Rauber Kopsch Band1. 30

VI.下肢骨の連結Juncturae ossium extremitatis pelvinae

1.下肢帯骨の連結Juncturae ossium cinguli extrelnitatum pelvinarum

 下肢帯には固有の靱帯結合というものはただ1つ,寛骨の閉鎖膜Membrana obturansがあるだけである.

 左右の寛骨は前方で恥骨結合Symphysis ossium pubisという線維軟骨結合によって連ねられている.また背方では胴の骨(正確には脊柱)との結合がある.すなわち仙腸関節Articulus sacroilicusおよび多数の靱帯によって仙骨・尾骨ならびに腰部脊柱と結びつけられている.

a) 寛骨の固有の靱帯結合
α)閉鎖膜Membrana obturans(図434, 435, 438, 440)

 閉鎖膜は閉鎖孔Foramen obturatumを前上方のすきま1つを残してとざしている.このすきまは恥骨枝の寛骨臼部の閉鎖溝Sulcus obturatoriusとともに閉鎖管Canalis obturatoriusをつくっている.

 閉鎖膜は前方および後方では閉鎖孔を境する鋭い縁から起り,上方では閉鎖稜から,下方では坐骨の後面から起っている.線維束はいろいろな方向に交叉しあっているが,全体としてみると横に走るものが多い.閉鎖膜の上部は閉鎖稜から起って,閉鎖管の底をなす.閉鎖膜はところどころに脂肪組織で埋められた大小さまざまの穴があり,また特に強い線維束がいくつかあって,その大部分は寛骨臼切痕の近くの小さい高まりから起って,前方へ扇状に放散するとともに,次第にうすく細くなる.

b) 左右両寛骨間の結合
α)恥骨結合Symphysis ossium pubis, Schamfuge(図433)

 恥骨結合によってたがいに結合されている骨は左右の寛骨,もっとくわしくいえば左と右の恥骨である.

 たがいに結合している面は左右の恥骨の恥骨結合面Facies symphyseosである.

 この面はやや凸をなし,たがいに向きあう両結合面の間隔は,上部より下部で大きくなっている.

 恥骨間[線維軟骨]Lamina fibrocartilaginea interpubicaが向きあう両面のあいだを埋めている.

 恥骨間板は骨のきわでは2~3mmの厚さの硝子軟骨でできており,内部は"zentrale Zwischenscheibe", Fick(中心恥骨間円板)といわれる線維軟骨でできていて,その中には常に恥骨結合腔Cavum symphyseos, Fickという腔所がある(Fick, Anat. Anz.,19. Bd.,1901).子供では(硝子)軟骨層の方がよく発達しているが,成人では中心恥骨間円板の方がよく発達している.

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骨盤腔の方へ恥骨後隆起Eminentia retropubicaという1つの高まりが出ており,これは妊娠のときに大きくなるという.

 特別の装置としては恥骨靱帯Lig. pubicumと恥骨弓状靱帯Lig. arcuatum pubisがある.

 前者は恥骨結合の上縁にあって恥骨間板にかたく癒合し,側方に恥骨結節のところまで伸び,クーパーの恥骨靱帯Lig. pubicum Cooperi(図435)の中に放散している.恥骨弓状靱帯は三角柱状で,横断面で約1cmの高さがある.恥骨結合の下縁にあって,恥骨角ないし恥骨弓にまるみをつけている.それゆえこの靱帯の長さは男では2cmしかないのに,女では3~3.5cmもある.この靱帯の下縁は非常に鋭利なことがある.

 恥骨結合の可動性ははなはだ少い.ごくわずかぐらつく程度に動き,またごく少しバネの役目をするだけのものである.

 血管は下腹壁動脈・閉鎖動脈・大腿動脈の各恥骨枝から来る.

[図433] 恥骨結合(4/5) 前額断面を前方からみる

c)寛骨と胴の骨との結合
α)仙腸関節Articulus sacroilicus(図434439)

 この関節をつくっている骨は仙骨と寛骨(くわしくは腸骨)である.関節面はこれら両骨の耳状面Facies auricularesである.

 両骨の耳状面はその名前の示すように耳のかたちをしている.耳状面の大きさと形,ならびに仙椎との位置関係(146頁を参照せよ)は個体によって大いに異る.表面の状態も個体によってまちまちで,不規則なデコボコを呈している.軟骨は仙骨面(1~4mm)の方が腸骨面(0.3~0.6mm)よりもずつ,と厚い.腸骨の耳状面はほとんど線維軟骨だけで被われているのに対して,仙骨では関節腔に向く面は線維軟骨からなり,それより深層は硝子軟骨でできている.

 関節包は耳状傍溝Sulci juxtaauricularesから起っている.その後がわでは骨間仙腸靱帯Ligg. sacroilica interossea(図439)があって関節包を補つている.

 関節腔は狭くて裂隙状であり,その中へ軟骨壁からの線維状の突起や,関節包からの少数の滑膜絨毛が出ている.

 特別な装置としては次のような多数の靱帯がある.すなわち直接の補強靱帯としては前方に前仙腸靱帯Ligg. sacroilica ventralia,後方に長後仙腸靱帯Lig. sacroilicum dorsale longum,短後仙腸靱帯Lig. sacroilicum dorsale breve,骨間仙腸靱帯Ligg. sacroilica interosseaがある.

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[図434] 脊柱と骨盤右半とを結ぶ靱帯 後面(7/12)

間接的な補強靱帯としては,腸腰靱帯Lig. iliolumbale,仙棘靱帯Lig. sacrospinale,仙結節靱帯Lig. sacrotuberaleがある.

 前仙腸靱帯Ligg. sacroilica ventraliaは関節包の骨盤がわを被っており,多くのばあい.特に強く発達してはいない.これは仙骨の前面から起って腸骨につく.長後仙腸靱帯Lig. sacroilicum dorsale longum(図434)は第3および第4仙椎の高さで仙骨の縁から起って,急な角度で上行して上後腸骨棘につく.この靱帯は幅1cmぐらいである.その外側縁は仙結節靱帯が上方で放散する部分と合し,内側縁は腰背筋膜と結合している.

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[図435] 脊柱と骨盤右半とを結ぶ靱帯,股関節 前面(7/12)

短後仙腸靱帯Lig. sacroilicum dorsale breveの方は前者によって大部分おおわれており,内側の方でそのそばに少しばかり顔を出している.この靱帯は外側仙骨稜および関節仙骨稜から起って下後腸骨棘に付着する.その線維束は後仙骨孔を橋わたしして,これを一部分ふたしている.骨間仙腸靱帯Ligg. sacroilica interosseaは腸骨粗面と仙骨粗面のあいだの深いくぼみを充たしている.ここにはたがいに分離した多数の線維束がいろいろな方向に交叉して走っているが,全体としてはだいたい横走するのである.そしてその間に多くの脂肪組織がある(図434, 439).

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 腸腰靱帯Lig. iliolumbaleは第4・第5腰椎の肋骨突起から出て腸骨稜と,腸骨の前後面のこれに隣接する部分へ放散している.仙結節靱帯Lig. sacrotuberaleは扇状をなしており,坐骨結節の内面に付き,仙骨と尾骨の側縁から起っている.上方では下および上後腸骨棘にまで達している.

 この靱帯に属する1つの線維束が坐骨結節から坐骨枝の恥骨部に沿って前方に走る.これを鎌状突起Processus falciformis(図434)とよび,閉鎖筋膜がこれとつながっている.仙棘靱帯Lig. sacrospinaleは仙結節靱帯より短くて細く,一部は仙結節靱帯の前にかざなってこれと結合している.起始束は仙結節靱帯と同じく仙骨と尾骨の側縁につくが,細くなった付着束は坐骨棘に付くのである.

 仙結節靱帯と仙棘靱帯とたようて,および小坐骨切痕からおよび小坐骨孔Foramen ischiadicum majus, minusという2つの孔が形成される.大坐骨孔を貫いて梨状筋が走るので,この孔のうち上部と下部とだけが残ることになり,それぞれ梨状筋上孔Foramen suprapiriformeおよび梨状筋下孔Foramen infrapiriformeという.梨状筋上孔を通るものは上臀動静脈および同神経,梨状筋下孔を通るものは下臀動静脈および同神経・坐骨神経・後大腿皮神経・内陰部動静脈・陰部神経である.そのうち内陰部動静脈と陰部神経は仙棘靱帯の外面に沿って小坐骨孔を通り,坐骨直腸窩にはいる.なおそのほかに小坐骨孔を通るものとして内閉鎖筋がある.

 仙腸関節はほとんど可動性のない結合様式であって,不動結合と可動結合のどちらともつかず,機能的には恥骨結合と同じような働らきをするのである.

 仙腸関節の血管は内腸骨動静脈から,神経は近隣のすべての幹から来ている.

 下肢帯の静および動力学:下肢帯嫁仙骨と結合して骨盤をつくる.骨盤は完全に閉じた環をなしているから,建築でいう環状円蓋または筒形円蓋Voll-od. Tonnengewölbeと見ることができる.あるいはまた単純な円蓋が,大腿骨頭の上にのっているとも見られる.そして円蓋の両脚は合一した左右の恥骨によってつながれており,円蓋に荷重のかかつたとき円蓋の両脚が横へ開かないようになっている.仙骨は上方からかかつくる体重を受けねばならないので,この円蓋の要石をなしている.

