Rauber Kopsch Band1. 17

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手の骨Ossa manus, Knochen der hand(図293299)

 手には次の3つの大きな部分がある:1. 手根Carpus, Handwurzelには2列にならんだ短い骨がある.2. 中手Metacarpus, Mittelhandには中手骨Ossa metacarpiという5つの小さい管状骨がある.3. Digiti, Fingerはそのうち第2指から第5指の4本には3つの指節Phalanges, Gliederがあるが,母指には2つの指節しかない.

4. 手根骨Ossacarpi, Handwuzelknochen

手根骨の近位列は近位手根骨Ossa carpi proximaliaとよばれ,舟状骨Naviculare, Kahnbein,月状骨Lunatum, Mondbein,三角骨Triquetrum,豆状骨Pisiforme, Erbsenbeinがある.

 遠位列は遠位手根骨Ossa carpi distaliaとよばれ,大多角骨Multangulum majus,小多角骨Multangulum minus,有頭骨Capitatum(有頭骨頭Caput ossis Capitatiとよばれる頭をもっている),有鈎骨Hamatumがある.

 これら8つの骨をサイコロに見たてて,それぞれに6つの方向すなわち6面を区別するのが全体的な理解のために最も便利である.6面とは近位面・遠位面・背側面・掌側面・橈側面・尺側面である.

 手根骨のな,らび方には明瞭な円蓋構成があらわれており,その凸面は手背の側にむき,凹面は手根溝Sulcus carpiをなして手掌の側に向いている.

 この円蓋状のかたちは各列の両端の骨から手掌の側へ突起が出ているために,いっそう著しいものになっている.

[図291]右の尺骨 骨間稜の方からみる(2/3)

[図292]右の橈骨 骨間稜の方からみる(2/3)

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 すなわち尺側にある突起は有鈎骨鈎Hamulus ossis hamatiで,豆状骨とともに尺側手根隆起Eminentia carpi ulnarisをつくっている.また他方には橈側手根隆起Eminentia carpira dialisが舟状骨結節Tuberculum ossis navicularisと大多角骨結節Tuberculum ossis multanguli majorisとによってできているのである.

 目だつほどの変異は手根ではまれである.Soemmeringは1人の黒人の両手に月状骨と三角骨の融合を見た.骨数の増加とくに小多角骨および有頭骨の分裂によるものは,それよりもしばしば観察された.Gruber(1870)は1例で11個の手根骨を数えている.舟状骨と小多角骨と有頭骨のあいだの結合部に稀に1つの痕跡的な骨が認められることがあり,これは多くの動物の手根の中心骨Centraleと相同のものである.

 (W. Gruber,1869,1883).Rosenberg,つづいてHenkeおよびReyher(1874)は,人においても中心骨と名づけてよいものの軟骨性原基は常にあらわれるとの説をたてている.これは骨化のときに舟状骨と融合してしまうのが普通である.Leboucqはこの説を承認したが,Rosenbergはこの軟骨性の原基は消失するのだと考えている.しかしPfitznerは次の見地をとっている.すなわち中心骨はたえず体積を減じて,まず手掌から,ついで手背から退き,ついに手根の内部で溶解あるいは融合によって消失するというのである.それはともかくとして,この骨の融合は実にさまざまの退化段階においてはらわれ得るものである.Hochstetter(Sitzber. Akad. Wiss. Wien,161. Bd.,1952)によれば中心骨が短い痕跡としてしか残っていないとか,もはやそんな状態でも残っていないということが,そもそも稀なのだという. H. Virchow(Morph. Jhrb., 63. Bd.,1929)は次のように述べている.中心骨の退化状態の考えうるすべての場合を「論理的系統的に分類しようとするならば,次の2つの極端型をみるであろう.その1つは中心骨が舟状骨と融合していて,少しも小さくなっていない場合もう1つは中心骨が舟状骨と融合することもなく,萎縮して完全に消滅している場合である.」

5. 中手骨Ossametacarpi, Knochen der Mittelhand

 中手には5つの管状骨すなわち1~第5中手骨Ossa metacarpea I~V. がある.各中手骨に近位部すなわち関節面Facies articularisを有するBasis,骨幹部すなわちCorpus,小頭Capitutulumが区別される.底は手根骨と,小頭は指とそれぞれ関節で結合している.中手骨は手根の円蓋形成のつづきをなして,手掌の側に軽く凹,手背の側に凸の弯曲を示している.各中手骨の底のかたちは非常にまちまちであるが,小頭のかたちはよく一致している.第3と第4中手骨はその底の手根骨との関節面が,側方で2つの小さい橈側および尺側中手間関節面intermetacarpale Gelenkflächenにつづいている.第2中手骨は尺側面にだけ,第5中手骨は橈側面にだけ,やはり中手間関節面をもっている.

