Rauber Kopsch Band2. 44

8.脳の微細構造

a)延髄,橋および中脳
1. 第1頚髄I. Cervikalsegment(図454)

 まず第1頚髄を通る断面から始めよう.脊髄の断面はここではだいたい円形である.その灰白質は第1頚神経の線維量が少ないことに相応してその発達が弱く,前柱の幅炉狭くて,後柱の頚は特に細く,これに反して後柱膠様質ははなはだよく発達している.後柱の全体がいく分前方に曲がっている.網様体はこれより下方の頚髄におけるよりもいっそう強大である.図の右側では線維束が前柱の基部を貫いて他側の前索に達している.これは錐体側索路の線維であって,つまりこれは錐体交叉の下端を示している.

2. 延髄Medulla oblongata,横断面I(図455)

 錐体交叉を通る断面であって,中心管の前方には,交叉しつつある錐体側索路の線維束の密な集りがみられる.すでに交叉を終えた線維束は前正中裂の両側に面して密な線維団を作る.これが延髄の錐体の下端である.その個々の線維束は錐体束Fasciculi pyramidiciといわれて,横と斜めと縦の方向に切られている.前柱の内側の境界はなお存在しているが,外側へは,網様体のなかに移行している.錐体交叉と前柱との問にある横断された線維群は内側縦束(後縦束)Tractus longitudinalis medialis(Fasciculus longitudinalis medialis)である.

 ゴル索の内部には1つの核が現われている.これが後索内側部核(薄束核)Nucleus partis medialis fasciculi dorsalisである.ブルダッハ索の核,すなわち後索外側部核(楔状束核)Nucleus partis lateralis fasciculi dorsalisは内側部核と違って中心灰白質に接続して始まるのである.後柱膠様質はなおもいっそう強大になった.その外側には三叉神経脊髄路Tractus spinalis nervi trigeminiがあり,この場所は脊髄のなかでは辺縁帯が占めていたところである.その線維の側枝が後柱膠様質のなかに入るのであって(図492),この灰白質はいまや三叉神経脊髄路核Nucleus terminalis tractus spinalis nervi trigeminiと呼ばれる.中心管の両側には1群の細胞がある.これが副神経核Nucleus originis nervi accessoriiである.

S. 384

[図454]第1頚髄の横断面(その高さについては図459を参照). 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

[図455]延髄の横断面I(その高さについては図459を参照). 錐体交叉のおよそ中央の高さで,後索内側部核と後索外側部核の下端の高さ.有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 385

[図456]延髄の横断面II(その高さについては図459を参照).

毛帯交叉および灰白翼核の下端の高さ. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 386

3. 延髄Medulla oblongata,横断面II(図456)

 次の断面は錐体交叉のすぐ上方の高さである.後索内側部核Nucleus partis medialis fasciculi dorsalisと後索外側部核Nucleus partis lateralis fasciculi dorsalisならびに三叉神経脊髄路核Nucleus terminalis tractus spinalis nervi V. はいっそう大きくなり,三叉神経脊髄路もいっそう強大となっている.中心管の周りの灰白質のなかには灰白翼核Nucleus terminalis alae cinereae(舌咽神経および迷走神経の終止核)が現われ,その背方には副神経核Nucleus origipis nervi accessoriiがある.前柱は内側に向かっては,内側縦束(後縦束)Tractus longitudinalis medialis(Fasciculus longitudinalis medialis)に対してまだはっきりと境されているが,外側に向かっては境なしに網様体Formatio feticularisに移行している.この断面の腹方部は強大な錐体によって占められ,その個々の束,すなわち錐体束Fasciculi pyramidiciはなおいろいろ違った方向をとって走りたがいに交わっている.

 ここで新たに現われてくるものとしては内弓状線維Fibrae arcuatae internaeと前外弓状線維Fibrae arcuatae externae ventralesがある.前者は集合して束をなしつつ弓状に中心灰白質を回り,中心管の腹方で反対側の線維と交叉する.交叉した後はこの線維の一部は方向を変えて上行し,正中線のそばにあって上方にすすむ.これらの線維が(知覚性の)内側毛帯Lemniscus medialis(sensitivus), mediale Schleifeをなす.それゆえ内弓状線維の交叉は毛帯交叉Decussatio lemniscorum, Schleifenkreuzungと呼ばれる.毛帯交叉において反対側に移つた線維の一部は,毛帯のなかには入らずに縫線のなかを腹方に走り,錐体の内側面に達し,錐体の内側腹方の稜について曲がって,その腹方面(外面)を被い,さらに背方に進んでいる.これらの線維を前外弓状線維Fibrae arcuatae externae ventralesという.これが錐体の腹方面にある弓状核Nuclei arcuati(図457, 458, 460463)において中断されることもある.

