Rauber Kopsch Band2. 36

8.脊髄の微細構造

a)支持構造 stützendes Gerüst
A. 概説im Allgemeinen

 脊髄および脳の支持構造はその起源が根本的にたがいに違っている2つの組織よりなる:すなわち

α. 柔膜性結合組織の突起piale Bindegezvebsfortsätzeから起る組織,これは脊髄の中に入りこむ極めて多数の血管に伴っている;

β. 神経膠,すなわちグリアNervenkitt, Neurogtia, (Nomina Anatomica JaponicaによればGlia, Neurogliaは神経膠あるいは[神経]膠, Gliazellenは[神経]膠細胞と定めてあるが,本書では簡単のためグリア,グリア細胞と呼ぶことにする.(小川鼎三))これはグリア細胞Gliazellenとグリア線維Gliafasernからなる.

 グリア細胞は多少の差はあれ豊富な枝分れをもつものであって,それらの突起がたがいにつながっている.灰白質の中ではその極めて細い突起が汎在基礎網(289291頁参照)に移行している.グリア線維は(KühneおよびEwaldによれば)神経角質Neurokeratinからなる.

 上衣細胞Ependymzellenもやはりグリアに属するのではあるが,これをひとまず考えに入れなければ,グリア細胞は次の2つの主な形に分けられる.すなわち大グリア細胞Makrogliazellenと小グリア細胞Mikrogliazellenである.これらの主形にはおのおの2つの亜形がある.すなわち大グリアでは長突起細胞Langstrahlerと短突起細胞Kurzstrahlerと,また小グリアでは稀突起グリア細胞Oligodendrogliazellenとオルテガ細胞Hortegazellenとである.第I巻,7476頁を参照せよ.

 グリア細胞の最も細い突起はいわゆる汎在基礎網“atlgemeines Grundnetz”(289291頁参照)の構成にあずかっている.これらの突起はBauerによるとおそらく汎在基礎網の中に加わって,その抑制装置Hemmungsapparatをなしており,刺激の通路,刺激の集成および刺激抑制の過程に何らかの役割をしているのであろうという.

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B. 詳説im Besonderen

 脊髄の灰白質のグリアは主として短突起細胞よりなり,中心膠様質Substantia gelatinosa centralisは専ら長突起細胞からなる.長突起細胞は灰白質の中にはいたる所に存在しているが,いろいろな場所によってその量がちがう.

[図396]血管周囲境界膜 ヒトの正常な大脳皮質から(Bauer, K., Z. Zellforsch., 30. Bd.,1940の図の一部);

[図397]ヒトの脊髄の表面付近

 グリアは次に述べる3つの場所で比較的大きな集まりをなしている:すなわち

1. 中心膠様質,2. 後柱膠様質,3. 海綿帯である.

 中心膠様質Substantia gelatinosa centralisは中心管のすぐ周りにあって,上衣線維Ependymfasernによって貫かれ,上衣細胞の細胞体とともにR. Virchowの中心上衣糸zentrale Ependymfadenを形成している.ここにはグリア細胞がかなり多数あり,この細胞はずんぐりとした形と豊富な線維をもち,中心管に対して同心性にならんだ線維の密集を示している.

 後柱膠様質Substantia gelatinosa dorsalisは,すでに肉眼で容易にみられる板Platteであって,弓なりに曲がって前方に開いており,後柱の頭を被っている.その突出した面は脊髄に入ってくる後根の方に向いている.腰部では半月形をなし,胸髄および頚髄では尖端を後方に向けて角をなして曲がっている.そして頚,腰の両膨大で最もよく発達しており,胸髄では最も発達が悪い.ここでは後柱の横断面の1/5を占め,頚膨大では1/3,さらに腰膨大では2/5を占めている(図383395).後柱膠様質は多くの場所で神経束によって貫かれ,かつきわめて豊富な線維の叢よりなり,多くの場所でその中にグリア細胞が散在している.ここに分布する血管の数は多くなく,神経細胞は全く無いわけではなく,また他の神経細胞が後柱膠様質の外縁に接して存在する.これが辺縁細胞.Marginalzellenである.

 後柱膠様質の後方に,海綿帯Zona spongiosaという狭い1層が,縁総のように接しているが,ここは大小いろいろの多数の隙間がその中にあることにより,このように名づけられている.その基礎をなすものはグリア細胞とグリア線維とである.

 白質内のグリアは大部分が線維性グリアである(第I巻,図138).上衣線維も白質のグリアの中に進入している(図382).このグリアが髄外套の内面では灰白質と続いており,またその外面ではだんだんとよく発達して,密な薄い1層をなし,この層はもはや神経要素を全く有たず,脊髄の全体を被う一とつづきの被膜を形成している.すなわち,柔膜下層subpiale Schicht, Rindenschicht, Hornspongiosaあるいは浅境界膜Membrana limitans superficialisとよばれるものである(図397).

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この層は場所によって厚さが異なり,外方は柔膜で被われている.その内面から大,小さまざまな多くの突起がでて,白質のなかに入りこんでいる.

b)神経性の要素nervöse Bestandteile
A. 神経細胞Nervenzellen

 脊髄の神経細胞はいろいろな観点から分類することができる.ここで採り上げる1つの重要な区別は,神経突起(軸索突起)Neuritenの関係Verhaltenとその経過Bahnとに基づくのである.すなわちこの観点からは次のように区別される.