 小頭は大きくて,凸の関節面と,橈側と尺側に1つずつの小さいくぼみをもっている.このくぼみには中手指節関節の側副靱帯が付着する.は三角柱である.

 第1中手骨は他のどの中手骨よりも太くて短い.そして第2中手骨以下尺側のものほど,一様に長さを減じてゆく.第1中手骨の底は鞍状の関節面をもっている.その体は背掌の両方向から圧平されたかたちである.

 第2中手骨の底はその幅の広いことと,手根骨との関節面に強い切れこみのあることを特徴としている.また第3中手骨の底は,その橈側にある(3中手骨の)茎状突起Processus styloidesossis metacarpei IIIを特徴とする.第5中手骨は尺側背方へ突出した1つの結節をもつことが特徴である.したがってどの中手骨も特別な目じるしによって判定され,区別され得るわけである.

6. 指骨Ossa digitorum manus, Fingerknochen

 それぞれの指にいくつかの指節Phalangen, Gliederがある.すなわち母指には2つ, その他の指にはそれぞれ3つの節がある.

 基節骨Phalanx proximalis, Grundgliedは中手骨と同様にかるく曲がっている.そのCorpus phalangisの背側面は滑かで,両縁が低くて中高になっている.掌側面は平らで,その両縁は粗面をなしていて,ここに指の屈筋の線維性の鞘が付着する.

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[図293]右の手の骨 尺骨および椎骨の下端をふくむ.手背面.(2/3) H. Virchow原作の(凍結骨格処理法による)標本.指節は修復されているが,前腕骨.手根骨・中手骨の間隔は信頼すべきものである.種子骨は示してない.

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[図294]右の手の骨 尺骨および橈骨の下端をふくむ.手背面(2/3) H. Virchow原作の(凍結骨格処理法による)標本.は修復されているが,前腕骨・手根骨・中手骨の間隔と向きは信頼すべきものである.種子骨は示してない.

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[図295]手の骨格 生体(成人)の手のX線像.背掌照射(2/3)

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近位端はBasis phalangisとよばれて太く,関節面Facies articularisという横ながの卵円形の関節窩をなし,相当する中手骨の小頭をうける.遠位端は滑車Trochlea phalangisで,底ほどではないが太くなっていて,1つの溝で分けられた2つの円い高まりをそなえている.その側面には中手骨と同様に側副靱帯の付着する小領域がある.

 中節骨Phalanx media, Mittelgliedは基節骨より小さいが,かたちは似ており,ちがうところは底の関節面のくぼみに,隆起した導線Führungsleistenがあって,これに基節骨の滑車の溝がはまるようになっていることである.

 末節骨Phalanx distalis, End-od. Nagelgliedでは底は中節骨と同様であるが,底の近くで掌側に深指屈筋の腱の付着のための粗面がある.体は細くてそのさきは幅の広いシャベル形の板に終っている.この部分は爪粗面Tuberositas unguicularisとよばれ,掌側が粗面をなしており,外側には(錨のような)逆鈎がついている.

[図296]手の骨格 生体(13才)の手のX線像.背掌照射(4/9)

[図297]3節の母指をもつMartina(19才)の右手(H. Rieder,1900)

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7. 種子骨Ossasesamoida, Sesambeine

 1対の種子骨一すなわちの末端部や関節包の壁の中に埋もれている小さい骨一が母指の中手指節関節のところに常在する.その他の指のこれと同じ場所では,示指と小指に最もしばしば同様の骨つまり種子骨が認められる.しかしここでは種子骨が2つでなく,1つだけ存在することもある.

 Galenosは母指中手骨Os metacarpeum pollicis を母指の基節骨であると考えた.Vesaliusその他多数の人たちもこれに賛同した.発生学的にみても人の第1中手骨は基節骨のような態度をとる.ところが哺乳動物では第1中手骨の発生のしかたは他の4つと同様であり,その上この状態が人でも時おりみられるのである.さらに筋肉の関係からみてもGalenosの説があやしくなる.母指の末節骨がむしろ中節骨+末節骨なのである.

