Rauber Kopsch Band1. 35

第2群:胸壁の筋Muskeln der Brustwand

1. 肋間筋酵Mm. intercostales, Zwischenrippenmuskeln. (図492, 501504)

 体の両側にそれぞれ11対ある.これらの筋は肋間隙Spatia intercostaliaを不完全に充たしていて,内と外の両肋間筋に区別される.

a)外肋間筋Mm. intercostales externi

 この筋は肋骨結節にはじまり,腹方では[外]側鋸筋および外腹斜筋のおこるところ,すなわち肋軟骨の初まりのところにまで達している.

 すべての筋束が斜め下方に走るが,その上端は脊柱にいっそう近く付着している.それゆえこの筋束は胸壁の背部では内側上方から外側下方に向い,胸壁の前部では外側上方から内側下方に向っている.

 これらの筋は外腹斜筋の線維と同じ方向をとる,すなわち後上方から前下方に走る. その走行の途中ですでに豊富な腱性の線維束がまじっている.筋の前端を越えたところで腱性の線維がいっそう強められた形で現われ,外肋間靱帯Ligg. intercostalia internaをなしている.

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[図502] 胸部および腹部の筋 側面図III(5/12)

b)内肋間筋Mm. intercostales interni.

 この筋は肋骨角から胸骨までの範囲にある.その線維は後下方から前上方に向って走っている.下部の2個の内肋間筋は,しばしば中絶することなしに内腹斜筋に続いている.

c)肋下筋Mm. subcostales.

 内肋間筋の一部でその背方の部分は,その肋間隙の範囲を越えて,この隙を境している肋骨の内面に付着しているのが普通である.それによって隣りの肋間隙の内肋間筋と合することになるのである.

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そこでひとつづきの筋層ができ上るわけで,胸郭の背方部では,この筋層が比較的よく発達して被っていることが多い.このようにできている筋層を肋下筋Musculi subcostalesと名づけている.

 肋下筋が完全に欠けていることもあり,また多くの例ではたがいに結合して1つの長い筋条となり,これが第3肋骨から第12肋骨にまでも達している.

 神経支配:肋間神経による.

 脊髄節との関係:Th.1~XI.

 肋間筋群の作用はすでにしばしば研究されてきたが,しかしその判断はまちまちである.この論争をGalenusにまでもさかのぼると,それ以来実に1700年以上を経ている.--R. Fickによれば肋間筋群の作用は次のものであるという.すなわち静かに呼吸しているときには,吸気は外肋間筋と肋軟骨のあいだの筋によって起り,呼気は内肋間筋によって起るのであって,呼気が胸郭の弾性“Elastizität des Brustkorbes”によるというようなことはない.(肺を含まない)胸郭の平衡位としては吸気の状態がそれであり,呼気のそれではない(Arch, Anat. Phys.1897およびHandbuch, 3, Bd.,187頁).しかし私(Kopsch)は,内と外の両肋間筋がおそらくいつもいっしょになってはたらき,しかも吸気のときにも,呼気のときにも作用することを信じている.

 この両筋にはさらにもう1つ別のはたらきがある.すなわち両筋はその緊張によって,肋間の軟部組織が吸気のときに攣入しないようにし,また呼気のときには膨出しないようにしている.もしもこの両筋がなかったら,呼気のときに肋骨のあいだに嚢ができて,そのなかに肺の一部が入り込んではさまれることにもなるであろう.

 変異:内,外両肋間筋のいずれかが欠けていることがある.これらの筋では筋肉質の方が多いこともあり,腱組織の方が多いこともある.Le Doubleはほとんど全部が腱性である肋間筋をみた.しばしば最下部の内肋間筋が内腹斜筋と,最一ド部の外肋間筋が外腹斜筋とつづいていることがある.

2. 横突肋骨筋Mm. transversocostales. (背筋の項361頁参照).
3. 胸横筋M. transversus thoracis. (図504)

 肋軟骨の内面にあって,筋線維と腱線維とよりなる1つの薄い層であり,下方は剣状突起,胸骨体の下部および1個あるいは2個の胸骨肋の肋軟骨の後面から起っている.

 その線維は外側ならびに上方に走って次のように散開している,すなわち下方の線維は水平に,中間のものは斜め上方に,上方のものはほとんど縦の方向に走っている.これらの線維は(5個の)尖頭に分れて第2~第6肋軟骨の下縁でその肋硬骨との移行部に固く着いている.最下の尖頭の線維は腹横筋の線維に平行に走り,後者の胸郭の内壁につづく部分が胸横筋なのである.

 神経支配:第(2)3~6肋間神経による.

 脊髄節との関係:Th. (II)III~IV(Rauber).

