Rauber Kopsch Band1. 41

S. 450

下肢の筋Musculi extremitatis pelvinae, Muskeln der unteren Extremität

a)寛骨部の筋群Muskeln der Hüfte
α. 内部の寛骨筋群innere Hüftmuskeln

 内部の寛骨筋群としては大腰筋,小腰筋および腸骨筋よりなる腸腰筋M. iliopsoasがある.

1. 大腰筋M. psoas major. (図505, 562, 563)

 この筋は第12胸椎体および第1~第4腰椎体およびそれらの間にある椎間円板から起る浅層oberflächliche Schichtならびに全腰椎の肋骨突起から起る深層tiefe Schichtとをもって始まる.深,浅の両層のあいだには腰神経叢の一部がある.大腰筋の腱は腸骨筋の腱と合して大腿骨の小転子に停止している.

2. 小腰筋M. psoas minor.

 この筋は人では存在が不定で,第12胸椎および第1腰椎の前面から起り,その終腱は腸骨筋膜の中に広がり,この筋膜によって腸恥隆起に停止している.

3. 腸骨筋M. ilicus. (図505, 562, 563)

 寛骨の腸骨窩の中に始まり,大腰筋と合して大腿骨の小転子に固着する.--腸腰筋は小転子に向う途中で,筋裂孔Lacuna musculorum(筋膜の項参照)を通り抜けている.

 腸腰筋と股関節包との間には1つの大きい粘液嚢があって,これは腸恥包Bursa iliopectinea(図557, 563, 565)とよばれ,成人では15%において(Kessel, Morph. Jahrb.1927)股関節腔と続いている.この筋の停止腱と小転子とのあいだにも腸骨腱下包Bursa ilica subtendineaという1つの粘液嚢がある(図557).

 神経支配:腰神経叢の枝および大腿神経による.

 脊髄節との関係:大,小両腰筋は(Th. XII), L.1, II, III(IV),腸骨筋はL. II, III, IV.

 作用:大腿骨を上方にあげ,これを内転し且つ足尖が外側になるように回す.また脊柱の腰部と骨盤を左右の股関節を結ぷ軸のまわりに前下方に引く.

 変異:大腰筋の起始はときに第12肋骨の小頭,腸腰靱帯,前仙腸靱帯の上に及んでいる.第5腰椎からの起始尖頭はしばしば欠けている.横隔膜との結合はすでに横隔膜の項で述べた.独立した1つの筋束,すなわちM. psoas accessorius(副腰筋)が腰椎の肋骨突起から起り,大腰筋の外側の縁に接していることがあるが,これは大腰筋とはたいてい大腿神経によって分けられている.腸骨筋はときどき腸腰靱帯ならびに前仙腸靱帯,分界線および仙骨から起っている.前腸骨棘から起る筋束は独立することがあり,これをM. ilicus minor(小腸骨筋)という.大腰筋も腸骨筋もいくつかの筋束に分れていることがある.この両筋が完全に2分していることはまれである.小腰筋は全例の半数以上において欠如している(日本人における小腰筋の欠如は男212体側のうち106体側(50.0%).女94体側のうち51体側(54.3%) (小金井),また154体側のうち90㈱(58・4%) (松島).80体側のうち52.5・%(五十嵐)であった(小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:東京医学会雑誌,17巻,127~131,1903;松島伯一:実地医家と臨床,4巻,749~750,1927;五十嵐信一,保志場守一:金沢医科大学解剖学教室業績,22巻,47~61,1936).).この筋が重複していることがある.この筋はたいてい腸骨筋膜に停止して,この筋膜によって腸恥隆起に終るが,また大腿骨あるいは小転子にも停止している.

β. 外部の寛骨筋群äußere Hüftmuskeln

1. 大臀筋M. glutaeus maximus. (図556, 558560, 572)

 この筋は寛骨では後臀線より後方の小部分,腰背筋膜の腱膜部,仙骨および尾骨の外側縁,仙結節靱帯から起っている.そして太い筋束よりなっていて,斜めに下方および外側へと大転子を越えて走り,その一部(筋の下方1/3)は臀筋粗面(第3転子Trochanter tertius)に,一部(筋の上方2/3)は大腿筋膜に停止している(図572).

S. 451

[図556] 大臀筋および右大腿の屈筋

S. 452

 大腿骨の大転子とこの筋の内面とのあいだには大転子筋膜下嚢Bursa trochanterica subfascialis(図558)という1つの大きい粘液嚢がある.また別の粘液嚢すなわち大臀筋坐骨嚢Bursa ischiadica m. glutaei maxlmiがこの筋と坐骨結節とのあいだにあるがその存在は不定である.さらに2,3の存在不定な粘液嚢が大臀筋の腱と臀筋粗面とのあいだにある.これが大臀筋大腿骨嚢Bursae glutaeofemorales(図558)である.

 皮膚の臀溝Sulcus glutaeus, Gesäßfurcheと大臀筋の下縁とはたがいに一致しているのではなくて,鋭角をなして交わっている(図594).

 神経支配:下啓神経による.

 脊髄節との関係:L. (IV),V, S.I(II).

 作用:この筋の上部は大腿筋膜を緊張させるもので,大腿筋膜張筋といっしょに腸脛靱帯にはたらき(図572),かくして脛骨にその作用がおよぶ.特に下腿を伸展したときの終りに大腿が外旋するに際して脛骨に対する大臀筋のはたらきがみられる(321頁を対照せよ).

 臀筋粗面に停止する大臀筋の下方部は下肢を外方に回して内転するようにはたらき,上前方の部分は外側に挙げるはたらきをする.足を固定したままで両側のこの筋が共同してはたらくときには,骨盤が起こされる.この筋は全体として大腿ないし骨盤を伸ばす.たとえば階段をのぼるときにそれが見られる.腸腰筋がその拮抗筋である.

 変異:この筋はときにたがいに重なり合った2層よりなっている.仙結節靱帯,仙骨あるいは尾骨からの起始が存在しないことがある.

[図557]股関節周囲における筋の停止と滑液包前方よりみる.

2. 中臀筋M. glutaeus medius. (図556, 558560, 572)

 これは三角形の,厚い力つよい筋で,その下部は大臀筋に被われて寛骨の上臀線,後臀線ならびに腸骨稜の外唇のあいだの部分,およびこの筋を部分的に被っている大腿筋膜から起り,強大な広い腱をもって大転子に停止し,大転子の尖端の全部を包んでいる.この筋の前方の線維は斜めに後下方へと走り,その後方の線維は斜めに前下方へと走り,中央の線維はまっすぐに下へと走る.その前方の部分は大腿筋膜張筋に被われている.

S. 453

[図558] 臀筋の深層 大臀筋を切断して,折り返してある.右大腿の屈筋

S. 454

[図559] 臀筋の深層

 大臀筋中臀筋を切断して折り返し,小臀筋を現わしてある.内閉鎖筋の腱を切断して双子筋の走行がよくわかるようにしてある.大腿二頭筋の長頭および半腱様筋を切断して半膜様筋,大内転筋内転筋管裂孔および大腿二頭筋の短頭がはっきり見えるようにしてある.

