Rauber Kopsch Band1. 54

II. 外腸骨動脈Arteria ilica externa

 これは内腸骨動脈よりもかなり太い動脈で,仙腸関節のところにある総腸骨動脈の分岐部から鼡径靱帯の縁まで達しており(図669, 674)その靱帯の向う側では大腿動脈という名前になる.

 局所解剖:外腸骨動脈は腰筋の内側縁に沿って腸骨筋膜の上を下外側にすすみ,腹膜によって被われている.その起始のところでは尿管がその上を越えて走り,またその終りのところでは精巣動静脈がその上を越えている(図662).外腸骨静脈はその内側に接しており,また大きなリンパ節がこれらの血管の前および内側にある.

 この動脈は細い枝を腰筋,リンパ節,腹膜下結合組織にあたえ,また鼡径靱帯の下にはいる少し前に2本のかなり太い枝を出している.これが下腹壁動脈および深腸骨回旋動脈である.

1. 下腹壁動脈Arteria epigastrica caudalis(図647, 669, 674)

 この動脈は外腸骨動脈の終りの部分の前壁で,鼡径靱帯よりせいぜい0.5cm離れたところで始まる.そこかち上内側に曲がって腹横筋膜と腹膜とのあいだを腹直筋の後面にすすみ腹直筋鞘のなかにはいる.ここではほとんどまっすぐ上方に走り,臍の上方で何本かの小枝に分れて終わっている.これらの小枝は腹直筋のなかで広がり,内胸動脈の終枝および下部の肋間動脈とつながっている(図647).

 この動脈は腹膜下鼡径輪の内側縁に沿って行くので(図499),腹横筋膜の鞘状突起と交叉している.そのばあい精管はこの動脈の外側を越えて曲がっている(図669).

a)恥骨枝R. pubicus.小さい1本の枝で裂孔靱帯の内面を下方におもむき,恥骨の後面およびこれと結合している諸部に広がり,また閉鎖枝R. obturatoriusという1本の枝を出して閉鎖動脈の恥骨枝と結合している.

S. 619

 この結合からしばしば閉鎖動脈が異常な起始をなしている(閉鎖動脈の項,618頁参照).この場合には普通の位置にある閉鎖動脈が非常に細くて上腹壁動脈の閉鎖枝が太くなっているのである.

b)挙睾筋動脈A. m. cremasteris(図673).細い動脈であって,内鼡径輪の近くで始まり,この輪を通るかあるいはいっそうしばしば特別の隙間を通って鼡径管に達し,精索に伴なって血液を挙睾筋および精索のその他の成分に供給しながら,下って精巣に達し,精管動脈および精巣動脈と吻合している.その外方への枝は陰嚢動脈と吻合する.女ではこれに相当するものが子宮鼡径索動脈A. chordae uteroinguinalis(子宮円靱帯動脈A. lig. teretis uteri)であって,これは子宮鼡径索と大陰唇の中に分布するのである.

 これらの比較的太い枝のほかに,下腹壁動脈の幹からは多数の筋枝が付近の諸筋に出ており,また皮枝も出ていてこの皮枝は腹直筋およびその筋膜を貫いて皮膚に達するが,その関係は内胸動脈の穿通枝と同じである(図647).また若干の小枝が尿膜管に沿って膀胱に達し,また肝鎌状間膜の中で肝臓にいたる.

2. 深腸骨回旋動脈Arteria circumflexa ilium profunda

 これは下腹壁動脈よりも細くて,鼡径靱帯の近くで内腸骨動脈の外側壁から出て腸骨筋膜と腹横筋膜のあいだを外側にすすんで前腸骨棘にいたり,ついで腸骨稜に沿って後方にすすむ.その経過のあいだに1本ないし2,3本の上行枝を腹筋群に出している(図647, 669, 674).

 これらの枝のうちの1本は腹壁の中で下腹壁動脈の少しく外側を上方に走っていて,外側腹壁動脈A. epigastrica lateralisとも名づけられており(Führer, H., Stiede)マックバーネイ点Mc. Burneyscher Punkt(前腸骨棘と臍とを結ぶ線の中点)において腹腔穿刺をするさいに注意を要するものである.

大腿動脈Arteria femoralis

 大腿動脈は外腸骨動脈の幹の続きをなして鼡径靱帯から大腿の遠位1/3にある内転筋管裂孔までの部分である(図673).そして全体としてだいたいに鼡径靱帯の中点から大腿骨の内側顆を結ぶ方向をとっている.