 作用:この筋は肋骨を下方に引き,そのために呼気筋として作用する.

 変異:この筋は全く欠けていることがある.その個々の尖頭は完全に独立していることがある.この筋は上方には第1肋骨まで,下方には第7肋骨まで達していることがある.ごくまれに見られるM. transversus colli(頚横筋)は胸骨柄のうしろにあり,正中線で他側の同じ筋と合していて,おそらく胸横筋の最も上方の尖頭とみなされるのであるが(Luschka. LeDouble), Eislerによってこのことが否定されている,頚横筋はむしろ胸骨甲状筋の変位した部分であるという.

第3群:横隔膜Diaphragma, Zwerchfell(図505)

 横隔膜は胸郭下口の内側の周りからおこり,なお下方に広がって腰部脊柱の大部分に及んでいる.腹の方に向って開いている胸郭腔の中に円蓋状に突入して,2つの腔所,すなわち胸腔Cavum pectorisと腹腔Cavum abdominisの境をしている.その中央部Mittelteilは円蓋の頂きを占めている腱,すなわち横隔膜の腱中心Centrum tendineum, Zentralsehneである.その起始に一致して各側に腰椎部Pars lumbalis,肋骨部Pars costalis,胸骨部Pars sternalisという3つの部分が区別される.

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[図503] 肋間筋群Musculi intercostales (11/20)

a)腰椎部Pars lumbalisは2つの部分,すなわち内側と外側の2脚よりなる.

 内側脚Crus mediale(日本人胎児100体について横隔膜の食道孔と大動脈裂孔との位置関係,中間脚と内側脚との関係などの詳細な報告がある(櫛田忠義:解剖学雑誌,18巻,85~102,1941).)は第1~第3および第4腰椎体(右側はふつう第4腰椎体に,左側は第3腰椎体に達している)から起り,ここで脊柱の前縦靱帯と密に結合している.上方に走り第1腰椎の初まりのところで他側の同名の筋といっしょになり腱性の束で境された大動脈アーチ,すなわち大動脈裂孔Hiatus aorticus, Aortenschlitzをつくり,ここを下行大動脈が通過している.

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大動脈裂孔を越えたところで両側の内側脚が交叉するが,また間もなく離れてそのあいだに筋肉性に縁どられた第2の孔である食道孔Foramen oesophagicumを囲み,ここを食道が通っている.それからあとで腱中心に移行している.

[図504]胸横筋Musculus transversus thoracis(11/20) 前胸壁の後面.

 中間脚Crus intermediumは内側脚の一部で大内臓神経によって境された外側の部分である.

 Stadtmüller(Anat. Anz., 62. Bd.,1926/27)は30例中5例だけに両内側脚が大動脈裂孔を越えたところで交叉するのをみたが,残りの25例では食道孔がたジ右の内側脚だけから作られていた.一食道孔は大動脈裂孔よりもさらに左側にあるものは57.5%,いっそう右側にあるものは18.4%,これと同じ矢状面にあるものは24.1%である (Heidsieck, Anat. Anz., 66. Bd.,1928).

 外側脚Crus lateraleは2つの腱弓から出ていて,これらは腱弓が橋のようにその上を越えている筋によって腰筋アーチArkade des Psoas, および腰方形筋アーチArkade des Quadratus lumborumと呼ばれるが,さらに内側および外側腰肋弓Arcus lumbocostalis medialis et lateralisとも,名づけられている.内側腰肋弓は第1(あるいは第2)腰椎体の側面からこの同じ腰椎の肋骨突起の先端に張っている.外側腰肋弓は内側腰肋弓に直接につづいて第1(あるいは第2)腰椎の肋骨突起から第12肋骨の先端に向って張っている.

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内外の両腱弓から筋線維がかなり急な傾斜をなして腱中心に走っている.

 b)肋骨部Pars costalis;これはノコギリ状に分れて第12~第7肋軟骨から起り,この尖頭は腹横筋の起始尖頭の間に入りこんでいる.これは弓状に曲がって腱中心に向っている.

 c)胸骨部Pars sternalis;これは3つの部分のなかで最も小さくて,剣状突起の後面および腹直筋鞘の後葉から1つあるいはそれ以上の数の不規則な小さい尖頭をもって起り,これも同様に腱中心につづいている.

 腱中心Centrum tendineum, Zentralsehneは一般に腎臓形であり,その形は胸腔を横断したときの形と似ている.しかしその前縁は中央のところがかなり強く突出し,そのためにクローバーの葉の形になっている.その前方の一葉の上に心臓が心膜に包まれて横たわり,側方の左右両葉の上には肺の横隔面の中央部がのっている.腱中心にはその右葉と前葉の後方の境に当って大きい大静脈孔Foramen venae cavaeがあり,下大静脈がこれを通っている.