1. 根細胞Cellulae radiculares, Wurzelzellen

 その神経突起は前根あるいは後根に入っている.

2. 索細胞Cellulae funiculares, Strangzellen

 その神経突起が脊髄の白質の索に達している.索細胞は一側性unilateralesと両側性bilateralesのものとに区別される.後者のばあいは,その神経突起が2本の線維に分れ,その中の1本は前交連をへて反対側の髄外套に達している.

3. 軸分枝細胞Cellulae axi-ramificatae

 神経突起が,灰白質の中で,その細胞体の近くで多数の趣めて細い枝に分れる.軸分枝細胞の中には次のような細胞もある.すなわち神経突起がまず白前交連を越えてゆき,反対側の灰白柱の中でほぐれて終末分枝の集りterminales Astwerkをなしている.

 その特有な作用spezifische Funktionによって,これらの細胞を運動性motorisch,知覚性sensibel,反射性reflektorisch, 連合性assoziierendなどに分類することができる.いろいろな細胞について,重要な特性がたくさんに且つくわしく知られているが,特に次のことは注意を要するであろう:

1. 根細胞Cellulae radiculares, Wurzelzellen

a)前根細胞Cellulae radiculares ventrales, Vorderwurzelzellen(図381, 398, 399)

 前根細胞は前根の線維をだす運動性の細胞であって,頚と腰の両膨大では前柱の中で前内側,前外側および後外側の細胞群をなし,上部頚髄および胸髄ではそのような細胞群に分れていない.その細胞体の大きさおよび樹状突起の分枝の豊富な点で前根細胞はきわだっているのである.多くの樹状突起の枝分れが白質の中および前交連の中にまで達している.その神経突起は細胞体あるいは樹状突起の幹からはじまり,前索を通りぬけて前根に入り,末梢の運動性神経線維の軸索となる.多くの例では,神経突起がその起始の近くで分れる細い側枝を出している.

 (交感神経性の)側柱Seitensäuleの細胞もまた前根細胞の一部である.その神経突起は交感神経幹の神経節に達している(図399).

b)後根細胞Cellulae radiculares dorsales, Hinterwurzelzellen(図398402)

 後根細胞には,2群があって,そのおのおのに属する細胞の数は非常に異なっている.多い方の1群は脊髄神経節Spinalganglienの細胞でできていて,これに対して少ない方の1群は後柱の中にある細胞で,その神経突起が後根の中にはいっているものである.

α. 脊髄神経節の神経細胞

 この細胞は脊髄の外にある.発生の途中にはすべての脊椎動物で脊髄神経節の細胞は紡錐形で双極である(図398).魚類ではいつまでもその状態にとどまるが,比較的高等な動物になると不平均な発育過程によって偽単極Pseudo-unipolarとなる.もっともラセン神経節Ganglion spirale cochleaeと前庭神経節Ganglion vestibuliのみは高等の動物でもその神経細胞が双極のままである.

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これらの細胞は1本の突起を送りだし,次いで間もなくその突起が分岐する.そのとき分れた2本の枝が分れる前の幹とともにT字形をなしている(図401).中枢がわの枝がいっそう細いことがしばしばで,これが細胞の神経突起(軸索突起)となっており,これに反して末梢がわの枝は1本の長くて分枝のない樹状突起となっている.

 これらの細胞の神経突起はたがいに相集まって,後根を構成する主要な線維群をなし,後根となって脊髄のなかにはいるのである.

 これらの細胞じしんはそれぞれ特別な1つの結合組織の被膜および鞘細胞の密に集まった1層によって包まれている(295頁参照),この被膜は神経線維の鞘に続いている.この神経線維は,その起りをなす細胞の近くで髄鞘Markhülleおよびシュワン鞘(神経鞘)Schwannsche Scheideを有つようになるが,これらの鞘は結合組織性の原線維鞘の内側にあり,またこの2つの鞘は神経線維から枝分れしたものにも移行している.その分枝は必ず常に絞輪Schnürringのところでおこり,分岐するまでにいつも1~2個の絞輪がみられる(第I巻,図120).

β. 後根の後柱細胞(図399)

 後柱に存在する多極細胞であって,その神経突起が脊髄神経節のなかで終らないで,そこを通りぬけている(いわゆる通過線維“durchtretende Faser”), Ken Kuréによれば,これらの細胞は副交感神経系に属するという.

[図398]孵化9日目のニワトリ幼仔の胸髄の前根細胞と後根細胞

A 前根;・B 後根;C 前根細胞(運動性神経細胞);C 前根細胞の神経突起;D 後根の脊髄内にある部分;e 1本の側枝の起始部,この側枝は!に向かって枝分れしている;g 根線維の側枝からつづく最後の小枝;d 分岐部;E 脊髄神経節;h 双趣神経細胞;i もう1つ別の双極神経細胞であって,これは哺乳類形に似ている(Cajalによる).