4. 延髄Medulla oblongata;横断面III(図457)

 次の断面は筆尖の尖端のすぐ下方の高さで,オリーブの下端を通るものである.

 中心管Zentralkanalは長くて狭い1つの裂け目となっている.後索核はこの高さでその大きさが最大に達する.三叉神経脊髄路核Nucleus terminalis tractus spinalis nervi V. と三叉神経脊髄路Tractus spinalis nervi V. とはいっそう大きくなった.その背外側には索状体Corpus restiforme, Strickkörperの下端があり,これは前および後外弓状線維と後脊髄小脳路とによってできている.後脊髄小脳路は脊髄では辺縁帯の腹方にあり(図405),延髄のこれまでに述べた断面では三叉神経脊髄路の腹方にあった.しかしこれからはその線維が背方に曲がって,前弓状線維とともに三叉神経脊髄路の外側を通って,この脊髄路の背方の場所に達する.ここで両者が走向を変えて上方に走り,かくして索状体の下方の初まりkaudaler Anfang des corpus restzformeとなる.そのがわの後索核の神経細胞の神経突起が後外弓状線維Fibrae arcuatae externae dorsalesとして来てこれに加わる.

 中心灰白質には腹方に舌下神経核Nucleus originis n. hypoglossi, Hypoglossuskernがあり,それより背方に灰白翼核Nucleus terminalis alae cinereaeおよび弧束Fasciculus solitariusとその孤束核Nucleus tractus solitariiとがいっしょに見られる.

 内弓状線維Fibrae arcuatae internaeの数は今までよりもいっそう増加している.これは灰白網様質Substantia reticularis grisea,白網様質Substantia reticulalis albaを貫いて正中線すなわち縫線Rhaphe で交叉し,一部は上記の諸断面におけると同じように曲がって内側毛帯となり,あるいは前外弓状線維になる.舌下神経の根線維は灰白網様質と白網様質との境で斜めに外側腹方へ走る.

S. 387

[図457]延髄の横断面III(そめ高さについては図459を参照).

オリーブ核および疑核の下端がみえる. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 388

[図458]延髄の横断面IV(その高さについては図459を参照).

オリーブの下1/3をとおる断面. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 389

 白網様質Substantia reticularis albaと呼ばれるのは,この断面で舌下神経の根線維と縫線とのあいだにある部分である.白網様質は縦断された(すなわち横走の)内弓状線維および内側縦束と内側毛帯との横断された線維束の集り,ならびに主として縫線に沿って存在するかなりの量の神経細胞よりなっている.

[図459]延髄,橋および中脳の各横断図の高さを示す.

 灰白網様質Substantia reticularis griseaもやはり縦断あるいは横断された数多くの神経束よりなるが,これらの神経束のあいだにある灰白質の量が多い.この点が白網様質では神経線維束が圧倒的に多いことと異なっている.

 灰白網様質のなかでは三叉神経脊髄路核と舌下神経の根線維とのほぼ中間に神経細胞の1小群が新たに現われていて,これが迷走神経の()運動核のいわゆる疑核Nucleus ambiguusである.その細胞の神経突起は背内側に斜めにすすみ,灰白翼にある迷走神経背側核に達し,そこで曲がって迷走神経の根線維となるが,この根線維は図にはみえていない.

 さらにオリーブ核Nucleus olivaeというひだに富む板状の灰白質が新たに現われていて,これは多数の中等大の神経細胞をもっている.この核の内側腹方にはすでに前に述べた内側副オリーブ核Nucleus olivae accessorius medialisがあり,また背方には背側副オリーブ核Nucleus olivae accessorius dorsalisがすでに現われている.

 オリーブ核の外側部で,視床(および赤核)からオリーブ核へ下行する線維が終わっている.これが視床オリーブ路Tractus thalamoolivaris(Bechterew)あるいはもっと正確には視床赤核オリーブ路Tractus thalamorubroolivaris,すなわち中心被蓋束zentrale Haubenbahnである.

S. 390

5. 延髄Medulla oblongata,横断面IV(図458)

 次の断面はオリーブの下1/3および菱形窩の下端を通る.ここでは前の断面とだいたいに似た関係がみられる.もっともその個々の部分が核も線維束もみないっそう力強くなっているが,後索内側部核のみは前より小さくなっている.ところで著しい違いは中心管が開いて第四脳室となっていることである.それに伴なって舌下神経核Nucleus originis n. hypoglossiと灰白翼核Nucleus terminalis alae cinereaeとが位置の変化を示している.すなわち灰白翼核がずっと外側に寄つたのである.

