Rauber Kopsch Band1. 32

B.筋学各論Spezielle Muskellehre

I.体幹の筋

A.背筋Musculi dorsi, Rückenmuskeln

 背部の筋を2群に大別し,それぞれを更に2つに分けることができる. 

I.浅層のもの

1. 背部にあって体肢に関係するもの;僧帽筋M. trapezius, 広背筋M. latissimus dorsi, 菱形筋 Mm. rhomboides, 肩甲挙筋M. levator scapulae;

2. 背部の肋骨筋;上下の後筋鋸Mm. serrati dorsales;

II. 深層のもの

3. 長い背筋群;

狭義の背筋

4. 短い背筋群.

第1群:背部にあって体肢に関する諸筋

1. 僧帽筋M. trapezius.(図482)

 左右の筋がいっしょになって四辺形をしている.僧帽筋という名称は,この筋の下半分が僧帽あるいはマントの頭巾に似ていることに由来している.

 僧帽筋は扁平であり,しかもその各部分でいろいろと厚さが違っている.この筋は薄い腱をもって界上項線あるいは分界項線,外後頭隆起からおこり,更に短い腱をもって項中隔, 第7頚椎および胸椎全部の棘突起と棘上靱帯とから起る.下部の頚椎と上部の胸椎の範囲ではこの筋に1つのかなり大,きい菱形の腱鏡Sehnenspiegelがある.この筋は下行,横走および上行する筋束をもって肩帯に向い,鎖骨の外側1/3,肩峰ならびに肩甲棘に付着している.

 神経支配:副神経,頚神経叢.

 脊髄節との関係:C. II, III, IV.

 作用:この筋は肩甲骨と鎖骨の外側端を引きあげ,肩甲骨の椎骨縁を内転させる,下部の線維は肩甲骨を下方に引く.上部の線維は両側がはたらくときには頭を後方に曲げ,1側がはたらくときには頭を回す.

S. 353

 変異

(日本人の僧:帽筋の完全欠如に近い例が報告されている(狩谷慶喜:北越医学会雑誌, 51巻,1139~1142,1936).また鎖骨停止部の変異が胎児および新生児125体のうち5体,8側にみられた(山田迪:解剖学雑誌,7巻, 337~347,1934).)

筋の二分Zweiteilungは,中心腱膜の高さに見られるものが最も多い分岐の型である.筋の左右がわずかに非対称であることは,ほとんど毎常見られることである.筋起始の減少は,男性よりも女性にいっそう多く見られるという.極端に僧帽筋起始が減少している場合にはその上方はわずかにC. IVまで,また下方はTh. VIII, IX, Xまで存在するに過ぎない.鎖骨部を欠如することもある.過剰筋束は,時にこの筋の上部の前縁に見られ,これを鎖骨後頭筋束Fasciculi cleido-occipitalesといい,これが胸鎖乳突筋の鎖骨部に加わることがある.この筋束は,しばしば頭蓋骨に付着しないで上位頚椎の肋横突起に停止し,特に環椎に終ることが最も多く,これを鎖骨環椎筋M. cleido-atlanticusという.また三角筋と結合することもある.

2. 広背筋M. latissimus dorsi. (図482, 483, 500, 501)

 これは比較的薄い筋であって,直角三角形の形をして背の下部を被っている.この筋は,上部では僧帽筋に被われて下部5~7胸椎の棘突起,腰背筋膜,腸骨稜の後部および下部3~4肋骨から起る.筋線維は,横及び外側上方に向い肩甲骨下角を越えて上腕骨に向って走り,扁平な腱となって大円筋を前方に回り小結節稜に付着する.

 上部筋束は横の方向に走るが,それ以下の筋束は下方から起るものほど斜め上方に向い,肋骨から起る外側の筋束は最も強い傾斜をなしている.肩甲骨下端を越えて走る部分は,広背筋膜が棘下筋膜と結合することにより,筋の上縁はわずかにS状の弯曲を示す.肋骨からの起始部は,外腹斜筋下部の鋸状部と噛みあう.

