Rauber Kopsch Band2. 02e

6. 口蓋Palatum, Gaumen(図7981,82,84,86,87)

 口蓋は口腔の天井であって,前方の硬口蓋Palatum durumと筋肉をもつ後方の軟口蓋Palatum molleとの2部からなっている.

a)硬口蓋Palatum durum, harter Gaumen

 硬口蓋の骨性の基礎は骨膜と粘膜によって被われていて,この2つの膜は硬口蓋の前部ではたがいに密着しており,また前方および側方では歯肉Gingiva, Zahnfleischにつづいている.

 前方および側方では粘膜が厚くて固く,その色が白っぽいが,後方では薄くて軟かとなり,色も赤みを増す.正中線に沿って1つの稜線もしくは溝,あるいは縫合というべきものがあって,口蓋縫線Rhaphe palatiとよばれ,これは前方でば切歯乳頭Papilla incisivaという1つの小さい高まりをもって終わっている.切歯乳頭の位置は骨の切歯孔Foramen incisivumの下に当たっている(図79).口蓋縫線の両側で硬口蓋の前方部の粘膜が大小いろいろの丈けの低い横走する高まりをいくつか作っている.これを横口蓋ヒダPlicae palatinae transversaeといい,前方に凸のまがりを示し,このひだの数は個体により不定で,前後にならんでいずれも横にのびている.硬口蓋の後部になると粘膜が骨膜から離れて,その間を占めて粘液腺である口蓋腺Glandulae palatinaeが発達している.そしてさらに後方は軟口蓋の粘膜につづくのである(図79).

 切歯乳頭の両側に切歯管Ductus incisiviという2つの細い粘膜管の口腔への開口がある.この粘膜の小管はしばしば退化してなくなっている.それがよく発達しているときは骨の切歯管Canalis incisivusを通って上方にすすみ,鼻腔に通じている.この粘膜管がしばしばなくなっていることはヤコブソン器官Jacobsonsches Organが人間では退化していることに関連している.粘膜管はこの器官と深い関係をもつのである(鼻腔および感覚器の項を参照せよ).哺乳動物のなかでは豚および反芻類においてこの切歯管が最もよく発達している.骨および粘膜にみられる切歯管は胎児の初期に鼻腔と口腔とがひろい範囲で相通じていたこと,すなわちこの2つがもともとひと続きであったことの最後の残りであるといいうる.

 硬口蓋の粘膜は少数の低い(結合組織性)乳頭をもち,これは後部ではやや密に存在している.これは他の口腔粘膜の部分と同じように重層扁平上皮で被われている.

b) 軟口蓋Palatum molle, weicher Gaumen;口蓋帆Velum palatinum, Gaumensegel

 軟口蓋は粘膜のつくる大きなひだで,内部に筋肉をもち,口腔と咽頭腔とのあいだの不完全な隔壁をなしている.軟口蓋は硬口蓋の後縁から後下方にのびていて,その中央部に口蓋垂Uvula palatinaという箸しくのびたところがある.両側へ向かって軟口蓋から各側2つの弓形をしたひだが下方へすすんでいる.

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[図78]舌尖を上方にあげて舌の下面と口腔の底をみる (9/10) 左側では粘膜を剥ぎとってある.

[図79]硬口蓋と軟口蓋(9/10) 左側では粘膜を剥ぎとってある.

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これを口蓋弓Arcus palatiniといい,その前方の弓を舌口蓋弓Arcus glossopalatinusとよんで,これはゆるい円蓋をなしていて,下方は舌縁に達し,ここで3角形の粘膜ひだ(三角ヒダPlica triangularis)をなして終るのである.後方の弓は咽頭口蓋弓Arcus pharyngopalatinusといい, 円蓋がいっそう急であり,いっそうせまく張られていて,下方は咽頭の側壁に達している.また各側で前後2つの口蓋弓のあいだにあるへこみを扁桃洞Sinus tonsillarisとよび,ここに口蓋扁桃Tonsilla palatinaがあり,また舌小胞腺の1群が分離してここに存在する.なお前後の両口蓋弓の上部と口蓋扁桃の上端とのあいだに扁桃上窩Fossa supratonsillarisというへこみがある.また左右の口蓋弓と舌背の後部とのあいだにある場所を口峡Isthmus faucium, Rachenengeという.

