Rauber Kopsch Band1. 14

S.183

全体としての頭蓋

 頭蓋には頭蓋函と顔面部とが区別される.前者は前頭骨・頭頂骨(2個)・後頭骨・蝶形骨・側頭骨(2個)・篩骨の8個の骨で構成されている.そのうち初めの3つは扁平骨であって,それぞれに,緻密骨質でできた外板Lamina externaおよび内板Lamina internaがあって,両板のあいだには海綿質がある.この海綿質は頭蓋函ではとくに板間層Diploe とよばれ(図178263)その中を板間管Canales diploiciという広い静脈管が通っている.頭蓋の外面をおおう骨膜を頭蓋骨膜Pericraniumという.後頭骨・蝶形骨・側頭骨・篩骨・前頭骨の一部は頭蓋底Basis cranii,Schädelbasisをつくる.

a)頭蓋縫合Suturae cranii,Schädelnähteと頭蓋軟骨結合Synchondroses cranii

 下顎骨・鼓室小骨・舌骨をのそいたすべての頭蓋骨は,縫合か,軟骨結合か,骨結合のいずれかによってたがいに結合している.縫合は網のように頭蓋の内外両面にひろがっているけれども,内面の網が外面のそれとすべての場所で一致しているわけではない.骨と骨とを結合するいわば接着剤となるものは,縫合においては結合組織であり,軟骨結合においては軟骨である.

 縫合においてたがいに結合される骨の縁はいろいろな形をしており,直線的なものや蛇行しているものがあり,その程度もさまざまである.このようないろいろな走り方はそれぞれの縫合に型が定つているが,また大きい個体差が,とくにいわゆる鋸状縫合Zackenähteでみとめられる.鋸状縫合は非常に多くの鋸歯状の凹凸をもつこともあれば,かなり直線に近い走行を示すこともある.それで程度の違った鋸歯の少い縫合鋸歯の多い縫合”zackennarme und zackenreiche Nähte”が区別される.

 頭蓋冠(図262, 274)にはほぼ平行する2本の縫合が前後にある.これが冠状縫合Sutura coronaria, Kranz nähtと人字縫合Sutura lambdoides, Lambdanahtである.冠状縫合の中央と人字縫合の頂点とは矢状縫合Sutura sagittalis, Pfeilnahtによって結ばれている.矢状縫合は胎児や子供では前頭縫合により更に前方まで伸びているが,前頭縫合はのちに骨化して,たいてい完全に消失してしまう(168頁参照).

 冠状および人字縫合はそれぞれ下端で,矢状縫合にだいたい平行しながら上つたり下つたり蛇行している1本の長い縫合と合している(図274).この縫合の形成には,上方で前頭骨と頭頂骨,下方で頬骨・蝶形骨の大翼・側頭骨の鱗部および乳突部があずかっている.すなわちこの縫合は頬[骨]前頭縫合Sutura zygomaticofrontalisではじまり,[]前頭縫合Sutura sphenofrontalisおよび蝶骨頭頂縫合Sutura sphenoparietalisとなって上方に凸のカーブをえがきながら蝶形骨大翼の上縁に沿って伸び,ついで頭頂側頭縫合Sutura parietotemporalisとなって,いっそう強く上方に凸出したさらに長い第2のカーブをえがいて後下方へ走り,最後に頭頂乳突縫合Sutura parietomastoideaとなって後方へ走る.

 頭蓋の側壁を矢状方向に走るこの縫合は,上方からは冠状および人字縫合をうける一方,反対の方向すなわち下方へは次の3つの縫合を送り出している.

1. 蝶[骨]頬[骨]縫合Sutura sphenozygomaticaは下眼窩裂の丸味をおびた外側端に終っているが,翼口蓋窩のなかにまで続いて,この窩の下端から,蝶形骨の翼状突起と口蓋骨の錐体突起のあいだの縫合を派生させている.

2. 蝶[骨]鱗縫合Sutura sphenosquamalisは側頭骨の錐体の前を横走している[骨]錐体裂Fissura sphenopetrosaに終っている.蝶[骨]錐体裂の中には[骨]錐体軟骨結合Synchondrosis sphenopetrosaがある.

3. 後頭乳突縫合Sutura occipitomastoideaは頚静脈孔にまで伸びている.さらにここから内側へ錐体後頭裂Fissura petrooccipitalisがづき錐体後頭軟骨結合Synchondrosis petrooccipitalisを含んでいる.頭蓋底の内面には,蝶形骨の小翼と前頭骨の眼窩部とのあいだに[骨]眼窩縫合Sutura sphenoorbitalisがあり,さらにその内側のつづきとして[骨]篩[骨]縫合Sutura sphenoethmoideaがある.

S.184

また口蓋の縫合としては正中口蓋縫合Sutura palatina mediana,横口蓋縫合Sutura palatinatransversa,さらに(痕跡として)切歯縫合Sutura incisivaをすでに(175頁)述べた.

 顔面には横走する鼻根の縫合があって[]前頭縫合Sutura nasofrontalisおよび前頭上顎縫合Sutura frontomaxillarisの各部分からなっている.この縫合は両側で眼窩のなかへ伸びている.横走する鼻根の縫合の中央から[]間縫合Sutura internasalisが下方へ伸びている.またその外側には[]上顎縫合Sutura nasomaxillarisがある.眼窩口の縁の中央あたりからは[]上顎縫合Sutura zygomaticomaxillarisがはじまる.この縫合から,あるいは独立して眼窩口の縁から眼窩下孔まで,上顎骨に属する眼窩下縫合Sutura infraorbitalisが走っているが,これはすでに(172頁)記したのである.頬[骨]側頭縫合Sutura zygomatico temporalisは側頭骨の頬骨突起と頬骨の側頭突起との結合部である.

[図262]頭蓋45才の男子,上からみる(7/10)

(ベルリン解剖学教室所蔵の標本)

S.185

 眼窩と鼻腔の縫合については187,190頁を見られたい.

