Rauber Kopsch Band2. 33

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3.脊髄の被膜

 脊髄には3つの被膜がある.

a)脊髄硬膜Dura mater spinalis(図370, 375, 378380)

 これはたがいに遠くはなれている2葉からなっている.すなわち脊柱管を内張りしている薄い骨膜性の1葉(外板Lamina externa,脊柱管内膜Endorhachis)と狭義の脊髄硬膜すなわち内板Lamina internaとであるが,内板は強固な線維性であり,腱のような輝きをもつ膜である.これらの両葉のあいだには硬膜外腔Cavum extraduraleがあり,このなかに疎性結合組織,脂肪組織,静脈叢がある.

[図378]脊髄とその被膜および後根をうしろからみる;A, B, Cの3部に分けてある.1/2 (Sappey)

 硬膜の嚢は部分的に取り除いてうしろから切り開いてある.左側では後根を取り去って,歯状靱帯の配列がよく見えるようにしてある.右側では神経根が硬膜を貫いているのが見渡せるようにしてある.Aでは(上の)1に第1頚神経,VIIIは第8頚神経(下の)I・II・IIIは第1から第3までの胸神経を示し;BではIVは第4胸神経,XIIは第12胸神経,1は第1腰神経を示す;CではIIおよび(中央の)Vをもって第2と第5腰神経,1および(下の)Vをもって第1と第5仙骨神経を示す.1菱形窩;2 結合腕;3 橋腕;4索状体;5 槌子;6 舌咽神経;7 迷走神経;8 副神経;9,9,9,9 歯状靱帯が硬膜に付着するところ;10,10,10,10脊髄神経の後根が出るところ;11,11,11,11 後正中溝;12,12,12,12 脊髄神経節;13,13 脊髄神経の前根;14 脊髄神経が前枝と後枝とに分れるところ;15 脊髄円錐;16,16終糸;17,17 馬尾.

 内板は外側が粗で,内側は滑らかで光沢があり,長くて広い円筒形の嚢をなしていて,この嚢はこれに包まれた脊髄よりもはるかに大きな広がりをもっている.これは大後頭孔の周縁にかたく付着しており,また脊髄円錐の尖端を越えてさらに下方にのびて,第2あるいは第3仙椎の高さではじめて急に細くなり円錐形の尖端となっている.大後頭孔のすぐ近くで左右の椎骨動脈がこれを貫いている二硬膜の突起が終糸とともに下方にのびて尾骨に達し,脊髄硬膜糸Filum durae matris spinalisを成している.

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これはヘラの形に広がって第2尾椎の骨膜に移行している.

 硬膜嚢はいろいろな場所で脊柱管の壁と結合組織の束によってつながっている.

 硬膜はこれに包まれているものとの間に2様のつながり方をしている:すなわち

a)クモ膜の外面とは硬膜下小束subdurale Fädenによって結合していて,その他の場所では硬膜は平面的に広がった毛細管性のリンパ隙,すなわち硬膜下腔Cavum subdurale, Subduralraumによってクモ膜かち分けられている.

b)柔膜とは各側19~23個の低い尖頭の対称的な2縦列によってつながらているが,これらの尖頭は前額面にのびた幅の狭い結合組織の板の突出部であって,この結合組織の板といっしょに歯状靱帯Ligamentum aenticulatumをなしている.この靱帯は柔膜に固着して,脊髄を固着する装置となっている.

 第1の尖頭は硬膜嚢が椎骨動脈に貫かれる所よりも上方で,かつ第1頚神経よりも上方にある(第I巻,図396).その下方に続くものはどれも上下にならんだ2つの神経が硬膜に入る所のあいだに固着している.最後のものは最下の胸神経と第1腰神経とのあいだにある.最下の尖頭より下方で側方の靱帯条はなお脊髄円錐にまで追跡できる.歯状靱帯の前面の前方には前根があり,その後面より後方には後根および副神経がある(図378, 379).

 硬膜は密に組み合った線維性結合組織の束からなり,この線維束の多くは縦に走っている.線維束のあいだには液の通ずる路系Saftbahnsorsystemがあって,この路系は硬膜の内外両面に開口している.硬膜の内外両面は内皮で被われている.

 硬膜には血管(硬膜動静脈)および神経(硬膜神経)がある.

b)脊髄クモ膜Arachnoides spinalis(図370, 379, 380)

 これは血管も神経もない柔軟な膜であり,その外面は平滑で内皮に被われて硬膜に接している.内面はやはり内皮に被われており,多数のクモ膜下の小梁および小膜によって柔膜と癒着している.クモ膜と柔膜とのあいだには軟膜腔Cavum leptomeningicum, Subarachnoidalraumがあるが,これは相当に広くて,かなりの量の液体,すなわち脳脊髄液Liquor cerebrospinalisをもっている.他方の硬膜下腔はただ毛細管性の間隙をなしているにすぎない.

 軟膜腔の液体(60~200gr)は脳に属する数多くの大きな軟膜腔とつづき,さらにまた脳内部の脳室を充たす液体とも直接に通じている.

 つまりクモ膜は脊髄を弛く包んでいる1つの広い嚢であって,この嚢が外方は硬膜によって支えられている.クモ膜と柔膜とのあいだにある髄液に満たされた腔所は,歯状靱帯によって仕切られ,それによって不完全に前方部と後方部とに分けられている.

