Rauber Kopsch Band2. 23

5. 腟Vagina, Scheide(図275, 276, 284, 290, 292, 294)

 腟は筋性の膜でできており,前後に平たくて,拡張しうる管である.その上端部は子宮頚を取りかこみ,下端は外陰部とつづいており,そこで腟口Ostium vaginae, Scheidenmundをもって終わっている.

S. 221

 局所解剖:腔は後下方で直腸と接し,前方は膀胱と尿道に接している.そして尿生殖隔膜を貫いており,また肛門挙筋の前部によって両側から境されている.そめことは生体において容易に触知することができる.腟の縦軸は骨盤軸と一致する.後壁は前壁より1.5~2.5cm長い.後壁は平均8~10cm,前壁は7~8cmである(図275, 276).(日本人の腟の長さは生体において前壁が6.97~7.13cm,後壁が7.85~8.67 cmである(小坂田,臨床婦人科産科5巻).)

 腟は中央のところがもっとも広く,しかもそれは横の方向に広いのである.というのは,腟の前壁Parles ventralisと後壁Parles dorsalisとがたがいに相接しているのである.上下の両端に向かって比較的に狭くなっているが,上端はまた少し広くなって,外子宮口より多少離れたところで子宮頚をとり囲んでいる.この場合に後壁は外子宮口の後唇のところである距離だけ上方に達しているが,前壁では前唇がほとんど突出していないと云ってよい.外子宮口よりも上方にある部分を腟円蓋Fornix vaginae, Scheidengewölbe,または腟底Scheidengrundという.これには後方の深い部分と前方の浅い部分を区別して,後腟円蓋・前腟円蓋hinteres und vorderes Scheidengewölbe(最近はdorsales und ventrales Scheidengewölbe)と名づけられている(図292).

 処女では腟の後壁のつづきが,外から見ると半月形をして前方に突き出ている下方の壁となっている.これを処女膜Hymen, Scheidenklappeという(図292).

 腟の壁は前方で,そこが尿道の壁と密着しており,尿道壁の組織が腟と融合している所で最も厚い.また腟は膀胱底ともしっかりくここにいていて,それによって補強されている.後腟円蓋は腹膜によって被われている.腹膜は腟から直腸に移行するのである.この部分より下方では腟の後壁は直腸腟中隔Septum rectovaginaleによって直腸の前壁と結合している(図275).

 かなりの例において後腟壁がずっと下方まで腹膜で被われている(Keibel, Sellheim).

腟壁の各層

 外層は腟傍結合組織Paracolpiumといい,かなり密な結合組織からできていて,そこには平滑筋線維が存在する,腟の下部は隣接する諸器官(膀胱,尿管,直腸)とかたく結合している.

 中層は筋層Tunica muscularisであって,平滑筋線維の束がからみあったものからなっている.

 Schreiber(Arch. Gyn.,174. Bd.,1942)による腔の平滑筋は立体的な絡子を作り,格子の目は菱形をして腟の縦軸の方向に急傾斜のラセンを画いている.筋束は後壁よりも前壁でいっそう強く発達している.

 内層,すなわち粘膜Tunica mucosaはその表面に多数の横走する稜状の高まり,すなわち腟粘膜ヒダRugae vaginalesがあって特徴的な形態を示している.

腟粘膜ヒダはまた腟壁の前後の内面に,腟口からはじまって正中線を走るそれぞれ1本の高まりを作っている.この高まりは上方に伸びているが,腟口の近くではいっそう強くなっている.これを前・後皺柱Columna rugarum ventralis et dorsalis という.

 前後の腟皺柱は通常まったく同じように発達していないし,また正確にたがいに向き合っているわけでない.それゆえ腔が閉じているときにはたがいに触れていないで,そばに並んでいる.前腟皺柱はその下端がかなり深い溝をもって2つの部分に分れていることも珍しくない.この場合には後腟皺柱がそこにはいりこんでいる.前腟皺柱は外尿道口の近くで腟の前壁の下端において,しばしば2分しているかなり強い隆起部,すなわち腟尿道隆起Carina urethralis vaginaeをもって始まり,上方におもむくにつれて次第に低くなっている.後腟皺柱の下端はそれより少し上方になっているのが普通である.

