Rauber Kopsch Band2. 59

IV.脊髄神経Nervi spinales Rückenmarksnerven

概説

 脊髄からは31対の脊髄神経Nn. spinalesが左右にでる.

 脊髄神経は体幹の各部に次のように分布する.すなわち脊柱の頚部と尾部とを除いて脊髄神経の対の数は脊椎の数と同じである.つまり各側に胸神経は12対,腰神経は5対および仙骨神経は5対が数えられる.これに対して脊椎の数と違うのは頚神経の8対,尾骨神経の1対(あるいは2~3対)である.脊髄神経の第1対は後頭骨と環椎とのあいだで脊柱管を出るし,脊髄神経の第8対は第7頚椎と第1胸椎とのあいだから出るのである.それゆえ脊髄神経の対が頚部では第8対を除いていつもその下方にある椎骨の番号に従って命名される.そして第8頚神経だけは椎骨の番号によって名づけられていない.そのほかの脊髄神経はみなその上方にある椎骨の番号に従って呼ばれるのである.

 つまり第1胸神経というのは第1と第2胸椎のあいだから出る神経であり,第1腰神経と呼ばれるものは第1と第2腰椎のあいだから出るものである.第5仙椎と第1尾椎とのあいだの椎間孔をとおる脊髄神経は第5仙骨神経である.かくして脊髄神経のすべてが椎骨のあいだを通って脊柱管から出る.

 全部の脊髄神経は2をもって脊髄からでる.それは後方の受容性receptorisch(知覚性sensibel)の後根Radix dorsalisと前方の効果性effectorisch(運動性motorisch)の前根Radix ventralisとである.両根はすでに硬膜嚢の内部でたがいに近づき,1重あるいは2重の硬膜鞘に包まれて硬膜嚢からでる.次いでその知覚性の後根が多数の神経細胞を取り入れてふくらんで,脊髄神経節Ganglion spinaleという神経節をなす.

S. 485

これが知覚性の根の起始核であって,知覚神経はこれを中心として中枢がわにも末梢がわにも広がるのである(上記287, 312, 316頁参照).

[図528, 529]皮膚の神経支配と脊髄節との関係

 図528前面図529背面 C. VIIIはTh.1と符号してある領域の中に含まれる.またL. VはL. IVと符号してある領域の中に含まれる.

 これに対して運動性の根はその起始核を脊髄の前柱の中に有っている.この前根は脊髄神経節の構成には全く関与せず,結合組織によってこの神経節に付着しており,これに1つのへこみを生ぜしめて,その内側面を通り過ぎるのである.この神経節の末梢がわで両根の構成要素が混り合う

S. 486

 つまりこの神経節の末梢がわで前後の2根が合して1つの共通な混合性の幹,すなわち脊髄神経N. spinalisを形成し,これが直ちに枝分れをはじめる(287頁および図355参照).

 この共通の幹は典型的には次の4枝に分れる.

1. 後枝Ramus dorsalis, 2. 前枝Ramus ventralis, 3. 硬膜枝Ramus meningicus, 4. 交通枝Ramus communicans(図355, 530).

 これらの根の太さと走向,後枝および前枝の太さ,共通の幹の長さ,脊髄神経節の大きさと位置は胴の各部でかなりの相違を示し,それについてはここで次のことを述べておく.

 各根は,それが下方で発するものほど脊柱管のなか, それもまず硬膜嚢の中でより長く,より急な傾斜を画いて走るのである.第1頚神経が脊髄から出るところはそれに属する硬膜孔Porus duraeおよびそれに属する椎間孔とちょうど同じ高さにある.この場所に向かってその前,後の両根がそれぞれ集まっている.しかしそれより下方では脊髄から出て下行する根が脊髄とのあいだに作る角度は次第に小さくなり,けっきょく馬尾Cauda equinaになるとすべての根がまったく下方に走るように見える(図37.5°はL1の根より下方のものを示す).

 骨格との位置関係:Nuhnのしらべたところによると第1頚神経は大後頭孔の縁と同じ高さで脊髄から出るし,第8頚神経は第6頚椎の棘突起に向い合ったところから,第6胸神経は第4と第5胸椎の棘突起のあいだから第12胸神経は第10胸椎の棘突起に向い合ったところから,第5腰神経は第12胸椎の棘突起の下半に向い合ったところから,第5仙骨神経は第1腰椎の棘突起の上半の高さで脊髄から出ている.後根は一般に前根よりもいっそう太い.その例外をなすのは第1頚神経であって,その後根の太さは前根のおよそ半分しかない.

 最も太いものは頚膨大の範囲では第6頚神経の両根,腰膨大では第2仙骨神経の両根である.

