Rauber Kopsch Band2. 43

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7.脳の脈管

A. 動脈Arterien

 脳の動脈についてはすでに第I巻,559563頁に記したが,脳動脈のそれより先の分枝についてDuretとHeubnerの研究により知られたことを次に迫加しておこう:

I. 延髄と小脳の動脈

1. 神経根動脈Aa. radiculares(Duret).これは椎骨動脈,脳底動脈あるいは(前と後の)両下小脳動脈からの枝であって,いろいろな神経根へと走り,神経根が脳から出るところのすぐ前に達して,そこで各1本の末梢に向う下行枝と中枢に向う上行枝とに分れ,上行枝は神経根に沿ってその核にまで達する.

2. 神経核動脈Aa. nucleorumは多数の細い動脈であって,延髄の縫線のなかを上行して,第四脳室の底に達する.Duretはこれに4群を区別した:すなわち,第1群のものは前脊髄動脈から出て舌下神経核と副神経核とに逮する;第2群のもの(3~4本)は両側の椎骨動脈が合して脳底動脈になるところから出て,迷走神経・舌咽神経・内耳神経の諸核に分布する;第3群のもの(4~6本)は脳底動脈から出て,特に顔面神経・外転神経・三叉神経の諸核に分布する;最後に第4群のもの(若干数の細い枝)は脳底動脈の分岐部から出て,脚間穿孔質の孔を通って被蓋に,また中脳の諸核に達している.

3. オリーブ,錐体および索状体に達する諸枝と第四脳室脈絡組織と第四脳室脈絡叢に達する諸枝.この脈絡組織と脈絡叢とに分布するものは後下小脳動脈から出る.

 小脳の各半分に分布す3本の動脈(上小脳動脈・前下小脳動脈,後下小脳動脈)は互いの間に太い吻合をもっている.なおまた,これらの血管の主な枝は,溝および回転の方向にほぼ直角に走っている.最も密な毛細管網を有つのは顆粒層である.

II. 中脳の動脈

1. 後大脳動脈から出て脚間穿孔質Substantia perforata intercruralisと被蓋Tegmentumとにいたる諸枝.これらの枝に脳底動脈の分岐部から起るもの(1の項で,2の第4群で述べた枝)も属している.

2. 大脳脚Crura cerebriにいたる諸枝.これには内側および外側脚動脈Aa. pedunculares mediales et lateralesがある.内側脚動脈については,上方のものは後交通動脈から,下方のものは後大脳動脈の初まりの部から出ている.匿のなかの若干の枝が黒核に入る.外側脚動脈は主に後大脳動脈から出るが,一部は脈絡叢動脈から出ている.

3. 四丘体にいたる諸枝前髄帆と結合腕に向かって比較的細い動脈が上小脳動脈から達している.四丘板そのものにゆく主要血管(外側丘動脈A. collicularis lateralis)は後大脳動脈から出て,大脳脚を回って,横丘間溝Sulcus intercollicularis transversusに達し,こ,から広がっている.後大脳動脈,あるいはその視床に喚く枝の1つからは,しばしば四丘体り上部に分布する1本の血管が出ていう(前丘動脈A. collicularis anterior).

III. 間脳の動脈

1. 松果体Corpus pineale,第三脳室脈絡組織Tela chorioidea ventriculi tertiiおよび第三脳室脈絡叢Plexus chorioideus ventriculi tertiiに向かって,各側とも後大脳動脈から始まる血管が来ている.これが内側後脈絡叢動脈A. chorioidea posterior medialisであって,これは脈絡組織に達する内側の1枝と脈絡叢に達する外側の1枝とに分れる.

2. 視床にゆく多くの血管はみな終動脈Endarterien(脈管学参照)であって,これに次のものが区別される:

a)内側視床動脈Aa. thalamicae mediales,これには各1本の前および後内側視床動脈Aa. thalamicae mediales anterior et posteriorがあって,後者は後大脳動脈あるいは後交通動脈から起る.前内側視床動脈は後交通動脈から起こって,灰白隆起と乳頭体との間で脳底灰白交連を貫いて,第三脳室壁の前部および視床前結節に達する.後内側視床動脈は脚間穿孔質を貫いて視床の内側面と中間質とに達する.

b)背側視床動脈Aa. thalamicae dorsales.これは後大脳動脈の1枝である外側後脈絡叢動脈A. chorioidea posterior lateralisから来る.外側後脈絡叢動脈は第三脳室脈絡組織と側脳室脈絡叢との一部に分布するものである.

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c)外側視床動脈Aa. thalanpicae laterales(2~3本)は後大脳動脈から出て,内外の両膝状体と視床枕とに分布する.

3. 左右の乳頭体Corpora mamillaria,灰白隆起Tuber cinereum,漏斗Infundibulumおよび下垂体Hypophysisは後交通動脈からの枝を受ける.

4. 視索Tractus opticusはうしろから前に向かって順々に前脈絡叢動脈,後交通動脈および内頚動脈から枝を受ける.