S. 222

 粘膜は小さな乳頭をもっており,これが上皮で被われている.乳頭をもつ粘膜固有層は細い結合組織束がからみあっていてこれにごく少量の弾性線維と,リンパ球(その量はさまざまである)が入り混つている.また腟リンパ小節Lymphonoduli vaginalesが散在している.上皮は重層扁平上皮であって,子宮腟部bの上皮に続く.腺はない.上皮には游走中のリンパ球がみられる.

 腔の粘液は酸性で,そのなかには脱落した上皮細胞とリンパ球があり,滴虫類lnfusorien(腟トリコモナスTrichomonas vaginalis)の存在することが少なくない.

腟の脈管と神経

 多数の細い動脈の枝が内腸骨動脈の諸枝から来ている.腟の上部には子宮動脈のいくつかの枝がくる.これらの枝は時として合して,かなり太い1本の小幹すなわち腟動脈A. vaginalisを作っている.腟の中央部は下膀胱動脈の枝を受けており,下部は後直腸動脈と内陰部動脈の枝を受けている.静脈は筋束の間で密な網を作り,子宮腔静脈叢に集まっている.リンパ管は固有層と粘膜下組織のなかで,平面的に広がった網を作っている.

 神経は腸骨動脈神経叢と陰部神経から来ており,腟傍結合組織のなかで神経細胞をもった神経叢をなしている.上皮内に(知覚性)神経線維の自由終末がみられる.

女性の内部生殖器の位置(図275, 276, 285)

 卵巣は小骨盤の入口のすぐ下で骨盤の外側壁に接している.卵巣の縦軸は大よそ体の縦軸の方向に相当していて,上端は後上方に,下端は前下方に向かっている.付着部である卵巣間膜縁は前上方に向い,自由縁は凸をなして,後下方に向かっている.したがって卵巣の両側面はだいたい矢状面上にある.外側面は骨盤の側壁に密接しているのが普通で,内側面は反対に骨盤腔に向かっている.子宮の位置が正中をはずれていると,より遠くなった方の卵巣は多少とも位置が変わって骨盤腔内へ引きこまれている.とのとき卵巣の外側面はむしろ前方に向い,内側面はそれだけ後方に向かっていることが多い.

 卵巣の卵管端は腹膜のひだである卵巣提靱帯Plica suspensoria ovariiと,それによって支えられている卵管采によって卵管の腹腔口とつながっている.卵管の外側端は正常の場合には上行するのみでなく,同時に後下方に弓状にまがって後戻りするので,したがって漏斗は卵巣の後方に向かった自由縁およびその縁に近い面の上に直接のっている.

 子宮の下部は一部は腹膜により,一部は結合組織によって膀胱の後壁と密につながっている.そして子宮はあまりしっかり固定されていないので,膀胱の充満の程度によってその位置が影響されることはよく理解できる.膀胱がかなり充満すると子宮は後方に押しやられて,子宮体の傾きが減り,立ち上がるようになる.膀胱が空虚になると前方に傾くか,あるいは前方にまがって,頚と体のなす角がいっそう鋭くなる.子宮と膀胱のあいだにある腹膜のポケットは膀胱子宮窩Excavatio vesicouterinaといい,ここは前後の壁が接触しているので特別なものがはいっていない.比較的まれなことであるが,後傾後屈Retroversion und Retroflexionの子宮がある.このときには膀胱と子宮のあいだに腸の係蹄が入りこんでいる.子宮がこういう位置にあるときは子宮広ヒダと卵管も影響を受けないわけにはいかないので,後方に引き寄せられる.卵巣の位置はそれほど影響されない.

 前傾Anteversioとは全体としての子宮のかたむきをいい,前屈Anteflexioとは子宮体と頚のあいだの屈曲を意味する.

 膀胱の充満の度によって子宮の位置が変るのと同じく,直腸やや状結腸が充満すると子宮は上に述べたのと反対の方向に動くのである.大多数の場合においては子宮と直腸のあいだにある腹膜のポケット,すなわち直腸子宮窩Excavatio rectouterina(ダグラス腔Cavum Douglasi)のなかに腸の係蹄がはいっている.これが膀胱子宮窩のなかにはいっていることはごく例外的である.直腸が強く充満すると,腔と子宮は前方に押しやられて,上に述べたポケットはせまくなり,遂には腸係蹄を外に出してしまう.

S. 223

子宮は正中をはずれた位置にあることが多く,その場合にはたいてい右側にかたよっている.これはS状結腸が小骨盤において左側に位置をしめることによって起るのである.一骨盤筋の緊張の程度や,体位がやはり女性の内部生殖器の位置に影響する.

2-23

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る