 3つの指篩骨を有する母指をもつ1家族をH. Rieder(1900)が記載している.この家族は8人で,両親と子供6人である.夫人とその子供2人すなわち13才の娘と7才の息子には奇型がない.夫とその長子(1度目の妻が生んだ19才の娘),それから12才の娘と11才の娘,4才の男児(これらはみな2度目の妻から生れた)は3節の母指をもっている.母指の中節骨はよく発達しているのや退化的なのや,実にさまざまの段階のものがみられる.父親のよりも,むしろ19才の娘のが最も顕著なものである(図297).注意すべきことには,痕跡的な中節骨にはけっして骨端部を認めることが出来なかった.[足の小指の中節骨でも近位の骨端部が欠けている.そのほかにも骨端形成の変異性は以前に考えられたよりも大きいものである(Pfitzner)].母指球の筋肉はこの家族の例では多少とも萎縮し,とくに母指対立筋がそうであった.3節をもつ母指の例を将来しらべるときは,必ず足の母指についても同様の状態があるかどうかしらべるべきであろう.-3節をもつ母指の2例を,さらにH. Salzer(1898)が記載している.2例とも母親からの遺伝である.その解釈にあたってSalzerはPfitznerが述べた次のような説に賛同している.すなわち手と足の母指が2節からなるのも,さらにまた手と足のその他の指が3節からなるのも,それぞれの場合の末節骨がその次の節の骨と融合によって同化したのだというのである.つまり手と足の母指が2節でできているのは,中節骨と末節骨の融合によって,次第に典型的な,しかし大きくなった末節骨が生じたのだというのであって,この考え方に近年のすべての研究者が従っている.また3節の母指は以前考えられていたほど稀なものではない.さらにこの形質は両側性に現われるときには高度の遺伝性をもっている.Stieve(Anat. Anz., 48. Bd.,1915)の報告によれば,両側性に3節の母指をもっている人は今まで合計33人(10家族)にのぼり. そこに遺伝性が存在している.(日本人では横倉誠次郎(海軍医誌12巻1号)に2例の報告があるが,遺伝関係にはふれてない.)

 これと反対に,手の骨格の個体発生をみると,図296を一見してわかるように,母指中手骨はその骨核が指節骨と全く同様の状態を呈している.この事実はまた,母指中節骨を母指基節骨であると考え,従って母指は3節を有し中手骨を欠くとするGalenosの説に新たなそして有力な根拠をあたえるものであった.足の母指においても事情は同じなのであるから(中手骨の場合と同様に,中足骨でも母指のものだけがその骨核を近位端にもつのである.(小川鼎三)),この観点からするならば足の母指も3節からなり,中足骨を欠いているとみなさなければならないであろう.しかしできあがった第1中足骨はその他の中足骨とあまりによく一致しているために,今までだれ1人としてそのような意見を出した人はない.また哺乳動物では第1中手骨と第1中足骨は発生学的にほかの4つと同じ態度をとるということ,さらに人でもこのようなことが時おり見られるということをすでに上述したのである.

第6と第7指放線の痕跡;手根の過剰骨Ossa accessoria carpi

 豆状骨は痕跡的な手根骨で,尺側手根屈筋の腱の付着部をなしている.場合によっては同様の痕跡が手根の橈側にも,さらに中手骨にさえも独立の骨としてみとめられる.足の骨櫓こも同じものが現われる.動物でこれに相当するものがどんな状態であるかを知ることは重要である.Albrechtとv. Bardelebenは上述の骨が前母指Praepollex(足ではPraehallux)と呼ばれた特別の橈側の指放線の痕跡であるとの説を採っている.

 W. Pfitznerの研究は,手根骨でも足根骨でも過剰骨の出現する頻度が,以前に考えられたよりはるかに高いことを示している.

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Peitznerは1450の手のうち中心骨Centraleを7の手で(0.48%)見いだした.しかし中心骨のほかにもなお多数の特異な骨が手根とその付近に存在する.図298, 299はその概観を示す図である.

 手と足の骨絡における過剰骨の意味はレントゲンによる研究で明かにされた.すなわちこれらの骨は外方へ突出した骨格部において,骨化中心として現われるのであって,妨害ないし阻止的な諸因子の影響をうけて,主部すなわち"規則に合う"骨格要素("kanonische" Skeletelement)と合体することなく,その後も独立骨として存在するのである.手の中心骨や足の外脛骨篩骨Tibiale externumおよび三角骨Os trigonumの形態学的な意義はほぼ確定しているが,時に独立して存在する他の過剰骨の意義は決して確かめられているのではない.

