Rauber Kopsch Band1. 28

B.自由上肢の連結Juncturbe ossium extremitatis thoracicae liberae

1. 肩関節Articulus humeri, Schultergelenk(図409415)

 この関節をつくっている骨は肩甲骨と上腕骨である.

 関節面は肩甲骨の関節窩Fossa articularis scapulaeと上腕骨頭Caput humeriで,前者は関節唇Labium articulareによって増大されている.

S. 286

 肩関節窩Schulterpfanne(図410)は外側に向いた卵円形の浅いくぼみである.長径は3.5~4cmで上下に向い.短径は2.5cmで水平方向にある・関節窩の弯曲のぐあいは大体のところ上腕骨頭のぞれと一致してはいるが,その表面は上腕骨頭の関節面の1/41/3にしか当らない.関節窩には全周をとりまく線維軟骨性の関節唇Labium articulare, pfannenlippeがあるために,その分だけ大きくなっている.関節唇の厚さは4~6mmである.また幅は約3mmであるが,場所によって不定である.関節唇の実質のなかに,上方から上腕二頭筋の長頭の腱が侵入している.また関節唇の実質は下方では上腕三頭筋の長頭の腱と結合している.

 関節窩の軟骨は中央部が薄く(1.3mm),周辺部にゆくほど次第に厚くなっている(3.5mmまで).

 上腕骨頭は上腕骨体の上方に,外側に寄って付いている.頭と頚の軸は体の軸と140°の鈍角をなしている.上腕骨頭は半径約2.5cmの球の表面の1/32/5に当っている(Fick).左右間のちがいはごくわずかしかみられていない.関節軟骨の被いは中央部で最も厚く(1.6~2.2mm),縁にゆくほど次第に薄くなる(1mmまで).

 関節包はゆるやかで関節腔は広い.関節包は肩甲骨において,二頭筋長頭の腱の付着部だけを除いて,関節唇の全周から起っている.二頭筋長頭の腱の付着部では,関節包の起りは烏口突起の基部あるいはさらにこの突起の下面にまで及んでいる.また関節包は上腕三頭筋の長頭の腱と結合している.上腕骨においては関節包は解剖頚から起り,内側面では関節包の付着部が骨端線を越えている.結節間溝は橋わたしをされて1つの管となり,そこを二頭筋長頭の腱が,結節間滑液鞘(後述)に包まれて通っている.関節包の厚さはまちまちで,いちばん薄いのは関節包にすぐ接して筋肉や腱があるような場所である.筋肉と筋肉とのあいだのすきまでは,関節包は約1/3 mmの厚さである.関節包のうちで筋肉で直接おおわれてない最も広い部分は関節包の下部であって,肩甲下筋と小円筋とのあいだである.この場所に腋窩神経と背側上腕回旋動静脈が密接している.関節包の壁の線維は外層では縦走または斜走するが,内層では輪状に走っている.

特別の装置烏口腕靱帯Lig. coracohumeraleは烏口突起の基部および外側縁から起り,結節間溝のあたりへ伸びて,大および小結節に付着する.つぎに[関節]唇腕靱帯Ligg. labiohumeraliaは関節唇の前部から起り,内部からしかよくみることができない.

 関節包と常につながっている連通滑液包が2つある.肩甲下筋腱嚢Bursa tendinis m. subscapularisおよび結節間滑液鞘 Vagina synovialis intertubercularisがそれである.後者は関節腔の続きともいうべきものであって,二頭筋長頭の腱が結節間溝を通る部分 さやを鞘状に包み,その長さ2~5cmである.この滑液鞘は結節間溝の下端で閉鎖性に終って,二頭筋腱の表面に移ってこれに固着している.肩甲下筋腱嚢は烏口突起の基部で肩甲下筋の腱の下にあり,1つの広い開口によって肩関節とつながり合っている.

 そのほか近隣の滑液包でたいてい関節包とつながっていないものをあげれば:1. 肩峰下包Bursa subacromialisは一方は烏口肩峰靱帯と三角筋のあいだ,他方は肩関節包および烏口腕靱帯と棘上筋の腱とのあいだにある.2. 三角筋下嚢B. subdeltoideaは烏口肩峰靱帯より遠位で三角筋の下にあり,前述の肩峰下包とつながっている.3. 烏口碗筋嚢B. m. coracobrachialisは烏口腕筋の起始の下にある.4. 棘下筋嚢B. m. infra spinamは棘下筋の下にある.そのほかにも,いっそう稀にみられる滑液包がある(それらについてはFickを参照せよ).--Pfuhl(Morph., Jhrb., 73. Bd.,1933)によれば,肩峰下包は肩関節の副関節腔Nebenhöhleという名称のもとに記述されるべきものであるという.