 筋の上部の横走部は,肩甲骨下角を越えて走るが,この部分には肩甲骨に始まる筋束が見られることが非常に多い(これを肩甲骨部Portio scapularisという).

 外腹斜筋後縁, 広背筋前縁および腸骨稜の間にはしばしば筋質を欠く三角形の部分が見られ,内腹斜筋がその底をなしている.この三角形の部分は,腰三角Trigonum lumbaleと呼ばれる(372頁参照).

 神経支配:胸背神経による.脊髄節との関係:C. VI,  VII,  VIII.

 作用:この筋は挙上した腕を下方に,また垂下した腕を背方および内側方に引く,上方の筋線維は肩甲骨を胸郭に圧迫する.肋骨からの起始部は,腕を固定した場合には肋骨挙上の補助筋としてはたらく.

 変異:個々の筋束に分離することがある.棘突起,腸骨稜および肋骨における筋起始の欠如あるいは増加がありうる(肋骨からの起始部についてはFrey, Vierteljahrsschr. naturforsch, Ges. Zürich 1918参照).腰三角の形は,この筋が腸骨稜から起るぐあいによって異る.肩甲骨下角から出る副筋束は,大体いつも見られる.広背筋停止腱は,大円筋の腱と分けられないことが多い.過剰筋束としては,広背筋の外側縁において非常に不定であるが腱性あるいは筋性の索が7~8%(W. Krause,  Le Double)に見られる.これは広背笏の外側縁から分れてでて,腋窩を超えて,多くは大胸筋腱の後面に終るが,また他の場所にも停止することがある.この筋束に対してランゲル腋窩弓“Langer-scher Achselbogen”という名称を用いる.

 他の副筋束としては,長肘筋M. anconaeus longus(Henle),または広背顆筋M. latissimocondyloideus(Bischoff)とよばれるものがある.これは約5%に見られ,広背筋の腱または筋腹に始まり,上腕筋膜,上腕三頭筋,上腕骨に終り,なお遠く前腕の筋膜にも停止することがある.Ruge, G., Morph. Jahrb., 48. Bd.,1914.--Bluntshli,  Morph. Jahrb., 41. Bd.,1910.

3. 大,小菱形筋Mm. rhomboides minor et major, Rautenmuskel. (図483)

 小菱形筋は,僧帽筋におおわれ,短い腱線維をもって第6および第7頚椎の棘突起から起って,斜め外側に走り肩甲棘の底に達する.大菱形筋は,小菱形筋に接し,いくぶん長い腱線維をもって第1ないし第4胸椎の棘突起に始まり棘下窩の高さで肩甲骨椎骨縁に付着する.

 神経支配:肩甲背神経による.脊髄節との関係:C. (IV)V.

 作用:この筋は肩甲骨を内側方および上方に引く.

S. 354

[図482]背筋群(第1層)

S. 355

 変異:大小の両菱形筋はしばしばたがいに融合している.小菱形筋の起始は第4頚椎にまで達していることがあり,稀には後頭骨にまで達する.これを後頭肩甲筋M. occipitoscapularisあるいは菱形肩甲筋M. rhomboideoscapularisという.起始の数が普通より減少していることもある.

 この筋が肩甲骨に付着する広さが,普通よりも広いかまたは狭いかということは,起始の数が普通より多いか少いかに伴うのである.広背筋および大円筋との結合もみられる.

4. 肩甲挙筋M. levator scapulae. (図483, 484)

 この筋は第1~第4頚椎の肋横突起の後結節から4本の筋束をもって起り,つよく傾斜して下方に走り肩甲骨の上角に達してここに付着し, また短い腱束をもって棘上窩のところで肩甲骨の椎骨縁に付いている.環椎から起る筋束が最も強大であって,他の筋束は幅の狭い起始腱をもってはじまる.

 神経支配:III~V頚神経の枝が上下にならんでこの筋に達する.

 脊髄節との関係:C. III, IV, V.

 作用:この筋は肩甲骨を前上方に引く.

