Rauber Kopsch Band2. 54

VII.顔面神経N. facialis(図511, 514518, 520523)

 顔面神経は顔面神経核より発して,橋腕の下縁で表面に現われる.顔面神経の出るところと内耳神経のそれとのあいだで中間神経N. intermedius(図417)が現われ,これは顔面神経に加わるのである.

 顔面神経,中間神経および内耳神経は脳からでたのちに外側前方に向い,脳膜の続きに包まれて内耳道に入る(図511, 523).そのさい顔面神経は中間神経といっしょに内耳神経の前内側面にある1つの溝のなかにある.内耳道の底で顔面神経は顔面神経管に入り,そこを通つつてまず前外側の方向に走り顔面神経管裂孔にまで達し,ここで顔面神経膝Geniculum n. facialisを成してほとんど直角に曲り,こんどは外側後方に走る.ここでは外側半規管突隆と前庭窓とのあいだにある(図515).次いで弓を画いて下方に曲り,中耳の後壁のうしろ1~2mmの所を下行して,茎乳突孔を通って頭蓋の外にでる.それから直ちに耳下腺の内部に入り,外耳道の下部で顎二腹筋の後腹と外頚動脈の外側を走る.耳下腺の内部で2本の主な枝に分れ,この2本がさらに枝分れしたり結合したりする.かくして耳下腺神経叢Plexus parotidicusが生ずる(図522).次いでその終枝が耳下腺の前縁から扇形に広がって顔面の諸筋に分布する.

 顔面神経膝には膝神経節Ganglion geniculi(図520)があり,脊髄神経節と後根の関係のごとく中間神経がそれと同じようにこの神経節に入る(図523).

 味覚線維を導く中間神経を除いて考えると,顔面神経は運動性の神経であり,頭蓋冠・外耳・顔面(咀嚼筋は除く)のすべての筋・頬筋・アブミ骨筋・茎突舌骨筋・顎二腹筋の後腹に分布するものである.その運動性の線維のうちで特別なものは,この中に含まれる唾液腺(耳下腺を除く)への分泌線維であって,これは三叉神経の仲だちによって(三叉神経の項参照),その目的地唾液腺に達する.すでに顔面神経管を通っているときに顔面神経には知覚性の線維が加わる.それは三叉神経から出て大浅錐体神経を通ってくるのである.それよりはるかに多く知覚線維の混入が顔面における終枝のところで起る.

a)顔面神経は内耳孔Porus acusticus internusに入ってから茎乳突孔から出るまでに次に述べる枝や結合をもっている:

1. 大浅錐体神経N. petrosus superficialis major(図514, 515, 520).これは膝神経節からでて翼口蓋神経節に達する.461頁および下記を参照せよ.

2. 鼓室神経叢との交通枝Ramus communicans cum plexu tympanico.これは膝神経節あるいは大浅錐体神経の初部からでて鼓室神経叢にゆく(図515).

3. アブミ骨筋神経N. stapedius.これは顔面神経の下行部から発してアブミ骨筋を支配する.

4. 鼓索神経Chorda tympani(図518, 520).これは顔面神経管の下部で背方に向かって開いた鋭い角をなして顔面神経の幹から分れて,鼓索神経小管を通って鼓室に入り,その粘膜に包まれてキヌタ骨の長脚とツチ骨柄との間を通って錐体鼓室裂に達し,ここを通って頭蓋底の外にでて前下方に走り鋭角をなして舌神経と合する.

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 鼓索神経は耳神経節の近くを通りすぎるときに,1つの神経叢(神経細胞をも含む)によってこの神経節と結合している.鼓索神経の線維は中心の方にたどってみると,その大部分が顔面神経の中心部zentraler Teilに移行する.しかし多くの例では鼓索神経の線維の少部分が顔面神経のなかをさらに末梢の方に進むのである.

b)顔面神経は茎乳突孔を出て耳下腺に入るまでに次の枝をだしている:

1. 後耳介神経N. retroauricularis(図520, 522).この神経は茎乳突孔のすぐそばで幹から分れて,後上方に向い,乳様突起の前面を上行する.そして項耳筋に,また側頭頭頂筋の頭頂部の後部,耳介横筋および耳介斜筋ならびに対珠筋に運動性の線維をあたえ,また後頭枝Ramus occipitalisを後頭筋に送る.上に述べた諸筋に達する途中で後耳介神経は頚神経からの(すなわち大耳介神経と小後頭神経の)知覚枝の細い枝ならびに迷走神経の耳介枝と結合する.

