Rauber Kopsch Band1. 13

S.171

c)内臓頭蓋の付加骨(被蓋骨)
α)上顎骨Maxilla, Oberkieferbein(図244248, 268270)

 上顎骨は臓弓性骨格に属する主要な骨の1つで,眼窩の底・鼻腔の底と側壁・口腔の天井の形成にあずかり,左右それぞれ上歯列の歯の全部をになっている.

 上顎骨には1つのと4つの突起が区別される.すなわち歯槽突起・口蓋突起・頬骨突起・前頭突起である.

 Corpus maxillaeを3面を有するピラミッド形とみれば,その底は鼻腔面Facies nasalisで鼻腔に面し,その頂点は頬骨突起ということになる.ほかの3面は前面Facies anterior,うしろの側頭下面Facies infratemporalis,上方の眼窩面Facies orbitalisである.

 前面Facies anteriorは第1大臼歯のあたりから発する鋭い隆起線すなわち頬骨下稜Crista infrazygomaticaと頬骨突起の付着とによって後面から分けられている.前面の上縁を眼窩縁Margo orbitalisという.上縁の5mmぐらい下方に卵円形の眼窩下孔Foramen infraorbitaleがみられる.これは眼窩下管Canahs infraorbitahsの前の出口である.この孔の下に浅い犬歯窩Fossa caninaがあるが,その位置と大きさは非常にまちまちである.前面は内側に鼻切痕lncisura nasahsという鋭いきれこみをもっており,ここへ鼻腔面が伸びて来ている.

 頬骨突起と頬骨下枝とのうしろにある後面すなわち側頭下面Facies infratemporahsには後方へ向ってふくらんだ上顎結節Tuber maxillaeという高まりがある.

 上顎結節は下方の少し細くなった部分に続いており,この部分は口蓋骨の錐体突起と蝶形骨の翼状突起の付着する粗面をなしている.この粗面を下内側へ向って1本の滑かな溝が通っている.この溝は口蓋骨の溝とあわさって,口蓋管Canales palatiniをなすのである.

 上顎結節には歯槽孔Foramina alveolariaという孔が2, 3個あいていて,後方の歯に達する神経や血管がこれを通って歯槽管Canales alveolaresに入る.側頭下面の上内側隅ではかどばっていて,凹凸があり,口蓋骨の眼窩突起の付着部をなしている.

 上面すなわち眼窩面Facies orbitalisはかなり平らで,三辺形をなし,外側へ傾斜しており,前面とのさかいは眼窩縁Margo orbitalisという鋭い稜をなしている.眼窩面の後縁は下眼窩裂を下方から境している.また内方の縁は口蓋骨・篩骨の紙様板および涙骨と接している.眼窩面には眼窩下溝Sulcus infraorbitahsという溝があって,そこで平面が中絶している.この溝は後縁にきれこみをつくり,前方へ走って次第に眼窩下管Canahs infraorbitalisという完全な管に移行する.

 内面すなわち鼻腔面Facies nasalisは鼻腔の周壁の一部をなしている.この面には不規則な四辺形の広い口が開いている. これは上顎洞の開口で,上顎洞裂孔Hiatus sinus nlaxillarisとよばれる.前頭突起へ移行するところに横走するデコボコした隆起がある.これは下鼻甲介のつくところで[]介稜Crista conchalisとよばれる.鼻甲介稜は前頭突起の涙骨縁と合して,後方へむかう1本の隆起線を形成する.この隆起線は涙嚢溝Sulcus lacrimalisを前方から抱いている.また涙嚢溝の後縁をなすものは,上顎洞裂孔の前縁の上部から起って涙嚢溝を抱くように巻きこんだ小骨板(ヘンレの半月Lunula von Henle)である.

 上顎洞Sinus maxillaris,Oberkieferhöhleまたハイモア腔Highmorehöhleとも呼ばれ,大きい広い空所で,その形は上顎体の形と同様に3面をもつピラミッド形である.上顎洞は中鼻道に開口する.