 しかしこの要石は図436にみるように,背側よりも腹側で幅がひろくなっていて,普通の要石とは趣きを異にするのである.従ってそれだけのことなら,仙骨は自らが受ける圧力を円蓋の側壁へと伝達することができないわけである.ところがこの伝達は,仙骨の骨盤への固定のしかたによって,実に巧妙に果されている.仙腸関節の関節包だけでは,この目的を果すにはあまりにも弱体であろう.ところが仙腸結合の背側壁には骨間仙腸靱帯として上述した,あの強大な靱帯群があって,これによって仙骨は左冶の寛骨のあいだに上からつられているのである.そこで仙骨に上方から圧力がかかると,ただちに骨間仙腸靱帯が緊張し,腸骨の背側部(b)が内側へひき寄せられる.そうすると仙骨は左右の寛骨のあいだにはさまれ,しかも荷重が大きければ大きいほど強くしめつけられるのである.こんなわけで,この一風変つた形の要石が結合を有効にするうまい仕組みになっているのである.なお恥骨結合にお炉ては,荷重のかかるさいにその各靱帯が緊張して,円蓋の両脚が横にひらこうとする力に対抗する.

[図436] 骨盤の組みたてを示す模型図  b腸骨の背側縁,ここに骨間仙腸靱帯が付いている.s 恥骨結合.(H. Meyerによる)

2. 自由下肢骨の結合Juncturae ossium extremitatis pelvinae liberae

1. 股関節Articulus coxae, Hüftgelenk (図435438, 440443)

 この関節をつくっている骨は寛骨と大腿骨である.

 関節面は大腿骨頭Caput femorisと月状面Facies lunataおよびそれを補う寛骨臼横靱帯Lig. transversum acetabuliと関節唇Labium articulareである.

 寛骨臼(図438)は球面の一部をなして,その中心角は170~180°,曲率半径は約2.5cmである.

S. 308

[図437] 脊柱と骨盤右半とを結ぶ靱帯,右の股関節 後面(7/12)

しかしこの関節窩の全面のうち,軟骨に被われているのは月状面とよばれる三日月形の部分だけである.三日月のいちばん太い部分(2.5cm以上)は寛骨臼の上蓋にあり,従って腸骨体に属する.いちばん細いところは寛骨臼の恥骨部にある.月状面の両端のあいだには寛骨臼切痕Incisura acetabuliがあって,寛骨臼横靱帯および関節唇によって橋わたしされている.寛骨臼の深いところには,疎性結合組織や脂肪組織でみたされた不正四辺形の寛骨臼窩Fossa acetabuliと,大腿骨頭靱帯Lig. capitis femorisの起始部とがある.月状面の軟骨の厚さは寛骨臼の縁の近くでは0.8~3mm,寛骨臼窩の近くでは0.5~0.9 mmである.軟骨が最も厚いところは後上部にあり,最も薄いところは前下部にある.寛骨臼切痕の大部分は寛骨臼横靱帯(図440)によってみたされている.この靱帯は約1cmの高さがあるが,切痕の底までは達しないで,ここに血管や神経の通るすきまを残している.寛骨臼と横靱帯の全周をとり囲んで,幅1/2~1cmの関節唇がある.これは線維軟骨でできた三角柱で,寛骨臼の骨縁に固着し,月状面の軟骨および寛骨臼横靱帯に移行している.

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[図438] 股関節窩(7/12)

 関節唇の鋭い自由縁は,その付着線よりも輪が狭くなっている.関節唇の縁から測ると,関節窩の深さは半径よりも大きい.つまり寛骨臼と関節唇とを一緒にすると,球面の半分より大きいくぼみになる.

 大腿骨頭の関節面は球面のほぼ2/3を占める.曲率半径は男で2.6cm,女で2.4cmである(Fick).従って関節頭の弯曲は正確に関節窩の弯曲に一致しているわけである.(球形からそれている場合がある.)軟骨の厚さは関節頭の中央から縁へかけて次第に減じる(これについてはWernerの詳細な報告がある).大腿骨頭窩は軟骨の上縁より下縁に近くあって,大腿骨頭靱帯がここに付いている(図441).

S. 310

[図439] 左の仙腸関節(4/5)横断した下断面を上からみる.

[図440] 右の股関節 前下方からみる (7/12)

S. 311

[図441] 右の股関節 前額断した後断面を前からみる(7/10)

[図442] 股関節 生体の右股関節のレントゲン写真,腹背照射(7/10)

S. 312

 関節包は厚くて丈夫である.これは寛骨臼の骨縁と,寛骨臼横靱帯から起り,大腿骨の前面では大転子と転子間線につく.後面での付着部は,大腿骨頭の軟骨縁からの距離は前面と変らないのであるが,転子間稜ではなくそれより1.5cmぐらい内側である.表層の線維は縦走しているが,深層のものは斜走,横走および輪走である.関節包のもっとも薄い場所は,すぐあとで述べる各補強靱帯のあいだと,寛骨臼切痕の底のところである.関節腔は前面では大腿骨頚を端から端まですっかり包み,後面では頚の内側2/3を包んでいる.滑膜ヒダは大腿骨頚のところにある.

 特別の装置としては関節包の補強靱帯が4つある.すなわち腸骨大腿靱帯Lig. iliofemorale,恥骨嚢靱帯Lig. pubocapsulare,坐骨包靱帯Lig. ischiocapsulare,輪帯Zona orbicularisである.そのほかになお関節唇Labium articulare,寛骨臼横靱帯Lig. transversum acetabuli,大腿骨頭靱帯Lig. capitis femorisおよび近くに1つの滑液包すなわち腸恥包Bursa iliopectineaがある.腸恥包は関節包の前面にあって,関節腔につながっていることがある.

 腸骨大腿靱帯は人体中最強の靱帯で,腸骨結節から起って扇状にひろがり,大転子と転子間線に付いている.長さ6~8cm,厚さ0.5~l. 4cm,幅2.5~3cmである.この靱帯は両縁がとくに厚く,中央の三角形の部分が最も薄くなっている.それで英仏の学者はこの靱帯をY状靱帯またはV状靱帯と名づけている.恥骨嚢靱帯は恥骨結節から閉鎖稜にかけて起り,扇状に関節包に放散する.その鋭い自由縁は外閉鎖筋の外面をかすめている.坐骨包靱帯は関節包の後面に接しており,坐骨から広く起り,その線維は横走して関節包および輪帯に至る.輪走する線維の束すなわち輪帯は関節包の滑膜層のすぐ上に接してこれをとりまき,上縁および下縁ではその一部が走向を転じて,表層の縦走線維束に移行している.輪帯は大腿骨頚の中央のあたりで最もよく発達している.

 股関節の血管は脛側および腓側大腿回旋動脈と上および下磐動脈から来る.寛骨臼には閉鎖動脈の1枝である寛骨臼枝R. acetabularisが寛骨臼横靱帯の下をくぐつて寛骨臼窩内の組織や大腿骨頭靱帯に来ている.

 股関節の神経は大腿神経・閉鎖神経および仙骨神経叢から来る.またリンパ管は内腸骨リンパ節にいたる.

 股関節の力学:大腿骨頭の表面は半球面をかなり越える広さであるが,けっして正確な球面をなすものではなく,上方が少しおされて平らになっている.関節窩も関節唇の存在によって半球よりも深いくぼみをなしている.かくしてこの関節は杵臼関節Enarthrosis sphaeroidea, Nußgelenkをなしている.

この関節における運動は大腿骨頭の中心点を中心とする球回転運動である.

 関節の横軸は股関節の屈曲軸Flexionsachseをなしている.また矢状軸は外転軸Abduktionsachseである.大腿骨頭の中心から下方へ顆間窩にひいた直線が回旋軸Kreiselungsachseである.また左右の大腿骨頭の中心を結ぶ直線は股関節軸Hüftgelenkatihse od. Hüftdchseとよばれる.

 股関節の使命としては下肢を下肢帯に対して自由に動かし,それによって膝の屈曲軸をいろいろな位置にもってゆくことと,下肢が固定されているときにはその上で胴を動かすことのほかに,なお股関節より上方にある体部の重さを支えるという役目がある.胴の重さは仙腸関節において仙骨から寛骨へ移されるわけであるが,さらに股関節において寛骨から下肢へ荷重が伝達されるのである.この関係をいっそうくわしく吟味してみると次の疑問につきあたる.それは直立位の胴は股関節軸の上にたえず不安定な平衡状態においてバランスをとり,ために筋肉はたえず相当のはたらきを強いられているものなのか,あるいは他の何らかの方法でこの問題が解決されているのか,ということである.