 変異(肩甲挙筋の変異として停止の2裂,迷走筋束とが28体のうち15体(53, 6%),24側で認められた.(進藤篤一:医学研究,12巻,2223~2233,1938).):個々の筋束がしばしば分れている.下部の起始頭の欠如による起始の減少はその増加よりもいっそうしばしばみられる.起始の数が普通よりも増しているときには,この筋は第7頚椎にまで達することがある.上部の起始頭の1つが,乳様突起からおこることがある.副停止accessrische Ansätze,たとえば肩甲棘に付着するものがみられ,また隣接する筋膜および筋との結合もみられる.

第2群:二脊椎から肋骨にいたる筋

1. 上後鋸筋M. serratus dorsalis cranialis.(図483)

 この筋は薄い幅の広い腱をもって下部2個の頚椎と上部2個の胸椎の棘突起からおこり,外側ならびに下方に走って鋸状に4つに分れて,第2~第4肋骨で,その肋骨角より外側のところに付いている.

 神経支配:1~IV胸神経(時にVIII頚神経も加わる)の前枝による.

 脊髄節との関係:Th. I~IV,更に40%においてC. VIIIも加わる(Eisler).

 作用:この筋の停止をなしている肋骨を挙上するものである.

 変異:この筋が全く欠けていることがあって,その場所には筋膜だけがみられる.起始および停止の数が増し,または減っていることがある.第7頚椎および第1胸椎の起始だけは常に存在する.停止Insertionは起始の数が多いか少いかに応じて第1~第6肋骨に及ぶこともあり,あるいはわずか2本の肋骨だけから起ることもある.

2. 下後鋸筋M. serratus dorsalis caudalis. (図483)

 この筋は下部2個の胸椎および上部2個の腰椎の高さで腰背筋膜の1葉からはじまり,外側および上方に走り,上後鋸筋と同じように鋸状に4つに分れて最下4個の肋骨の下縁で,肋骨角の外側に付いている.

 神経支配:IX~XII胸神経の前枝による.

 脊髄節との関係:Th. IX~XII.

 作用:(R. Fickによれば)この筋は最下4個の肋骨を外方に引き,そして横隔膜が内方に引くのに拮抗してはたらく.

 変異:この筋も上後鋸筋のように欠如して,腱様の膜によって代られていることがある.その起始と停止ははなはだ変化に富んでいる.

第3群:長い背筋

1. 板状筋M. splenius. (図483, 484)

 この筋は僧帽筋,菱形筋,肩甲挙筋,上後鋸筋に被われていて,斜走する帯のようなかたちをなし,いっそう深くにある項筋の上をめぐっている.頭部と頚部とを区別し,これを頭板状筋M. splenius capitis.頚板状筋M. splenius cervicisという.この2つは程度の差があるがたがいに合していることが多い.

S. 356

[図483] 背筋群(右側は第2層;左側は第3層)

S. 357

 頭板状筋M. splenius capitisは第3頚椎ないし第3胸椎の棘突起からおこり,胸鎖乳突筋の停止部に被われて,乳様突起の外側面にこの突起の尖端まで,および僧帽筋の外側縁の近くまでの分界項線に付着している.

 頚板状筋M. splenius cervicisは第3ないし第6胸椎の棘突起からおこり,2尖頭に分れて第1および第2頚椎の肋横突起の後結節に付着している.

 神経支配:1~IV頚神経の後枝によるが,時として更にV頚神経,稀にはVI頚神経も加わる(Eisler).

 脊髄節との関係:C. (1)II~V(VI).

 作用:この筋は1側だけはたらくときには頭を側方に廻し且つ傾けるのにあずかるが,それは回転するのと同じがわた傾けるのである.両側の板状筋がいっしょにはたらくときには頭が後方に曲げられる.

 変異:この筋が全く欠けていることがある(Testut, Le Double).とくに有色人種では頭および頚板状筋が全く分離していることがある.第3の停止尖頭が第3頚椎の肋横突起に達していることがある.板状筋の上で,更に上後鋸筋の起始の上に接して,時として幅の狭い筋がみられる(8%).これは最下部の頚椎または最上部の胸椎の棘突起から環椎の肋横突起に達している:これは菱形環椎筋M. rhomboatlanticus von Macalisterであって,また副板状筋M. splenius accessoriusとも呼ばれる.

