Rauber Kopsch Band1. 21

II.全体としての骨格Das Skelet als Ganzes

1.骨格の位置

 骨格はからだの結合および支持組織の全体に属するものであって,この組織の中に存在する.

 結合および支持組織の集まりとして,体軸性achsialのものと,中隔性septalすなわち中間性intermediärのものと,周辺性Peripherischのものとが区別される(図357).周辺性のすなわち表皮下のものは皮膚葉dermales Blattと呼ぶこともできる.体軸性のものは脊索周囲葉Perichordales Blatち神経周囲葉Perineurrales B., 腸管周囲葉すなわち内臓葉Perigastrales od. viscerales B. にわかれる.神経周囲葉は後正中部で皮膚葉と相合する.図357aでは内臓葉はかきいれてないが,二重の輪--内側の輪は腸管上皮を示し,外側の輪は体腔の上皮を示す--のあいだに存在するわけである.腸管周囲葉と脊索周囲葉とのつながりについても,同様に頭のなかで補つていただきたい.

 脊索周囲葉からはなお中間葉すなわち中隔葉が出て,図では体腔の外側にあって,体腔および腎臓・生殖腺を外側からかこみ,前正中部で皮膚葉とつながっている.

 尾部では(図357b)体腔と内臓は欠如し,中間および腸壁周囲葉は相合して,なお血管だけをとり囲んでいる.

 頚部では(図357c)内臓葉が描かれているが,これは腸管の上皮と体腔の上皮のあいだにあって,なお1つの血管弓が加えられている.

 さて軟骨と骨とがこの支持組織の集まりの内部で,いかなる場所でいかなる範囲に分化しているかは,脊椎動物界において実に千差万別というよりほかはなく,たとえば最も下等な段階では骨や軟骨は全く分化していないのである.しかしそれはともかく,上に述べた考え方に従って,次のように骨格群を分類できるのである.

1. 体軸性(脊索周囲性・神経周囲性および腸管周囲性)骨格achsiales Skelet,2. 皮膚性骨格dermales Skelet,3. 中隔性骨格septales Sketet.

 脊索周囲性骨格Perichordales Skeletは哺乳動物とヒトでは,椎体と頭蓋底のこれに相当する部分とである.神経周囲性骨格Perineurales S. は椎弓と頭蓋底のこれに相当する部分である.また腸管周囲性骨格Perigastrales S. は鰓弓性器宮に属する頭蓋骨すなわち舌骨・茎状突起・鼓室小骨・下顎骨である.

 皮膚性骨格はヒトでは頭蓋円蓋の領域を除いては,体幹の骨格に骨または軟骨のかたちで現れることはない.

 中隔性骨格はすべての肋骨および退化的肋骨と,胸骨とによって代表される.肋骨を内臓性(臓弓性)骨格と混同してならないことは明かである.

S. 243

これらすべての骨格群に対して体肢の骨格はある程度独立した関係にある.おそらく原節から筋肉の塊りが体肢の原基の中へはいってゆくときに,同時にその筋肉に属する骨格の組材をも含有しているのであろう,またおそらく体肢の骨格は発生的に頚肋骨および腰仙肋骨と関係をもっと考えるべきものらしい,さらにおそらく,体肢の骨格は少くともかなり広範囲にわたって皮膚性骨格であると考えてよいようである.

[図357]脊椎動物の結合組織葉の模型図 Hatschekによる.a胴の横断, b尾の横断,c鰓部の横断,左では2つの鰓裂のあいだすなわち内臓弓のところを切ってあり,右では鰓裂のところが切られている.

2.骨の内部構築

 骨の海綿質はHermann Meyerがくわしく述べているように,総じて骨の梁や小板の不規則な集積で,しかもその梁や小板は厚いことも薄いこともあり,その配列のぐあいにしても網の目の荒いことも狭いこともあって,何の規則性もないという印象をあたえる.しかし海綿質の意味は,骨の大きな外形にかかわらず重量が大きくなりすぎないように骨質が配列しているというだけのことでは決してないのであって,海綿質はできるだけ少い骨質を用いて,外力に対する個々の骨の抵抗力をできるだけ高度に保証するように配列しているのである.海綿質の構築は目的にかなうようにうまくできていて,骨の静止時および活動時の力学と極めて密接な関係にあり,従って同一の場所では常に同一の構造が再現しているのである.この点では海綿質のうち,こまかい糸の網となつそ骨髄の支柱をなしている部分だけが例外で,これは当然のことである.ところが小梁の構築のこのような合目的性は,海綿質だけでなく緻密質にも認められるのであって,後者においては外力に対して抵抗すべき小梁が,向じ原理の要求するところに従って,圧縮し密集しているだけのことである.すなわち緻密質は密集すべくして密集した海綿質であり,海綿質は散開すべくして散開した緻密質である.骨は全体としてその形・大きさ・役割にふさわしい定まった何系統かの小梁からなり,それらの走行は肉眼ではなはだよく区別できる.このことは個々の骨についてばかりでなく,骨格全体についてもいえる.すなわち全骨格はつまり非常に多数の小梁系の集まりであって,それらが一定の線に従って平行したり分散したり合流したり交叉したり,1つの骨の境で中断されたり,次の骨に更めてまたひきつがれたりしているのである.裂隙線による方法SpaltmethodeによってBenninghoff(Verh. anat. Ges.,1925)は脱灰した骨についてこの線の走行を明かにし(図364),さらにそののち,この走行に骨格の被膜(軟骨膜および骨膜)の線維の方向が一致していることをも示した.