[図443] 骨盤の力学の模型図 上のSは直立姿勢におけるからだの重心, 下のSは重力線,Aは大腿骨頭の中心で,股関節軸の投影点でもある.I--Iは腸骨大腿靱帯とその張力方向を重力線の方へ延長したもの,Dはこの延長線と重力線との交点, P--Pは軸圧の作用する方向,I--Aは腸骨大腿靱帯のテコの腕,S--Aは体重のテコの腕(H. Meyerによる)

S. 313

[図444]右の膝関節 前からみる(3/4)

[図445]右の膝関節 後からみる(3/4)

S. 314

[図446]右の膝関節 内側からみる(3/4)

[図447]右の膝関節 外側からみる(3/4)

S. 315

[図448]右脛骨の近位関節面と両半月(×1)

[図449]右の膝関節(2/3)大腿骨および脛骨の腓側顆を通る矢状断内側の断面を外側からみる.

S. 316

H. Meyerによれば,正常な姿勢では体幹の重力線は股関節軸の前方にも,ちょうどその軸の上にも落ちるのでなく,それより後方に落ちる.そのさい股関節において,骨盤がいっそう強く後方へ傾くこと(後屈)を妨げるのが,腸骨大腿靱帯であるというのである.

 いま問題としていることがらについて図443が教えるのである.全身の重心は正常な姿勢では第2仙椎のやや上方で仙骨管内にある(H. Meyer).従って直立位におけるからだの重さを,この点に集中して考えることができる.この点から重力線が下りる(図443のSS),仙骨に作用するこの重力は,両股関節へと2つの力に分れ,腸骨大腿靱帯も各側の股関節に1つずつ働いている.しかし理解しやすくするために,図に示したように,左右両側に働く力を正中面上の力に単一化して考えてさしつかえない.そうするとこの装置の力学的関係が,最も単純な模型図で表わされてしまうのである.つまり支点で固定された1つのテコに,角度をもった2つの力(重力と靱帯の緊張力)がつりあ

つていることがよくわかる.そして両方の力の合計が軸力(テコの支点を通る力)として股関節軸を通る.

 こう考えてみると,強い腸骨大腿靱帯の大きい力学的意義が明かになるであろう.

 さらに前にすでに述べた骨盤傾斜Beckenneigung(221頁)の変化がどんなぐあいに起るかということも容易に知られる.腸骨大腿靱帯の弛緩または緊張をひきおこすあらゆる要因は,骨盤を股関節軸の上で後屈または前屈させ,従って骨盤傾斜を変化させる.そんなわけで,骨盤傾斜は決して不変の大きさではないのである.大腿骨が回旋と同時に外転するときは,腸骨大腿靱帯が緊張するので,骨盤傾斜が最も急になる.左右の下肢の軸が少し開いて,同時に大腿骨の回旋がないときには,この靱帯がゆるんで骨盤は後屈する.つまりこの場合には骨盤傾斜角が小さくなる.

 それよりもいっそう一定した価を示すのは規準結合線Normalconjugataの傾斜角である.規準結合線は仙骨の屈曲部(第3仙椎のあたり)から恥骨結合の上縁に引いた直線である.この傾斜角は30°として大体まちがいない.つまりこの結合線と骨盤入口の結合線とのあいだの角の変動は,骨盤入口の結合線と水平線とのあいだの角の変動と,大きさが同じなのである.

 大腿骨頭靱帯の意義については数多くの研究がなされている.それによると成長期には大腿骨頭へゆく血管がこの靱帯を通っているが,のちには主として抑制靱帯として,また滑液をかぎまわすものとして働いている.前方へあげた大腿を外方へまわすか内転するときに,この靱帯が緊張することがはっきりわかる.

2. 膝関節Articulus genus. Kniegelenk(図444451, 454, 455)

 膝関節においては大腿骨が脛骨および膝蓋骨と関節をなしている.膝蓋骨は人体ちゅう最大の種子骨として大腿四頭筋の停止腱のなかにあって,関節包内に挿入されている.腓骨は脛骨顆がつよく発達するために膝関節から閉めだされている.

 膝関節の関節面は人体ちゅうで最大の面積をもっている.大腿骨の両顆の関節面(凸面をなす)と,脛骨の近位関節面Facies articulares proximales(ほぼ平面)と膝蓋骨の関節面がある.膝蓋骨の関節面は,大腿骨の両顆の関節面のあいだにある膝蓋面Facies patellarisの上を滑る.膝蓋面はほず鞍状の膝蓋骨滑動路Kniescheiben-Gleitbahn(Fick)をなしているのである.

 内側顆と腓側顆はローラーまたは車輪の形をしており,両者は正確に平行するのでなく,後下方へ開いている.また両者はたがいに斜めに傾いて,それぞれの弯曲軸がなす角は下方へ開いている.矢状方向での弯曲は後方にゆくほど強くなり,したがって曲率半径は前部より後部で短くなっている.そして関節面がよくいわれるようにラセン状に弯曲している.矢状方向ばかりでなく,左右の方向にも弱い弯曲がある.軟骨の被いは最も厚いところで2.6~3.2mmである.

 両顆のあいだには多数の差異がある.大腿骨だけをとりだして鉛直にたててみると,内側顆の方が腓側顆より下方にある.しかし身体の一部としてあるときには,両顆の下面はほぼ同一の水平面上にある.これは大腿骨が斜に内側方へ向っているからである.腓側顆の矢状方向の弯曲は,内側顆のこれに相当する部分より曲率半径が大きい.内側顆の関節面は腓側顆のそれより長い.さらに内側顆の関節面の前部は,多少とも強く外側(腓側)へまがっている.腓側顆の上部は内側顆よりも前方へ突出している.また腓側顆では後部は前部より幅がせまくなっているのに対して,内側顆は一様な幅をもっている.

S. 317

[図450] 右の膝関節(2/3)関節包を開いて前方からみる.

 膝蓋面Facies patellarisはすでに述べたように鞍状で,2分した両顆を結合する位置にある.その外側部は内側部より前方へ突出している.軟骨の厚さは中央部で3.5mmで,周辺にゆくほど薄くなる.

 脛骨の近位関節面Facies articuIares proximalesは8~10°の角度で後方へ傾いている.近位関節面は軟骨をかぶらない前顆間窩のほか,顆間隆起および後顆間窩によって左右の両面に分けられている.両面は輪郭がほぼ卵円形で,その長軸は矢状方向に向いている.

 大腿骨の両顆の場合と同様に,ここでも内側(脛側)面は多くのこまかい点で外側(腓側)面と異なっている.後者の矢状方向の径は前者のそれよりいくらか短い.内側の面の弯曲は前後の方向に凹であるのに対して,外側の面は同じ方向に凸である.さらに外側の面は内側の面にくらべると,全体として1cmだけ前方へずれている,軟骨の被いは外側の面の方が厚い.軟骨の厚さは中央の諸部では4~5mmであり,周辺にゆくほど次第に薄くなって1~2mmとなる.

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 膝蓋骨の関節面Facies articularis patellaeは人体のすべての関節面のうち最も厚い軟骨で被われている.いちばん厚いところ, すなわち中央の隆線のところで5.4~6, 4 mmの厚さがある.この隆線によって両側に分けられる面は内側(脛側)の面の方が大きくて,外側(腓側)の方が小さいことが多い.そしてこれら両関節面はさらに小さい7つの領域に分けられる.内側面の内側縁に接して1つの狭い領域があって脛側辺縁条tibialer Randstreifという.残りの6つのうち3つは外側の面に,他の3つは内側の面の残りの部分にある.すなわち両面とも1つずつの近位・中・遠位の領域がある.両面の遠位の領域は過伸展のとぎに大腿骨顆の膝蓋面が触れるところであり,両面の中央の主領域は普通の運動のときに膝蓋面の上を滑る.また両面め近位の領域と前述の脛側辺縁条には,膝蓋骨が趣度の屈曲のときにだけ触れる.

 関節包は前方と両側方では薄くゆるくて広いが,後方ではそれより強くなっている.関節包は多数の靱帯によって被われている.

関節包は大腿骨では軟骨縁から1/2~2cmへだたったところから起り,しかもその距りは一般に両側方および後方よりも前方で大きFくなっている.大腿骨の両上顆は関節包の外にある.関節包は脛骨には軟骨縁からごくわずかへだたったところに付いている.膝蓋骨は関節包の前壁の中にはまりこんでいる.そして関節包は膝蓋骨の底では軟骨縁から数ミリメートル離れたところに付くが,ほかのすべての縁では軟骨縁のすぐそばに付いている.後壁は丈夫で孔がたくさんにあり,脂肪組織でみたされて血管の通りぬけるところになっている.

 関節腔は全身の関節中でもっとも広く,その構造が最も複雑である.滑膜層を後上部のはじまりから追つてゆくと,そこから交叉靱帯の上および脛骨にまでたどることができる.脛骨と膝蓋骨のあいだでは,滑膜層は膝脂肪体Corpus adiposum genusという,関節腔に突出した幅のひろい脂肪隆起を被っている.膝脂肪体の表面には膝蓋骨の両側縁から2つのひだが来ており,これを翼状ヒダPlicae alaresという.脂肪隆起の中央から前交叉靱帯へと関節腔を貫いて,滑膜だけでできた1本の索が走っている.これが膝蓋滑膜ヒダPlica synovialis patellaris(図450)で,その太さはさまざまであり,しばしば非常に細いものである.