 頭蓋腔の内面には頭蓋冠の部分にも, 頭蓋底の両後部にも,だいたい外面の縫合と同じ縫合があるけれども,鱗状縫合Schuppennähteとそれに相当するものの存在するところでは内外両面の縫合が一致していない.このことはたとえば頭頂側頭縫合の内外両面での位置を比較すれば容易にわかる.さらに鼓室部があるために,頭蓋底の外面には内面に存在しないいくつかの縫合がみとめられる.なおまた前頭蓋窩のなかには篩板と前頭骨と蝶形骨のあいだにそれぞれ縫合がある.

 頭蓋縫合は頭蓋の成長にあずかっており,高年になるとそれが骨化して,いわゆるVerstreichen der Schädelnähte(頭蓋縫合がぬりつぶされること)という状態になる.軟骨結合については関節学の項を見られたい.

[図263]頭蓋 内方からみる(7/10)

S.186

b)縫合骨Ossasuturarum, Nahtknochen

 過剰骨はいろいろな様式であらわれるものである.靱帯や腱の全長のうち,ある限られた部分が骨化することによって過剰の骨が生じることについては,舌骨のところで述べた(180頁).また成長につれて骨化して消失すべき縫合が残っているために,他の一連の過剰骨が生じる(前頭縫合,横後頭縫合など) (図212, 264, 273).この場合には骨数の増加の原因が生体活動の低下に,すなわち若い発育段階にとどまってしまうことに帰せられるものである.さらに1つの骨に異常な骨核が形成されて,骨数の増加をおこすことがある.縫合骨はこの種類に属するものなのである.

 付加骨の最初の原基はふつう小さいいくつもの島をなして現われ, それがたがいに融合する(図163).したがって縫合骨の出現は正常な過程をその基礎としてもつのである.縫合骨には次の2種が区別される:

1. 本来の縫合骨Ossa suturarum, eigentliche Nahtknochen.その存在がとくに異常とはいえない縫合によって,島のようにとり囲まれて生じる大小さまざまの骨である(図265).

2. 介在骨Ossa intercalaria, Schaltknochen.大小さまざまの骨が,他のもっと大きい骨の面の中に,正常の縫合とは無関係にはまりこんでいるものである.前頭骨や側頭骨などの中に,それ自身の縫合によってとり囲まれた骨島が認められることがあるのがこれである(図266).

 縫合骨はその最も珍しいものさえも, 左右対称に出現するのが普通である.狭義の縫合骨は頭蓋のすべての骨に一様の頻度で現れるわけではない.人字縫合内にあることが最も多く,そこでは時として多数に認められる.人字縫合が複雑な鋸歯状をなすという正常な現象が,この領域に縫合骨がしばしば出現することの基礎になっていると考えられる.縫合骨の出現頻度は矢状縫合およびその冠状縫合との結合部ではさらに低く,冠状縫合および鱗状縫合となるといっそう稀になる.頭頂骨と蝶形骨大翼との間や,頭頂骨と側頭骨の鱗部および乳突部との間でも,縫合骨が時どき認められ,通常対称的である.ところで全縫合に100以上もの介在骨が散在している頭蓋もあるのであって,さらにほとんど介在骨だけで出来ているかと思われるような頭蓋もある.(Jung, Animadversiones quaedam de ossibus generatim et in speciedeossibus raphogeminantibus ct. Basileae 1827. )

 前に泉門(後述)のあったところに現れる縫合骨はまた泉門骨Fontanellknochenとよばれる(図267).

[図264]頭蓋冠を上からみる.前頭縫合(十字の上へ伸びた部分) (Springerによる)

[図265]縫合骨および

a縫合骨, b介在骨, s縫合

[図266]介在骨

[図267]泉門骨チロールのOberau生れの短頭の人の頭蓋.泉門骨は矢状縫合に属して大泉門の位置にある.

S.187

c)頭蓋の外面

 頭蓋の表面は説明の都合上, 上部・下部・前部・後部および左右2つの外側部に分けられる.

α)上部すなわち頭蓋冠Calvaria, Schädeldach(262, 263, 272274)

 この部分は上眼窩縁から分界項線にまで伸び,側方では頭頂骨の側頭線で境されている.この部分は平滑で,矢状方向を長軸とする卵円形で,頭頂部では前頭部におけるよりも幅が広く,前の方ではかなり平らであるが,うしろの方には1つの小さい突出がある.この円蓋の中央部は頭頂Vertex, Scheitelとよばれ,前方の平たいひたい方の部分が前頭またはFrons, Stirn,後方の垂直に近い部分が後頭Occiput, Hinterhauptである.

β)前部すなわち骨性顔面Facies[ossea], knöchernes Gesicht(図273, 274)

 骨性顔面は額よりも下方の部分であって,左右の眼窩Orbitae, Augenhöhlenの開口がある.眼窩が前方に開くところが眼窩口Aditus orbitaeで,その縁を囲んでいる骨が前頭骨・頬骨・上顎骨であって,眼窩口縁Margo aditusの3部分すなわち前頭部Parsfrontalis, 頬骨部Parszygomatica, 上顎部Parsmaxillarisを成している.両眼窩のあいだには前下方へ傾斜した鼻背が出ており,これを成しているのは左右の鼻骨と,左右の上顎骨の前頭突起とである.その下方には正中部に,骨鼻腔が頭蓋の前面に開く口があり,梨状口Apertura piriformisとよばれて,さかさまのハート形または西洋ナシのかたちをしている.梨状口の薄くて鋭い縁は鼻軟骨の付着するところであり,また下方では前鼻棘Spina nasalis anteriorをつくっている.梨状口の下には上顎骨の鼻前窩Fossae praenasalesがあり,眼窩口の下には犬歯窩Fossa caninaがあり,さらにその外側には頬骨の前・下部と上顎骨の頬骨突起とによってつくられる頬の突出がある.眼面骨格は下方で下顎骨と舌骨が参加することによって,はじめて完全なものとなる.ここでヒトに特有の表徴として,突出したオトガイ隆起Protuberantia mentalisがあることを述べておく.顔面部のさらにこまかい点については,すでに述べたのであるが,ただ眼窩と鼻腔はここで特別に観察する必要がある.