2. 索細胞Cellulae funiculares, Strangzellen(図400, 402, 403)

 概説.索細胞はその神経突起を同じがわおよび反対側の脊髄索のなかに送っている.反対側にゆくもめは前交連を通っている(図400, 403).これらの細胞は,定まった1群,すなわち交連性索細胞Kommissurenstrangzellen(しばしば短く交連細胞Kommissurenzellenとも呼ぶ)をなして,前柱の内側部にある.別の索細胞の群は前索,側索,後索のそれである.その神経突起は細胞体あるいは1つの樹状突起の小幹から始まって,索線維Strangfaserとして脊髄索の1つに達して,そこを縦走する線維に次に述べるような2様の形で移行している:すなわち単に折れ曲がって多くのばあい中枢の方に向かってすすむか,あるいはT字形に分れるのである.T字形に分れたものの一方が多くはいっそう太い枝であって,これが上方にすすみ,もう1つのものは下方に進む(図402).また長,短いろいろの索線維があって,これらは脊髄の比較的長い部分あるいは短い部分にわたって延びているのである.索線維の最も長いものはおそらくクラーク柱Clarkesche Sduleの細胞から出る神経突起であって,これは小脳にまで達している.索線維は側枝を有っていないことがしばしばである.

 それぞれの細胞の種類を述べると:

α)交連細胞群Kommissurengrappeの細胞の神経突起は,弓なりに曲がって前交連をへて他側の前索に達している(図400).それが前交連に向かってすすむ途中で,ときどきごく細い枝が,まれにはかなり長い枝がこのものから分れて,灰白質の中にもどってゆく.1つの神経突起が普通よりも早く,その分岐をなしていることがある;その1つの枝は反対側の前索に,他の枝は同側の前索に達している.

β)前索側索に線維を送る索細胞は多数あって,その大部分が灰白質の中間部Mittelfeldに集まっている.これらの細胞はクラーク柱Clarkesche Säulenとして,特別な群を作っている.別の1群が側柱の中にあるが,これはあまりはっきりと分かれていない.

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たがいに密接している索細胞が,その神経突起をいろいろと異なる方向に送りだしていることがある.それゆえ多数の神経突起がたがいに交叉していることは,まれではない.多くの場合は神経突起が分岐しないが,しかし小さい側枝を出していることはしばしばであり,また他の例では神経突起がまだ灰白質の中にあるあいだに同じ価値の2本の枝に分れている.この2本の枝は両側の前索に達するか,あるいはその1本が同側の側索に,他の1本が他側の前索に達している.またその一方が同側の後索に,他方が反対側の前索に達し,あるいはその両方の枝が同じがわで白質のたがいにことなる領域に入っている.ここに述べたすべての線維は主として上方に向うのである.神経突起が枝分れしないで単純に角をなして曲がっている場合も,やはり上方に向うことが多い.T字形を呈する最も普通な型の分岐では,その1つの枝で多くは長い方のものが,上方に走り,他の1枝が短い方であって,下方に走っている.

 これらの索細胞のまわりには知覚性側枝の終末分枝が多量にきて広がっているが,なお他の伝導路の終末分枝もたくさんにきている(図400, 402).

[図399]脊髄神経節の構成およびその細胞の模型図:脊髄および交感神経幹との結合関係を示す(Hirt, Z. Anat. Entw.,87. Bd.,1928より)

1 体知覚細胞;2 内臓知覚細胞;3 その両突起細胞求心性(cellulipetal)に伝導する細胞;4 その両突起細胞遠心性(cellulifugal)に伝導する細胞;5 単極細胞;6 介在細胞.

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 背核(クラーク柱)の細胞は,やはり多極であって,樹状突起をはなはだ豊富にもつことが著しい.その神経突起は細胞の前方または外側から出て,次いで側枝を出すことなく弓なりに外側に向い,側索の周辺の部分に達し,そこで上方に向きを変えて後脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris dorsalis, dorsale Seitenstrang-Kleinhirnbahnとなる.

 前脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris ventralis, ventrale Seitenstrang-Kleinhirnbahnの線維および脊髄視床路Tractus spinothalamicusの線維は,同側および反対側め後柱の核から出ている(図405).別の意見によれば,これらの線維は同側および反対側の中央細胞Mittelzellenから起こっている.

γ)後索に線維を出す索細胞は後柱の後索に接する領域に散在している(図405).その神経突起は密にならんで後交連のうしろで両側の後柱のあいだの角を満たし,後索の腹側部,すなわち後索基礎束Hinterstranggrundbtindelを作っている.

 後ローランド帯Zona postrolandicaの中にある神経細胞を辺緑細胞Cellulae limitantes, Cellulae postrolandicae, Marginalzellenといい,その神経突起は後柱膠様質を前方に向かって貫き,弓なりに曲がって側索の中に達するか,あるいはこの神経突起が2本に分れて,その1本は側索に,他の1本は後索に達して,縦の方向に移行している.

 後柱膠様質ししんの中にある細胞,すなわちローランド細胞Cellulae rolandicaeは,その神経突起が辺緑帯Zona terminalisの部分に達しており,この神経突起は小さい側枝をもつことがある.その他のローランド細胞は1本より多くの神経突起をもち,そのばあいはこれらの神経突起がブルダッハ索に,あるいは上に述べた縁辺帯に,あるいは側索に入っている.後柱の細胞で,その神経突起をゴル索に送っているものは最もまれである.

