Rauber Kopsch Band2. 03

II.咽頭Pharynx, Schlund(図82,88)

 咽頭は消化管と呼吸道の両方に属する部分で,一方は口腔と鼻腔,他方は食道と喉頭のあいだに介在している.咽頭の内部にある部屋は咽頭腔Cavum pharyngis, Schlundhbhleであって,これは大体においてまっすぐな管で,しかし前方に軽い凸をえがいており,前後の方向に圧平された形をしていて,上方は頭蓋底から下方は喉頭の下縁まで,すなわち第6頚椎の下縁の高さまで達して,ここで食道につづいている.

 咽頭の後壁は疎性結合組織(咽頭後結合組織retropharyngeales Bindegewebe)をもって深頚筋膜と結合されている.舌骨より下方で咽頭は,他の頚部内臓がそうであるように,中頚筋膜で被われ,そのさい最もうしろの場所を占めている.上方では咽頭壁は頭蓋底と結合している.また前方は上から順にいうと,後鼻孔の側縁,口腔および口峡の後方に向かった壁,ならびに喉頭と結合している.咽頭の長さはおよそ12cmである.その最も幅がひろいところは舌骨の大角の高さにあって,そこから上方へは幅が少しずつ減るが下方へは急に減ずるのである.その最もせまいところは輪状軟骨の高さに相当する.

 後鼻孔に向かっている部分を咽頭円蓋Fornix pharyngis, Schlundgewölbeという.口蓋帆は後下方に向かって咽頭腔のなかへ突出していて,食物がとおるときは口蓋帆が咽頭の後壁に接着することによって咽頭の上部すなわち鼻部Pars nasalisが下部から分たれる.下部がまた口部Pars oralisと喉頭部Pars laryngicaの2部からなるのである.

 咽頭壁にはいくつかの層が区別される.それを内から外へ数えると,粘膜・結合組織性の基礎層fibröse Grundtage・筋層・結合組織性の外膜である.

1. 咽頭の結合組織性の基礎fibröse Grundlage des Schlzandes(図85)

 咽頭の結合組織性の基礎層は粘膜下組織および筋層と密に結合している薄いが丈夫な膜であって,頭蓋底に固く着いている(第1巻図271).その起始線は後頭骨の咽頭結節Tuberculum pharyngicumから両側とも脊柱の前面を被う深頚筋群の付着部の前の線に沿って後頭骨の底部をこえてすすみ,錐体後頭軟骨結合Synchonürosis petrooccipitalisにいたる.そこから頚動脈管の外口に達し,またその前で蝶骨錐体軟骨結合Synchonürosis sphenopetrosaにゆく.ここから起始線は前内側にまがって,この軟骨結合に沿って耳管にすぐ接しつつ翼状突起の内側板の基部にいたる.耳管軟骨はかくして咽頭壁内にとり入れられる.後鼻孔の上外側の隅からこの起始線は翼状突起の内側板に沿って下行し,頬咽頭縫線Rhaphe bucipharyngicaに随つてすすみ下顎骨の顎舌骨筋線Linea mylohyoidea mandibulaeにいたる(v. Hayek, Verh. anat. Ges.,1928をみよ).

 この線維膜は頭蓋底の近くで最もよく発達していて,ここでは或る短い範囲で筋層によって被われずに露出している.この部分をとくに咽頭頭底板Lamina pharyngobasialisという(図85).

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[図85]咽頭の諸筋 外から剖出して後方からみる (5/7).

2. 咽頭の筋層Tunica muscularis pharyngis(図76, 77,85,86)

1. 咽頭の筋肉は2群に分けられる.すなわち咽頭を締めつけるものSchlundschnürerと咽頭をひき挙げるものSchlundheberの群である.すべて横紋筋線維からできている.

α. 咽頭を締めつけるもの

1. 喉頭咽頭筋M. laryngopharyngicus, unterer Schlundschnürer(下咽頭収縮筋). この筋は輪状軟骨の外面からおこる輪状咽頭部pars cricopharyngicaと,甲状軟骨の斜線およびそれに隣接する甲状軟骨の縁からおこる甲状咽頭部Pars thyreopharyngicaがあり,さらに上の2つの軟骨のあいだの靱帯束からもおこる.この筋は後方に向かって扇状にひろがって,他側の筋と後方の正中線で合して,ここに咽頭縫線Rhaphe pharyngis(図85)をなす.この縫線の形成には他の咽頭収縮筋もあずかっている

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[図86]咽頭と口蓋の諸筋と耳管 咽頭腔の方から剖出.(5/7).左側では口蓋帆張筋を示すために耳管軟骨の下半と咽頭挙筋の起始部を切りとってある.

