Rauber Kopsch Band2. 27

C.会陰Perineum, Dammと骨盤出口の筋Musculi exitus pelvis

 会陰Perineum, Dammという名前はもともと肛門と外陰部のあいだの小さい領域だけをいうのである.というのはこの領域は肛門と外陰部のあいだに1つの土手Damm のようにはさまれているからである.広い意味では会陰は骨盤出口の全体を指し示すのである.

 骨盤出口の筋はa)外陰部の筋b)腸の末端の筋である.これら2群の諸筋はたがいに続いており,合せて会陰筋Musculi perineiと名づけられる.

 腸の下端に属する横紋筋は肛門挙筋M. levator ani,尾骨筋M. coccygicus,外肛門括約筋M. sphincter ani externusである.

 外陰部に属する筋はやはりみな横紋筋であって,球海綿体筋・坐骨海綿体筋・浅会陰横筋・深会陰横筋・隔膜尿道括約筋Mm. bulbocavernosus, ischiocavernosus, transversus perinei superficialis, transversus perinei profundus, sphincter urethrae diaphragmaticaeである.

a)外陰部の筋

α)男の場合

1. 球海綿体筋M. bulbocavernous(図262, 266, 324, 333, 335)

 この筋は男の場合には尿道海綿体球とこれに続く尿道海綿体の一部を取りまいている.

 完全に発達している場合にはこの筋は3層からなっているが,深層のものは欠如していることがある.浅層のものは尿道海綿体球の白膜に織りこまれている正中位の固い結合組織性の1条から起り,前方ならびに外側に向う束となって,各側とも一部は陰茎海綿体の側面に達し,一部は左右の陰茎海綿体脚のあいだにある固い結合組織に達している.第2番目の層はむしろ矢状方向に走っており,尿生殖隔膜の外面の後部から起こっている.ここから起る束はしばしば外肛門括約筋からの線維で補強されており,尿道海綿体に終るか,あるいは浅層のものが停止するところにすすんでいる.第3番目の深層のものは輪走する平たい束からなっていて,これは尿道海綿体球の後部を包んでいる.

 球海綿体筋は尿道をせばめて短縮し,その内容を断続的に押しだすことができる.それゆえこの筋はM. compressor bulbi(球圧縮筋),またはM. ejaculator seminis(射精筋)とも名づけられている.

2. 坐骨海綿体筋M. ischiocavernosus(図324, 333, 335)

 この筋は内側,下方,外側というようないくつかの束をもって坐骨枝の恥骨部から起り,陰茎海綿体脚を包んでおり,陰茎海綿体の下面と側面とに付着している.

 浅層の束はその停止腱が陰茎背にまでのびており,ここで他側の相当する腱と合して係蹄を作っていることがある.

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[図335]男の会陰,骨盤出口の筋III(9/10)

3. 浅会陰横筋M. transversus perinei superficialis(図333, 335)

 小さな筋で,前者の後方で坐骨から起り,横走して他側の同名筋に向かってすすみ,これと結合している.

 起始と停止がいろんなぐあいになっていることがあって,そのために多くの変異がみられる.起始は浅会陰筋膜,閉鎖筋膜,外骨盤隔膜筋膜に続いていることがあり,また停止束は球海綿体筋および外肛門括約筋に達していることがある.

4. 深会陰横筋 M. transversus perinei profundus(図262, 266, 335)

 この筋は内と外の尿生殖隔膜筋膜のあいだにある.これら内外の筋膜はこの筋の前方と後方で合同しており,そしてこの筋および次に述べる筋といっしょに尿生殖隔膜Diaphragma urogenitaleをなしている.尿生殖隔膜は結合組織と筋からなる四角形の板であって,骨盤出口の前部において横の方向に張られている.

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5. 隔膜尿道括約筋M. sphincter urethrae diaphragmaticae(図335)

 この筋は主として輪走する束より成り,尿道の隔膜部とそれに続く前立腺部の一部をとりまいている.

β)女の場合

 外部尿生殖筋のうちで球海綿体筋だけが外観的に男の場合と本質的に異なる関係を示す.そのほかの4つの筋は男の場合とまったく同じ関係である.

1. 球海綿体筋M. bulbocavernosus(図336)

 この筋は尿生殖隔膜の内側部から出ており,少数の筋束によって外肛門括約筋とつづいていて,前方では数条に分れて陰核の下面,前庭球の後面,腟前庭の上壁の粘膜についている.