 全体として骨はできるだけ少い材料で,外力に対する抵抗ができるだけ強いように構築されているようにみえる.これをくわしくいえば,1. 骨の材料は非常にまばらに組立てられているので,それが緻密に圧縮されている場合よりもいっそう大きい体積を占める.2. 骨にはたらく最大の圧力および張力の方向に沿って個々の分裂要素(骨質の小板や小梁)が伸びているので,最も都合よく外力に対する抵抗力を発揮でぎるようになっている.

 ここで一端を壁面に固定し他端に荷重をかけた柱の例を観察し,その張力線と圧力線を示そう(図365).

 1本の柱の1端Bを壁に固定すると,最大および最小の垂直力の方向は2つの線系であらわされ,両線系は中軸と45°に交わり,柱の両縁と90°に,また両線系どうし90°に交つている.下方に凹の曲線は張力に,上方に凹の曲線は圧力に相当している.それぞれの曲線の端のうち急傾斜をなす端の方が最小の力,横に走って終る端が最大の力に相当している.従ってDおよびD1端ではこの張力は零になっているが,CおよびC1端では最大の価になっている.

S. 244

[図358]第3腰椎(左半)さらした骨で海綿質の構築をレントゲンによって示す(×1)

[図359]肩甲骨

[図360]鎖骨いずれもさらした骨で海綿質の構築をレントゲン線によって示す(5/7)

S. 245

[図361]上腕骨

[図362]尺骨

[図363]橈骨 いずれも海綿質の構築をさらした骨でレントゲン写真によって示す.

S. 246

 もし個々の棒を張力線と圧力線に一致するようにして,それらによって1本の柱を組立てることができるならば,「ずりの歪力」が除かれるとともに,負荷による張力と圧力に対して最高の抵抗を得るであろう.このような柱は,それがすきまのない緻密な柱である場合と同じ大きさの負荷に,折れることなく耐えることができるのである.

[図364]右肩甲骨の後面の裂隙線 (Benninghoef,1925)

[図365]一端を固定した柱とその張力線および圧力線(Culmannによる)

[図366]下肢の海綿質の構築 (H. Meyer,1868)

 骨格自体の最も美しい例の1つは大腿骨の上部の前頭断またはそのレントゲン像に見られる(図157, 366, 367).

「張力曲線に相当する1つの大きい骨小梁系が,関節面の大腿骨頭窩の下方の部分と頭の下外側半から起って外側面の緻密質に移行している.これと交叉してもう1つの骨小梁系があり,これは圧力曲線に相当するもので,小転子の高さで内側面の緻密質から起り,大転子へ向って伸びている.この小梁系と起始をほぼ同じくして上方へ走る小梁の流れがあり,関節面の上面の内側部に放散して,骨盤から受ける圧力を直接に大腿骨の内側面の緻密質に伝える.これら3系の骨梁の流れに囲まれた空間は,これらの流れの続ぎ,とくに後2者のつづきによって充たされていることもあるが,またしばしば網の目の丸い細かい海綿質でみたされ,あるいはまたほとんど完全に骨小梁を欠くこともある.また関節面の上面の外側半から1つの小梁系が頭の中央へ向って伸び,最後に述べた上下に走る小梁系と最初に述べた大きい張力曲線系との中に消えている.大転子は網目の丸い海綿質をわずかに含んでいるか,あるいは表面に平行して上下に走る数本の小梁をもっている.また上述の圧力曲線系の小梁が大転子の表面にまで達していることもある.

 大腿骨の下端では脛骨の両端と同様な小梁の配列を示すが,内部の小梁系の交叉は見られない.何となればここでは両顆の関節面が一緒になってある程度単一の凹関節面をなし,ここから起る小梁はこの関節面にできるだけ垂直の方向をとるのを常とするからである.これに対応してこ蹄こはまた張力に耐えるためのカスガイの作用をなす小梁系(Streckbandsorstem)もよく発達している.両上顆は網目のこまかくて丸い海綿質で充たされているか,あるいは顆の構築に次のぐあいに与かっている.すなわち上述の張力に対する小梁系がその表面にまでつジき,上下に走る小梁はなおまばらに表面近くまで認められるか,あるいは主流の続きをなして上顆全体を貫いているかである.」(H. Meyer).