S. 455

 この筋の腱と大転子とのあいだには浅大転子中臀筋嚢 Bursa trochanterica m. glutaei medii superficialis(図557)という1つの粘液嚢があり,梨状筋の腱と中臀筋の腱とのあいだには大転子中臀筋嚢Bursa trochanterica m. glutaei medii profundaがある.

 神経支配:上臀神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, S.I.

 作用:この筋の線維全体がいっしょにはたらくときには,大腿を外転する.その前方の線維は大腿を前方に挙げ且つ内方に回すようにはたらき,その後方の線維は大腿を伸ばし且つこれを外方に回すようにはたらく.

 変異:大臀筋のごとく,この笛もときに2層よりなることがある.しばしばその前縁が小臀筋と,後縁が梨状筋と合している.その前,後の両縁に独立した筋束がみられることがある.

[図560] 右寛骨の外面における筋の起始と停止

3. 小臀筋M. glutaeus minimus. (図559, 560)

 これは平たい三角形の筋で中臀筋に被われている.寛骨の上臀線と寛骨臼上線とのあいだの部分から起り,大転子に向って筋線維が集中し,その前縁に停止している.

 大転子小臀筋嚢Bursa trochanterica m. glutaei minimiという1つの粘液嚢が大転子の尖端とこの筋の腱とのあいだにある.

 神経支配:上臀神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, V, S.I.

 作用:中臀筋のはたらきと同じである.筋線維の全体がいっしょにはたらくと大腿を外転し,その前方の線維だけがはたらくときは大腿を前方に挙げ且つこれを内方に回し,後方の線維は大腿を伸ばし且つこれを外方に回すようにはたらく.

 変異:この筋はときに前後の2つの部分からなっている,まれに前方の筋束が全く独立した1つの筋,すなわちM. glutaeus quartus(第4臀筋)をなしていることがある.また梨状筋,中臀筋との癒合がみられる.

S. 456

4. 梨状筋M. piriformis. (図558, 559, 565, 572)

 これは第2~第4前仙骨孔の縁で仙骨の前面から起って,だいたいに横の方向に大坐骨孔を通り,その孔の周縁から2,3の筋束が加わっていて,大転子の尖端に停止するのである.

 梨状筋包Bursa m. piriformisという1つの粘液嚢がこの筋の腱と大転子とのあいだにある.

 神経支配:仙骨神経叢から直接に出る1枝による.

 脊髄節との関係:S.I, II.

 作用:大腿を後方に引き,これを外転し且つ外方にまわす.

 変異(梨状筋が坐骨神経に貫かれるものは日本人において102体側のうち11体側(10.8%) (松島).306体側のうち106体側(34.6%) (福元).シナ人では48.13±3.95%(橋本).また坐骨神経が2分して梨状筋の上下を通るものは226体側のうち78体側(34.5%) (福元).シナ人では6.88±2.00%(橋本)である(松島伯一:実地医家と臨床, 4巻,67~69, 751,1927;福元登:福岡医科大学雑誌, 28巻,756~763,1935;橋本正武, 外山清:解剖学雑誌,19巻,171~184,1942).):この筋が完全に,あるいはその一部が欠けていることがあり,ときに仙骨神経叢の束に貫かれて,2つあるいは3つの筋腹に分れていることがある.す でにのべた中臀筋および小臀筋との結合のほかに上双子筋,内閉鎖筋との癒合がみられることがある.この筋の起始が第1仙椎あるいは第5仙椎, さらに尾骨にまで達することもあるが,一方この筋が2つの仙推(第2と第3, あるいは第3と第4)だけから起ってい ることがある.

5. 内閉鎖筋M. obturator internus. (図489, 558, 559, 561, 563, 564, 572)

 この筋は寛骨の内面で弓状線より下方の部分,ならびに閉鎖膜から起り,小坐骨孔を通って骨盤の外に出る.このとき内閉鎖筋の腱は坐骨枝の寛骨臼部をまわって鋭いかど角をなして曲り(図489).転子窩の中に停止している.

 小坐骨孔から外に出たときに両双子筋がこの筋に加わる.内閉鎖筋の腱は4つ~5つの束よりなっていて,この腱束が筋肉質の中にかなり長く入りこんでいる.

6. 上双子筋M. gemellus spinalis, oberer Zwillingsmuskel. (図558, 559)

この筋は坐骨棘から起る.

7. 下双子筋M. gemellus tuberalis, unterer Zwillingsmuskel. (図558, 559)

 この筋は坐骨結節から起り,両双子筋の腱は内閉鎖筋の腱と合している.

 軟骨に被われた坐骨切痕とこの腱とのあいだに内閉鎖筋嚢Bursa m. obturatoris interniという1つの粘液嚢がある.

 神経支配:仙骨神経叢からの枝による.

 脊髄節との関係:内閉鎖筋はL. V, S.1, II, 上双子筋はL(IV)V, S. I(II).下双子筋はL. IV, V, S.I.

 作用:これら3つの筋は大腿を外方に回す.

 変異:内閉鎖筋は隣接する骨のいろいろな部分ならびに靱帯から過剰の筋束をうける.閉鎖膜から起る部分は全部あるいはその一部が,骨に始まる部分から分れていることがある.上双子筋はしばしば欠けているが,また重複していることもあり,まれに梨状筋といっしょになって停止し,あるいは股関節の関節包に停止している.下双子筋の欠如は上双子筋のそれよりもいっそうまれである.結節,棘両双子筋がそろって欠けていることはそれよりもさらにまれである.下双子筋は大腿方形筋と結合していることがある.

[図561] 右大腿骨の上部の後面における筋の起始と停止

8. 大腿方形筋M. quadratus femoris. (図558, 559, 566, 569)

 これは平らな,四角形の厚い筋で坐骨結節からおこって,大転子の下部およびこれに続く転子間稜に停止している.

 神経支配:仙骨神経叢による.

 脊髄節との関係:L. IV, V, S.I.

 作用:大腿を外方に回す.

S. 457

[図562] 右寛骨部および大腿の筋 前からみる.

S. 458

[図563] 寛骨部および大腿の筋(右側) 

 前および内側からみる.腸腰筋の中部,大腿筋膜張筋,縫工筋を取り去って内転筋群 および大腿四頭筋を剖出してある.

S. 459

 変異(大腿方形筋の欠如は日本人で男207体側のうち4体側(1.9%).女87体側のうち2体側(2.3%)である(小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:東京医学会雑誌,17巻,127~131,1903).):この筋が全く欠けていることがある.きわめてまれに2つあるいはそれ以上の筋束に分れている.下双子筋あるいは大内転筋との結合がみられている.

9. 外閉鎖筋M. obturator externus. (図561, 565, 566)

 これは閉鎖膜およびこれを境する閉鎖孔の骨縁からおこる.その腱は大腿骨頚の後方を走り転子窩に達している.