[図400]脊髄の構造を模型的に表わした図 左側は側枝,右ボわは神経細胞を示す.(v. Lenhhossék)

右側は運動性細胞で,その神経突起に側枝がある;赤は前側索に線維を出す索細胞,その中にはまたクラーク柱の細胞およびローランド膠様質の辺縁帯の細胞もそれぞれ1つずつ含まれている;前索細胞の側枝がよく発達していることに注意せより紫は交連細胞,この種に属する「短い」突起をもつ細胞の1つを斜線で示してある; 緑は後索細胞,小さい細胞はローランド膠様質の細胞である;は短い神経突起を有つ細胞;9 側索基礎束.左側は脊髄神経節の細胞,後根,その分岐部および灰白質のいろいろな領域に終る側枝,しかも左から右へ次の順序になっている:後柱における終末,灰白質の中間部における終末,前柱における終末(反射側枝Reflexkollateralen), クラーク柱および他側の後柱における終末;赤は前側索の側枝として総括されうるもの;は交連細胞の神経突起の側枝;は錐体路の側枝の終る様子.

 総括:つまり索細胞の神経突起は,同側性および交叉性に前索の基礎束および側索の基礎束のなかに達している.

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背核の細胞の神経突起は側索の周辺部に達して,そこでひとまとまりの伝導路を作っている.これが後脊髄小路脳Tractus spinocerebellaris dorsalis(フレヒシッヒ束Flechsigsches Bündel)である.後柱の核の細胞および中間部の細胞の神経突起は側索のなかで前脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris ventralis(ガワース路Gowerssches Bandel),脊髄視床路および脊髄視蓋路を作る.後柱膠様質の細胞は,その神経突起を辺縁帯,側索の基礎束,後索の基礎束のなかにあたえている.

3. 軸分枝細胞Cellulae axi-ramificatae

 この細胞の神経突起はその起始の近くで,極めてこまかく枝分れしている.第I巻,図119

 軸分枝細胞の多くのものは後柱の内側部にあり,他のものは中心管の外側にある.後者はその神経突起を前交連を通って,他側の灰白質のなかに送り,ここで枝分れしている.それらの突起は灰白質の領域を越えてその外に出ない.

B. 前根および後根

1. 前根Radices ventrales, ventrale Wurzeln(図381, 398, 400, 402)

 (運動性の)前根線維Fila radicularia ventraliaは同側の前柱の大きな運動性の細胞および同側の側柱細胞の神経突起である.それゆえ運動性根の起始核は同側の前柱細胞および側柱細胞である.

2. 後根Radices dorsales, dorsale Wurzetn(図381, 398402)

 (知覚性の)後根線維Fila radicularia dorsaliaは脊髄神経節の細胞の中枢がわの突起(求心性afferent, 体知覚性somatosensibelの線維)および若干の後柱細胞のだす遠心性突起よりなっている(図399)が,後者は脊髄副交感神経系に属している.後根の走行は前根のそれよりもはるかに複雑である.その線維の集りはたがいに横の方向に散らばる形をなしてブルダッハ索に入り,全体として比較的小さい外側部といっそう大きい内側部とに分れる(図381).その外側の線維群は後柱膠様質のすぐうしろにならんで縦走するようになる.また最も外側にある線維群は辺縁帯をなしている.強い内側の線維群は軽く弓なりに曲がって内側にすすみ,その一部はブルダッハ索のいろいろな部分に入り,また一部は同側の後柱の灰白質に達し,あるいは(後交連を通って)他側に達している(図400, 405).

 脊髄のなかに入ってきた線維はそれぞれ2本の枝に分れ,その太い方の枝は上方に向かって走り,細い方の枝は下方に向かって走る.上方に走る枝のうち,一部のものだけが延髄に達し,他のものはそれより段々と短い距離で終わっている.それに従って長い線維lange Fasern oder Bahnenと短い線維kurze Fasern oder Bahnenを区別する.下方に向かって走る枝はみな短いのである.1つの根に属する線維はたがいに密接して並んでいるので,変性の時にははっきりと境された部分で見えるのである.それは横断面ではコンマの形をしていて,シユルツェのコンマSchultzesches Komma(コンマ束Kommabündel)と呼ばれる.これらの枝からは,数多くの細い側枝Kollateralenがでて直角に灰白質の中に入る.上行および下行する両枝の末端は終末側枝terminale Kollateraleとなって灰白質の中に入っている.そのうえにまだ分岐していない線維からも少数の側枝が出ることがあって,この側枝は灰白質の内部で終末分枝Telodendron, Endbdumchenとなって終わっている.

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 終末分枝の末端はこの章の初めに(291, 292頁)記したぐあいに,その興奮をいろいろな2次ニューロンに伝える.それゆえ知覚性の1次ニューロンが達する領域は,その長さからいうとはなはだ広い範囲にわたるのである.

 さらに判ることは,後索の全域はその大部分が後根線維の上行および下行する縦走の枝よりなっているということである.これに後索細胞からの線維がわずかに混入しているにすぎない.(C. II~Th. Vの高さの)ゴル索は延髄にまで達する長い線維だけをもち,(Th. IV~C.1の高さの)ブルダッハ索は短い線維と長い線維とをもっている.

