Rauber Kopsch Band2. 18

C. 膀胱Vesioa urinalis, Harnblase(図262, 266270, 275, 276)

 膀胱ほ筋性の壁をもつ貯蔵所で,尿管から尿を受け入れて貯えておき,ときどき尿道を通して尿を外に送り出す.

 新生児の膀胱はふくらんだ状態のときには紡錐形をしていて,その大部分が腹腔のなかにある.成人の膀胱は小骨盤のなかにあって,恥骨の後方,直腸の前方に存在する.女では子宮と腔が膀胱と直腸のあいだに入りこんでいる(図262, 266, 275, 276).

 膀胱は空虚なときには骨盤腔の深部にあってほとんどたかまりを生ぜしめない程度で存在し,正中断では三角形を呈している(図266).中等度に充ちているとかなり大きぐなって円みをおびている.強く充たされるときは骨盤の縁を多少とも越え,卵円形となって,下方の広い部分,すなわち膀胱底Fundus vesicae, Blasengrundは直腸と腔の方に向い,円みをおびた先端すなわち膀胱頂Vertex vesicae, Blasenscheitelは上方に向かっていて,前腹壁に現われる.

S.196

[図266]男の骨盤の正中断(W. Waldeyerの著“Becken”による) (9/20)

 †直腸の横ヒダ(コールラウシュ)

 前方は膀胱底の前で膀胱は突如として,あるいは急にロート状に狭くなった上で内尿道口Orificium urethrae internumを通じて尿道に移行する(図266).この開口部は尿道輪Anulus urethralisという輪状のたかまりでとりまかれている.尿道輪は尿道の壁内部にも及んでいる.膀胱にFundus, Grund,Corpus vesicae, Körper,Vertex, Scheitelを区別する.

 容量には著しい差異がある.110体の死体で調べたところ男の膀胱の容量は180ccmから1580ccmの間の相違があり,平均は735ccmであった.86体の女の膀胱では160ccmから1150ccmの相異があり,平均は680ccmであった(C. E. E. Hoffmann).

 生体においてできるだけ長いあいだ尿をためた上で計つた膀胱の容量は16才から70才までの74人の男で240ccmから1140 ccmの間の変動があり,平均は710ccmであった.14才から50才の52人の女においては200ccmから1020ccmまでの相異があり,平均は650ccmであった.

S.197

[図267]膀胱の内面(強く収縮した状態)と尿道 男(9/10)

S.198

膀胱の固定装置

 膀胱は下方において尿道の初まりのところで尿道に,男では同時に前立腺に付着している.そこには骨盤筋膜に属する恥骨前立腺靱帯Ligg. puboprostatica(恥骨膀胱靱帯Ligg. pubovesicalia)という特別な靱帯がある.膀胱頂からはその続きとして平滑筋をふくむ靱帯が膀に向かって走っている.これを尿膜管索Chorda urachiという.また側方はすでに閉鎖してしまつた膀動脈,すなわち臍動脈索Chorda a. umbilicalisが支えている(図166, 350).また位置を維持するものとしては膀胱に接している骨盤の結合組織,すなわち膀胱傍結合組織Paracystiumがあるほかにさらに骨盤内筋膜Fascia intrapelvinaと腹膜が関与している.腹膜は膀胱の後面の大部分を被って,そこから骨盤の側壁と女の内部生殖器,および直腸に向かっている.最後に左右の尿管および膀胱の血管も膀胱の位置の固定に役だっている.

 尿膜管索Chorda urachiは結合組織と特に膀胱に近い部分は平滑筋からなる來であって,膀胱頂から白線と腹膜とのあいだを脾に向かって進み,脾の結合組織と融合している.尿膜管Urachusは胎児発生の途中では膀胱と尿膜とをつなぐ管であったが,後になってもその形がしばしば管としての特徴をそなえていて,かなり長い管の形をしていたり,またその途中がところどころとぎれていたりする.この管がさまざまな形のふくらみと不規則性をもっており,膀胱によく似た上皮で被われている.この管は小さな開口部をもって膀胱腔と通じていることもときおりある.まれなことではあるが尿膜管が膀のところまでずっと開いていて,尿の一部が脾から流れでることがある.