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 上顎洞には4つの陥凹があり,それぞれ上顎骨の各突起に対応している.すなわち頬骨陥凹Recessus zygomaticus,前頭陥凹R. frontalis,口蓋陥凹R. palatimis,歯槽陥凹R. alveolarisである.そのうちで最も重要なのは凹面をなす歯槽陥凹で,それはここが上顎洞の底になっているからである.その最も低い個所は第1大白歯の根に当っている.上顎洞の底はこの所から前方へは比較的急な傾斜で,後方へはゆるい傾斜で高くなって,犬歯の歯槽がほとんど常に上顎洞の前に位置を占めるようになっている.犬歯の歯槽が上顎洞内に突出している例もないわけではないが,普通は小臼歯の歯槽さえも上顎洞の底から少しはなれているのである.しかし小臼歯と大臼歯の根が紙のようにうすい骨質の層だけに包まれて上顎洞内へ多少とも長く突出していることがある.これらの事実は臨床上大きい意味をもっている.上顎洞の広い開口は近在の骨によって狭められている.それは篩骨の鈎状突起,口蓋骨の一部,および下鼻甲介の一部である(図270).

 上顎骨の前面と側頭下面との内面には歯槽管Canales alveolaresという細い溝や管が走っている.

 上顎骨の前頭突起Processus frontalis,Stirnfortsatzは上顎体の前内側部から上方, 同時にやや後方へ向って伸びている.前頭突起の面はひとつづきに体の前面と鼻腔面に移行している.

 前頭突起の前縁は鼻骨と結合するために凹凸がある.

 後縁は鋭い2本の稜に分かれており,そのうちの後方のものは涙骨縁Margo lacrimahsであって涙骨と結合し,外側のものは前涙嚢稜Crista lacrimalis anteriorであって,自由縁になっており涙骨縁とともに涙嚢溝Sulcus lacrimalisを抱いている.前涙嚢稜の下端のすぐうしろで上顎体の眼窩面の内側縁が半月形にきれこんで涙骨切痕Incisura lacrimalisをつくっている.涙骨と下鼻甲介によって,涙嚢溝の下部は鼻涙管Canalis nasolacrimalisという骨性の管になっているが,上部では涙骨と前頭突起との涙嚢溝か涙嚢窩Fossa sacci lacrimahsをなしている.前頭突起の内面には上半部に篩骨稜Crista ethmoideaという斜走する隆起がみられ,篩骨の中鼻甲介がここに接する.

 上顎体の外面と眼窩面とが外側で合するところに,短くて広い三角形の頬骨突起Processus zygomaticusが出ている.この突起の下のかどから,表面の滑かな1本の隆起が上顎体の外面をまっすぐ下へ伸びている.これが頬骨下稜Crista infrazygomaticaで,前に述べたように上顎体の外面を前面と側頭下面とに分けているのである.

 頬骨突起のうしろの角は下眼窩裂の前縁をなしていることが普通である.頬骨突起の内側の角は最も特異な状態を示し,眼窩下突起Processus infraorbitalisという特別の突起をつくっている.この突起は眼窩下溝の前部を上から被って,これを眼窩下管という管に変えている.眼窩下縫合Sutura infraorbitalisという縫合が眼窩下孔からはじまって,上顎体の眼窩面を通って眼窩下管の初まりのところまで伸びている.

 歯槽突起Processus alveolaris,Zahnfortsatzは,その自由縁すなわち歯槽縁Margo alveolarisが抛物線状に弯曲し,歯根を容れる歯槽Alveoli dentalesと歯とを,各突起について7つないし8つもっている.歯槽突起の外面には各々の歯槽に相当した高まりがあって歯槽隆起Juga alveolariaとよばれる.そのうち犬歯のそれが最も長い.各歯槽のあいだにある骨質のしきりは槽間中隔Septa interalveolariaとよばれる.また歯槽の中にある骨質のしきりが,歯槽をいくつかのポケットに分けているときには,槽内中隔Septa intraalveolariaという.また歯槽の内面にある低い隆起線をAlveolenrippen(歯槽の肋脈の意)という.

 上顎骨の突起の最後のものとして口蓋突起Processus palatinus,Gaumenfortsatzがある.他側の口蓋突起とともに骨口蓋の3/4をなすものである.