 肩関節の力学:肩関節は球関節Articulus sphaeroideus, Kugelgelenkである.そもそも球関節というものがすでに可動性の非常に大きいものである上に,ここでは関節窩が関節頭にくらべてかなり小さい(上述)ためと,関節包がゆるやかで広いために,いっそう可動性が増し,かくして肩関節は全身のうちで最も運動の自由な関節となっている.その大きすぎる.運動を抑えるものは,まず第一に関節包のそとを被いながら走っている諸筋であって,肩甲下筋は前方から,棘上筋は上方から,棘下筋と小円筋は後方から関節包を被っているのである.

[図412] 上腕骨a, b頭および頚の軸. c, d肘関節の軸.V, V鉛直線. e, f, 頭および小 頭の中点(H. Meyer)

S. 287

[図413] 肩関節(右)と肩甲骨の諸靱帯(4/5) 前面.

[図414] 肩関節(右)の後面(4/5) 肩峰は切断してある.

S. 288

関節包の壁の下部は筋肉に接しておらず,この部分は烏口肩峰靱帯とともに,腕が水平より高く挙上されるのを妨げている.

 肩関節における運動には次の3つの軸が区別される(H. Meyer).

 1. 振子運動の横軸, 2. 外転運動の矢状軸, 3. 回旋運動の鉛直軸.振子運動は振動面内で中心角約150°の振れの弧をもっている.外転運動および回旋運動でも運動範囲はそれと同じ程度である.

 肩関節の血管は肩甲上動脈・掌側および背側上腕回旋動脈・肩甲下動脈・肩甲回旋動脈のほか,近隣の筋の血管から来ている.神経は肩甲上神経・腋窩神経・肩甲下神経から来る.

[図415] 肩関節と肩鎖関節 27才の処女の右肩のレントゲン像,腹背照射.

2. 橈尺連結Juncturae radioulnares

 前腕の両骨は肘関節橈尺部Pars radioulnaris articuli cubitiおよび[遠位]橈尺関節Articulus radioulnaris distalisとよばれる2つの関節と,前腕骨間膜Membrana interossea antebrachiiという骨間膜とによってたがいに結含している.そして両骨の上端の関節面によって,上腕骨の下端とともに肘関節Articulus cubiti, Ellenbogengelenkをつくっている.

S. 289

a)肘関節橈尺部Pars radioulnaris articuli cubiti(図416418, 423, 425)

 この関節をつくっている骨は尺骨と続骨である.

 関節面橈骨の関節環状面Circumferentia articularis radiiと尺骨の橈骨切痕Incisura radialis ulnaeである.

 尺骨の橈骨切痕の輪郭は,凸側を下方に向けた三日月の形をしている.この切痕の面は橈側に凹を向けて12~15mmの直径をもつ円柱面の,中心角60~90°の部分に相当している.しかしFickのさらにくわしい研究によれば,この面は円錐面という方が正しいという.軟骨の被いは中央部で最も厚く,前方と後方で著しく薄くなっている.橈骨の関節環状面は橈骨小頭の上部のまわりにある.この面は尺骨の橈骨切痕に接して滑るだけでなく,また橈骨輪状靱帯(後述)の内面にも抱かれて滑る.関節環状面の“関節部Gelenkteil”すなわち尺骨の切痕の中で滑る部分は,全周の1/31/2に当っている.この部分は最も幅ひろい(高い)ところで4~6mmの幅があり,それより前方および後方で幅がせまく(低く)なっている.

 関節包関節腔については肘関節の項(292頁)をみられたい.

 特別の装置としては幅(高さ)1cmほどの強力な橈骨輪状靱帯Lig. anulare radiiがある.

 これは尺骨の橈骨切痕の前後両縁に付いて,全円周の4/5をなしている.その形はロウト状で,下方のつぼんだ方の口が橈骨頚を包んでいる.内面にはしばしば薄い軟骨層がある (Fick).

b)下橈尺関節Articulus radioulnaris distalis (図417, 432)

 この関節をつくっている骨は椀骨と尺骨である.

 関節面尺骨の関節環状面Circumferentia articularis ulnaeと橈骨の尺骨切痕Incisura ulnaris radiiである.それになお関節円板の上面と,尺骨小頭の下端の軟骨で被われた部分が加わっている.