 局所解剖:大腿動脈の全長を3つの部分に分けている.その近位部は大腿筋膜の下で,縫工筋と長内転筋とのあいだにある大腿三角Trigonum femoraleというところにある.もっと正確にその位置をいうと,大腿三角の中でも腸腰筋と恥骨筋とのあいだにある腸恥窩Fossa iliopectineaというくぼみがその場所である.ここではこの動脈の搏動を容易に触れることができるし,また動脈を骨に向かって押しつけることもできる.--血管裂孔Lacuna vasorumにおけるこの動脈の位置については489頁および図591を参照されたい. 大腿三角の下端でこの動脈の中部が始まる.そこでは縫工筋が動脈の前にあり,この筋はここより下方では大腿動脈をほとんどその全長にわたって被っている.初めのところではただ皮膚,皮下組織,リンパ節および大腿筋膜がこの動脈を被い,また大腿血管鞘Vagina vasorum femoraliumが包んでいるが,それより下方ではこの動脈がもっと深いところにあって,よく保護された位置をとっている.ここでは縫工筋ばかりでなく広筋内転筋板Lamina vastoadductoriaがその上にのっている.--第3の部分すなわち遠位部は大腿動脈が縫工筋の外側にあり,上に述べた内転筋管の約5cmの長さをもつ線維性の続きの中にある.この管の続きは大内転筋の腱と内側広筋の腱のあいだにあって,この両筋のあいだを連ねる線維性の条によって前を閉ざされている.この管の下端で大腿動脈はいわゆる内転筋管裂孔を通って大内転筋の腱の後にいたり,それからは大腿骨の後面で膝窩Fossa popliteaの上角にある.内転筋管には上と下の口があり,両方ともこの管に出入する血管によって閉ざされている(内転筋管,446頁参照).

S. 620

大腿動脈は次にのべる諸器官に接したりその上にのつたりしている.上から順にいうと,まず腰筋に接し,ついで恥骨筋の前にいたる.この筋とは大腿深動静脈によって隔てられている.それから長内転筋の前にすすみ,最後に大内転筋の腱の上を通っている.その経過の下方の部分では動脈の外側に内側広筋があり,この筋は大腿動脈と大腿骨の間にはいりこんでいる(図673). 鼡径下窩ではこの動脈は骨盤の前縁を出てから大腿骨頭と股関節の前にある.またこの動脈の下部は大腿骨の内側でこの骨に密接している.しかしその間では全体として骨から離れていて,部分的にはそのへだたりが大きいものとなっている. 大腿静脈は大腿動脈に密接しており,この両者は大腿血管鞘に包まれていて,そのあいだに薄い隔壁があるだけである.大腿骨の上部では静脈は動脈の内側にあり,それより下方では動脈の後方にある.最後に膝窩のごく近くになると,静脈は動脈の外側でその後方にある.

--大腿神経は最初には大腿動脈の外側にあって,そのあいだを腸骨筋膜が境している.それより下方では大腿動脈は伏在神経をその前壁に伴なったままほとんど内転筋管の下端のところまで行く.

 大腿動脈はかなり多数の枝を出しており,その一部は前腹壁と外陰部に分布するが,大部分は大腿部で下方は膝までのところに枝を分かっている.

 神経:この動脈は大腿動脈神経叢を伴なっている.

この神経叢には大腿神経の大腿動脈神経N. arteriae femoralisと陰部大腿神経N. genitofemoralisの大腿枝の枝が来ている.さらに大腿深動脈の起る高さでは3本の枝が大腿神経あるいは伏在神経N. saphenusからきており,また大腿の中央部では伏在神経から1本の小枝がやってくる.

1. 浅腹壁動脈Arteria epigastrica superficialis

 この動脈は鼡径靱帯のやや下方において大腿動脈の前壁から始まり,卵円窩または鎌状縁の近位角を通って前方にでて,前腹壁の皮下を上方に走る.その枝は臍のあたりまで伸びており,内胸動脈の終枝とつながっている(図647, 673).

2. 浅腸骨回旋動脈Arteria circumflexa ilium superficialis

 これは鼡径靱帯の下方をこれと平行して前腸骨棘に向かって走る細い動脈で,それから起る少数の枝が靱帯を越えて,筋膜と皮膚に分布している(図647, 673).

3. 鼡径枝Rami inguinales(図673)

 細い動脈で鼡径部の皮膚とリンパ節に達している.

4. 外陰部動脈Arteriae pudendales externae(図673)

 これは2本あるのが普通であるが,この2本がいっしょになって出ていることもある.そのうちの1本は恥骨結合に向かって内側かつ上方にすすみ,腹壁の下内側部と外陰部のこれに接する部分で枝分れしている.もう1本は恥骨筋の上を越えて内側に筋膜下をすすみその筋膜を貫いて,男では陰嚢枝Rr. scrotalesとなって陰嚢に分布し,女では陰唇枝Rr. labialesとして大陰唇に分布する.この2本の枝ほたがいにつながり,また他側の同名枝とも結合している.

