Rauber Kopsch Band1. 10

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5.骨の再生Regeneration des Knochens

 骨折は好条件のもとでは,両骨折面のあいだに骨質が作られて治癒する.このさい動物の管状骨では,骨化に先立って真の軟骨が形成されるという興味ある現象が起こるのが常であるが,ヒトではそうでないこともある.条件のよくないときには線維性結合組織による融合が起こる.Krompecher(1937)によると,押す力が作用する時と所では軟骨性の骨形成が起こり,ひっぱる力がはたらく時と所では結合組織性の骨形成が起こるという.骨組織の欠損が生じると,骨膜はその欠損を完全に補充すべく,他の何ものおりも多くはたらく.とくにその細胞に富む最深層がよく活動するので,ここは胚芽層Keimschichtとも形成層Kambiumschichtともよばれる.哺乳動物で骨膜の一部を全く切りはなして,それから体のほかの場所に移植しても,そこでまた骨がつくられるのである(Ollier).動物では骨膜を大事に残しておけば,体肢と肋骨に属するすべての骨は,ほとんど前と同じ形にふたたび作られることが可能である.同じようなことがヒトでも,下顎骨・肋骨・肩甲骨などの再生の時にみられる.欠損の補充が最も容易に行なわれるのは管状骨の骨幹で(Bier),海綿質の多い骨や頭蓋骨は比較的に補充されがたい.こんなわけで骨膜の骨芽層osteogene Schichtの意義は重要である.組織欠損の起こる前には,骨芽層は何も活動もしないのであるのが,その形成能力は使い果たすことなく温存されていて,ほとたび組織欠損が起こると活動を再開するのである.

 Bonomeによれば骨膜と骨髄を完全に取り去ってしまっても,なお石灰化した骨基質が溶解して骨細胞が骨芽細胞に逆もどりし,新しい骨をつくることができるという.ただしこれは,血管をもつ組織が周辺から速やかに骨細胞に接して来て,栄養を保証するというような絶好の場合に可能なことであるという.骨折面の真近かに接している骨細胞の層は,Bonomeによれば,常に死滅するという.骨膜は一たん剥ぎとられるとふたたびそこには造られない.骨髄が骨形成に関与するということは疑わしい.しかしBidderによれば,ごく若い動物でははなはだ活溌な骨形成が骨髄においても起こる.これに反して年をとった動物では骨髄はこの能力を失っている.

 偶発的軟骨および骨発生accidentelle Knorpelund Knochenbildungがしばしばみられる.軟骨は前にも述べたように,それ自体はなかなか再生しにくいもので,軟骨の傷はしばしば線維性結合組織によって,またまれには(肋軟骨の損傷の時の様に)骨形成によって治療するものであるが,また一方,軟骨の新生が偶発的に(いわゆる軟骨腫Enchondroma(軟骨腫のうち,正常では軟骨組織の現われない場所に生ずるもの.内軟骨腫という訳語もあるが一般に用いられない.(小川鼎三))として)多くの器官に起こるものである(乳腺・耳下腺・精巣・肺・皮膚・骨).偶発性骨発生はいわゆる永久性の軟骨(たとえば甲状軟骨)の骨化,腱の骨化,脳硬膜の骨形成といった形で起こり,さらに眼・卵巣・肺・筋肉などにも現われる.

 Krompecher, Die Knochenbildung, Jena 1937. 骨折治癒の組織化学は,Hintzsche und Wermuth, Z. mikr.-anat. Forsch., 28. Bd.,1932.

6.骨膜と軟骨膜

 骨膜Periosteum, Beinhautは関節軟骨と多くの筋付着部を除いて,骨の全周を包む線維性の膜である.骨膜はわりあい厚いこともあり薄いこともあり,いくつかの場所ではその上に重なる粘膜とくっついて1つになっていることがある.骨膜はその下に接する骨から,かなり簡単にはがせるものである(図177).