 橈骨の尺骨切痕は上に述べた尺骨の橈骨切痕と非常によく似ている.すなわちこれも同様に半月形の輪郭をもち,直径2.6 ~3.5 cmの円柱面の,中心角45~70°の部分に当っている.その軟骨は2mmの厚さである.尺骨の関節環状面は鎌形をして,尺骨小頭の全周の半分を占めるにすぎない.この面は中央で幅(高さ)が1cmあり,掌側および背側へゆくほど狭く(低く)なる.この面は下方で,尺骨小頭の下面を茎状突起の基部まで被う半月形の関節面に移行している.そしてその移行部は大きさのまちまちな角をなして,多少とも鋭い稜が形成されている(図432).両関節面における軟骨の厚さは約1.5mmで,深層は硝子軟骨性, 表層は線維軟骨性である.

 関節包はゆるやかで広い.これは関節面の側縁と関節円板とに付いている.この関節包の一部が上方へ折れかえって,広いゆきづまりのふくろが伸びでている.これを嚢状陥凹Recessus sacciformisという.関節腔は広くて,多少とも滑膜ヒダや滑膜絨毛をもっている.

 この関節腔は,橈骨切痕の下縁に密接して関節円板の起始部にある狭い裂隙によ1つて,橈骨手根関節と通じていることが非常に多い.また年をとった人では関節円板の中央にかなり大きい穴があいていることがよくある.

特別の装置としてはすでに何度も言及した関節円板Discus articularisを挙げねばならない.

 これは三角形の結合組織板で,その橈側部と尺側部では線維軟骨性である.橈骨の尺骨切痕の下縁から起り,尺骨の茎状突起の基部と,そこに存在するくぼみとに付着する.この円板が下橈尺関節と橈骨手根関節とを分離している.

 血管は掌側および背側骨間動脈と,背側および掌側手根動脈網からくる.神経は掌側および背側前腕骨間神経からくる.

S. 290

[図416]右の肘関節 屈側(4/5) 関節包はとり去ってある.

[図417]右の前腕の骨とその結合(2/3)

c)橈尺靱帯結合Syndesmosis radioulnaris (前腕骨のたての結合) (図417)

 前腕の両骨のたがいに向きあった縁,すなわち橈骨骨間稜と尺骨骨間稜のあいだに,かたい線維性の前腕骨間膜Membrana interossea antebrachiiと斜索Chorda obliquaとが張られている.

 前腕骨間膜は上方では上腕二頭筋の腱のすぐ下方にはじまって,下方は遠位椀尺関節にまで達している.

S. 291

橈骨と尺骨のあいだの空間の上部と,尺骨の下端部に接する狭いすきまの部分とには骨間膜が張られてない.骨間膜は上部と下部では繊細で薄いが,残りの大部分は腱のように輝く固い結合組織束からなり,その大部分は橈骨から尺骨へと斜め下方に走っている.背側面にはまた反対の方向に走る線維束があって,これは橈骨から斜め上方に尺骨へ走っており,骨間膜の下部では主な線維群はこの方向のものである.上部と下部の比較的大きいすきまは,血管や神経の通りぬけるところになっている.骨間膜の起始と停止は両骨の骨間稜にかぎるのではなく,両骨の掌側面で骨間稜に接する部分もそれに含まれている.

 斜索は幅4~10mmの平らなテープ状あるいは丸ヒモ状の索で,尺骨粗面の下部からななめ下方へ橈骨に向い.橈骨結節の1/2~2cm下方で橈骨の掌側面に付いている.斜索は回外運動を制限する.

[図418, 419]肘関節27才の処女の腕のレントゲン像. 図418は掌側から背側へ照射,図419は尺側から橈側へ照射.

S. 292

 骨間膜の意義はその線維の走向からおのずと明かである.すなわち骨間膜は橈骨にかかる上向きの張力および圧力を尺骨に伝達するのに役だっている.橈骨と尺骨は上方では橈骨輪状靱帯・斜索・骨間膜の上部によってつなぎとめられているが,同様に下端では関節円板によって横の方向につなぎ合わされているのである.

 肘関節橈尺部と下橈尺関節の力学:両関節は前腕と手の回旋運動すなわち回内Pronationと回外Supinationにあずかっている.(回内とは橈骨による手の運動のうち,外側においた母指側が内側へ回わされるような運動のことであり,回外はその逆の運動である.(原著註))

 この運動では上腕骨が固定されているとき,橈骨の関節環状面の関節部が尺骨の橈骨切痕の中で回転し,同時に橈骨の尺骨切痕が尺骨の関節環状面に接して滑るのである.この運動は橈骨小頭窩の中心と橈骨の尺側切痕の中央とを通る1つの軸のまわりに起る.橈骨の回旋の運動範囲は生体で129~140°に達する(R. Fick).