S. 247

[図367]大腿骨

[図368]脛骨

[図369]腓骨 いずれもさらした骨で海綿質の構築をレントゲンによって示す.

S. 248

 とくに教えるところの多いもう1つの例は踵骨の縦断またはレントゲン像である(図356, 366, 370).

 踵骨の海綿質は3系の小梁に分けられる.そのうち2系は負荷面から起って2つの場所へ向っている.すなわち1つは踵骨結節が地面につく面へ,もう1つは踵骨の立方骨と結合する遠位面に向っている.立方骨は静力学的には踵骨の地面に向う延長とみられるのである.第3の小梁系は踵骨結節から起り,踵骨の下面にいたり,上に述べたと同じ立方骨との結合面に終っている.この小梁系は踵骨の近位面から遠位面まで分枝することなく直接に続いており,しかも足底面では密集して1枚の緻密な板をなし,また両端部では上方へ扇状に開いている.最初に述べた2系は体重の圧力をうける支梁とみるべきものであり,第3の小梁系は骨の部分が水平方向に押し動かされるのを防ぎ,同時に地面の逆圧をうけるためのカスガイ(Streckband)として働いている.すなわち最初の2系は圧縮力に対抗し,第3系は張力に対抗するのであって,しかもこの3系とも外力へ抵抗するための踵骨内部の圧力線と張力線の方向について図式静力学が教えるところとよく一致している.力学的に意味の少い三角形の空間には小梁は全くないか,繊細なクモの巣のような骨髄の支えをなす糸状のものが存在するだけである.なお踵骨の小梁系はアキレス腱が付着するためにやや複雑になっている.すなわちアキレス腱の張力は,前述の扇状にひろがった後方の小梁系の少くとも中央部の小梁によって直接うけられるが,さらにこれとは別の小さい小梁群が踵骨結節の上部にあって,これはアキレス腱が側方から圧をうけるために生じたものである.

 さて一連の例を説明し終つた今,この注目すべき現象の本質に向って研究を進めることにしよう.この現象は骨にあたえられる体重の負荷によって生じると一応考えられるかも知れない.しかし同じ現象がヒトの上肢や下顎骨のように体重の全くかからない骨にもみられるし,体重を支えるというようなことのない水棲哺乳動物や硬骨魚の全骨格にもみられるのである.

 とすれば或る場合には体重を支えることが,また他の場合には別の要素が,骨のあのような内部構築を生ぜしめるのだと考えてよいのだろうか.ここで直観的に考えられるのは,すべての場合に共通して有力に作用する1つの要素が,内部構築の発生に最も重要な役割を演じるであろうということであって,その要素とは筋肉である.なんとなれば筋肉はその量において骨絡よりもずっと大きく,骨と最も緊密な最も豊富なしかも最も本質的な関係にあり,受動的運動器官である骨にたいして能動的運動器官として働くものだからである.骨は何百もの突起があり,何千もの起始・停止の場所を筋肉に提供し,筋肉はこれらを介して骨に働らき,それによって骨格というテコの全系統が動かされるのである.筋肉の力は軽視することのできないものであって,それどころか筋肉が突然に収縮すると,自身のテコすなわち骨格を折つてしまうことがある程なのである.しかし筋肉が収縮していないときにも,絶えず筋肉から骨に対してかなりの張力や圧力が及んでいるのである.大きな魚の比較的ほつそりとした脊柱を観察し,これに関係する大量の筋肉を見ていただきたい.そしてすでに外から認められるこれらの脊椎の美しい構築をあわせ考えると,筋肉こそが抵抗力をあらわすところの骨小梁の形成に最も深い原因をなすにちがいないという考えに,ただちに到達するであろう.

[図370]海綿質の曲線 ヒトの踵骨(1/2)

[図371]海綿質の曲線 中足骨の前頭断

S. 249

たいていの陸上動物およびヒトにおいては体肢の上に体をのせて立っているが,その段階に達する前にすでに適当な内部構築ができているのであって,既存の構築がひきつがれ,必要な働きができるようにちよつと補足形成されるだけなのである.つまり骨の内部構築が示すこの美しい像は,骨格というテコの系統に作用する筋肉の力(これもまた線の形で表現しうる)を考えに入れることによってダはじめてよく理解されるのである.

 骨の内部構築が最初に出現するのは生後ではなくて,すでに胎生期に形成されているのであって,このことは強調しておかねばならない.とすればこれは先天性に伝承されるものだということは確かであろうが,また一方,このさい胎児の筋肉の張力や圧力がこ

の先天的獲得現象の全過程において協同して働いていないとは言いがたい.

