Rauber Kopsch Band2. 34

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5.脊髄の横断図(図381, 383395)

 上に述べた溝の位置が横断面でもよくわかる.

 このさい特に目だつのは,灰白質と白質との違いである.白質は周辺の部分(髄外套Markmantel)をなし,灰白質は中心部にある.前正中裂と後方の中隔とは脊髄の内部に深く入りこんでいるので,これら両者の端のあいだには狭い橋がただ1つ残っているだけである.この橋の内部に中心管Canalis centralis, Zentralkanalという線毛細胞を内面にもった管があり,成人ではその内腔がしばしばあちらこちらでつぶれている.この管をとりまいてかなり多量の膠様物質,すなわち中心膠様質Substantia gelatinosa centralisがある.中心管およびこれを囲んでいる膠様物質の前方には白前交連Commissura ventralis albaがあって,これは左右たがいに交叉する有髄神経線維よりなり,中心管の後方には灰白交連Commissura griseaがあり,ここにはただわずかな有髄線維があるだけである.中心膠様質と灰白交連とをいっしょにして中心灰白質Substantia grisea centralis と呼ぶ.

 これらの交連が灰白質の左右両半をつないでいる,脊髄の灰白質の全体は深い溝と強い縦の高まりとをもった柱である.縦に走る個々の高まりは灰白柱Columnae griseae, graue Säiulenと名づけられる.各側にこのような柱が3本ある.

 前柱(前角)Columna ventralis, Vordersäuleが後柱(後角)Columna dorsalisに移行している.後柱はその初まりの部分のうしろで後柱のHalsすなわち後柱峡Isthmus columnae dorsalisというくびれをしている.このくびれのうしろでは,後柱がふくらんで紡錘形の頭Kopfとなり,それから細くなって後外側溝の方向を指したKante,すなわち後柱稜Crista columnae dorsalisとなって終わっている.この稜の上にはローランド灰白質Rolandosche Substanz,すなわち後柱膠様質Substantia gelatinosa dorsalisが載っている.

 前柱の基部の外側面から第3の目立った突出部が髄外套の中につき出ている.これが側柱(側角)Columna lateralis, Seitensäuleであり,胸髄で最もはっきりしている.

 側柱より後方には網様体Formatio reticularisがある.これは網状をなす灰白質の梁よりなり,これらの梁が側索の中につき出ているが,多数の比較的小さい白質束を側索から分けて,網様体の網の目のなかに容れている.網様体は腰髄ではいっそう小さくなるが,これとは反対に上に行くほど次第に大きくなる.

 これらの突出部は大きくて,そのあるものは鋭くとがり,あるものは鈍い形をしているが,そのほかに,灰白質には多数の細い高まりがあり,これらは放射状に髄外套の中に入りこんで,分岐したりまたはたがいに結合して,その大部分が髄外套の表面に達し,それを多数の薄い板に分けている.

 灰白質内の神経細胞Ganglienzellenは群をなして集り,または散在した配置を示している.特別なGruppen としては,前柱の内部に次のものが区別される:すなわち,1. 前内側群vordere mediale Grappe, 2. 前外側群vordere laterale Grappe,また3. 後内側群hintere mediale Gruppe, (交連細胞Kommissurenzellen),4. 後外側群hintere laterale Gruppe 5. 中心群zentrale Grappeである.

 側柱(側角)の中には側柱細胞群Seitensäiulengruppeがある.

 前柱の基部には中心部の神経細胞のほかに中央細胞Mittelzellenの群およびやはり小さな形の副細胞Nebenzellenがみられる.

 後柱の基部の内側部には非常にはっきりと境された神経細胞の1群,すなわち背核Nucleus dorsalisがある.この核が最も大きな横断面を示すのは胸髄の下部である.背核は途切れることなく第7頚神経の高さと第3腰神経の高さとの間に伸びている.それより上方の頚髄および下方仙髄ではただ孤立した灰白質の1団が背核に相当する場所に見いだされるだけである.後柱の頭の中にある中心細胞zentrale Zellenの群は後柱の核Kernder Hintersäuleとも呼ばれる.後柱膠様質Substantia gelatinosa dorsalisにもまた小さい特別な神経細胞,すなわちギールケ(ウイルヒヨー)細胞Gierkesche(Virchowsche)Zellenがある.

 海綿帯Zona sponginosaのなかには,辺縁細胞Marginalzellenという中等大の神経細胞が散在している.

 白質weiße Substanz,すなわち髄外套Markmantelは灰白質を外から完全に被っているので,灰白質は脊髄の表面のどこにも達していない.白質の前方の部分は前索Fasciculus ventralis, Vorderstrangと呼ばれる.これと側索との境は前根の束の最も外側のものによって示される.

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 側索Fasciculus lateralis, Seitenstrangは灰白質の外側にある.これと前索との境はすぐ上で述べたが,後方の境は辺縁帯Zona terminalisがなしている.前索および側索の内部にはさらにいくつかの低次の索が区別される(319, 320頁参照).

 辺縁帯Zona terminalisは後柱の延長をなして脊髄の辺縁のところにあり,内側は後外側溝から入ってきた後根線維によって境されている.この辺縁帯は縦走する極めて細い有髄神経線維よりなっている.辺縁帯と後柱膠様質とのあいだには灰白質の1層で海綿帯Zona spongiosaとよばれる部分がある.

 後索Fasciculus dorsalis, Hinterstrangは後中間溝により,またこれからつづいて出る中隔によって,内側部Pars medialis(ゴル索Gollscher Strang)と外側部Pars lateralis(ブルダツハ索Burdachscher Strang)とに分かれている.

 前柱からは多数の束をなして前根(運動性根)ventrale(motorische) Wurzelnが出ている.

 後根(知覚性根)dorsale(sensible)Wurzelnは前根よりも太い束をなして,辺縁帯の内側でブルダッハ索の中に入ってくるが,そこでこの束は毛筆状に分散している.その線維の一部は後索の中にとゴまるが,その他の線維は後柱の灰白質の中に,また他のものは辺縁帯の中に達している.

 脊髄の最も外方を占める幅の狭い1層はグリアでできていて,柔膜下層subpiale Schicht(図379)とよばれる.

 これまでにのべた横断面での各部は,脊髄の一定の部分でははっきりとみえるが,他の部分ではそれほど明かでない(図383395).

 白前交連は頚髄・腰髄・仙髄では非常にはっきりしている.辺縁帯・海綿帯・後柱膠様質は,腰髄または仙髄で最もよく発達している.これらの部をまずこの高さでよく見た上では,頚髄や胸髄の中でも容易に見いだすことができるであろう.前根と後根とは,体肢への太い神経がそこから始まる頚膨大および腰膨大の範囲で最もはっきりと見ることができる.側柱および網様体は,頚髄で最も強大である.後索をゴル索とブルダッハ索とに区分することは,中部胸髄から上方で初めてできるのである.灰白質の細胞群はやはり何といっても,頚膨大および腰膨大の範囲で最もはっきりしている.--しかし模型図の中に示されたすべての細胞群が,1つの横断面のなかで同時にそろって見られると考えてはいけない. 背核は第11胸髄分節で最も強大である.背核は下方に向かっては急に,上方に向かっては次第に弱くなって,第7頚髄分節より上方および第3腰髄分節より下方ではほんの痕跡的な存在に過ぎなくなる.

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最終更新日 13/02/03

 

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