Rauber Kopsch Band1. 42

S. 480
d)足の筋群Muskeln des Fußes
a)足背の筋群Muskeln des Fzaßrückens

1. 短母指伸筋M. extensor hallucis brevis. (図581, 582)

 この筋は踵骨の遠位部の後面から起り,母指の指背腱膜に移行している.

2. 短指伸筋M. extensor digitorum brevis. (図581, 582)

 短母指伸筋と同じく踵骨の遠位部の後面および外側面から起り,3つの腱をもって,そのいずれもが長指伸筋の腱と合し,第2~第4指の指背腱膜に移行している.小指にゆく腱はほとんど常に欠如している(H. Virchow).

 神経支配:深腓骨神経による.

 脊髄節との関係:L. IV, V, S. I.

 作用:上記の両筋は足の指を伸ばし,且つこれらを外側に引く.

 変異(日本人における短指伸筋の第4腱の存在は,男213体側のうち74体側,女94体側のうち26体側である(小金井良精, 新井春次郎, 敷波重次郎:東京医学会雑誌,17巻,127~131,1903).):大多数の例では母指伸筋および短指伸筋はその起始で合している.これらの腱の1つあるいは2つ以上のものが欠けていることがある,そしてわずかに腱が1本だけしか残っていないことがある.Le Doubleはこの両筋が完全に欠如している1例を記載した.

b)足底の筋群Muskeln der Fußsohle

α.母指球の筋群Muskeln des Großenzehenballens

1. 母指外転筋M. abductor hallucis. (図583, 585587)

 この筋は足の内側縁で皮膚のすぐ下にあり,破裂靱帯Lig. laciniatum(筋膜の項をみよ).[踵骨隆起の]脛側結節Tuberculum tibiale tuberis calcaneiから起って,母指の脛側種子骨ならびに基節骨底に達する.その前にこの筋の腱は短母指屈筋の脛側頭の停止を取り入れている(図587).

 神経支配:内側足底神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S,1.

 作用:母指の基節骨を内側かつ足底の方に引く.

 変異:ときどき1つの腱条を第2指に送る.

2. 短母指屈筋M. flexor hallucis brevis. (図586, 587, 589)

 第1楔状骨ならびに長足底靱帯から起り,2頭に分れていて,その脛側頭は母指外転筋の腱と合し,母指の脛側種子骨に達するが,腓側頭は腓側種子骨に停止し,母指内転筋の腱と続いている(図589).

 この両頭のあいだを長母指屈筋の腱が通って末節骨に達している.

 神経支配:脛側頭は内側足底神経により,腓側頭は腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:脛側頭はL. V, S. I,腓側頭はS. I, II.

 作用:母指を足底の方に引く.

 変異:しばしば後脛骨筋の鞘から起っており,まれに1筋束を第2指の腱にあたえている.

3. 母指内転筋M. adductor hallucis. (図586, 587, 589)

 斜頭と横頭とからできている.斜頭Caput obliquumは立方骨,長足底靱帯,第3楔状骨の尖ったところならびに第2および第3中足骨の底に始まる.横頭Caput transversumは順にならんだ尖頭をもって第3および第4(H. Virchowによればときには第2と第5も)中足指節関節の関節包の足底がわの壁から始まる.両頭は短母指屈筋の腓測頭といっしょになって母指の腓側種子骨ならびにその基節骨の底に終っている

S. 481

[図582] 右足背における筋と腱 長指伸筋の腱および十字靱帯の一部を取り去ってある.

S. 482

[図583] 右足底における筋群(I).足底腱膜Aponeurosis plantaris.

S. 483

 神経支配:腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:S. I, II.

 作用:母指を腓側および足底の方に引く.

 変異:斜頭から1つの腱が第2指にゆくことがある.横頭は全部あるいは一部欠けていることがある.斜頭のいくつかの筋束がときに第1中足骨に停止することがあり,これらは[足の]母指対立筋M. opponens hallucisと呼ばれる(W. Krauseによればこの名称は不当であると).

[図584] 右足骨の足背面における筋の起始と停止

[図585] 右足骨の足底面における筋の起始と停止

β. 小指球の筋群Mttskeln des Kleinzehenballens

1. 小指外転筋M. abductor digiti quinti. (図583, 586, 587)

 足の外側縁で皮膚のすぐ下にあり,踵骨隆起の腓側結節,足底腱膜に始まり,また踵骨隆起の脛側結節からも起っている.この筋は第5中足骨粗面および小指の基節骨底に停止する.