 後根線維の終末分枝は脊髄の同側半の灰白質のほとんどあらゆる点に散在している,知覚性側枝の小部分は後交連をへて反対側に行き,その後柱のなかで同側に塾けると同じように終わっている.灰白柱の中央部では終末分枝が最も多く見られる.後柱がもっている数多くの神経細胞ははなはだ細かい分枝系Astsystemによって密に包まれており,特にクラーク柱の細胞のまわりに終末分枝がよく発達している.

 知覚性の側枝のうちで,特に運動性の前柱細胞にまで達して,これに接して終末分枝をなすものは特別な注意を要するのである.これはいわゆる反射側枝Reflexkollateralenである.知覚性の神経線維の興奮がこの側枝を通って直接に運動性の細胞にゆき,脳にまで達することなく,この運動細胞から筋に伝えられる(図405).

 生理学的にみると,前根は主として骨格筋の運動を支配する線維を含み,そのほかに血管運動線維および汗の分泌をつかさどる線維をもっている.後根は主として知覚性(圧覚,痛覚,冷覚,温覚,筋感覚)の線維を含み,そのうえに体肢にゆく血管拡張線維をもっている.

 (Th. IIでしらべた結果)後根および前根において細い神経線維と太いそれとの数が「ほとんど完全に」一致している(Schi-Hjau Hjlang, Acta anat.,11. Bd.,1950).

[図401]1個の知覚性ニューロンの構造

[図402]脊髄の一部を切りだして,そこで多数の運動性ノイロシと1個の知覚性ニューロンと1個の索細胞とが連絡する関係

矢印は興奮の伝わる方向を示す.(Köllikerによる).

C. 前索および側索(図405)

 前索と側索のなかには数多くの線維が集まっており,その一部は下行し,一部は上行している.灰白質に接している狭い部分には,主として索細胞の神経突起がある.この部分は前索基礎束Vorderstrangyrundbündelおよび側索基礎束Seitenstranggrundbündelと呼ばれる.

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 前索および側索からも多数の側枝がでて灰白質のなかに達している(図405).

 前索はその前皮質脊髄路(錐体前索路)から多数の側枝を同側の前柱に送り,これらの側枝は前柱の運動性細胞に終わっている.その錐体前索路の側枝が反対側の前柱の細胞に達することは一部の学者によるとその存在が唱えられているが,v. Lenhossék(1895)はこれが存在しないという.前索からの数多くの側枝は前皮質脊髄路の外側にある前索の部分からも来ている.この側枝は交連細胞群や,深いところにある中心部の細胞群に達し,前柱の内側部にある運動性の細胞群にも達している.さらにガワース路も前柱の運動性の細胞群の領域,および側柱の細胞に数多くの側枝を送っている.前側索のあらゆる部分のうちで最も豊富に側枝を灰白質の中に送るものは側索基礎束,さらに外側皮質脊髄路と脊髄小脳路である.外側皮質脊髄路からの側枝は運動性の細胞群に達しており,基礎束からの側枝は前柱あるいは後柱の細胞および中間部の細胞に達する.また脊髄小脳路からの側枝は中間部の外側部の細胞に達している(図400, 402).

D. 脊髄の全体的構造の概観

 中心管はおよそ脊髄の縦の軸のところを走っている.これは脊髄の横断面のだいたい中央にある.この管を被っている円柱状の上衣細胞はその線毛を中心管内に向けており,この細胞の外方に向かった大きな突起はおそらく脊髄の周辺にまで達しているのであろう.中心管および上衣細胞の細胞体を囲んでいる灰白質の部分,すなわち中心膠様質Substantia gelatinosa centralisは中心管とともに脊髄の中心性上衣糸zentraler Ependymfadenを作っている.その範囲にはわずかの交連細胞と索細抱が見られるだけである.中心管と前正中裂との間に腹側上衣懊ventraler Ependymkeilが伸びている.これは中心管の前壁の上衣細胞が作るものである.

 白前交連Commissura ventralis albaは多数の交叉する有髄神経突起よりなっている.これらの神経突起は次のものから出るのである.1. 前柱細胞の後内側群である交連細胞群からおこる(図400, 403, 405).その細胞の神経突起は反対側に移って,一部は灰白質に,一部は白質に達し,それも前索と側索に達するのである.2. 白前交連をとおるその他の神経突起は後柱の根部および頭部にある細胞から出ており,これらは他側のガワース路およびその他の側索の伝導路に達している(図405).3. この交連の中には錐体前索路の線維があり,これは他側の前柱の運動性の細胞に達している.

 灰白交連Commissura griseaのふくむ有髄線維はブルダッハ索の腹方部から出る知覚性の側枝であって,これはクラーク柱のすぐ内側を通りすぎ,正中線を越えて他側の後柱に入り,その終末分枝をつくる(図400, 405).

 前柱の細胞群のうちで,前内側,前外側および後外側の3群は運動性の細胞よりなるので,前根の起始核Ursprungskerne der ventralen Nervenwurzelnと呼ばれる.後内側群は主として交連細胞をもっている.また中心群には索細胞があり,その神経突起は前索および側索に達する.さらに前柱は運動性の根線維の初部や,前柱にある索細胞の神経突起や,上衣細胞の末梢がわの突起によって貫かれている.