 膀胱の前面は腹膜に被われていなくて,疎性結合組織と脂肪組織によって骨盤の前壁につながっている.膀胱は完全に充たされたときには腹膜をそこなうことなしに恥骨結合の上方から開くことができる(図266).

 後面は大部分が腹膜で被われている.腹膜が子宮か直腸に折れかえるところから先のところ,すなわち膀胱底は腹膜を欠いている.女の場合には膀胱のこの部分は,強靱結合組織によって子宮頚ならびに腟の前壁とくここにいている(図276).それに対して男では後方の隣接器官として直腸がある.しかしこの両者のあいだには左右に精管の膨大部,およびその外側に精嚢腺が入りこんでいる.精嚢腺の下端は前立腺に達している(図262, 266, 270)

膀胱壁の各層(図268, 269)

1. 漿膜は膀胱の表面の一部だけしか被っていない.漿膜については膀胱の表面の観察のところですでに記載した.

2. 筋層は平滑筋でできている.筋層は内方と外方の縦走筋層と,その間にある輪走筋層とからなりたっているが,これらの各層はある程度たがいに入りまじっている.

a) 外層(図268,1, 3, 5)は膀胱の前面と後面において最もよく区別できる.この層は男女とも前方は膀胱の頚部と恥骨および恥骨前立腺靱帯(恥骨膀胱靱帯)のところで始まり,膀胱の前面に沿って頂まで達し,そこを越えて後面から膀胱底を通って前立腺の膀胱面にいたる.女の場合には腔の前壁まで続いている.膀胱の側面では表面の線維はかなり斜めに走り(図268, 4),一部はたがいに入りまじり,男の場合は前立腺に達している.膀胱頂では筋束があらゆる方面から尿膜管索に続いており,一部はこれを係蹄状にとりまいている.女では平滑筋の束が膀胱の外側の縦走筋層を子宮,および直腸の筋肉につないでいる.これを直腸子宮筋Mm. rectouteriniという.この筋は腹膜のひだのなかにある.

S.199

[図268]男の膀胱の筋肉 ×1/3 1, 3, 5 外方の縦走層;2 尿膜管;4 外層の斜走線維;6 中層(外層の一部を取り除いて剖出);7 尿管;8 前立腺;9 精嚢腺;10 精管.

[図269]収縮した膀胱の壁の切断図 壁の全厚の内方1/5だけを示してある.

[図270]男の膀胱,尿管,精嚢腺,前立腺,尿道 後方からみる(9/10).

S. 200

 b) 中層(268, 6)は薄くて,やや不規則な網状の層をなし,膀胱全体にひろがっている.この層の発達の程度には個体差がある.筋線維束は一般に横走しているが,膀胱の上部ではむしろ斜めの方向をもっていて,たがいに交叉している.膀胱底では横走する線維が広がりを増して,よく発達したかなり規則正しい層となっている.膀胱の出口のすぐ周りでは(男の場合には前立腺の体と直接につながっているが)この層は固くて幅の広い輪の形をして,開口部をとりまいている.この輪状の線維は膀胱括約筋M. sphincter vesicaeと名づけられて,そのほかの輪走する線維と直接につながっている.

 R. Heiss, Über den Sphincter vesicae internus. Arch. Anat. Phys.1915.

 c) 内層は粘膜下筋層とも呼ばれ,薄いものだが膀胱壁の全体に広がっている.内層も膀胱底において,特によく発達しており,なかでもすぐ次に述べる膀胱三角のところでよく発達していて,ここでは内層が強靱結合組織をもって粘膜とつながっている.左右の尿管の開口部のまわりでは内層の縦走線維が閉じた係蹄の形をなしている.

 筋層は収縮した膀胱では全体としてきわめて厚いが,かなりつよく広がるときはいくつかの場所,特に側方部においては粘膜を外から容易に認めうるほどはなはだ薄い層となる.