2. 坐骨海綿体筋M. ischiocavernosus(図336)

 この筋の広がりはいっそうせまい.その筋束は小さい陰核海綿体の後方で坐骨からおこり,またこの海綿体の外側面からも起こっている.そして陰核背と尿道前靱帯Lig. praeurethraleに終わっている.

3. 浅会陰横筋M. transversus perinei superficialis(図336)

 この筋には特別に変つたことがない.球海綿体筋への線維束の移行は女の会陰でもしばしばみられる.

4. 深会陰横筋M. transversus perinei profundus(図336)

 この筋は一部は平滑筋からなっている.横紋筋の量は個体的にきわめてまちまちである.

5. 隔膜尿道括約筋M. sphincter urethrae diaphragmaticae

 尿道の一部すなわち尿生殖隔膜のなかにある部分をとりまいている輪走の線維束である.

b)腸の末端部の筋群

1. 外肛門括約筋M. sphincter ani externus(図262, 266, 275, 276, 332, 333, 335, 336)

 これは肛門を閉じる働きをする随意筋であって,その内方の線維は直腸の下端をとり囲んでいる.それより表層の筋束は肛門の側面を矢状方向に走り,肛門の前方において交叉して一部は会陰の皮膚に,一部は尿生殖隔膜に終わっている.肛門の後方でもやはり交叉して一部は皮膚にゆき,一部は肛[門]尾[骨]中隔Septum anococcygicumを介して尾骨の尖端に達している.外尿生殖隔膜筋膜から副筋束のきていることがまれでない.

2. 肛門挙筋M. levator ani(図262, 333, 335, 336)

 両側の肛門挙筋は(尾骨筋とともに)1つのロート状にかたむいた筋板をなしていて,この筋板は骨盤出口を塞ぐことにあずかっており,それゆえに骨盤隔膜Diaphragma pelvisともよばれる.左右の肛門挙筋の前縁のあいだには正中に隙間があって“Levatortor”(挙筋門の意)といい,そのなかに前立腺の尖端がはいっている.肛門挙筋は各側とも恥骨結合の後面から坐骨棘にいたる1線から起こっている.特にその筋線維は恥骨枝の寛骨臼部の内面と閉鎖筋膜腱弓Arcus tendineus fasciae obturatoriaeから起こっている.そして膀胱,前立腺(あるいは腟),直腸の側面に沿って後方にすすみ,前立腺とは固く着いている,また直腸の縦走筋層は肛門挙筋の束のあいだに終わっているので,この筋は直腸の壁とも密着している.

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[図336]女の会陰,骨盤出口の筋(4/5)

左右の肛門挙筋は直腸と前立腺のあいだで横走する平滑筋の束によってたがいにつながっている.筋束の一部は直腸の後方で弓なりになって他側の同名筋と合しており,その他の部分は尾骨と肛尾中隔に停止している.

 女の肛門挙筋は腟のそばを通るときその縦走線維と結合しており,その点が男のばあいと違っている.

 尾骨筋M. coccygicus(図342,8)は腱性の束をまじって坐骨棘から起り,扇状にひろがって尾骨の側縁に付着している.腱性の成分がきわめて多量であって,そのためにこの筋は仙棘靱帯の一部のようにみえることがある.この筋はまったく欠けていることがある.

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会陰の筋肉の神経:肛門挙筋は仙骨神経叢から1枝を直接に受けており,それは57%では第3仙骨神経から,43%では第4仙骨神経からきている.そのほかの筋は陰部神経によって,つまり第2~第4仙骨神経から支配されている.

c)骨盤筋膜Fasciae pelvis

 小骨盤の筋膜は内閉鎖[筋]筋膜および内と外の骨盤隔膜筋膜である.

[図337]骨盤筋膜の後部 骨盤後壁の前面,23才の少女.(H. Luschka)

 a 内腸骨動脈;

 b 内腸骨静脈;

 c 仙骨神経叢,前2者とともに少しく前方に引っぱってある.** 骨盤筋膜;d 大坐骨切痕の高さにおける骨盤筋膜の凹縁;I~V腱性の起始尖頭,これらはたがいにつながっている.穴のなかには交感神経の仙骨神経節演ある;e 第1の起始尖頭の分れで,これは静脈の外膜に移行している.下方ではこの筋膜は前仙尾靱帯(f)と合している.そこでは筋膜が靱帯から趣きはがしてある.靱帯のそばには前仙尾筋(g, g)がある;

h 中仙骨静脈;

i 尾動脈;

k 尾動脈糸球,尾骨の尖端の後方には前方を開いた尾骨筋嚢(I)がある.