 この突起の後縁は上顎体や歯槽突起ほどに後方まで伸びておらず,口蓋骨の口蓋板におぎなわれて初めて骨口蓋が完成するのである.内側縁はデコボコしていて他側の口蓋突起と正中口蓋縫合Sutura palatina medianaによって結合している.

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[図244]左の上顎骨 外方から(4/5)

[図245]左の上顎骨 鼻腔面から(4/5)

この縫合は両側の口蓋骨をも結合している. 口蓋突起の内側縁は上方へ高まって1本の隆起線になっている.これが鼻稜Crista nasalisであって,前方ではなはだ高く,後方でもある程度みとめられる.鼻稜は前の方で水平方向に棘をなして突出し,これを前鼻棘Spina nasalis anteriorという.鼻稜には鋤骨と鼻中隔の軟骨とが付着する(図226).

 口蓋突起の鼻腔面は平滑で横の方向に凹である(左右で高くなって中央がひくい).この面には前の方,歯槽突起と口蓋突起のさかいのところで,鼻稜のすぐわきに,この骨を下前内側方へ貫く切歯管Canalis incisivusの鼻腔への開口がある.両側の切歯管は下へゆくほど近よって骨の中を走るうちに合一し,口腔に開くところは切歯孔Foramen incisivumという1つの口になっている.口蓋突起の口腔面はデコボコで,多数の栄養孔で貫かれている.その外側縁の近くには口蓋稜Cristae palatinaeという高まりによってできる口蓋溝Sulci palatiniが1本か2本みられることが多い.この溝は前方では浅くなってはっきりしない.

 眼窩下管Canans infraorbitalisはその経過中に細い2本の側枝を出すのが普通である.この側枝ははじめは上顎体の骨壁の内部を通るが,後にはその内面の溝となって走っている.

 しばしば成人においてもなお切歯縫合Sutura incisivaという縫合の痕跡が,切歯孔から犬歯と第2切歯のあいだの槽間中隔にむかって伸びている.

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[図246]骨口蓋・切歯縫合・上歯列の咀嚼面(4/5)

[図247]骨口蓋・切歯縫合・歯槽(4/5)

[図248]骨口蓋・切歯骨・乳歯・永久歯 2才の子供(4/5)

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 この縫合はゲーテの切歯縫合Sutura incisiva Goetheiとも顎間縫合Zwischenkiefernahtともよばれ,鼻腔面にもあらわれていることがある.すなわち切歯管の鼻腔口から鼻切痕と平行して鼻甲介稜の近くにまでたどることができる.この結合は切歯骨Os incisivum(顎間骨Zwischenkiefer)の境界を示すものである.切歯の上で,鼻腔への入口の下に鼻前窩Fossa praenasalisという存在の不定なくぼみかおる.

 これは下等人種でいっそう深くて,その出現頻度も高い.――切歯骨の欠如した1頭蓋をFischelが記している.Anat. Anz., , 27. Bd.,1905.――非常にまれには切歯縫合が犬歯と第1小臼歯とのあいだの槽間中隔に達している.Schumacher, S., Anat. Anz., 29. Bd.,1906.――上顎体の空洞形成は篩骨からはじまる.上顎洞の中に甲介を有している哺乳動物がいくつかある.――上顎体の眼窩面の内側縁にしばしば眼窩蜂巣Cellulae orbitae(Halleri)があって,篩骨迷路をおぎなって,これを完全にすることに与かっている.――Michio Inoue,Der Zwischenkiefer. Anat. Hefte, 45. Bd.1912.

β)口蓋骨Os palatinum(図246251, 268270)

 口蓋骨は上顎骨をうしろから補なって,骨口蓋の後部をつくるとともに,鼻腔の外側壁の一部をもなしている.形はLという文字に非常によく似ていて,水平垂直の各1枚の板からなり,それにいくつかの突起がついている.

 水平な板は口蓋板Lamina palatinaとよばれ,その後縁は薄くなってとがって自由縁をなし,骨口蓋のうしろの境をなすとともに,軟口蓋すなわち口蓋帆の付着部にもなっている.

