Rauber Kopsch Band2. 31

B.神経学各論

I. 脊髄Medulla spinalis, Rückenmark

1.脊髄の形と位置

 脊髄は中枢神経系の脊椎部(図370380)であって,ほぼ円柱状をなし,前後の方向にややおされた形であり,特にその前面は平らであって,1本の管がその内部を貫ぬいていて,左右対称の形をなし,その前面から多数の神経束,すなわち運動性の根motorische Wurzelnを送りだし,その後面でも多数の神経束,すなわち知覚性の根sensible Wurzelnを取りいれており,かつ膜性の被膜に包まれて脊柱管の中にある.上方はすでに脳に属するところの延髄Medulla oblongata, verlängertes Markに直接に続いている.

 骨格との位置関係skeletotopischを云えば,環椎の上縁から第2腰椎,あるいは第2尾椎にまで達している.--脊髄の上端頚神経の第1対が出る所に一致していて,環椎の上縁の高さにある.

 脊髄はどの場所でも同じ幅,および同じ厚さというわけではない.特に目だつのは,脊髄に長く延びた紡錘形の,しかも左右対称的の著明なふくらみが2つ,すなわち上方の頚膨大Intumescentia cervicalis, Halsanschwellungと下方の腰膨大Intumescentia lumbalis, Lendenanschwellungとがあることで,これらは体肢にゆく太い神経Extremitätennervenが起始するところに当たっている.

 脊髄を8対の頚神経がでる頚部Pars cervicalis,12対の胸神経がでる胸部Pars thoracica,5対の腰神経がでる腰部Pars lumbalis,5対の仙骨神経および第1尾骨神経がでる仙骨部Pars sacralisとに区分する.仙骨部は脊髄円錐Conus medullarisを形成し,その尖端は終糸Filum terminale, Endfaden des Rückenmarkesに続いている(図375).

 上に述べた各部のなかがその部分がいく対の神経を出すかによってその数だけの上下に重なった部分からなるとされているのである.つまり脊髄は上下にならんだ多数の部分,すなわち分節Segmenteよりなり,その数は少なくとも31個ある.

 終糸Filum terminaleは硬膜の嚢のなかでは16 cm,その外では8cmの長さがある.硬膜の嚢の外にある部分はこの膜のつづきによって密接して包まれていて,この硬膜の部分は脊髄硬膜糸Filum durae matris spinalisをなし,その先がへらの形に広がって第2尾椎体の後面の骨膜に終わっている(図375).

S. 298

[図370]脊髄の被膜

脊柱管は第11胸椎から仙骨の上端まで椎弓を取り去って開いてある.脊髄硬膜およびクモ膜は正中線で切り開いて側方に折り返してある,馬尾は右と左に分けてある.

 (GerstenbergとHein 1908より).

S. 299

[図371]脊髄と脊髄神経および交感神経幹(Quainより)

V 三叉神経;XII舌下神経;C1 第1頚神経;C2~8 第2~第8頚神経;Th 1~12 第1~第12胸神経; L1~5 第1~第5腰神経;5 1~5 第1~第5 仙骨神経;6 尾骨神経;x, x 脊髄の 終糸.L1の根からxまでが馬尾;Rr腕神経叢;Cr 大腿神経;Sc 坐骨神経;O 閉鎖神経.数字3, 4, 5のところのふくらみは脊髄神経節によるもの. 図の左側には交感神経幹が示してあり,aからssまでは幹神経節;a 上頚神経節;bとcは中および下頚神経節;d 第1, d'第12胸神経節;l 第1腰神経節;ss 第1仙骨神経節.

[図372]終糸を×印のところで切断して,別に示したもの(Quainより)

[図373および374]延髄と脊髄の前面(図373)および後面(図374) (Quainより).×は終糸を切断した場所.

S. 300

 成人の脊髄の長さは,(日本人25(男17,女8)体についての研究によれば,脊髄の長さは平均男44.3cm,女42.8cm,重さ平均男25.5gr,女23.9grであった.(久保武:日本人の脊髄.東京医学会雑誌,17巻,53~70,111~127,143~160,1903).)上端から脊髄円錐の尖端まで計測すると,平均して男では45cm,女では41~42cm,新生児では14cmである.横径:その胸部の中央では横径が10mm,そこの矢状径は8mm;頚膨大の最も幅の広いところでは,その横径は13~14mmに達し,腰膨大では12mmに達するが,その矢状径はせいぜい1mmぐらい増すだけである.頚膨大より上方で,これと延髄との間では,その横径は11~12mmである.

 脊髄の重さは成人では27~28gr(新生児では3.2gr)である;これと脳の重さとの関係は1:48であり,脊髄の比重は1.034,その容積は33ccmである.

 局所解剖:骨格との関係(日本人50(男35,女15)体の研究によれば,脊髄円錐の下端の高さは第2腰椎にあるもの52%,第1腰椎にあるもの22%, 両者の間にあるもの18%であった.(狩谷慶喜:本邦成人の脊髄下界位に就て.北越医学会雑誌,52巻,325~342,1937) )では頚膨大が第2頚椎の高さに始まり,第2胸椎の高さで終る;その最も幅が広いところは第5一第6頚椎の高さにある.腰膨大は第10胸椎のあたりで始まって,第12胸椎の高さでその最大に達する.脊髄円錐のあまり尖つていない尖端Spitzeは,男では第1腰椎の下縁のあたりにあり,女ではさらにいくらか下方で第2腰椎の中央にまで達し,新生児ではなお下方にまで達して,第2あるいは第3腰椎の下縁である.

 脊髄の実質の硬さFestigkeitは大したものではないが,それにしても新鮮な脊髄はわれわれが想像する以上に強さと弾性をもっている.しかし死後はこの性質が間もなく消失して,柔軟になり,こわれ易くなる.

 脊髄には自然の弯曲が2つある3すなわち頚部の弯曲と胸部の弯曲とである.

 脊髄は脊柱管を完全に満たしているのではない(図379).3つの被膜である柔膜,クモ膜,硬膜のほかに,脊柱管を満たすものとして著しい量のクモ膜下のリンパ,豊富な静脈叢,さらに神経根の硬膜鞘に包まれた部分とこれに包まれていない部分および脂肪組織がある.

 腰部から下では神経根がたがいに密にくここにいて,急な傾斜を画いて下方に走っている.脊髄の下部とその周囲の神経根の集りが馬の尾の形を思い起させるので,馬尾Cauda equinaという名前がこの部分の全体に対してあたえられている(図370, 371, 375, 378).

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最終更新日 13/02/03

 

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