 神経支配:腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:S. I, II.

 作用:小指の基節骨を外側および足底の方に引く.

 変異:第5中足骨粗面に付着する筋束は独立することがある.

2. 短小指屈筋M. flexor digiti quinti brevis. (図586, 587, 589)

 長足底靱帯および第5中足骨底から起り,小指外転筋と合して,小指の基節骨底に達している.

 神経支配:腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:S. I, II.

 作用:小指の基節骨を足底の方に引く.

 変異:この筋は小指対立筋と全く癒合していることがある.

S. 484

[図586] 右足底における筋群(II)

 足底腱膜の遠位部を取り去ってある.

3. 小指対立筋M. opponens digiti quinti. (図589, 590)

 短小指屈筋のように長足底靱帯および第5中足骨底から起っているが,しかし第5中足骨の外側縁に固着するのである.

 神経支配:腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:S. I, II.

 作用:小指を内側および足底の方に引く.

 変異:この筋は全く欠けていることがあり,また非常によく発達していることもある.しばしば短小指屈筋と癒合している.

S. 485

[図587] 右足底における筋群(III)

 短指屈筋を取り去ってある.

γ. 足底中央の筋群mittlere Fußfnaskeln

1. 短指屈筋M. flexor digitorum brevis. (図586)

 この筋は踵骨隆起の脛側結節の下面から起り,足底腱膜に被われて前方にのび(図583)4つの腱に分れる.この腱は長指屈筋の腱と合して前進し,共通の腱鞘である指腱滑液鞘Vaginae synoviales tendinum digitorum pedisに包まれている.これらの腱は第2~第5指の中節骨の底に停止するのである.

S. 486

 第5指にゆく腱はしばしば痕跡的なものに過ぎない.これらの腱は手の浅指屈筋の腱と同様に1つの裂け目をもち,これを長指屈筋の腱が通り抜けている.

 神経支配:内側足底神経による.

 脊髄節との関係:L. V, S. I.

 作用:この筋は第2~第5指の中節骨を曲げる.

 変異(日本人における短指屈筋の第4腱の欠如は,男209体側のうち75体側(35.9%).女83体側のうち21体側(25.3%)である(小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:東京医学会雑誌,17巻,127~131,1903).また深頭の出現率は50体100体側のうち38.5%, 浅頭に第5指腱を欠くもの21.0%, 浅頭,深頭ともに第5指腱を欠くもの7.0%(豊田春満;解剖学雑誌,12巻,1938).):この筋は完全に欠けていることがある.小指にゆく腱がしばしば欠如する.

2. 足底方形筋M. quadratus plantae. (図587, 589)

 この筋は短指屈筋に被われて,踵骨の内側面および下面に始まり,長い停止線をなして長指屈筋の腱に付着して終る.

 神経支配:腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:S. I, II.

 作用:末節骨を足底に向って曲げる場合に長指屈筋を補助する.

 変異:足底方形筋の大部分が第3および第4指にゆくことがある.その起始が下腿にまで及んでいることがある.この筋と長母指屈筋とを合せたものが1つの 特別な足指の屈筋をなすとみなされ,このうちの足底にある遠位部がこの筋であると考えられる.

3. 虫様筋Mm. lumbricales, Fußspulnzuskeln. (図586, 587)

 虫様筋は4つあって,それぞれ長指屈筋の4つの腱に始まり,しかも第1(内側)のものは1頭をもって第2指にいたる腱の内側縁から起り,他の3つの虫様筋はいずれも2頭をもって始まるのである.これらの筋は基節骨の内側縁で第2~第5指の指背腱膜に移行している.

 足の虫様筋の停止は手におけるよりもいっそう不規則であり,これらはまれならず中足指節関節の関節包に固着しており,あるいは直接に基節骨に達している.

 虫様筋と横中足骨小頭靱帯とのあいだには[足の]虫様筋嚢Bursae mm. lumbricalium pedisがある.

 神経支配:内側の2つの虫様筋は内側足底神経により,外側の2つは腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:第1,第2虫様筋はLV, S. I,第3,第4虫様筋はS. I, IIである.

 変異:個々のもの,あるいは全部が欠けていることがあり,また重複していることもある.

4. 骨間筋Mm. interossei. (図582, 586590)

 背側骨間筋4つと底側骨間筋3つとがある.骨間筋の作用する軸は2(最も長い)の長軸に一致している.