2. 仙棘筋M. sacrospinalis. (図484, 485)

 この筋は仙骨の後面, 最下部の腰椎の棘突起,腸骨稜の後部,腰背筋膜の内面から起り,2個の筋すなわち腸肋筋M. iliocostalisおよび最長筋M. longissimusよりできている.

a)腸肋筋M. iliocostalisは腸骨稜および第3~第12肋骨の上縁よりおこる.肋骨からおこる筋束は内側からこの筋に加わる.この筋の外側からは筋肉質に富む筋束がでて,その腱は全部の肋骨の肋骨角および第4~第6頚椎の肋横突起に付着している.そのさい肋骨への停止束は上部のものほどいっそう長く,またいっそう腱性の部分が多い.

 一つの停止尖頭が第7頚椎, 更にまた第3頚椎にまでも達することがある.起始および停止の尖頭を適宜に解剖すると1つの美しい格子,すなわち腸肋格子 Iliocostalisgitterがみられる.

 神経支配および脊髄節との関係:(C. VIII) Th.1~L.1よりの枝.

 Nishi, S. (Arb. a. d. anat. Inst. d. Univ. z. Sendai 1918)はFasciculi intercostales dorsales(背側肋間筋束)という名前で薄い2~3~5 mmの幅の筋束を記載している,この筋東は隣接する2本の肋骨の間で外肋間筋の背面の上を,かなり真つ直ぐ に上下の方向に走る(第7肋間隙に特にしばしばみられ,ついで第6および第8肋間隙に,第4,第5,第9肋間隙には非常に稀にみられる).この筋はすぐ上の肋間神経によって支配される.

b)最長筋M. longissimusは1つめ腱板を介して腰椎全部と第1~第4仙椎の棘突起,腸骨稜の後部ならびに長後仙腸靱帯からおこり,また上部腰椎の肋骨突起ならびに全胸椎の横突起から(時としては更に第7頚椎の肋横突起からも)おこる;この筋は腰部および胸部では2列の停止をもち,頚部および頭部では1列の停止をもっている.1個の胸および頚最長筋と1個の頭最長筋とに区別できる.

 胸および頚最長筋M. longissimus dorsi et cervicisは内側尖頭をもって腰椎ゐ副突起および胸椎の横突起全部に停止し,また外側尖頭をもって腰椎の肋骨突起とここからでる腰腱膜との幅いっぱいに終り,なお第12~第2(第3)肋骨の下縁で肋骨角の内側に終り,そのうえまた第2~第5頚椎の肋横突起の後結節に停止している.停止尖頭は,この筋の下部では厚く且つ筋肉質に富んでいるが,上部のものほど幅が狭くなり且つ腱性の部分が多くなる.

 上部腰椎および下部胸椎の範囲で乳頭突起から内側停止腱に向う筋束があってFasciculi mamillotendinei(乳突腱筋束)と呼ばれる.

 変異:頭最長筋との結合はほとんど常にみられる.

S. 358

 頭最長筋は荊述の筋(胸および頚最長筋)としばしば密に融合して,最上部3~5個の胸椎の横突起,および最下部3個あるいは4個の頚椎の肋横突起および関節突起からはじまり,薄い筋となって乳様突起の後縁で頭板状筋の外側部のすぐそばに付着している.

 変異(日本人の頭最長筋につき,M. atlantomastoideusの名で総括でぎる1群の筋束が・54体のうち14体(24%),19側に認められた(進藤篤一:医学研究,12巻,2223~2233,1938).):頭最長筋が全く欠けていることがある.しばしばこの筋に1~2個の腱画がある.起始尖頭の数は普通より少ないこともあるが,しかしまた第8胸椎にまで及んでいることがある.過剰筋束として,第5頚椎以下の肋横突起~第2胸椎までの横突起から起り,環椎の肋横突起,ならびに乳様突起に付着しているものがみられ,る.これをM. transversalis cervicis minor(W. Krause)という.