 神経支配:閉鎖神経による.

 脊髄節との関係:L. III, IV.

 作用:大腿を外方に回し,なおこれを内転かつ前方にあげるようにはたらく.

 変異:この筋はほとんど変化しない.閉鎖神経および閉鎖動静脈によって,しばしば2つの部分に分れている.上方の小さい方の部分は恥骨枝の寛骨臼部から起っている.外閉鎖筋の腱が(きわめてまれに)股関節の関節包に終ることがある.

10. 大腿筋膜張筋M. tensor fasciae Iatae. (図562, 572, 573)

 この筋は中臀筋のすぐ前方でこれと接していて,前腸骨棘の外側からおこり,大転子の前を通って腸脛靱帯に終り,この靱帯は下方にのびて脛骨の腸脛靱帯粗面Tuberositas tractus iliotibialisに固着している.

 神経支配:上臀神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, V.

 作用:この筋は大腿を前方に挙げ,大腿筋膜を緊張させ,大臀筋の上部と共同にはたらいて,腸脛靱帯を介して膝関節における終回転Schluflrotationに作用し,このとき下腿を外方に回すのである(321頁参照).

 変異:この筋が全く欠けていることがある.2つあるいは3つの筋束に分れていることはきわめてまれである.

[図564] 右寛骨の内面における筋の起始と停止

b)大腿の筋群Muskeln des Oberschenkels

 大腿の筋群は次のように分類される,すなわちその位置により前方と内側と後方の筋群,またその作用により伸筋群と内転筋群と屈筋群である.

α. 前方の大腿筋群ventrale Oberschenkelmuskeln

 これには2層があり,縫工筋によって作られる浅層と大腿四頭筋よりできている深層とである.

1. 縫工筋M. sartorius, Schneidermuskel. (図562)

 これは長くて,幅が狭く且つ薄い筋であり,前腸骨棘のすぐ下で始まり,大腿の前面を下内側方に走り,大腿骨の内側顆の後縁を越え,前方に曲がって脛骨粗面から遠くないところで脛骨の内側面に固着している.

S. 460

 縫工筋の終腱と大腿薄筋および半腱様筋の終腱とのあいだには固有縫工筋包Bursa m. sartorii propriaという1つの粘液嚢がある.縫工筋と長内転筋と鼡径靱帯とのあいだにある部分は大腿三角Trigonum femoraleと名づけられている.

 縫工筋は長内転筋と内側広筋とのあいだの溝を前方から被っていて,これら両筋とともに1つの管を形成している.この管は下方では内転筋管 Canalis adductoriusに続き,この管と同じように大腿動静脈ならびに伏在神経を有っている.

 神経支配:大腿神経による.

 脊髄節との関係:L. II, III.

 作用:大腿を前方に挙げ,これを外転し且ついくらか外方に回す.また下腿を内転し,膝を曲げているときには下腿を内方に回す.また伸した膝を固定するのにあずかっている.

 変異:完全に欠如していることがあり,重複していることもある.ぎわめてまれにこの筋全体の長さの中央部に1つの腱画をもつことがある.程度のよわい異常が起始と停止にみられる.

2. 大腿四頭筋M. quadriceps femoris, Schenfeelstrecker

 この筋には次の4頭がある.すなわち

a)大腿直筋M. rectus femoris. (図562, 563, 569)

 この筋はまっすぐな(直接的な)腱をもって腸骨結節から起り,第2の同様に強い横走する腱をもって寛骨臼の上方にある粗な表面のへこみから起っている(図438).その線維束は下方にすすんで膝蓋骨の上方で終腱に移行し,この終腱はほかの3つの頭の終腱と合するのである.

 作用:大腿を前方に挙上し,且つ下腿を伸ばす.

 横走する腱と骨とのあいだに1つの粘液嚢がある.

 これが大腿直筋嚢Bursa m. recti femorisである.

b)内側広筋M. vastus tibialis. (図562, 563, 565568)

転子間線の下部および大腿骨稜の内側唇の全部から起る.

c)外側広筋M. vastus fibularis. (図562, 563, 565568, 572)

大転子の基部および大腿骨稜の腓側唇の大部分から起る.

 大転子の外側面には皮膚のすぐ下に大転子皮下包Bursa trochanterica subcutaneaがある.

d)中間広筋M. vastus intermedius. (図565567)

 その起始は大腿骨の前面であって,上の方へは転子間線に達していることがある.下方の筋束が膝関節筋M. articularis genusとして大腿骨に接着していて,この筋束は膝関節包の近位面に達して,ここに停止し,この関節包を緊張させる(図574).

 発達が比較的弱いときには中間広筋の上部は脛側,腓側両広筋のあいだに現われることがなくて,全くこれらのあいだのところに閉じこめられている.

 これらの4頭が共通にもつ終腱の一部は膝蓋骨の底に,一部はその側縁に固着している.その他の線維束は膝蓋骨の前面を越えて下行する了この線維は膝蓋骨より下方ではこの骨によって中断された線維といっしょになり膝蓋靱帯Lig. patellaeを成していて,この靱帯は力つよい終腱の続きとして脛骨粗面に停止するのである.それゆえ膝蓋骨はこの終腱の種子骨と考えられる.

 この共通の終腱のうしろには膝蓋骨の上方に膝上嚢Bursa suprapatellaris(図450)という粘液嚢があり,これはほとんど常に膝関節の関節腔と交通している.もう1つの粘液嚢が脛骨と終腱とのあいだにあって,これが膝下靱帯下嚢Bursa infrapatellaris profundaである(図448, 449, 451).膝蓋骨の前には次の3つの粘液嚢がある,すなわち膝前皮下包Bursa praepatellaris subcutanea,膝前筋膜下嚢Bursa praepatellaris subfascialis,膝前腱膜下嚢Bursa praepatellaris subAponeuroticaであって,第1のものは皮膚のすぐ下に,第2のものは筋膜の下に,第3のものは骨の前面のすぐ前にある.

S. 461

[図565] 右大腿の筋群 前内側よりみる. 腸腰筋,縫工筋,大腿筋膜張筋,中臀筋を取り去り,大腿直筋の筋腹を取り去って内側広筋外側広筋中間広筋がみえるようにしてある.恥骨筋および長内転筋の一部を取り去って,外閉鎖筋短内転筋大内転筋がはっきりわかるようにしてある.

S. 462

[図566] 右大腿の筋群 前内側よりみる. 大内転筋はその広がりの全体にわたって剖出してある.内側広筋はその中央部を取り去って中間広筋が見えるようにしてある.

S. 463

これらの粘液嚢のうち,多くはただ1つだけ見られまれには2つあり,3つともそろって存在することはほとんどない.脛骨粗面の前には脛骨粗面皮下包Bursa subcutanea tuberositatis tibiaeがあって,またこれより少し上方で皮膚と膝蓋靱帯とのあいだには膝下皮下包Bursa infrapatellaris subcutaneaがある.