 以上のようなわけで,骨質は静および動力学的にそれが存在するに値するところにだけ,従って抵抗力線に沿ってのみ沈着し,この力線からはずれたところに拡形成されないのである.このようなことがどうしておこるかということは,有効なものだけが要求され,無効なものは完成されないか,あるいは消失してしまうという自然の一般法則に通じるものであろ.

 治癒しつつある骨折の仮骨のなかにも適当な構築が再現されることも,ここで述べておく価値があろう.

[図372374]海綿質の曲線 図372は上腕骨の下端部,図373は尺骨の上部,図374は橈骨の上部.(Hultkranz)

3. 骨格の素材の弾性と剛性

すでに単細胞生物界に,いろいろな種類の実に素晴しい丈夫な,からだの支持機構が見られる.生物のからだが大きくなればなるほど,軟かい部分を充分に支える必要が増す.からだの各部分のつながりを丈夫にすること,軟かい構造に支えをあたえること,筋肉へ固い起始・停止面を,また単一および複合のテコを提供すること,保護器官や武器や道具としての器官をもつこと--動植物界を間わず硬い器官というものはこうしたことを目的として発達してぎたのである.水棲の動物にも硬い器官は広く分布してはいるが,地上や空中に住む動物にくらべると,その存在を保持するための硬い器官をさほど必要としない.ところで硬い器官に利用される素材はひじょうに多種多様である.なかでも重要なものはセルローズ形成・木質化・硅酸化・石灰化・キチン形成・角質形成.軟骨および骨の形成である.硬い器官への生物体の要求は1つの素材だけで充たされるのではなく,また必要とされる硬い器官のそれぞれが1つの素材で造られるわけではない.

 硬い器官の形・天きさ・はたらき,ひいてはそれによって支えられる生物のからだ全体に対する素材の影響は非常に大きい.このことはたとえば成人あるいは新生児でもかまわないが一の大腿骨が,かりに軟骨ばかりでできていると考えて見れば,よく理解されよう.この軟骨はもちろん立派な1つの硬い器官を形成するけれども,ここにつくられる大腿骨は全く趣きをことにしたものであろう.実際には大腿骨体の骨核はすでに胎生第7週で出現し,骨が軟骨をとりかこみ,軟骨という素材が機能上適当である部分だけにそ素を残して,次第にこれにとって代つてゆくのである.

 軟骨は骨とは全く違った弾性と剛性を示す.陸上動物は純粋な軟骨だけで間に合わすことはできない.そこでこの方面からみても骨の形態の問題に特別の光があたえられるのであって,骨格という素材の弾性と剛性について研究することは全く形態学の上で興味のあることなのである.

S. 250

 われわれの知っているすべての物体は張力と圧力の作用のもとに,分子相互のずれによって一定の変形(ひずみ)Formveränderuugを起す.このとき物体が形の変ることを防こうとして示す抵抗の大きさは,周知のごとく物体によってそれぞれ異なっている.外力の作用が或る範囲内にとどまる場合は,その作用が止んだとき,一般に物体の各点はもとの相互の位置関係をとりもどす.

 張力や圧力の作用によって起る変形を,その力が作用しなくなったとき完全に可逆的にもとにもどす物体の能力を弾性Elastizitätという.またこれが或る限界内で可能であるという,その限界を弾性限界Elastizitätsgrenzeという,弾性限界は物体によって非常にまちまちである.

 ある物体が弾性限界を越えた作用をうけるときには,その作用の程度に応じて異つた反応がみられる.作用が充分に大きいときは物体の破壊が起る.また作用が弾性限界を比較的少しく超過するだけですぐに止むときには,物体はもはや完全なもとの形にもどらないで,余効すなわち残留効果が残るのである.実験をしてみると,完全な弾性状態というべきものは,もちろんごく厳密な意味では,いかなる物体にも存在しない.あらゆる物体において,どんな小さい変形が起つたあとにも,ごくわずかの余効が残るのである.言葉をかえれば,あらゆる変形が一時性すなわち弾性の部分と,持続性すなわち永久性の部分とからなるといえる.しかし(実用上の)弾性限界のうちでは形の変化の永久性部分は弾性の部分にくらべて全く微々たるもので,問題にしないでよいのである.感覚器や神経系のはたらきについて,物理学の諸原理が多くの問題を提供するが,骨格素材についてもまた同じである.ただこの領域では物質代謝がある程度それを調整する力をもっているであろう.

 剛性Festigkeitというのは,ある物体が張力や圧力によって破壊されようとするとき,これに対して示す抵抗のことである.