 前柱と後柱との間には,灰白柱の中間部Mittelfeldがある.これには先ず第1に数多くの索細胞と,少数の交連細胞があり,さらに側索および後索からの側枝のかなり大きい束があり,また胸腰部ではクラーク柱からの神経突起の束がある.

 側柱には,その主要な成分として交感神経細胞および索細胞があり,前者の神経突起は前根線維の一部をなしてでている(図399, 405).

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 網様体Formatio reticularisのなかにも少数の索細胞が散在している.

 背核Nucleus dorsalis(クラーク柱Clarkesche Säule)は多数の神経細胞とブルダッハ索からの多量の知覚性の側枝を含んでいる(図400).その神経細胞からでる神経突起は灰白質および側索を横の方向に貫いて進み,上行性の脊髄小脳路を作る(図405).

 後柱の細胞の多くは群をせず,まばらに存在する.後柱の頭部にある中心細胞(図381)は,後柱の核Kernder Hintersäuleとも呼ばれる,その神経突起は弓状線維Bogenfasernをなして灰白質を通り,白前交連のなかで交叉し,前索内を外側に走って側索の前方部を前脊髄小脳路Tractus spinocerebeUaris ventralisおよび脊髄視床路Tractus spinothalamicusとして上行している.その細胞の中のいくつかは後根の起始細胞である.その他の細胞は側索に突起を出す索細胞,また少部分は後索に突起を出している.そのうえ後柱の基部の内側部には多数の軸分枝細胞がある.大量の側枝が後柱の中に入っている.それは特に後索から出るものが多いが,側索から出て後柱に入るものも多い.

[図403]白前交連の線維の起始と走行 2,3本の知覚性側枝の走行(Köllikerによる).

 脊髄の白質の中の線維群である脊髄の伝導路Tractus medullae spinalisには,長いの短いのとがある.

 長い伝導路lange Bahnenは脊髄の全長を通って脳にまで達している.短い伝導路leurze Bahnenは脊髄のなかを長,短いろいろな距離にわたって走るが,脊髄の全長あるいはその大部分にわたることはない.頚髄では短い伝導路でも延髄に達し,また逆に脳から出る短い伝導路も頚髄には達するのである.

 線維の種類の分け方にいま1つ別のものがある.これは初めに述べたのと全く一致するものではない.その分け方というのは:

a)下行性の線維absteigende Fasern,その起始細胞は脳のなかにある:1. 前皮質脊髄路Tractus corticospinalis ventralis,あるいは錐体前索路Pyramiden-Vorderstrang-Bahn;2. 外側皮質脊髄路Tractus cortico-spinalis lateralis,あるいは錐体側索路Pyramiden-Seitenstrang-Bahn;3. 赤核脊髄路Tractus rubrospinalis,すなわちモナコフ束Monakows Bündel;4. 前庭脊髄路Tractus vestibulospinalis;5. 網様体脊髄路Tractus reticulospinalis;6. 内側縦束(後縦束)Tractus longitudinalis medialis, mediales Längsbündel;7. 視蓋脊髄路Tractus tectospinalis;8. 室頂[]脊髄路Tractus fastigiospinalis;9. オリーブ脊髄路Tractus olivospinalis;10視床脊髄路Tractus thalamospinalis.

b)上行と下行両性の線維auf-und absteigende Fasern,これは脊髄神経節のなかにその起始細胞をもち,一部が脳にまで達する:1. 後索Fasciculus dorsalis, Hinterstrangは内側部と外側部(ゴル索とブルダッハ索)とよりなる.

c)索細胞から出る上行と下行両性の伝導路auf-und absteigende Strangzellenbahnen;これらは一部はすでに脊髄のなかで終り,一部は脳に達して終る.その神経突起からなる長い伝導路は次のものがある:1. 後脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris dorsalis, dorsale Seitenstrang-Kleinhirn-Bahn(Flechsig);2. 前脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris ventralis,ガワース路Gowerssches Bündel;3. 脊髄視床路Tractus spinothalamicus(Edinger)と脊髄視蓋路Tractus spinotectalis;4. 脊髄オリーブ路Tractus spinoolivarisとオリーブ脊髄路Tractus olivospinalis(ヘルウェク三稜路Helwegs Dreikantenbahn);5. 後索下行路Tractus descendens dorsalis.索細胞から発する短い線維は前索の基礎束,側索の基礎束および後索の腹方部をなしている.

 これらすべての伝導路の起始, 走行および終止について以下に述べることにする.これらの伝導路のうちで脊髄に属さない部分のことは,ここでは当然ごく簡単に触れるだけにとどめる.その部分については後にそれぞれ相当した個所でさらに詳しく述べる.

a)下行性の伝導路absteigende Bahnen;

1. 前皮質脊髄路Tractus corticospinalis ventralis(錐体前索路Pyramiden-Vorderstrang-Bahn).これは大脳皮質の運動領にある大きな錐体細胞の神経突起よりなる(図404).延髄においてはこれらの神経突起がいわゆる錐体を作っている.

