Rauber Kopsch Band2. 58

XI.副神経N. accessorius(図511, 524, 525, 527)

 脊髄から発する副神経の部分は脊髄根Radix spinalisであり,その延髄から出る部分は延髄根Radix myelencephalicaである.その末梢の分布領域を考慮に入れて迷走神経性の副神経Accessorius vagiと脊髄性の副神経Accessorius spinalisとが区別されている.

 副神経は頭蓋腔から外に出るときに頚静脈孔の神経部において迷走神経といっしょに共通な硬膜の鞘に包まれている.頚静脈神経節と節状神経節とのあいだで迷走神経性の副神経(内側枝Ramus medialisと呼ばれる)は迷走神経の幹に移行する.これに対して外側枝Ramus lateralisは脊髄性の副神経であって,胸鎖乳突筋と僧帽筋とに入り,この両筋の運動を支配する.そのほかにこの両筋は頚神経叢Plexus cervicalisからの枝をも受けるのである.

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 脊柱管のなかを上行するときに副神経の根は非常にしばしば脊髄神経の後根と結合する.それは多くのばあいCIとの結合であり,まれにはCIIあるいはCIIIと結合する.

 外側枝は内側枝から分れる所で迷走神経の頚静脈神経節あるいは迷走神経そのものからの若干の細い枝を受け,これらの枝は外側枝のなかをさらに末梢に走る.ついで外側枝は外側下方かつ後方に向かってすすみ胸鎖乳突筋の内面に達して,この筋を貫きあるいはその内側面に沿ってさらにすすむ.そして外側枝はこの筋の後縁に現われたのちには外側頚部Regio lateralis colliを通って僧帽筋の前縁に達し,この筋の内面にいたり,これに運動性の枝をあたえている.外側枝は胸鎖乳突筋と交叉し,あるいはこれに接して通るあいだにこの筋に運動性の枝をあたえ,その枝のうち1本は必らず3頚神経の1と筋束の.あいだで結合している.この結合枝の線維は副神経の末梢部に進んでゆく.別の線維は副神経の幹に加わって中心の方に進むがその経路はまだよくわかっていない.また外側頚部では第3および第4頚神経から出る枝が副神経と結合する.副神経はもともと純粋な運動性の神経であるが,いろいろな場所で,それはすでにおそらくは上部の頚神経の後根から・頚静脈神経節のところで迷走神経から・第3および第4頚神経の前枝から知覚性の線維を混じ得るのである.内側枝の線維は迷走神経の咽頭枝と喉頭枝の経路に,また心臓枝のなかに移行する.

XII.舌下神経N. hypoglossus(図511, 524, 525, 527, 536)

 舌下神経は舌下神経核からおこり,10本ないし15本の根糸をもって延髄の前外側溝で表面にでる.これらの根糸は集まってかなり大きな通常2本の束をなし,この2束が別々にあるいは1つに合して硬膜の嚢をでて,1つの硬膜鞘に包まれて,舌下神経管を通り頭蓋の外に達する.

 舌下神経管に入るところで舌下神経は後頭静脈洞の静脈と結合している静脈冠Venenkranzに取りまかれる.これを舌下神経管静脈網Rete canalis n. hypoglossiという.頭蓋底の外では舌下神経はまず迷走神経の内側かつ後方にあるが,節状神経節のところでは結合組織によって迷走神経とかたく着きながら,この神経の外側面に移ってゆき,茎突舌骨筋と顎二腹筋の後腹との内側面に沿って下方に走り,次いで下方に凸のかるい弓を画いて曲り前方にすすみ(舌下神経弓Arcus hypoglossi),顎舌骨筋に被われて舌骨舌筋の外面に接してとおり,舌の内部に放散する.

 舌下神経は下行に当たって内頚静脈および内頚動脈と次のような関係にある.すなわち,両血管のあいだを貫くかあるいは後方から両血管の外側に達するのである.次いで外頚動脈の外面および顔面静脈の頚部の内面と交叉し,両者のあいだを前方に通りぬける.