 神経支配:脊髄神経の後枝による.

 脊髄節との関係:頭最長筋,C.1~III(IV),胸および頚最長筋,C. (III)IV~L. V.

仙棘筋の 作用:両側性にはたらくときには脊柱および頭を後方に曲げ,肋骨を下方に引く.

 一側性に作用するときは,最長筋が頭部,頚部などを側方に傾け,且つ回転することにあずかる.

3. 棘筋M. spinalis. (図484, 485)

 この筋は棘突起からおこり,棘突起におわる.起始では最長筋と,停止では半棘筋および多裂筋と結合している.最上部2個の腰椎の棘突起および最下部2個の胸椎の棘突起からでる腱条から起る.しばしばごく細い1本の腱が第10胸椎の棘突起からきて加わる,棘筋は第(1)2~第8(9)胸椎の棘突起に達する.

 神経支配:脊髄神経後枝の内側枝による.

 作用:一側性にはたらくときは脊柱を側方に曲げることにあずかる.両側性にはたらくときは脊柱を伸ばす.

4. 半棘筋M. semispinalis. (図484, 485)

 脊椎骨の横突起からおこり棘突起におわる筋で,第1~第11胸椎の横突起から起り,第1~第4胸椎および第6と第7頚椎の棘突起に終る.

 神経支配:脊髄神経後枝の内側枝による.

5. 横突後頭筋M. transversooccipitalis. (図484, 485)

 この筋は第1~第7胸椎の横突起および第7頚椎の肋横突起から,ならびに第3~第6頚椎の関節突起および関節包靱帯からおこり,分界項線と項平面線とのあいだに付着している.この筋の上部に多くのばあい横走する1つの中間腱がみられる.

 神経支配:脊髄神経後枝の内側枝および外側枝による.

 脊髄節との関係:C. I~VIII(W. Krause).C.1~IV(Eisler).

 作用:半棘筋は1側だけではたらくと脊柱を反対側に回し,両側の筋が同時にはたらくと脊柱が伸ばされる.横突後頭筋は1側だけのはたらきで頭を反対側に回し,左右の筋が同時にはたらくと頭を後方に曲げるのである.

 変異:横突後頭筋の中間腱は欠けていることがあり,あるいはそれが1つでなくて2つみられることもある.

6. 多裂筋M. multifidus. (図485, 487)

 この筋は横突棘突筋系transverso-spinales Systemの強大な第2層をなしている.半棘筋が存在する範囲では,この半棘筋が横突棘突筋系の浅層を成して多裂筋を被っている.多裂筋はいっそうゆるやかな傾斜をして走ることによって半棘筋と区別され,仙骨の後面から軸椎にまで延びている.これは羽を組み合せたような構造になっている.

 仙腰部は第4仙骨孔までの仙骨後面, 腸骨稜の後部および胸最長筋の腱膜の1条, 腰椎の乳頭突起から豊富な筋東をもって起りこの筋の最も筋肉質に富む部分を成しているが,他方多裂筋の胸部および頚部では腱性の成分が著しく多い.

S. 359

[図484] 長い背筋群 

 仙棘筋M. sacrospinalis. 右は自然の位置,項部ではまだ板状筋に被われたままである,左は各筋のあいだを分けてある.

S. 360

[図485] 長い背筋群(左は表層の諸筋のあいだを分けてある;右はいっそう深部の筋),深部の項筋群(右).

S. 361

胸部ではその筋束が横突起より,また頚部では下部4個の頚椎の関節突起よりでるので,この筋の頚部は外側にあって,しかも上部にあるものほど,半棘筋による被われ方が少なくなっている.

 筋束は多数の起始部から斜めに内側へ上方に走り,棘突起の全長および椎弓に付着している.そのさい,筋束は起始から停止までのあいだに1~3個の椎骨を越えている.

 この筋は半棘筋と幾重にも結合している.

 神経支配:脊髄神経の後枝の内側枝による.

 脊髄節との関係:C. III~S. III(Schwalbe);C・III~L. V(S.1) (Eisler).