1. 眼窩Orbita, Augenhöhle(図268, 273)

 眼窩は不規則な4面をもつ錐体形のくぼみで,その底面にあたるところは前方やや外側方に向き,頂点は後内側にある.左右の眼窩の軸をうしろへ延長すると内後頭隆起のところで交わる.

 眼窩の内側壁Paries nasalisは正中面とほぼ平行である.外側壁Paries temporalisは強く外方へ開いているので両側の外側壁がほとんど直角をなしており,うしろへ延長すると下垂体窩のあたりで相交わる.眼窩の天井すなわち上壁Paries superiorは前の方で内外両側壁に弓状に移行している.外前方へ傾斜した底すなわち下壁Paries inferiorは,少しずつもちあがって内側壁に続いている.

 7つの骨が集まって眼窩壁をつくっている.1. 上顎骨の眼窩面と前頭突起.2. 口蓋骨の眼窩突起.3. 涙骨.4.篩骨の眼窩板(紙様板).5. 蝶形骨の小翼と大翼.6. 前頭骨の眼窩面.7. 頬骨の眼窩面.またこれらの骨のあいだの縫合は,内側では[][]縫合Sutura sphenoethmoidea, [][]縫合S. lacrimoethmoidea, []上顎縫合S. lacrimomaxillaris, []上顎縫合S. ethmoldeomaxillaris, 前頭篩骨縫合S. frontoethmoidea, 前頭涙骨縫合S. frontolacrimalis, 前頭上顎縫合S. frontomaxillarisである.外側壁には[][]縫合S. sphenozygomatica, []前頭縫合S. zygomaticofrontalis, []前頭縫合S. sphenofrontalisがある.上壁には[]前頭縫合S. sphenofrontalisがあり,下壁には眼窩下縫合S. infraorbitalisと[]上顎縫合S. zygomaticomaxillarisがある.

S.188

[図268]眼窩と上顎洞の内側面 翼口蓋窩(4/5)

[図269]鼻腔(右)の外側壁(4/5)

S.189

 次に眼窩とこれに隣る空所とのつながりは次の通りである:視神経管・上眼窩裂・眼窩頭蓋管が頭蓋腔に,眼窩篩骨管および鼻涙管が鼻腔に,下眼窩裂が翼口蓋窩につながっている.また,側頭窩とは下眼窩裂と頬骨管とによって,顔面とは眼窩口・頬骨顔面管・外側前頭孔・眼窩下管によって結合している.

 ところで視神経管Canalis fasciculi opticiについてなお注意しておかねばならないことは,この管が眼窩の四角錐の頂点で内側寄りにあるために,観察者が頭蓋をまっすぐ前から見たのでは,視神経管を全く認めることができないことである.視神経管のやや下方で棍棒状の上眼窩裂Fissura orbitalis cerebralisがはじまる.上眼窩裂は眼窩の外側壁と下壁との後端のところで,長く伸びた下眼窩裂Fissura orbitalis sphenomaxillarisのはじまりの部分とつながっている.下眼窩裂は上顎骨と蝶形骨の大翼とのあいだを前外側方へ伸びて頬骨に達している.上顎体のうしろで口蓋骨の眼窩突起が下眼窩裂の内側縁の一部をなしている.

 上眼窩裂の外側端の前に,しばしば硬膜眼窩孔Foramen meningeoorbitaleという小さい孔が開いている.これは頭蓋腔に通じて,中硬膜動脈の1枝を涙腺動脈に導くものである.

 内側壁の前部には涙嚢窩Fossa sacci lacrimalisがあって,下方へ骨性の鼻涙管Canalis nasolacrimalisに通じ,鼻涙管の下端は下鼻道のはじまりの部分に開く.

 眼窩の形と位置の軽度の非対称は,普通にみられる現象である.眼を失うと眼窩が縮小してくるのは,歯を失うとその歯槽がなくなるのと同様である.

[図270]鼻腔(右)の外側壁 中および下鼻甲介の大部分が除いてある(4/5).

S.190

2. 骨鼻腔Cavumnasiossei, knöchene Nasenhöhle(図226, 269, 270, 272, 273275)

 骨性の鼻腔は正中面におかれた鼻中隔の左右両側にある.(もっとも鼻中隔は多くの場合, どちらかの側へまがっているが.)骨鼻腔は前方では両側いっしょに梨状口Apertura piriformisで外に開き,うしろでは左右それぞれ1つの後鼻孔Choanaで開いている.鼻腔にはいわゆる副鼻腔Nebenhöhlenが開口する.すなわち篩骨洞の各群・蝶形骨洞・前頭洞・上顎洞である.

 1側の骨鼻腔には上・下・外側・内側・後の5壁があり,うしろ(後鼻孔)と前の2口がある.前では両側の骨鼻腔が共通の梨状口をもって外に開くのである.

 最も単純なかたちをしているのが下壁すなわち骨鼻腔の底であって,上顎骨の口蓋突起と口蓋骨の口蓋板との鼻腔面Facies nasalisでつくられており,滑かで,凹面をなして前後および左右が高くなっている.

 前の方には切歯孔がある.唯一の縫合は横口蓋縫合Sutura palatina transversaであるが,若い人ではそのほかに切歯縫合Sutura incisivaがある.

 内側壁は鼻中隔Nasenscheidewandで,骨鼻中隔Septum nasi osseumと中隔鼻背軟骨の中隔板Lamina septi cartilaginis septodorsalisとからできている.そのうち骨性の部分は篩骨の正中板・鋤骨・鼻稜の側面・蝶形骨稜である. これら各部のあいだの縫合は鋤骨上顎縫合Sutura vomeromaxillaris, 鋤骨口蓋縫合S. vomeropalatina, [][]縫合S. vomeroethmoidea, [][]縫合S. sphenoethmoideaである.表面の凹凸としては次のものに注意すべきである:正中板の上部には嗅糸の通る多数の溝があり,鋤骨の外面には中隔後鼻動脈および同名の神経枝の通る溝や管がある.また特別の注意に価するものは,鋤骨の上稜に平行して,これと正中板の下縁とのあいだを後上方に伸び,しばしば蝶形骨にまで達する細長い軟骨である.これを中隔鼻背軟骨の蝶骨突起Processuss phenoideus cartilaginis septodorsalis(図226)という.