 三つの底側骨間筋Mm. interossei plantaresはそれぞれ1頭を有つ. これらの筋は第3,第4,第5中足骨の内側縁に始まり,そしてやはり内側縁で,一部は中足指節関節包および基節骨底に,一部は第3,第4,第5指・の指背腱膜に達している.

 四つの背側骨間筋Mm. interossei dorsalesはそれぞれ2頭を有って,第1~第5中足骨の向き合った面から起っている.第1背側骨間筋の腱は第2指の内側縁に達し,第2~第4背側骨間筋の腱は第2,第3および第4指の外側縁に達する.これらの筋は前者と同じく一部は基節骨の底に固着し,一部は指背腱膜に移行している.

[図588] 足の骨間筋の模型図 背側骨間筋は赤い線,底側骨間筋は黒い線で示す.

S. 487

[図589] 右足底における筋群(IV) 短指屈筋を取り去り,長指屈筋,母指外転筋および小指外転筋の腱を取り去ってある.

S. 488

[図590] 右足底における深部の腱,靱帯および骨間筋(V)

S. 489

 足指の指背腱膜DorsalAponeurose der Zehenは手の指について述べた関係と同じである.

 神経支配:腓側足底神経による.

 脊髄節との関係:S. I, II.

 作用:第1背側骨間筋は第2指を内側に引く.第2~第4背側骨間筋は第2,第3,第4指を外側に引く.底側骨間筋は第3,第4,第5指を内側に引く.1本の足指に停止する2つの骨間筋が同時にはたらくときは,基節骨を曲げ,中節骨および末節骨を伸ばす.

 変異:第4の底側骨間筋が第1楔状骨から起って,母指の小指側の面に停止していることがある.

[図591] 大腿輪の模型図 *はローゼンミューラー腺

下肢の筋膜Fasciae extremitatis pelvinae, Binden der unteren Extremität
1. 腰筋膜Fascia psoicaおよび腸骨筋膜Fascia ilica

 これらの筋膜は腸腰筋の前面を被っている.腰筋膜Fascia psoicaは大腰筋とともに腰椎から起る.腸骨筋膜Fascia ilicaは外側は腸骨稜と,内側は弓状線と固く癒合し,同じく腸恥隆起と,さらにこの隆起を越えたところでは股関節包の前面と癒合している.すなわち腸骨筋膜はこれが包む筋および大腿神経とともに鼡径靱帯の下をへて大腿の前面の深いところに入り込むが,鼡径靱帯の下を通るところでこの筋膜の広がりの大部分でこの靱帯に固く付着している.ただその内側部だけがこの癒合をまぬかれている.それは腸恥隆起から遊離して鼡径靱帯まで張っている部分であって[腸骨筋膜の]裂孔間部Pars interlacunaris fasclae ilicaeと呼ばれるのである.この筋膜板によって,図491, 591に示すように鼡径靱帯の下にある隙間が2つの部分に分けられる.すなわち外側の筋裂孔Lacuna musculorumと内側の血管裂孔Lacuna vasorumとである.筋裂孔は小転子にいたるまでまわりが閉ざされているのであって,この裂孔を腸腰筋および大腿神経が通るが,一方血管裂孔を大腿動静脈ならびにリンパ管が通っている.そのさい大腿動脈は最も外側にあり,リンパ管は最も内側にあって,両者のあいだには大腿静脈がある.大腿動静脈は1つの結合組織の鞘の中に囲まれているが,この鞘は動脈と静脈とのあいだに多少とも明瞭な中隔Septumを有っている.大腿動静脈は血管裂孔の外側の大部分を占める.この両者と裂孔靱帯のへこんだ縁とのあいだにはすでに上(375頁)に述べた隙間がある,これが大腿輪Anulus femoralis, innerer Schenkelringであって,これを通って大腿ヘルニアが外にでてくるのが普通である.

S. 490

2. 恥骨筋膜Fascia pectinea. (図591)

 腸恥隆起の内側で,恥骨櫛の全体に沿って第2の筋膜板,すなわち恥骨筋膜Fascia pectineaが起っており,これは恥骨筋を被い,これとともに大腿の前面に達する.いま述べたごとく腸恥隆起のところで腸骨筋膜と恥骨筋膜とが相合し,たがいに続いている.

