内膜Endosteumがある.

2. 器官としての骨の構造

 まず骨組織がどんなぐあいに配列して1個の骨を構築しているかをみよう.それには管状骨を横断および縦断して観察するのが一番よい.長軸に沿って真二つに鋸でひいた管状骨(図157)を肉眼で観察すると,骨の中央部(骨幹)に硬い綿密な部分があって,骨の両端へかけて次第に薄くなっているのが認められる.骨端部ではこの緻密質Substantia compactaが薄くなるにつれて,緻密質から内方に伸び出している梁状の構造すなわち海綿質Substantia spongiosaの占める部分が広くなる.

 管状骨の中央には髄腔Cavum medullare, Markhöhle(図157)があって,両骨端で海綿質の多数の小腔に移行している.

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脈管のとる相当太い管がかなり多数,骨端や骨幹から骨の内部に侵入し,豊富に枝分かれして骨全体を貫通している.このようにして骨膜から緻密質・海綿質,さらにそうの内容全部が血管の分布を受けているのである.

 さてこれから顕微鏡で器官構造の観察をはじめる前に,次のことを思い出しておこう.それは,骨組織Tela osea, Knochengewebeは結合組織に属するものであるから,(石灰化した)細胞間質と,細胞と,線維と空成り立っているということである(44頁参照).さらにわれわれが検べているのは晒した骨,すなわち石灰化していない軟部を腐敗作用によって除去した骨であるということをも考慮に入れておこう.つまり骨細胞Knochenzellenはみえず,骨細胞のはいっていた骨間隙Knochenlückenが見えるだけであり,同様に血管・神経・リンパ管は見えず,そえらを入れていた管だけが認められるのである.

[図157]管状骨の縦断(1/3)右の大腿骨を前額断したところ.

[図158]晒した大腿骨の内腔の金属鋳型 後ろから見る(1/4).大腿骨頭と脛側および腓側顆には金属がはいっていない.髄腔の最狭部には大腿骨全長の上から3分の1のところにある.

 縦断研磨標本Längsschliffをみると,ハヴァース管Haversche Kanälchenとよばれる細い小管が何本も認められる.脈管を容れるこの間の間を埋める骨質には,一定の列をなしてならぶ多数の骨小腔Knochenhohlenと,それから発する無数の微細な骨細管Knochenkanälchenとが見られる.

 さらに管状骨の横断研磨標本Querschliffを観察すると,ハヴァース管の断面が点々とちらばっているのがまず目につく.それらの間隔は長いものもあり短いものもあり,直径も大小さまざまなである.しかしそれにもまして著しいのは,骨基質のそうと骨小腔のそうが1層ずつ交互に並ぶために生じる,緻密質の層板構造blättriger Bauであって,これは縦断でも認められるが横断でいっそう明瞭である.層板Lamellenの走向は一様でない.すなわち緻密質の外表層に平行して走るのが外基礎層板äußere Grundlamellen (FundamentallamellenまたはGenerallamellenともいう)で,同様に最内層にあるのが内基礎層板innere Grundlamellenである.

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これら内外2系の基礎層板の間に,さらに小さい層板系があり,ハヴァース管を同心性にとりまいている.これが特殊層板Speziallamellenまたはハヴァース層板Haversche Lamellenといわれるものである.またハヴァース系Haversches Systemとうのはハヴァース管と,それをかこむすべての層板とをひっくるめたもののことである.第4群の層板系は以上の層板系の間隙を埋めるもので,介在層板Schaltlamellen, interkalare oder interstitielle Lamellenなどと呼ばれる.

[図159]骨の縦断研磨標本 ヒトの大腿骨の骨幹を,長軸を腹面で縦断したところ,ハヴァース管を黒で示す.*は骨の外表面.

 ハヴァース管に似ているが,周囲に随伴する層板系を持たずに,骨質を貫いて走る管がある(図には現われていない).これをフォルクマン管Volkmansche Kanäleと呼び,その中をとおる血管を穿通血管perforierende Gefäßeという.介在層板系には真性の介在層板と仮性の介在層板の2種がある.後者はハヴァース層板系の破壊された遺残にほかならない.

 一つのハヴァース系に属する層板の数はまちまちである(3~22).しかし概して,中等大の管をとりまく層板の数が最も多く,非常に太い管でも,また非常に細い管でも,層板の数は少ない.個々の層板の厚さは断面で6~9µである.

 骨の横断面の全体が層板の集まりででているのであるから,各々の層板の微細構造が特に重要な問題となるのは当然である.骨間隙をカナダバルサムで充たした非常に薄い研磨標本,または脱灰した骨の横断標本をさらに強い拡大で検べると,非常に明瞭な縞模様の区分が認められる.この方法がはなはだうまくいった場合には,各々のハヴァース層板がまたいくつかの明暗の層によって構成されているので,暗層には微細は斑点があり,明層にはこまかい線条が見える.このような性状は層交叉する2系の骨原線維Knochenfibrillenの存在に基づくもので,その一方は横走し,他方はこれに垂直に走るのである.