6. 延髄Medulla oblongata,横断面V(図460)

 この断面はオリーブのおよそ中央を通っている.菱形窩正中溝のすぐそばで灰白質のなかには大きな舌下神経核があり,それから出る根線維はいくつかの(2~3本の)束をなして白網様質と灰白網様質との境を斜めに外側腹方に走り,オリーブと錐体とのあいだで前外側溝から外に出る.

 舌下神経核の背方には小細胞性の内側隆起核Nucleus eminentiae medialis(以前はNucl. funiculi teretisと呼ばれた)があり,また外側には介在核Nucleus intercalatusがある.

 灰白翼の範囲にある灰白質のなかには灰白翼核Nucleus terminalis alae cinereaeがある.この核の背方かつ外側にはすでに前庭神経内側核Nucleus terminalis medialis n. vestibuliが現われている.

 後索内側部核Nucleus partis medialis fasciculi dorsalisはもはや全く見られないが,後索外側部核Nucleus partis lateralis fasciculi dorsalisはなお存在している.三叉神経脊髄路核Nucleus terminalis tractus spinalis nervi trigeminiは前の断面におけるよりも小さくなり,それに反して三叉神経脊髄路はなおいっそう力強くなっている.三叉神経脊髄路は迷走神経の根線維およびオリーブ核から出て来た線維によって貫かれ,そのため少数の束に分けられている.

 索状体は著しく強大となって,この断面の側方にめだつた高まりを生ぜしめている.孤束Fasciculus solitariusとその核は前に述べた断面におけるよりもいっそうよく発達している.孤束の背方と外側には真横に切断された大小いろいろの数多くの神経線維束が現われていて,これらの束はひとまとめにして前庭神経下行路Radix descendens n. vestibuliと呼ばれる.その線維束のあいだにある灰白質の塊りは前庭神経下核Nucleus terminalis spinalis n. vestibuliである.

 疑核Nucleus ambiguusは右側でいく分はっきりしており,左側ではほとんど認められない.背側副オリーブ核Nucleus olivae accessorius dorsalisは前よりいっそう大きくなり,且つはっきりと境されている.内側副オリーブ核Nucleus olivae accessorius medialisはむしろ毛帯の範囲にある.オリーブ核Nucleus olivaeは強くひだをなしていて,内側に開いた灰白質の板である.その開いたところはオリーブ核門Hilus nuclei olivaeと呼ばれる.オリーブ核門に入り,あるいはそこから出ている縦断された強い線維束の群は,その大部分がオリーブ核の細胞の神経突起であり,これらは反対がわに越えて,側索を通り過ぎた後にいくつかの太い束をなして三叉神経脊髄路を貫き,またはそのそばを他の線維束とともに通り過ぎて索状体に達し,ここで曲がって上方に向きを変える.これがオリーブ小脳路Tractus olivocerebellaresである.この線維束の一部はまた歯状核の細胞の神経突起であって,この突起は同側のオリーブ核と反対側のオリーブ核とに達する.これが歯状核オリーブ路Tractus dentatoolivaresである.

 オリーブ核Nucleus olivaeの線維結合の概観

 オリーブ核に入ってくる伝導路は:1. 脊髄オリーブ路Tractus spinoolivaris(323頁および図405),2. 小脳オリーブ路Tractus cerebelloolivares,これには次の2つがある.すなわちa)歯状核オリーブ路Tractus dentatoolivaris,結合腕の線維の側枝よりなるカハール外側下行小脳束Cajals laterales absteigendes Kleinhirnbündel, b)室頂オリーブ路Tractus fastigioolivaris,すなわち虫部オリーブ路Wurm-Olivenbahn (Held)は室頂核(?)から来る.

 オリーブ核から出て行く伝導路オリーブ脊髄路Tractus olivospinalis(323頁および図405)とオリーブ小脳路Tractus olivocerebellaresとであり,後者はオリーブ核から出る線維が小脳半球に,副オリーブ核から出るものは小脳虫部と片葉とにいたる.

S. 391

[図460]延髄の横断面V(その高さについては図459参照).

オリーブの中央を通る断面.矢印は菱形窩正中溝Sulcus medianus fossae rhomboidisを示す.有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 392

7. 延髄Medulla oblongata,横断面VI(図461)

 この断面はオリーブの上方1/3を通り,菱形窩の灰白質内の諸核は前に示した断面とだいたい同じ配列をしているが,ここでは後索外側部核もまた見られなくなった.正中溝の左右両がわには舌下神経核Nucleus originis nervi hypoglossiがあり,その背方には内側隆起核Nucleus eminentiae medialis,さらに側方には内側から外側に並んで介在核Nucleus intercalatus, 灰白翼核Nucleus terminalis alae cinereaeおよび前庭神経内側核Nucleus terminalis nervi vestibuliがある.