 単純な張力と圧力に対する弾性および剛性のほかに,物体に及ぶ作用の型によって,なおいくつかの亜型が弾性および剛性に区別されるが,これらもやはり張力と圧力とに帰せられることは同じである.たとえば撓みの弾性および剛性Biegungs-Elastizität und-Festigkeitというのは橈みの力-すなわち1端または両端を支えられた物体の長軸に垂直にはたらく力-に対する抵抗である.また張力および重圧に対する剛性Streb-und Zerkitickangsfestigkeitは柱のように立てられた長い物体が,長軸方向にはたらく負荷に対して示す抵抗のことである.剃りの剛性Abscherungsfestigkeitというのは物体の長軸に垂直に支持台の線に密におしつけながらはたらく「剃りの力」に対して,物体が示す抵抗である.また側方への力が長軸のまわりにはたらいて物体をねじり切ろうとするとき,物体はねじれの剛性Torsionsfestigkeitを示す.

 これらの価を比較するためには,それをいわゆる係数(率)という単一の規準で扱うことが必要である.

 弾性率Elastizitätsmodulは単位横断面積をもつ物体を弾性限界内でその物体の長さだけひき伸ばし(このような変形が可能なものと仮定して),また短縮させるときの重さで表わされる.また剛性率Modul der Festigkeitは単位横断面積の物体を破壊することのできる力である.

 骨を他の建築素材と比較するために,建築方面で最もしばしば用いられるいくつかの材質の弾性率と剛性率を次の頁に示した. 数字は各係数をキログラムで示し,1平方ミリの横断面積に対するものである.

 この表から次のことがわかる.骨質では張力(に対する)剛性率Zugfestigkeitの方が圧力(に対する)剛性率Druckfestigkeitよりも小さい.骨の張力剛性率は最も大きい場合には真鍮や鋳鉄のそれに近く,圧力剛性率は鍛鉄のそれに近い.しかも骨の弾性率は真鍮や青銅の3倍である.また骨の圧力剛性率は石灰石の4~5倍,片麻岩および花崗岩の2~3倍の価でる.

 骨の諸数値をオセインOsseinのそれと比較すると,骨の有能さに対する鉱物性成分の大きい意義が明かになる.

 軟骨の剛性率はオセインのそれよりなお小さい.とくに目だつのはその小さい張力剛性率と,これに比べればかなり著しい圧力剛性率との差である.後者が前者の9倍にもなっている.これによって理解されることは,軟骨は大きい張力に耐える必要のある場所には不向きであり,また長い支柱としても使いものにならならない.しかし軟骨は,短い部分に大きい圧力に耐える力をもつ必要のある場所,たとえば関節軟骨などに全く適している.関節軟骨は適当な緩衝物と柔かい滑動面の2役を演じなければならないのである.(Heidsieck(Anat. Anz., 78. Bd.,1934)は自動車の「布入りタイヤ」の構造を用いて,興味ある軟骨の説明模型を考えた.以前は(Benninghoffによって)模型説明のために鉄筋コンクリートが用いられたのだが.(原著註))

S. 251

弾性率

剛性率

材質

張力に対して

圧力に対して

張力に対して

圧力に対して

鋳鉄

10000

9900

13

73

鍛鉄

19700

19700

40.9

22

精製した鋳鋼

29200

11000

102

真鍮

6400

12.4

110

青銅・砲金

6900

25.6

ブナ・オーク・トウヒ・マツ・モミの材(線維の方向で)

1100

6.5

4.8

同上(年輪に対して放射状の方向で)

130

0.4

片麻岩・花崗岩

5.9

石灰岩

3.6

砂岩

2.9

煉瓦

0.6

モルタル

0.37

弱い麻なわ

6.1

強い麻なわ

4.8

革ひも(牛革)

7.3

2.9

軟骨(肋軟骨)

0.875

0.17*

1.57

骨緻密質(長軸方向)

1800~2500

9.25~12.41

12.56~16.80

骨(直径方向)

4.8

8.0

オセイン(長軸方向)

3.888

1.51

2.72

*Benninghoef(Ergeb. Anat . Entw., 26. Bd.,1925)は気管軟骨からその弓状の軟骨の長軸に沿って一部を切りだして・その張力に対する剛性率を1.22kgと決定した.これは表記の数字の7倍に当る.(原著註)

 反対に骨という材質は,荷重に耐える柱や円蓋をつくることの方に適している.これは全くその通りなので,軟骨性の骨格をもってしては陸上の大きい動物の生活は不可能なことだと断言できるのである.骨いう素材があってはじめて大きい動物の陸上生活が可能になったのである.

