Rauber Kopsch Band1. 39

b)上腕の筋群Musketn des Oberarmes

 上腕においては2群の筋を区別する.すなわち屈筋群Flexorenと伸筋群Extensorenとであり,これらの筋群は外面では多少とも深みのある溝,すなわち尺側および橈側上腕二頭筋溝Sulcus m. bicipitis brachii ulnaris et radialisにより境されている.両筋群は上腕の下方1/2では,内側および外側にある1つの膜,すなわち尺側および橈側上腕筋間中隔Septum intermusculare ulnare et radialeによってたがいに分けられ,これらの中隔は上腕骨の両側の骨稜に付着している.そのうち内側の中隔の方がいっそう強いのである.

α)掌側の筋群volare Gruppe

1. 上腕二頭筋M. biceps brachii, zweiköpfiger Armmuskel. (図523, 529, 535)

 この筋は横断面が円味をおびた,紡錘状の筋であって,2頭よりなっている.その長頭Caput longumは肩甲骨の関節上結節から,また2脚性に関節唇から起り(図410),上腕骨頭の上で肩関節の関節包を貫き,結節間溝を通り,ここでは結節間滑液鞘Vagina synovialis intertubercularisに包まれており(図409),次いでその筋腹に移行する.

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 その短頭Caput breveは烏口腕筋といっしょに肩甲骨の烏口突起から起り,直ちにそれだけで短頭じしんの筋腹に移行する.長短両頭の筋腹はたがいに合して,力づよい終腱(主腱Hamptsehne)となり橈骨結節に停止している.

 肘より上方で,この停止腱から浅層の腱板が分れて出ている(副腱Nebensehne).これは内側にのびて前腕筋膜に加わる.これがすなわち二頭筋腱膜Lacertus fibrosusである(図529, 535).

 橈骨結節と上腕二頭筋腱とのあいだには二頭筋橈骨嚢Bursa bicipitoradialisという1つの粘液嚢がある.

 神経支配:筋皮神経による.

 脊髄節との関係:C. V, VI.

 作用:長頭は腕を外転し(R. Fick),短頭は腕を内転する.またこの筋が全体としてはたらくときは前腕を曲げ,且つこれを回外する.

 変異(日本人における上腕二頭筋の過剰筋頭の出現頻度は,体側数では古泉100側のうち26側(26%),足立887側のうち163側(18.4%),佐野(アイヌ)10側のうち4側(40%),白木は128側のうち28側(21.8%),シナ人では中野81側のうち7側(8.6%),個体数では古泉50体のうち19体(38%),足立269体のうち68体(25・3%),佐野(アイヌ)5体のうち2体(40%),シナ人では中野38体のうち7体(18.4%)である(古泉光一:日本医科大学雑誌,5巻,1063~1083,1934;白木豊:愛知医学会雑誌,41巻,287~290,1934).):この筋の全部,もしくは短頭または長頭が欠如することがある.この両頭が程度の差はあるがかなりの広がりにおいて独立する.両頭がそれぞれ重複していることがある.短頭の起始が烏口肩峰靱帯の上に延び,また長頭が結節間溝の中で,大と小の両結節,肩関節の関節包,大胸筋の腱から起っている.筋頭の数がふつうより多くなっていることがしばしばである.第3の頭ともいうべきものが肩甲骨,上腕骨および腕と肩の軟部組織のいろいろな所から起っている.

 4頭,さらに5頭あるものがいくたびか記載されている.--二頭筋腱膜と筋腹との関係は個体的にはなはだ違っているが,それについてはLandauおよびScheuchzer, Mitt. naturforsch. Ges. Bern,1923を参照せよ.

2. 烏口腕筋M. coracobrachialis. (図530, 531)

 これは,平たい円形横断面をもつかなり長い筋で,上腕二頭筋の短頭といっしょに肩甲骨の烏口突起から起る.そのほっそりした筋腹は上腕骨の中部で小結節稜およびそこにある粗面に停止している.この筋は筋皮神経により貫かれるのが普通である.

 1つの粘液嚢,すなわち烏口腕筋嚢Bursa m. coracobrachialisが烏口突起の尖端および烏口腕筋の腱の下方で,肩甲下筋の腱の上に存在する.