 外側腰肋弓と肋骨部とのあいだには,しばしば大きさの個体的にちがう隙間が筋肉にあり,その形は三角形である.これが腰肋三角Trigonum lumbocostaleであって,これはまた少数の筋束で貫かれていることもある.これと同じような第2の場所は胸肋三角Trigonum sternocostaleであって,これは各側で肋骨部と胸骨部とのあいだにみられる.この隙間はまたラレイ裂Larreysche Spalteとも名づけられている.ここを通って内胸動静脈が上腹壁動静脈に移行している.

 大動脈裂孔を通るのは下行大動脈ばかりでなく,後者のまわりをとりまいている大動脈神経叢Plexus aortlcus, ならびにその右背方には脂肪組織に包まれた乳靡槽Cisterna chyliおよび胸管Ductus thoracicus(Milchbrustgang)が通っている.

 内側脚と外側脚とのあいだを通って交感神経幹Grenzstrang des Sympathicus(しばしば縦胸静脈V. thoracica longitudinalisも)が胸腔から腹腔の中へと入っている.内側脚そのものがまた次のものにより貫通されている,この種の裂け目のうち比較的大きいものは大内臓神経N. splanchnicus majorとともに縦胸静脈V. thoracica longitudinalisが通ることによってできたものである.これによって内側脚は2つの主束Hamptbtindelに分けられる,そのうち外側のものは以前に中間脚Crus intermediumと呼ばれていた.中間脚を貫いて小内臓神経N. splanchnicus minorが通る.

 食道孔を通るものは食道とそれに伴っている迷走神経N. vagusの腹部であり,しばしば左横隔神経の腹枝Rr. abdominalesもここを通っている.大静脈孔を通る下大静脈のそばに右横隔神経の腹枝Rr. abdominalesがいっしょに走っている.

 横隔膜の神経支配は頚神経叢からの横隔神経による.

 脊髄節との関係:C. III, IV, V, まれにC. VI, きわめてまれにC. IIからの線維が舌下神経下行枝を介して,あるいはC. VIIからの線維が鎖骨下神経の仲介によって加わって来る.第8~第12肋間神経の枝が横隔膜に達するが,これらは運動性ではなくて,知覚性であり,且つ腹膜に分布している.Ramström, m., Anat. Hefte, 30. Bd.,1906.

 作用:横隔膜は重要な吸気筋である.「肋骨呼吸Kostalatmung」に対する「横隔膜呼吸Zwerchfellatmung」というものをつかさどつている.腱中心は心臓がその上にのっているためにいくらか平らになりへこんでおり,この部分では高さの移動の絶対値は4cmであり,その相対値は8cmあるいはそれ以上である(Hasselwander).その側方部は吸気のときにははなはだしく平らになり,それによって胸腔は拡大し,そのとき外界の空気が自然の道をへて肺の中へ入ってゆくのである.呼気のときには腹圧が弛緩した横隔膜を上方におし上げ,それによって空気が外に出てゆくようにする.

 適当な人だと横隔膜の運動が肋間隙のへこむことによって外から容易にみることができる.

 横隔膜の高さは当然その緊張や弛緩の位相およびその強さに相当して非常に違っている.Hasselwander(Erg. Anat. u. Entw., 23. Bd. および Z. Anat, Entw.,114, Bd.,1949)によればその差は努力して呼吸するときには非常に大きいのである.少数の男では右の頂の最高点はできるだけ空気をはき出したときには第4肋骨の前端の高さに達し,できるだけ吸いこんだときには第7肋骨の端に達しうるが,やはり全く正常な体であると考えられる別の男ではその高さがただ第6肋骨から第7肋骨までの範囲ぐらいしか変動しないのである.脊柱との関係では,右の頂は,上は第8胸椎の高さに,下は第11胸椎の高さにまで達しうるのであるが,同様に正常な体と思われる別の例では第10胸椎の高さの範囲にあるだけである.

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[図505] 横隔膜および寛骨内部の筋 左:大腰筋の起始尖頭を解剖してある,かくして腰方形筋の大部分がよくわかるようにしてある.

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 横隔膜の円蓋が深く胸郭のなかに入っていることは,腹部内臓の上方の部分が直接に胸郭の保護を受けることになる.その円蓋のへこんだがわには腹部内臓(とくに肝臓,胃および脾臓)の集まりの全体がちょうど関節窩にはまっている関節頭と同じようにぴったりと入っている.肺がその正常な弾性を失つたときには,腹部内臓が絶えず引張る力をおよばすために横隔膜と肺とが引きさげられるようになる.横隔膜の高さについての著しい年令差はこれによって説明される.