 骨の剛性は素材そのものによってのみ決定されるものではなく,骨の徴細構造によって非常に重大な影響をうける.このことは管状骨でとくにはっきりあらわれている骨層板は主として縦に伸びる血管網を囲む管の形,すなわちハヴァース層板系として用いられ,なお内および外基礎層板のかたちで内外の両面のしめくくりをなしている.さらにいっそう微細な構造をいうと,層板のひとつひとつが交互に別な方向に走る原線維束と,それによって形の定まる石灰化した原線維間質とをもつわけであるが,これら両者は骨の剛性に重要な関係をもっている.骨質が管状骨の長軸方向にはたらく力に対してより,直径方向に働く力に対して,ずっと抵抗が弱いことはこの点から理解できるのである.中空の管の形成が重要であることはすでに前に注意しておいた.これと同じ設計は広範囲に利用されており,微細構造にもまた用いられている.このことについては,1つの大きし管状骨の横断面にハヴァース層板系がいくつあるかを数えれば,はっきりあたまに描くことができる.その数はヒトの大腿骨で約3200,脛骨では約2500であるが,これらは決して単純に全長を貫いて走るわけではなく,血管網と一致した位置と構成とをもっている.もし1つのハヴァース層板系に10枚の層板が数えられるとすると,大腿骨だけで32000枚のハヴァース層板があることになる.

 緻密質では以上のようなぐあいになっているが,海綿質ではいくらか趣きを異にしている.ここで海綿質のよく目的にかなった構築を想い出していただぎたい.

 しかし骨のにたらきには素材の種類とその構築だけでなく,なお骨全体の外形とその利用および配置の様式が問題となる.

 からだの大ぎな支柱やテコ装置のかたちについていえば,その各部分に対して骨折の危険のある点をなくし,それどころかすべての柱をほとんど同じ抵抗力をもつ構造物にするという目的に向っている.このような構造物では骨折の危険性はすべての横断面でほぼ同じである.骨の外形は骨の目的にかなっている.骨の外形が海綿質の構築にどんなふうに反映しているかは前に述べたことから容易に理解できるであろう.--Benninghoff, A., Verh. anat. Ges.,1924; Anat. Anz., 63. Bd.,1927.

S. 252

骨全体の剛性

 ある管状骨の断面積とその緻密質の剛性率がわかると,張力による破壊に対してこの骨の中央部が示す抵抗が計算でき『る.またもし或る管状骨が全長にわたって一様な性質をもっているとすると,張力に対するこの骨全体の剛性が計算できる.

 しかし骨はそれほど一様な性質でないし,その上筋肉の影響によって骨の形に多くの不規則性があるから,計算と実験とが多少ともくい違った結果を得るだろうということが,すでに初めから予想される.そのさい計算の結果は実験値よりもかなり高い数値になるのが普通である.だからどんな場合にも,張力および圧力に対する骨全体の剛性をきめる実験を欠いてはならない.

 O. MessereirはWerderの材料強度試験機を用いてヒトの個々の骨と骨複合体を研究した.骨複合体としては頭蓋と骨盤をしらべた.その結果,管状骨では25才の処女の上腕骨が800kg,大腿骨が1550kgの荷重でひきちぎられた.彼は多数の骨において伸張力に対する強さをしらべて次のような現象を見た.すなわち均等な横断面と均等な性状をもつ柱においては,中央部が最も折れやすいのであるが,彼がしらべた諸骨では骨幹部に骨折が起こらないで,骨のさらに柔かく弱い部分であるどちらか一方の関節端がおしつぶされて折れるのである.

 伸張力に対する剛性(抗張力)を求めるために鎖骨を試験したところ,耐えきれなくなって折れたときの荷重は次の通りであった.

男の平均

192kg

 大腿骨体では

女の平均

126kg

平均して

756kg

また上腕骨では

 大腿骨頚では

1女性で

600kg

男の平均

815kg

 橈骨では

女の平均

506kg

男の平均

334kg

 腓骨で

女の平均

220kg

男の平均

61kg

 尺骨では

女の平均

49kg

男の最高

290kg

 脛骨では

男の最低

180kg

最高

1650kg

女の平均

132kg

最低

450kg

こんなわけで伸張力に対する抵抗の最も大きい大管状骨は脛骨であるということが明かになった.--Stieve, H., Versuche über die Tatigkeitsanpassung langer Röhrenknochen. Arch. Entwickl. mech.,110. Bd.,1927.

頭蓋の剛性

 頭蓋の剛性に関する知見は外科学や法医学では大きい興味のあることである.従ってこの方面の学間が,それらの分野の人々によって著しく進められたことは当然である.それゆえ諸君はこれらの分野の教科書を読んでいただきたい.

頭蓋泉門Fonticuli cranii, Fontanellen (図352, 375, 376)

 泉門は胎児および新生児で頭蓋冠の骨のあいだにある大きなすきまで,ここは結合組織だけで閉ざされている.

 誕生のときにこのような隙間の比較的大きいものが6つある.そのうち2つは頭蓋の上の方で正中線上にあり,残りの4つ(各側2つ)は頭蓋底に近いところにある.前者は正中泉門Medianfontanellen,後者は側頭泉門Seitenfontanellenとよばれ,いずれも頭頂骨の4隅に当って存在している.

