Rauber Kopsch Band1. 58

B.各論

 その位置と走行によって浅層のリンパ管深層のリンパ管Vasa lymphacea superficialia et profundaに分けられる.

 浅層のリンパ管はいっそう豊富であって,全身の表面の直ぐ下,あるいは個々の器官の表面のすぐ下にある.深層のリンパ管は諸器官の内部にある.

 体の表面のリンパ管は皮膚のなかではじまって皮下脂肪組織のなかを走っており,また個々の器官では浅層のリンパ管はその外方の層の中にある.

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 深層のリンパ管は体の筋肉の間か,あるいは諸器官の内部にあって,浅層のものとつながっており,多くは血管の通り道に沿ってすすんで,そこここのリンパ節に達している.

 大多数のリンパ管はその途中で1つまたはそれ以上の数のリンパ節を通過するようにできている(670頁参照).リンパ節は前に述べたように(676頁)定まった場所に孤立していたり群をなして集まっていたりする.リンパ節の数と大きさは相当大きく変動する.なおまた細いリンパ管が太いリンパ幹に直接にひらいていたりリンパ節の輸出管が直接に静脈に開口しているのが観察された(Baum).ある一定の器官,あるいは体の一定の場所にあるリンパ管は定まったリンパ節,すなわち領域リンパ節regionäre Lymphknotenにいたることは経験の示すところである.この領域リンパ節にその器官が従属tributärしている.しかしこの場合に1個のリンパ節あるいは1集団のリンパ節が,1個の器官だけからリンパを受けていることは決してないし,また1個の器官が1つのリンパ節集団だけに従属していることもまれであることを知っておかねばならない.

 したがって従属している器官によってリンパ節の集団を分類することはうまくいかない.むしろその記載は主に局所解剖学的観点に従つたほうがよい.

 Bartels, P, , Das Lymphgefäßsystem, Jena ,1909.

I.リンパ管系の本幹

 すべてのリンパ管は最後にはたいてい2本の本幹に集まる.そのうちの1本は胸管Ductus thoracicus, Milchbrustgangといって頚部の左側にあり,もう1本は右リンパ本幹Truncus lymphaceus dexter, rechter Lymphstammといい,多くは右側において静脈系に開口する.胸管は下半身からのすべてのリンパ管,すべての乳ビ管,および上半身の左半分のリンパ管を集めており,一方,右リンパ本幹には頭部と頚部の右半および胸部の右半分と右上肢からのリンパ管がはいるのである.

1. 胸管Ductus thoracicus, Milchbrustgang(図690, 701, 715)

 胸管は左右の下肢,腹部内臓(肝臓の上面の一部を除く)と腹壁,胸壁の左側,左肺,心臓の左の部分,左上肢,頭部と頚部の左側のリンパ管を受けるところの共同の幹となっている.成人では38~45cmの長さで,ふつう第2腰椎から頚の下端(第6頚椎の高さ)まで伸びている.

 日本人では35.9cmの長さしかない(Adachi).多くの例では第3腰椎の前ではじまっているが,第1腰椎ないし第12胸椎のところでやっと始まっている場合もある.日本人では下方で始まるものが大多数である.

 胸管は主に3本の根,すなわち右と左の腰リンパ本幹Truncus lumbalis dexter, sinister,不対の腸リンパ本幹Truncus intestinalisがいっしょになってできあがる.これらの3本が1箇所で集まることもあるし,たがいに順々に合することもある.

 共通の幹が乳ビ槽Cisterna chyli(図690, 717)という広くなったところから始まる.乳ビ槽はいろいろな大きさであって,ときとしてその根の1本に存在することもある.胸管にはその全長にわたってが存在し,そのところで管がふくらみを呈している.Adachiによるとたいてい10~19個(最少4個, 最大25個)の弁が存在する.上部と下部にいっそう多くて,中央部にはわずかしかない.

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 静脈への開口部はたいてい1つの弁によってさえぎられているが,いっそうまれに(20%において)1対の弁がそこにあり,そのために血液がリンパ本幹に向かってはいることなく,リンパと乳ビが静脈にたやすく流入するようになっているという.しかし不完全にしかふさがっていないことがしばしばある.

 微細構造は672頁で全般的に述べた関係と同じである.管壁の3層はたがいにはっきりとは区別できない(図715).中膜には膠原組織と少量の弾性線維が横,斜め,縦の方向に走る筋束のあいだにある.Kajava(Acta soc. med. fennicae “duodecim”, 3. Bd.,1921)によると内弾性板があるが上部にすすむにつれて次第に弱くなり遂には消失してしまう.--神経はBraeuckerによると体の分節に従って来ている.神経は胸管を取りまいて微細な神経叢を作り,これがいたるところで縦隔枝や大動脈神経叢と結合し,また迷走神経の食道神経叢の若:Fの枝を受けとっている.胸膜頂にのっている胸管の部分は鎖骨下ワナの後脚か,下方の心臓神経から出て来た神経に伴なわれている.

 局所解剖:乳ビ槽はPensa(Ricerche Lab. anat. Roma etc. Vol.14,1908)によると第1腰椎の高さにあり,第12胸椎を上方に越えるところまで伸びている.そのさい大動脈よりやや右方にあり,また横隔膜の右脚のそばでその内側にある.