 索状体は著しくその大きさを増している.その外面は縦断された神経線維と灰白質とに被われている.この両者は内耳神経に属するのである.

 弧束Fasciculus solitariusとその核とはいっそう強大になった.前庭神経下行路Radix descendens n. vestibuliの線維束の数と太さが増して,それらの束のあいだには数多くの大きな神経細胞がみられる.

 三叉神経脊髄路核Nucleus terminalis tractus spinalis nervi trigeminiは前よりも小さくなったが,三叉神経脊髄路Tractus spinalis nervi trigeminiの線維団はなおもその量を増し,オリーブ小脳路と歯状核オリーブ路の神経束および迷走神経の根線維によっていくつかの束に分けられている.

 内側毛帯Lemniscus medialisの線維団は引き続き増加している.両側のオリーブ核のあいだにある白網様質の部分は毛帯オリーブ間層Stratum interolivare lemnisciと呼ばれる.

 オリーブ核Nucleus olivaeはこの高さで最もよく発達している.内側副オリーブ核Nucleus olivae accessorius medialisはなお発達が弱いままであるが,これに反して背側副オリーブ核Nucleus olivae accessorius dorsalisはその発達が減弱していない.

 錐体はつよく腹方に突出し,これを囲む弓状核Nuclei arcuatiは前の断面におけるよりもはるかに大きくなり,主として錐体の内側面にある.前外弓状線維Fibrae arcuatae externae ventralesは豊富に存在する.

8. 延髄Medullaoblongata,横断面VII(図462)

 この断面は第四脳室外側陥凹の上方の部分を通り,外側陥凹の上方の壁が右側では切線状tangentialに切られている.第四脳室外側陥凹の外側壁は片葉柄により,内側壁は索状体およびその上にある内耳神経の諸核により作られている.その上方の壁も蝸牛神経の終止核によって作られている.この断面においてはもはや舌下神経核は見られないで,その場所にある神経核の集りは舌下神経前位核Nucleus praepositus n. hypoglossiと呼ばれる.内側隆起核はなおここでも存在している.

 菱形窩の灰白質のその他の全領域は前庭神経内側核(三角核)Nucleus terminalis medialis(triangularis) n. vestibuliである.蝸牛神経腹側核Nucleus terminalis ventralis n. cochleaeは索状体の腹方にあって,舌咽神経が延髄に入るところにまで達している.これらの両核は蝸牛神経背側核Nucleus terminalis dorsalis n. cochleaeによってたがいにつづき,この背側核が索状体の外面と第四脳室外側陥凹の上壁を被っているのである.

 孤束Fasciculus solitariusはこのあたりで終る.これは舌咽神経と迷走神経との下行性繊雑よりなっているので,この両神経の根線維が入る高さよりももっと上方では存在しないわけである.そしてこの高さでは舌咽神経の上部の線維束が脳に入っている.これに反して前庭神経下行路Radix descendens n. vestibuliはなおもいっそう強大になる.

 両方の副オリーブ核はもはや存在しないが,オリーブ核Nucleus olivaeはまだここでも強く発達していて,そのためにオリーブ小脳路と歯状核オリーブ路に属する多数の線維束がやはり三叉神経脊髄路と交わって,さらに背方にすすんで索状体に達する.

S. 393

[図461]延髄の横断面VI(その高さについては図459参照).

オリーブの上方1/3をとおる断面. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 394

[図462]延髄の横断面VII

(その高さについては図459参照).

この断面は,左側は第四脳室外側陥凹Recessus lateralis ventriculi quartiを通り,右側ではこの陥凹の上方の壁が切線状に切られている. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 395

[図463]橋の横断面I

(その高さについては図459参照).

オリーブ核Nucleus olivaeの上端の高さ,外転神経核,顔面神経核,内耳神経核を示す.

S. 396

 髄条Striae medullares(図421, 422参照)(髄条Striae medullares Piccolomini, Bodenstriaeは蝸牛神経の中心経路の一部である聴条Striae acusticae Monakowとしばしば混同されるが,本書もそれを混同している.ピッコロミニ髄条は動物脳には見られず,人脳にのみあって,その走行によって肉眼的に3型が分類されているが.その本態は小脳と延髄および橋の網様体や縫線とを結ぶものであって,聴神経とは直接の関係がない.モナコフ聴条は聴覚路の一部であって,人のみならず,何れの哺乳動物にも存在する.本図では後者は左右とも索状体と蝸牛神経背側核とのあいだに縦断された線維群としてみられるが,特に名称を付してない.(小川鼎三:脳の解剖学,32~39,127,1956;小川鼎三,細川宏:日本人の脳,222~223,1953).)はこの断面の両側にみられる.これは蝸牛神経背側核の神経突起よりなり,この線維群が縫線に達してここで交叉する.

