Rauber Kopsch Band2. 08

膵臓Pancreas, Bauchspeicheldrüse. (図99,113,114,164,166)

 膵臓は細長い器官で灰赤色をしており,軽くS状にまがって,腹腔の後壁に付着してほとんど横の方向にのび,十二指腸から脾臓まで達している(図113,166)

 これにCaput pancreatis,Corpus pancreatis,Cauda pancreatisが区別される.頭は幅がひろくて十二指腸に沿って一部は上方に向うが,主として下方にひろがっている.頭の後下部が鈎状にまがって,時としてここがはっきり他の部分から分れている(鈎状突起Processus uncinatus).そのためにできる溝を膵切痕Incisura pancreatlsといい,これを上腸間膜静脈がとおり,いっそう稀には同名の動脈もここを通っている.

 膵体は前面Facles ventralisと後面Facles dorsalisをもっている.膵頭の近くで前面が円みをおびた低い高まり,すなわち小網隆起Tuber omentaleをなしている.膵尾は細くなりその端が円くなっているが,少しく上方にすすんで脾門と左の腎臓と腎上体に達している.

 膵臓の重さは65~75gであり,長さは14~18cm,幅は平均して3~9cm,厚さは2~3 cmである.(日本人の膵臓の重さは平均74grである(長与又郎:膵臓ラソゲルハンス氏細胞島の発生および意義について.東京医学会雑誌20巻669~713, 741~752.1906).山田によれば男(126例)の平均75.6gr,女(89例)の平均69. 9grである(山田致知:日本人の臓器重量.医学総覧2巻14~15,1946).また長さは男16.02cm.女13.72cm;幅は男3.08cm,女2.88cm;厚さは男1.81 cm,女1.64 cmである(鈴木丈太郎:人体系統解剖学,3巻上篇,1920).)

 変異:ときどき副膵Pancreas accessoriumがみられる.これは十二指腸の上方部や胃からでていることがあり,小腸の下部にみられることもある.まれに膵頭が十二指腸の全周を輪状にとりまいている.これを“ringförmiges Pankreas”輪状膵という(Keyl, Anat. Anz., 58. Bd.,1924. )

 局所解剖:I. 全身に対する位置関係としては膵臓は上腹部の右外側部ではじまり,その内側部を横に貫いてすすみ,左外側部で終わっている.II. 骨格に対する位置関係としては膵頭は第1から第3までの腰椎体の右側にある.

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[図151]家兎の膵臓における毛細胆管と分泌液胞 クローム銀染色であらわしてある.アラウン・カルミソで後染色をほどこしてある(J. Sobotta作製)

[図152]小葉間結合組織 肝被膜のつづきをなし,門脈・肝動脈・総肝管の枝をもっている.

[図153]ヒトの胆嚢壁の横断

[図154]ヒトの胆嚢の上皮 Sommerの標本による.

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[図155]ヒトの膵臓 概観像.

[図156]ヒトの膵臓の終末部 腺房中心細胞と峡部をもっている.(K. W. Zimmermann作製)

[図157]27才の男の虫垂をひろげて横断したもの.

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膵体は第1腰椎の境のところで脊柱の前をこえる.膵尾は第11および第12肋骨の高さで終わっている.III. 近くの諸器官との位置関係としては膵頭は腹腔の大きい血管の幹と接近していて,まず膵頭のうしろに大動脈と下大静脈と右の腎静脈ならびに横隔膜の腰椎部がある.また膵切痕には上腸間膜静脈があり,時にはなお上腸間膜動脈もそこを通る.上縁に接するところで門脈が形成され,また膵頭の前方には胃十二指腸動静脈がある.膵頭の上縁に接して脾動脈が走り,またそこに多数のリンパ節とリンパ管がある.膵体の後面に接して,しばしばそこで特別な溝のなかに埋まって脾静脈がある.膵体の前面に胃が触れており,また前面の下縁に横行結腸間膜の根が付着している.

 前面は腹膜で被われて,網嚢により胃から隔てられている.総胆管は膵頭のうしろをすすみ,しばしば膵頭にそれがとおるための1つの溝または管ができている(図114).膵尾は左の腎動静脈の上にのり,左の腎臓の前面および腎門の前にある.膵尾は脾臓の膵臓面Facles pancreaticaに達している.

 膵臓の導管である主膵管Ductus pancreaticus majorは左から右へ,この腺の全長を貫いて走り,腺の実質のなかに完全に埋まっており,前面よりも後面にいっそう近いところを通っている.この導管は小葉群から出るたくさんの小さい管が合してできるのであって,小さい管が四方八方から主膵管に流れこむのである.膵頭では他のかなり太い枝のほかに,鈎状突起から1つの管がきて主膵管に合する.そこから主膵管は軽く下方にまがって,総胆管の左側に接し,これといっしょに十二指腸下行部の後壁の内側縁にいたる.この両管が相ならんで腸壁の外方の諸層を斜めに貫き,すでに78頁で述べたように両管が合同して,あるいは別々に[大]十二指腸乳頭Papilla duodeni(major)で開くのである.両管が合したところで臨床医家のよくいうオッディ括約筋Sphincter Oddiがそのまわりを輪状にとりまいている.この筋肉はヒトではあまりよく発達していない.括約筋のある内面のところが弁の装置になっている.この弁はいくつかのボケツト状の弁が集まった形をしているが,それにしても多くのばあい貧弱なものである.