3. 大腿筋膜Fascia lata. (図493, 592, 594)

 大腿筋膜は上方は鼡径靱帯と,外側は腸骨稜および仙骨と,内側は恥骨の結合部および坐骨の恥骨部と続いており,この大きな輪郭線から下方へと強大な線維性の筒となってのびていて,この筒は大腿の筋群全部を包むのである.

 鼡径靱帯の内側部のわずか下方に大伏在静脈が大腿静脈に入るところがある.大腿筋膜にはここに鎌形を呈する切り抜きがあり,その縁は鎌状縁Margo falciformis と名づけられていて,その上方の角は上角Cornu proximaleといわれ,鼡径靱帯あるいは裂孔靱帯または恥骨筋膜に付着するが,下角Cornu distaleは恥骨筋膜と合流している(図493, 592).この上角が弓状を呈する1線によって下角とつながっていると考えると鎌状縁とともに1つの卵円形の輪をなしているわけで,これが外大腿輪Anulus femoralis externus, äußerer Schenkelringである.これに囲まれたへこみは,その底に大腿動静脈の一部が多少の差はあるがそこに見えるのであって,このへこみは卵円窩Fossa ovalisと呼ばれる(図493, 592).その縦径は個体差が大きくて2cmと6cmとのあいだである.

 卵円窩は粗密の程度に差のある1枚の薄い膜,すなわち卵円窩の篩板Lamina cribriformis fossae ovalisで満たされており,この節板は鎌状縁と大腿筋膜ならびに恥骨筋膜と続いている.その名前は小さい動脈および静脈,リンパ管および神経が通るための多数の孔によるのである.

大腿管Canalis femoralis. (図591)

 大腿輪と鎌状縁とのあいだにある通路が大腿管Canalis femoralis, Schenkelkanalであり,これは最も重要なヘルニア管の1つである,大腿管への入口はその最も狭い場所であり,ヘルニア嵌頓Einklemmttngen(lnkarzeratienen)がここではなはだしばしばおこる.

 大腿輪Anulus femoralis(図499)は内側は裂孔靱帯,外側は大腿静脈および血管鞘によって境されて,鼡径靱帯の腹方,恥骨櫛および恥骨筋膜の背方にある.裂孔靱帯からは1つの結合組織の束が横の方向に恥骨櫛に沿って走っている.これが恥骨靱帯Lig. pubicum(Cooperi)である(図435).

 大腿輪は開いた隙間をなしているのでなく,腹横筋膜の一部によって被われている.これがすでに375頁で述べた大腿輪中隔Septum anuli femoraiisである.そのほかさらに疎性結合組織の集りがここを満たし,また通常ここに1つのリンパ節が存在し,これは特にローゼンミューラー腺Rosenmüllersche Drüseと呼ばれる.リンパ管が大腿輪中隔を貫いている.腹横筋膜の向うがわでは腹膜Peritonaeumがその閉鎖にあずかっている.しばしば腹膜はこの場所に1つの小さい外方への突出部を形成している.

 大腿管の前壁は大腿筋膜の鎌状縁の上角によって作られ,後壁は恥骨筋膜により,外側壁は大腿動静脈の結合組織性の鞘によって作られている.

 大腿ヘルニアが皮下に達するときには,卵円窩から外に現われる.ここには筋板と多数の浅鼡径リンパ節とがある.

S. 491

[図592] 大腿の筋膜 前からみる. *は腸脛靱帯

[図593] 下腿の筋膜および足背の筋膜 前からみる.

S. 492

[図594] 大腿の筋膜 うしろからみる.

[図595] 下腿の筋膜 うしろからみる.

S. 493

鎌状縁の上角が鼡径靱帯あるいは裂孔靱帯に接着しているときには,大腿管は実に短いのであるが,恥骨筋膜における上角の停止がずっと下方にずれると,それとともに大腿管は長さを増すことになる.その長さは特に上角の停止する位置のいかんによるのである.

 大腿筋膜は外側面では2つの腱,すなわち大腿筋膜張筋の腱および大署筋の腱の大部分が放散することによって強められている.この両腱の放散する線維群は前とうしろから中央部の特に強くなっている部分に接していて,この中央部の強い線維束群は独立して腸骨稜から起るもので,腸脛靱帯Tractus iliotibialisと名づけられている(図572).特に強くなっているこれら3つの部分が全部いっしょになり,そこでは線維の流れがはっきりとその走路を示しており,下方は脛骨の腸脛靱帯粗面にまで迫跡されるのであって,この有力な線維群がここに固着して,膝関節の固定に1つの重要な役割をなしている(321頁).