[図520]顔面神経が骨の管のなかを通っているところとその結合関係を外方から剖出して示す 右側.(Hirschfeld および Leveilléによる) ( 9/10)

 側頭骨の乳突部と錐体部との外方の部分はほとんど垂直に切断して取り去り,顔面神経管はその全長にわたって開いてある.また鼓室輪と鼓膜とは一部分残してあり,同様に翼突管の内側壁も残してある.

2. 二腹筋枝R. biventricus(図520, 522)は後耳介神経のすぐ下で幹から分れて顎二腹筋の後腹に達する.この神経は茎突舌骨筋に1枝を送る(茎突舌骨筋枝Ramus stylohyoideus).二腹筋枝からは多くのばあい舌咽神経との交通枝Ramus communicans cum n. glossopharyngicoが出ている.

c)耳下腺の内部で顔面神経は2本の主な枝に分れる.それは1本の上枝と1本の下枝とである.この両主枝が繰り返し枝分れして多数の枝となり,これらの枝はいく重にもたがいに結合して耳下腺神経叢Plexus parotidicusを耳下腺の内部に作っている.耳下腺の縁から顔面神経の顔面に分布する多くの枝が放射状に出ている.また耳介側頭神経の顔面神経との交通枝は深いところから出てきて耳下腺神経叢に入る(図522).

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[図521]頭部表層の神経 I(3/5)

 顔面に分布する顔面神経の枝(図521, 522)は次のものである:

1. 側頭前頭枝Rami temporofrontalesは多くは3本あって,これらは頬骨弓を越えて上方,かつ前方に走る.その後方の枝は側頭頭頂筋の頭頂部の前方部,側頭耳筋,小耳輪筋および耳珠筋に分布する.その中央の枝は前頭筋に,また前方の枝は眼輪筋の上部と級眉筋とに分布する.

2. 頬骨枝Rami zygomatici(3~4本).この枝は眼輪筋の下外側部と大頬骨筋とに分布する.

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[図522]頭部表層の神経II(3/5)

 図521の標本の耳下腺を取り去り,眼角筋の一部と広頚筋の一部とを取り除いてある.

3. 頬筋枝Rami bucinatorii(3~4本).この枝は咬筋の中央部を越えて走り,眼角筋と眼窩下筋および犬歯筋を支配し,さらに鼻筋の全部,頬筋および口輪筋を支配する.

4. 下顎縁枝Ramus marginalis mandibulae.この枝は下顎縁に沿って進んでオトガイ部に達し,笑筋・オトガイ三角筋・下唇方形筋・オトガイ筋を支配する.またこの枝は頬筋枝および頚枝と結合している.

5. 頚枝Ramus colli.この枝は広頚筋に被われて下顎角のうしろを下前方に走り,第3頚神経から発する知覚性の頚横神経N. cutaneus colliと結合するが.このものだけが広頚筋に分布している.

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Fujita(Morph. Jahrb., 73. Bd.,1934)は驚歎に値いする解剖標本をもとにして上に述べたのとやや違う顔面神経の枝の分け方を提起している.Fujitaの所見によると,これらの枝の走り方と分れ方は非常にまちまちであり,それも同じ頭部の両側でさえも違っている.すべての枝が相合して1つの網目構造をなしている.知覚神経との結合は大と小の両後頭神経・大耳介神経・舌咽神経(いつも見られるとは限らない)・耳介側頭神経・眼窩下神経・頬神経・オトガイ神経・頚横神経・頬骨顔面神経および頬骨側頭神経(多くのばあい存在する)とのあいだに見られる.これに対して前頭神経の内側枝と外側枝.滑車上神経・滑車下神経および外鼻枝とのあいだには結合が存在しない.--なおまた,動脈と交叉するときには顔面神経の枝のほとんどすべてがその動脈のまわりの交感神経叢と結合をなしている.

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最終更新日 13/02/03

 

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