 舌下神経の下行部は迷走神経,第1から第3までの頚神経の前枝および交感神経の上頚神経節と結合するので,舌下神経はもともと運動性であったのが,生理的作用の違う線維を含むようになる.

a)舌下神経と他の神経との結合.

1. 上頚神経節との交通枝Ramus communicans cum ganglio cervicali craniali.

 この枝は舌下神経管のすぐ外で舌下神経から出て上頚神経節に達している.

2. 迷走神経の節状神経節との交通枝Ramus communicans cum ganglio nodoso n. vagi.これを通って迷走神経の線維もまた舌下神経に達している.

3. 1頚神経係蹄との交通枝Ramus commullicans cum ansa cervicali prima.これは第1および第2頚神経の前枝の線維よりなるかなり大きい枝である.この線維の一部は舌下神経のなかを中枢の方向に走り,その大部分がふたたび舌下神経を離れて前頭直筋と頭長筋とに運動性の枝をあたえるが,少部分は舌下神経のなかにとどまっている.この結合枝の線維の半分以上は末梢の方向に舌下神経の一部としてすすみ,舌下神経下行枝Ramus descendens n. hypoglossiの形成に与かり,この枝をへてその線維をオトガイ舌骨筋にまで送っている.

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[図527]右側の迷走神経と交感神経の頚部,胸腔および腹腔の上部における分枝(2/5) (HirschfeldおよびLeveilléによる)

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4. 迷走神経の舌枝Ramus lingualis n. vagiとの結合(478頁参照).

5. 2頚神経係蹄との交通枝Rami communicantes cum ansa cervicali secunda.第2と第3頚神経の枝は上方に走って舌下神経に達し,また一部は3. の項で述べた枝に加わっており,かくして舌下神経下行枝Ramus descendens n. hypoglossiをなす.このいわゆる下行枝はそれゆえ舌下神経線維を含むのでなく,下行頚神経N. cervicalis descendensと結合して頚部の大血管の外面にある舌下神経係蹄Ansa nervi hypoglossiという1つのわなSchlingeをつくる.このわなは下方に凸を画き,しばしば叢状の配列を示している.

 舌下神経係蹄の凸面からは胸骨舌骨筋・胸骨甲状筋および肩甲舌骨筋の下腹への運動性の神経が出る.肩甲舌骨筋の上腹には舌下神経下行枝じしんから出る枝が入る.しかし舌下神経下行枝には上行性の線維も含まれていて,この線維は末梢の方向に舌下神経のなかをすすんで,甲状舌骨筋およびオトガイ舌骨筋への枝としてふたたび舌下神経を去り,なおその一部は舌枝にさえ達している.それゆえ舌下神経下行枝は上行性の線維束と下行性のものとよりなっている.

 変異:舌下禅経係蹄からおこる心臓神経 N. cardiacusがまれに見られるが,おそらくこれは迷走神経あるいは交感神経の心臓枝が舌下神経のなかを通つたものであろうと思われる.

6. 舌神経からの交通枝Rami communicantes(467頁および図524参照).

b)舌下神経の枝

1. 硬膜枝Ramus meningicus.これは舌下神経管のなかで舌下神経から発し,一部は硬膜の小さい孔を通って骨の内部に,また一部は後頭静脈洞の壁に達する.

2. 血管枝Rami vasculares.この枝は1本ないし2,3本あり,舌下神経管から外に出たところで舌下神経の幹より発して,交感神経の上頚神経節から出る細い枝と合して内頚静脈に達する.

3. 甲状舌骨筋枝 Ramus thyreohyoideusは頚神経線維が上行してきたもののつづきである.

4. オトガイ舌骨筋枝Ramus geniohyoideusはHollによれば3. と由来を同じくする.

5. 舌枝Rami linguales.この枝は舌下神経の幹の続きをなし,舌骨舌筋の外面から茎突舌筋,オトガイ舌筋などに達する.舌神経との結合によって舌下神経の運動性の舌枝にはおそらくは知覚性の線維が混入している.

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最終更新日 13/02/03

 

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