 口蓋板の前縁は横口蓋縫合Sutura palatina transversaによって上顎骨の口蓋突起と結合し,内側縁は正中口蓋縫合Sutura palatina medianaによって他側の口蓋骨と結合している.口蓋板の鼻腔面Facies nasalisには,正中部で左右の口蓋板が結合するところに鼻稜Crista nasalisが鼻腔へ向って出ている.鼻稜は後方で後鼻棘Spina nasalis posteriorという鈍い突起になっている.外側で,口蓋板と上顎板の結合するところに,口蓋板の下面に1本の溝があって,翼口蓋管Canalis pterygopalatinusの形成にあずかっている.口腔に面する口蓋面Facies palatinaはデコボコしており,鼻腔に面する鼻腔面Facies nasalisはなめらかで,左右がもちあがって中央が低くなっている.

 垂直の板は上顎板Lamina maxillarisとよばれ,薄くてこわれやすく,蝶形骨の翼状突起の内側面および上顎体のこれと隣接する部分に接している.

 上顎板の内面すなわち鼻腔面Facies nasalisは鼻腔に面し,ちょうど中ほどの高さのところに,水平方向の隆起線がはっきりみとめられる.これが[]介稜Crista conchalisで下鼻甲介が付着するところである.

 上顎板は鼻甲介稜より下方で,かぎのてに外側へ折りかえって下後方へ向う突起をつくっている.これが上顎突起Processus maxilllaris(図251)で,上顎骨の上顎洞裂孔の下縁にはまりこんでおり(図268),下鼻甲介の上顎突起とともに下鼻道の外側壁の一部をつくっている(Elze).

 上顎板の外面すなわち上顎面Fades maxillarisは上から下へ翼口蓋溝Sulcus pterygopalatinusで貫かれている.この溝は上顎骨および翼状突起とともに翼口蓋管Canalis pterygopalatinusを形成する.上顎面はこの管より前では上顎骨の鼻腔面に接して上顎洞裂孔を後方からせばめており,またこの管よりうしろでは,下方で上顎骨の後縁と結合し,上方で翼状突起の内側面と結合している. またこの管のほぼ中央で1つの小さい孔が上顎板を貫いている.この孔は下鼻甲介より上で鼻腔に開口し,その中を細い神経が通っている.

 口蓋板の後外側隅で,上顎板は外側後下方へ向くがつちりちりした突起をなしている.これが錐体突起Processus pyramidalisで,この突起には縦走する2本の粗な溝(内側翼突溝と外側翼突溝Sulcus pterygoideus medialis et lateralis, Elze)があって,その間に滑かな浅いくぼみをはさんでいる.

 このくぼみは頭蓋では蝶形骨の翼状突起の翼突切痕の中にあらわれる.

S.176

また縦走する粗な2本の溝は,翼状突起の内外両側板のデコボコした前縁をうけている.それで上述の浅いくぼみは翼突窩の底の一部をなすわけである.下の方,口蓋飯のすぐわきに(たいてい2つの)小さい孔がある.これは小口蓋孔Foramina palatina minoraと呼ばれ,翼口蓋管から発する口蓋管Canales palatiniという細い管の開口である.そのうち外側の小さい方のものは存在が不定である.小口蓋孔のすぐ前には翼口蓋管じしんの大きい下口があって,大口蓋孔Foramen palatinum majusとよばれる.これは裂隙状をなしていることも,円い孔のこともある.

 上顎板の前部には前上方に角笛のような形の眼窩突起Processus orbitalisという突起が出ており,これは中空になっていることが多い.

 眼窩突起は少くとも5面をもっている.そのうち上面と内側面とが自由面をなし,前者は眼窩底の後内側隅をつくっており,後者は翼口蓋窩に面している.次に他の骨と接合する面としては,前面は上顎骨に,内側面は篩骨に,後面は最も小さくて蝶形骨甲介に結合している.この突起の基部にあたって,その内面に沿って1本の鋭い隆起線が水平方向に走っている.これが篩骨稜Crista ethmoideaで,中鼻甲介の後端が付着するところである.

 上顎板の後部から蝶形骨突起Processus sphenoideusという板状の突起が後上内側方へ向って伸び,蝶形骨の体と翼状突起の内側板の基部とに接している.またその自由面は一部鼻腔に面し,一部翼口蓋窩の底の形成に参加している.内側端はときに鋤骨にまで伸びている.