下部の線維束は軽く下方に向かっており,これが食道の上端部をとりかこんでいる.その上部につづく線維は傾斜の度を次第に増して上方にすすむようになり,舌骨咽頭筋を被っている.ときとして上部の線維が尖った形で頭蓋底まで達する.

 この筋の外面は喉頭の外側で甲状腺・頚動脈・胸骨甲状筋に接しており,最後に述べた筋からは多くのばあい2, 3の筋束が(斜線のところで)喉頭咽頭筋に移行している.上下の喉頭神経がこの筋の上下の両縁に接してとおる.すなわち上喉頭神経はこの筋と舌骨咽頭筋との間を,下喉頭神経はこの筋と食道とのあいだを通っている.

[図87]咽頭腔 咽頭の後壁を正中線に沿って切り,壁が頭蓋底に固着するところを剥がして,左右両半の咽頭壁を側方にひるがえしてある(5/7).

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2. 舌骨咽頭筋M. hyopharyngicus, mittlerer Schlundschnitrer(中咽頭収縮筋). これは前者よりいっそうつよく発達していて,舌骨の大角からおこる大角咽頭部Pars ceratopharyngicaと小角からの小角咽頭部pars chondropharyngicaおよび茎突舌骨靱帯からおこる部分がある.中部の線維は横走しており,その上方につづく線維は次第に鋭い傾斜をなして上方にすすみ,そのさい頭咽頭筋を被って,しばしば頭蓋底まで達している.下部の線維は下方にすすみ,そのとき喉頭咽頭筋によって外から被われる(図85).

 この筋と次に述べる頭咽頭筋のあいだを茎突咽頭筋と舌咽神経がとおる(図76,85).

3. 頭咽頭筋M. cephalopharyngicus, oberer Schlerndschnürer(上咽頭収縮筋). これには翼状突起の内側板の下部から翼突鈎にかけておこる翼突暇頭部Pars pterygopharynica,頬咽頭縫線からの頬咽頭部Pars bucipharyngica,下顎骨の顎舌骨筋線からおこる顎咽頭部Pars mylohyoidea, 横舌筋の系統につづいている舌咽頭部Pars glossopharyngicaがある.

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[図88]咽頭と食道を背中がわから剖出

筋線維はこの4つの個所からきて,後方にまがりつつすすみ,正中線で咽頭縫線をなして左右のものが合する(図85).この筋の上縁が口蓋帆挙筋と耳管に外側から接している.上縁の上方では咽頭頭底板Lamina pharyngobasialisが筋肉に被われないで外からみえる.

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β. 咽頭をひき挙げる筋(図76,85,86)

1. 茎突咽頭筋M. stylopharyngicus.茎状突起でその根もとに近いところからおこって,下方かつ内側にすすみ,頭咽頭筋と舌骨咽頭筋のあいだを通って咽頭壁に入る.その線維の一部はこれらの2筋と交織し,また束をなして口蓋扁桃の外面に達するが,他の線維束は舌口蓋筋に合する.しかし最も多くの線維は甲状軟骨と喉頭蓋の縁にゆくのである.

2. 咽頭口蓋筋M. pharyngopalatinus. これは咽頭をひき挙げる筋としては大きい方のものであるが,すでに口蓋帆の筋として述べたのである(図86).

 いつもあるとは限らない咽頭挙筋の1つが咽頭耳管筋M. pharynogotubalis(図86)である.これは小さい筋で,耳管軟骨の下縁のところからおこって,後下方にすすんで咽頭の内側壁にいたり,ここで咽頭口蓋筋と合して区別がつかなくなる.

 その他にもやはり存在不定の過剰の縦走筋として,側頭骨の錐体からおこるもの(錐体咽頭筋M. petropharyngicus),あるいは後頭骨の外側部・(大後頭孔のすぐ外側のところ)からくるもの,翼突鈎の尖端からくるもの,後頭骨の底部の中央のところからくるものがある.最後に述べたものに属するのがM. azygos pharyngis s. solitarius pharyngis(咽頭不対筋あるいは咽頭孤立筋)であって,咽頭結節からおこって下方にすすみ,咽頭の後壁において扇状にひろがっている.

3. 咽頭の外膜Tunica externa

 咽頭壁の最外層であって,咽頭収縮筋を外方より被う薄い結合組織の1層であり,咽頭頬筋筋膜Fascia pharyngobucinatoriaの下部とみなすことができる.