 変異は根束が脊髄から出るところおよびその経過について決してまれでなく見られる.脊髄神経節の大きさは一般にこれに関与する根の太さに相応している(図371, 378).

 第1尾骨神経の神経節は0.5~2mmの長さがあって,硬膜嚢の内部にあり,時としてはこの神経根の上端の近くにあり,時には下端の近くにあり,またはその長さの中央部にあることもある.最下の仙骨神経でもその神経節がときには硬膜嚢の中にあるが,そのほかの神経節はみな硬膜嚢の外部にある.仙骨ではそれらの神経節が仙骨管の外側で,前方は前仙骨孔に,後方は後仙骨孔に通ずる管のなかにある.

 脊髄神経の混合性の幹が椎間孔から出るときには,この幹が多くのばあいすでに前枝と後枝とに分れている.仙骨のところではこの分れるのがなお仙椎間管Canales intersacralesの内部で行われ,それぞれ前仙骨孔と後仙骨孔とを通って外に出る.最下の2対の脊髄神経は後仙尾靱帯の外側縁と尾椎体とが囲むところの疎性脂肪組織の入っている隙間を通って脊柱管の外に出る(図375).

 第1対の脊髄神経を除いて後根は前根よりもいっそう太いが,前枝Ramus ventralisと後枝Ramus dorsalisとの太さの関係はその逆である.それは前枝が後枝よりもいっそう大きな分布領域をもつのである.それゆえ前枝の方がいっそう太い.ただ第1頚神経だけは前後の両枝がほぼ同じ太さであり,第2頚神経の後枝は前枝よりも太い.

1. 後枝Rami dorsalesは本質的に背部の皮膚と固有背筋とに行くものである.

2. 前枝Rami ventralesは体壁前面の皮膚と筋とに分布し,また上肢下肢もその支配区域に属している.

3. 硬膜枝Rami meningiciは脊柱管と脊髄膜とに分布する.

4. 交通枝Rami communicantesは交感神経系の仲介と関与のもとに内臓と脈管とに達している.また交通枝は交感神経の線維を脊髄の方へ向かっても導くのである(図399).

S. 487

共通の神経幹のおのおのはそれが分れる枝の全部をもって普通はその神経に相当する体分節Körpersegmentの範囲にとどまる.また上に述べた第1次の4枝のそれぞれが各自の属する領域を守つている.しかしそれには例外がある.そのような例外の1つがたとえば頚部の上部に見られる.第2頚神経の後枝の皮枝は大後頭神経N. occipitalis majorと呼ばれて,知覚性の神経として後頭部を越えて頭頂部にまで広がっている(図519, 531533).

 個々の脊髄神経がその上下両方の広がりにおいて大体にはそれに属する体分節にとどまっているとはいえ,それらの枝が決してたがいにはっきりと境されているのではない.それどころか相隣る分節神経の枝がたがいに結合することは非常にしばしば見られ,場所によってはこれが全く典型的な現象となっている.

 たとえば頚部と仙骨部とにおける後枝Rami dorsalesの結合はいつも見られるものである.しかし前枝Rami ventralesにおける結合と叢形式はそれよりもずっと大きな役割をなしている.全体としてみると人間では各側に前根の作る大きな神経叢が2区別される.それは体幹の上部と下部にある神経叢であり,これらは神経叢のない胸部によってたがいに隔てられている.

 体幹上部の神経叢は頚神経の全部と第1胸神経との前枝がたがいに結合し,しばしば第2胸神経の一部もこれに関与してできている.これは上方は脳神経と結合している.

 体幹下部の神経叢は腰神経および仙骨神経の全部と第1尾骨神経との前枝からなり,これは上方に第12胸神経と結合している.

 しかし後枝Rami dorsalesおよび前枝Rami ventralesがそれぞれ後方と前方で神経叢を作っているのみでなく,硬膜枝Rami meningiciおよび交通枝Rami communicantesもまたはなはだ豊富に発達した神経叢を示すのである.硬膜神経叢Plexus meningicusは各側とも脊柱管の全体にわたっており,腸神経叢Plexus intestinalisもやはり全く同じである.腸神経叢という名前は内臓神経系に属するあらゆる神経叢の全体を意味する.なお,この神経叢はその結節点に神経細胞の集りをもっている点でもはなはだ特徴がある.

[図530]前根と後根の線維が脊髄神経の共通な幹からその4本の枝に移行する経路

 1 後根;2 前根;3 脊髄神経節;4 後枝;5 前枝;6 硬膜枝;7 交通枝;8 交感幹神経節. (交感神経系の項をも参照せよ.)

2-59

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る