Rauber Kopsch Band2. 45

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b)小脳皮質Kleinhirnrinde

 新鮮な小脳皮質Substantia corticalisを切断してみると肉眼的に2層が認められる.灰白色に見える外方の層は灰色層Stratum cinereum, Molekularschichtであり,黄色ないし錆色に見える内方の層は顆粒層Stratum ferrugineum, Körnerschichtである.顕微鏡的には灰色層の外表面に浅境界膜Membrana limitans superficialisがあり,灰色層と顆粒層との境にはなお特別な1層があり,これはプルキンエ細胞Purkinjesche Nervenzellenの層,すなわち神経細胞層Stratum gangliosumである.

 錆色の顆粒層は髄質稜にすぐ接していて,密集する小さい細胞の群よりなり,これらの細胞は,球形の核をもっていて,細胞形質はごく少ない直径6~7µのものである(図471).しかしこれらの小細胞はいく本かの小さい樹状突起の小幹と灰色層に入りこむ1本の神経突起とを送りだし,この神経突起はたがいに反対の方向にのびる2本の枝に分れて,それが灰色層のなかで小脳回転の縦の方向に沿ってのびている(図472).

 プルキンエ細胞Purkinjesche Zellen(図471, 3)の層は西洋ナシないし棍棒状をした大きな神経細胞の1層よりなり,この細胞はその最大の直径を顆粒層に垂直ないし斜めに向けている.その太い方の端はいくぶん顆粒層のなかに突出し,ここで顆粒層を貫いて走る1本の神経突起を送りだし,この突起は直ちに髄鞘に包まれて髄質稜のなかに入る(図472).細胞の外方に向かった極は1本あるいは2本の太い樹状突起の幹に移行して,この幹は(シャンデリアのように)はなはだ豊富に枝分れし,その終末分枝は放線状に灰色層のなかに入りこんでいる.小脳回転ののびる方向に対して横断する面の上でその主な枝分れが起こっている.そのさい比較的大きな突起は通常ある距離だけ水平あるいは斜めに走り,その間に放線方向の枝をだすことによって次第に細くなり,終りにこの突起の幹じしんが放線方向に曲るのである.小脳回転の頂きでは,プルキンエ細胞が小脳溝の底におけるよりもいっそう密に存在するのである.細い終末分枝は表面の近くにまで伸びている.またこの細胞の神経突起は小さい側枝をだし,この側枝は顆粒層内に入るが,その一部がプルキンエ細胞の細胞体のところにもどってきて,そこで終末分枝となっていることがまれではない. 灰色層graue Schichtは分子層molekulare Schichtともいわれ,これは細かい顆粒状をなす層で,ここは一部は樹状突起の分枝と神経突起の分枝とよりなり,一部はグリアおよび神経細胞よりなる.また有髄神経線維の叢が切線方向に広がっていて,これはプルキンエ細胞の層と顆粒層との境にみられるのである(図471, 2).

[図471]ヒトの小脳皮質の断面(TH. Meynert).×150

1 小脳皮質の灰色層および2横走する極めて細い有髄神経線維;3 プルキンエ 細胞;4 顆粒層;5 髄質稜の一部.

 灰色層の神経細胞のうちの1種,すなわち小皮質細胞kleine Rindenzellen(図472)はおそらく軸分枝細胞Cellulae axi-ramificataeであろう.別の種類は大皮質細胞große Rindenzellenであって,これはあらゆる方向に樹状突起を送りだしているが,その神経突起はプルキンエ細胞層に平行して走る.この神経突起はある間隔をおいて側枝をだし,この側枝がプルキンエ細胞に達して,そのまわりに線維籠Faserkorbの形をなす終末分枝を発達させる(図472).

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それゆえこの細胞を籠細胞Korbzellenという.第2のいっそう大きい方の細胞は軸分枝細胞と最も近い関係にある.なぜならば1本,あるいはそれ以上の数の神経突起を顆粒層に送りだして,これが枝分れしてきわめて豊富な,広くひろがったごく短い細い枝の叢をつくり,またその樹状突起は髄質稜を通過したのちに灰白質にまで,あるいは向い合っているがわの顆粒層にまで達するのである.

 さらに髄質稜からはかなり多数の太い線維,すなわち苔状線維Moosfasernが上行してくる.この線維は遠くにある細胞から来るもので,顆粒層のなかで枝分れして終末となっている.遠くにある細胞からおこるいま1つ別のかなり数多くの線維(図472)が顆粒層を貫いて灰色層に達している.その線維から出る側枝がプルキンエ細胞に達し,その細胞体を籠ないし網に似た形の密な終末分枝となって包んでいるが,一方これらの線維のうちでさらに表面に向かって走っている部分はプルキンエ細胞の樹状突起の幹をよじ登り,プルキンエ細胞の枝にまきつくので,Cajalこのかた登上線維Kletterfasernとよばれている.