 作用:両側の多裂筋は脊柱を伸ばし,1側の多裂筋は脊柱を回す.

7. 回旋筋Mm. rotatores. (図487)

(西は日本人について回旋筋の領域における未知の筋束として 1)Fasciculi costoarcuales. 2)Fasciculi interarcuales. 3)Fasciculi transversoarticulares. 4)Fasciculi articulocostalesを挙げ,横突棘筋系の分化を系統発生的に説明した(西成甫1解剖学雑誌,10巻, 59,1937).)

 Theileによれば,回旋筋は11個あるだけで,しかも脊柱の胸部のところにだけ存在する.

 H. Virchowによれば脊柱の胸部のところでは11個であって,12個あることはいっそう稀れで,時としては10個あるという.

 これは小さい筋で,多裂筋よりは走り方がいっそうゆるやかな傾斜で,横突起の上部および背方部からでて,直ぐ上の椎骨の椎弓基部の外面におわる.第1回旋筋はふつう第2胸椎から第1胸椎にゆく.

 神経支配:相当する脊髄神経による.

第4群:短い背筋

1. 棘突間筋Mm. interspinales cervicis. (図485, 487)

 対をなす小筋で,頚部において上下に相隣る棘突起のあいだに張られて項中隔の左右にある.

 神経支配:相当する脊髄神経による.

 作用:脊柱の頚部を伸ばす.

2. 肋横突間筋Mm. intertransversarii cervicales.

 この筋は頚椎の肋横突起の後結節にはじまり,すぐ隣りの椎骨の後結節に向う.

 神経支配:相当する脊髄神経による.

 作用:脊柱の頚部を側方に曲げる.

3. 長,短横突肋骨筋Mm. transversocostales longi et breves. (図485, 487)

 各側に12個ある.この筋は第7頚椎の肋横突起と第1~第11胸椎の横突起のそれぞれ尖端からおこり,外側下方に走って扇状に広がり,下方につづく肋骨の外面に付着している.

 下部肋骨ではこの筋(上部肋骨にもしばしばみられるが)にいっそう長い副線維があって,この副線維は肋骨1個をとび越えてその次の肋骨におわっている.それゆえ長,短横突肋骨筋を区別するのである.この筋は外側で外肋間筋と合している.

 神経支配および脊髄節との関係:相当する肋間神経による.第1横突肋骨筋は第8頚神経による.

 作用:(以前には肋骨挙筋とよばれたが)決して肋骨を引き挙げるものではない.脊柱を伸ばすこと,脊柱をそのがわに傾けること,脊椎を反対側に回すことにあずかる.

4. 深項筋群Mm. nuchae profundi. (図485487)

2) 日本人において大と小後頭直筋の間にM. rectus capitis posterior intermedius(Shindo)が現われることがある(進藤篤一:医学研究,12巻, 2223~2234,1938).3)森は男の死体112例を材料として大後頭直筋を3型に,小後頭直筋を4型に分類した(森 優:解剖学雑誌, 6巻,17~18,1933).

 a)大後頭直筋M. rectus capitis dorsalis major. 軸椎の棘突起からおこり外側上方に走り,項平面線の中1/3に幅ひろく付着している.

 神経支配:後頭下神経の後枝.

 脊髄節との関係:C.1(II).

S. 362

 b)小後頭直筋M. rectus capitis dorsalis minor. この筋は環椎後結節から起り,大後頭直筋の内側で上方に走り,反対側の同名筋の直ぐ近くで項平面線の内側1/3の下方で幅広く付着する.その際この筋の外側部は大後頭直筋に被われる.

 神経支配:後頭下神経の後枝. 脊髄節との関係:C. I.

c)頭斜筋M. obliquus capitis. この筋は環椎の肋横突起から起り,大後頭直筋よりも頭頂側に付着する.

 神経支配:後頭下神経の後枝. 脊髄節との関係:C. I.

[図486] 頭蓋底の外面における筋の起始および停止

d)環椎斜筋M. obliquus atlantisこの筋は軸椎め棘突起から起り,環椎の肋横突起の後弓Spangeに付着する.