 膝のところでは大腿筋膜は膝蓋骨とだけではなく,この骨の両側で膝関節包と広い範囲でかたく結合している.これに反して関節包の後壁では,そのあいだにたくさんの脂肪塊, 大きい血管や神経が入り込むので筋膜が関節包からますますはなれている.

 膝のあたりから足までの所は下腿筋膜が張っている.

4. 下腿筋膜Fascia cruris. (図593, 595)

 この筋膜は皮下に遊離している下腿骨の面および骨稜とかたく結合し,伸筋群の起始とも密接に合している.前脛骨筋と長指伸筋とのあいだで線維性の中隔である前下腿筋間中隔Septum intermusculare cruris anteriusが深いところに入りこみ,もう1つの中隔である後下腿筋間中隔Septum intermusculare cruris posteriusは長指伸筋と長腓骨筋とのあいだにあり,両者は近くの筋群にその起始する面を提供している.

 下腿三頭筋とさらに深くにある筋団との間には下腿筋膜の深葉tiefes Blatt der Fascia crurisが広がり,これは側方でその浅葉と続いている.

 伸側の筋膜は脛骨,腓骨両踝の上方で幅が2~3横指の範囲で強くなっており,ここが下腿横靱帯Lig. transversum crurisといわれる(図573, 574, 581, 582, 593).

 下腿横靱帯より下方では,足にまで達する十字靱帯Lig. cruciformeが続いている.その線維束は脛骨,腓骨両踝から出て交叉し,足の内側,外側両縁に達している.しかしその上方の外側の脚がよく発達していないか,あるいはあまりきわ立っていないため,しばしばこの靱帯がただY字形をしていることがある(図573, 574, 581, 582, 593, 596, 597, 598).

 十字靱帯に被われて,3つの長い伸筋の腱がそれぞれの腱鞘に包まれて足背に達している.

 破裂靱帯Lig. laciniatumが脛骨踝から踵骨に広がり,後脛骨筋および長指屈筋の腱を被っている(図575.598).

 外側面には腓骨筋支帯Retinacula tendinum mm. fibulariumがある.上腓骨筋支帯Retinaculum tendinum mm. fibularium proximale(図573, 597)は腓骨踝から踵骨に張っていて,長と短の両腓骨筋の腱をしっかりと保持している.下腓骨筋支帯Retinaculum tendinum mm. fibularium distaleは隔壁によって,長短それぞれの腓骨筋のための2つの管に分れ,踵骨の外側面に始まり且つ終っている(図460, 573, 597).

 腱が通り抜ける場所はどこもみな滑液鞘で内張りしてある(図596598).

 足背には(図596)3つの腱鞘(日本人における足の腱鞘および滑液包については,吉野佐次(東京医学会雑誌,52巻,881~924,1938)の詳細な報告がある.)がある,すなわち前脛骨筋の腱を包むもの,長母指伸筋の腱を包むもの,長指伸筋の腱を包むものである.これらの腱鞘は十字靱帯のやや上方から始まって,それぞれ第1楔状骨まで,第1中足骨の底まで,踵骨と立方骨とのあいだの関節にまで達している.

S. 494

 破裂靱帯の下を通る3つの深層の屈筋の腱(図598)はそれぞれ別々の腱鞘を有っている.まれに長母指屈筋の腱鞘と長指屈筋のそれとが結合している.これらの腱鞘は脛骨踝のうしろで破裂靱帯よりいくらか上方で始まる.そして後脛骨筋の腱鞘は舟状骨粗面にまで達しないが,他の2つの屈筋の腱鞘は足底の中でこれら両腱が交叉するところよりもわずかだけ遠位にまで延びている.

 長短の両腓骨筋Mm. fibulares(図597)は1つの共通な腱鞘を有ち,これは腓骨踝のうしろで始まり,支帯の下では各腱のためにそれぞれ1つの特別な管ができている.短腓骨筋の腱鞘は下腓骨筋支帯を越えて遠位の方にあまり遠くへは達しない.長腓骨筋の腱鞘は立方骨の長腓骨筋腱溝にまで達する.足底においてはその末端部が1つの特別な腱鞘を有っている.

[図596] 足背における腱鞘(Corning, topogr. Anatomieより)

5. 足背筋膜Fascia dorsalis pedis.

 足背筋膜は薄い膜で,これは十字靱帯から出て伸筋の腱の上に達する.その深葉は短い伸筋および背側骨間筋を被っている.

