Rauber Kopsch Band2. 02c

4. 唾液腺Glandulae oris, Speicheldrüsen(図60, 61, 78, 79)

口腔には数多くの腺が開口しており,その分泌物が唾液Saliva, Mundspeichelをなすのである.その腺には小さいのと大きいのとが区別される.大きい唾液腺に属するのは耳下腺Glandula parotis,顎下腺Glandula submandibularis,舌下腺Glandula sublingualis,舌尖腺Glandula apicis linguaeである.小さい唾液腺は口腔全部の壁に広がっていて,それぞれの場所によって,口唇腺・頬腺・臼後腺・舌腺・口蓋腺Glandulae labiales, buccales, retromolares, linguales, palatinae とよばれる.

S. 39

唾液腺には粘液をだすものと蛋白質にとんだ漿液を分泌するものと粘液と漿液の両方をだすものとある.

それによって次の区別がある.1. 漿液腺seröse Drtisen, Eiweißdrüsen:耳下腺および漿液性の舌腺唱(図72);2. 粘液腺Schleimdrüsen:口蓋腺および舌の粘液腺;3. 混合腺gemischte Drüsen,ほかの口腔の諸腺がこれである.

a)耳下腺Glandula parotis, Ohrspeicheldrüse(図60, 61)

 これは大きい唾液腺のなかでも最大のもので,頭部の側面で耳のすぐ前,また胸鎖乳突筋の前縁のすぐ前で,下顎枝および咬筋の上にのっており,1つの大きい突出部すなわち,下顎後突起Processus retromandibularisをもっていて,この突起は下顎枝の後縁と外耳道のあいだの場所を充たして深く入り,顎二腹筋・茎状突起・茎状突起からおこる諸筋・内外の両翼突筋にまで達している.

 局所解剖:耳下腺は後方は外耳道,乳様突起および胸鎖乳突筋によって境され,下方は下顎角を多少とも越えている.また上方は頬骨弓に接し,あるいはこの弓の下で塊りをなして,さらに下顎骨および咬筋の上を多少の差はあるが前方に向かって伸びている.耳下腺の垂直径は4~5cm,上方ではその幅が3~3.5cm,厚さは2~2.5cmで,重さは20~30grである.耳下腺の外面は膨んで高まって分葉状であり,かつ耳下腺咬筋膜Fascia parotideomassetericaによって被われて,その上を広頚筋の一部と皮膚が被っている.

 内頚動脈と内頚静脈は耳下腺の内面の近くにある.外頚動脈は下顎後静脈を伴なって,この腺のなかに入り,ここで2本の終枝すなわち浅側頭動脈と顎動脈に分れる.顔面神経はこの腺を貫いてすすみながら多くの枝に分岐する.また大耳介神経の枝の一部がこの腺を貫いている.

 この腺の前方部から太さ3~4mm,長さ5~6cmの導管すなわち耳下腺管Ductus parotidicusがでており,この導管に接して咬筋の上にのつて副耳下腺Glandula parotis accessoriaがしばしばみられる.耳下腺管は頬骨弓の下方およそ1cmのところを咬筋の表面をこえて前方にすすみ,この筋の前縁をまわって内側に深く入り,頬筋を貫いて,この筋と頬粘膜のあいだを少しの距離だけ前方に走ったのち,上の第2大臼歯の歯冠の高さで,頬唾液乳頭Papilla salivaria buccalisにおいて開口している.

 耳下腺に分布する動脈はこの腺を貫いてとおる血管からきている.静脈はやはり相当する静脈幹に流れこむのである.またこの腺からでるリンパ管は頚部の浅および深リンパ節に達する.少数のノンパ節がしばしばこの腺の内部にある.

 神経は交感神経と舌咽神経とからきている.舌咽神経の線維は小浅錐体神経をへて耳神経節にいたり,ついで耳介側頭神経に入り,これより耳下腺枝Rr. parotidiciとしてこの腺に達する(伝導路の項を参照ぜよ).

 はなはだまれに耳下腺およびその導管が完全に欠けていることがある (Singer, R., Anat. Anz., 60. Bd.,1925, 26).

b)顎下腺Glandula submandibularis, Unterkieferdrüse(図60, 61, 78)

 この腺は平たくて円みをおびた形をしていて,下顎骨および顎二腹筋の後腹と中間腱および茎突舌筋と舌骨舌筋に挾まれたところにあり,最後に述べた2つの筋にはこの腺の内面が接している.

 局所解剖:顎下腺は長さ2.5~3.5cm,厚さ1.5cmで,重さは10~15grである.前方は多くのばあい,少しだけ顎舌骨筋の上になっており,上方は下顎骨の内面に接している.後方は茎突下顎靱帯によって耳下腺から隔てられている.外方は浅頚筋膜,広頚筋および皮膚がこの腺の上を通る.1枚の薄い結合組織板がこの腺の内面を深部の筋から隔てている(第1巻,図511).かくしてこの腺は耳下腺と同様に,外方で強く内方で薄い結合組織の被膜で包まれているのである.