 (Sitz.-Ber. d. k. Akad. d. W., math. naturw. Kl., Bd, 35,1859. )

1. 内閉鎖[筋]筋膜Fascia m. obturatoris interni(図332, 333, 335, 336)

 これは内閉鎖筋の内側面を被っていて,その起始を囲んでいる骨面の骨膜とつづいており,小坐骨孔を閉ざしている.下方にゆくにつれて強さを増し,骨盤出口のところで仙結節靱帯から起る鎌状突起と結合している.この筋膜の下部は坐骨直腸窩,すなわち内閉鎖筋と肛門挙筋のあいだにあるくぼみの外側壁を被っている(図332).そのさい骨盤の外側壁をすすんでいる内陰部動静脈とそれに伴なう神経を包んでいる.この筋膜は次に記載する筋膜と重要な関係をもっている.

 内閉鎖筋膜は閉鎖管の内口の後縁に一致してかなり強い弓状の索をなしており,これを閉鎖筋膜腱弓Arcus tendineus fasciae obturatoriaeといい,きわめて個体差が大きいものである.

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2. 骨盤筋膜Fascia pelvis(図337340)

 骨盤筋膜は小骨盤の前壁と側壁と後壁から起こっており,壁側部(外側部)すなわち骨盤筋膜Fascia pelvis(狭義の)と臓側部(内側部)すなわち骨盤内筋膜Fascia intrapelvinaに分けられる.その起始は前方では恥骨から,側方では内閉鎖筋膜から,後方では仙骨から起り,仙骨の前仙骨孔の周囲で腱性の弓をなしている(図337).尾骨の初部で各側の起始が正中線上に集まっている.梨状筋の骨盤内にある部分はこれから薄い被いをうけている.臀動静脈の通るところには卵円形の1孔ができている.この孔には骨盤筋膜の外側部の鋭い縁が内側に向かって凹の弓を画いてのぞんでいる.この弓は仙腸関節の上端から坐骨棘に張るのである.この筋膜の外側部には白い腱性の条があって,これを骨盤筋膜腱弓Arcus tendineus fasciae pelvis(図338, 339,11)という.これは下方に軽く突出した弓を画いて恥骨結合の下部から坐骨棘まで伸びている.

[図338]骨盤筋膜 前部(1/2)骨盤の壁を示す. 膀胱は後方に折り返してある(Henleによる).

 この腱弓は骨盤筋膜と,下内側にゆく内骨盤隔膜筋膜Fascia diaphragmatis pelvis internaとの境となっている.後者は肛門挙筋の内面を被うのである.この腱弓の上方には外側骨盤裂孔Hiatus pelvinus lateralis(図339,12)と大きな閉鎖筋裂孔Hiatus obturatorius(図339, g)とがある.前者は細い血管を通しているだけであり,後者は内閉鎖筋膜に属している.骨盤筋膜は骨盤筋膜腱弓から肛門挙筋の上を内側にすすみ,その部分にある内臓に達しており内骨盤筋膜としてそれらを被っている.すなわち前立腺被膜Capsula prostatae(図339,15)となって前立腺を包み,また膀胱,直腸,腟にもいたり,これらの器官をここにむ線維性の外膜に続いている.内骨盤隔膜筋膜の一部が強くなっていて(左と右の)恥骨前立腺靱帯Ligg. puboprostatica(女では恥骨膀胱靱帯Ligg. pubovesicalia)をなしており,これは恥骨結合の下端から起こって,前立腺の前面か,あるいは膀胱に達している(図339,14)

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 肛門挙筋の外面も筋膜で被われている.これは外骨盤隔膜筋膜Fascia diaphragmatis pelvis externa(図333, 340, 4)とよばれる.この筋膜と内閉鎖筋膜とのあいだが坐骨直腸窩Fossa ischiorectalisであって,ここは脂肪組織,神経,血管で満たされている.

[図339]男の骨盤筋膜(9/20) 内側からみたところ.

 骨盤を矢状断した上で骨盤および腹壁の筋膜を剖出してある.精管は切断してあり,膀胱は右下方に引き下げてある.1 第5腰椎;2 仙骨;3 尾骨;4 恥骨結合;5 前腹壁;6 弓状線;7 腹膜下鼡径輪;8 大腿動脈輪中隔;[9 閉鎖筋裂孔];10 骨盤筋膜;11 骨盤隔膜腱弓;[12 外側骨盤裂孔];13 梨状筋膜;14恥骨前立腺靱帯;15 前立腺被膜;16精嚢腺;17 膀胱;18 尿管;19 精管;20 精巣動静脈;21直腸;22 大腿動脈;23 左総腸骨動脈;24 外腸骨動脈;25 下腹壁動静脈;26 内腸骨動脈;27上臀動脈;28 膀動脈;29 閉鎖動脈;30閉鎖神経.