3. 粘膜と粘膜下組織(図269).粘膜はよく発達した粘膜下組織によって筋層とゆるくつながっており,そのために膀胱が空虚で収縮しているときには粘膜が大小のひだをなしている(図267).このひだには内層の縦走筋線維だけがある程度まで伴なっている.尿道への移行部の近くと膀胱三角とでは筋層とのつながりが密にできていて,そのために粘膜のひだが少ないか,または全く欠けている.だんだん膨脹するとすべてのひだがなくなってしまう.粘膜は軟かく平滑であり赤みがかった色をしている.そして尿管の開口部の周囲では小さな乳頭状の高まりをなし,移行上皮で被われている.この上皮の性状は尿管のものと一致している.粘膜のなかに小さい管状の粘液腺がある.これを膀胱三角腺Glandulae trigonalesという.また膀胱リンパ小節Lymphonoduri vesicaeが散在している.

 尿管の開口部と内尿道口では粘膜が直接に尿管と尿道の粘膜に続いている.膀胱底の前部には周囲よりも高まっている二等辺三角形の滑かな平面があり,その先端を前方にむけている.この部分では粘膜がよく発達した内層の縦走線維とかなりしっかりと着いていて,そのために膀胱が収縮していてもこの部分は粘膜のひだができないことが普通である.この部分を膀胱三角Trigonum vescicae, Blasendreieckと名づける(図267).膀胱三角の底の両隅には尿管ヒダPlicae uretericae, Ureterwülsteがある.これは尿管が膀胱にはいってくるためにできたものである.このヒダの上には尿管口Orificium ureterisが長めの円形の裂け目として開いている.膀胱三角の前端は不対の縦のたかまりを成している.これを膀胱垂Uvula vesicaeといい,尿道に向かっていろいろな長さだけのびており,あるいは尿道の後壁に達している.後者を尿道稜Crista urethralisという(図267).

 普通の発達のときにはこの膀胱垂が内尿道口の完全な閉鎖に寄与している.女の肪胱三角はいっそう小さくて,膀胱垂はわずかしかたかまっていない.

 膀胱の内面を被う移行上皮は腎盂や尿管の上皮と同じ細胞の形をしている.

膀胱の血管,リンパ管,神経

 上膀胱動脈は脾動脈の閉鎖しない部分から来ている.下膀胱動脈は内腸骨動脈の下方の枝から来ている.女では子宮動脈のいくつかの枝が膀胱にくる.静脈は膀胱の下部の周囲で輪状によく発達した膀胱静脈叢を作り,それから骨盤の諸静脈にはいっている.

S. 201

 リンパ管は床管におけるよりも乏しいが,膀胱底と膀胱三角において最もよく発達している.

 粘膜のリンパ管は小さな幹に集まって,一部はそれ単独で,一部は筋層のリンパ管とつながって骨盤の側壁にあるリンパ節にすすんでいる.Gerotaは膀胱の粘膜にはリンパ管がないといったが,Lendorfはそれが確かにあるといっている.筋層のリンパ管には前と後の2部がある.これらのリンパ管がすべて膀胱の外側壁にすすみ,膀動脈とともにすすんで,これに沿って存在するリンパ節にはいっている.リンパ節はそのほか膀胱の前方の脂肪組織のなかにある.

 膀胱の神経は交感神経の腸骨動脈神経叢と脊髄神経の仙骨神経叢からきている.神経は結合組織のなかで密な網を作り,そのなかに神経節をもっている.また筋層の内部ではStöhrの終末網状体Terminalretikulumが作られている.

 膀胱の閉鎖は筋と静脈団によっておこる.すなわち筋によって狭ばめられた尿道口を粘膜がさらにたがいに密接することによって閉じるのである.筋の配列は膀胱が充満すればするほどしっかりと出口を閉じるようになっている.--膀胱の出口が開くのは膀胱垂が後に引かれることによって起る.これは膀胱垂後引筋M. retractor uvulae(Heiss 1928)という特別な筋束によって起り,同時に膀胱底が下にさがり,それによって膀胱前立腺靱帯が緊張して,膀胱の出口が前方からしっかり支えられるのである. Heiss, R., Schriften Königsberger Gelehrte Ges.1928.

2-18

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る