Rauber Kopsch Band1. 48

S. 561
鎖骨下動脈Arteria. subclavia

 この動脈は頚部の大部分と胸部の一部および頭部の一部(脳の後部)を養い,また上肢に分布する動脈の幹でもある.この幹は前腕に達するまで分岐はしないが多数の枝を送り出しており,前腕でその終枝に分岐する.幹じしんがその部位によって3つの部分に分けられる.すなわち狭い意味の鎖骨下動脈Schtüsselbeinschlagaderと腋窩動脈Achselschlagaderおよび上腕動脈Armschlagaderの3つで,これらを別々に観察することにする.

 神経:下頚神経節,交感神経幹,腕神経叢からくる数多くの枝が鎖骨下動脈神経叢を作り,これが鎖骨下動脈のすべての枝にまでのびている.

 狭義の鎖骨下動脈は胸腔から出てくる最初の部分であって,第1肋骨の上面を越えて鎖骨の下にいたり,第1肋骨の外側縁にまで達する.その続きで第1肋骨の外側縁から(ほかの分け方では小胸筋の上縁から)広背筋の腱の前縁,または上腕骨の外科頚,あるいは大胸筋の下縁までの部分を腋窩動脈という.そこから総骨隅動脈と尺骨動脈とに分れるまでを上腕動脈という.--これより以下,鎖骨下動脈という名前は狭い意味にのみ用いる.

鎖骨下動脈Arteria subclavia (図639, 640, 645, 648)

 この動脈は胸鎖関節の後方で,右は腕頭動脈から,左は大動脈弓から起り,弓を画いてまず上方にすすんで胸膜頂を越え,ついで第1肋骨の上面に接してこれを越えるが,そこでは前斜角筋と中斜角筋のあいだで第1肋骨の鎖骨下動脈溝の中を走っている.

 局所解剖:したがって鎖骨下動脈は前斜角筋の後にあり,同名の静脈とのあいだに前斜角筋の停止部がある.この斜角筋のすきま(前斜角筋と中斜角筋の間)から出てくる腕神経叢は一部は鎖骨下動脈より上方に,一部はその後方にある.斜角筋より外にでた所では鎖骨下動脈は第1肋骨と鎖骨(ならびに鎖骨下筋)との間にある.鎖骨が強く下後方に引つぱられるとこの動脈は2つの骨の間で強くはさまれて,血行が多少とも妨げられ,橈骨動脈の脈搏が触れなくなることがある.

 左右の鎖骨下動脈をそれぞれまた3つの部分に分ける.すなわち胸部と斜角筋部と鎖骨部とである.胸部は左右の両側で異なった関係にあるが,そのほかの部分は両側とも同じ状態を示している(図640, 648).

 右鎖骨下動脈の胸部は気管の右側に密接して腕頭動脈の上端からはじまり,前斜角筋の内側縁にいたる.上外側にすすんで鎖骨より上方に達するが,その鎖骨を上方に越える程度は人によりまちまちである.そして前頚部の下の方にあるすべての筋に被われている.

 左鎖骨下動脈の胸部は大動脈弓の凸側のずっと後方の部から姶まるので,右側よりはるかに下方から始まり,およそ腕頭動脈の長さだけ長いのである.そして胸腔内をほとんどまっすぐに上方に向かって走り,その初めの部は左肺によって被われている.

 鎖骨下動脈の斜角筋部は左右ともこの動脈が弓を画いている部分の最高所にあたっており,広頚筋,胸鎖乳突筋,前斜角筋によって前方から被われている.後方は中斜角筋,下方は第1肋骨に接している.

 鎖骨下動脈の鎖骨部は鎖骨より上方にある限り,鎖骨と肩甲舌骨筋および胸鎖乳突筋の外側縁で囲まれた肩甲鎖骨三角Trigonum omoclaviculareの中にある.ときどき肩甲舌骨筋の下腹がこの場所で動脈を被っている.鎖骨部がここでは全体のうちでいちばん表層にあって,皮膚のほかには広頚筋,浅頚筋膜,中頚筋膜,脂肪組織,リンパ節がその外方に重なっているだけであるから,容易に到達することができる.

 鎖骨下動脈の胸部の初めの部分からは多くは小さい枝が近傍に出るだけである.大きい枝はほとんどすべて胸部の終りの弓状部から発するが,ただ1本か2本だけが斜角筋の間かまたはそれより外側のところで起.

 大きい枝は9本である(外頚動脈の枝と同数).

S. 562

1. 椎骨動脈A. vertebralis

2. 内胸動脈A. thoracica interna

肋頚動脈Truncus costocervicalis

3. 深頚動脈A. cervicalis profunda

4. 最上肋間動脈A. intercostalis suprema

甲状頚動脈 Truncus thyreocervicalis

5. 下甲状線動脈A. thyreoidea caudalis

6. 上行頚動脈A. cericalis superficialis

7. 浅頚動脈A. cervicalis superficialis

8. 肩甲上動脈A. suprascapularis

9. 頚横動脈A. transversa colli

 変異:鎖骨下動脈の起始の変異については543頁を参照されたい.

 弓状をなしている部分が頚部で普通よりもやや上方に達していることがあるのでそのために鎖骨下動脈の走行がいろいろな違いを示す.通常この変異は右の鎖骨下動脈の弓状部にみられる.しかしなお他の変化もあって,この動脈がときとして前斜角筋を貫いていたり,静脈といっしょに前斜角筋の前にあったり,あるいは静脈が動脈とともに前斜角筋と中斜角筋のあいだを通りぬけたりする. 胸郭の上部の肋骨の数が増しているときには鎖骨下動脈はその過剰肋骨の上を越える.一枝が正常でない個所で幹から分れていることがあり,それでさまざまの変化がみられる.また若干の枝がときどき欠如しており,近くのものから分れた枝がその代りをなしているのである.

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最終更新日 13/02/03

 

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