9. 橋Pons,横断面I(図463)

 この断面は橋のすぐ近くで延髄の腹側面を切り,側方ではすでに橋腕が現われている.索状体の(内側部の)線維が背方に曲り,次いで縦断されて斜めに背方かつ外側に走っているのがわかる.

 この部分は核小脳路Tractus nucleocerebellaresと小脳前庭[]Tractus cerebellonuclearesであって,前者は三叉神経・前庭神経・舌咽神経.迷走神経の終止核から出て室頂核と小脳虫部とに達するものであり,後者は小脳皮質から出て室頂核をへて前庭神経外側核に達する.索状体の外側部に含まれる線維については452頁を参照せよ.

 索状体の腹方には内耳神経の線維と蝸牛神経腹側核Nucleus terminalis ventralis n. cochleaeが見られる.特に前庭神経の走り方がよく分るが,その線維は索状体と三叉神経脊髄路とのあいだを背方にすすみ,そこにある終止核に達する.ここには大細胞性の前庭神経外側核Nucleus terminalis lateralis n. vestibuli,すなわちダイデルス核Deitersscher Kernあり,さらにその内側には前庭神経内側核があり,また背方には前庭神経背側核Nucleus terminalis dorsalis n. vestibuli, すなわちペヒテレフ核Bechterewscher Kernがある.

 三叉神経脊髄路の内側に大緬胞性の大きな核が現われる.これが顔面神経核Nucleus originis nervi facialisである.その細胞の神経突起(以前はPars prima radicis nervi facialisと呼ばれた)は斜め内側背方に菱形窩正中溝の方向に走る.

 この線維群のその後の走行については423頁を参照せよ.脳室の底のすぐ下には外転神経核Nucleus originis n. abducentisがある.白網様質Substantia reticularis albaはその中央部にかなり多量の灰白質と多数の神経細胞とを有っている.この神経細胞は被蓋網様核Nucleus reticularis tegmentiであり,その神経突起は網様体脊髄路(320頁参照)を作る.この核によって内側縦束Tractus longitudinalis medialisと内側絨体Lemniscus medialisとがたがいに隔てられている.オリーブ核Nucleus olivaeはこのあたりにその上端がある.両側の錐体はつよく腹方に突出し,前外弓状線維と弓状核とに囲まれている.

10. 橋Pons,横断面II(図464)

 次の断面は橋の下部を通る.この断面の外側部を占めている密な線維の集りは橋腕である.橋腕は内側腹方に走って,橋の領域でばらばらの線維束に分れる.この線維束の一部は浅橋線維Fibrae pontis superficialesとなって,錐体の腹方を越えて横に走り,錐体は表面からかくされる.錐体じしんは橋の範囲では橋縦束Fasciculi longitudinalesと呼ばれる.橋腕の線維の一部は深橋線維Fibrae pontis profundaeとなって錐体とその背方にある部分とのあいだた入りこむ.橋の横走線維束は正中線で交叉している.これらの線維束のあいだには灰白質の大きな集りがあって,これが橋核Nuclei pontisである.橋縦束と橋核と橋線維とがいっしょになって橋底部Pars basialis pontisをなし,橋背部Pars dorsalis pontis(橋被蓋Brückenhaube)は錐体を除いた延髄の続きをなしている.

 橋核には同側の皮質橋核路Tractus corticopontini, Großhirn-Brückenbahnen渉終る.橋核の細胞の神経突起は橋の横走線維束となって縫線で交叉し,他側の橋腕を作り,[]小脳路Tractus pontocerebellaresとなって小脳皮質に達する.

S. 397

[図464]橋の横断面II

(その高さについては図459参照).

顔面神経と外転神経の根線維,後脳オリーブ核Nucleus olivaris metencephaliが見える. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.[*は内側隆起核](本図のNucleus trapezoidesは誇張されすぎている.人脳ではこの核ははなはだ貧弱であって図示するに値しないほどである. (小川鼎三)

S. 398

 核については脳室底の灰白質のなかには内側から順に内側隆起核,前庭神経外側核および前庭神経背側核が存在する.正中溝のそばで両側にある卵円形の線維束は顔面神経の内膝の横断面である.その腹方には内側縦束(後縦束)Tractus longitudinalis medialisがあり,その線維束はたがいに密接して並び,横断面で三角形の領域を占めている.内側縦束の側方には外転神経の根線維束があり,これは外転神経核の内側面から出てまず弓状に内側に曲り,次いで斜めに下方かつ腹方に網様質,内側毛帯および橋縦束を貫いて走る.橋から出るところは,橋の下縁であって,この断面には現われていない.外転神経核の背外側では顔面神経根の第2部Pars secunda radicis nervi facialisが,三叉神経脊髄路のすぐ内側縁に沿って腹方に走る.三叉神経脊髄路は著しくよく発達し,その中には数多くの灰白質塊が散在している.