 上に述べた諸三角Trigonaに相当する胸腔と腹腔との間の薄くなっている部分は実地的意義が大きい.膿性滲出物はここでかなり容易に一方の腔所から他方へと突破することができるし,ヘルニアが比較的たやすく起る等々である.

[図506] 頚筋と舌骨上筋I(11/20)  左:表層, 広頚筋を残してある,右:表 層, 広頚筋を取り除いてある.

 変異:先天性の横隔膜欠損というのがあって,E. Schwalbeがその1例を記載した(Morph. Arb.,8. Bd.,1898).これに似たものを私は新生児1例で見たことがある.Erna Greiner(Z. angew. Anat., 5. Bd, ,1919)は横隔膜ヘルニアのある新生児2例を記載している. しばしば肋骨に付着する個々の起始尖頭が多少ともたがいに離れているために,それらのあいだにあるすきまLückenで,胸膜と腹膜が筋膜を伴ってたがいに直接している.上に述べたごとく,このようなすきまで比較的大きいものは筋の主要各部のあいだに見られる.隣接する筋とのつながりについては,腹横筋・腰筋・腰方形筋に達する線維束が記載されている.

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さらに他の器官との結合としては特に次のものがある.すなわち内側脚からでて食道に達する束はM. phrenicooesophagicus, 胃に達するものはM. phremcogastrlcus,肝臓に達するものはM. phrenicohepaticus,腸間膜に逮するものはM. phrenicoperitonaealisである.最後のものはLe Doubleによると十二指腸提筋M. suspensorius duodeni(Treitz)と同一のものである.腱中心の中あるいはその下に横隔膜下筋Unterzwerchfellmuskelnという筋束がみられる,篩骨のたくましい人では横隔膜の内側脚が第5腰椎にまでも達している.内側脚および中間脚はたがいに融合していることがある.Le Doubleは外側腰肋弓がある時は第3腰椎の肋骨突起から,またある時は第2と第3腰椎の肋骨突起から起るのをみている.

[図507] 腋窩筋膜Fascia axillaris 右側.(Eislerによる)

胸筋筋膜および腋窩筋膜Fasciae pectorales et Fascia axillaris

 胸壁には3つの筋膜がある,すなわち浅胸筋膜,鎖骨胸筋膜および胸内筋膜である.

1. 浅胸筋膜Fascia pectoralis superficialis.

 これは上方は鎖骨と,内側は胸骨と結合し,外側では三角筋大胸筋三角の中に入り込み(379頁参照),ここで鎖骨胸筋筋膜Fascia clavipectoralis(Clavipectoral fascia)と融合する.

 浅胸筋膜は浅腹筋膜Fascia superficialis abdominisに続き,同時に大胸筋の下縁から広背筋へと移ってゆき,腋窩の範囲では腋窩筋膜Fascia axillarisと呼ばれる.腋窩筋膜は皮膚と比較的かたくくっつき,そのために皮膚が深くへこんで腋窩を形づくつている.

 腋窩筋膜は大胸筋と広背筋とのあいだに広がる弓状のかなり強い線維の流れをなし,これはランゲル腋窩弓Arcus axillaris, Langerscher Achselbogenと呼ばれている,第2の弓状線維束は腋窩の上外側の境にあって,その凹面を体幹の方に向けており,上腕弓Arcus brachialisと名づけられている.両弓(腋窩弓と上腕弓)の間にある卵円形の場所は筋状に孔のあいた腋窩筋膜のはなはだ疎な部分,すなわち腋窩篩板Lamina cribriformis axillaris(Eisler)であり,そのずきまは脂肪組織で満たされ,血管・リンパ管・神経が通っている(図507).

2. 烏口鎖骨胸筋筋膜Fascia clavipectoralis(Clavipectoral fascia)

 これは大胸筋のうしろで小胸筋と鎖骨下筋の上にあり前者よりいっそう強く,烏口突起と鎖骨とにしっかりと結合し,鎖骨下筋および小胸筋のうしろにある脈管と神経とを被っている.この筋膜は外方では腋窩筋膜にまで達し,これと融合する.

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3. 胸内筋膜Fascia bndothoracica.

 これは肋骨と内肋間筋との内面を被っている繊細な結合組織性の膜であり,横隔膜の上面に移行している.胸郭の上部および背方部ではいくらかよく発達して厚くなっている.胸内筋膜は胸膜Pleura, Brustfellに被われ,腹壁の腹横筋膜に相当するものである.

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最終更新日 13/02/04

 

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