6. 足底腱膜Aponeurosis plantaris. (図583)

(工藤は日本人の足底腱膜を3型に分類し,50体側のうち,第1型33体側(66%),第II型9体側(18%). 第III型8体側(16%)であるとした(工藤得安:北越医学会会報,31巻,98~107,1916).)

 足底の腱膜はその中央の部分が力づよいStreckband(伸張帯の意)となっていて,足底の深部の軟部組織を保護している.これは踵骨隆起の脛側,腓側両結節から中足骨小頭まで延びている.その両側の部分は足底の3つの筋群に相当して,表面では溝により,深いところでは隔壁によってたがいに境されている.その内側部は薄く,外側部ははるかにかたく,特に踵骨の腓側結節と第5中足骨底とのあいだがかたい.その中央部は手掌腱膜におけるように,うしろほどいっそう幅が狭く且つ厚くなり,前にゆくほど幅が広く且つ薄くなり,終に5つの尖頭に分れてそれぞれ1つずつ各指に達する.多数の横走線維がこれらをたがいに連ねている.

S. 495

また垂直に走る線維束によって皮膚に固着されている.中足指節関節の近くでは全部の尖頭がそれぞれ2つの束に分れ,これらは屈筋の腱を包み,かつ関節の靱帯装置と固く着いている.幅の広い横走線維束が遠位にあって,これは指間の皮膚のひだの近くに達している.これが皮下横足底靱帯Lig, plantare transversum subcutaneumである(図583).

[図597]足における腱鞘 外側面.(Corning, topogr. Anatomieより)

[図598]足における腱鞘 内側面.(Corning, topogr. Anatomieより)

 深葉,すなわち深足底筋膜Fascia plantaris profundaは中足骨から骨間筋を越えて張り,骨間筋の筋束の起始となっている.--E. Loth, Morph. Jahrb., 38. Bd.,1908.--A. Henikel, Arch. Anat, Phys.1913, Anat. Abt., Suppl.

 指の腱鞘,すなわち[足の]指腱鞘Vaginae tendinum digitorum pedisおよびその補強靱帯は手について述べた関係と同じである.輪状靱帯Ligg. anularia digitorum pedis,鞘状靱帯Ligg. vaginalia digitorum pedis,十字靱帯Ligg. cruciformia digitorum pedisを区別する.

S. 496

脈管および神経が筋膜を貫く場所

 卵円窩は大伏在静脈および陰部大腿神経の大腿枝が通りぬけるところである.膝窩では大腿筋膜を貫いて小伏在静脈が膝窩静脈に入る.腓側大腿皮神経は前腸骨棘より5cm下方で大腿筋膜を貫き,大腿神経の前皮枝はその前面のいろいろな場所でこの膜を貫いている.伏在神経は膝部の内側面で皮下に現われる.浅腓骨神経は下腿伸側の筋膜を下腿長の下1/3の初まりの高さで貫いている.後大腿皮神経は大腿の全長にわたってこの筋膜の下を通り,その枝を順次に筋膜の孔をへて皮膚に送り,腓腹神経は下腿の後面の中央の高さより下方でこの筋膜を貫いている.これよりもさらに上方,膝窩の下方で且つ膝窩より外側で腓側腓腹皮神経がこの筋膜を貫いており,内側踵骨枝は踵より上方で,脛骨踝のうしろで皮膚に達している.

 下肢の皮下の粘液嚢として,なお次のものを挙げておこう.

 腓骨踝皮下包Bursa subcutanea malleoli fibulaeは(しばしば)腓骨踝のところに,

 脛骨踝皮下包Bursa subcutanea malleoli tibiaeは(しばしば)脛骨踝のところに,

 踵骨皮下包Bursa subcutanea calcanearisは踵骨隆起の下に,

 中足指節間嚢Bursae intermetatarsophalangicaeは中足骨小頭のあいだにある.その内側の3つはほとんど常に存在し,第4のものはしばしば欠如する.

 今までに述べなかった粘液嚢としては次のものがある.

 喉頭隆起皮下包Bursa subcutanea prominentiae laryngicaeは甲状軟骨の喉頭隆起の前にある.

 仙骨皮下包Bursa subcutanea sacralisは皮膚と腰背筋膜とのあいだで仙骨と尾骨との境のところにある.

 尾骨嚢Bursa coccygicaは肛門尾骨中隔の停止するところで尾骨の下端に接して存在する.

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最終更新日 13/02/04

 

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