 顔面神経根の第2部の内側にはU字形に曲つた板状の灰白質があって,これは後脳オリーブ核Nucleus olivaris metencephaliである.その内側に接する2群の神経細胞は台形体核Nucleus trapezoides, Trapezkernとよばれ,これは後脳オリーブ核と同様に台形体Cotpus trapezoidesに属している.台形体というのは内側毛帯の範囲を通って横走する線維の群であり,これは正中線で交叉している.

 この線維は蝸牛神経核の細胞の神経突程であり,それゆえ聴覚伝導路の二次ニューロンであって,その一部は後脳オリーブ核と台形体骸とに終り,この両核には聴覚伝導路の三次ニューロンの神経細胞がある.その神経突起については後にも述べるが,(聴覚をつかさどる)外側絨幣Lemniscus lateraIis(acusticus)となって四丘体に達する(図501).

 内側毛帯の領域はまだ縫線に密接しているが,しかしここでは延髄の高さにおけるよりもいっそう外側に延びて,そのだめに背腹の方向には平たくなっている.

11. 橋Pons,横断面III(図465)

 次の断面では橋底部はいままでよりもずっと大きくなり,それに反して橋背部はその大いさを減じている.橋底部のなかでは橋縦束がいっそう高度に分散して,その占める領域が大きくなっている.橋背部では脳案底の表てにある灰白質のなかに依然として内側隆起核Nucleus eminentiae medialisが,また側方には前庭神経背側核Nucleus terminalis doirsalis n. vestibuliが見られる.また正中線のそばでその側方には三角形を示す内側縦束Tractus longitudinalis medialisの領域があり,その腹方には被蓋網様核Nucleus reticularis tegmentiがあって,さらにもっと腹方に内側毛帯Lemniscus medialisがあるが,これはすでに正中線からいくぶん離れている.台形体の線維は内側毛帯を貫いて横の方向に走る.後脳オリーブ核Nucleus olivaris metencephaliと台形体核の上端が前と変らない場所に見られ,ちょうどその所には外側毛帯Lemniscus lateralis, laterale Schleifeの横断された線維が集まっていて,これは聴覚伝導路の三次ニューロンとして上方に進むのである.

 三叉神経の根線維は,右側では大きな広がりをもって断面上に現われており,内側にはこの神経の運動性の線維と運動性の核すなわち三叉神経起始核Nucleus originis n. trigeminiがあり,外側にはその知覚性の線維と知覚性の核,すなわち三叉神経終止核Nticleus terminalis n. trigeminiがあり,ここから(縫線に運する斜断された線維すなわち三叉神経交叉線維Fibrae cruciantes n. trigeminiは三叉神経の二次伝導路に属している.

12. 橋Pons,横断面IV(図466)

 次の断面は橋の上部と滑車神経の出るどころとを通る.

S. 399

[図465]橋の横断面III(その高さについては図459参照) 三叉神経の根線維がみえる. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 400

[図466]橋の横断面IV

(その高さについては図459参照)

結合腕交叉の下部と滑車神経交叉とを通る. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 401

 橋底部Pars basialis pontisは全横断面積の半ばをはるかに越える大きさである.そこにある縦走線維束は著しく増加し,これらは縁のところでまとまつた集り方をなしはじめている.

 橋背部の上方には非常に小さくなった第四脳室がある.その底の灰白質には正中線のそばに縫線背[側]核Nuclgus dorsalis rhaphesがあり,側方には色素を豊富にもうた神経細胞の2群があり,これが菱形窩の上部に,青斑Locus caeruleusを生ずるもとをなしている.この神経細胞群の外側には横断された細い神経線維(この線維は細くない,むしろ太い方である.(小川鼎三))の集まった幅の狭い鎌形の部分すなわち三叉神経中脳路Tractus mesencephalicus nervi trigeminiがある.その線維のあいだには大きな円い単極の神経細胞があって,これが三叉神経中脳核Nucleus accessorius (mesencephalicus) n. trigeminiである.縫線背[側]核の腹方には今やはなはだはっきりと境された内側縦束Tractus longitudinalis medialisが見られる.

 青斑の細胞は多くの学者により三叉神経起始核Nucleus originis n. trigeminiとみなされ,また他の学者は三叉神経終止核Nucleus terminalis n. trigeminiとみなしている.(青斑の細胞群はおそらく三叉神経と直接の関係がないであろう.(小川鼎三))

第四脳室の天井は,この高さでは前髄帆によって形成され,滑車神経交叉Decussatio nervorum trochleariumがその中にある.右側には脳から出てゆく滑車神経の線維束が切られている.その同じ場所に斜めに切られた楕円形の線維束がある.これは反対がわの滑車神経に属する線維であって,交叉したのちにまず外側にすすみ,次いで上方かつ内側腹方に走る.それが滑車神経下行部Pars descendens nervi trochlearisである.