 導管の幹もその枝も白い色をしているので,赤い灰色をした腺の実質からはっきり区別がつく.主膵管の最も広い部分は十二指腸の近くであって,その径は2~3mmである.

 変異:時として主膵管がその開口部に達するまで重複していることがある.しばしばこの膵管と総胆管とが合しないで別々に十二指腸に開いている.上方の1本の枝が独立して十二指腸に開くことがあり,その開口はたいてい殆んど目につかないような高まり(小十二指腸乳頭Papilla duodeni minor)においてである.このめだたない乳頭は主膵管の開口より2,3cm上方で幽門からは平均7cm(最大9cm,最小3.5cm)離れたところにある(Keyl 1925) (図114).ここに開口する副管すなわち副膵管Ductus pancreaticus minorが膵臓の主な導管になっていることがあり(Keyl,1925によれば全例の5~8%),そのときは下方の管が副管の形になっている.第3の十二指腸乳頭というべきものが4例いままでに報告されている.Keylによると副膵管が欠如しているのは全例の3%で,33%においてこの管が主膵管の1本の副枝にすぎないという形で存在し,4%でほ副膵管が顕微鏡でやっと分る程度の細い管腔をもち,5. 8%ではその十二指腸に近い部分が荒廃していた.大小の2管ぶ存在するばあいに,この2つがたがいにつづいているのが98%であった.

 脈管と神経(図114,116).膵臓へくる動脈は脾動脈からの膵枝Rr. pancreaticl,肝動脈からの上膵十二指腸動脈,上腸間膜動脈からの下膵十二指腸動脈である.また膵臓からでる静脈は脾静脈と上腸間膜静脈とにいたる.リンパ管は膵臓の表面のいろいろの場所からでてきて,近くのリンパ節に注ぐか,あるいは脾臓からくるリンパ管と合する.臨床上に重要なのは膵臓のリノパ管と十二指腸のリンパ管がつづいていることである.神経は迷走神経と交感神経とからくる.

 微細構造.上下の膵臓は複合胞状腺であって,大小いろいろの不規則な多面形をした小葉からできている(図155).小葉のあいだは結合組織によって分けられ,同時にゆるく連ねられている.小葉間結合組織のなかを導管がとおる.この導管に多くの枝分れをもつ長い峡部がきて開口する.分泌作用の行われる終末部すなわち腺体は低い円柱状あるいは円錐状の細胞からなり,この細胞の腺腔に面した部分には光をつよく屈折する多数の顆粒(酵素原顆粒Zymogenkbrnchen)がふくまれている(図156).周囲の方の比較的明るい部分に核がある.顆粒に富む細胞体の部分の厚さが機能の時期によって変化する.

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すなわち消化のおこなわれていないときに頬粒の数が増す(6頁をみよ).消化作用がおこると顆粒がなくなりはじめる.しかし飢えているときでも明るい細胞体の部分が常にいくらかは残るのである.終末部の中心部に紡錘状をした上皮性の若干の細胞をみることが普通である.これは腺房中心細胞zentroacinäre Zellenとよばれて,導管とくに峡部の上皮細胞としての意味をもつのである.峡部は低い円柱状あるいはごく平べつたい細胞で被われている.主膵管およびその枝は蛍層の円柱上皮をもっている.その外方に接して結合組織の壁がある この壁が上皮の近くでは比較的固くて,それより外方ではいっそう疎な性質である.導管の壁の結合組織は主として縦走する線維束と弾性線維とからできている.主膵管およびその太い枝の壁に小さい粘液腺がみられる.

 膵臓の内部にある特異な構造物としてランゲルハンス島Langerhanssche lnselnが多数にあり,その全部を合せてInselorgan(島器官の意)という(図155).これは細胞索が球に近い形の集団をしているのであって,普通の腺の構造を示さないが,終末部や導管と(所によってまちまちなぐあいに)つながっている.島の内部にある毛細血管ははなはだ広がっていて,でこぼこの輪郭を示している.ランゲルハンス島の細胞に2種が区別される.その1つはB細胞B-Zellenで粗大な顆粒にみちており,他はA細胞A-Zellenでこれはごく細かい顆粒に富むのである.(この記載はま違っている.B細胞の顆粒は非常にこまかいが, A細胞のはむしろ粗大というべきである.なお図158の染色でA細胞が均質にみえるのは,その顆粒が微細なためではない.(小川鼎三))前者は全細胞の80%を占めてインシュリンinsulinをだし,後者は20%を占めてグルカゴンGlukagonをつくるものであり,主として島の周辺部に存在する(Ferner, Mikroskopie, 6. Bd.,1951).分泌物はおそらく血管によって運びだされる.

 膵臓の神経は大部分が無髄である.有髄線維は少しみられるのみである.神経の分枝に伴って神経細胞が個々に,あるいは群をなして存在する.

 膵臓の分泌物である膵液Bauchspeichelは透明で粘り気のあるアルカリ性の液体であって,煮ると凝固する.

[図158]成人の膵臓のランゲルハンス島 B細胞は顆粒にはなはだ富み,A細胞(左方にある)は均質にみえる.(Ferner, Mikroskopie, 6. Bd.,1951より)

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最終更新日 13/02/03

 

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