3. 肘関節Articulus cubiti, Ellenbogengelenk (図416423, 425428)

 肘関節は複合関節であって1つの共通の関節包のなかに腕尺部Pars humeroulnaris,腕橈部Pars humeroradialis,橈尺部Pars radioulnarisという3つの関節をもっている.

 この関節をつくっているのは上腕骨橈骨尺骨である.

 関節面は上腕骨では滑車Trobhleaと小頭Capitulum, 尺骨では半月切痕Incisura semilunarisと橈骨切痕Incisura radialis ulnae,橈骨では小頭窩Fovea capituliと関節環状面Circumferentia articularisである.

 上腕骨滑車Trochlea humeriは深い溝のついた滑車で,その形は砂時計に似ているといえる.この砂時計状の滑車は円錐形の部分を2つもっていて,そのうち内側の円錐の方が高さ(14mm)においても周(直径14.1mm)においても大きく,外側の円錐の方が小さい(高さ8mm, 直径11.3 mm).しかし両円錐は同一の,斜めに内側やや下方へ走る軸をもっている.さらに滑車全体が前面では後面より2~4mm狭く,滑車の表面の弯曲も,前面では後面より強い.関節軟骨は前面では内側の方がより上方に達しており,後面ではその逆になっている.滑車の溝のところでは関節軟骨は前後両面とも同じ高さにまで達していて,ここでは関節軟骨が滑車の全周のうち中心角280~320°に相当する部分を包んでいる.溝の走行は正確に円形ではなくて,ラセンの一部をなしている.もっともその「ネジの歩み」は個体によって非常にまちまちである.

 滑車の内側縁も一種のラセンをえがく(Fick).滑車は外側方では,傾斜した縁と個体的に深さの異なる溝とによって小頭とへだてられている.軟骨は1.5mmの厚さである.軟骨は内側縁で最もうすく(1.2mm),外側縁では2mmにも達する.肘頭窩のすぐ下方では最も薄い.滑車の外側縁では軟骨が疎になり,ほぐされたようになり,あるいはところによっては全く欠けている(Fick)-図416を参照せよ.

 上腕骨小頭Capitulum humeriは大体のところ1つの球とみられ,その中心は滑車軸の上にあり,直径は10.5~11mmである.しかし表面の弯曲は方向によって同じでない.軟骨の被いは中央で最も厚く(1~2mm),縁にゆくほど次第にうすくなる.

 尺骨の半月切痕Incisura semilunaris ulnaeはだいたいに上腕骨の滑車と一致しているが,Fickは「肘関節がいかなる位置をとっても,半月切痕の全体が上腕骨の滑車に接触す為ということはない」と記している.半月切痕の弯曲は直径10mmの円孤に相当している.上腕骨滑車の溝に対応して,半月切痕には1本の導稜線Führungsleisteがある.関節軟骨は軟骨で被われない横走する溝によって,2つの部分に分けられている(図417, 423, 425).両部分のうち後方のものは肘頭に属し,烏口突尊に属する前方の部分とは弯曲の状態を異にしている.軟骨の厚さは導隆線の両端および橈骨切痕との境界では2mmあるいはそれ以上にも達する.軟骨は内外両縁へと次第に薄くなっている.

[図420] 橈骨 VV橈骨の回旋の鉛直軸, a橈骨の尺骨切痕の中央(H. Meyer)

S. 293

橈骨小頭窩Fovea capituli radiiはほぼ円形の輪郭をもつ浅いくぼみで,その弯曲は上腕骨小頭の表面と一致している.しかし上腕骨小頭の150°に対して,小頭窩の面はわずかに中心角70~80°に相当するひろがりをもつにすぎない.小頭窩の縁は関節環状面に移行している.しかし内側では小頭窩の縁と関節環状面の上稜とのあいだに,斜めにかどを落したような半月形の場所(斜半月Lunula obliqua, Fick)があって,上腕骨滑車の傾斜した外側縁と関節をなしている.軟骨の厚さは小頭窩の縁ではほとんど2mmに近く,中央では1mmである.

[図421, 422]右の肘関節(4/5) 図421は上腕骨滑車の軸に垂直な面で切断し,その外側半を内側からみたところ.図422は肘関節を前方からみたところ.

S. 294

[図423] 尺骨の上部と橈骨輪状靱帯

[図424] 橈骨および尺骨の下部が関節円板と結合している状態 (4/5)

[図425] 肘関節の橈尺部 (4/5)

[図426] 右の肘関節(4/5) 橈側からみる.