 胸管は初め大動脈の右後がわにあるが,ついで大動脈とともに横隔膜の大動脈裂孔を通って胸腔にはいる.胸腔では胸椎体の右側の前で大動脈と右縦胸静脈のあいだにあり,なお肋間動静脈の前にある.それより上方では次第に左に達し,第3胸椎の高さで大動脈弓から離れ,食道の左側で食道と胸膜との間にある.こうして椎前筋膜の前を第7頚椎の上縁に向かって上り,左の胸膜頂の尖端を弓を画いて越え,左総頚動脈と左鎖骨下動脈のあいだをへて内頚静脈の外側にいたり,この静脈と鎖骨下静脈とが合するところに作られている角に開口する.開口する前に胸管の端はたいてい左頚リンパ本幹, 左鎖骨下リンパ本幹および左の乳リンパ幹といっしょになる.胸管は通常うねって走り,多くのくびれを持つているので,静脈瘤状の観を呈する(図690, 701).

 変異:胸管は全長にわたって,常にただ1本の幹をなすのではない.日本人では1本の幹の場合が89.5%である(Adachi).しばしば第7あるいは第8胸椎の高さで2本の幹に分れ,後にふたたび合するか,あるいは分れたままで頚部の静脈幹にはいる.ときとして3本ないしそれ以上にも分れていることがあり,すぐにまたたがいにいっしょになり,そのため脈管叢といったような配置をしている.少数例で胸管がその全長にわたって重複し,その場合には右半のものは右リンパ本幹と合している.頚部ではしばしば幹が2本以上に分れていて,開口する前にいっしょになるか,あるいは分れたま,太い静脈幹にはいっている.

 非常に詳細な報告がB. Adachiの著書に載っている(Lief.1 von T. Kihara. Das Lymphgefäßsystemder Japaner, Kyoto,1953).

[図714] 1分節におけるリンパ管,その放射状に分枝した型を示す模型図.  1 胸管;2 小腸枝;3 前枝;4 後枝;5 脊髄枝;6 壁側枝.

2. 右リンパ本幹Truncus lymphaceus dexter, Rechter Lymphstamm(図701)

 右リンパ本幹は短くてたかだか1cmの長さであり,数mmの太さのリンパ管で,右上肢,右側の頭部と頚部と胸壁および心臓の右側,右肺,肝臓の上面の一部かちリンパ管を受けている.

 これは左側における胸管と同じく,右側で内頚静脈が鎖骨下静脈と合するところにはいる.開口部は弁で守られている.

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[図715] リンパ節(耳下腺の)37才の男,概観

[図716] ヒトの胸管平滑筋は黄色, 膠原組織は赤.

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[図717] 後腹壁,骨盤,鼡径部のリンパ節とリンパ管

 右リンパ本幹は3本の幹が合流してできあがる.すなわち腋窩リンパ節の輸出管を含む右鎖骨下リンパ本幹Truncus subclavius dexter,深頚リンパ節から出るものを集める頚リンパ本幹Truncus jugularisおよび右気管支縦隔リンパ本幹Truncus bronchomediastinalis dexterの3つである(図701).

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リンパ本幹の概観

 これまでに述べた主なリンパ路の特徴をよく理解するために次のように簡易化してみるのがよいと思う.

 体のリンパ管には2本の主な幹があって,それが一部非対称的な配置をしている.これは体の右と左の各半に属していて,総頚静脈V. jugularis communisと鎖骨下静脈の合流点で対称的に腕頭静脈に向かって静脈系に開口する.対をなすこの重要なところ,すなわちリンパが静脈系にはいる個所では左右おのおの4本ずつのリンパ管の幹が合して,それぞれ1本の右リンパ本幹左リンパ本幹Trpncus lymphaceus dexter, sinisterを作っている.つまり

1. 頭部と頚部のリンパを集めている総頚静脈に相当する頚リンパ本幹Truncus jugularis.

2. 上肢から来る鎖骨下静脈に相当する鎖骨下リンパ本幹Truncus subclavius.

3. 縦隔の後部を上行して,胸壁後部および胸部内臓のそれぞれ半分からのリンパを集め,最上肋間静脈と右縦胸静脈に相当する気管縦隔リンパ本幹Truncus bronchomediastinalis.

4. 胸部の前壁内面を上行する乳リンパ本幹Truncus mammarius.

 下半身のリンパを集める太い共通の幹が左気管支縦隔リンパ本幹の縦隔枝と合する.この下半身からの幹は体幹の後壁,下肢,腹腔および骨盤の内臓のリンパ管が合してできるのである.この大きな幹が合流することによって左気管支縦隔リンパ本幹は右に比べてはるかに太いものとなる.下の半分と上の半分が合してできるリンパ管系の左側の太い主幹胸管Ductus thoracicusなのである.

 すなわち対称的な原基から非対称的な終形ができあがるのである.必らずしも常にこのような2次的の非対称性が生ずるわけではなく,前に述べたごとく初めの対称的な配置が残っていることがあり,このことは多くの動物では正常の関係である.そして非対称的な終形のなかにも,対称的な初期の形がなお容易に認められるのである.

 このさい,リンパ管の分節ということを調べてみると,それは図714に示すように,1本の主幹があって壁側枝と臓側枝とを出し,前者には脊髄枝がつながっている.

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最終更新日 13/02/04

 

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