 神経支配:筋皮神経による.

 脊髄節との関係:C. VI, VII.

 作用:この筋は上腕を内転し,前方に上げる.

 変異:2個あるいは3個の烏口腕筋が存在することがある.M. coracobrachialis brevis(短烏口腕筋)は烏口突起の基部にはじまって,肩関節包や上腕骨などで上腕の近位部に属するいろいろな個所に停止している.M. coracobrachialis longus(長烏口腕筋)は尺側上腕筋間中隔に停止し,尺側上腕二頭筋溝のなかにある諸構造の上を越えている.

3. 上腕筋M. brachialis. (図523, 524, 529, 530, 535)

 これは紡錘状をした幅の広い厚い筋であって,三角筋の停止をはさむ2部分をもって上腕骨の前面で,この骨の下半分よりやや大きい範囲を占めて幅広く起り,下方では尺側および橈側の両上腕筋間中隔とつづいている.またいくつかの筋束をもって肘関節包の掌側面からも起り,尺骨粗面に幅広く固く着いている.

 神経支配:筋皮神経による.その外側の筋束は橈骨神経に支配されていることもまれではない.

 脊髄節との関係:C. V, VI.

 作用:この筋は前腕を曲げる.

 変異:しばしば2つの筋束に分れている.その個々の筋束は前腕骨および前腕の軟部のいろいろな点に付着する.(詳しくはLe Doubleの文献を参照せよ.)

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β)背側の筋群dorsale Gruppe

上腕三頭筋M. triceps brachii, Armstrecker. (図523, 524, 529, 530, 534, 538)

 この筋には長頭,尺側頭および橈側頭がある.

 長頭Caput longumは肩甲骨の関節下結節およびそれに続く肩甲骨の腋窩縁の部分から起り,大と小の両円筋のあいだを下方に通り抜けている.尺側頭Caput ulnareは橈骨神経溝より下方で上腕骨の後面の広い部分および尺側上腕筋間中隔からはじまる.この筋の下方部の外側縁は上腕骨の外側の骨稜にまで及んでいる.橈側頭Caput radialeは橈骨神経溝より上方から起り,小円筋より下方ではその起始が尖つており,この起始部は橈骨神経溝の上縁にまで延びている,また橈側頭は尺側頭の大部分を被っているのである.これらの3頭がたがいに合して1つの強大な終腱となり,この腱は肘頭に停止している.

 尺側および橈側の両頭は橈骨神経溝とともに1つの管を作っており,この管のなかを橈骨神経および上腕深動脈が通っている.

[図532] 上腕骨における筋の起始と停止 右上腕骨の屈側.

[図533] 上腕骨における筋の起始と停止 右上腕骨の伸側.

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 また尺側頭へと直接に続いて加わっている肘筋M. anconaeusは三角形の筋であって,これは橈側上顆および肘関節包からでて肘頭の外側面に達するのである(図534, 543).

 神経支配:橈骨神経による.

 脊髄節との関係:C. VI, -VII, VIII, そして(Bolkによれば)長頭はC. VI~VIII,尺側頭はC. VII, VIII,橈側頭はC. VI, VII, 肘筋はC. VII, VIIIである.

 作用:この筋は前腕を伸ばすもので,しかも前腕は尺側頭と橈側頭とによって直角にまで挿ばされる.そして長頭が前腕の伸びを完全にする.しかしこの筋はまた上腕の伸筋としてもわずかな程度ではあるがはたらいており,他方また上腕の内転筋としてのはたらきは著しいものである(R. Fick).

 肘筋は他の三頭筋尺側頭の終筋束Musculi subanconaei(肘下筋)とともに,同時に関節包の緊張筋としても作用し,それは肘関節をのばすときにその嚢の壁が関節腔にはまりこまないように保護しているのである.すなわち尺側頭の深部に属するいくつかの筋束は他のものといっしょに終腱に達するのではなく,肘下筋として肘関節包に固着している.

 変異:この筋はときに4頭をもつことがある.第4の頭は肩甲骨の腋窩縁,烏口突起,肩関節包,または上腕骨から来ている.肩甲下筋,広背筋,大円筋などの諸筋とこの筋との結合が記載されている.Krauseによれば,その長頭の腱性の起始はほとんど常に1本の腱条によって広背筋の腱と続いている.