 正中泉門のうち前方のものは前頭骨と左右の両頭頂骨とのあいだにあり,うしろのものは両頭頂骨と後頭骨のあいだにある.前者は大泉門Fonticulus major (s. quadrangularis), große Fontanelle, Stirnfontanelle(前頭泉門)とよばれ,細長い四角形で,その4辺は2つずつ相等しく,うしろの1対の方が短く前の1対の方が長い.そして鋭い方の角が前方に,前頭骨の両側半のあいだにあり,鈍い方の角がうしろに,左右の両頭頂骨のあいだにある.またこの泉門の側方の腕はほぼ直角に近いかどで限られている.この泉門は誕生のとき長径が平均2.15~3cmである.

S. 253

[図375]新生児の頭蓋 上から(×1)

[図376]新生児の頭蓋底の外面(9/10)

S. 254

 左右の両頭頂骨と後頭骨とのあいだにある泉門は小泉門Fonticulus minor(s. triangularis), kleine Fontanelle, Hinterhauptfontanelle(後頭泉門)とよばれる.大泉門よりはるかに小さく,左右の方向にいっそう広がっており,前方の角は鈍く,側方の角は鋭く尖り,後縁は後頭骨の上端によって軽く弯入している.

 側頭泉門でも前側頭泉門Fonticulus sphenoideus,Keilbeinfontanelleの方がやはり大きいことがふつうである.前側頭泉門は前方で前頭骨・頭頂骨・蝶形骨大翼によって直角に近い2つの角で限られ,うしろでは側頭鱗と頭頂骨のあいだに鋭く伸びだしている.

 後側頭泉門Fonticulus mastoideus, Warzenfontanelleは不正三角形で,最も強い尖端を下に向けている.この泉門は側頭骨の乳突部・頭頂骨・後頭鱗によって囲まれている.

 誕生ののち,これらの泉門は骨化によって次第に閉鎖されてゆく.大泉門は最も永く,2才から3才にいたるまで残っている.

 これらのすぎまの存在と,なおその附近の頭蓋骨間の縫合が可動性を保っていることによって,出産のときに各頭蓋骨がとくに矢状方向に著しくずれることができるのである.このさい頭頂骨の前後縁は前頭骨および後頭骨の上にかさなる.

 Adachi, Über die Seitenfontanellen. Z. Morph. Anthrop., 2. Bd.,1900. 各泉門は次の順序に閉鎖する:小泉門,前側頭泉門,後側頭泉門,大泉門.その閉鎖の時期は上の順序に従って生後3, 6,18, 36月目であるが,もちろんそれより早いことも遅いこともある.両側頭泉門のうち後側頭泉門の方が広い.前側頭泉門を囲む骨は3つのこともあり,また4つのことも5つのこともある.

頭蓋と胴の骨格との関係

 頭は胴に対して全く別格の観を呈し,その外観があまりに異なっているので,頭と胴を比較しようなどという気には,すぐにはなれないのが常である.しかし骨格については,すなわち頭蓋と胴の骨格とを比較することは,もっと気やすくやれる.

 この問題を深く考察すると,成人の骨格において,すでにいくつかの基本的な事がらのあることがわかる.先ず知られることは,脊髄の骨性の容器すなわち脊柱管が,脳を容れるべぎ頭蓋に移行するところで急に著しく広くなり,かつ前端において閉じていることである.また頭蓋についてその次に気がつくのは,1群の重要な感覚器すなわち視覚・嗅覚・聴覚器が,対をなして堂々と配置されていることである.第3に,骨壁で囲まれた呼吸管と消化管の入口が目立っている.

 脊柱は脊椎という多数の骨が順々に列ぶことによってできているが,成人の頭蓋はそれをつくる骨の数は多くても,むしろ単一の構造物という印象をあたえる.従ってPeter Frank(1791)が頭蓋全体として脊柱との類似性を見いだしたことも,Dumérilが頭蓋を1つの巨大脊椎Riesenzvirbelとみなしてよいと信じたことも,容易に理解できるのである.ここに初めて1つの新たな重要な課題--「頭蓋の問題」が登場する.しかもその解決のための最初の研究については,問題の提起と同時に述べてしまったことになる.

 若いヒトの頭蓋を材料にして脊柱との関係を総合的に判断しようという試みは,この問題の研究ではおそかれ早かれ為されねばならないことであった.