 これらの2つの上方の突起は翼口蓋切痕lncisura pterygopalatinaという深い切れこみによってたがいに分けられている.この切痕は蝶形骨体によってせばめられて翼口蓋孔Foramen pterygopalatinumという翼口蓋窩から鼻腔に通じる重要な孔をつくっている.

 Elze, C., Zur Anatomie des Gaumenbeines. Z. Morph. Anthrop.,15. Bd.,1903.

γ)頬骨Os zygomaticum, Joch-od. Wangenbein. (図252, 253, 273, 274)

 頬骨は頬の最も突出した部分をつくるとともに,側頭骨から上顎骨および前頭骨にのびる弓状部を閉じて,これを完全にしている.この骨性の弓は頬骨弓Arcus zygomaticus, Jochbogenとよばれ, 先ず第一に強大な咬筋の起始するところとなっている.頬骨は不規則な四角形の扁平な骨で,その主要面をなす頬面Facies malarisは前外側方へ向っている.頬骨の眼窩面Facies orbitalisは弧をえがいてへこんでおり,眼窩の周壁の形成に参加している.後面は側頭面Facies temporalisで,へこんでおり,側頭窩を前方で境している.

 頬骨はギザギザした三角形の幅の広い上顎突起Processus maxillarisによって上顎骨の頬骨突起と結合し,幅がせまいが頑丈な側頭突起Processus temporalisによって側頭骨の頬骨突起と結合し,上方の力づよい前頭蝶[]骨突起Processus frontosphenoideusによって前頭骨および蝶形骨大翼と結合している.

 頬骨は頬骨管Canalis zygomaticusという1つの管で貫かれている.この管は眼窩において,上顎骨との縫合のところ,あるいはその近くで頬骨眼窩孔Foramen zygomaticoorbitaleにはじまり,骨の内部で2枝に分れる.その1つは頬骨面に開いて頬骨顔面孔Foramen zygomaticofacialeとよばれ,もう1つは側頭面に開口して頬骨側頭孔Foramen zygomaticotemporaleという.

 しばしば頬骨管が単一でなくて,その2枝が独立して眼窩にはじまることがある.頬骨管およびその枝の中には同名の神経すなわち三叉神経第2枝の枝が走っている.――前頭蝶形骨突起は縫合によって,下方のそれより大きい部分から分離していることがある.ちなみに,この突起は霊長類ではじめて形成されるもので,それより下等の動物には欠けているという事実が注目に価する.そのほか,また別に頬骨下縁の近くにこれと平行して横走する分離もあらわれる.――頬骨の上顎骨と付着する部分は,上顎洞からつづいて空洞化されることがある.この場合は上顎洞の頬骨陥凹Recessus zygomaticusが頬骨じしんにまで達している状態といえるのである.

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[図249251]左の口蓋骨(×1)図249は内方から,図250は後方から,図251は外方から.

[図252, 253]左の頬骨(×1)図252は外方から,図253は内方から.

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[図254, 255]下顎骨 30才の男子(4/5)図254は下後方から,図255は前上方からみる.

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δ)下顎骨Mandibula, Unterkiefer (図254260, 272, 273, 274)

下顎骨は顔面頭蓋の骨のうちで最も厚くて頑丈な骨で,他の頭蓋の部分とは2の関節で可動性に結合している.下顎体Corpus mandibulae, Körper des Unterkiefersはその面が抛物線状にに弯曲した板の形をしており,その後端部は鈍角をなして上方へまかっている.こ

の部分を左右それそれ下顎枝Ramus mandibulae, Unterkieferastという.

 下顎体には前の方,オトガイのところに三角形の1領域がみとめられる.これがオトガイ三角Trigonum mentaleで,その底辺は体の下縁に一致し,両底角は多少とも強く突出して,左右のオトガイ結節Tuberculum mentaleを成している.またこの三角形の頂点から正中線上を1つの隆起が次第に低くなりながら下方へ伸びている.これがオトガイ隆起Protuberantia mentalisで,もと分離していた下顎骨の左右両半の融合部に当っている.