4. 咽頭の粘膜Tunica mucosa pharyngis(図82,84,87)

 咽頭の粘膜は白ちやけた赤色を呈し,咽頭の上部では比較的厚くて,多数の上皮性および結合組織性の腺をもっている.上皮性のものは咽頭腺Glandulae pharyngicaeとよばれる.第2に述べた種類の腺は小胞腺の集りをなしていることと単にリンパ小節の集りにすぎないこと,あるいはいっそう単純なリンパ性組織の集りのこととがある.これらの集りの1つが卵円形の軟い板をなして咽頭円蓋にみられ,これが咽頭扁桃Tonsilla pharyngica, Rachenmandelである(図84).その側方へのつづきが咽頭陥凹の壁で耳管の後方にある.これらの場所に粘液腺もまた存在している.咽頭扁桃の領域では粘膜が口蓋扁桃におけると同じぐあいにひだをつくって落ちこんでいて,そのへこみを扁桃小窩Fossulae tonsillaresという(図87).変異として対をなさない1つの嚢状のものが円蓋の正中部にみられる.これを咽頭嚢Bursa pharyngicaという(図83).

 咽頭鼻部Pars nasalis pharyngisの上皮は線毛をもつ多列円柱上皮である.しかしその他の咽頭の諸部は重層扁平上皮で被われている.

 咽頭粘膜の神経は鼻部に対しては三叉神経の第2枝であるが,口部Pars oralisに対しては舌咽神経,喉頭部Pars laryngicaには迷走神経の上喉頭神経である.

 咽頭粘膜の血管は咽頭に分布するかなり太い血管の枝がきている.咽頭粘膜のリンパ管については脈管系を参照のこと.

 蝶形骨体の外面に接して,頭蓋咽頭管Canalis craniopharyngicusの外方への開口のところに,ここにある頭蓋底の固い線維装置のなかに包まれて,その構造から下垂体の前葉に当る1つの小さい腺がある.Civalleriによるとこれは常に存在するという.これは咽頭下垂体Hypophysis pharyngica, Raehendachhypophyseとよばれる.成人においては幅がおよそ5~6mm,厚さは0.5~1 mm,胎児では3mmの幅,新生児では4mmの幅である.顕微鏡でみると,上皮細胞索より成り,コロイド物質で充たされた少数の腺管とわずかの色素好性細胞をもっている.この器官の大きさ・形・位置ならびにそれらの細胞の量と発達度は著しく変化に富むのである.

5. 咽頭腔 Cavum pharyngis, Schlundhöhle(図82,84,87)

 耳管の漏斗状をした3角形の開口が下鼻道を後方に延長したところにある.ここを耳管咽頭口Ostium pharyngicum tubaeといい,この開口の前方は低いがはっきりした前唇vordere Tubenlippeによって境されている.

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後方の境をなす後唇hintere Tubenlippeの方が丈けが高い.そして前後のものを合せて耳管隆起Torus tubalis, Tubenwulstという.下壁には口蓋帆挙筋による粘膜の高まりがあって,挙筋隆起Torus m. levatoris, Levatorwulstとよばれる.耳管隆起から下方に向かって粘膜のひだ(咽頭耳管ヒダPlica pharyngotubalis)がのびているが,これはまもなく消えてしまう.耳管隆起の後方で粘膜がへこんで咽頭陥凹Recessus pharyngicusあるいはローゼンミューレル窩Rosenmüllersche Grubeという行きづまりの嚢をなしている.その形は全くいろいろである.この陥凹の壁は咽頭扁桃の側方への突出部によってできている.

 この扁桃の部分がよく発達しているか退縮しているか(年令がますと必ず退縮がおこる)によって,ローゼンミューレル窩の深さが実際にきまるのである.

 喉頭口の上方で各側に喉頭蓋の側縁に向かってのびる咽頭喉頭蓋ヒダPlica pharyngoepiglottica(図87)があり,これは茎突咽頭筋の一部がその内部にあってこのひだを生ずる基をなしている.喉頭の後壁が鈍い正中の高まりをなしていて,その上方に喉頭への入口すなわち喉頭口Aditus laryngisがある(図87).喉頭の後壁による高まりの外側で咽頭腔は梨状陥凹Recessus piriformisというかなり広いへこみをなしている(図87).このへこみの壁にしばしば喉頭神経ヒダPlica nervi laryngiciという高まりがみられる.

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最終更新日 13/02/03

 

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