 顔面動脈は咬筋付着部の前端のところで下顎縁をこえる前に,1個あるいはそれ以上の数(多くは3個)のリンパ節といっしょに,顎下腺の後面から上縁にかけて存在する深いへこみのなかにはいる.他方,顔面静脈はこの腺の外面を通りすぎる.

 導管すなわち顎下腺管Ductus submandibularisは5~6cmの長さがあって,この腺からでて上方に顎舌骨筋の後縁をこえてすすみ,この筋の上面で前方かつ内側にすすみ,そのさい顎舌骨筋ならびに舌骨舌筋とオトガイ舌筋のあいだを通り,舌下腺の内側縁に沿って走る.そして舌小帯の側方に達して小さい口をもって舌下唾液乳頭Papilla salivaria sublingualisに開くのである(図61, 78).

S. 40

[図61]唾液腺II (7/9)

 下顎骨の一部を除いて舌下腺を側方からみ えるようにしてある.

 顎下腺の動脈は顔面動脈および舌動脈からきている.

 神経は顎下神経節および舌神経からくる.それは鼓索Chorda tympaniをへて舌神経に入り顎下神経節に達したものである.他の線維は交感神経からくるのであって,これは顔面動脈の枝とともにこの腺に達する(伝導路の項を参照せよ).

S. 41

c)舌下腺Glandula sublingualis, Unterzungendrüse(図61, 78)

 舌下腺はやや細長い形をしていて,その下縁は顎舌骨筋の上にのり,上縁は口腔底の粘膜を少しもち上げて舌下ヒダPlica sublingualisを生ぜしめている.長さは3~4cm,幅と厚さはせいぜい1cmで,重さは約5grである.

 局所解剖:舌下腺の外側面は下顎骨の内面に触れている.また内側面はオトガイ舌筋と顎下腺管に接する.舌神経も同じ場所を通り,舌下腺のすぐそぼにある.顎下腺の前縁が舌下腺の後縁にぶつかつていることがある.

 舌下腺は多数の導管をもっている,その多くが小舌下腺管Ductus sublinguales minoresとよばれて(K. W. Zimmermannによると41本に達することがある),舌下ヒダに沿って舌下小丘Carunculae sublingualesにおいて口腔に開き,他のものは顎下腺管に開口している.また一部のものがたがいに合してかなり太い1本の導管すなわち大舌下腺管Ductus sublingualis majorとなり,これは顎下腺管とならんで舌下唾液乳頭Papilla salivaria sublingualis(図61, 78)にすすみ,顎下腺管といっしょに,あるいはそのすぐそばで開口している.

 舌下腺に分布する血管は舌下動脈とオトガイ下動脈ならびにこれらに相当する静脈である.神経支配は顎下腺のものと同じである.

 小舌下腺Glandulae sublinguales minoresというのはここにのべた舌下腺の一部で,小舌下腺管Ductus sublinguales minoresに属する部分のことである.

 舌尖腺Glandula apicis linguaeについては47頁を参照のこと.

[図62]ヒトの耳下腺の切片より

S. 42

唾液腺の微細構造(図6268, 71)

 概説:小さい唾液腺の腺体はただ1つの小葉からできているが,それより大きいものは2個以上あるいは数多くの小葉が集まってこれを成している.大きい唾液腺では腺体の集りが1次,2次およびさらに高次の小葉をつくっており,それらの間が結合組織で連ねられている.1次小葉の長さは1~1.5mm,幅は0.5~1mmであって,そのいずれもが1本の細い導管とつづいている.1次小葉が多数の終末部Endkammern, Endstücke, Hauptstückeからできている.漿液性の腺細胞の分泌物はまず細かい顆粒として終末部の細胞の内部に生ずる.ついでその分泌顆粒がだんだんと大きくなり(図63a~e),かくして細胞の全体を充たすようになる.終りにこの顆粒が腺腔に向かった細胞の表面からでてゆき,腺腔内でとけてしまうのである(図63f).導管の最初の部は狭くて峡部Isthmus,または介在部Schaltstück(頚部Halsstück)とよばれる.これがいっそう広くて小棒構造をもつ上皮Stabchenepithelで被われる管すなわち線条部Streifenstück(分泌管SPeichelrohr, Sekretrohr)に移行し,後者がさらになお太くて,上皮細胞にすじの構造がみえない導管となるのである.

[図63]ヒトの漿液性の舌腺の終末部1個を横断したもの.いろいろな機能の時期(a~g)を示し,×は収縮性の細胞である.(K. W. Zimmermann による.)