 下顎骨の下部は以前に下顎底Basis mandibulaeとよばれたところで,斜めに後上方へ,軽くS状に弯曲する線をえがいている.下顎底は前方の部分が下顎枝の部分より厚い.歯をもっている上方の部分は歯槽部Pars alveolaris,その自由縁は歯槽縁Margo alveolarisと名づけられている.歯槽部には14~16本の歯が各歯槽内に固定されている.

 体の外面には歯槽隆起Juga alveolariaがある.第1ないし第2の小臼歯の下方で,中ほどの高さのところに,下顎管Canalis mandibulaeが著明な孔をもって側方へ開いている.これがオトガイ孔Foramen mentaleで,左右各側に1つのことが多く,同名の神経と血管の出口をなしている.下顎管は下顎骨のほとんど全体を貫通しているかなり太い管である.体の下縁の中央から1本の滑かな隆起線がはじまって,斜めに後上方へのび下顎枝の筋突起に続く.これが斜線Linea obliquaである.

 体の内面には前の方で,正中線のわきに,下縁に密接して,左右1つずつの浅いくぼみがある.これは二腹筋窩Fossa m. biventerisとよばれ,顎二腹筋の前膜が起るところである.その上には中央に下顎棘Spinae mandibulaeという4つの小結節が集りをなしている.そのうち上方にある大きい方の2つはオトガイ舌筋棘Spina m. genioglossi,下方にある小さい方の2つはオトガイ舌骨筋棘Spina m. geniohyoideiと呼ばれ,それぞれオトガイ舌筋とオトガイ舌骨筋の起始するところである.これらの小結節には,顎舌骨筋線Linea mylohyoideaが続いており,この線は斜めに上方へ走っている. この線のうしろには顎舌骨神経溝Sulcus mylohyoideusがあって,下顎孔Foramen mandibulaeからはじまって斜め下方へ走っている. この溝のうしろ下には内側翼突筋の付着する翼突筋粗面Tuberositas pterygoideaがあって,その大部分が下顎技の領域内にある.

 下顎枝Ramus mandibulae,Unterkieferastは体よりもうすくて,体とのあいだが多少の差はあるが,鈍角をなしており,2面・2稜・2突起を有している.下顎枝は上へゆくにつれて,(矢状面上での)幅を増すと同時に厚さを減じる.体の下縁が下顎枝の後縁に移行するところは下顎角Angulus mandibulae,Kieferwinkelとよばれる.

 下顎枝の後縁は,うしろから見て明瞭なS字形の弯曲を示し,いったん細くなってから急に幅を増して下顎骨の関節突起Processus articularisの後面に移行する.それと逆に下顎枝の前縁は上行するほど薄くとがった縁になり筋突起Processus muscularis, Muskelfortsatzとして終る.この突起はその名前のごとく純粋に筋付着のためのもので,側頭筋がここで起始する.下顎枝の外面には下顎角のところに咬筋粗面Tuberositates massetericaeというザラザラした面がある.内面の翼突筋粗画Tuberositas pterygoideaについてはすでに述べたが,この面にはまた著明な下顎孔Forarnen mandibulaeがあって,その上方には前方から下顎小舌Lingula mandibulaeがつき出している.下顎孔は下顎管Canalis mandibulaeの入口である.下顎管はオトガイ孔を越えて正中部にまでつづき,多数の細い副管を歯槽部と歯根に送り出している.下顎小舌には蝶[骨下]顎靱帯Lig. sphenomandibulareが付着する.

 筋突起の上縁は凸の曲線をなしているが,横の方向に強くおしつけられた形である.この突起は関節突起とのあいだを下顎切痕lncisura mandibulaeでへだてられている.

S.180

 うしろの突起は関節突起Processus articularis,Gelenkfortsatzで,下顎小頭Capitulum mandibulae,という関節頭を,下顎頚Collum mandibulaeというくびれた部分のさきにつけている.下顎小頭の下には関節突起の翼突筋窩Fovea pterygoidea processus artcularisというくぼみが前方へ寄って存在し,外側翼突筋の付着部をなしている.

 関節頭は左右の方向に強くのびていて,楕円体の関節面をもっている. 関節頭の内側端はうしろへ後退しているので,左右の両関節頭の長軸を延長させると,大後頭孔の前縁のところで相交わるようになっている.