 上壁は鼻骨の内面・前頭骨の小部分・篩板および蝶形骨でつくられている(図269).

 後壁は鼻腔の上部にしかなくて,蝶形骨体の前面によってつくられており,ここにはまた蝶形骨洞の開口がある.

 外側壁が最も理解しにくいところである.その構成にあずかるものは1. 上顎骨,2. 口蓋骨,3. 下鼻甲介,4. 篩骨, 5. 鼻骨の5つの骨であって,これらの部分によって多数の深い溝や湾入や開口がつくられるのである.まず普通3つ存在する鼻甲介によって,前後の方向に通る3本の深い道が分けられる.すなわち1. 上鼻道Meatus nasi superior, oberer Nasengangは上鼻甲介の下に,2. 中鼻道Meatus nasi medius, mittlerer Nasengangは中鼻甲介の下および外側に,3. 下鼻道Meatus nasi inferior, unterer Nasengangは下鼻甲介の下および外側にある.これら3つの道は前方,後方,および内側方で単一の空所に移行している.内側にあるこの単一の空所は総鼻道Meatus nasi communisと呼ばれて,鼻中隔のわぎで鼻腔の上から下まで続いている細いすきまである.また上中下の鼻道は後方では鼻咽道Meatus nasopharyngicusに続いている.ここには上の方から蝶篩陥凹Recessus sphenoethmoideusが下りて来て合する.これは蝶形骨体の前壁と篩骨迷路の後壁のあいだにある溝で,その深さやひろがりは非常にまちまちである.縫合としては[]鼻甲介縫合Sutura lacrimoconchalis, 口蓋上顎縫合S. palatomaxillaris,口蓋篩骨縫合S. palatoethmoidea,鼻甲介上顎縫合S. conchomaxillaris,鼻甲介口蓋縫合S. conchopalatina, 篩骨上顎縫合S. ethmoideomaxillarisがある. 下および中鼻甲介が自由端をなして突出している部分を切りとると,ほかの重要なものが沢山みえてくる.下鼻道には次の3つの骨が寄り集まっているのが見られる.1. 上顎骨の鼻腔面,2. 下鼻甲介の上顎突起,3. 口蓋骨の上顎板.また下鼻甲介が付着する線の前部の下には,鼻涙管の下口(鼻腔口)がみとめられる.

 中鼻道の外側壁は前方に涙骨があり,それに下方から下鼻甲介の涙骨突起が付き,それから鈎状突起,最後に口蓋骨の上顎板がある.鈎状突起は飾骨迷路の最も前方の部分から起って,青竜刀のようにまがって伸び,下鼻甲介の篩骨突起にまで達する.こうして鈎状突起は,ばらばらにした骨では1つの大きい口としてみられる上顎洞の入口を, 2つのすきまに分けているのである.鈎状突起は大きさ,幅,弯曲,隣接する他の骨との関係などの点で,臨床的に重要なさまざまの変異を示すので,鼻甲介や副鼻腔などの多数の変異と同様に,この方面の専門医学に関する書物では十分に取扱われるところである(Zuckerkandl, Hajek, Killianを参照せよ).

S.191

 鈎状突起と平行してその上方に,前篩骨洞のうちで位置と大きさのために目だつところの篩骨胞Bulla ethmoideaがある.篩骨胞はその形がツバメの巣によく似ているが,やはりそれにも変異が無数にある.篩骨胞と鈎状突起とのあいだに半月裂孔Hiatus semi1unarisという鎌形のすきまがある.半月裂孔は骨標本において上顎洞に通じるすべての開口のうちで,軟部をつけたままの標本にまで残る唯一のものであって,鼻腔と上顎洞とを結合する篩骨漏斗Infundibulum ethmoideumというロート形の管の鼻腔への開口をなしている.ところが篩骨漏斗は粘膜の被いによって初めてつくられるものであるから,骨鼻腔の壁には見られない.

 前頭洞は半月裂孔により,あるいは篩骨漏斗の中へ,あるいは(約半数例で)篩骨漏斗の前で,中鼻道に開口する.中鼻道にはさらに前篩骨洞が開くが,後篩骨洞は上鼻道に開くのである.

 蝶篩陥凹の後壁は蝶形[骨]洞口Apertura sinus sphenoideiを有し,また前壁は篩骨迷路によってつくちれている.蝶形[骨]洞口の位置は非常にまちまちで,正中線のすぐわきにあることもあれば,全く外側へ寄って蝶篩陥凹の奥深くにあることもあり,あるいほこれら両極端のあいだのどこかに位置を占めることもある.しかし同時にその位置は,たいてい鼻腔の上壁のすぐ下方である.

 蝶篩陥凹の下には翼口蓋孔Foramen pterygopalatinumがある.その周壁は口蓋骨の眼窩突起と蝶[形]骨突起ならびに蝶形骨体によって形成され,鼻腔から翼口蓋窩に通じも孔である.この孔は神経と血管の通路になっているが,軟部をつけた標本では完全に閉じている.

 鼻腔の前後と上下のひろがりは相当に大きいが,横径はとくに上部で小さくて,そこではかなり狭くてすきまのように見えるほどである.鼻腔は左右それぞれ4つの側面をもち,その上外側のすみはやや角がとれて円くなっている.鼻腔の中央の幅は1.4~l. 8cmである.高さは中央では4.5cmであるが,前とうしろでは一部は上壁の形により,一部は底が前方で高くなっているために,それよりずっと小さい.