3. 尿生殖隔膜筋膜Fasciae diaphragmatis urogenitalis

 深会陰横筋は内方の面が内生殖隔膜筋膜Fascia diaphragmatis urogenitalis internaによって被われ,外方の面は外生殖隔膜筋膜Fascia diaphragmatis urogenitalis externaによって被われている.この2枚の筋膜葉はそれが被っている筋とともに尿生殖隔膜Diaphragma urogenitaleをなしている.これは尿道の隔膜部Pars diaphragmatica urethraeによって(女ではそのほかに腟によっても)貫かれており,また1対の小さい腺,すなわち尿道球腺Glandulae bulbourethralesを封じこんでいる(図262, 335).

 深会陰横筋の前縁と後縁で尿生殖隔膜筋膜の内外両葉が合している.前縁ではこの結合したものが特に強くて,尿道前靱帯Lig. praeurethraleとよばれる.

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[図340]男の骨盤の前方部を前額断したもの 片がわ.

 1 外尿生殖隔膜筋膜;2 内尿生殖隔膜筋膜;3 内骨盤隔膜筋膜;4 外骨盤隔膜筋膜;5 閉鎖膜;6 内閉鎖筋;7肛門挙筋;8 深会陰横筋;9 坐骨海綿体筋と陰茎脚;10球海綿体筋と尿道海綿 体球;11 膀胱;12 前立腺;J 坐骨枝の恥骨部,その右には陰茎背神経,陰部静脈,陰茎動脈がある.

[図341]被っているものを全部とり除いた外骨盤隔膜筋膜の様子

 3 尿道;4 海綿体球の付着する面.

[図342]男の骨盤の出口外方からみる.尿生殖隔膜は尿道の隔膜部とともに取り除いてある.外面の筋膜を除去したので骨盤隔膜が露出している.

 1 仙尾骨;2 仙棘靱帯;3 坐骨結節;4 恥骨結合;5 内閉鎖筋;6 内閉鎖筋膜;7 肛門尾骨中隔;8 尾骨筋;9 肛門挙筋;10外肛門括約筋;11肛門裂;粘膜によって囲まれている;12両側の肛門挙筋のあいだにある正中部め隙間,すなわち“挙筋門Levatortor”;この隙間には前立腺の尖端が尿道の隔膜部(これは取り除いてある)に移行するところがみえる.

 骨盤の前方部をとおる前頭断面(図340)でこの2つの筋膜が明かにみられる(1, 2).深会陰横筋(8)はこれらの2つの間に包まれている.内尿生殖隔膜筋膜の上には中央部に前立腺(12)がのっており,側方には肛門挙筋(7)の前方部がのっている.この筋はそれ自身がまた内骨盤隔膜筋膜(3)で被われている.内骨盤隔膜筋膜は前立腺の側面に放散していて,そのさい内尿生殖隔膜筋膜とも合している.外尿生殖隔膜筋膜の大部分は陰茎海綿体と尿道海綿体,およびこれらを包んでいる坐骨海綿体筋(9)と球海綿体筋(10)によって被いかくされている(図333).

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 前述の3つの海綿体と,それに属する筋を取り除くと,外尿生殖隔膜筋膜の広がり全体の表面像をみることができる(図341).中央部にある卵円形の場所(4)は尿道海綿体球がこの筋膜に付着しているところに相当する.3は尿道の位置である.前部には多くのばあい強い横走束の形をした尿道前靱帯Lig. praeurethraleがある.この靱帯と恥骨弓状靱帯のあいだには1つの隙間があって,ここを通って筋膜下陰茎背静脈が骨盤にはいって膀胱陰部静脈叢に達している(図262, 335).

 それに対して海綿体と会陰のすべての筋がだいたい自然の長さに存在する状態を図333が示している.

 この図では外尿生殖隔膜筋膜は左右ともごく少ししかみえない.それは尿道海綿体球と球海綿体筋,陰茎海綿体と坐骨海綿体筋,および浅会陰横筋が場所を狭ばめているからである.

 球海綿体筋と坐骨海綿体筋もそれぞれ薄い筋膜で被われており,これを浅会陰筋膜Fascia perinei superficialisといい(図332),陰茎根をなす3つの部分を外方から被っていて,これらのあいだにある溝を管の形にしている.この管のなかには会陰神経と会陰動脈,およびそれちの枝が通っている.

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最終更新日 13/02/03

 

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