[図64]ヒトの耳下腺の終末部1個が切られている.細胞間分泌細管が横断および縦断されている(K. W. Zimmermannによる)

[図65]ヒトの耳下腺の終末部1個が切線方向に切られている.1個の収縮性の細胞ボその原線維を示していて,がつ切片の面の方向に広がっている.(K. W. Zimmermannによる)

[図66ヒトの顎下腺の粘液性の腺管とジアヌッチィ半月(K. W. Zimmermannによる)

a)耳下腺.胞状の終末部は円い核をもつ円柱状およぴ円錐形の腺細胞からできていて(図62, 64),腺細胞は繊細な基礎膜の上にのっている.終末部の内腔ははなはだ狭い.腺細胞は分泌物が充ちると大きくて明るくなり,分泌物がなくなると小さくて暗くなる.相となる細胞のあいだに細胞間分泌細管zwzschenzellige Sekretkapillarenがある(図64).腺細胞と基礎膜とのあいだに規則正しい星形の分枝した筋細胞があって,その突起は幅がせまくて長くのびて,終末部の大部分をとりかこんで,かつ原線維をもっている(図65).峡部Halsstückは細くて長く(0.275mmの長さに達する),長くひきのばされた扁平な細胞で被われている.線条部Streifenstückは円柱状の上皮をもち,その間に基底細胞がある.

S. 43

[図67]上下の舌下腺の切片より

[図68]上下の顎下腺の切片より

S. 44

[図69]舌背 表面像(9/10)

[図70]1個の茸状乳頭と数個の糸状乳頭 ヒトの舌.

 円柱細胞の基底部は縦の方向にすじがついている.耳下腺管は弾性線維をふくむ結合組織と2層の円柱上皮より成り,この上皮内に杯細胞がみられる.

b)舌下腺.その組織像がはなはだ変化に富んでいる.終末部は胞状管状の形をしていて,大部分が粘液細胞からなり,その核は細胞底に近くみられる.峡部は枝分れして,その長短いろいろである.峡部の上皮が多少の差はあるが概して多数の粘液細胞をもち,この細胞はひじょうに大きくなっていることがある.

S. 45

線条部はごく短くて,時として導管の上皮のなかに縦のすじをもつ細胞Streifenzellenが島状の集りをしているのみである.線条部が全く欠けていることさえある.

 著明な構造はジアヌツチィ半月Gianuzzische Halbmondeあるいは縁細胞群Randeellenkomplexeとよばれるもので(図67)細かい顆粒をもって充たされた細胞の群であって,頭布あるいは指サックの形をして終末部の盲端のところをつくっている.その核は細胞の中心部にある.相となる細胞のあいだに細胞間分泌細管がある.

 舌下腺にあるこれらの細胞はK. W. Zimmermannによるとそのなかの顆粒が粘液顆粒と同じ染色性を示すが,決して典型的な粘液細胞ではなく,また決して漿液性の細胞でもない.これはおそらく主に水を分泌するもので,この水が粘液部の管のなかにある濃い粘液塊を洗い流すのであろうという.

c)顎下腺 終末部には耳下腺に同じなところと舌下腺に同じところとがある.顎下腺の漿液性の部分は胞状であり,粘液性の部分はいわゆる胞状管状で,ここでは長短いろいろの管の壁に多数の腺胞Alveolenがある.腺胞の盲端にはジアヌツチィ半月(図66)があって,この半月をなす細胞が顎下腺では蛋白顆粒をもっている.

低い円柱状の細胞で被われている峡部は短くて多くは枝分れをしないか,あるいは長くて多くの枝分れをしている.線条部ははなはだ長くて豊富に枝分れする.顎下腺管は耳下腺の導管と似た構造である(図68).

 唾液腺の動脈はその経過と分枝がだいたいに導管に伴なっていて,その終りのところは密な毛細管網をなして腺の終末部をつつんでいる.静脈の比較的太いものは動脈に接して通っている.動静脈吻合および上皮様細胞の集まった壁をもつ動脈がSpannerによって(Morph. Jahrb. 87. Bd.,1942)唾液腺の実質内にも,またその導管の系統にもみられている(図71).

[図71]上皮様細胞の集まった壁epztheloide Wanaをもつ動脈 上下の耳下腺より.(Spannerによる)

 唾液腺におけるリンパ管の詳細については確実な報告がまだなされていない.

 神経線維は一部は有髄,一部は無髄である.その経過の途中に所々に神経細胞の集りがみられる.終末部と終末部のあいだのところに帯状の索からできている交感神経の密な基礎叢Grundplexusがあって,これは基礎膜のすぐ外にあり,その索はごく細い神経原線維が玩いに網状に結合したものからできている.そしてこの基礎叢から極めて細い,そして瘤状の結節をもつ原線維feinste variköse Fibrillenがおこって個々の腺細胞のなかにはいっている(Boeke 1934).その関係は涙腺について図示するのと同じである.

唾腋Saliva, Speichel

 唾液ははなはだ水分に富む分泌物である.アルカリ性の透明な液で,正常の有形成分としては口腔粘膜から剥げてとれた上皮細胞のほかに唾液小体Speichelkörperchenをもっている.これは粘膜に由来し,この膜を抜けでたところの白血球とリンパ球であって,すでに死滅して多くはいくらか膨れあがっている.水および若干の塩類のほかにサリヴインSalivinあるいはプチァリンPtyalinとよばれる1種の酵素と少量のロダンカリウムRhodankaliumをふくんでいる.乾固物質は0.5~1.0%にすぎず,比重は1006~1008である.

2-02c

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る