5. 大腿深動脈Arteria profunda femoris(図673675)

 これは大腿動脈とほぼ同じ太さで,たいてい鼡径靱帯より3~4cm下方で大腿動脈の外側壁において始まり,大腿部を養う主要血管となっている.

 初めは大腿動脈の外側にあるが,ついでその後を通って下方にすすみ,内転筋群と内側広筋とのあいだで深部に達する.大腿深動脈の終りの部は長内転筋と大内転筋の間にはいり,第3穿通動脈という終枝になっている.起始してまもなく大腿前方部の諸筋に小枝をあたえるほかに次のはなはだ大きい枝を出している.

S. 621

a)内側大腿回旋動脈Arteria circumflexa femoris tibialis

 この動脈は腓側大腿回旋動脈より細くて,内転筋群の上方を腸腰筋と恥骨筋のあいだで大腿骨頚の内側面に付いて内側かつ後方にすすみ,大転子窩のところにまで達し,そこで腓側大腿回旋動脈の枝と吻合する(図673, 675).

 外閉鎖筋とともに後方にすすみその腱のところで2本の主枝に分れる.その浅枝Ramus superficiaIisは短内転筋,大腿薄筋,外閉鎖筋に枝分れする.深枝Ramus profundusは小転子の下を後方にすすみ,大腿方形筋,大内転筋および屈筋群を養っている.しばしば深枝は1本の寛骨臼枝Ramus acetabularisを閉鎖動脈の同名枝とともに,あるいはその代りとして寛骨臼切痕をへて股関節にあたえている.

b)腓側大腿回旋動脈Arteria circumflexa femoris fibularis

 これは太い枝で,大腿深動脈の外側壁からこの動脈の起始の近くで出ている.縫工筋に被われ,また大腿神経の枝のあいだにあって,大転子の下方を外側に向い,上行枝R. ascendensと下行枝R. descendensを出し,横にすすんで中間広筋の上を越え,外側広筋を貫いて大転子の下で骨に達し,後方で内側大腿回旋動脈,上下の両磐動脈および大腿動脈の枝のうち後方の筋に達するものと結合している(図673, 674).

α. 上行枝R. ascendensは縫工筋と大腿直筋とにおおわれて上方に向い,大腿筋膜張筋の下で見えなくなる.

β. 下行枝R. descendensは太い枝で1本のこともあり,またしばしば2本以上である.大腿部の前がわで大腿直筋の後において枝分れし,筋群のなかをへて,その一部は膝関節にまで達している.

c)穿通動脈Arteriae perforantes(図673675)

 穿通動脈は大腿深動脈の終枝を合せて3本ないし5本あって,内転筋群の大腿骨への停止部を貫いて大腿骨の後がわに達する(図566).

α. 1穿通動脈A. perforans prima.これは穿通動脈が3本しかない場合にはそのうちでいちばん太く,恥骨筋の停止の下方で短内転筋と大内転筋を貫いて走り,これらの両筋と大腿二頭筋に枝をあたえ,また近位大腿骨栄養動脈A. nutricia femoris proximalisを大腿骨の上部の栄養孔を通ってこの骨の内部に送っている.

β. 2穿通動脈A. perforans secunda.この動脈は短内転筋の下方で大内転筋を貫いて大腿部の後方の筋群に広がっている.

γ. 3穿通動脈A. perforans tertia. 大腿深動脈の終枝であって,長内転筋の停止の下方で大内転筋を貫き,遠位大腿骨栄養動脈A. nutricia femoris distalisという1本の太い動脈を大腿骨の内部にあたえ,大腿部の後方の筋群の下部,特に大腿二頭筋に分布している.

 これらのすべての枝はたがいに相つながり.また付近の動脈とも結合している.

6. 筋枝Rami musculares(図673, 674)

 大腿動脈はその走行中に6本から8本の筋枝を大腿部の前方の筋群に出している.

 これらの筋枝は主に幹の前壁と内側壁から出ていて,その数と太さはまちまちである.脛側と腓側の両大腿回旋動脈の下行枝が太ければ,それだけ前方の筋群にいたる筋枝が弱いのであって,その逆の関係もみられる.それゆえ筋枝の太さとその分布の広さは大腿回旋動脈の下行枝の形成のいかんによっている.

S. 622

7. 下行膝動脈Arteria genus descendens(図673, 674)

 大腿動脈の下部から出る長い動脈であって,大腿の前がわで大内転筋の腱の前を下方にすすむ(図673, 674)

 たいてい内転筋管裂孔のすぐ上方で始まり,2本の枝に分れるが,しばしばこの2本が別々に起こっている.2本の枝はともに膝関節に向かって下行するが,そのうちの1本は内側広筋のなかを通り,この筋に枝をあたえている.筋枝Rami musculares,関節枝Rami articularesおよび比較解剖学的に重要な伏在枝Ramus saphenusが区別される.