 神経支配:大腿神経による.

 脊髄節との関係:大腿直筋はL. II, III, IV,外側広筋はL. III, IV,内側広筋はL. II, III, 中間広筋はL. II, III, IV,膝関節筋はL. III, IV.

 作用:大腿四頭筋の全体は下腿を伸ばし,大腿直筋ほ大腿を上方にあげる.

 変異:大腿直筋にはまれに副筋束があり,また横の起始腱を欠いていることがあり,あるいは直接的の腱が重複していることがある.この筋の停止腱は時として広筋群が作る1つの管の中を走っていることがある.内側広筋と外側広筋とはときどき2層よりなっている.内側広筋の筋線維の一部が脛骨粗面にまで達していることがある.膝関節筋M. articularis genusはごくまれに欠如している.この筋を成している筋束の強さと数はきわめて変化に富むのである.

[図567, 568]右大腿骨における筋の起始と停止 図567. 前面. 図568. 後面.

S. 464

β. 脛側筋群すなわち内転筋群tibiale oder Adduktorengruppe

1. 恥骨筋M. pectineus. (図562, 563, 565, 568, 569, 571)

 この筋は恥骨櫛およびこれより外方にある恥骨枝の寛骨臼部の面から,なおまた恥骨筋膜から起り,股関節の内側を走って恥骨筋線に停止している.

 恥骨筋包Bursa m. pectineiという粘液嚢がその停止腱と大腿骨とのあいだにある. 恥骨筋と腸腰筋とのあいだには大腿部の1つのへこみ,すなわち腸恥窩Fossa iliopectineaがある.ここには大腿動静脈および大腿神経の上部が存在する.

 神経支配:閉鎖神経の浅枝および大腿神経による.

 脊髄節との関係:LII, III・

 作用:この筋は大腿を曲げ,且つ内転し,これを外方に回す.

 変異:この筋が全く欠けていることがある.ごくまれに,この筋が重なり合った2層よりなっている.補強筋束が股関節,小転子から,また腸骨筋,外閉鎖筋,長内転筋からくるのが見られている.

[図569] 右寛骨の外面における筋の起始と停止

2. [大腿]薄筋M. gracilis. (図562, 563, 569)

 この筋は起始部では平たくて,幅が広くて薄く,下方にゆくほどいっそう幅が狭くしかも切り口が円くなっている.恥骨枝の結合部の縁から起って大腿の内側面を下方に走り,縫工筋の終腱のうしろで脛骨粗面のそばに固着している.

 縫工筋,大腿薄筋,半腱様筋の腱はたがいに合しており,また大腿筋膜,下腿筋膜とも癒合している.それによって生ずる構造が鵞足Pes anserinus, Gänsefußと呼ばれる(図578).

 縫工筋の腱と大腿薄筋の腱とのあいだにはすでにのべた固有縫工筋包Bursa m. sartorii propriaがあり,驚足と脛骨とのあいだには鵞足包Bursa anserinaがある.これらの両粘液嚢はたがいに続いていることがある.

 神経支配:閉鎖神経による.

 脊髄節との関係:LII, III, IV,

S. 465

 作用:大腿および下腿を内転する.また下腿を曲げ且つ内方に回す.伸展した膝を固定することにあずかる.

 変異:この筋は時として六腿の下方1/3でいくつかの腱線維を大腿筋膜に送っている.

3. 長内転筋M. adductor longus. (図562, 563, 565, 568, 569)

 この筋は三角形で,平たく,且つかなり長いもので,力づよい腱をもって恥骨結合と恥骨結節とのあいだの三角形の部分から起り,次第に幅が広くなりつつ外側下方にのびて大腿骨稜の内側唇の中央部に固着している.

 神経支配:閉鎖神経による.

 脊髄節との関係:L. II, III.

 作用:大腿を内転し,これを曲げ且つ外方に回すことにあずかる.

 変異:この筋を貫通する血管のために時として2分していることがある.

[図570] 右大腿骨の下部の外側面における筋の起始と停止

[図571] 右大腿骨の上部の外側面における筋の起始と停止

4. 短内転筋M. adductor brevis,  (図563, 565, 568, 569)

 この筋もやはり三角形であって,恥骨筋および長内転筋のうしろにあり,恥骨枝の寛骨臼部と結合部とのあいだの境のところから起り,長内転筋より上方で大腿骨稜の内側唇に停止している.

 神経支配:閉鎖神経による.

 脊髄節との関係:L. II, III, IV.

 作用:この筋は長内転筋と同じく大腿を内転し,これを曲げ且つ外方に回すのを助ける.

 変異:この筋を貫通する」血管によってときどき2分されている.この筋は重複していることがある.

5. 大内転筋M. adductor magnus. (図558560, 563, 565, 566)

 この筋は非常に大きくて且つ厚いものであって,坐骨結節および坐骨枝の恥骨部から起り,扇形に広がる,そのさい上方の線維は斜めに下外側に,下方の線維はほとんどまっすぐに下方へと走り,大腿骨稜の内側唇の大部分(図568).ならびに1本の長い腱をもって大腿骨の内側上顆に固着している.

S. 466

 大腿の中1/3と下1/3との境に当って,大内転筋の腱には内転筋管裂孔Hiatus canalis adductorii, Ad. duktorenschlitzという1つの裂け目がある(図559, 566).大腿動静脈がこれを通って大腿の後面に達している.この裂孔より上方ではこれらの血管が横走する腱線維により被われていて,この腱線維は長内転筋および大内転筋から血管群の上を越えて内側広筋に張っている.これが広筋内転筋板Lamina vastoadductoriaである.

 かくして作られた管が内転筋管Canalis adductorius, Adduktorenkanalであって,その下方の出口が内転筋管裂孔であり,その上方の入口は特に名づけられていない.上方の入口から大腿動静脈と伏在神経が管の中に入るが,そのとき伏在神経は血管の前方にある.

 この大きな内転筋管裂孔より上方では,大内転筋の腱は2~3個のさらに小さい裂孔をもっていて(図566),これらを貫いて穿通動脈が走っている.

 神経支配:閉鎖神経およびしばしば坐骨神経も来る.

 脊髄節との関係:L. III, IV.

 作用:大腿を内転する.その上部は大腿を曲げるようにはたらき,下部は伸ばすようにはたらく.

 変異(日本人において,小内転筋と大内転筋とが癒着し,両者を区分でき応ものが132体側のうち15体側(11.4%)にあった(松島伯一:実地医家と臨床,4巻,67~69, 751,1927).:まれに半膜様筋と続いている.坐骨結節から起る部分は,この筋の内側部を作って内側顆にまで達するが,これがその他の部分から完全にあるいは部分的に分れていることがある.