[図172]ヒトの指骨の骨吸収像 横断 a*ふつうのハヴァース層板系.a, aほかの2つのハヴァース層板系,すでにその内部で骨の吸収が起こり(b. b. )ハヴァース腔が形成され,それがまた新しい層板でみたされている.cこのような状態のところにまた吸収が起こり,それに伴って新たな骨質の沈着が起こる.d不規則な層板.eふつうの介在層板

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[図173]軟骨内骨発生 7ヶ月ヒト胎児の上腕骨の骨化縁の一部. ×40

[図174]軟骨内骨発生 図173の骨化縁の一部をさらに強拡大したところ. ×120

[図175]破骨細胞 ヒトの歯槽壁. ×250

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[図176]ヒトの骨格を前から見る(1/9)

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 顕微鏡でしらべると,骨膜は2層からなるのが通例である.その1つは,もつれ合った結合組織束および弾性組織からなる線維性の外層で,もう1つは増殖性generativの内層である。内層は外層より軟らかで,線維束もより細かく,弾性線維に富む.ここには細胞が多数あって,密な集まりをなしていることもある.この増殖層は,成人では骨芽細胞のほかに,破骨細胞をも含むことがある.増殖層は骨膜性骨発生における初期のはたらきの続きとして,骨の傷や欠損にあたって骨が再生されるときに,最も重要な役割を演ずる.またこの層は移植によってほかの場所に移されても,なお新しい骨をつくることができるのである.骨膜からはシャーピー線維束が骨に侵入している.なお骨膜は多数の血管やリンパ管や神経をもっている.

 軟骨膜Perichondrium, Knorpelhautは骨膜と同様に硬い線維性の膜である.軟骨膜もまた,その下敷きをなす軟骨から簡単にはがすことができる.

 血管は骨膜の両層内にあるが,線維性の層にある血管の方が太い.血管は無数の場所で骨膜から,血管の通る管(フォルクマン管,ハヴァース管,おおび更に太い管)を通って骨の内部へ侵入する.比較的太い血管で,骨の深部にいたり,骨髄内まで達する血管は,栄養血管Vasa nutriciaとよばれる.もっとも骨に分布するすべての血管がこの名に値するわけであるが,長骨には骨幹部に栄養血管があるが,関節端にも多数の栄養血管がある.

 リンパ管は骨膜にも骨質内にも,骨髄との境のところにもある.骨髄が骨質と境を接するところでは,2枚の内皮層の間のリンパ間隙が非常に沢山ある.この内皮層のうち外層は骨質に密着しているのである.それほど広汎に発達してはいないが,これと全く同じ状態が骨膜においても見出される.これに外に出てゆくリンパ管がつながっている.骨質自体の内部でも血管周囲のリンパ管が実に広汎に存在していて,血管が最も細い毛細管となってひろがるところまで,ずっと血管に伴っている.(図162)

 骨の神経は豊富であるが,その程度は骨によって異なる.神経は骨膜にも,骨質の内部にも,骨髄にもある.有髄線維のほかに無髄線維もある.血管神経および機能不明の神経のほかに,知覚線維もかなり多く見られる.骨膜全体に数千箇のファーテル層板小体Vatersche Körperchenがあり,これは知覚神経の終末と考えられる.おそらく筋感覚に役立つのであろう.この神経終末器官を宿している膜は他にもいろいろあるが,骨膜もその1つと見ることができるわけである.

[図177]骨膜と骨髄 大腿骨の骨幹,骨膜の1片をはいで右へ折り返してある.

7. 骨盤

 管状骨の内腔ならびに海綿質の多数の空隙は,1つの柔かい,海綿状の,血管に富む器官すなわち骨髄Medulla ossium, Knochenmarkで充たされている(図103,107).それゆえ,管状骨の内部にある,このおおきな空所を髄腔Cavum medullare, Markraumとよぶ.骨髄は黄色および赤色骨髄Medulla ossium flava et rubraの2型を呈する.黄色骨髄は多数の脂肪細胞を含むけれども純粋な脂肪組織ではない.誕生の時にはまだ赤色骨髄がすべての骨に存在しているが,これは発育の進むにつれて,体肢の骨においては次第に黄色骨髄でとって代えられる.

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成人では管状骨の髄腔は黄色骨髄でみたされている.一方,赤色骨髄は主として管状骨の海綿質の中にあり,さらに椎体・肋骨・胸骨などの中,板間層すなわち頭蓋骨の海綿質の中,それから手根骨・足根骨の中にもある.年寄りでは骨髄はしばしば半透明を呈し,膠様骨髄Medulla ossium gelatinosaとなる.

 骨髄という器官の全容積はG. Wetzel (Z. ges. Anat.,82. Bd.,1927)によると,20才の1男性では2915ccmで,55才の1男性では4192ccmである.そのうち20才の方の赤色骨髄は1420ccm,55才の方のは2558ccmである.新生児の骨髄は平均して67ccmであって,男児は小児にくらべて大きい.