鼻甲介Conchae nasalesについて

 すべての脊椎動物の嗅覚器は,とくに著しく退化していない限り,その内部の表面をうんと広くしようと努めている.水中で呼吸する動物においては,それは嗅覚にのみ役だっている.器官そのものをひどく大きくするようなことはせずに,嗅神経の枝のためにできるだけ広い面をあたえねばならないので,表面が高まりやひだや溝をなして複雑な形になっているのである.ところが空気呼吸をする動物では,鼻腔は呼吸にも役だつのであって,それは空気が鼻腔を通過するときに濾過され,湿気があたえられるからである.そしてこの第2の機能も緻密な濾過器をつくるために表面を拡大しようという方向にはたらくのである(K. Peter).

 哺乳動物およびヒトの鼻腔では壁に凸出している隆起部が鼻甲介Nasenmuschelnとよばれ,それらの間の溝が鼻道Nasengängeとよばれる.

 比較解剖学は従来, 鼻甲介の形態学的な意味を究めようと努力して来たが,Peterの研究によれば,この問題については比較発生学が最も大切であるといえるのである.

 鼻腔の外側壁は次のように形づくられる. まずごく早期にいくつかの溝(主溝Hauptfurchen)が生じ,それらによっていくつかの隆起(主甲介Hauptmuscheln)が区切られる.さらに主甲介の上に二次的な副溝Nebenfurchenがつくられて,主甲介がいくつかの副甲介Nebenmuschelnに分けられることがある.同様にして主溝のくぼみの中に副甲介ができてくることもある.これらの溝の底はどれもみな伸びだして副鼻腔をつくる可能性をもっているから,副鼻腔は極めてさまざまの場所に生じ得るのである.

 哺乳動物における鼻甲介のならび方はヒトのそれとはひどく違っているので,両者の相同性をきめることは非常にむつかしい.

 哺乳動物の鼻腟の前方の部分には2つの隆起があり,下方にあって上顎骨に乗つているのが上顎甲介Maxilloturbinale, 上方にあって鼻骨と隣接しているのが鼻骨甲介Nasoturbinaleである.両者のうしろには篩骨から数の一定しない篩骨甲介Ethmoturbinaliaが突出している.

 ヒトでは鼻口部が短縮し篩板が水平位を占めるために,篩骨甲介が上頚甲介の上へ押しやられており,また鼻骨甲介は退化して鼻堤Agger nasiというごく平らな高まりになっている.

 ヒトの下鼻甲介は哺乳動物の上顎甲介に相当するものである.哺乳動物でたいてい3~4個みられる篩骨甲介は,ヒトでははじめ2~3個できかかるが,できあがるのは2個だけで,中鼻甲介と上鼻甲介がそれである.最上鼻甲介は上篩骨甲介の副甲介で,二次的に副溝によって区切られたのである.

S.192

 篩骨甲介より下のどの鼻道からも副鼻腔がのび出し得る.中鼻道には副甲介として篩骨胞と鈎状突起があるが,この中鼻道からはとくに多数の副鼻腔が生じる.すなわちここから前頭洞・上顎洞・前篩骨洞が発生し,一方上(および最上)鼻道からは後篩骨洞が形成される.そして蝶形骨洞は鼻腔のうしろ上のすみから発達する.――Peter, K., Die Entwicklung der Nasenmuscheln beim Menschen. Arch. Mikr. Anat.,80. Bd.,1912.――同著者のAtlas der Entwicklung der Naseusw. Jena1913.

3. 骨口蓋Palatum osseum, knöcherner Gaumen(図246248, 272, 275)

 骨性の口蓋は左右の上顎骨の口蓋突起と,左右の口蓋骨の口蓋板とによって作られている.これらの4部分がたがいに合するところが矢状に走る正中口蓋縫合Sutura palatina medianaと,横に走る横口蓋縫合Sutura palatina transversaである.また若い人の骨では切歯縫合Sutura incisivaが完全にあるいは痕跡的に残っている(図246248を参照).正中口蓋縫合の前部には切歯管Canalis incisivusが開いている.口蓋の後部には外側に寄って,口蓋骨と上顎骨のあいだに大口蓋孔Foramen palatinum majusがあり,口蓋骨の錐体突起の中に小口蓋孔Foramina palatina minoraがある.

 上顎骨の口蓋突起の口蓋面は平滑でなく,デコボコしていて,大小多数のくぼみや孔がある.これに反して口蓋骨の口蓋板は多くは平滑である.大口蓋孔から前方へ開きながら2本か3本の口蓋稜Cristae palatinaeが走り,それによって口蓋溝Sulci palatiniが生じる.この溝は骨質の橋わたしによって部分的に管になっている

ことがある.この溝の中には大口蓋神経の枝と同名の動脈の枝とが走っている.骨口蓋の前と横の縁どりをしているのは上顎骨の歯槽突起である.うしろへは後鼻稜Spina nasali posteriorがつき出ている.

 口蓋の横の方向の反りぐあいとその高さは実にさまざまであって,これには歯列および歯槽突起の形成状態が重要な関係をもっている.

 正中線上を縦走する隆起線は,程度の差があるがかなりの長さと幅と高さをもっていて口蓋隆起Torus palatinus(v. Kupffer)とよばれる.これはStiedaによればその現われる頻度がすべての民族によって異るのであって,ペルー人とアイヌに最もしばしば存在し,黒人種に最もまれにみられるようである.W. Waldeyerはラプランド人の頭蓋で口蓋隆起をほとんど常に見出したR. Weinbergによればこの隆起はリヴオニヤ人でもしばしば認められる.(赤堀英三(Jap. Journ. med. Science, Anatomy, Vol. 4, P. 62~318)は日本人頭蓋において口蓋隆起を男女あわせて355例中153例(43%)にみとめた.)

γ)頭蓋の側部(図274)

 頭蓋を側方から観察すると,まず鼻骨・前頭骨・上顎骨・下顎骨・頬骨・頭頂骨・側頭骨・後頭骨の外面がみえる.これらの骨の外面についてはそれぞれの骨のところで述べたが,その相互関係もたやすく理解できるであろう.頬骨弓Arcus zygomaticus, Jochbogenが頬骨の側頭突起と側頭骨の頬骨突起とで形成されることもただちに明かである.