 特別の装置が膝関節にはたくさんある.a) 関節包の前面・側面および後面の補強靱帯,b)骨間靱帯,c)関節半月,d)連通滑液包

a)関節包の補強靱帯

 1. 前面では大腿部の大きな伸筋である大腿四頭筋の腱の下部が補強靱帯の役目をしている.この部分は膝蓋靱帯Lig. patellaeとよばれて,膝蓋骨の尖から起り,上部では幅3cm,厚さ3~8mmあるが,脛骨粗面へ付くところでは細くなり,幅が2~2.5cmになっている.この靱帯の両側縁は大腿筋膜Fascia lataと癒合している.

 2. ,3. 脛側および腓側膝蓋支帯Retinacula patellae tibiale, fibulare(図446, 447)は膝蓋骨および膝蓋靱帯に平行して走っている.

 両支帯は大腿四頭筋の腱および膝蓋骨の底から起り,解剖のさいは大腿筋膜から多少とも容易に分離することができる.腓側膝蓋支帯は腸脛靱帯Tractus iliotibialisにつづいていて腸脛靱帯粗面Tuberositas tractus iliotibialisに付く.内側膝蓋支帯も脛骨につく.

 4. 内側側副靱帯Lig. collaterale tibiale(図446)は大腿骨の内側上顆から起って,脛骨の内側縁と後縁につく.

 この靱帯には前後の2部が区別され,前部の方が後部より長く,後部は内側半月の後縁までしか達していない.長い方の前部は半膜様筋の主停止部を被い,脛骨顆の下方で脛骨が急に細くなった部分を橋わたししているので,この靱帯の下にある組織をとり去ると,狭いすきまがみとめられる(図451).

 5. 腓側側副靱帯lig. collaterale fibulareは人体で最も独立性をもった側副靱帯といえるであろう.

 大腿骨の外側上顆から起り,腓骨小頭の外側縁につく.長さは5~7cm,太さは約6mmである.この靱帯と関節包とのあいだには,脂肪をふくむ疎性結合組織がある,この靱帯の上部の内側には膝窩筋の腱があり,下部の内外両側には大腿二頭筋の停止束が走っている(図447, 451).

 関節包の後面は両顆の上方で腓腹筋および足底筋の起始腱によって補強されている.特別の線維束としては次のものがある:

S. 319

[図451] 膝関節(右)前からみる(3/4) 関節包は取り去ってある.膝は直角にまげてある.

 6. 斜膝窩靱帯Lig. popliteum obliquumは半膜様筋の腱から放散する線維束の1つである.

 8~15mmの幅で腓腹筋の腓側頭の起始に向って斜めに上外側へ走る(図445).

b)骨間靱帯は非常に強大で2つあり,たがいに交叉しているので,膝交叉靱帯Ligg. decussata genus, Kreuzbänderとよばれる.この靱帯は滑膜層で被われている.

 1. 前交叉靱帯Lig decussatum anteriusは脛骨の前顆間窩Fossa intercondylica anteriorにつき,腓側顆の内側面から起っている.

 この靱帯は斜めに前下内側へ走り腓側半月の前端の近くにつき,そのさいこの靱帯の1部の線維束が半月の中に侵入している(図451).

S. 320

 2. 後交叉靱帯Lig. decussatum posteriusは前交叉靱帯より太くて,内側顆の外側面から起り,斜めに後下外側へ走って後顆間窩Fossa intercondylica posteriorに付く.この靱帯の一部でかなり太くて多少とも独立した線維が腓側半月の後部た達している.これは腓側半月靱帯Lig. menisci fibularisとよばれ,その太さは個体によって一定しない(図454).

 c)半月Menisciはこの関節における関節面の不一致を均らすのに役だっている.これには腓側半月Meniscus fibularisと脛側半月Meniscus tibialisの2つがある.両半月は弾性線維を混じたかたい結合組織束からなり,その自由表面は線維軟骨でうすく被われている.両者とも鎌形を呈し,横断面では三角柱状である.外面は関節包とかたく結合し,上面は同側の大腿骨願に,下面は脛骨の相当する面に接触している.尖った縁は顆間隆起Eminentia intercondylicaの方に向いている.各半月の両端は強固な線維束で脛骨の一定の場所に固着している(図320, 448).

 両半月はこまかい点で相異なっている.内側半月の方がいっそう半月に似た形で,腓側半月の方はむしろ輪に近い.また内側半月は内側側副靱帯と結合しているのに対して,腓側半月は腓側側副靱帯と無関係である.これに反して腓側半月は前方で少数の細い線維束によって前交叉靱帯とつながり,後方ではもっと太い線維束--しばしば非常に太い独立束(腓側半月靱帯Lig. meniscifibularis)によって後交叉靱帯と結合している.両半月は前方で膝横靱帯Lig. transversum genusによってたがいに結合されている.膝横靱帯ははなはだ変異に富む(図448, 451).

d)連通滑液包には次のものがある:

1. 膝上嚢Bursa suprapatellarisは大腿骨の膝蓋面

の上方にあって,大腿四頭筋に被われ,たいてい関節腔と広いつながりをもっている.しかしこのつながりは狭いことがあり,まれには全く欠けていることもある(図446, 449, 450)

2. 膝窩筋嚢Bursa musculi popliteiは関節の後壁に接して,これと膝窩筋の起始部とのあいだにある.脛腓関節とつながっていることがあり,その場合はそれによって脛腓関節が膝関節と直接つづくことになる.

 3. 脛側および腓側半膜様筋嚢Bursae musculi semimembranacei tibialis. fibularisは関節の後壁で,半膜様筋の腱の下にある.

 4. 腓腹筋脛側頭嚢Bursa capitis tibialis m. gastrocnemiiは腓腹筋の脛側頭の起始の下にあり,関節包と結合していることがある.

 腓腹筋脛側頭嚢が腓側半膜様筋嚢と合して1つになると腓腹半膜様筋嚢Bursa gastrocnemiosemimembranaceaとよばれる.

 膝関節の周辺にはなお次のような重要な滑液包があるが,これらはみな関節腔と決してつジかないか,あるい憾ごく稀につずいているものである.

 1. 膝前皮下包Bursa praepatellaris subcutaneaは膝蓋骨の前,皮膚の下にある.

 2. 膝前筋膜下嚢Bursa praepatellaris subfascialisは同じ部位に,しかし筋膜の下にある.

 3. 膝前腱膜下嚢Bursa praepatellaris subAponeuroticaは同じ部位に,しかし膝蓋骨の前面に密接,してある.これら3つの滑液包は臨床的に重要なものであるが,関節腔とつながっていることは決してない.同一の個体でこれら3つのすべてを見いだすことはまずほとんどなく,たいていそのうちの1つを,いっそうまれに2つを見るにすぎない.

 4. 膝下皮下包Bursa infrapatellaris subcutaneaは膝蓋靱帯の前面に接してある.

 5. 膝下靱帯下嚢Bursa infrapatellaris profundaは脛骨粗面の上方で,膝蓋靱帯の後面と脛骨のあいだにあり,非常にまれには膝関節とつゴいていることがある(図448, 449, 451)

 6. 脛骨粗面皮下包Bursa subcutanea tuberositatis tibiaeは脛骨粗面の前にある.

 膝関節の周辺にあるその他の滑液包については筋学のところで述べる.

 膝関節の血管は非常に数が多く,太さも大きい.大腿動脈・膝窩動脈・前および後脛骨動脈から合計9本の枝が来て,それらが膝関節動脈網をつくっている.

 膝関節の神経は坐骨神経からの枝で,血管といっしょに走っている.

S. 321

 リンパ管は関節包の内側・後側・外側から出て(Baum. Anat. Anz., 67. Bd.,1927)膝窩リンパ節にいたり,そこからさらに深鼡径下リンパ節に達する.

 膝関節の力学:膝関節は一種の蝶番関節Ginglymusではあるが,なお大腿骨と脛骨の回旋運動もここで行われうることに注意すべきである,すなわち伸展の最終段階における強制的な回旋--終結回旋Schlußrotation(H. Virchow)と屈曲の最初の段階における強制的な回旋と,それから膝をまげた位置での自由な能動的な回旋とである.

 膝関節における屈曲と伸展は,大腿骨の両顆をほぼ横の方向に貫き下肢の構成軸Konstrzaktionsachseに直角に交わる回転軸を中心にして起る.すでに述べた回旋軸Kreiselungsachse(大腿骨頭の中央点と大腿骨の顆間窩を通る線)を,伸展した下肢で下方へ延長すると,脛骨の顆間隆起と腓骨躁とを通る.膝関節の屈曲面は回旋軸をふくみ,回転軸に垂直である.

 半月の本質的なはたらきは緩衝作用にある.