S. 295

 関節包は肘関節としてひとまとまりをなす3つの関節に共通であって,掌側では背側よりも強い.関節包は中くらいの屈曲位のときは,掌側でも背側でもゆるんでいる.完全な屈曲のときには関節包の背側半が緊張し,完全な伸展のときには掌側半が緊張する.橈骨輪状靱帯より下方へ関節包が伸びだしている部分は嚢状陥凹Recessus sacciformisとよばれる.

 関節包は掌側では上腕骨の烏口窩と橈骨窩との上方1/2 mmのところから起り,尺側および橈側上顆は関節包の外に取り残されている.そのさい滑車の内側縁に沿って約2mmの距離をおいて付着し,また小頭の外側および背側の軟骨縁にはそのすぐきわに付き,背側では肘頭窩の中央に付着している.尺骨においても軟骨縁に沿って付着するが,肘頭と烏口突起のところでは軟骨縁からさらに多少はなれたところに付いている.橈骨では上端から約15mm下方で頚に付着しており,この部分は関節包が繊細でうすく,また橈骨輪状靱帯の下方には上述の嚢状陥凹をつくっている.

[図427]右の肘関節 尺側からみる(4/5)

 関節腔の形は非常に複雑である.関節包の内部に存在して,しかも軟骨で被われていない骨部(主として肘頭窩・烏口窩・橈骨窩・橈骨頚など)はすべて関節包の滑膜層で被われている.関節腔のくぼみの奥には結合組織や脂肪組織がある.多数のひだが関節包から出て,一方の関節面の縁と他方の関節面の縁との間にはいりこんでいる.そのうち最も著しいものは上腕骨小頭と橈骨小頭とのあいだにあるもので,これは関節円板と比較し得るほどのもので,幅は2~3mmあり,完全な輪のほぼ3/4に当っている.

 特別の装置としては3つの補強靱帯があるただしこれは関節包および焼側側副靱帯と結合して分離できない橈骨輪状靱帯Lig. anulare radiiをもいっしょに算えてのことである.他の2つの補強靱帯が尺側および橈側側副靱帯である.尺側側副靱帯Lig. collaterale ulnareは上腕骨の尺側上顆から起って,その線維は扇状に尺骨に向って放散している.

 橈側側副靱帯Lig. collaterale radialeは橈側上顆の掌側面および下面から起って,2つのたがいに離開する束に分れ,橈骨小頭の掌側および背側をへて,尺骨の橈骨切痕の掌側縁と背側縁にいたる.この靱帯は続骨輪状靱帯の輪走線維ならびに前腕の表層の伸筋の起始腱と密に癒合している.橈骨輪状靱帯については前述の肘関節の続尺部の項(289頁)を見られたい.

S. 296

 関節包の掌側面の上には比較的弱い補強線維束が縦・横・斜めに走っている.そのうち斜めの1線維束がつよく発達しているのが普通で(図422),これは尺側上顆のあたりから起って輪状靱帯に達している.同様に後面にも縦の方向に走る散在性の線維束がある(図428).

 肘関節の血管は肘関節動静脈網から来る.神経は腕のすべての神経から来る.

 肘関節の力学:肘関節は一種の蝶番関節で,中央軸をめぐって変動する.いろいろ異つた瞬間回転軸をもっている(R. Fick).

 前腕の骨の運動は滑車と小頭との軸(これは両上顆のすぐ下方を横に走る)を中心として起る.そのさい尺骨の導隆線が滑車の溝にはまって滑るが,この溝はラセン状に走っているために,前腕骨ほ回転のさい橈側あるいは尺側へずれざるをえない.この「ずれ」がどの方向にどれだけ起るかは個体によってまちまちである.ラセンは右巻きのこともあれば左巻きのこともある.Hultkrantzは13例中3例に全く「ずれ」を認めず,残りの10例に0.5~2mmの「ずれ」が生じることを認めた.橈骨小頭はこの運動に参加している.尺骨が上腕骨に対してどんな位置にあるときでも,橈骨固有の回旋運動は可能である.

 腕を伸ばした状態で,上腕骨頭の中点, および上腕骨小頭と橈骨小頭との中点を通る直線を下方へ延長すると,この線は橈骨下端部の回転の中心たる尺骨小頭の中点を通る.この軸が腕の構成軸Konstruktionsachse des Armesであって,肘関節の屈曲軸はこれと垂直をなしている.

[図428]右の肘関節(4/5) 直角に曲げたところを後方からみる.

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最終更新日 13/02/04

 

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