 若いヒトや動物の頭蓋で,骨がまだ多少とも融合せずに開いて各部分にわかれている時期のものを観察すると,それは成人の頭蓋より確かに多くのことを教えてくれた.事実,若い頭蓋についての驚くべき知見を基にして,若い個体の頭蓋骨の配列に脊椎分節構造Wirbelgliederungといえるものが認められるという考えが,まもなく正当とされた.後頭骨体・蝶形骨(または前および後蝶形骨の体)・篩骨体はいずれも椎体を代表するものと見られ,さらにそれらに属すべき椎弓の部分を見いだすことが困難ではなかった.しかし頭蓋が何個の脊椎骨からなるかについては意見の一致をみなかった.学者により3個から6個というまちまちな数の頭蓋椎が想定されたのである.これが頭蓋の問題における第2段の発展であった.Goetie, Oken, Splx, Cuvier, Bojanus, Burdach, Meckel, Carus, Arnoldなどがその学説の主だつた代表者である.この新しい考え方が世人にいかに強い印象をあたえたかは推測に難くない.頭蓋の,頭の,否ひいては人間というもののなぞの解決に,およその目鼻がついたと思われたのであった.

 骨化がまだ終ってない時期に研究したとしても,骨がでぎるというのは頭蓋としてはごく遅い段階である.だからもっと早い段階である軟骨頭蓋Chondrocraniumや結合組織頭蓋Desmocraniumがこの問題の解決に用いられたのも,けだし当然のことであった.

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その結果わかったことは,ひとつづきの膜性頭蓋が軟骨化して,単一の軟骨性原始頭蓋knorpeliges Primordialkraniumが(膜性の頭蓋函に軟骨化がひろがる範囲に)できる.はなはだ多くの脊椎動物では,頭蓋底の最もうしろの所にだけ,時とともに少数の軟骨分節Chondromerenがみられ,これはついでそれ以外の軟骨性原殆頭蓋と融合するのである.しかしこのうに頭蓋後部に部分的な軟骨分節構造がみられるといっても,それは,分節構造のはなはだ明かな軟骨性脊柱に対する軟骨性原始頭蓋の鋭い対照を損うほどのものでない.

 つぎに頭蓋はさらに内臓骨格splanqhnisches Skeletをもっている.臓弓性骨格の軟骨弓Knorpelbögen des Visceralskelets(鰓弓)の数から,逆にそれに属すべき脊椎の数を推定できると考える人があるに違いない.しかし総弓の分節構造の問題はそれ自体がごくむつかしいのである.軟骨性の鰓弓は肋骨に相当するものではなくて,全く別の骨格部分である.軟骨性の鰓弓を肋骨と同系の分節構造の中に置いて考えることはできなくはないが,絶対にそうだと言いきることはできない.生ずる鰓弓の数は,頭蓋の椎体というべきものが軟骨性原始頭蓋の中で潜在性または顕在性に含まれている数よりも,少数のこともあり多数のこともある.

 頭蓋に潜在する脊椎を決定するために脳神経を利用する試みもやはり同じことで,神経分節構造Neuromerie merieは頭蓋の脊椎分節よりも,いっそうむつかしい問題なのである.未解決のことを利用して他の問題を解決しようとするのは危険千万である.

 さてこんなわけで,鰓弓の分節構造も神経のそれも,問題の解決に制限つきでしか利用できないとすれば,膜性頭蓋を生ぜしめる細胞群を探求するより仕方がない.ところが先ず第一に,頭蓋における中胚葉性分節の数が,頭蓋に想定される脊椎の数を決めることは明かである.何となればこれらの中胚葉分節が頭蓋を造りだすのだから.サメの胎児の頭では中胚葉性分節は9個以上見いだされた.それに続く脊椎動物の各網では,これがどうなっているか今のところ確定されていない.

 なぜ軟骨性の原始頭蓋に分節化が起らなかったり,起るとしても脊柱との境のところにだけ現われるかというわけは,容易に洞察することができる.それは脳というものに適応して起る現象で,頭の筋原基の発達が悪いことにもよるのである.

 最後に原始頭蓋が骨化しはじめると,その骨化点はおそらく中胚葉分節と同じ列び方で,また同じ数だけあることが考えられるが,それより多いことも少いこともあり得るのである.つまり骨分節講造Osteomerieは頭蓋に潜在する分節の数を確定するための材料とはならないのである.骨核の数は何よりも頭蓋の成長状態によって左右されるのであって,必ずしも潜在性の脊椎原基によって定まるのではない.以上述べたことから次のように結論される.頭蓋の膜性の脊椎原基の数は膜性頭蓋の形成にあずかる中胚葉分節の数と同じである.また頭蓋に実在する軟骨性脊椎は,頭蓋底の後部に形成される軟骨分節と同数だけしかない.最後に頭蓋における骨性脊椎の存在は,要するに疑問である.

 Veit, O., Über das Problem Wirbeltierkopf.102 S., 42 Taf. mit 150 Abb. Thomas. Verlag, Kempen-Niederrhein 1947.

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最終更新日 13/02/03

 

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