 大腿骨ならびに脛骨の終結回旋Schlußrotationは伸展の最終段階と強制的に結びついている.大腿骨が固定してい為ときは,脛骨の内側顆が腓側顆よりも前に出るので,脛骨が少しばかり外旋する.脛骨が固定しているときは,大腿骨の腓側顆は一杯に伸びきつた腓側側副靱帯によってひきとめられ,それ以上前へ回転することを妨げられるが,大腿骨の内側顆の方はさらに後方へ導かれる.こあ終結回旋のために上述の副関節面accessorische Gelenkflächeが存在するめである.終結回旋が終ると,下肢の各骨は単マの柱ともいうべき状態になり,終結回旋が逆の方向にもどされるまでは屈曲され得ない.つまり終結回旋は伸展に対してはこれを終結し,屈曲に対してはこれを誘起するのである.脛骨を終結回旋の位置にひきつづき固定しておくのに,腸脛靱帯Tractus iliotibialisという長い靱帯が働いている.この靱帯は腸骨稜の前部から起り,その他なお大腿筋膜張筋の腱および大臀筋の一部の腱をなし,脛骨の腸脛靱帯粗面に終る.直立にさいして,この靱帯は股関節において述べた腸骨大腿靱帯とよく似た張りかたをなし,かくして脛骨の固定に役だっているのである.

 膝を屈曲しておいて,脛骨をその長軸のまわりにかなり広範囲に回旋しうることは,自分の脚で容易に確かがることができる.

[図452] 右の大腿骨の軸 Aは内側,Bは後方,Cは前方から見たところ.bcは頭および頚の軸,deは膝関節の回転軸, aはそれを側方から見たところ,VVは鉛直線, KKは大腿骨の構成軸.(H. Meyer)

[図453] 右の下腿骨の軸Aは脛骨と腓骨を前方から,Bは外側から見たところ. aは腸脛靱帯粗面,VVは鉛直線で,図452の鉛直線のつづき,KKは構成軸.(H. Meyer)

S. 322

[図454] 右の膝関節(3/4)後方から.関節包は取り去ってある.

[図455] 膝関節 生体の右膝のレントゲン写真.  前方から後方へ照射(3/4)

S. 323

[図456] 右の下腿骨の結合 (4/7)

[図457] 右の下腿骨と足骨の前額断 断面を前方からみる.

 膝が伸展位から屈曲位に移るさいに膝蓋骨の運動は次のぐあいに起る.まず膝蓋骨の両関節面の下部(遠位部)が大腿骨の膝蓋面の上部(近位部)に接して,膝蓋骨の横隆起が中央に達するまで滑り,それから横隆起のまわりに転倒が起り,以後は膝蓋骨の両関節面の上部が膝蓋面の下部に接して滑るのである.

3. 下腿骨の結合すなわち脛腓連結Juncturae tibiofibulares (図451, 454, 456458)

 脛骨と腓骨は上端では強固な関節によって,下端では靱帯結合によって,また骨幹は骨間膜によって結合されている.

S. 324

[図458] 右の足関節 後からみる(4/5)  関節包はとり去ってある.

[図459] 右の足関節 内側からみる(4/5) 関節包と足指と中足骨の遠位部はとり去ってある.  *Lig. talocalcaneum mediale superficiale horizontale(Fick)

S. 325

a)脛腓関節Articulus tibiofibularis (図451, 454, 456)

 この関節をつくる骨は脛骨と腓骨である.

 関節面は脛骨に卵円形の腓骨関節面Facies articularis fibularis,腓骨に小頭関節面Facies articularis capituliがある.

 脛骨の関節面はたいてい平らで,ひさしのように伸び出した腓側顆の下面にあって,完全に脛骨の骨端部に属している.この面は後下外側に向いており,軟骨の被いは上縁で厚さが1.5mmあるが,下縁では0.5mmしかない.これに対して腓骨の関節面はたいてい少しくへこんでおり,脛骨の関節面よりいくらか大きい.そしてこの面は前上内側に向き,軟骨の厚さは上縁で1mm,下縁で0.5 mmである.

 関節包は2つの場所を除いて軟骨縁に付いている.関節腔は全例の約1/5 (R. Fick)で膝窩筋嚢に一従ってそれを介して膝関節に通じている.

 特別の装置としては腓骨小頭靱帯Ligg. capituli fibulaeという補強靱帯が前後にあ・り,前方のものは水平に,後方のものは上下に走る.

 この関節ではわずかな滑動が前から後へ, またはその逆の方向に起るだけで,その他の運動はほとんど言うに足らない(R. Fick).

b)下腿骨間膜Membrana interossea cruris(図456)

 脛骨および腓骨の骨間稜のあいだに下腿骨間膜が張っている.

 この膜は大部分が斜め下方へ走る線維でできているが,ほかの方向へ走る線維もある.この膜は上部では下部よりも幅が広く厚さがうすい.上部には前脛骨動静脈が通りぬけるための長めの孔が1つあいている.また下部には腓骨動静脈の穿通枝が通る小さい孔が1つある.

 骨間膜は脛骨と腓骨の結合に役だち,両骨がひきはなされるのを防いでいる.(両骨は腓骨小頭に付く大腿二頭筋腱によって,また下端でに距骨によって離開作用をうけ得るのである.)さらにこの膜は下腿の筋群に起始を提供している.

c)脛腓靱帯結合 Syndesmosis tibiofibularis (図456458)

 この関節をつくる骨は脛骨と腓骨である.

 関節面は脛骨の腓骨切Incisura fibularisと腓骨のこれに接する面である.前者は骨膜のみで被われており,後者は凸面をなすが時には凹面をなすこともあり,その骨膜には脂肪組織が豊富にまじっている.軟骨は相接する両面の下端部に,細い線状のかたちで稀に存在するだけである.

 特に関節腔というべきようなものはない.ただ両骨の下端のあいだに,距腿関節の関節腔から小さなすきまが1cmぐらい割りこんで来ており,そこに脂肪をもった滑膜ヒダがある.

 特別の装置として骨間膜のつづきをなすといえる1つの骨間靱帯があるが,そのほかに前方に太い靱帯が1つ,後方にいっそう強力な靱帯が1つある.すなわち:

 前脛腓靱帯Lig. tibiofibulare anteriusは両骨の下部の前面を斜めに下方へ,脛骨から腓骨へ走っている,1本の平たい線維条である.

 後脛腓靱帯Lig. tibiofibulare posteriusは同じようにして両骨の後面を走っている.

 この靱帯は2つの部分からなり,上部の方が幅が広く,その下方にさらに細くて長い線維束が,ほぼ水平に走っている.

 この遠位脛腓結合での運動は全く受動的のものである.すなわち足をつよく屈曲するときに両骨がはなれ,足を伸展するときに両骨がふたたび近よるといった運動である.

S. 326

[図460] 右の足関節(4/5)外側からみる.関節包は取りさってある.

S. 327

4. 足関節Articuli Pedis

 足と下腿の骨との関節結合が距腿関節Articulus talocruralisである.その次に各足根骨のあいだの関節すなわち足根間関節Articdli intertarseiがあり,さらにその次に足根骨と中足骨との結合である足根中足関節Articuli tarsometatarseiと,中足骨どうしの結合すなわち中足骨間関節Articuli intermetatarseiがある.また中足骨と基節骨の結合は中足指節関節Articuli metatarsophalangici,各指節骨のあいだの関節は[足の]指関節Articuli digitorum pedisとよばれる.

1. 距腿関節Articulus talocruralis (図457463, 467)

 上距骨関節oberes Sprunggelenkともいうべきこの関節は脛骨と腓骨と距骨とからなっている.

 関節面は脛骨の遠位関節面Facies articularis distalisと踝関節面Facies articularis malleoli,腓骨の踝関節面, それに距骨滑車の近位面Facies proximalisと脛側および腓側踝面Facies malleolaris tibialis, fibularisである.脛骨と腓骨は洗濯ばさみのように距骨滑車をはさんでいる.距骨滑車の幅は前の方がうしろより広い.

 脛骨の遠位関節面は斜めに下内側へ傾いており,前後方向に凹の弯曲をなす.この面には矢状方向に走る1本の高まりがあって,距骨の近位面のこれに対応する溝にはまって滑る.軟骨はこの面の中央で厚さ約2mmである.腓骨の踝関節面(2~2.5 cm)にくらべると脛骨の関節面(1~1.2cm)は丈がひくい.

 距骨滑車は矢状断ではほぼ円形で,その半径は約2cmである.またその中心角は約120°で,脛骨の遠位関節面のそれより大きい.滑車の内側縁はぼまっすぐ前方へ走っているが,外側縁は前外側へ走るので,滑車の幅が後方より前方で広くなっている.さらに滑車の外側縁は内側縁より高いので,滑車面は内側下方へ傾いている.

 関節包は軟骨で被われた関節面の縁から起り,その範囲は距骨滑車の近位関節面から距骨の頚に少しはみ出しているだけである.関節包は内外の両側面では固く,前とうしろではゆるくできている.

 関節腔は完全に独立しており,脛骨と腓骨のあいだにある深さ約icmのすきまに続いている.横走するかなり大きい滑膜鐡襞が関節包め前壁と後壁に1つずつある.

 特別の装置として6つの側副靱帯があへそのうち3つが脛骨踝から,他の3つが腓骨踝から起る.脛骨からの3つの靱帯は密に相接して三角靱帯Lig. deltoidesとよばれる三角板を形成する.