 歯槽部Pars alveolarisの歯槽Alveoliと槽間および槽内中隔Septa interalveolaria et intraalveolariaについては,前に(172頁)上顎骨の項で述べたのと同じことである.最も奥の大臼歯のうしろには臼後三角Trigonum retromolareがある.

 年令による差異:下顎歯の前縁は歯槽部の縁に対しており,直角に近い角度をなしており,その両辺はたがいに弓状をなして移行している.これに反して下顎枝の後縁は体の下縁と約120°の角度をなし,小児期には140°あるいはそれ以上である(図256).歯のない老人の下顎では,この角度がふたたび大きくなる.高年の人でしかも歯を失ったあとでは,歯槽突起は多少の差はあるがぼ完全といってよいほどに消失してしまい,これは上顎骨の歯槽突起でも同じことである(図258).

 オトガイ隆起は年令の進むにつれて前下方へ移動する著しい傾向を示し,下縁に向って垂直に下降することも少なからずあり,完全になくなっていることすらある.ところが下顎の前面はこれと反対に下後方へひっこむ傾向を示し,その下話は臍隆起より突出することなく

次第に後退してゆく.こうして下顎骨の人間らしい形が失われて,動物のそれを思わせる形になるのである.

d)臓弓性骨格の原始骨(置換骨)
α)鼓室小骨:ツチ骨Malleus,キヌタ骨lncus,アブミ骨Stapes

これらの骨については感覚器の項で述べる.

β)舌骨Os hyoides,Zungenbein(図261)

 舌骨はU字形で,舌の底に接して存在し,オトガイと喉頭との間で,頚のひっこんだ角のところに触れることができる. 1つの体と2対の角があって,後者は相ともに後方へ開いた大きい弓状部をつくっている.

 中央部の舌骨体Corpus ossis hyoidisは水平におかれた,舟のような形の骨板で,そのふくらんだ面が前上方に向き,へこんだ面が後下方へ向っている.上縁は薄くなり尖っているが,下縁は厚くなっている.円くふくれた前面には弓状にまがって横走する1本の隆起線がある.この隆起線の中央に縦の方向の1本の隆起線がはっきりみとめられることがあり,そのために力づよく発達した舌骨では,明瞭な十字のかたちがここにみられる.

 大角Cornua rnajoraは体より長いけれども,それより細い.体の両側から後方へつき出て,そのさきは小さい丸い頭になって終わる.

 小角Cornuaminoraはこれに反して短くて円錐形で,長いあいだ軟骨性にとどまり,体と大角との結合部から後上方へつき出ている.小角はかなりの年配にいたるまでその結合が可動性であって,茎突舌骨靱帯Lig. stylohyoideumの付着するところをなしている.小角はこの靱帯の中を上方へ伸びていることがあり,ごく稀にはずっと伸びて茎状突起にまで達していることさえある.

 小角は体の外側縁と関節により,あるいはしばしば単に結合組織性に結合している.大角と体との間に関節が存在することは稀であって,たいていは線維軟骨で,まれには硝子軟骨で結合されている.

 茎状突起が茎突舌骨靱帯の中を長く伸びて来ていることがある.またこの靱帯の中央部が骨性のこともあり,このような場合は茎突舌骨骨Os stylohyoideumという新しい骨が,ほかの骨に加わることになる.たいていの動物ではこの靱帯の大部分が骨性である.この靱帯が舌骨の小角に付着することはすでに述べた通りである.v. Eggeling(Jen. Z. Naturw., 53. Bd.,1914/15)は舌骨の大角までもが茎状突起と結合している1例を記述している.

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[図256]新生児の下顎骨 左からみる(×1)

[図257]30才の男子の下顎骨 左前方からみる(4/5)

[図258]80才の女子の下顎骨 左からみる(4/5)(ベルリンの解剖学標本集より)

S.182

[図259]下顎骨 30才の男子,前からみる(4/5)

[図260]下顎骨とその歯槽 図247の上顎と同一個体のもの(4/5)

[図261]舌骨 前からみる(×1)

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最終更新日 13/02/03

 

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