γ. 後方の筋群,すなわち屈筋群dorsale oder Flexorengruppe

1. 半腱様筋M. semitendineus. (図556, 558)

 この筋は長く,ほつそりしていて,その中央部に斜め外側上方に走る1つの腱画があって,これにより中断されている.その腱は切り口が円くて,脛骨の上端の内側面に達し,脛骨粗面のかたわらで大腿薄筋の腱より後方かつ下方に停止する.半腱様筋の腱は鵞足の形成にあずかっている.

 縫工筋の腱の粘液嚢である固有縫工筋包Bursa m. sartorii propriaは,すでに述べたように一方では縫工筋の腱と,他方では大腿薄筋および半腱様筋の腱とのあいだにあり,また鵞足包Bursa anserinaは脛骨と最後に述べた2つの筋の腱とのあいだにある.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:LIV, V, S

 作用:この筋は大腿を伸ばし且つ内転し,骨盤を起し,下腿を曲げ且つこれを内方に回す.

 変異:この筋はすでに起始において独立しており,またその腱が大腿二頭筋の腱から完全に分れていることがある.その腱画はすこぶる個体差があり,全部を貫いていないごともあり,また重複していることもある.他の屈筋との結合および尾骨,坐骨,大腿骨稜,仙結節靱帯からの過剰筋束が記載されている.

2. 半膜様筋M. semimembranaceus (図556, 558, 559, 578)

 力づよい筋で,その起始腱は膜様になって下方に続いている.終腱もやはり平たくて膝関節包の高さで中央,内側,外側の3つの索に分れている.中央の索は筋の走向に従って下方に走り,一部は膝窩筋の前で脛骨の内側顆の後面に,一部は膝窩筋のうしろがわで膝窩筋膜に固着している(図578).内側の索は水平方向に曲がって,脛骨の脛側顯で1つの浅い溝の中に固着し,膝関節の内側側副靱帯Lig. collaterale tibialeに被われている(図446).外側の索は斜膝窩靱帯Lig. popliteum obliquumとなって膝関節包の後壁に入り,斜め上外側にすすむのである(図445).

 この腱が3分するすぐまえに,この腱と腓腹筋の脛側頭とのあいだに1つの粘液嚢があり,また内側の索と脛骨の内側顆とのあいだにも1つの粘液嚢がある.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:LIV, V, S.I.

 作用:半腱様筋の場合と同じである,大腿を後方に伸ばしてこれを内転し,また下肢を固定している,ときには骨盤を起し,下腿を曲げ且つこれを内方に回す.

S. 467

[図572] 寛骨部および右大腿の筋 側方よりみる.

 大臀筋を切断してある.腸脛靱帯Tractus iliotibialisの3起始,すなわち1. 大腿筋膜張筋から,2. 寛骨点Punctum coxaeより,3. 大臀筋よりのものがはっきりみえる.

S. 468

[図573] 右下腿および右足の筋 側方よりみる.

S. 469

 変異:この筋は完全に欠けていることがあり,また全長にわたって重複していることがある.筋と腱との間の量的関係はすこぶるまちまちである.この筋がまったく筋性であることもあり,まったく腱性であることもある.その起始は(ごくまれに)仙結節靱帯の上に延びていることがある.斜膝窩靱帯は欠けていることがある.ごくまれにこの筋の停止腱の続きが1つの筋すなわち下腿(腓腹)筋膜張筋M. tensor fasciae cruralis(suralis)を介して下腿筋膜に達していることがある.

3. 大腿二頭筋 M. biceps femoris. (図556, 558, 559, 572, 573, 575)

 その長頭Caput longumは坐骨結節から,その短頭Caput breveは大腿骨稜の腓側唇の下半から起る.その2頭はたがいに合して,皮膚を通して容易に触れることのできる強い腱によって膝関節の腓側側副靱帯のうしろで腓骨小頭に停止している.一部の腱線維は腓側側副靱帯の内側をほとんど水平方向に前方に走って,脛骨顆に固着している(図447).他の腱線維は腓側側副靱帯の外側を通って下腿筋膜に達している.

 大腿二頭筋の起始腱と半膜様筋のそれとのあいだには近位大腿二頭筋嚢Bursa m. bicipitis femoris proximalisがある(きわめてまれ).この停止腱と腓側側副靱帯とのあいだには遠位大腿二頭筋嚢Bursa m. bicipitis femoris distalisがある.

 神経支配:長頭は脛骨神経に,短頭は腓骨神経による.

 脊髄節との関係:長頭はL. V, S.1, II, 短頭はL. (IV). V, S.1(II).

 作用:大腿をうしろに伸ばし且つこれを内転し,下肢を固定しているときには骨盤を起し,下腿を曲げ且つこれを外方に回す.

 変異:短頭は欠けていることがある.長,短の両頭がまったく独立していることがあり,そのときにはそれぞれ1つずつの腱をもって腓骨小頭に停止している.その停止腱がM. tensor fasciae suralis(腓腹筋膜張筋)という筋に移行していることも少くない.長,短の両頭が過剰筋束を受けていることがある.長頭の過剰筋束は仙骨,尾骨,坐骨結節,仙結節靱帯,大臀筋から始まっており,短頭のそれは大腿筋膜,大腿骨稜,大腿骨の腓側顆,大内転筋,外側広筋,仙結節靱帯から起っている.

c)下腿の筋群Muskeln des Unterschenkels
α. 前方の筋群すなわち伸筋群vordere oder Extensorengruppe

1. 前脛骨筋M. tibialis anterior. (図573, 574, 581)

 この筋は三角形の横断面をもつプリズムの形であって,脛骨の外側面および骨間稜,下腿骨間膜および下腿筋膜から起っている.その腱は平たくて強いものであり,十字靱帯の内側の管を前脛骨筋腱鞘Vagina tendinis m. tibialis anteriorisという腱鞘に包まれて通り,第1足根中足関節の内側面に達し,この関節包を補強し,第1楔状骨および第1中足骨の足底面に固着している(図459).

 これら2つの骨とこの腱とのあいだには前脛骨筋腱下包Bursa subtendinea m. tibialis anteriorisという粘液嚢がある.

 神経支配:深腓骨神経による.

 脊髄節との関係:L. IV(V).

 作用:この筋は足の背屈に際して作用し,足の内側縁を挙げ,また足を固定しているときには下腿を前方に曲げる.

 変異(前脛骨筋はシナ人50体100肢のうち92%はその筋腹の下端が十字靱帯に達せず,また75%は停止腱が2分している(劉曜曦:満州医学雑誌17巻,391~392,1932).):停止腱が2つの束に分れていることはそれが分れていない場合よりもいっそうまれである.この腱の2分がまれに筋肉質にまで及んでいることがある.

 ときには1つの腱束あるいは筋束(M. tensor fasciae dorsalis pedis(足背筋膜張筋))を十字靱帯にあたえていることがある,まれに1つの細い腱を第1中足骨の小頭に,また母指の基節骨の底にあたえていることがある.

2. 長母指伸筋Mextensor hallucis longus. (図574, 581)

 下腿骨間膜および腓骨の中間部の内側面から起る.その腱は筋の前縁で始まり,十字靱帯の下でその中央の管を貫通し,長母指伸筋腱鞘Vagina tendinis m. extensoris hallucis longiに包まれて第1中足骨の背側面の上にある.