 種子骨Sesambeineは胎児では成人よりも数が多い.つまり総数の平均をくらべると胎児の方が多いばかりでなく,胎児には成人で今まで観察されたことのない種子骨も出現するのである.まず中手骨と指節骨のあいだの横線に沿って現われる退化的な構造としての種子骨がある.人の胎児では,中手骨と指節骨のさかい目の掌側の種子骨の最高数は各指に2個ずつ,合計10個にのぼる.この数は下等な猿までふくめて,完全に発達した5本の指放線をもつすべての哺乳動物にみられている数と全く一致する.種子骨は人では完全に発達した指放線で退化しており,哺乳動物では退化した指放線で退化している(Pfitzner).

 手背の側の種子骨は,人では今まで第1背側種子骨Sesamum dorsaleIだけしか観察されていない.

 母指の屈側に,基節骨と末節骨のあいだの関節のところに,1つの種子骨が人ではしばしば認められ,多くの哺乳動物ではこれが常在する.しかしこれは,母指の末節骨が2つの指節骨に相当するゆえに,近位第1種子骨SesamoidesI. proximaleと呼ぶべきものである.人ではふつう遠位指節間種子骨Sesama interphalangica distaliaはせいぜい結合組織性のものが存在するに過ぎない.Pfitznerはわずか3つの手において,軟骨性の関節面をもつ骨性の種子骨を示指に見たにすぎなかった.

 人の足の小指においては,中節骨と末節骨との融合の結果,単一の末節骨が生じて,その中で中節骨に当る部分が,もはや"かたち"というより"かたまり"という方がよいような状態で存在している.母指でも同じことで,その末節骨は中節骨と末節骨の両要素を含んでいるのである(Pfitzner).

[図298, 299]過剰手根骨の模型図 図298は背側面,299は掌側面 手根の円蓋を1平面上にひろげたものと考える.左手(W. Pfitzner,1901)

1. Triangulare(前腕中間骨Intermedium antebrachii)-2. Metapisoid(二次豆状骨Pisiforme secundarium)-3. Scaphoid(橈側舟状骨Naviculare radiale)-4. Metascaphoid(尺側舟状骨Naviculare ulnare)-5. Menoid(固有月状骨Lunatum proprium)-6. . Propyramoid(橈側三角骨Triquetrum radiale)-7. Metapyramoid(尺側三角骨Triquetrum ulnare)-8. Pisoid(固有豆状骨Pisiforme proprium)-9. Parascaphoid(橈側骨Radiale)-10. Epitrapezium-11. Episcaphoid(背側中心骨Centraledorsale)-12. Praescaphoid(掌側中心骨Centralevolare)-13. Epimenoid(月状上骨Epilunatum)-14. Hypomenoid(月状下骨Hypolunatum)-15. Epipyramoid(錐体上骨Epipyramis)-16. Parapyramoid(外尺側骨Ulnare externum)-17. Basitrapezium(固有大多角骨Trapezium proprium)-18. Basitrapezoid(固有小多角骨Trapezoides proprium)-19. Metastyloid-20. Kephaloid(固有有頭骨Capitatum proprium)-21. Sphenoid(固有有鈎骨Hamatum proprium)-22. Paratrapezium-23. Praetrapezium-24. Akrotrapezium(二次大多角骨Trapezium secundarium)-25. Praetrapezoid(二次小多角骨Trapezoides secundarium)-26. Epitrapczoid-27. Parastyloid-28. Styloid-29. Hypokephaloid(有頭下骨Subcapitatum)-30. Epikephaloid(二次有頭骨Capitatum secundarium)-31. Prokephaloid(グルーベル小骨, Ossiculum Gruberi)-32a. Hyposphenoid(基底小鈎骨Hamulare basale)-32 b. Praesphenoid(末端小鈎骨または固有小鈎骨Hamulare terminale s. Os hamuli proprium)-33. Parasphenoid(ヴェサリウス骨Os Vesalianum)

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 種子骨は自由体肢の関節周囲骨periartikuläre Knochenと判断すべきものである.種子骨はすべて硝子軟骨性の原基から発生し,哺乳動物からうけついだものと見るべきである.最もよく発達した種子骨は下等の哺乳動物にみられ,これにくらべれば猿や人の種子骨は退化的あるいは痕跡的にみえる.種子骨は新しく獲得されたものではなく,古い骨格部分なのである.膝蓋骨も,それから腓腹筋の腓側頭のなかにあるFabellaと呼ばれるものも種子骨である.

 常在しない種子骨の出現頻度については,Pfitznerのくわしい資料を見られたい.さらにPfitzner, W., Über Brachyphalangie und Verwandtes. Verh. Anat. Ges,1898. を参照せよ.

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最終更新日 13/02/03

 

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