 三角靱帯の脛舟部Pars tibionavicularisは幅およそ5mmで,脛骨踝の前縁と先端から起って,舟状骨の上面と内側面につく(図459, 463)

 三角靱帯の脛踵部Pars tibiocalcanearisは幅およそ1cmで,はなはだ丈夫である.脛骨踝の外面から起って踵骨の載距突起につく.その最前部の線維束は踵舟靱帯に移行している(図457, 459)

 三角靱帯の脛距部Pars tibiotalarisはFickによれば幅およそ15mm,厚さ約5mmである.後脛骨筋の腱鞘によって被われ,脛骨踝の下縁から起って斜め下方に走り,距骨滑車の脛側踝面の縁につく(図458, 459)

 前距腓靱帯Lig. fibulotalare anteriusは腓骨踝の前縁から起り,距骨滑車の腓側踝面の前縁につく.幅は約1cmで,あまり丈夫なものではない(図460, 463).

 踵腓靱帯Lig. fibulocalcaneareは腓骨踝の前縁の下部から起り(先端からは起らない),斜め後下方に走って踵骨の外側面につく.幅8mm,厚さ5mm,長さ2cmほどである(Fick).この靱帯の外側を長・短腓骨筋の腱が走っている(図457, 458, 460, 463)

 後距腓靱帯Lig. fibulotalare posteriusはほぼ水平に走る.腓骨踝窩から起り,距骨の近位突起につく.この靱帯は3つの外側の靱帯のうちで最もつよい(図458).

S. 328

 距腿関節の力学:これは蝶番関節で,その運動は,脛骨踝の先端の少し下を通って距骨を横に貫く水平軸を中心にして行われる.脛骨と腓骨の下端は結合して1つの洗濯ばさみのようになって,幽距骨滑車をはさみこんでいるので,靱帯がかたくて,しかも足を背屈し,ているときには,側方への運動は不可能である.しかし足が底側へ屈曲すればするほど, ぐらつき運動の可能性が増大する.この場合には距骨滑車の幅のせまい後部が,下腿骨の二叉のあいだに,ゆるくはまりこむことになるからである.

 リンパ管は後脛骨静脈に沿って上方へ走り,膝窩リンパ節にいたる(Baum. Anat. Anz. 67. Bd.,1929).

[図461] 距腿関節と距踵関節の関節腔(模型図) 右の足根骨の近位部を通って前額断した切り口を,後方からみたところ.(1/2) a踵骨,b腓骨, c距骨, d脛骨, 1後距腓靱帯,2踵腓靱帯,3三角靱帯の脛距部,4同じく脛踵部,5骨間距踵靱帯.1と3のあいだに距腿関節,2と5のあいだに距踵関節の各関節腔がある.

[図462] 足関節の関節腔(模型図) 左側の足根骨と中足骨を斜めに切った断面. (1/2) 脛骨の下端・足根骨・中足骨を通って,斜めに近位内側から外側下方へと切断してある.a脛骨,b距骨体,c距骨頭,d踵骨体,e踵骨隆起,f踵骨頭,g舟状骨,h立方骨,i, k, l第1・第2・第3楔状骨,m, n, o, p, q第1~第5中足骨,1は骨間距踵靱帯.距腿関節・距踵関節・距踵舟関節・踵立方関節はそれぞれ閉じた滑液腔をもっている.舟状骨と3つの襖状骨のあいだの関節は1つの共通した滑液腔をなして閉鎖している.足根骨と中足骨のあいだには3つの滑液腔がある(時にはそれが2つしかない).

2. 距踵関節Articulus talocalcanearis

 後距骨関節hinteres Sprunggelenkともいうべきもので,距骨と踵骨によってつくられる.

 関節面は距骨の近位踵骨関節面Facies articularis calcanearis proximalisと踵骨の近位距骨関節面Facies articularis talaris proximalisである.前者はかどのとれた矩形の輪郭をもつ凹面で,後者は凸面である.

 関節包は薄くてゆるやかで,軟骨縁の近くについている.

 関節腔は独立しているが,年とった人では距腿関節とつづいていることが珍しくない.

 特別の装置として次の2つの靱帯がある.

 1. 内側距踵靱帯Lig. talocalganeare tibialeは足根洞Sinus tarsiの内側部にある.

 2. 腓側距踵靱帯Lig. talocalcaneare fibulareは前距腓靱帯の付着するところより下方で距骨の外側面から起り,踵骨の外側面につく(図460, 463).

 その他なおFickによってとくにLig. talocalcaneum mediale superficiale horizontale(水平浅内側距踵靱帯) (図459, 464)と名づけられた靱帯がある.これは距骨近位突起から起って踵骨の載距突起にいたるものである.

S. 329

[図463] 右の足関節(4/5) 足背のがわからみる.関節包・指骨・中足骨の遠位部はとりさってある.

 *短腓骨筋の腱

3. 距踵舟関節Articulus talocalcaneonavicularis

 前距骨関節vorderes Sprunggelenkともいうべきもので,距骨・踵骨・舟状骨によってつくられている.

 関節面は軟骨で被われた骨面だけでなく,踵舟靱帯Lig. calcaneonaviculare(距骨頭の下方を走り,これを下から支えている靱帯)の表面も関節面の一部をなしている.次の関節面が骨にある.まず距骨の遠位および中踵骨関節面Facies articularis calcanearis distalis, mediaは踵骨のこれに対応する面すなわち踵骨の遠位および中距骨関節面と結合している.さらに距骨頭の関節面は,舟状骨の近位面のこれに対応するくぼみの中で滑る.これに加えて軟骨で被われた踵舟靱帯の関節面があるわけである.距骨と踵骨の遠位および中関節面は,ときには高度に,ときにはわずかに合一し,あるいはまた完全に分離していることもある.

S. 330

 関節包はほとんど全域で関節面の軟骨縁のすぐきわから起っている.踵舟靱帯の内面には関節包がない.

 関節腔は多くの場合ひとつジきの腔所をなしている.しかし距骨と踵骨の遠位関節面ど中関節面とが全く分離しているときには,距骨と踵骨の中関節面相互のあいだの関節腔が,独立した関節包によってその全周を閉ざされていることがある.

[図464] 右の足関節(4/5) 足底のがわからみる.関節包.指骨・中足骨遠位部は除いてある.(H. Virchowの標本)

特別の装置としては多数の補強靱帯がある.

1. 骨間距踵靱帯Lig. talocalcaneare interosseum:距骨溝の中で起って踵骨溝の中に付くもので,脂肪組織および足根洞嚢Bursae sinus tarsiとともに足根洞をみたしている.この靱帯は近位内側方から遠位外側方へ走るかなりの数の平らな線維束の集りである(図460, 462).

2. 踵舟靱帯Lig. calcaneonaviculare:これは重要な靱帯で,載距突起と踵骨の遠位内側の角から起って,舟状骨の内側面および下面につく.厚さはしばしば5mm以上ある.この靱帯の背側面には,距骨頭が接触して滑るところに,線維軟骨性の関節面がある.

 この関節面は時どき石灰化しているが,まれには骨化していることもある(図464).

S. 331

 踵舟靱帯の意義は距骨頭を下から支えることにある.この靱帯がゆるむと,距骨頭が底側へおしやられ,足の円蓋が平らになって,いわゆる扁平足Plattfußになるのである.

3. 二分靱帯の踵舟部Pars calcaneonavicularis lig. bipartiti:二分靱帯Lig. bipartitumumはSchltisselband des Chopartschen Gelenkes(ショパール関節の鍵をなす靱帯の意)とも呼ばれるもので,yまたはv字形の靱帯である.外科学で重要なものであるが,くわしくはショパール関節の項を見られたい.

 この靱帯は踵骨の遠位背側縁, すなわち遠位距骨関,節面と立方骨関節面のあいだの稜から起り,2つの束に分れる.外側の線維束は二分靱帯の踵立方部Pars calcaneocuboidea lig. bipartitiとよばれ,立方骨の背側面にいたる.内側の線維束が二分靱帯の腫舟部であって,舟状骨の近位背外側のかどにつく(図460, 463).

4. 距舟靱帯Lig. talonaviculare:距骨頚の背側面から舟状骨の背側面にいたる(図460, 463).

4. 踵立方関節Articulus calcaneocuboideus

 この関節をつくっている骨は踵骨と立方骨である.

 関節面は踵骨の簸簿をなす立方骨関節面Facies articularis cuboideaと,これと対応した形を呈する立方骨の近位関節面である.

 関節包は内側ではかたく張っているが,外側ではゆるやかで軟骨縁から少しはなれたところに付いている.関節腔はたいてい近隣の関節から全く独立している.しかしFickは距踵舟関節との結合を少なからず見ている.

 特別の装置としては次の補強靱帯がある(図463, 464, 467).

 1. 二分靱帯の踵立方部Pars calcaneocuboidea lig. bipartiti:上にくわしく述べた二分靱帯の外側部である.立方骨の背側面につく.

 2. 背側踵立方靱帯Lig. calcaneocuboideum dorsale:踵骨の背外側面から起り,立方骨の背側面につぐ.