S. 470

この腱は母指の指背腱膜に移行して,その末節骨の底に終っている(図581)(日本人において長母指伸筋の停止腱に副腱束の出現する頻度は204体側のうち203体側(99.5%).もっともその発達の弱いものがはなはだ多い(河合松尾:解剖学雑誌,8巻,261~269,1935).).

 この筋の上部は下腿の表層に達していないで,深いところにかくれており,前脛骨筋および長指伸筋に被われている.

 神経支配:深腓骨神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, V(S.1).

 作用:この筋は母指を伸ばし,これを高く挙げて足の背屈を助ける.足を固定しているときには下腿を前方に曲げることにあずかる.

 変異:この腱は(まれに)第1中足骨に1つの腱束を送っている.ときとしてこの腱束の代りにM. extensor hallucis longus accessorius(副長母指伸筋)とよばれる筋束が存在する.この過剰筋束が前脛骨筋からあるいは長指伸筋から出ていることがある.

3. 長指伸筋M. extensor digitorum longus. (図573, 574, 581)

 この筋は脛骨の上部から起るが,ここでは前下腿筋間中隔Septum intermusculare cruris anteriusがこの筋と前脛骨筋とを分けている.さらにこの筋は腓骨の前稜,下腿骨間膜および下腿筋膜からも起っている.長指伸筋の前縁にそってまず単一の腱が現れるが,これは十字靱帯より上方で4本の腱に分れてそれぞれ第2~第5指にゆくのである.これら4本の腱は十字靱帯の下で外側の管を長指伸筋腱鞘Vaginae tendinum m. extensoris digitorum[pedis]longiに包まれて通りぬけ,その先きは第2~第5指の指背腱膜に移行する.

 第3腓骨筋M. fibularis tertius:長指伸筋の腱のほかになお5番目の腱が存在すると. きには,これは第4・第5両中足骨の底の背面に達している(図573, 581).この腱に属する筋肉部は長指伸筋の筋腹からはまったく離れていることがあるので,そのときは第3腓骨筋M. fibularis tertiusという特別の筋となっている.これが離れていないで結合していることがいっそう多いが,そのときにもこの名で呼ばれている.しばしば1つの腱束が第5指の指背腱膜に達している.

 足の指背腱膜DorsalAponeurose der Zehenは個々の点では手のそれと同じ関係を示す.すなわちおのおのの足指で伸筋腱の2つの両側の束は末節骨の底にまで達し,中央の1つは中節骨の底にまで達する(図581).

 神経支配:深腓骨神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, V, S. I.

 作用:この筋は第2~第5指を伸ばし,これらを高く挙げ,足の背屈作用にあずかる.足を固定しているときには下腿を前方に曲げるのを助ける.

 変異:長指伸筋:この筋の1つあるいはそれ以上の腱が2重になっていることがある,その2つの腱のうち1つは通常の停止をもち,他の1つはそれと同じ停止をすることもあり,また隣接する指か,中足骨の1つか,短指伸筋の1つの腱か,あるいは他の足背の場所に停止することもある.きわめてまれに母指に達する腱がみられる.まれにこれらの腱が手背における腱のようにたがいに合していることがある.筋がおのおのの足指に相応した別々の筋腹に分れていることはまれである.

 3腓骨筋(第3腓骨筋の欠如は日本人154体側のうち13体側(8.4%) (松島).44体側のうち3体側(6,8%) (保志場),982体側のうち45体側(416%) (日本人について保志場がまとめたもの)である(松島伯一:実地医家と臨床,4巻,67~69,750,1927;保志場守一:金沢医科大学解剖学教室業績,29巻,119~121,1938;栃原潤,小野沢武男:解剖学雑誌,5巻,589~600,1932).)はSchwalbeおよびPfitznerによれば8.2%に欠如するという.その停止腱はしばしば分岐し,その腱束の1つは通常の場所に,他のものは第5指,第4中足骨底およびその他の近くの場所に達している.第3腓骨筋は類人猿より下等な猿にみられるM. peronaeus parvus(小腓骨筋)と相同のものである.

β. 外側の筋群すなわち腓骨筋群laterale oder Fibularisgruppe

1. 長腓骨筋M. fibularis longus. (図573, 579, 590)

 この筋は腓骨小頭および腓骨体の一部から起り,後下腿筋間中隔Septum intermusculare cruris posteriusによって長指伸筋から分けられている.その腱ははじめ短腓骨筋の腱の表層にあり,下腿の下1/3では後者を被っている.腓骨踝の高さでこの腱は短腓骨筋の腱のうしろにあり,腓骨踝溝の中ではこれといっしょになり,そこでは上腓骨筋支帯Retinaculum tendinum mm. fibularium proximale(図573)によってしっかりと保持されている.それに続いて長腓骨筋の腱は弓なりに向きを変えて踵骨の外側面に達し(図460, 463, 464),ここでは滑車突起の下にあって下腓骨筋支帯Retinaculum tendinum mm. fibularium distaleによりしっかりと保持されている(図573).

S. 471

[図574] 右の下腿および足の伸筋群 前脛骨筋の筋腹を取り去ってある.

[図575] 右下腿の筋群 後方よりみる.

S. 472

この腱はここから第5中足骨底の近くに達し,足底に方向を変えて,まず立方骨の長腓骨筋腱溝のなかを,次いで足底腓骨筋管Canalis fibularis plantaeのなかを足底長腓骨筋腱鞘Vagina tendinis m. fibularis longi plantarisに包まれてすすみ,足の内側縁に達し,いくつかの尖に分れて第1中足骨底および第1楔状骨に,またしばしば第2中足骨にも停止している(図590).非常にしばしば1つの腱束が第1背側骨間筋のなかに広がって終る.腓骨踝から立方骨に達するまで,この腱は総腓骨筋腱鞘Vagina tendinum mm. fibularium communisに包まれている.この腱が踵骨の長腓骨筋腱溝のなかにある部分はしばしば幅がいっそう広くなり,ほとんど常に線維軟骨をもち,いっそうまれに種子骨がある.

[図576, 577]右下腿骨における筋の起始と停止 図576. 前からみる.図577. うしろからみる.

 神経支配:浅腓骨神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S.I.

 作用:足の外側縁を挙げ,内側縁を下げる.足を足底の方へ曲げることにあずかる.足を固定しているときには下腿をうしろに引く.

 変異(長腓骨筋の終腱は日本人では主腱はすべて第1中足骨粗面に停止し,約88.2%に副腱束があり,これはそれぞれ第1背側骨間筋(65・79%),第1楔状骨(48.68%).母指内転筋斜頭(197%)に達する(橋本重夫:成医会雑誌,60巻,94~105,1941).):主としてその腱についてみられる.1本の腱条がこの腱の肥厚部,すなわち立方骨に接する部分か ら出て,第5中足骨の底に達して,短小指屈筋の起始となっている.