S. 320

その線維の一部は錐体交叉をなして,錐体側索路となって他側の側索に達し,他の一部は交叉することなく錐体前索路となって下方に走る.

 錐体前索路は,人では前正中裂に接する前索の一部をなして,外側は前中間溝によって境されている.この線維の側枝および終枝は,前交連を通って他側の前柱の運動性の細胞に達するが,別の説によれば同側のこれに相当する細胞に達しているという.

 錐体前索路はC. Vまでしか見られないことが多く,時にはTh. VIまで,極めてまれに上部腰髄にまで達している.

2. 外側皮質脊髄路Tractus corticospinalis lateralis(錐体側索路Pyramiden-Seitenstrang-Bahn).これは錐体交叉から腰膨大の下端(第3~第4仙骨神経の高さ)にまで達しているが,その途中で次第に弱くなるのである.これは個々の線維が脊髄のいろいろの高さで終ることによる.側枝と終枝とはそのがわの前柱の運動性の細胞にいたる(図400, 404, 405).

 錐体側索路は上部胸髄の横断面では,側索の後方1/3の範囲内で卵円形あるいは軽く角ばつた領域を占め,この領域の後端は衡柱膠様質および後柱稜に達しているが,後柱の基部,ならびに脊髄の表面とは他の線維団によって隔てられている.胸髄の中央部より下方では,その領域は脊髄の表面に達している.第1頚神経の高さでは灰白質の外側面に達しているので網様体の中にある(図400, 405).そのさい上肢に対する線維が前外側に,下肢に対する線維が後内側にある.

 錐体路は動物によっては別の場所にある.ラット・マウス・リス・モルモツトでは後索の前端部にあり,フクロリスの類Pseudochirus,コモリグマ(コアラ)Phascolarctus (Pseudochirus, Phascolarctusはともに樹上に棲み,おもに果実を食べる有袋類であって,前肢の母指と示指が他の3本の指と対立して物をつかむに適している.(小川鼎三))では後索のもっているへこみにあり,ヒツジではブルダッハ索の中に遊離している.

3. 赤核脊髄路Tractus rubrospinalis(モナコフ束Monakows Bündel).(図405)

 これは錐体側索路の前方にあり,またその内部にもある.この線維群は反対側の赤核に始まり,腰髄にまで続いている.これは下方に向かって次第に弱くなり,その線維は前柱の運動性の細胞に終る.

4. 前庭脊髄路Tractus vestibulospinalis(ヘルドHeldsches Bündel).(図405)

 これは前庭神経外側核から起り,同側性に下りてきて脊髄の側索のなかを走っている.その線維は前柱の運動性の細胞に終る.

5. 網様体脊髄路Tractus reticulospinalis.(図405)

 その線維は被蓋網様核から来て,前索基礎束のなかにあり,やはり前柱の運動性の細胞に終る.

6. 内側縦束(後縦束) Tractus longitudinalis medialis, mediales(hinteres)Längsbündel.(図405) (J. N. A. では内側縦束(後縦束)はFasciculus longitudinalis medialisであるが,この本では原著に従いTractus longitudinalis medialisとする.(小川鼎三))

 これは上行性の線維と下行性の線維とを含み,同側 および反対側の後交連核Nucleus commissurae posteriorisと内側縦束核Nucleus tractus longitudinalis medialisにおこり,四丘体からの線維および前庭神経外側核からの多数の線維を受けとる.そして脊髄の範囲では前索のなかにあり,その線維は前柱の運動性の細胞に終る.

7. 視蓋脊髄路Tractus tectospinalis(Fasciculus sulcomarginalis[Held],レーヴェンタール束Löwenthalsches Bündel).

 この線維は四丘体(これは以前に視蓋Tectum opticum.と呼ばれた)から出て交叉し,また一部は交叉せずに脊髄に達し,ここでは前索のなかにあり,前柱の運動性の細胞に終る.これは視覚聴覚反射路optisch-akustische Reflexbahnである.

8. 室頂[]脊髄路Tractus fastigiospinalis, ventrales Randbtindel.(図405)

 これは他側の室頂核からおこり,脊髄のなかでは前索の表面のところにある.その線維は前柱の運動性の細胞に終る.

9. オリーブ脊髄路Tractus olivospinalis.(図405)

 オリーブ核から出るその線維は頚髄にまで達しているだけで,ここではヘルウェクの三稜路Helwegsche Dreikantenbahnの領域にある.

10. 視床脊髄路Tractus thalamospinalis.(図405)

 その線維は他側の視床から出る.脊髄のなかでは脊髄視床路の腹方部に含まれている.

b)上行と下行両性の伝導路で,脊髄神経節の細胞に始まるもの.

1. 後索Fasciculus dorsalis, Hinterstrang.

 これはその大部分が(知覚性の〉脊髄神経節の細胞の神経突起よりなり,その突起は(知覚性)の後根として脊髄に入る.

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[図404](遅動性の)錐体側索路および(知覚性の)後索伝導路の経過(Cajalによる).

[図405]脊髄における種々の伝導路の領峨を示す(模型図).1つの断面にまとめて書きこんである.赤は下行性の伝導路,黒はその他のもの全部.

ca前柱の運動性の細胞;MZ中央細胞;Nd背核;R反射側核;S側柱の核.--後柱の核から出る線維の中で破線の部分は,線維のこの部分がこの横断面上になくて,外側上方に走っていることを意味する.