 大腿動脈およびその枝の変異.ときとして大腿動脈の幹が大腿深動脈を出してのち,2本の枝に分れ,内転筋管のところでふたたび1本に合して,それから下方では単一の膝窩動脈となっていることがある. また時には大腿動脈の一部が大腿の後がわを走る1本の幹でおきかえられている.この幹は内腸骨動脈から出ていて,非常に太くなった坐骨神経伴行動脈A. comitansns ischiadiciとみなされる(615頁参照).--大腿深動脈の位置が変化していることは少なくない.このことは本質的には脛側と腓側の大腿回旋動脈の大きさと起始の如何によるのである.2つの大腿回旋動脈の1方または両方の起始が大腿深動脈から大腿動脈の幹に移っていることがある.また腓側大腿回旋動脈が幹から出ている場合は,大腿深動脈の起始は内側にかたよっている.

 ときとして大腿深動脈の起始が上方に移って鼡径靱帯のところにある.この場合には2本の動脈のうち外側のものが大腿深動脈である.ほかの例ではその起始がいっそう下方に移っている.このときには両方の回旋動脈がたいてい大腿動脈の幹から出ている.起始が下方に移っていなくても回旋動脈が大腿動脈の幹から出ていることがある.

 Ruge, G., Morphol. Jahrbuch, 22. Bd.,1894--Spuler, A., Beiträge zur Kenntnis der Varietäten der Gefaße und der Muskulatur der unteren Extremitäten des Menschen. Erlangen ,1901.

膝窩動脈Arteria poplitea(図675, 677)

 この動脈は内転筋管の下端から膝窩筋の下縁まで伸びており,そこで前脛骨動脈と後脛骨動脈とに分れる.

 局所解剖:この動脈はまず大腿骨の内側面から下方かつ外側に向かって膝窩の中央部まで急な角度をなして下り,ついでほとんど垂直に膝関節の中央部の後を,この動脈の分岐部まで下行する.その全体を通じてはなはだ深いところを走り,またその初まりの部は半膜様筋によって後から被われている.膝関節のところでは関節包の後壁に密接していて筋に被われていない.それより下方ではかなりの長さだけ腓腹筋の下に隠れている.その下部はなおそのほかにヒラメ筋の上縁によって被われる.

 この動脈は膝窩静脈のうしろで少しく外側にある.脛骨神経はそれより浅層でもっと外側にあり,膝窩筋膜のすぐ下にある.しかし膝窩の下部ではこの神経は全く膝窩動脈の内側に位置する.総腓骨神経は大腿二頭筋の膝窩縁に沿って腓骨頚に達している.

 神経:この動脈の外膜には膝窩神経叢があり,そこには脛骨神経から2本の小枝がはいっている(HahnとHunczek).

 膝窩動脈の枝には筋枝と関節枝という2組があって,その筋枝にはさらに上部と下部が区別される.

 上部の筋枝は膝の屈筋の下端部と広筋群および大内転筋の後下部に分布するが,その数はまちまちである.またこれらは穿通動脈と結合する.

 下部の筋枝は腓腹動脈Aa. suralesとよばれ,これにはそれぞれ1本の内側枝と外側枝があって,いずれもかなり太く,膝関節のうしろで膝窩動脈の後壁から始まり,おのおの2本の枝に分れる.これらの枝のうち深枝は腓腹筋のなかにはいり,ほかの2本は細くて長い枝であって下腿の後がわをかなり遠くまで下方にすすみ,主に筋膜と皮膚のなかで枝分れしている.

 関節枝はたいてい5本ある.

a)脛側近位膝動脈A. genus proximalis tibialisは大腿骨の内側顆の上方で大内転筋の腱と内側広筋の腱の下を通り骨にそって前方に廻り膝関節動脈網にいたる.

S. 623

[図675]臀部と大腿の動脈(右) 後がわ

S. 624

[図676]膝と下腿の動脈(右) 前方からみる.

S. 625

b)腓側近位膝動脈A. genus prdximalis fibularisは大腿骨の腓側顆の上方で大腿二頭筋の下を前方にすすみ膝関節動脈網にいたる.

c)中膝動脈A. genus mediaは膝窩の高さで始まり,膝関節包の後壁にはいり,辱交叉靱帯および滑液膜ヒダに枝をあたえている.

d)脛側遠位膝動脈A. genus distalis tibialisは脛骨の内側顆の下方で内側側副靱帯に被われて膝関節動脈網にすすむ.

e)腓側遠位膝動脈A. genus distalis fibularisは腓腹筋の脛側頭の下,ついで大腿土筋頭の腱と腓側側副靱帯の下を骨に密接して外側に走り,腓骨小頭の上方で腓側半月に沿って膝の前面にいたり膝関節動脈網に入る.