 骨髄の実質を支持するものは結合組織の線維からなるが,この線維は発生の模様や,組織配列の状態や,組織化学的な所見から,リンパ性器官の細網線維に相当するものである.この支持構造の中に見られる細胞要素は,骨髄細胞・巨大細胞・白血球として区別される(58頁).血管・リンパ管・神経はもちろん骨髄にも存在する.この血管の内皮は,ある著者たちによると,赤血球の産生に関係するという.

 管状骨の髄腔の内部で,骨髄は緻密質の内面に対して骨内膜Endosteumという薄い膜で境されている.

Hammar, J. A., Anato. Anz.,19. Bd.,1901.-Jackson, Arch. Anat. u. Phys.,1904.-Rohr. K., Das menschliche Knochenmark. Leipzing 1940.

8. 骨格の概観

骨の外形,構造,諸部分,一般的名称

 骨は外形によって次のように区別される.

1. 長骨Ossa longa. 体肢の多くの骨がこれに属する.この種の骨は1つのCorpusすなわち骨幹Diaphsisと,2つのたいてい太くなっている骨端Epiphysesとからなる.骨端はしばしば円いこいCapitaの形を呈する.骨幹の内部には1つの大きい空所があり,これが骨髄を容れる髄腔Cavum medullare, Markhöhleである.それでこのような骨をまた骨状管ともよぶ.この型に属するすべての骨では,1つの方向への伸びたが支配的である.

2. 扁平骨Ossa plana. 肩甲骨・寛骨・多くの頭蓋骨のようなもので,この群の骨は2方向に(2次元的に)特に拡がっている.

3. 短骨Ossa brevia. 手根骨や足根骨のようなもので,3方向に向かって一様に拡がっている.

4. 含気骨Ossa pneumatica.篩骨・蝶形骨・前頭骨・上顎骨・口蓋骨のようなもので,空気で充たされ,粘膜で裏うちされた空所をもっている.

5. 不規則形または混合型の骨. これには上に3つの分類にあてはまらない骨が全部ふくまれるのである.

 骨によって,柱・環・管・函・円蓋などいろな形づくられる.この点について特に図176に注目されたい.骨は相寄って,受動的運動を行うのに非常によく徹した一組のの「てこ」Hebelsystemを構成しており,能動的運動器官すなわち筋にとっては広汎な作用面となっている.また骨は環や管や函の形をなして,その中に囲まれた器官の保護枠としての役目をもするのである.この役目は骨にとっては最も重要なものであり,骨格系の本来の使命を示すものなのである.

 図176をみるにあたっては,体の中での骨格の位置を前もって知っておく必要があるだろう.骨格は結合組織内にあって,骨と一定の位置関係にある他の諸器官系のあいまに存在している.

 ここまでは骨の外観に注目してきたわけである.たしかにこの表面の状態は大事であるが,これに劣らず内部の状態もないがしろにしてはならない.

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骨を割ってみると,固い実質と海綿状の実質とが骨を構成していることがわかる.この固い実質が緻密質Substantia compactaすなわち皮質Cortexで,部分により,また骨によって,強く肥厚していることもあり,薄い皮質の層を形成するにすぎないこともある.海綿質Substantia spongiosaは骨の内部を占め,そこで著しく発達していることもあるが,また極度に減少していることもある.骨の内部にも緻密質の突出部や島にがあって,これをBinnendura(内部の固いものの意)という(H. Meyer).

 このように管状骨の骨幹は非常に緻密な,ゾウゲ様の物質からなる.これに対して両骨端は,網状につながりあった,しかし一定の方向の走る細かい梁や板でその内部を構成されており,端にゆくほど薄くなる緻密質の皮膚で,その表面を囲まれている(図157).

 扁平骨では緻密質がしばしば2枚の板をなし,頭蓋骨では外板Lamina externaおよび内板Lamina internaとよばれる.この2枚の板の間には海綿質があって,頭蓋骨では板間層Diploëとよばれる(図178).多くの扁平骨は薄いところでは板間層を欠き,2枚の板が癒合して1枚になっている.比較的小さいいくつかの扁平骨は,結局たった1枚の薄い板から出来ているにすぎない.