S. 473

この腱が腓骨踝のうしろを走る部分にも,またごくまれには踵骨の滑車突起に沿って走る部分にも種子軟骨が1つみられることがある.第3,第4中足骨に向う腱条があることはいっそうまれである.M. fibularis accessorius(副腓骨筋)という過剰筋頭が長,短の両腓骨筋のあいだで腓骨から起って,その腱は長腓骨筋の腱に移行している.

2. 短腓骨筋M. fibularis brevis. (図573, 579582, 584)

 この筋は腓骨の下半部の外面に始まり,長腓骨筋に被われている.その腱は腓骨と長腓骨筋の腱とのあいだにあって,しかも下腿の下1/3では長腓骨筋の腱の内側にあるが,腓骨踝ではその前にある,その腱は腓骨課溝のなかを通り,ここでは上腓骨筋支帯Retinaculum tendinum mm. fibularium proximaleによりしっかりと保持され,総腓骨筋腱鞘Vagina tendinum mm. fibularium communisに包まれている.次いで踵骨の外側面に達し,ここでは滑車突起の上方にあり,下腓骨筋支帯Retinaculum tendinum mm. fibularium distaleによりしっかりと保持され,第5中足骨粗面に終っている(図581, 582).それから分れた1つの腱束が第5指の指背腱膜に達していることがある.

 神経支配:浅腓骨神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S. I.

 作用:足の外側縁を上方に挙げ,足の底屈のときを助け,足を固定しているときには下腿をうしろに引く.

 変異:その腱が1つの腱条を送りだして,この腱条がすこぶる雑多な終り方をする.すなわち第5指の基節骨底に,同じ指の指背腱膜あるいは伸筋腱に,第5中足骨の体ないし小頭に,小指外転筋に,あるいは立方骨に終っている.M. fibularis quartus(第4腓骨筋)(第4腓骨筋はシナ人では100体側のうち17%(劉).日本人では28体のうち15体(53.6%) (進藤)に見られ,白木も1例を報告している(劉曜㬢:満州医学雑誌,第17巻,402~403,1932;進藤篤一:医学研究,12巻,2223~2233,1938;白木豊:愛知医学会雑誌14巻,511~514,1934).)というまれに見られる筋は短腓骨筋と長母指屈筋とのあいだで腓骨の後面に始まり,踵骨の外側面あるいは立方骨に停止し,または第5指に達する長指伸筋の腱と合している.

γ. 後方の筋群すなわち屈筋群hintere oder Flexorengruppe

下腿三頭筋M. triceps surae, Drillingsmuskel der Wadeとして腓腹筋の両頭およびヒラメ筋が総括される.

1. 腓腹筋M. gastrocnemius, Zwillingswadenmuskel. (図573, 575, 578, 579)

 脛側頭Caput tibialeは強大であって,大腿骨の内側顆から,腓側頭Caput fibulareはそれより弱くて,大腿骨の腓側顆から起り,これらは幅の狭い1つの腱条をあいだにはさんで鋭い角をなして合し,平たい1個の腱に続く.この腱はヒラメ筋のそれと合して下腿三頭筋腱Tendo m. tricipitis surae(Achillis).アキレス腱Achillissehneを作り,これは踵骨隆起に停止している.

 腓側頭の起始腱には21%に3~14mmの大きさの種子骨があり,腓腹筋頭種子骨Fabellaと呼ばれる.脛側,腓側両頭のあいだの溝のなかを腓腹神経という1本の皮神経が走っている.腓側頭の表面を大腿二頭筋の腱が交叉している.

 脛側頭の下方には腓腹筋脛側頭嚢Bursa capitis tibialis m. gastrocnemiiという1つの粘液嚢があり,これは半膜様筋腓側嚢Bursa m. semimembranacei fibularisと連絡していることがある.かくして生じた共通の嚢は腓腹筋半膜様筋嚢Bursa gastrocnemiosemimembranaceaと呼ばれる.アキレス腱と踵骨とのあいだには下腿三頭筋腱嚢Bursa tendinis m. tricipitis suraeがある(図579).大腿二頭筋腱と接触する場所には(まれに)二頭筋腓腹筋嚢Bursa bicipitogastrocnemialisという粘液嚢がある.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:L(IV)V, S. I, II.

 作用:この筋は足を足底の方に曲げ,それによって踵を挙げ,膝関節を曲げる.足を固定しているときには下腿および大腿をうしろに引く.

 変異:腓側頭は欠如することがあり,また痕跡的であることもある.Le DoubleおよびMacalisterは腓側,脛側両頭が腱様の条によって代られているのを見た.まれに両頭が2層に分れている.両頭が下腿の下部までたがいに独立していることがある.腓側頭の中には種子骨が21%に現れるのに,脛側頭の中にはただまれにしかそれが見られない.左右の両脚に種子骨が存在するものは約4%である.M. gastrocnemius tertius(第3腓腹筋)(第3腓腹筋M. gastrocnemius tertiusを有った1例が報告されている(西本勝之輔:長崎医学会雑誌,16巻, 2471~2475,1938).) (Freyによれば約3%にみられる)と呼ばれる過剰筋束は大腿骨の膝窩平面,大腿骨稜の内側唇,内転筋管裂孔,膝窩動静脈の血管鞘および坐骨神経から起っている.

S. 474

[図578] 右下腿の筋群 うしろからみる. 腓腹筋の脛側,腓側両頭を取り去って,膝 窩筋,足底筋,ヒラメ筋が見えるようにしてある.

S. 475

[図579] 右下腿における屈筋の深層

S. 476

2. ヒラメ筋M. soleus, Schollenmuskel. (図573, 575, 578, 579)

 脛骨の膝窩筋線および脛骨の内側縁,腓骨小頭および腓骨の外側の骨稜の上1/3,また脛骨および腓骨における両起始の間に張っていてヒラメ筋腱弓Arcus tendineus m. soleiと呼ばれる1つの腱弓からも起る(図578).その強大な幅の広い終腱は腓腹筋の終腱と合して下腿三頭筋腱Tendo m. tricipitis surae(Achillis)となっている.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:L(IV)V, S. III.

 作用:この筋は足を足底の方に曲げ,踵を挙げる.足を固定しているときには下腿をうしろに引く.

 変異:この筋は全く欠けていることがあり,また重複していることもある.その場合に第2のヒラメ筋は1つの特別な腱によって踵骨に付着する.ヒラメ筋の深い方の面から起って,踵骨に停止する過剰筋束が記載されている.またM. tensor fasciae plantaris. (足底筋膜張筋)というきわめてまれに見られる筋はヒラメ筋の起始の下で脛骨の膝窩筋線から起り,破裂靱帯または足底方形筋に停止し,あるいは足底腱膜に移行するのである(W. Krause).

