Rauber Kopsch Band1. 24

II. 頭蓋と脊柱の連結(図396399)

  頭蓋と脊椎とをつなぐものとして2つの関節がある.環椎と後頭骨のあいだの1頭関節すなわち環椎後頭関節と,環椎と軸椎のあいだにある2頭関節すなわち環軸関節とである.

1. 環椎後頭関節(第1頭関節)Articuli atlantooccipitales (第1頭関節erstes Kopfgelenk)

 この関節をつくる骨は後頭骨と環椎である.

 関節面は後頭骨の左右の両顯と,環椎の上関節面Foveae articulares cranialesである.

 左右の後頭顆の表面ならびに左右の関節窩の表面は,長軸を横にした1個のの回転楕円体の表面から2つの長卵円形の部分を切り出したぐあいになっている.両関節面は縦(卵円形の長軸)の方向にも横(卵円形の短軸)の方向にも反つでいるが,横の方向での弯曲の方が強い.後頭顆と関節窩の縦軸は前方へ行くほど相寄っているが,その程度は個体的に多少の差がある.平均して左右の関節面の前端間の距離は21~25mm,後端間の距離は30.5~34 mmである(Fick).また横径は斜めに傾いており,外側端が内側端よりも上方にある.後頭顆の関節面はこれに対応する環椎の関節窩よりいくらか長い.

 個体差は数多くみられる.関節面が前方の大きい部分と後方の小さい部分とに2分している例は非常に多い.さらに関節面の弯曲には著しい差異があって,極端なものとして平たくて幅の広い低い型があるかと思うと,高くてほつそりとした,弯曲の強い型がある.

 あとの型のものはヨーロッパ人には稀である.

S. 271

左右の後頭顆は高さが同じではなくて,右のものの方が(突出の程度が)低いことが多い.

関節包はゆるい.

 それは環椎では軟骨縁のすぐきわで1つの関節包溝に付くが,後頭骨では後頭顆の内側および外側で,軟骨縁からやや離れたところから起っている.

 特別の装置として環椎後頭膜Membranae atlantooccipitalesがある.

 前環椎後頭膜Membrana atlantooccipitalis ventralisは環椎の前弓の上縁から起って,後頭骨体の外面を被う線維軟骨性の部分に移行する.この膜は正中部で前縦靱帯の上部によって強化されている(図397).

 後環椎後頭膜Membrana atlantooccipitalis dorsalisは前者よりも薄い.大後頭孔の後縁から起り,環椎の後弓の上縁に付いている.側方では環椎後頭関節の関節包に移行し,環椎の後弓の椎骨動脈溝と対応して1つのきれこみを示している.このきれこみは椎骨動脈溝の骨壁と共に,椎骨動脈・後頭下神経・静脈叢の通る管を形成している(図398).

 これら2つの膜は多量の弾性線維を交えた膠原組織束からなっている.

[図396] 頭蓋と頚部脊柱の関節結合の正中断

2. 環軸関節(第2頭関節)Articuli atlantoepistrophici(第2頭関節zweites Kopfgelenk)

 この関節をつくっている骨は環椎と軸椎である.

 関節面:両骨は4つの場所で関節結合している.

 すなわち両骨に次の7つの関節面がある:1,2軸椎歯突起のおよび後関節面Facies articularis ventralis, dorsalis, 3,4軸椎体の外側関節面Facies articulares laterales, 5,6環椎の下関節面Facies articularis caudalis, 7環椎前弓の歯突起関節面Facies articularis dentalis.環椎横靱帯の前面は軟骨で被われて,第8の関節面としてはたらいている.

S. 272

[図397] 頭蓋および第1~5頚椎のあいだの関節と靱帯 前面(4/5)

[図398] 頭蓋および第1~5頚椎のあいだの関節と靱帯 後面(4/5)

S. 273

 4つの関節のうち2つは軸椎の歯突起にあり,前および後環[][]関節Articuli atlantodentales ventralis et dorsalisとよばれ,その1つが前に,他の1つつがうしろにある.他の2つは対をなす側方の関節で,外側環軸関節Articuli atlantoepistrophici lateralesとよばれる.

 これら4つの関節の関節腔が,軸椎歯突起の側方にある滑液包によって共通につながり合っていることが少くないが,それだからといって,これら4つの関節に単一の関節包というべきものが存在するとは言いがたい.前および後環歯関節の関節包の壁は非常に繊細である.外側環軸関節のそれはもっと強固であるが,広くてゆるい.

[図399] 軸椎歯突起の諸靱帯 蓋膜は除いてある (4/5)

特別の装置:

 a)歯尖靱帯Lig. apicis dentis:歯突起の上端から大後頭孔の前縁の中央にまで伸びている.この靱帯の中にはもと脊索Chorda dorsalisが頭蓋にまで走っていたので,その遺残が含まれていることがあり,場合によって増大していることすらもある.つまりこの靱帯は椎間円板の中央部に相当するのである(図396).

 b)翼状靱帯Ligg. alaria:2つの強い靱帯で,歯突起の上部から上外側へ伸びて,後頭顆の内側縁と大後頭孔の縁に付着している(図399).

 c) 環椎十字靱帯Lig. cruciforme atlantis:強い横走部すなわち環椎横靱帯Lig. transversum atlantisと,これに直交して正中部を走る.より貧弱な縦走部からなる.