 苔状線維は脊髄小脳路とオリーブ小脳路の線維のつつづきであり,登上線維は前庭小脳路,あるいは橋核小脳路の線維のつづきをなすといわれる.

[図472]小脳皮質の神経細胞の主要形と線維の種類

 小脳の髄質Kleinhirnmarkはほとんど全部が小脳に出入する3対の小脳脚のつづきよりなっている.それゆえ投射神経路Projektionssystemeよりなるのである.連合神経路Assoziationssystemeには回転弓状線維Fibrae arcuatae gyrorumが属し,そのうち短回転弓状線維Fibrae arcuatae gyrorum brevesは1つの回転から小脳溝の奥のところを回って隣りの回転に,長回転弓状線維Fibrae arcuatae gyrorum longae(花かざり線維Girtandenfasern)はその数が比較的少なくて,小脳半球の範囲にだけある.両側の小脳半球をたがいに結合する交連神経路Kommissurensorstemeは欠けている.

 虫部皮質に達する線維は虫部の髄質層の中で交叉し,前と後の大交叉交連vordere und hintere große Kreuzungsleommissurのなかにある.

小脳皮質グリア(図472~474)

 小脳皮質の全層にはグリア細胞のあらゆる形のものがみられる.

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グリア細胞の1つの特別な形としては放線方向に灰白層を貫いているものであって,束毛細胞Büschelzellenとよばれ,その細胞体は小さくて,プルキンエ細胞の層にあり,それがもつ2~6本の放線方向の枝は束をなして細胞体から柔膜まで達し,グリア小足をもって浅境界膜(図473, 474)において終る.この膜と小脳皮質の外面とのあいだには脳の実質が縮むと広くなる狭い腔所があって,これは放線方向にのびるグリア線維によって貫かれている.これが小脳上リンパ腔epicerebellarer Lymphraumであって,その中にはリンパ球もみられることがある(図474).

c)小脳核

 小脳核のうち歯状核Nucleus dentatusは結合腕の背方の延長部をなしていて,嚢状を呈し,多数のひだをもつ灰自質の板で,この板の厚さは0.3~0.5mmである.内側腹方に口を開いたその嚢全体は長さ15~20mm,幅8~10mm,高さ10~12mmである(図413).その微細構造はオリーブ核の構造とはなはだよく一致し,その外形もやはりよく似たものである.すなわちその灰白板の内部にいくつかの層をなして黄色い色素をもった大きさ30~36µの数多くの多極細胞があり,これらの細胞のあいだを多数の神経線維が通っている.歯状核の内部は有髄神経線維で満たされ,これらの線維群が歯状核の髄質核Markkernをなしている.この核の下壁は第四脳室蓋から0.1mm離れている.歯状核をとり囲んでいる髄質の被膜は,よく発達した有髄神経線維のフェルトFilzのようであって羊皮Vliesと呼ばれる.

 羊皮は主としてオリーブ小脳路の線維よりなり,この線維は歯状核のそばを通って小脳皮質に達するのである.プルキンエ細胞の神経突起は歯状核に終る.

[図473]小脳皮質の灰色層のグリア細胞

7ヵ月のヒト胎児の小脳回転の皮質を垂直断してある(Retzius).右側にプルキンエ細胞の断片がみえる.

[図474]小脳皮質の灰色層の周辺部 浅境界膜(5)が持ちあげられている. 1 柔膜;2 灰色層の外側の境界;3 小脳上リンパ腔;4 灰色層のグリア細胞の突起.4の上方にリソパ球が1つある;5 グリア足のある浅境界膜.

 栓状核Nucleus emboIiformis, pfropfkerhの微細構造は歯状核めそれと同じであるが,球状核Nuclei globiformes, Kugelkerneは室頂核Nucleus fastigii, Dachkernにむしろよく似ている.室頂核は色素を含む多極神経細胞をもち,この細胞の大きさは直径60µにまで達する.栓状核と歯状核との関係は副オリーブ核とオリーブ核との関係に似ている.

 室頂核には虫部の皮質からの線維が達している.この核から出てゆく線維は結合腕のなかをすすんで赤核に達し,さらに索状体の内側部をへて網様体に,また鈎状束Fasciculus uncinatus, Hakenbündelを通って前庭神経外側核(Deiters)に達する(図510).

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最終更新日 13/02/03

 

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