 暗い斑点と細かい線条とは,それぞれ原線維系の横断と縦断の像にほかならない.以上の現象はシャーピー・エブネルの層板現象Sharpey-Ernersches Phänomenという名で知られている.

 しかし原線維系は必ずしもいま述べた方向になっているとはかぎらないのであって,Köllikerによれば原線維が次のような走向を示すことが最も多いという.すなわち両系はたがいに直角に交わっていながら,各層板内でハヴァース管の軸と約45°をなす.また一方の線維が横走あるいはほとんど横走し,他方が管の軸と20°ないし30°の角度をなす場合もかなりある.そして一方の線維が横走し,他方のが完全に管と平行に縦走するということは最もまれであるという.

 偏光を用いて研究すると,縦断された原線維は光を単屈折し,横断された原線維は複屈折して暗く見える.骨小腔Knochenhöhlenと原線維の走向との関係は,骨小腔が明るい層にあるものもあり,暗い層にあるものもあって,しかも小腔の長軸は常に原線維の方向に一致している.同時にまた小腔じしんが層板の曲線に相当する面に沿って,わずかに沿っている.いいかえれば骨小腔の広がっている面は,各層板の表面と平行してまがっているのである.しかしこれはハヴァース層板と基礎層板とにについているのである.しかしこれはハヴァース層板と基礎層板とについての話であって,介在層板では骨小腔はすこぶる不規則に並んでいる.

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骨小腔も骨細管も必ず石灰化した原線維間質(接合質Kittsubstanz)に包まれている.そしてこの接合質は小腔や細管の周りで非常に密な性質をもっている(境界層Grenzchicht).

[図160]骨の横断研磨標本 ×100 ヒトの手の中節骨の骨幹.

 骨組織の構成に必要な役割を演じているものにシャーピー線維Sharpeysche Fasernまたはdurchbohrende Fasern(穿通する線維の意)というものがある.この線維は骨膜から直接に骨質の中へ射入する(einstrahlen)線維性結合組織の束で,石灰化していることもあり,していないこともあり(図16),ときには細胞をともなうこともある.

 シャーピー線維は外基礎層板とおれに隣接する介在層板とに侵入して,いろいろな方向に走る.また弾性線維を含むこともしばしばある.シャーピー線維は,骨膜性periostalまたは結合組織内endesmalの起原をもつすべての骨の中に,多少の差はあれ豊富に存在するものである.

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 以上が緻密質の組織像であるが,海綿質の構造も本質的にはこれと変わりがない.しかし海綿質の薄い骨梁の中では,ハヴァース管はわずかになり,それをとりまく層板系を見ることはまれである.そして骨梁が著しく薄くあるいは細くなると,層板はついに消失して,骨組織を残すだけになる.

[図161]層板内原線維の走向(シャピー・エブネルの層板現象)ヒトの大腿骨骨間の横断研磨標本の一部.×225.1個のハヴァース系の全容と,数個のこれに隣接するハヴァース層板および介在層板が見える.

[図162]ハヴァース管の内容 人のツチ骨の縦断による.

 晒さない骨では,骨小腔の中に破骨細胞が見られ,骨細管の中に破骨細胞の突起が見られ,ハヴァース管の中には血管とリンパ管と神経が認められる.

 骨組織の特殊のものに,いわゆる線維性骨組織grovfaserige knochensubstanzのあることはKöllikerによって指摘された.この組織は成人ではごくわずかの所にしか存在しないが,胎児の新生児の骨はもっぱらこの種の組織でできている.線維性骨組織の特徴とするところは,(1)はっきりした層板構造を欠いていること,(2)大形の不規則な骨細胞が存在すること,(3)おびただしい数の,そしてある部分では非常に太いシャーピー線維が存在することである.

 新鮮な緻密質の比重は1.9304(Wetzelによれば1.8777)であり,晒した骨では2.1445である.

 骨組織は骨と同様に,特に保存の方法を講じないでも,何千年もの間もつものであって,このことは骨組織の特性に基づくのである.

 骨の有機質がだんだん破壊されてゆく過程が風化Verwitterungであって,骨はもろく,こなごなになる.湿った土や水に含まれる無機線維が骨に沈着する過程は石化Versteinerungまたは化石形成Petrifikationという.

 ところで,骨組織を理解する上に極めて重要な項目が残っている.それは骨がどんあふうに発生してくるかということである.

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最終更新日 13/02/03

 

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