 膝窩動脈の変異:すでに述べたように少数の例においては内腸骨動脈から起こっている.そのほか時おり高いところでその2本の終枝に分れる(ヨーロッパ人で9.7%,日本人で2.7%, Adachi).ときどき(1.5%において,Adachi)膝窩動脈が3本の終枝,つまり後脛骨動脈,前脛骨動脈および腓骨動脈に分れている.後脛骨動脈が欠けていることがあり,その代りに分岐部から腓骨動脈が出ている.

中膝動脈は腓側近位膝動脈の枝となっていることがきわめて多い.

前脛骨動脈Arteria tibialis anterior(図676, 678)

 この動脈は下腿骨間膜の上部の孔を通って下腿の前がわに達して足背まで下行する.

 局所解剖:その経過のあいだは脛腓靱帯結合のところまで骨間膜の上に密接していて,特別の線維性の膜がこれを被っており,この膜のために前脛骨動脈の通路は管のようになっている.下腿ではその全経過を通じてその走行は前脛骨筋の外側縁に沿っており,この動脈の外側にはまず長指伸筋があり,ついで長母指伸筋がある.足関節の近くでは長母指伸筋の腱の下,および十字靱帯の下を通って足背にいたり,その後は足背動脈A. dorsalis pedisと呼ばれる.そこでは動脈が表面に近くあって筋膜と皮膚とに被われ,長母指伸筋の腱の外側を第1骨間隙にすすみ,その間隙の初めのところで2本の終枝である1背側中足動脈A. metatarsea dorsalis Iと穿通骨間動脈A. metatarsea perforansとに分れる.穿通骨間動脈は骨間隙の近位端を通って足底にいたり,足底動脈弓の形成にあずかる.第1背側中足動脈は第1骨間隙のなかを遠位にすすむ(図678). 前脛骨動脈は2本の静脈を伴っている.深腓骨神経は腓骨小頭を越えて内側にすすみ,次第にこの動脈に近づき,ついで動脈に密接する.

 神経:下腿骨間神経の枝と深腓骨神経からの多数の小枝(HahnとHunczek)による.

 前脛骨動脈は多数の筋枝のほかに次の枝を出している.

a)前脛骨反回動脈A. recurrens tibialis anteriorこの動脈は前脛骨動脈が骨間膜を貫いてすぐのところから出て,前脛骨筋の筋束のあいだを上方に向かって膝関節動脈網にいたる.

 後脛骨反回動脈A. recurrens tibialis posteriorは欠けていることが多い.後脛骨動脈の初めの部分から,もしくは膝窩動脈の終りの部分から出ることが多く,膝窩筋の下を膝関節に向かってすすむものである.

b)前脛側踝動脈A. malleolaris tibialis anteriorは足関節の近くで始まり前脛骨筋の腱の下を脛側踝動脈網Rete malleolare tibialeにいたる.

c)前腓側踝動脈A. malleolaris fibularis anteriorは前者と同じ場所で始まり長指伸筋と第3腓骨筋の腱の下を腓側踝動脈網Rete malleolare fibulareにいたる.

 足底動脈からは次のものが出る.

a)内側足根動脈Aa. tarseae tibiales.これは2~3本の小さい枝で長母指伸筋の腱の下を足の内側縁に達する.

b)腓側足根動脈 A. tarsea fibularis.この動脈はたいてい距骨頭と舟状骨の高さで十字靱帯の遠位において始まり,足根骨の上を越え,短指伸筋の下を外側かつ遠位の方向にすすんで立方骨にいたり,その枝は足背動脈網に入る.

S. 626

[図677] 膝窩と下腿の動脈(右) 後方からみる.

S. 627

c)弓状動脈A. arcuata.この動脈は腓側足根動脈に近いこともあり,またかなり離れていることもあるが,足根骨の遠位端のところで発して,腓側足根動脈と同じく短指伸筋の下を外側かつ遠位の方向にすすむ.この動脈は重複していることがあり,また腓側足根動脈と合して出ていることもある.足背動脈網Rete dorsale pedisの形成にあずかり,この網の遠位部から第2,第3,第4背側中足動脈が出る.これらの背側中足動脈は細くてまっすぐに走り,弓状動脈がよく発達しているときには弓状動脈から.そうでない場合には足背動脈網の遠位縁から始まり,外側の3つの骨間隙において骨間筋の上を通り足の指の方に走っている.