 立ち入って説明しなければならないのは,頭蓋の側壁にあるいくつかのくぼみであって,それには側頭窩Fossa temporalis,側頭下窩Fossa infratemporalis,翼口蓋窩Fossa pterygopalatinaがある.

1. 側頭窩Fossa temporalis(図274)

 側頭窩は上方とうしろは側頭線によって,前は頬骨と前頭骨の側頭面とによって,外側は頬骨弓の内面によって限られている.また下の限界は側頭下稜と頬骨弓の下縁とによって定められ,ここで側頭窩が側頭下窩に移行するのである.側頭窩の内側壁すなわち側頭平面Planum temporaleは頭頂骨・側頭鱗・前頭骨の側頭面・蝶形骨の大翼によってつくられている.側頭窩の大部分は側頭筋によってみたされている.

S.193

2. 側頭下窩Fossa infratemporalis(図274, 275)

 側頭下窩は側頭窩の下方のつずきをなしているが,側頭窩より,もずっと深く内側へ向って入りこんでいる.側頭下窩の内側部と後部には,蝶形骨の大翼の側頭下面と側頭鱗の水平な部分とでできた特別の天井がある.側頭下窩の内側の限界は翼状突起によってできており,前壁は上顎骨の側頭下面,ならびに歯槽突起のこれに続く部分によってつくられている.

 側頭下窩は一部は下顎骨の筋突起によって,また一部は側頭筋の下部, 外側翼突筋ならびに血管や神経によってみたされている.

 側頭下窩は下眼窩裂によって眼窩に続き,また翼状突起の根と上顎結節のあいだに深く入りこんで,狭い峡谷をつくっている.これが翼口蓋窩である.

3. 翼口蓋窩Fossa pterygopalatina (図268)

 翼口蓋窩は上は蝶形骨によって,前は口蓋骨と上顎骨によって,うしろは翼状突起と蝶形骨大翼の蝶[形上]顎面によって境されている.またその内側壁は口蓋骨の上顎板によってつくられている.翼口蓋窩は外側では細いすきまによって側頭下窩につながっている.また翼口蓋窩は上の方が広くて,下へゆくほど狭くなって翼口蓋管Canalis pterygopalatinusに移行する.

 この狭い空間にその付近の多数のものが開口している.すなわち後壁には正円管Canalis rotundusと翼突管Canalis pterygoideusが開き,内側は大きい翼口蓋窩へ開いている.また前上方では下眼窩裂によって眼窩とつながっている.

δ)頭蓋底の外面Facies externa baseos cranii(図275)

 頭蓋の下部は前後には後頭鱗の界上項線から切歯まで,横の方向には一側の歯列弓および乳様突起から他方のそれらに至るまでの範囲である.下顎骨をとりさると,前部・中部・後部が区別される.

 前部は口腔の天井と鼻腔の床とをなす部分で,骨口蓋上歯列弓Arcus dentalis maxillarisとからできている.(この部分の詳細こついては192頁 ,口蓋のところを見よ.)

 しかしまた臓弓性の骨絡を全部とり去ってしまうことも可能で,そうすると神経頭蓋Neurocraniumの底の前部が眼前にあらわれる.

 頭蓋底の中部すなわち中央の領域は骨口蓋の後縁から大後頭孔の前縁までである.また側方へは側頭下稜, 頬骨弓および乳様突起のところまでのびている.この中央の領域は非常に複雑で,それ自身がまた特別の中央部を抱いている.それが頭蓋底の咽頭領域Schlundfeld der Schädelbasis(図271)であって,咽頭円蓋をうけて,前方へ鼻腔に続いている. 頭蓋底の中央の領域の前外側部は側頭下窩Fossa infratemporalisをなしていて,これについてはすでに述べた.

 咽頭領域の形は,その境界を次のような1本の線によって言い表わすことができる.この線は咽頭結節のあたりから,ずっと前方にはり出している頭長筋起始部の前縁を劃して錐体後頭裂に達し,さらに頚動脈管の外口の前を蝶形骨棘の方に向って,この棘からは口蓋帆挙筋によってへだてられながら進み,そこから蝶形骨の翼状突起の内側板のつけ根に達する.それより内側では,咽頭領域は鼻腔の天井につづくのである.

S.194

 頭蓋底の中央の領域ではさらに次のようなものが注意されるべきである.骨口蓋にはまず翼状突起の内側板と外側板とが接着し,前者には翼突鈎Hamulus pterygoideusがついている.両板のあいだには翼突窩Fossa pterygoideaがあって,その形成には口蓋骨も関与している.口蓋骨の口蓋板の上方で,左右の後鼻孔Choanaeが鋤骨の鋭い後縁によって分けられ,鼻腔に通じている.後鼻孔の周壁をつくっているものは口蓋骨の口蓋板・蝶形骨の翼状突起内側板および鞘状突起・鋤骨翼・鋤骨の後稜である.

[図271]頭蓋底の外衝の中央部(4/5)頭蓋底の咽頭領域を白線で囲んである.

[図272]頭蓋の正中断(7/10) (ベルリン解剖学教室所蔵の標本)

S.195

次に鼻腔の中をのぞくと,3つの甲介と3つの鼻道,それに蝶篩陥凹の下端が容易に認められる.蝶形骨体の下面には2つの小さい管がある.そのうち内側にあるのが頭底咽頭管Canalis basipharyngicusで,鋤骨翼の外側にあるのが咽頭管Canalis pharyngicusである.翼状突起のつけ根には,翼突窩の上に内側板に近く舟状窩Fossa scaphoidesがあって,その中から口蓋帆張筋の一部が起る.さらに外側には三叉神経の第3枝の通る卵円孔Foramen ovaleがあり,そこからわずかに離れたところに棘孔Foramen spinaeがあり,そのうしろには発達の程度のまちまちな蝶形骨棘Spina ossis sphenoidisが突出している.卵円孔・棘孔・蝶形骨棘の3者を結ぶ線とほぼ平行に[]錐体裂Fissura sphenopetrosaと耳管溝Sulcus tubae pharyngotympanicaeが走っている.耳管溝は大翼に属しており,錐体尖で筋管総管に通じる.