 脊髄のクモ膜は縦に走る結合組織線維束の薄い層よりなり,これらの線維束は線維のあいだの所々に狭い隙間を残していて,これらの隙間は内皮細胞で被われている.軟膜腔の小梁はみな内皮細胞を有っている.クモ膜と柔膜とをいっしょにして軟膜Leptomeninxという.

c)脊髄柔膜Pia mater spinalis(図379, 381)

 脊髄柔膜,すなわち血管膜Gefäßhautは脊髄の表面にぴったりと接着しており,前正中裂の中では脊髄軟膜中隔Septum leptomeningicum spinaleを作っている.

 柔膜は内,外の2層よりなる.クモ膜下小梁はその外層に移行している.その外層は密集して縦走する結合組織の束でできていて,この束が内皮の鞘に包まれており,また外側が薄い内皮の膜で被われている.

 その内層Innenlageは毛細管性の隙間によって外層から分けられている結合組織の板であって,この板は輪走する原線維束の薄い1層からなり,なお内層の内外両面には弾性線維網がある.さらに内面も外面も内皮で被われている.内膜の組織には,そこそこに色素細胞がみられる.

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[図379]脊髄膜 第4頚椎を通る横断面.硬膜は黄;クモ膜は白;硬膜の外にある静脈と軟膜腔は青で示す.

[図380]脊髄膜 第2腰椎を通る横断面(GerstenbergとHein 1908より)

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 柔膜のもつ細い血管は両板のあいだを走り,次いでその内板から外膜性の鞘をあたえられて垂直に髄質のながにはいりこんでいる.この外膜性の鞘の初まりはロート状に広がって,いわゆる柔膜漏斗Piatrichterをなし,柔膜の両板のあいだの隙間に開口している.この隙間は柔膜のもつリンパ腔Lytmphräumeである.

 脊髄柔膜の神経は大部分が交感神経に由来するが,後根からくる脊髄神経性のものもある.これらの神経は柔膜の外層のなかで柔膜神経叢Plexus nervosus piae matrisを作る.その終末器官Endorganeは次のようである:すなわち単純な終末einfache Endigungenとしては神経原線維が円板のような形に広がったものであり,他は終末糸球Endknäuelをなすもので,後者はクラウゼ終末棍状体にはなはだよく似ているが,それぞれのものが形を異にしていて,典型的でない終末器官にいたるまで全くいろいろである(Stöhr jr., Z. Zellforsch., 30. Bd.,1939).この神経叢の成分は柔膜の細い動脈に接していて,その一部は脊髄の内部に入りこむ動脈の小枝とともに脊髄内の比較的太い中隔のなかに達している.

4.脊髄の脈管

 脊髄の動脈には次のものがある:すなわち

1. 前脊髄動脈Aa. spinales ventrales,これは椎骨動脈の枝である.

 この小血管は両側のものが下方に向かってたがいに近づき,脊髄の上端で合して対をなさない前脊髄動脈A. spinalis ventralisとなる.この不対の動脈は脊髄の前面の中央を前正中裂の入口の前に沿って始終ほとんど同じ太さですすみ,終糸にまで達してそこの両側で後脊髄動脈と弓なりに曲がって吻合している.

2. 後脊髄動脈Aa. spinales dorsales,これもやはり椎骨動脈の枝である.

 これは前脊髄動脈よりいくらか下方から起こっていて,この動脈と違って他側のものと合することがなく,脊髄とその後根とのあいだにかくれている.

3. 脊髄枝の中小枝Rdmuli medii der Rami spinales,脊髄枝というのは椎骨動脈,肋間動脈,腰動脈,腸腰動脈,外側仙骨動脈の脊髄枝である(第I巻,562, 593, 604, 612, 614頁).

 前脊髄動脈はその走行の途中で絶えず矢状方向に前正中裂のおくに細い枝を送っているが,この枝はそこで各側1列をなして前交連を通って脊髄の両側半に入りこむのである.同じように後脊髄動脈から,ならびに柔膜の血管網の全領域からも小枝が放射状に脊髄のなかに入っている.これらの小枝は主として脊髄内の中隔系のなかを通っている.中隔系の結合組織に伴われて,細い動脈が数多く灰白質に達する.すでに白質の内部で小枝をだし,これらの小枝が神経線維束を包んでいる長くのびた網の目の毛細管網を作っている.灰白質の毛細管網はそれよりはるかに密であり,灰白質の中では狭い多角形の網の目をなしている.

 脊髄内部の動脈枝はすべて終動脈Endarterienである.

静脈Venen

 毛細管網から出てくる静脈血は,特に2本のかなり太い内部の静脈である内脊髄静脈Vv. spinales internaeに集まるのである.外側の静脈は前外脊髄静脈Vv. spinales externae ventralesと後外脊髄静脈Vv. spinales externae dorsalesとである.

 左右の内部静脈Zentralvenenはそれら2本の間および外部の静脈といく重にもつながっている.--脊髄から流れ出る静脈血の他の一部は放射状に白質をへて外側の静脈に達していて,これらの外部静脈が分節性の通路によって脊柱管の内部の静脈叢と続いている(第I巻,658頁参照).

リンパ管Lymphgefäße

 硬膜外extradural,硬膜下subdural,クモ膜下subarachnoidalおよび柔膜内interpialのリンパ腔はすでに述べた.

 脊髄の内部ではリンパ路が血管周囲腔の形で動脈および静脈に伴なっており,この血管周囲腔は血管の外膜と血管周囲境界膜Membrana limitans perivascularis(図396)との間にある(Robin, Virchow).

 クモ膜下腔および硬膜下腔は脊髄神経のリンパ隙と続いている.このリンパ隙は導出するリンパ管Lymphgefäßeとつながり,このリンパ管が近くのリンパ節に注いでいるのである.

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最終更新日 13/02/03

 

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