Rauber Kopsch Band2. 38

4.脳の各部

A.延髄Medulla oblongata[(脊髄球)Bulbus rachidicus], verläingertes Mark

 延髄は尖端を切りとった円錐の形をしていて,その底が橋に向い,他方その下端が脊髄に移行している.

 その下方の境界は第1頚神経の上方の根線維が出るところにより,あるいは錐体交叉の下端によって定められる.背面での延髄の上方の境は菱形窩の髄条がそれとみなされる.延髄の長さは25mm,その下端での幅は10~11mm,その上端での幅は17~18 mmであり,また厚さは上方に向かって9mmから15mmに増す.

 骨格との局所関係では,延髄は環椎の上縁から斜台の中央にまで延びており,ここでは両側の頚静脈結節のあいだにある.それゆえ延髄の軸は斜め上方に向かっている.脊髄へはゆるやかに移行するが,しかしときにはその移行部が急に角をなして曲がっていることがある.

S. 325

[図406]左の大脳半球の溝と回転,側方からみる.

S. 326

[図407]大脳半球の溝と回転,上からみる.

a)溝Furchen

 脊髄の前正中裂Fissura mediana ventralisは,これが延髄に移行するところは錐体交叉によって大きい影響を受ける(図409).錐体交叉Decussatio pyramidum, Pyramidenkreuzungは長さ6~7mmあり,延髄の表面にみえていることもあり,あるいはかなり深くかくれていることもある.そしてこれは各側3~5本の束よりなっていて,これらの束が正中線でたがいに交叉し,脊髄の灰白柱の一部を貫いて脊髄の側索に達して,そこで脊髄の外側皮質脊髄路となる(図405).ふつうは延髄の錐体路の線維の少部分,特にその外側のものが交叉をしないで脊髄の前皮質脊髄路に続いている.橋にすぐ接するところで前正中裂は広がって,盲孔Foramen caecumという1つの小さいくぼみとなっている(図408).

 延髄の後正中溝Sulcus medianus dorsalisは間もなく横に走る髄質の小片,すなわち(カンヌキ)Obex, Riegelによって閉じられて終る(図421).

S. 327

 延髄の後中間溝Sulcus intermedius dorsalisは脊髄の同名溝の続きで,オリーブのおよそ中央の高さで見えなくなる.

 後外側溝Sulcus dorsolateralisは脊髄から延髄につづいてきて,その上部の高さになると側方にそれて行き,オリーブよりいくらか後方を進んで第四脳室外側陥凹Recessus lateralis ventriculi quartiの下方の境界にまで達している.この溝をへて舌咽神経,迷走神経,副神経が出ている.

 延髄の前外側溝Sulcus ventrolateralisにおいて,第12脳神経(舌筋の運動を支配する舌下神経)の根線維束が表面に現われる.この溝と脊髄の同名溝とのつながりが強い帯状の線維群,すなわち前外弓状線維Fibrae arcuatae externae ventralesによって中断されていることがある.

b)延髄の諸索Strängeおよび横走線維束Querfaserzüge

 延髄の錐体 Pyramis medullae oblongataeは前正中裂と前外側溝とのあいだにあって,その幅は5~6 mmあり,これは脊髄の前索の続きをなしていない.

 延髄の側索Fasciculus lateralis, Seitenstrangは前外側溝と後外側溝とのあいだにある部分で,ここでは1つの長い楕円形の隆起を示すことが特色である.この高まりがオリーブOliva, Oliveと呼ばれるもので,縦走するその内側縁が前外側溝と1つになっている.オリーブは長さ14mm,幅7mmあり,きれいなひだをなす灰白質の1枚の板,すなわちオリーブ核Nucleus olivae, Olivenkernをその内部に蔵している.

 オリーブの下端は,やや尖つていて錐体交叉の初まりより少しく上方で,菱形窩の尖った下端と同じ高さにあり,しばしばよく発達した前外弓状線維Fibrae arcuatae externae ventralesに被われている.またオリーブの上端は深い溝によって橋の下縁から隔てられており,オリーブの後縁は後外側溝から2~3mm離れている.

 延髄の後索Hinterstrangといえる索状体Corpus restiforme, Strickkörperは最初は後外側溝と後正中溝とのあいだにあるが,後には後正中溝のかわりに第四脳室の外側縁が現われる.延髄の後索は上方にすすむと灰白質の塊りがその内部に含まれることによっていっそう強大になり,また後中間溝によって次の2部に分けられている(図421).

a. 脊髄の後索の内側部Pars medialis fasciculi dorsalisの続きである内側の部分は上方に向かって幅を増し,菱形窩の下部の側方でふくれて槌子Clava, Keuleとなるが,槌子はその内部には灰白質の核,すなわち後索内側部核Nucleus parüs medialis fasciculi dorsalis(短く槌子核Nucleus clavaeと呼んでもよかろう)がある.槌子の上方では内側部がふた.びとがって索状体の内側部の中で見えなくなる(図421, 422).

β. 脊髄の後索外側部 Pars lateralis fasciculi dorsalisのつづきである外側の部分は,上行するあいだに著しく幅が広くなり,しばしば槌子の高さでいくらか外方に突出して(後索の)外側部結節Tuberculum partis lateralis(fasciculi dorsalis)となる(図421).その内部には後索外側部核Nucleus partis lateralis fasciculi dorsalisがある.

γ. 側索では脊髄灰白質の後柱の頭が太くなって続いている.この頭が表面の近くにあるときには,その場所が暗い色調で見える.そのうえここが1つの突出部をなしていることがあって,これを灰白結節Tuberculum cinereumという.