[図273]頭蓋(45才の男)前からみる(7/10) (ベルリン解剖学教室所蔵の標本)

S.196

 鋤骨より後方では後頭骨の底部Pars basialisがつづく.頭蓋咽頭管Canalis craniopharyngicusがもしかすると存在するかも知れないから,これに注意すべきである.大後頭孔の前縁から少しはなれたところに咽頭結節Tuberculum pharyngicumが突出している.その側方にななめ前外側へたがいに平行な2本の隆起線が走っている.前の1本は頭長筋,うしろの1本は前頭直筋のつくところである.大後頭孔の側縁のわきには各側に後頭顆Condylus occipitalisがある.

 後頭骨の底部と翼状突起の底および錐体尖のあいだに破裂孔Foramen lacerumがあって,頭底線維軟骨Fibrocartilago basialisでふさがれている.側頭骨の表面には頚動脈管の外口Apertura externa canalis caroticiがあり,さらにその外側には関節結節Tuberculum articulare,下顎窩Fossa mandibularis,錐体鼓室裂錐体鱗裂Fissurae petrotympanica et petrosquamalisがある.

 頭蓋底の外面の後部にはまず大後頭孔があり,その. かたわらには後頭顆があり,さらにそのわきには後頭骨の外側部Pars lateralisとその乳突傍突起Processus paramastoideusがある.後頭頼の上外側に舌下神経管Canalis n. hypoglossiが開き,後頭顆のうしろには顆間Canalis condylicusが開く.後頭骨の外側部と側頭骨のあいだには頚静脈孔Foramen jugulareがあって,頚静脈孔内突起Processus intrajugularesで2つの部分に分けられている.茎状突起鞘Vagina processus styloidisでかこまれた茎状突起Processus styloidesや,茎乳突孔Foramen stylomastoideum, 乳様突起Processus mastoidesなどが見られるが,ここでは特に述べない.

[図274]頭蓋 45才の男, 側方からみる(7/10) (ベルリン解剖学教室所蔵の標本)

S.197

乳様突起の内側にはひじょうに変異にとむ乳突切痕lncisura mastoideaがあって,顎二腹筋り後腹の起始部をなしている.この切痕の方向と平行して,これまた非常にさまざまな強さの後頭動脈溝Sulcus arteriae occipitalisが,1つの骨隆起の上を走っている.後頭乳突縫合の中あるいはその近くに乳突孔Foramen mastoideumが1つまたはそれ以上の口をもって開いている.

 頭蓋底の後部項領域Nackenfeldは後頭鱗の項平面Pianum nuchaleに属している.すなわち大後頭孔の後縁から外側へ乳様突起の後縁にまで伸び,界上項線までひろがっている.ただしこれは局所解剖学的な境界であって,形態学的にみた頭蓋底の境界は,後方では大後頭孔の前縁までである.項領域では正中部を走る外後頭稜Crista occipitalis externa,項平面線Linea planinuchalis,分界項線L. nuchalis terminalis,界上項線Lsupraterminalis, 外後頭隆起Protuberantia occipitalis externaなどに注意すべきである.

[図275]頭蓋底の外面45才の男, (7/10) (ベルリン解剖学教室所蔵の標本)

S.198

d)頭蓋の内面と頭蓋腔Cavum cranii, Schdidelhöhle(図263, 272, 276)

 頭蓋函の内腔は一部は頭蓋の円蓋を成すいぐつかの皿状の骨によって, また一部は頭蓋底の諸骨によって囲まれている.そのうち前者は骨の厚さが一様であるが,後者は厚さが非常に不均等である.

 頭蓋腔の壁の最もうすい部分は篩板,眼窩の上壁の中央部,蝶形骨体の上壁,側頭骨の下顎窩,鼓室蓋,側頭鱗の中央部,顆窩および小脳後頭窩の領域である.頭蓋底骨折は一部は骨の各部分の薄さによって,また一部は頭蓋底の諸孔によって影響をうけるけれども,決してそれだけできまるのではない.むしろこの場合は打撃の方向とその侵襞点が最も問題となる.

 頭蓋腔の上壁と側壁とはひとつづきの円蓋をなしているが,これに反して頭蓋底の領域すなわち頭蓋底の内面Facies interna baseos craniiはテラス状にいくつもの段があり,そのほか数多くの特別な形状を示している.頭蓋底が2度おちこんでいるために,各側に3つの広いくぼみが生じ,その形が脳の底面のかたちとおよそ一致している.これら左右のくぼみの間に,中央の不対性の区域があって,篩板Lamina cribriformis,鶏冠Crista galli,蝶形骨の上面, 下垂体窩Fossa hypophyseos,鞍背Dorsum sellae,斜台Clivus,大後頭孔Foramen occipitale magnumからなっている.

 前頭蓋窩Fossa cranii frontalisは強く発達した脳回圧痕Impressiones gyrorumや脳隆起Juga cerebraliaによって特微づけられている.前方でまるくなっている床をなし,すべての頭蓋窩のうちで最も高く,鎌形に切りとられた蝶形骨小翼の後稜によって中頭蓋窩との間がしきられている.前頭蓋窩は大脳の前頭葉をいれている.蝶骨前頭縫合Sutura sphenofrontalisが前頭骨の眼窩部と蝶形骨の小翼とを結びつけている.