3. 足底筋M. plantaris. (図578)

 はなはだ変化に富む網長い筋で,これも欠如していることがある.この筋は腓腹筋の腓側頭より上方あるいは下方で大腿骨の腓側顆および膝関節包から起り,薄くて長い腱をもって腓腹筋および・ヒラメ筋の走向と交叉し,これら両筋のあいだのところでアキレス腱の内側縁に達する.ここでアキレス腱と合していることがあるが,あるいはアキレス腱とは別になって足関節包に達し,または踵骨にまで達して,ここでその線維がほぐれて消失している.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:LIV, V, S. I.

 作用:腓腹筋のはたらきを補助する.

 変異(日本人における足底筋の欠如は,男213体側のうち26体側(12.2%).女87体側のうち8体側(9.2%) (小金井).154体側のうち12体側(7.8%) (松島)である(小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:東京医学会雑誌,17巻,127~131,1903;松島伯一:実地医家と臨床,4巻,67~69, 750,1927).):この筋は6.8%に欠けている(Le Double).

 まれにこの筋が腓骨からおこる.大腿骨,腓側側副靱帯,膝関節の関節包からの副筋束を受けていることもある.その停止は著しく変動する.すなわちこの停止が下腿の中央部で結合組織の中に,下腿三頭筋腱嚢に,足底腱膜に,破裂靱帯に見られるのである.

4. 膝窩筋M. popliteus. (図578580)

 この筋は三角形で,平たくて短い.大腿骨の腓側顆ならびに膝関節の関節包から起り,その腱はこの関節包と癒合しており,脛骨の膝窩平面に固着している.

 その起始腱の下方に膝窩筋嚢Bursa m. popliteiという粘液嚢がみられ,これは常に膝関節の関節腔と,いっそうまれには脛腓関節と連絡している.この連絡しているものが膝窩筋腱鞘Vagina tendinis m. popliteiである.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, V, S. I.

 作用:この筋は膝を曲げ,下腿を内方に回す.

 変異:この筋の欠如は2例にみられた.またその腱の中に種子骨が1度見出されている.副筋頭がきわめてまれなことではあるが,足底筋といっしょになって大腿骨の腓側顆あるいは腓腹筋の腓側頭の中の種子骨から起っている.

 M. peronaeotibialis(腓脛筋)は腓骨小頭から起って,脛骨の膝窩筋線に停止する1つの過剰筋である.--Fürst C. M., Der Musculus popliteus und seine Sehne. Lund ,1903.

5. 長指屈筋M. flexor digitorum longus,  (図579, 587)

 ヒラメ筋より下方で脛骨の後面ならびに後脛骨筋に沿って下方に走る1つの腱弓から起る.その腱は脛骨踝のすぐ上方で後脛骨筋の腱の外方(皮膚に近い方)でこれと交叉し(図580).破裂靱帯Lig. laciniatumに被われ,長指屈筋腱鞘Vagina tendinis m. flexoris digitorum longiに包まれて載距突起の遊離縁および足底に達し,ここでは長指屈筋の腱はその背側にある長母指屈筋の腱の下を通って交叉し,そのさい両者の腱のあいだに結合がみられる.

S. 477

[図580] 膝窩筋,後脛骨筋,短腓骨筋 右下腿.

S. 478

[図581]右足背における筋と腱

S. 479

 この腱は第2~第5指にゆくための4本に分れ,その分岐より下方では足底における筋頭として足底方形筋M. quadratus plantaeを受け入れている.そして長指屈筋の腱は末節骨底に固着するのである(図587).

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S.1, II.

 作用:指の末節骨を曲げ,足の底屈を補助し,足を固定しているときには下腿をうしろに引き,踵を間接的に上方に挙げる.

 変異:ときに1つの副起始頭が脛骨にはじまり,これは長指屈筋の腱と,あるいは足底方形筋と続いている.

6. 後脛骨筋M. tibialis posterior. (図579, 580, 589, 590)

 この筋は上部では幅が広く且つ複羽状を呈し,下部では単羽状を呈している.その腱は筋の下部で内側の稜線にある.この筋は下腿骨間膜ならびにこれと境を接する脛骨および腓骨の縁から起る.その腱は脛骨踝の上方で長指屈筋の腱の下を通ってこれと交叉し,まず脛骨踝のうしろで脛骨踝溝のなかにあり,次いで脛骨踝より下方では破裂靱帯と三角靱帯との間の上方の管のなかに達する.ここでは後脛骨筋腱鞘Vagina tendinis m. tibialis posteriorisに包まれている.それからこの腱は斜め下方に載距突起と舟状骨粗面との間を通って足底に達する.ここで2つの索に分れる.その内側のいっそう強い方の索は舟状骨粗面に付着し,外側のいっそう弱い方のものは第2と第3の楔状骨に固着している(図589, 590).

 この腱と[足の]舟状骨ならびに第1楔状骨の間にはしばしば後脛骨筋腱下包Bursa subtendinea m. tibialis posteriorisという粘液嚢がある.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S, I(II).

 作用:この筋は足を足底の方に曲げ,足の内側縁を挙げる.また距骨頭が体重を支えるに当って踵舟靱帯のはたらきを補助している(図464).足を固定しているときには下腿をうしろに曲げ,間接的に踵を挙げる.

 変異:この筋が全く欠けていることがあり,また重複していることもある.その腱は,舟状骨に停止するところの近くに非常にしばしば種子軟骨を有っている(Le Double).その腱束は第2,第3,第4中足骨,立方骨,短母指屈筋に固着していることがある.

7. 長母指屈筋M. flexor haHucis longus. (図579, 587)

 これは下腿深層の筋群の中で最も厚い筋であり,腓骨体の下2/3でその後面および内側面,ならびに下腿骨間膜から起っている.その腱は距骨の長母指屈筋腱溝の中および載距突起の下方の同名溝の中を(図590)長母指屈筋腱鞘Vagina tendinis m. flexoris hallucis longi(図598)に包まれて前方にすすみ,母指の末節骨に停止している.この腱は載距突起より遠位で,長指屈筋の腱のうしろがわにあってこれと交叉し,そこで両者が重要な結合をしている.

 多くの例では母指の腱はこの交叉の場所で外側へ1本の腱束を出している.この腱束は2脚に分れて第2および第3指の腱に達する.まれに第4指にゆく1腱束がある.しばしばこの外側の腱束が第2指だけにゆく.従って母指の腱は長指屈筋の腱を強めていて,脛側屈筋M. flexor tibialisともいうべぎものであり,これに対して長指屈筋は腓側屈筋M. flexor fibularisということができる.しかしまた母指の腱がしばしば総指屈筋から腱束をあたえられている.

 神経支配:脛骨神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S. I, II.

 作用:母指を曲げ,長指屈筋との腱の結合によりこれが筋束を送っている他の指をも曲げる.間接的に踵を挙げる.

 変異:長指屈筋の腱との結合がまれに欠如する.長指屈筋の第2指にゆく腱が欠けているときにこの筋がしばしばその代りとしてかなり強い腱を第2指にあたえている.

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最終更新日 13/02/04

 

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