 神経支配:後頭下神経の後枝および大後頭神経の1枝.脊髄節との関係:C. L(II):BolkによればC. IIが正常な関係であると.

e)外側頭直筋M. rectus capitis lateralis. この筋は環椎の肋横突起前弓より起り,後頭骨に後頭顆の外側(乳様傍突起Processus paramastoideus)で付着する.

 神経支配:後頭下神経の前枝.脊髄節との関係:C. I.

 深項筋の 作用:大,小の後頭直筋は頭斜筋および環椎斜筋と共同して頭を後方に引く.一側の大, 小後頭直筋は環椎斜筋と共同して顔面をそのがわに向けるように頭を回す.外側頭直筋は頭を前方に屈する.

S. 363

[図487] 長い背筋群の深層,短い背筋群および深項筋群

S. 364

一側の頭斜筋は顔面を反対側に向けるように頭を回す.環椎熱筋は環椎と頭を回し,それによって顔面をそのがわに向ける.

5. 後仙尾筋M. sacrococcygicus dorsalis.

 背筋系は脊柱の上部で特別な発達を示すが,下部では筋の痕跡を見るに過ぎない.ここでは後仙尾筋M. sacrococcygicus dorsalis(Extensor coccygis)について述べる.この筋は最下仙椎および第1尾椎から起り,腱様の条をまじえた扁平な層をなしてそれより下方の尾椎に付着する.この筋はしばしば欠如し,有尾哺乳類によく発達した筋,すなわちM. extensor s. levator caudaeと相同である.

 神経支配:第5仙骨神経の前枝(?).

[図488] 腰背筋膜と周囲との関係.第3腰椎の高さにおける体幹の横断面横断した下の部分を上からみる.

背筋膜Fasciae dorsi; Rückenbinden

背部においては次の筋膜を区別する:

1)浅背筋膜Fascia superficialis dorsi

 背部の表層の筋膜で僧帽筋および広背筋の表面を包む線維性の薄い膜である.

2)腰背筋膜Fascia lumbodorsalis. (図482, 483, 488)

 この筋膜は前葉すなわち深葉,および後葉すなわち浅葉より成る.両葉の間に一まとめになった背部伸筋の腰部が包まれている.

 深葉tiefes Blatt, すなわち腰腱膜Aponeurosis lumbalisは仙棘筋の腹側,腰方形筋の背側にあり,最下部の肋骨,腰椎の肋骨突起および腸骨稜のあいだに張っている.この筋膜から内腹斜筋および腹横筋が起る.最長筋および腸肋筋の下方の尖頭はこの筋膜に付着する.外腹斜筋の1頭はこの筋膜から起ることがある.この筋膜の内側部には普通多くの裂溝状の隙間がある.

 仙棘筋の背方にある腰背筋膜Fascia lumbodorsalis. は線維性の膜で,この筋膜を介して広背筋および下後鋸筋が胸椎,腰椎,仙椎の棘突起,さらに腸骨稜から起る.外側下方でこの筋膜から大臀筋の一部が起る.上,下両後鋸筋の間を薄い層をなして上方に続き,上後鋸筋を越えて見えなくなる.また,この筋膜の仙骨部は下方で仙棘筋の起始腱と完全に融合していて,この部を腰背筋膜腱膜部Pars Aponeurotica fasciae lumbodorsalisという.

S. 365

 背筋膜の特に厚くなった紐のような部分が棘肩甲靱帯Lig. spinoscapulare(Mollier)である.この靱帯は第5および第6胸椎の棘突起にはじまり,肩甲骨の下角に付着する.

3)項筋膜Fascia nuchae.

 項部において,一方では僧帽筋および大小の菱形筋の間と,他方ではいっそう深部にある筋群との間にある.この筋膜は分界項線に付着し,外側方にのびて僧帽筋の縁で頚筋膜の浅葉に移行する.正中線では項中隔と結合している.

[図489] 腹側の尾骨筋群 骨盤を前額断してその背方部を前よりみる(P. Eislerによる).

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最終更新日 13/02/04

 

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