 三叉神経中脳路の外側にある横断された神経線維の密な集りは結合腕Brachium conjunctivumである.この線維団の一部が内側腹方にすすんで正中線に達し,ここで交叉している.これが結合腕交叉Decussatio brachiorum conjunctivorumである(また小脳大脳脚交叉Decussatio crurum cerebello-cerebraliumあるいは大被蓋交叉große Haubenkreuzungとも呼ばれる).両側の結合腕に囲まれた明るい部分には,側方に視床オリーブ路Tractus thalamoolivarisがあり,また正中線に接して上中心核Nucleus centralis superiorがある.結合腕の側方には外側毛帯Lemniscus lateralisがあり,その内部に外側毛帯核Nucleus lemnisci lateralisが見られる.外側毛帯の腹方には脊髄視蓋路Tractus spinotectalisがあり,脊髄視蓋路のさらにいくらか内側に赤核脊髄路Tractus rubrospinalisがある.

 内側毛帯Lemniscus medialisは正中線から遠く離れ,その外側部は橋の外面のすぐ下にある.その横断面はここでは平たくて幅の広い帯状である.

13. 橋Pons,横断面V(図467)

 この断面は下丘を通り,中脳水道を横断している.滑車神経下行部は図466に示した場所よりますます腹方に位置が変わっている.そして中脳水道を回って腹方に走り,けっきょく滑車神経核Nucleus briginis nervi IVに達する(図467).この核は正中線のすぐ近くで,内側縦束に囲まれている.レンズ状をした下丘核Nucleus colliculi caudalisが図467でははっきりと見える.

 両側の結合腕は滑車神経と同じように中脳水道を回って腹方に走り,結合腕交叉に達する.この交叉は上方に行くほどますます強大となる.外側毛帯 Lemniscus lateralisと視蓋脊髄路Tractds tectospinalisとは下丘のなかに達する.視床オリーブ路Tractus thalamoolivarisと内側毛帯Lemniscus medialisは前の断面とほぼ同じ位置を占めている.これに反して赤核脊髄路Tractus rubrospinalisは内側に位置が変わっている.

 橋底部においては横走線維群がますます少くなり,縦走線維束が側方および腹方で密な集まりをなして配列している.

14. 中脳,横断面I(図469)

 次の断面は背方は上丘の領域,腹方は大脳脚を通る.四丘体では層形成瀞みられる:すなわち上丘の表面のすぐ下には有髄神経線維の薄い1層があり,ついで上丘灰白層Stratum griseum colliculi rostralisどいう灰白質の1層があり,その次に上丘核;Nucleus colliculi rostralisがある.

S. 402

結合腕交叉はすでに終わっている.その交叉を終えた線維束は被蓋のなかで正中線のすぐそばに円味を帯びた索をなして集まっている.この線維群の背方には両側に内側縦束があり,内側縦束のさらに背方でその線維束のあいだに動眼神経核Nucleus originis nervi oculomotoriiの細胞群がある.動眼神経の根線維は内側縦束の線維束のあいだを通り,結合腕を貫いて,外側に凸の弓を画いて腹方にすすみ,動眼神経溝に達する.視床オリーブ路は相変らずその場所にあり,内側毛帯の位置はさらに側方に移り,視蓋脊髄路は背方にある.

[図467]橋の横断面V

(その高さについては図459参照).

滑車神経の核,結合腕交叉がみえる. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

 大脳脚は横断された神経線維の強大な1集団であって,その背方には黒核(黒質)Nucleus nigerがあり,これは被蓋に属するのである.黒核は緻密帯Zona compactaと網様帯Zona reticularisとの2部よりなり,これはSpatzのいう“黒色部Pars nigraと赤色部Pars rubra, schwarze und rote Zone”である.その黒色部だけがメラニンをもつ大きい神経細胞を含み,これは背方かつ内側下方にある.赤色部は腹方かつ外側上方にあって,淡蒼部(淡蒼球)と似た構造をもち,有髄神経線維が豊富にあって,ここには大きい神経細胞がまばらにあるだけである.

S. 403

 黒核は大脳皮質(弁蓋),淡蒼球および上丘と2重方向の結合をもっている.また感覚伝導路からの線維(内側,外側両毛帯からの側枝)を受け,赤核に線維を送り,赤核脊髄路を通って脊髄の運動性の根細胞にはたらくのである.