 索状体Corpus restiformeはまた髄小脳脚Crus medullocerebellareとも呼ばれ,この線維団の一部(今はくわしくは述べない)が急に曲がって小脳に達するのである(図415).

 上に述べた縦走線維束Längsfaserzügenのほかに延髄にはまた横走線維束Querfasernügeもあって,これは全体として外弓状線維Fibrae arcuatae externae, Gürtelfasernと呼ばれ,よく発達していることもあり,発達のあまりよくないこともある.

 前外弓状線維Fibrae arcuatae externae ventralesは前正中裂から出て,オリーブを被ってすすみ,索状体に達している.

S. 328

[図408]脳の正中断面 (細部についてはなお図410を参照のこと)

S. 329

[図409]脳底

 多くの例では特別な横走線維群が,錐体が橋に入るすぐ前のところで錐体の上端をとりまいている.この線維群は前小橋Propons, Vorbrilckchenという名で知られ,各側とも錐体のそばで,また一方は前正中裂の深いところで見えなくなる.

c)第四脳室Ventriculus quartus, IV. Ventrikel(図408, 410, 421, 422, 438)

 第四脳室は中心管が広がった部分であって,脳脊髄液で満たされている.これに次のものを区別する:すなわち底と蓋,側方から境する2つの縁,かなり遠くまで外側へ延びた2膨出部,中脳水道につながる上方rostralおよび延髄の中心管につながる下方kaudalのそれぞれ1つの孔,ならびに軟膜腔に通ずる1つの正中部の孔と2つの側方の孔とである.第四脳室の長さは約25mmである.

 第四脳室蓋Tegmen ventriculi quartiは上方は前髄帆Velum medullare anteriusと側方からこれを境している両側の結合腕Brachia conjunctivaよりなり,下方は小脳の虫部小節Nodulus,左と右の後髄帆Velum medullare posteriusおよび第四脳室脈絡組織Tela chorioidea ventriculi quartiよりなっている.小脳に向かって尖つている第四脳室蓋の突出部は天幕Zelt,その稜線を室頂Fastigium, Giebelkanteという(図410)

 第四脳室蓋の下部にはわずかに厚くなった側縁があり,これは閂(かんぬき)から第四脳室外側陥凹の腹方端まで延び,第四脳室の蓋板をとり除いたさい,多くは延髄に付着して残っている.

S. 330

これは菱脳ヒモTaenia rhombehcephaliと名づけられている(図421, 422).菱脳ヒモの上部は小脳の片葉Flocculusからその虫部小節まで延びている(図427),後述の小脳の項,333頁のおよび髄帆338頁を参照されたい.

 第四脳室底は,わずかにへこんでおり,且つその形から菱形窩Fossa rhomboides, Rautengrubeと呼ばれ,その表面は灰白色をおび,また多くの特徴を示している.その下方に向かって尖った端はペン先に似ているところから筆尖Calamus scriptoriusと呼ばれる(図422).

 正中にある縦の溝(菱形窩の正中溝Sulcus medianus fossae rhomboidis)は菱形窩を左右同形の両半に分けている.髄条Striae medullares(図421)は1本のかなり太いものか,またはいく本かの細いものに分れている白い髄質の横走する細いすじで,これは第四脳室外側陥凹のあたりから横に走って正中線に達している.この髄条によって菱形窩は上部,中部および下部の3領域に区切られる.

 菱形窩の下部は延髄に属している.ちょうど髄条が通っている中部は後脳に属し,ここは側方へは第四脳室外側陥凹Recessus lateralis ventriculi quarti(図422)に続いており,この陥凹は索状体にそって側方に回り小脳の片葉柄Pedunculus flocculiにおいて終る(図427).菱形窩の上部は側方が結合腕によって境される.

 正中溝のそばで各側に低くて縦に長い高まりがあり,これを内側隆起Eminentia medialisといって(図421, 422),菱形窩の全長にわたるものである.これは上方の領域では幅がいっそう広くなり且つはっきりしてくる.その側方の境をなすのは浅い溝で,この溝を菱形窩分界溝Sulcus limitans fossae rhomboidisという.さらに菱形窩の下部には,濃い灰白色と軽いへこみを呈することで目につくところの灰白翼Ala cinereaという三角形の部分があって,その下には灰白翼核Nucleus termimalis alae cinereae(=舌咽,迷走両神経の終止核)がある.灰白翼の上部の尖ったところが特に深くなっていて下窩Fovea caudalisと呼ばれる.灰白翼の上方に向かった尖端から正中溝に垂直線を引くと,三角形の領域が境される.これを舌下神経三角Trigonum n. hypoglossiといい,その下には舌下神経の核がある.灰白翼と菱脳ヒモとのあいだにある狭い領域は最後野Area postremaと呼ばれる.第四脳室外側陥凹への入口のところで,第四脳室の底が高まって低い丘すなわち前庭神経野Area vestibularis(図421, 422)をなしている.

 髄条の上方で,内側隆起は幅が広くなり,且つここにかなり著しい1つの円味をおびた高まりを作っており,これを顔面神経丘Colliculus facialisという.これは顔面神経が脳内で成している膝によるものである,この高まりの外側縁では,菱形窩の表面がおちこんで上窩Fovea rostralisという小さいくぼみをなしている.これより前方では各側に結合腕に密接して青みをおびた着色の場所があり,これは中脳水道への入口にまで達していて,青斑Locus caeruleusとよばれる.

2-38

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る