[図178]厚い板間層をもつ扁平骨の横断(前頭鱗,管状縫合付近,正中線の2cm右)×3

 短骨は管状骨の骨端と同様に海綿質で出来ており,薄い緻密質の皮質で包まれている.混合型の骨では,緻密質と海綿質とが,いろいろな場所で,いろんなぐあいに用いられている.海綿質は髄腔と同じように,柔らかい,しかもはるかもつ,たがいにつながりあった多数の空所を充たしている.つまり海綿質のあいだの空所が赤色骨髄を宿しているわけである.

 緻密質と海綿質との形の上からは対称的な存在である.しかし両者は構造のいても機能においてもたがいに異なっていない.骨というものの全体が堅固なことをめざして構築されているのだが,海綿質もこの課題に関与している.この意味において,海綿質は圧縮された海綿質であり,海綿質はほぐされた緻密質であるといえる.この関係はそれぞれの骨において構築系の中でのその位置に応じて,特殊な様式であらわれている.この非常に注目すべき関係については「骨の内部構築」の項を見られたい.

 小さい血管や神経が,骨表面の多くの場所で骨質に侵入する.そのほかに,比較的大きい骨では割合に太い血管が1本,ときにまたそれ以上,きまった場所で侵入する.これが栄養動静脈Aa. et Vv. nutriciaeで,栄養孔Foramen nutriciumを通って栄養管Canalis nutriciusにはいり,ついで骨髄実質に達する.

 含気骨Ossa pneumaticaにおいては,空気を容れている空所の1つから,粘膜が骨の内部へ侵入し,この骨を中空にし,軽くしている.

 骨格を形成する各々の骨は体幹の骨体肢の骨とに分けられる(図176)

 体幹の骨格には頭の骨と胴の骨とが含まれる.

 体肢の骨格は上肢帯と下肢帯の骨,および自由上下肢の諸骨からなる.

 胴の骨格は脊柱・肋骨・胸骨からなる.同様に頭の骨格は脳頭蓋Hirnschädel (Schädelkapsel)と顔面頭蓋Gesichtsschädel (Gesichtsskelet)とからなり,後者にまた舌骨と鼓室小骨を含まれる.

 骨格を構成する骨の数は年齢によって変化するものである.初めにはたがいに分離しているいくつかの骨が,骨化の現象が進むにつれて融合して1つになる.

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 中年において見られる骨の融合・分離の状態をもとにして,それぞれの骨を数えると次のようになる.

 脊柱は24の分離した脊椎と仙骨と尾骨からなる.仙骨は5つの真性の脊椎の癒合によって出来ている.尾骨は真性の脊椎の退化したもので,成人ではそれが5ないし6個あって分離しているが,年をとるとたがいに癒合する.尾骨は発生の初期には少なくともおよそ9個の脊椎原基をもっていたが,そのうち末端部のいくつかは間もなく癒合してしまうのである.

 胴の骨格には,そのほか12対の独立した肋骨と,胸骨とが属する.

 頭蓋は33の骨からできている.そのうち15は脳頭蓋Hirnschädelに属する.くわしくいえば対をなさない骨が後頭骨・蝶形骨・篩骨・前頭骨・鋤骨の5個,対をなす骨が側頭骨・下鼻甲介・鼻骨・涙骨・頭頂骨の5対である.また18の骨が顔面頭蓋Gesichtsschädelを形成する.すなわち単一のものが下顎骨と舌骨体の2個,対をなす骨が,それぞれ1対の上顎骨・頬骨・口蓋骨,3対の鼓室小骨,それに2対のいわゆる舌骨角を加えて8対となる.

 上肢には角側に鎖骨・肩甲骨・上腕骨・橈骨・尺骨がそれぞれ1個,手根骨が8個,中手骨が5個,指骨が14個ある.

 下肢には各側に寛骨・大腿骨・膝蓋骨・脛骨・腓骨がそれぞれ1個,足根骨が7個,中足骨が5個,そして指骨が14個ある.

 骨の全数はこれだけでもすでに200を越える.しかもこれにかなりの数の種子骨Sesambeineが加わる.最後にまた骨の数は次のような事情で,さらにふえることがある.

1. 正常に起こるべき骨の癒合(例えば前頭骨の左右両半の癒合)が起らない.

2. 頭蓋の縫合の場所で,大小いろいろの骨島が生じて,縫合骨Nahtknochenを形成する.

3. 過剰骨accessorische Knochenが形成される.

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最終更新日 13/02/03

 

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