 外側の3本の背側中足動脈,および内側の第1背側中足動脈がみなそれぞれ2本の背側指動脈Aa. digitales dorsalesという枝に分れ,足の指のたがいに向き合った背側縁に沿って遠位方向に走っている.

 腓側第5背側指動脈A. dorsalis digiti V. fibularisは腓側足根動脈か,あるいは足背動脈網から出て足の小指の背側外縁を走っている.

d)第1背側中足動脈A. metatarsea dorsalis I.は足背動脈の終枝の1つである.第1骨間隙をすすんで背側指動脈を足の母指にあたえ,また第2指の内側の背側指動脈を出している.

 変異:脛側背側母指動脈A. dorsalis hallucis tibialisは図678に示す例のように足底から来ていることがある.

e)穿通中足動脈A. metatarsea perforansは第1背側骨間筋の両頭のあいだで第1骨間隙の近位部を通って足底にいたり足底動脈弓Arcus plantarisの形成にあずかる.

 骨間隙の遠位部および近位部で背側中足動脈が穿通枝Rami perforantesによって足底の動脈とつながっている.

 前脛骨動脈の変異:膝窩動脈が高いところで分岐している場合には前脛骨動脈の初めの部が膝窩筋の前面か後面にある.このような場合の何例かにおいて,腓骨動脈が前脛骨動脈から出ている. 多くの例では前脛骨動脈が下腿の前外側面に沿って腓骨のそばを下方に走り,十字靱帯のうしろで足関節を越えるところでやっと正常の位置をとる.ほかの例では下腿の中央から下方では全く表面を走っているのが見られた.--前脛骨動脈は普通よりずっと細くなっていることがまれではない.普通より太いことはまれである.普通より細い場合はその程度にあらゆる段階がある.母指の動脈だけが欠けていることがあり,その時には足底からの枝がその代りをしている.ほかの例では前脛骨動脈が足背の近位部かまたは下腿の下端部で終わっている.そのさい足背動脈は腓骨動脈の穿通枝R. perforansから出ていて,前脛骨動脈とのつながりはあることもあり,ないこともある.ほかの例では前脛骨動脈が完全に欠けていて,下腿では後脛骨動脈の穿通枝が,足では腓骨動脈の穿通枝がその代りをしている. 足底動脈弓の発達がわるい場合にはしばしば足背の諸動脈とその穿通枝が太くなっている.

 弓状動脈はヨーロッパ人で68.5%,日本人で79.1%において欠けている(Adachi).

後脛骨動脈Arteria tibialis posterior(図677, 679)

 この動脈は下腿の後面を下方に破裂靱帯のところまですすみ,そこでこの靱帯と母指外転筋の起始で被われて,内側足底動脈A. plantaris tibialisと腓側足底動脈A. plantaris fibularisに分れる.

 局所解剖:上方では後脛骨動脈は脛骨と腓骨のほぼ中間にあるが. 下方ではいっそう内側にかたより,下腿の深層にある3つの屈筋と下腿筋膜の深層によって作られる管のなかにいたる.上方でははなはだ深いところにあって,後方からヒラメ筋・足底筋・腓腹筋によって被われている.下方ではずっと表層にあって,脛骨踝のうしろでは2枚の筋膜葉と皮膚がその上を被っているだけである.しかしアキレス腱の下端部とのあいだは下腿筋膜の両葉の間にある豊富な脂肪組織によって隔てられている.

S. 628

[図678] 右足背の動脈(3/4)

S. 629

足関節のうしろではこの動脈と脛骨踝とのあいだに後脛骨筋と長指屈筋の腱があり,また長母指屈筋の腱はこの動脈の外側にある.後脛骨動脈は2本の静脈を伴なう.脛骨神経は下腿の上部ではこの動脈の内側にあるが,まもなくその外側に移るのである.

 神経:下腿骨間神経と脛骨神経による.

 この動脈は多数の筋枝のほかに次の枝を出している.

a)腓骨枝R. fibularis.これは膝窩動脈の分岐部のところで出て,腓骨小頭の下方を前方に向かってすすみ膝関節動脈網にいたる.

b)腓骨動脈 A. fibularis.この動脈は膝窩筋より2~3pm下方の高さで始まり,斜めに向かって腓骨の方へすすみ,この骨に沿ってその大部分が母指屈筋に被われたまま下行する.腓骨踝の下方で腓骨踵骨枝 Rami calcaneares lateralesという枝に終るが,この枝は踵骨の外側と後側にある部分に分布する.

 神経:脛骨神経による.

 多数の筋枝のほかにこの動脈は次のものを出している.

α. 脛骨栄養動脈A. nutricia fibulae.

β. 穿通枝R. perforans.この枝は腓骨踝よりも4~6cm上方の高さで始まり,ついですぐに骨間膜を貫いて,下腿と足根骨の前面を下方にすすみ,足背動脈網に入る.