5. 視神経交叉Chiasmaはその後面では後交通動脈の枝を受け,その前面で嫁前交通動脈と前大脳動脈からの枝を,その外側面ゼは内頚動脈からの枝を受ける.

6. 第三脳室終板Lamina terminalisには前交通動脈からの枝が分布する.

IV. 終脳の動脈

 終脳の動脈には,a) 大脳核と内包の動脈,b)大脳皮質と内包以外の髄質の動脈とがある.

a)大脳核(尾状核とレソズ核)の動脈はみな終動脈(Heubner, Duret)であって,次の諸動脈に由来する:すなわち 1. 前大脳動脈からの枝.これは多くのばあい1本あるのみで,この枝は嗅野の内側部の孔を通って尾状核頭の下部に達する.2. 後大脳動脈の1枝である外側脈絡i叢動脈からの細い枝,これは尾状核頭の背方部に入っている.3. 中大脳動脈からはいっそう数多くの枝が来て,これらは嗅野の孔を貫いてレンズ核(その3つの節とも)および尾状核の中央部にいたり,また内包には視床のところまで達している(図453).

[図453]大脳核Stammganglienに達する中大脳動脈A. cerebralis media(以前のA. cerebri media)の諸枝

左大脳半球の前額断.祝束交叉のうしろを通る.

1 外側大脳裂;2 島;3 側頭葉;4前障;5 レンズ核;,6 尾状核;7 視床;8 視神経交叉.

b)皮質部の動脈.柔膜動脈の枝からおこる脳の動脈は先ずその表面に平行してある長きだけ走り,次いでその表面に直角の方向に曲がって皮質のなかに入る.これに次のものが区別される:a)髄質動脈Aa. medullares(Duret),比較的太い枝で,皮質を貫いて3~4cmの深さに入りこみ,かくして髄質の最も深いところにまでも達して,髄質の内部で細長く延びた形の毛細管網に移行している.これらの動脈は皮質の内部ですでに若干の細い枝を出している.1つの回転を横に切断すると,その断面上に10~15本の髄質動脈が認められる:b)皮質動脈Aa. corticales.これは前者よりいっそう細くて,ずっと数が多く,主として灰白皮質の毛細血管網を作っている.この毛細血管網は細胞の少ない皮質の表層では大きな目の網をなし,これに反して皮質の主要部分では極めて網の目がこまかい.特に髄質に対する境のところから脳皮質の静脈が現われてくる.静脈もまた髄質静脈Vv. medullaresと皮質静脈Vv. corticalesとに区別される.

1. 前大脳動脈A. cerebralis anterior.この動脈はまず細い枝を透明中隔と脳梁吻とにあたえ,次いで前頭葉の大部分と頭頂葉の一部と脳梁とに分布し,そのあいだに次の枝に分れる:

a)内側下前頭動脈Aa. frontales inferiores medialesは嗅溝とこれに境を接する眼窩回とにゆく.

b),c)およびd)前-,中-,後内側前頭動脈A. frohtalis medialis anterior, media, posterior.前内側前頭動脈は上前頭回あ内側面と背方面および中前頭回の背方面にいたる.中内側前頭動脈は上前頭回の後部と帯状回に,また中心前,後両回の上端部に分布し,後内側前頭動脈は楔前部と脳梁に,また側脳室の背方壁の上衣に分布する.

2. 中大脳動脈A. cerebralis media.これは大脳脚こ枝をあたえた後に,島の外面で次の4終枝分れる.

a)外側下前頭動脈A. frontalis inferior lateralis.これは下前頭回にゆく.

b),c)およびd)前-, 中-,後頭頂動脈A. parietalis anteriori media, posterior.前頭頂動脈は中前頭回の後端部と中心前回に分布し,中頭頂動脈は中心前,後両回および上頭頂小葉の範囲に広がり,後頭頂動脈は下頭頂小葉にいたり,また側頭葉の背方面ならびに上および中側頭回にゆく.

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 中大脳動脈A. cerebralis mediaはさらにひと並びの島枝Rami insularesをだし,その細枝は前障にまで達している.

3. 後大脳動脈A. cerebralis posterior.その内側からは上に述べた中脳と間脳とにいたる諸枝がでており,その外側からは次の諸枝が大脳皮質にあたえられる:

 a)とb)前側頭動脈A. temporalis anteriorと後側頭動脈A. temporalis posteriorおよびc)後頭動脈A. occipitalis.前側頭動脈は海馬傍回に分布し,なお側頭葉の尖端部に分布する.後側頭動脈は海馬傍回,下側頭回および外側後頭側頭回に分布し,後頭動脈は後頭葉の大部分に分布する.その一部は鳥距溝のなかを走っている.

B. 静脈

第I巻,642頁参照

C. リンパ路

 これについては,脳の被膜373頁および第I巻,696頁を参照せよ.

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最終更新日 13/02/03

 

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