[図80]口腔の諸壁と口峡 (9/10) 口角のところから水乎方向に頬を切断して,口をなるべく大きく開いたもの.

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また耳管咽頭口の前壁から口蓋帆の鼻腔面に達するひだがしばしばみられる(口蓋耳管ヒダPlica palatotubalis).

 口腔に面した軟口蓋の粘膜は少数の(結合組織性)乳頭をもっている.口蓋垂では乳頭の数が比較的に多い.粘膜は扁平上皮で被われており,そのなかに味蕾がみられることがある.鼻腔に面する軟口蓋の粘膜は多数の乳頭をもっており,線毛上皮を被むつている.そのなかに扁平上皮が島状をなして所々にみられる.口蓋腺Glandulae palatinaeは前後両面ともはなはだ多く存在する.口蓋垂だけでもそれが12個あり,後面には40個,前面には100個もある.それは純粋の粘液腺である.(軟口蓋の後面(鼻腔がわ)にある腺は混合腺の構造を呈するものが多い,(小川鼎三))

[図81]上下の口蓋扁桃 概観像

 横の方向に切断してある.つまり舌口蓋弓と咽頭目蓋ののびる方向に対して横断口蓋帆および口峡の諸筋Musculi palati et faucium, Muskeln des Gaumensegels und der Rachenenge(図79,86)

1. 口蓋帆張筋M. tensor veli palatini(図86).これは蝶形骨棘から翼状突起の基部までのかなり長い線,ならびに耳管軟骨の外側鈎状部の面からおこる3角形の薄い板状の筋であって,鉛直に下方にすすんで,狭くなって1本の腱となり,この腱が翼突鈎で急にまがって,それからは水平方向に内側にすすみ,口蓋腱膜Gaumen Aponeuroseに達する.

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[図82]頭の顔面部の矢状断(上方の3個の頚椎をふくむ). (4/5)

 断面は正中面のすぐ近くでその右側を通る.鼻中隔をとり除いてある.

この腱膜は口蓋骨の後縁に固着しているものである.この筋の腱と翼突鈎のあいだには口蓋帆張筋包Bursa synovialls tendinis m. tensoris veli palatiniがある

2. 口蓋帆挙筋M. levator veli palatini(図86).前者の後内側にあって,頚動脈管外口の外側からおこり,また多くのばあい若干の筋線維が耳管軟骨の下縁からもくる.口蓋帆挙筋はこの軟骨に密接しているのである.その筋腹は横断面が円くて,下内側かつ前方にすすみ,ついで広がって口蓋腱膜の中央部に幅ひろく付着している.

3. 口蓋垂筋M. uvuIae(図68).これは薄い筋で,口蓋腱膜の上縁からおこり,時として後鼻棘からも発する.対をなしていて,口蓋帆挙筋の放散する後方を通って,直線的に口蓋垂の尖端に向かってすすみ,ここで尖った形をして終わっている.

4. 舌口蓋筋M. glossopalatinus(図79).これは前方の口蓋弓にふくまれている筋で,上方ではその線維が他のすべての口蓋筋のそれより前方にあり,また他側の筋につづいている.下方では舌の外側部のなかに入り,側縁に沿って舌尖の方へすすむが,大部分は横舌筋に移行するのである.

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5. 咽頭口蓋筋M. pharyngopalatinus(図79,86)は後方の口蓋弓にふくまれるかなり有力な筋である.

 この筋は耳管軟骨の下縁,翼状突起の内側板および鈎,ならびに口蓋腱膜の後面からおこる.最後に述べたところでは両側の筋線維がたがいにつづいている.この筋の線維は下方にすすみながら著しくひろがって咽頭の後壁にいたり,ここでその一部が他側のものとつづいている.しかし大多数の線維は下方にすすんで,その一部が甲状軟骨の後縁に付着し,また一部は中央の線に向かって走り,そこで甲状軟骨の下角からでている腱性の板に終わっている.