S. 322

 脊髄に入つた線維の半分より多い部分が内側にすすみ,中間の部分は直接に後柱の灰白質に達し,外側の部分は辺縁帯に移行している(図400, 405).

 ブルダッハ索の外側部では根線維が入ってくるのでここを後根進入帯Wurzeleintrittszoneという.

 脊髄に入つた根線維は白質の内部でそれぞれ1本の(短い方の)下行枝と1本の(長い方の)上行枝とに分れる.

 一つの根に属する数多くの線維の下行枝(図400402)はたがいに密接してならび,ひとまとまりの束をなし,これが横断面ではコンマ状に見えるので,シュルツェのコンマSchultzesches Kommaと呼ばれている(図405).その上行枝はいろいろな距離にわたって上方に走り,長短いろいろの経過の後に終わっている.それらの中で最も長いものは延髄にまで達して,そこで後索内側部核および後索外側部核で終るのである.その他の下行枝は後索下行束Fasciculus descendens dorsalis(後索の卵円部ovales Hinterstranyfeld)をなす.

 上方に向かって走るあいだに上行枝の中の長いものはいっそう上方の高さにおいて入ってくる後根の線維によって次第に内側に後正中中隔に向かって押しやられる.かくしてゴル索Gollscher Strangが生ずるのである.

 ゴル索は脊髄の下部(およそ第4胸髄まで),すなわち体幹の下半からの(知覚性の)長い線維からなり,これを延髄の後索内側部核にみちびいている.

 ブルダッハ索は,その全経過にわたって(知覚性の)長短両方の線維をまじってもっている.その頚髄にある部分は体幹の上半からの長短両方の線維を延髄の後索外側部核に導いている.

 上行枝と下行枝から側枝と終枝が脊髄の灰白質の中に入り,そこで同側および他側性にいろいろな場所に終わっている.これらは前柱の運動性の細胞,後柱核およびクラーク柱の細胞およびその他の索細胞に達する(図400, 402, 405).

c)索細胞より出る上行性および下行性の伝導路.

1. 後脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris dorsalis(Flechsig), dorsale Seitenstrang-Kleinhirn-Bahn(図400, 405).これは背核(クラ一ク柱)の細胞の神経突起よりなり,横の方向にすすんで側索の周辺部に達し,そこで上方に曲がって1つの束をなし,まず延髄にいたり,さらに(索状体を介して)小脳の虫部に達する.その線維は走行の途中に側枝を灰白質に送っている(図400).

 脊髄小脳路は第2あるいは第3腰髄の高さで生ずる.前に述べたようにクラーク柱はそれより下方には達していないのだから,それは当然なことである.この高さから上方にすすむにつれて後脊髄小脳路は新たに線維が加わることによって絶えずその強さを増す.そして錐体側索路の外側で側索の周辺部に狭い帯をなし,辺縁帯からおよそ歯状靱帯の起るところまでの範囲にある.腰髄ではじまる線維は辺縁帯に接しており背核の上部からおこる線維はこの伝導路の腹方部をなしている.

2. 前脊髄小脳路Tractus spinocerebellaris ventralis, ガワース路Gowerssches Bündel.これは横断面では半月形あるいはコンマ状の幅の狭い束として側索の周辺の一部をなし,後脊髄小脳路の前方にある(図381, 400, 405).その線維は前柱や灰白質の中間部の索細胞および後柱の核から出る神経突起である(図400, 403, 405).これらは同側性に,あるいは白前交連のなかで交果して反対側の側索の上述の場所に達する.そこで上方に曲り,新たに線維が加わって絶えず増大しつつ延髄,橋および結合腕を通って小脳の虫部に達する.

3a. 脊髄視床路Tractus spinothalamicus(Edinger)は後柱の細胞からおこ線維の束で,この線維群は前交連を通って反対側の側索でガワース路の内側に達している.そこで上方に曲がって延髄および橋を通り視床まで進む.これは痛覚および温度覚を伝える.

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3b. 脊髄視蓋路Tractus spinotectalisは脊髄視床路とともに走る線維群であって,四丘体の領域で終わっている.

4. 三稜路Dreikantenbahn(Helweg)は前索の周辺にある線維束で,第3頚髄から上方で認められ,オリーブ核の側方の境のところに達している(図405).これはおそらく上下の両方向にみちびく線維,すなわち脊髄オリーブ路Tractus spinoolivaris(Bechterew)とオリーブ脊髄路Tractus olivospinalisをもっているのであろう.

5. 後索下行路Tractus descendens dorsalis=後索の卵円部ovales Hinterstrangfeld(Flechsig).

 これは頚髄の上部では散在性の線維であり,それより下方では後索の周辺部に狭い1つの縁をなしていて,仙髄では後正中中隔のそばで各側に半卵円形の部分を占める.これは脊髄円錐の灰白質の中で終り,その起始はまだ正確には知られていないが,おそらく上肢からの知覚性線維の下行枝で下肢への線維をだす根細胞および索細胞に終るのであろう.

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最終更新日 13/02/03

 

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