 環椎横靱帯は両端は外側塊のちよつとした高まりまたはくぼみに固着しており,歯突起によって後方へ弓なりに押し出され,中央部は幅が広くなっていて,そこでは軟骨で被われている.横靱帯の中央から十字の上行部が後頭骨へ, 下行部が軸椎の体に伸びている(図396, 399).

 d)蓋膜Membrana tectoria:幅の広い丈夫な線維束で,十字靱帯を後方から被い.斜台から軸椎の体にいたる.これは脊柱の後縦靱帯の上部とみなすことができる(図392, 396).

 e)およびf)および後環軸膜Membranae atlantoepistrophicae ventralis et dorsalis:前環軸膜は環椎の前弓と軸椎の前面とのあいだにあり,後環軸膜は環椎の後弓と軸椎の椎弓とのあいだにある(図397, 398).

S. 274

 a)前環[][]関節Art. atlantodentalis ventralis:この関節をつくる環椎と軸椎歯突起の両関節面は,1つの円柱面から切りとられた楕円形の部分に当る.環椎の歯突起関節面では,大多数の例で楕円の長軸が横になっているのに対して,軸椎歯突起の前,関節面では長軸が上下に向いている.これらの関節面を被う軟骨はたいてい線維軟骨性で,純硝子軟骨性ではないようである(Fick).

 その関節包は繊細で1つの溝に固定されている.関節腔は環椎の関節面よりも上方および下方へ少しはり出している.この関節腔は側方へは近隣の諸関節すなわち環椎後頭関節・後環歯関節・外側環軸関節のすぐそばにまで達している.

 b)後環[][]関節:両関節面のうち軸椎歯突起の後関節面は非常にまちまちな形をしている.この関節面は横または縦の卵円形,あるいは円形,時には溝状のことさえある.この関節面は歯突起の下部にあり,その弯曲はたいてい鞍状であって,左右方向に凸,上下方向に凹である.0.3~1mmの厚さの線維軟骨で被われている.一方Fickによれば環椎横靱帯のもつ関節面は,大きさ・形・組織学的性質ともに,いま述べた歯突起の後関節面に相応している.

 関節包は非常に弱い.歯突起の関節面の軟骨縁のすぐきわに付いているが,環椎横靱帯に付くところでは歯突起の右と左にある滑液包に移行し,この滑液包はさらに前環歯関節や外側環軸関節≧つながっていることがある(Fick).

 c)外側環軸関節Artt. atlantoepistrophici laterales:関節面どうしがよく合致していない.左右の関節面はおよそ同一の円錐面の一部とみなされ,その軸は軸椎の歯突起を垂直に貫くのである.1/2~2mmの厚さの軟骨で被われている.関節包は非常に塔くゆるやかで,前内側だけは軟骨縁のすぐきわに付いているが,その他のすべての場所ではかなり離れたところから起っている.

頭蓋と脊柱の結合の力学
1. 環椎後頭関節(第1頭関節)

 この関節は解剖学的には左右の両関節に分離しているが,すでに述べたように,これら左右の関節面は長軸を横にした同一の回転楕円体の表面に含まれる.つまり両者は力学的な意味では単一の関節なのである.形による分類では楕円関節に属し,無限に多くの軸のまわりに回転可能である.しかし次の2つの主要運動が区別される.うなづく運動Nickbewegungen(前屈と後屈)はほぼ頚静脈結節の高さを左右に走る軸を中心とする運動であり,頭をかしげる運動Seitbeugung(側屈)の回転軸はそれより上方にあって,上述の軸とは別の矢状軸であり,これは正中面上を上前方から後下方へ斜めに走っている.

2. 環軸関節(第2頭関節)

 この関節は軸椎の歯突起の中央を上下に貫く軸をもつ回旋関節である.ここでは主として頭の回旋運動が行われるが,この関節はまたうなずく運動と頭をかしげる運動にもわずかに関与している.

 この関節に属する関節面は8つあって,それは軸椎の側方にある2組と,歯突起の前面と後面にあるものと,これに対応する環椎と環椎横靱帯の関節面である.しかしこれらは力学的塗意味では単一の関節をなすのであって,軸に対して凸側を向けて弯曲した母線をもつ円錐形の関節なのである.

 回旋の範囲は中央の位置から者側へ30°である.外側環軸関節は左右とも,両接触面がふくらんだ弯曲をもっているので,頭を中央に向けたときには前後にすきまがあいている.このことから回旋運動に当って同時に一種のラセン運動が行われなければならないということが結論される(Henke, R. Fick).このラセン道はかなり傾斜が急なので(ネジの歩みが約3cm),30°の回旋において,同時に頭が1/12=2.5mm上昇または下降することになる.垂直軸を中心とする頭の回旋に当って,環椎は頭蓋の関節円板ともいうべきものとして働いている.脊柱管の内容は歯突起をとりまく諸靱帯,とくに翼状靱帯・環椎横靱帯・蓋膜によって,歯突起から守られている.

 前後に屈曲する蓮動の大きさはH. Virchow(Arch. Anat. Phys.1909)がしらべた1例では28°である.そのうち20.5°は第1頭関節, 7.5°は第2頭関節の分である.

S. 275

Hultkrantz(K. Svenska Vetenskapsakademiens Handlingar, Bd. 49,1912)によれば前後へ屈曲する運動の大きさは第1頭関節では18. 9°,第2頭関節では12.2°であり,側方へ屈曲する運動の大きさは第1頭関節で7.5°,第2頭関節で3.8°である.

1-24

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る