 大と小の両円筋肩甲下筋,上腕三頭筋の長頭および上腕骨の外科頚によって2つの重要な隙間が境されているその1つは三角形の筋隙Muskellochであり,他は四角形のものである(図524, 530, 534).

 外側腋窩裂laterate Achsellücke,すなわち四角形の筋隙viereckiges Muskeltochは上腕骨の外科頚,上腕三頭筋の長頭,大円筋,小円筋および肩甲下筋によって境されている.ここを腋窩神経と背側上腕回旋動脈が通り抜けている.

 内側腋窩裂mediate Achsellückeすなわち三角形の筋隙dreieckiges Muskeitochは上腕三頭筋の長頭,大円筋および小円筋によって作られ,ここを肩甲回旋動脈が通り抜けている.

肘部の粘液嚢Schleimbeutel der Ellenbogengegend

 肘部には上に述べた二頭筋橈骨嚢のほかになおいくつかの浅層あるいは深層の粘液嚢があるが,これらについては筋学の項で述べるのが最もよいと思う.これらの粘液嚢の名前を次にあげる.

A. 浅層すなわち皮下の粘液嚢oberflächliche, unter der Haut liegende Schteimbeutel

1. 肘頭皮下包Bursa subcutanea olecran

 これは肘頭の後面および上腕三頭筋の腱の上で皮下にある.

2. 上腕骨橈側上顆皮下包Bursa subcutanea epicondyli humeri radialis

 これは上腕骨の橈側上顆と皮膚との間にある.

3. 上腕骨尺側上顆皮下包Bursa subcutanea epicondyli humeri ulnaris

 これは上腕骨の尺側上顆と皮膚との間にある.

B. 深層にある粘液嚢tiefer liegende Schleimbeutel

4. 肘頭腱内包Bursq intratendinea oiecrani

 これは肘頭の近くで上腕三頭筋の腱の内部にある粘液嚢である.

5. 肘頭腱下包Bursa subtendinea olecrani

 その存在は不定で,上腕三頭筋の腱と肘頭の上端との間にある.

6. 骨間肘包Bursa cubiti interossea

 その存在は不定で,上腕二頭筋の腱と斜索Chorda obliquaとの間にある.

腕の運動に際しての筋活動(R. Fickによる)

a)この課題の出発点としては垂直に下げた腕を基本の姿勢とする.

1. まっすぐ前方にあげるときErhebung gerade nach vornには三角筋と大胸筋との鎖骨部および上腕二頭筋の両頭が[外]側鋸筋,僧帽筋(の中部と下部)といっしょに作用する.

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[図534]右の上腕および肩甲骨の筋 その背側面. 三角筋を取り除き,肩峰を鋸で切り取り,棘上筋,棘下筋,小円筋をその全走行にわたってみえるようにしてある.上腕三頭筋の橈側頭を切断反転し,上腕三頭筋の尺側頭橈骨神経との経過がよくみえるようにしてある.

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[図535] 右前腕の筋その掌側面を示す.

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2. 単に側方に挙上することreine Seitenhebungには,1. 三角筋が棘上筋および棘下筋とともに上腕に作用する,また上腕二頭筋の長頭が上腕に作用するのである.2. また同時に[外]側鋸筋の下部ならびに僧帽筋の中部および下部が肩甲骨を回す運動がおこる.

3. 垂直に上にあげるときVertikalhebungには,2. に述べた諸筋が僧帽筋の上部と肩甲挙筋との共同活動により,肩甲骨を回すことによっておこなわれる.

4. 背方に挙上することRückhebungは,三角筋の後部および大円筋,広背筋がはたらき,かつ肩甲挙筋の共同作用のもとにおこなわれる.

5. 内転するときAnziehungには,大胸筋,広背筋,三角筋の後部,かつ大円筋が作用する.

b) 外旋運動Auswärtskreiselungは,棘下筋,棘上筋,小円筋,三角筋の後部によっておこなわれる.

c) 内旋運動Einzwärtskreiselungは肩甲下筋大胸筋,広背筋,上腕二頭筋の長頭によっておこなわれる.

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最終更新日 13/02/04

 

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