[図83]咽頭円蓋Fornix pharyngisと咽頭嚢Bursa pharyngica.下方よりみる.

 神経支配:軟口蓋の諸筋のうちで,口蓋帆張筋は三叉神経の第3枝,それも多くは内側翼突筋神経の枝によって支配される.口蓋帆挙筋は舌咽神経と迷走神経との枝がつくる咽頭神経叢Plexus pharyngicusから1枝をうける.同じくこの神経叢から咽頭口蓋筋もその支配神経をうけている.口蓋垂筋の神経支配についてはまだ正確に知られていない.

口蓋扁桃Tonsillae palatinae, Gaumenmandeln(図7981,86,87)

 口蓋扁桃は榛実の大きさで,やや長めの円くて平たい器官で左右1つずつあり,扁桃洞のなかにあって,その前後にある口蓋弓とほぼ同じくらいの高さに突出している.口蓋扁桃の外側面は頭咽頭筋の内面に接している.そして内頚動脈はこれからおよそ1cm離れたところを上方にすすむ.この扁桃の外面は結合組織性の被膜で境されていて,この膜から扁桃じしんをそつくり分離することがたやすくできる.この扁桃の内面すなわち口峡に向かった面は口腔粘膜で被われていて,この粘膜が扁桃の内部に突起を入れており,かくして12ないし15の深いへこみ,すなわち扁桃小窩Fossulae tonsillaresができている.

 口蓋扁桃の微細構造:リンパ性の組織からなり,この組織が粘膜とともにはなはだしくうねった板をなし,その板にひじょうに数多くのリンパ小節が相接して存在するのである(図81).

 この扁桃の組織はその成り立ちおよび病理的な観点からして,リンパ組織と上皮の合したものlymphoepitheliales Gewebeであるという.Schmincke, Beitr. path. Anat. 68. Bd.,1921.

扁桃内の腔所の壁は乳頭をもち,この乳頭は枝分れしないのと枝分れするのと両方がある.舌の小胞腺ですでに述べたように,ここでも個体の生きている間はリンパ球が上皮を貫いて腔所のなかに絶えず出てゆく.

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[図84]顔面頭蓋ならびに咽頭と喉頭を合せて正中面の少し横で矢状断をしたもの (6/7)

 右側の断面を左側よりみる.口唇はやや開いてある.

 上皮がリンパ球によってつよく浸潤されて,そのために破損がおこることは舌扁桃におけると同じである(前述48頁を参照せよ).しかしHellmannによると(Verh. anat. Ges.,1932)上皮のなかにあるリンパ球の大多数は上皮の表面にでてゆくのではなくて,上皮の内部にとどまって,炎症の原因をなすものや有害の刺激物に対して“防護の壁”Schutzwallをなすのであるという.

 口蓋扁桃に接して大小いろいろの粘液腺および混合腺があり,その導管はリンパ小胞を貫いて小胞腔に開いている.

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 口蓋扁桃へくる主な血管は顔面動脈からの上行口蓋動脈の扁桃枝R. tonsillarisである.しかし上行咽頭動脈,舌背動脈,口蓋動脈の枝がひにきていることがある.動静・脈吻合がv. Hayekによって記載された.

 内頚動脈は口蓋扁桃のはなはだ近くを通っているわけでないので,その手術のときに傷つけられるおそれはまずない.大きい出血はむしろ顔面動脈がひじょうに迂回した走り方をしている場合におこるのである.

 口蓋扁桃からでてゆくリンパ管は深頚リンパ節にいたる.しかも主として内頚静脈の上にある1個の大きなリンパ節に達している.口蓋扁桃にやってくるリンパ管は存在しないことをHoepke(Med. Welt 1934)が述べている.なおHoepkeは正常の口蓋扁桃から絶えずリンパが上皮を通りぬけて咽頭腔に達すると考えている.

 神経は三叉神経および舌咽神経からきている.

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最終更新日 13/02/03

 

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