 中頭蓋窩Fossa cranii mediaは前頭蓋窩よりもいっそう深く,中央の鞍部Parssellarisと両側の側頭部Partes temporalesとからできている.前は蝶形骨小翼の後縁で,内側は蝶形骨体の側壁で,うしろは錐体稜Crista pyramidisによって,また側方は側頭鱗によって,限られている.中頭蓋窩の底は蝶形骨大翼の大脳面Facies cerebralis alae magnaeと錐体の大脳面Facies cerebralis pyramidisとによってつくられている.脳回圧痕と脳隆起のほかに次のものを注意すべきである.前の方で上眼窩裂Fissura orbitalis cerebralisが眼窩とのつながりをなしている.また正円管Canalis rotundusが翼口蓋窩に通じ,卵円孔Foramen ovaleが側頭下窩に通じる.棘孔Foramen spinaeは中硬膜動脈と下顎神経の硬膜枝とを頭蓋腔に導いている.中硬膜動脈の幹のための溝は深いこともあり,わりあい浅いこともあるが,側頭鱗の内面に認められる.蝶形骨の側壁には頚動脈溝Sulcus caroticusと蝶形骨小唇Lingula sphenoideaがあり,側頭骨の錐体尖の前には破裂孔Foramen lacerumがあり,また錐体尖の上に半月神経節のための三叉神経圧痕Impressio trigeminiがみとめられる.錐体の大脳面には弓状隆起Eminentia arcuata,顔面神経管裂孔Hiatus canalis facialis,小浅錐体神経管の内口Apertura int. canaliculi n. petrosi superficialis minoris,大浅錐体神経溝Sulcus n. petrosi superf. maj. ,小浅錐体神経溝Sulcus n. petrosi superf. min. がみとめられるが,それらの位置についてはすでに述べた.頚動脈管の上壁はたいてい細大不定の裂け目をつくっているが,それがほとんど認められないこともある.錐体稜の上には錐体稜溝Sulcus cristae pyramidisがある.頭蓋骨の縫合としては[]頭頂縫合Sutura sphenoparietalis,[]鱗縫合S. sphenosquamalis,[]錐体裂Fissura sphenopetrosaが認められ,さらに錐体鱗裂Fissura petrosquamalisが時たま存在する.

 中頭蓋窩は大脳の側頭葉をいれており,側頭鱗の内面ばかりでなく外面にも(G. Schwalbe)その大脳回に一致する凹凸が生じている.下側頭回は鼓室蓋Tegmen tympaniの上にあり,上および中側頭回は側頭鱗に接している.

 後頭蓋窩Fossa cranii occipitalisは3つのくぼみのうちで最も深くて,また最も広い部分を占めている.その上界は錐体稜Crista pyramidisと横溝Sulcus transversusである.前は錐体の小脳面,後外側および下は後頭骨によって境されている.後頭蓋窩の上には脳硬膜の小脳天幕Tentorium cerebelliが張られ,その下に小脳がはいっている.側頭骨の錐体の後面には内耳孔Porus acusticus internus,錐体溝Sulcus petrosus,頚静脈孔Foramen jugulareおよびその孔内突起Processus intrajugulares(側頭骨と後頭骨から1つずつ出ている),S状洞溝Sulcus sigmoidesとその導出静脈,乳突孔Foramen mastoideumがある.

S.199

S状洞溝では右と左とを比. 較してみよう.普通は右の方が深く広いのだが,そうなっているかどうか.あるいはその反対のこともあるからしらべてみよう.S状洞溝の深さと大きさは頚静脈孔の直径と符合している.さらにこの溝の最後の部分が後頭骨の領域内にあることに注意しよう(図215).錐体溝Sulcus petrosusは錐体後頭軟骨結合の上にあって,この溝の一半は側頭骨に,他半は後頭骨に属している.顆管Canalis condylicus(もし存在するときには)と頚静脈孔の前内側の方にある頚静脈結節Tuberculum jugulareは見出すのに困難でない.

[図276]頭蓋底の内面(7/10)

S. 200

後頭蓋窩の底の大部分は後頭鱗の凹んだ下部によってつくられている.骨の結合としては錐体後頭軟骨結合Synchondrosis petrooccipitalisと後頭乳突縫合Sutura occipitomastoideaがある.

 頭蓋底の内面の中央部は前方では鶏冠Crista galli とその両側にある篩骨の篩板Lamina cribriforrmisではじまる.鶏冠の前には盲孔Foramen caecumがある.篩板の大小多数の孔を貫いて嗅糸が,脳膜間のリンパ腔につづくリンパ鞘につつまれて出てゆく.眼窩頭蓋管Canalis orbitocranialisは前篩骨動静脈と同名の神経とを眼窩から篩板に導く,これらの脈管と神経は篩板の1つの孔を通って鼻腔にはいる.篩板のうしろには左右の蝶形骨小翼のあいだの平滑な面がつづく.

[図277]さらした頭蓋のレントゲン像 背腹照射(7/10)

S. 201

そのうしろには中頭蓋窩の鞍部のなかに視神経溝Sulcus fasciculi opticiがあり,その側方に視神経と眼動脈の通る視神経管Canalis fasciculi opticiがある.そのまたうしろには下垂体窩Fossa hypophyseosと鞍背Dorsum sellaeがある.小翼突起中鞍突起鞍背突起Proc. alae parvae, sellae medius, dorsi sellaeにもふれておかねばならない.これらの突起が全部または一部,たがいに骨質の橋わたしでつながっていることがある.鞍背には斜台Clivusが続いている.斜台は蝶形骨と後頭骨とでつくられ,両骨は若い人では軟骨でみたされた[]後頭裂Fissura spheno-occipitalisでたがいに結合しているが,この軟骨結合がのちに骨化する.そのうしろにあるのが大後頭孔Foramen occipitale magnumで,この孔を通るものは延髄とその被膜および脈管,椎骨動脈,前および後脊髄動脈,副神経,それから静脈である.大後頭孔のうしろで,内後頭稜Crista occipitalisinternaが左右の後頭蓋窩を分けている.内後頭稜の下部はひろがっていて,ここに浅深不定のくぼみがある.

 これは小脳の虫部の接するところで,虫窩Fossa vermianaとよばれる.

 脳回圧痕Imperessiones gyrorumと脳隆起Juga cerebraliaは大脳半球の大脳回と大脳溝とに対応するもので. あることが,最近前頭骨について新しい方法で再確認された(Joset, M., Acta anat.,11. Bd.,1950).

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最終更新日 13/02/03

 

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