γ. 交通枝R. communicans.これは脛骨踝と腓骨踝の上縁のところで屈筋群の腱に被われて脛骨の後を横走し,後脛骨動脈の同じような小枝と弓状をなして合する.こうして2つの幹の横のつながりが生ずる.その数が1本でなくて,もっと多いことがある.

δ. 後腓骨踝動脈A. malleolaris fibularis posteriorは細い枝でしばしば交通枝から出ており,腓骨踝動脈網にいたる.

ε. 腓側踵骨枝Rr. calcaneares fibulares.これは一部は腓骨踝に分布するが,主として踵骨の外側の部分にいたる.

c)脛骨栄養動脈A. nutricia tibiae.後脛骨動脈の初めの部分から出て,脛骨の後面にのっており,小枝を諸筋にあたえ,脛骨の栄養孔にいたる.

d)後脛骨踝動脈A. malleolaris tibialis posterior.これは脛骨踝のすぐ下で前脛骨踝動脈に向かってすすむ.

e)内側踵骨枝Rr. calcaneares tibiales.これは踵の内側面にいたり,腓側踵骨枝とともに踵骨動脈網Rete calcaneare を作る.

f)内側足底動脈A. plantaris tibialis.内側足底動脈は後脛骨動脈の2終枝のうち,たいてい細い方の1本で,足底の内側で母指内転筋と短指屈筋のあいだを第1中足骨に向かって遠位にすすむ(図679).

 この動脈が腓側足底動脈より太くなっている場合はヨーロッパ人で22.4%,日本人で2.7%である(Adachi).

 この動脈がよく発達している場合には深枝R. profundusとなって足底動脈弓が第1底側中足動脈にはいっている.長くて細い浅枝R. superficialisは母指内転筋の下縁をへて足の母指にまで達して,母指の脛側母指足底動脈の代りをしていることがある.上に述べたつながりの1つが存在する場合は深足底動脈弓tiefer Sohlenbogenのほかに浅足底動脈弓oberflächlicher Sohlenbogenがあるといえる.もっともそれは全例の1/3にも達しない.しかし浅足底動脈弓が太くなっていることはまれである(Adachi).内側足底動脈はその両側に接している2つの筋に枝をあたえ,またその途中の皮膚にも分枝する.

g)腓側足底動脈A. plantaris fibularis.これは後脛骨動脈の太い方の終枝で外側にあり,まず短指屈筋によって下方から被われ,短指屈筋と足底方形筋のあいだで外側かつ遠位に凸の孤を画いて第5中足骨の底まですすむ.

S. 630

ついで骨間筋と母指内転筋の斜頭のあいだを内側にすすみ足底動脈弓Arcus plantarisを作る.

足底動脈弓Arcus plantaris(図679)

 足底動脈弓は腓側足底動脈(後脛骨動脈の)と穿通中足動脈(前脛骨動脈の)とがいっしょになってこれを成している.この動脈弓は外側かつ遠位に向かって凸の弓状を画き,中足骨の底のすぐ下で,この骨と足の指の諸屈筋の腱および母指内転筋の斜頭のあいだを走る.これはその位置の関係から深掌動脈弓と同じものである.足底動脈弓の枝は足の指の底面を養い.また足背の一部をも養う.これから次の枝が出ている.

a)底側中足動脈Aa. metatarseae plantares.この動脈は中足骨のあいだにある4つの隙間を遠位方向に走り,中足骨の遠位端でそれぞれ2本の底側指動脈Aa. digitales plantaresという枝に分れて,足の指のたがいに向き合った両側縁にいたる.

 おのおのの足の指の両側縁にある動脈は終末動脈弓terminale Arkadeを作って,これから多数の枝を出しており,また側枝を足指の背側部に送っている.第4底側中足動脈の外側で,足底動脈弓から第5中足骨および小指の外側縁への動脈が出ていて,これを小指腓側足底動脈A. Plantaris fibularis digiti quintiという.それに対して第1底側中足動脈からは第1中足骨の小頭のところで母指の内側縁への動脈が出ている.これを母指内側足底動脈A. Plantaris tibialis hallucisという.これはたいてい内側足底動脈の遠位端とつづいている.

b)穿通枝Rr. perforantes.これには近位と遠位の穿通動脈がある.近位のものは3本あって.外側の3つの中足骨間隙の近位部を貫いて,足背で背側中足動脈とつづいている.遠位の穿通動脈は底側中足動脈の遠位端か,またはそれから分れた枝の近位端から出て足指の背側の動脈にいたる.

膝関節動脈網Rete articulare genusと膝蓋骨動脈網Rete patellae

 膝関節動脈網は動脈の枝で作られていて,大きい広がりをもつ網であり,膝関節包をとりまいている.次の諸動脈がその形成にあずかる.