 3. 底側踵立方靱帯Ligg. calcaneocuboidea plantaria:幅の広い靱帯で,踵骨の底側面の遠位端から起り,扇状に前方にひろがって立方骨粗面につく(図464).

a)長足底靱帯Lig. plantare longum:足のすべての靱帯のうちで最も長いもので,踵骨隆起の脛側および腓側結節の基部と,両結節間のくぼみとから起り,さらに踵骨の底側の大きい縦の隆起の全表面から起り,放射状に前方へひろがって中足骨の底につく.このさい最も表層(底側)の線維束は立方骨の長腓骨筋腱溝を越えて伸び,これによって長腓骨筋の腱の通る管がつくられている.深層(背側)の線維束は立方骨粗面につく(図464).

b)横底側踵立方靱帯Lig. calcaneocuboideum plantare transversum

c)斜底側踵立方靱帯Lig. calcaneocuboideum plantare obliquum

ショパール関節Chopartsches Gelenk(図467)

 距踵舟関節と踵立方関節とをいっしょにして,外科学ではショパール関節とよぶ.両関節の関節腔隙の背側稜は,足の長軸に対して横におかれたS字をなす1本の曲線をえがいている.このSは内側(脛側)部が前方へ凸であり,外側(腓側)部が後方へ凸である.両関節はショパール関節という名のもとに総括されるが,両者の関節腔はほとんど常に分離している.両関節が1つの名称にまとめられているのは,全く臨床的な見かたによるもので,二分靱帯がきれると,足のこの場所から遠位部が容易に分離するからである.この靱帯についての知識は手術を行う上で重要である.この靱帯を切断すると,はじめて関節腔が開く.それでこの靱帯はSchtüsselband des Chopartschen Gelenkes(ショパール関節の鍵をなす靱帯)とよばれるのである.

S. 332

5. 楔舟関節Articulus cuneonavicularis

 この関節をつくる骨は舟状骨と3つの楔状骨である.

 関節面は3つの小面に分れた舟状骨め遠位面と,3つの楔状骨の各近位面である(図467).

 関節包は関節面の縁のすぐきわに付いている.

 関節腔は第2と第3の足根中足関節,第1と第2の中足骨間関節につながり,さらに時どき楔立方関節とも通じている.

 特別の装置として背側足根靱帯Ligg. tarsi dorsalia,底側足根靱帯Ligg. tarsi plantaria,骨間足根靱帯Ligg. tarsi interosseaがある(図459, 460, 463, 464, 467).

 変異:舟立方関節Articulus naviculocuboideus

 これは舟状骨と立方骨のあいだの存在不定な関節である.関節面は舟状骨の外側縁と,立方骨の近位内側稜にある.この関節は1~2cmの大きさ(Bohnengröße)になることがある(Fick).

 補強靱帯背側足根靱帯Lig. tarsi dorsale(図460, 463)の1つと,斜立方舟靱帯Lig. cubonaviculare obliquum(図464)とである.

6. 楔立方関節Articulus cuneocuboideus

 この関節もまた必ずしも存在するものではない.立方骨の関節面は図346eに,第3楔状骨の関節面は図342eに示してある(図467).

 補強靱帯として背側足根靱帯Ligg. tarsi dorsalia(図460, 463),底側足根靱帯Ligg. tarsi plantaria,骨間足根靱帯Lig. tarsi interosseumがある(図467).

7. 足根中足関節Articulus tarsometatarsei,(リスフラン関節Lisfrancsches Gelenk) (図467)

 この関節をつくる骨は3つの楔状骨と立方骨,ならびに第1~5中足骨である.

 関節面は楔状骨と立方骨の遠位面, および中足骨の底の近位関節面である.中足骨の近位関節面のうち,第1中足骨の関節面はしばしば鞍状をなすという(L. FickとR. Fick)が,このことは著者じしんの経験でも確かめることができた.

 関節隙は一様な走り方をせず,何度も折れまがっている.とくに第2中足骨は,第2楔状骨が小さいために,第1および第3楔状骨のあいだで,それらより近位方へ割りこんでいる.外科学ではこの関係をよくのみこんでおくことが大切である.

 関節包はたがいに分離したものが3つ存在するのがふつうである(図462).第1の関節包は第1楔状骨と第1中足骨のあいだの1足根中足関節Articulus tarsometatarseus Iに属し,第2のものは第2・第3楔状骨と第2・第3中足骨のあいだの関節に,第3のものは立方骨と第4・第5中足骨のあいだの関節に属する.関節腔は第1と第3のものがたいてい完全に閉ざされているのに対し,第2のものはほとんど常に楔舟関節および中足骨間関節(第2・第3.第4中足骨のあいだの関節)とつながっている.

 特別の装置としては背側と底側に補強靱帯があるほか,骨間靱帯も存在する.すなわち背側および底側足根中足靱帯Ligg. tarsometatarsea dorsalia, plantaria(図460, 463, 464),骨間楔中足靱帯Ligg. cunqohletatarsea interossea(図467)がある.

8. 中足骨間関節Articuli intermetatarsei

 この関節は3つしか存在しないもので,第2~第5中足骨底が隣りどうし接しあう面によってつくられる.関節包も関節腔もたいていは独立せず,足根中足関節とつながっている.

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 特別の装置としては背側および底側中足骨底靱帯Ligg. basium ossium metatarsi dorsalia, plantariaという補強靱帯(図460, 463, 464)が隣りあう骨のあいだを斜めに走っているほか,骨間中足骨底靱帯Ligg. basium ossium metatatarsi interossea(図467)という骨間靱帯が関節隙の遠位がわに張っている.

 5つの中足骨のあいだにある4つのすきまは中足骨間隙Spatia interossea metatarsiとよばれる.

9. 中足指節関節Articuli metatarsophalangici (図460, 465, 466)

 この関節をつくるのは,5つの中足骨と,足の指の基節骨である.

 関節面は中足骨の小頭と基節骨の底である.

 小頭の関節面はほぼ球形であるが,小頭の足底に面する部分では,弯曲が長軸方向で弱くなっている.基節骨の関節窩は卵円形をなし,小頭の関節面より小さくて浅い.

[図465] 足の指の靱帯 (1/2)a中足骨,b基節骨,c中節骨,d末節骨,1中足基節

 関節の側副靱帯,2底側副靱帯,3, 3指関節の側副靱帯.

[図466] 足関節の矢状断 右足の母指のほぼ中央をとおる面で切ってある(1/3) 

 a 脛骨,b 距骨,c 踵骨,d 舟状骨,e 第1楔状骨,f 第1中足骨,g 基節骨,h 末節骨,i 種子骨.

 関節包は非常にゆるやかである.背側面と内外両側面では軟骨縁のすぐきわから,底側面では軟骨縁から5mmはなれたところから起っている.関節包の背側部ははなはだ繊細で,伸筋の腱とつながっている.底側面には,相当する手の関節におけると同様のものとして,底側線維軟骨板Lamina fibrocartilaginea plantarisがある.

 特別の装置としては非常に強い側副靱帯Ligg. collateraliaが,内側と外側に1つずつある.

 中足骨小頭の側面でやや背側に寄って存在する,深いくぼみと高まりから起り,斜めに底側前方へ走り,基節骨の関節窩の側方にある小結節につく.しばしば外側の側副靱帯の方が内側のそれより強い,側副靱帯から底側の方に放散する線維束は底側副靱帯Ligg. accessoria plantariaとよばれる.底側線維軟骨板は名の示すように線維軟骨でできており,基節骨の関節窩の底側縁から起る.関節包の底側部を補強し,また関節唇として関節窩を広くするのにある程度役だっている.その中には種子骨が存在する.この線維軟骨板は横中足骨小頭靱帯とつながり,屈筋の腱鞘の背側壁をつくっている.

 横中足骨小頭靱帯Ligg. capitulorum ossium metatarsi transversaはすべての中足骨の底側面のあいだに張っており,足の外側部より内側部で厚い.

 この靱帯は中足指節関節の諸靱帯とつながっている.

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この靱帯の背側には骨間筋Mm. interosseiがあり,底側には虫様筋Mm. lumbricalesのほか,指の底側の血管や神経がある.

 第1中足指節関節の関節包に接して,くわしくいえば,すでに述べた底側線維軟骨板の中に,常に2つの種子骨がある.1つは内側(脛側),他は外側(腓側)にあって,第1中足骨の深い溝の中を滑る.

 Pfitznerは第5指の関節包に6.2%の頻度で外側の種子骨を見いだし,5.5%に内側の種子骨を認めた.また第2指の関節包には内側の種子骨が1.8%に見られた.

10. [足の]指関節Articuli digitorum pedis (図460, 465, 466)

 基節骨と中節骨のあいだと,中節骨と末節骨のあいだに,合計9つの同じつくりの指関節があり,その構造は相当する手の指関節とだいたい同じである.

 中節骨と基節骨の遠位端にある関節面は滑車をなしており,中央に1本の導溝Führungsrinneをもっている.中節骨と末節骨の底にあってこれに対応する面は,導隆線Führungsleisteのついた浅い関節窩をなしている.しかし中節骨と末節骨のあいだの関節では,滑車の導溝と関節窩の導隆線は,あるかないかの程度のことが多い.

 関節包は関節窩では軟骨縁のすぐきわに付き,滑車では軟骨縁からいくらか離れたところに付いている.

 関節包は背側では薄くて,伸筋の腱と癒着している.底側では中足基節関節におけると同様の線維軟骨板をもっている.