 上丘に入ってくる伝導路は嗅覚,視覚,聴覚を伝える線維および身体の末梢部からの線維である.嗅覚を伝える線維は脳弓(弓隆)を通り(皮質乳頭路Tractus corticomamillaris),乳頭体をへて,あるいは手網核および脚間核Ganglion intercruraleを通って来る.視覚をみちびく線維は視索から来る(図504).聴覚を伝える線維は外側毛帯の側枝である(図501).身体の末梢部からの線維は内側毛帯と三叉神経のいわゆる“2次”径路“sekundäre”Trigeminusbahnおよび脊髄視蓋路の線維である.

 上丘から出てゆく伝導路は次のものである:視蓋脊髄路,黒核に達する線維,小脳あるいは赤核をへて行くものである.視蓋脊髄路は視覚一聴覚反射路であり,これは背側被蓋交叉dorsale Haubenkreuzung(図469)で他側に移つた後に,内側縦束のなかを下方に走る.その線維は延髄の網様質および脊髄に終るのである.

15. 中脳,横断面II(図470)

 ここに述べる最後の断面であるが,それにはもはや内側膝状体がみられる.この高さでは左右の動眼神経核のほかになお中央部にある2,3の核,すなわち動眼神経(副交感性)副起始核Nuclei originis accessorii(parasympathici) n. oculomotoriiがみられ,(いわゆるエディンガー・ウェストファール核Edinger-Westphalscher Kernのことである.(小川鼎三))腹方では動眼神経の根線維が出てゆくのがみられる.大脳脚は,前に述べた断面とくらべて少しも変わっていない.被蓋では赤核Nucleus ruber, roter Kernが結合腕の領域に現われている.赤核においそ小脳の歯状核から来る結合腕の線維が終る.赤核の主要な部分をなすものは散在性の小さい神経緬胞である.赤核の下部は運動性の大形の細胞をもっていて,この大きい細胞から赤核脊髄路Tractus rubrospinalis(モナコフ束Monakowsches Bündel)が始まり,この線維は赤核から出て間もなく正中線で交叉する.これが腹側被蓋交叉ventrale Haubenkreuzung(Forel) (図468, 469)である.交叉したのち橋と延髄を通って下方に走り,脊髄に達している(320頁参照).赤核の上端からは線維束が出て視床と内包とに達する(被蓋放線Haubenstrahlung).

 赤核にやって来る線維束は大脳(前頭弁蓋Operculum froptale)からのもの,小脳(歯状核Nucleus dentatus)から結合腕を通つつてくるもの,また視床(視床赤核オリーブ路Tractus thalamorubroolivarisすなわち中心被藍束zentrale Haubenbahn),淡蒼球, 黒核(その網様帯Zona reticularis),上丘から来るものがある.

 赤核から出てゆく線維束は次のものである:すなわち赤核脊髄路Tractus rubrospinalis,赤核網様体路Tracttis rubroreticularis,赤核オリーブ路Tractus rubroolivaris,赤核視床路Tractus rubrothalamicus,赤核頭頂路Tractus rubroparietalis(頭頂弁蓋にいたる)である.

[図468]皮質延髄路と皮質脊髄路が中脳の横断面において占める位置(ObersteinerおよびMingazziniによる)

Aq 中脳水道;Brpq 下丘腕;Cgm 内側膝状体;F 腹側被蓋交叉ventrale Haubenkreuzang(Forel);Fcop 後交連からの線維束;Flp 内側縦束;Lm内側毛帯;M背側(噴水状)被蓋交叉 dorsale(fontaineartige) Haubenkreuzung(Meynert);Nga 上丘の白質と灰白質;Ntg 赤核;N III動眼神経核;Pcm乳頭体脚Pedunculus corporis mamillaris;pl黒核の網様突起Processus reticularis nuclei nigri; Pp 大脳脚;Qa 上丘;Sns黒核(黒質);zc緻密帯=“黒色部”(Spatz);zr網様帯=“赤色部”(Spatz);1 前頭小脳路および小脳前頭路frontocerebellare und  cerebellofrontale Bahn;2 前頭橋核路 Tractus corticopontinus frontalis(Arnold);3 皮質延髄路および皮質脊髄路; 4 後頭側頭橋核路Tractus corticopontinus occipitotemporalis (Türck);5 Zone des Lemniscus(毛帯の部分);6 中間層Stratum intermedium;7Pes lemniscus superficialis(浅毛帯足).

S. 404

[図469]中脳と上丘の横断面I(その高さについては図459参照)

動眼神経核,黒核がみえる. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

S. 405

[図470]中脳と上丘の横断面II(その高さについては図459参照) 動眼神経核,内側膝状体がみえる. 有髄神経線維は黒,神経細胞は赤.

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最終更新日 13/02/03

 

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