1. 下行膝動脈

2. 脛側近位膝動脈

3. 腓側近位膝動脈

4. 中膝動脈

5. 脛側遠位膝動脈

6. 腓側遠位膝動脈

7. 腓骨枝

8. 後脛骨反回動脈

9. 前脛骨反回動脈

 膝蓋骨動脈網Rete patellaeは膝関節動脈網の一部で膝蓋骨の前面にあるものである.

脛骨踝動脈網Rete malleolare tibiale

腓骨踝動脈網Rete malleolare fibulare

 脛骨踝動脈網は脛骨踝の自由面にあって,前脛骨踝動脈,近位の内側足根動脈および後脛骨踝動脈によって作られる.腓骨踝動脈網は前腓骨踝動脈の枝がこれに関与し,また後腓骨踝動脈が存在する場合にはこれも加わり,(いっそうまれに)内側足根動脈の後枝もその形成にあずかっている.

踵骨動脈網Rete calcaneare

 踵骨動脈網は踵骨の後部の上にあって脛骨踝動脈網およぴ腓骨踝動脈網から枝を受けているが,特に後脛骨動脈からおこる多数の目立った枝である内側踵骨枝,および腓骨動脈の腓側踵骨枝によって作られている.

S. 631

[図679] 足底の動脈(右) (3/4)

S. 632

[図680] 頚部浅層の静脈

足背動脈網Rete dorsale pedis

 足背動脈網は足根背側の靱帯装置のすぐ上に広がっている.

 これを作っている動脈は腓骨動脈の穿通枝・内側足根動脈・腓側足根動脈・弓状動脈である.

 近位の穿通枝によって足背動脈網は足底動脈弓とつながっている.--足背動脈網から3本の外側の背側中足動脈と小指腓側足背動脈が出ている.--個々の場合に足背動脈網がどのような変形をあらわすかということはいろいろな偶然によると思われる.一般的にみて,すべての足指に向う平等な縦の方向というものがあり,またすべての骨間隙において1つの流れが穿通枝をへてすべての背側中足動脈にはいるのが認められる.

S. 633

--足背動脈が主流をなし,弓状動脈がその支流になっていることがあるが,また後者が全部あるいは一部欠けていることもある.主流が第2の骨間隙に達していることもあり,第1と第4の骨間隙を通るつよい流れに分れていることなどがある(H. Meyer).

 変異:後脛骨動脈は膝窩動脈が高位で分岐しているときには普通よりも長くなっている.後脛骨動脈が普通より細くなっていたり,下方で横走する1本または2本の吻合枝によってふたたび太くなっていることがまれでない.ほかの例では後脛骨動脈の続きとしては下腿上部だけに分布するただ1本の筋枝がみられるだけで,下方の枝はすべて腓骨動脈が太くなって,その代りをしている. 腓骨動脈の起始がときどきいっそう下方に移っていて,ほとんど下腿の中央部にあることもあるが.また上方に移っていて前脛骨動脈の起るところか,あるいは膝窩動脈にまでも達していることがある.高位で分岐する例ではしばしば前脛骨動脈が腓骨動脈を出している.腓骨動脈は普通よりも太くなっていることの方が細くなっている場合よりもはるかに多い.太くなっている場合には腓骨動脈がいろいろなぐあいに後脛骨動脈の下方の部分の代理をしている.まれに腓骨動脈が下肢の下端まで達しないで,その分布区域を後脛骨動脈の枝が養っていることがある.前脛骨動脈が細くなっているのを腓骨動脈の前枝(穿通枝)が補つて,それを太くしていることがまれではない.あるいは足背において完全に前脛骨動脈の代りを勤めている.ときどきこの前枝が欠けていてその場所に前脛骨動脈がはいっている.非常にまれに腓骨動脈が全く欠如している.足底動脈弓から出る近位の穿通枝は普通ではあまり太くないが,足背動脈網の発達がよくないさいには太くなっていて,これが背側中足動脈を出している.--足底動脈弓はときとしてほとんど独占的に足背動脈の穿通中足動脈のみによって作られている.このばあい穿通中足動脈が前脛骨動脈の枝であっても腓骨動脈の穿通枝の枝であっても同じことである.ときおり足背動脈が直接に母指の底側指動脈を出している.なおまた2本の底側中足動脈が1本の共通の幹をもって足底動脈弓から出ていることがある.

 日本人ではAdachiによると足背動脈網と足底の浅層の動脈がヨーロッパ人よりも弱く発達し,それに反して足底の深層の動脈はヨーロッパ人より強く発達しているという.

1-54

最終更新日 13/02/04

 

ページのトップへ戻る