 特別の装置として側副靱帯Ligg. collateraliaがある.

 これは滑車の側面の背側寄りにあるくぼみから起り,斜めに底側前方へ走って対応する指骨の底につく.血管と神経は近隣の指動・静脈および指神経Vasa et Nervi digitalesから来る.

 中足指節関節と指関節のリンパ管は各関節の内側と外側に出てくる.このリンパ管は足背では8ないし10本の小幹となり,近位方にゆくほどに集まって,2ないし4本にまとまり,大伏在静脈に沿ってすすみ,浅鼡径下リンパ節にいたる.

 しかし母指の中足基節関節からは足底の側へ1本のリンパ管が出て,第1中足骨商隙を通って足背に現われ,前脛骨動・静脈に沿うで上行し,膝窩リンパ節に達する.

 第2~第5指の中足基節関節からも,同様にそれぞれ1つのリンパ管が足底面に現われる.これらは合流して,足底動脈弓.腓側足底動脈・後脛骨動静脈に沿って膝窩リンパ節にいたる(Baum. Anat. Anz., 67. Bd.,1929).

足根間関節および足根中足関節の力学

 機能的にみると,足根は近位部と遠位部に分けて考えるべきで,前者には自由な関節があるのに対し,後者では骨が半関節によって結合している.

 遠位部は中足骨と3つの楔状骨からなる.そして第2と第3の中足骨は,3つの楔状骨と固く結合して一体をなしているのに対して,第1中足骨と第1楔状骨,第4・第5中足骨と立方骨の結合は,ある程度の可動性をもっている.

 近位部をこは距踵関節・距踵舟関節・踵立方関節がふくまれる.

 力学的にみると,これらの結合は解剖学の記載とは違ったぐあいに分けられるべきである.たとえば距骨は踵骨とのあいだに全く分離した2つの関節をもっているが,これらは機能的には1つのものなのである.また他方, 距踵舟関節は力学的にみると距骨・舟状骨間の結合. E距骨・踵骨間の結合との2部分からなるが,後者はすでに述べたように機能的には距踵関節と一体をなすものであるから,'次の3つの結合があるわけで,それらの機能について述べる.

 1. 矩骨と踵骨のあいだの結合,2. 距骨と舟状骨のあいだの結合,3. 踵骨と立方骨のあいだの結合.

 まず強調しておくことは,これらの3つの結合は多くの関節靱帯があるために,各個別々には用いられないということである.むしろその運動はたがいに強制的に関連し合っているのであって,たとえばつまさぎを内側(脛側)へ外転すると,同時にその内側縁がもち上り(回外Supination),つまさきを外側(腓側)へ外転すると,足の内側縁が下がる(回内Pronation).

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 1. 距骨と踵骨の結合:距骨の近位関節面は凹,踵骨のそれは凸であるのに苅し,距骨の遠位および中関節面は凸,踵骨のそれらは凹である.しかしそれにもかかわらず,この結合には単一の,しかもしっかり固定した回転軸が存在するのである.この回転軸は両関節部分のあいだの中央を通り,踵骨隆起の底側稜に出るもので,水平に対して約45°に傾き,遠位端がいくらかより内側にある.

 この結合は踵骨の関節面の弯曲が均等でないためにち多少複雑なものになっている.近位関節面では近位部の方が強く弯曲しているので,運動時には距骨と踵骨のあいだにすぎまができており,直立姿勢のような静止位置においてだけ,両骨が完全に接触するのである.

[図467] 右の足関節 (4/5) 足背の側からみる.

 骨の背側部は凍結標本をヤスリでけずることによって除いてある.中足骨の遠位部と指骨はえがいてない.

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踵骨の遠位および中関節面では,載距突起に属する近位部がいっそう上方にぬきんでているので,外転運動にさいして,距骨頭がどうしてもこの面の端へ登ることになる.しかしそのために靱帯が緊張して,この運動が抑制されることになる.

 2. 距骨と舟状骨の結合は一見したところ球関節のようにみえる.これは距骨頭が水平方向にも垂直方向にも凸の弯曲をなすからである.ところが実際には,これも1軸関節なのであって,その軸は距骨頭の中央を通らずに,距骨頭の上縁のすぐ上方からはいって,斜めに足底に向って走っている.従ってこの軸は舟状骨を通ることなく,その背側をよぎるのである.この軸の上端はさらに内側へも向いている.距骨頭の弯曲も正確には球面の一部ではなく,背側と内側から圧縮されている(榿の1種Pomeranxeに似るとHenkeはいう).

 3. 踵骨と立方骨の結合は踵骨の立方骨関節面がほぼ水平の方向に凸で,それと直角の方向に凹であるために,一見して鞍関節にみえるが,実際にはこれもまた1軸関節であって,その軸は踵骨では関節面の最内側でしかも最も後方にひつこんだ隅を通り,従って立方骨では踵骨のこの部分にはまりこむ下内側隅の栓状の突起を通っている.この軸は3つの軸のうちで最も平らな,すなわち最も水平線に近い軸であるが,遠位端が近位端よりも少し高い.

 中足基節関節および足の指関節の力学は手のこれらに相当する関節と同じであって,前者は球関節,後者は蝶番関節である.

 R. Fick, Über die Bewegung und die Muskelarbeit an den Sprunggelenken des Menschen. Sitzber. Akad. Wiss. Berlin 1931.

足の全体について

 下肢は足という,平板でなく円蓋をなすものを介して,地面をふみつけている.距骨はこの円蓋の要石ともいうべきもので,同時にまた骨性の関節円板をもなしている.

 足の円蓋には高い母指弓Großzehenbogenと低い小指弓Kleinzehenbogenがあることが容易に知られる.そして内側の母指弓から外側の小指弓へと弓なりに低くなっており,そのためNischengewölbe(半円蓋,Nischeは壁の凹所) (Szymanowsky)のかたちをしている.両足の半円蓋が対称的に並べて置かれると,完全な円蓋Kuppelgewölbeのかたちが生じる.そしてこのような円蓋に,大腿と下腿の骨を介して体重がかかるのである.

 半円蓋の支持点(脚)をなすのは踵骨隆起のほか,遠位方の主要な支持点として第3中足骨の小頭,側方の支持点としてその他の中足骨がはたらいている.なお第5中足骨粗面も,側方の支持点をなすものと見ることができる.母指と第1中足骨は,むしろ歩行のとき足を地面から離すのに役だつのである.

 生理学的な立場から,複雑な靱帯装置のはたらきを判定しようとするときドそして同時にこの円蓋が直立,と歩行に当っていろいろ異つたぐあいに役立つものであることを考えるとき,これらの靱帯は前に述べたのとは違ったまとめ方で分類されることになる.すなわちH. Meyerは以前に次の4つの主要な靱帯群を分けたのである:

 1. 指骨の横の結合と,遠位列足根骨の横の結合.

 2. 底側の縦走線維束.

 3. 背側の内側および外側の線維束.

 足の円蓋は静力学的にいろんなふうに利用されるが,それを分類するのはむつかしいことではない.

 1. 足底立ちSohlenstand :これはすでに述べた.

 2. 母指立ちGroßzehenstand:第1中足骨の小頭の上に足の円蓋をもち上げて立つ.

 3. 小指立ちKleinzehenstand:外側の小頭,とくに第3中足骨の上に足の円蓋をもちあげて立つ.

 これら3つの使用型はふつう用いられる範囲内のものである.これに対して足円蓋の普通でない使用型として,踵骨隆起の上にこの円蓋をもちあげるかかと立ちHackenstand,足の外側縁で立つ型,足の内側緑の突出した部分で立つ型などがある.

 重要なことは,これらの型のうち次の4つが足円蓋の病的変化として,足の病理学において大きな意味をもつことである,それは踵足Hackenfuß,尖足または馬足Spitz-oder Pferdefuß,扁平足Plattfuß,内反足Klumpfußである.

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直立Stehen

 直立とはからだの重心が,一方または両方の足の下に被われた地面, あるいは両方の足のあいだにはさまれた地面で,ささえられるような姿勢である.直立姿勢においては,骨格の作用によって,筋肉の使用ができるだけ少い状態で体が支えられる.

 最も安定した直立姿勢は,全身の重心(仙骨管の上部)から下がる重力線が両足の主支持点のあいだのほぼ中央を通るときである.これは両側の下肢軸を水平面に対して83~84°の角度で後下方へ傾ける場合にだけ可能である.このとき全身の重力線は股関節軸Hüftachseの5cm後方,踝軸Knöchelachseの3cm前方を通る.下肢の安定は距骨が脛骨踝と腓骨課によってつくられる二叉のあいだに固定されることと,膝関節が固定することによってもたらされる.

 その後に次のような見解が正しいとされるに至つた.直立時に膝関節が固定されて,膝の曲がるのが防止されているのは,特別の機構によるのではなく,体重の作用だけで充分その目的を達しているのだという.すなわち重力線が膝の屈曲軸の前に落ちるやいなや,重力は膝を屈曲させないで,それを伸展させるようにのみ働くめである(Haycraft, R. du Bois Reymond).

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最終更新日 13/02/04

 

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