Rauber Kopsch Band2. 60

脊髄神経の5つの区分

1. 頚神経Nn. cervicales, Halsnervenは8対よりなる.

 頚神経の第1対は後頭骨と環椎とのあいだで脊柱管を去り,その下方に続くものは各2つの頚椎ごとにそのあいだから出る.第8頚神経は最下頚椎と第1胸椎とのあいだから出る.頚神経は第6頚神経まではその太さを増し,しかも第6頚神経が最も太くて,それより下では太さを減ずる.

2. 胸神経Nn. thoracici, Brustnervenは12対あり,その第1対を除いてみなその太さが非常に細い.しかし下部の胸神経はふたたびいくらか太さを増す.

 下部の頚神経と第1胸神経が太いことは上肢帯と自由上肢に属するよく発達した筋とはなはだ著しく広がっている皮膚のためである.胴では支配すべき筋がそれにくらべるとずっと少い.そのうえに胸郭を被っている筋肉の一部は全く胸神経の支配をうけず,頚神経脳神経とから支配されているものである.上肢の筋に属して胸部にあるものおよび幅の広い背筋が胸神経の支配を受けていない.そこで胸神経はますます発達が悪くなり,その代りに頚神経はますますよく発達している.

S. 488

 第1胸神経は第1胸椎と第2胸椎のあいだから出るが,最下の胸神経は最下の胸椎と第1腰椎のあいだから出ている.

3. 腰神経Nn. lumbales, Lendennervenは5対よりなり,すでに下部胸神経でみられた太さの増加がここではいっそう程度を増して継続する.

 この増大はもっぱら前枝におこるのである.なぜならば腰神経の後枝は太さが細く,下方に向かってその太 さが減じさえするのである.第1腰神経は第1と第2の腰椎のあいだから出て,最後の腰神経は最下の腰椎と第1仙椎とのあいだから出ている.

4.5対の仙骨神経Nn. sacrales, Kreuznervenとこれに続く尾骨神経N. coccygicusとは下方にゆくとその太さを著しく減ずるが,1仙骨神経は分節神経の全体を通じて最も強大なものである.(原文のS. 486には腰膨大で第2仙骨神経の両根が最も太いとある.何れにせよこの辺りが最大である.(小川鼎三))

 第1~第4仙骨神経は仙骨間管を通って脊柱管から外に出る.それらの後枝は後仙骨孔をへて後方に走り,前枝は前仙骨孔を通って前方にすすむ.第5仙骨神経は最下仙椎と第1尾椎とのあいだから,また第1尾骨神経は第1尾椎と第2尾椎とのあいだから外に出る(図375参照).

5. 尾骨神経Nn. coccygici, Steißnerven

 尾骨神経としては普通はただ1だけが肉眼的に認められ,これが1尾骨神経である.第2および第3尾骨神経とよばれるものは普通は終糸の中を走る顕微鏡的な細い線維束に含まれており,そこにはまた立派に出来上がった脊髄神経節細胞の小さい群もみられるのである(Rauber).ときには第2尾骨神経が異常によく発達して,終糸から離れており,その場合にはあらゆる点から普通の脊髄神経と同じといえるのである.人の終糸のなかに含まれる神経線維の数は平均100を越えている.

A.脊髄神経の後枝Rami dorsales(図529, 531533)

 脊髄神経の後枝は次のものに分布する:

1. 頭頂部がら尾骨の尖端までの範囲で背部の皮膚Rückenhaut.

 背部の皮神経が分布する大きな領域の外側の境は左右とも次の1線により示される.すなわちこの線は頭頂部から分界項線の中央を越えて下行して僧帽筋の外側縁に達し,この縁に沿って肩峰にまで続く.そこからこの境界線はまず内側に傾き,そのさい肩甲骨の下角と交叉し,背部の中央から外側に向かってすすみはじめ,腸骨稜の中央を通り,大転子を被う皮膚に達する.この場所から境界線は上方に向かって軽く凸の弓を画いて走り尾骨の尖端に達している.

2. 狭義の背筋Rückenmuskulatur.

 上に述べた境界線と固有背筋の外側の境界とを比較するとわかるように,背方の皮枝の分布領域は2個所すなわち肩峰部Akromialgegendと大転子部Trochantergegendにおいて後根の支配する筋領域dorsales Muskelfeldを越えてかなり著しく広がっている.

 皮神経と筋神経の分布するこの長い左右対称的な領域の内部で,神経は決してあちゆる場所で脊椎の分節Virbelsegmenteに正確に一致して分布しているわけではない.脊椎の分節は1つの体分節が有つその他の(すなわち筋と神経を除く)いろいろと違った種類の成分について,たとえば腸の分節Darmsegmentや皮膚の分節Hautsegmentについて正確な表現をなすものではない.しかし境界を定めるのに神経分布を利用できないとすると皮膚の分節がどれだけの広がりをもっているかは定められない.それゆえ実際上は第2頚神経の後枝の皮枝は頭頂部にまで達するということがわかるだけである.中部の頚神経の後枝の皮枝もやはりなおいくらか上方に向かった進み方をしており,下部の頚神経と胸神経のそれはわずかに下方に向かって走っている.急な傾斜をなして下行するものは腰部および上啓部に達する皮神経である.

 後枝に支配される筋に関しては,それに属する運動性の神経は全く分節的な境を守つているのである.

 おのおのの後枝は内側枝Ramus medialisと外側枝Ramus lateralisとに分れる.この関係は胸神経の分布領域において最もはっきりと目立っている.内側枝と外側枝とは両方とも知覚性および運動性の線維を含みうるのである(図533).

S. 489

[図531]項部の神経と血管(I) 左側は表層.右側は僧帽筋の上部と項板状筋の中央部とを取り去ってある.

1. 頚神経8対の後枝

 脊髄神経の多くはすでに椎間孔の内部で後枝と前枝とに分れている.この分れた場所から頚神経の後枝は関節突起の外側面を廻って背方に走るが,第1と第2の頚神経は特別な関係を示すのでこれらは別にする.半棘筋の外側面で各後枝がそれぞれ内側枝Ramus medialisと外側枝Ramus lateralisとに分れる.

α)外側枝Rami lateralesは純粋に運動性であり,板状筋,最長筋,腸肋筋に分布する.

β)内側枝Rami medialesは知覚性の線維も運動性の線維ももっている.

S. 490

[図532]項部の神経と血管(II)

 僧帽筋と頭および項板状筋を取り除き,横突後頭筋は大後頭神経が貫くところのすぐ下方で切断して折り返してある.

 皮枝は脊椎の棘突起のそばで皮膚の下に達する.第3頚神経の後枝の皮枝はN. occipitalis tertius(第3後頭神経)という1本の上行性の枝となり,これは項筋の深部で2頚神経の後枝(大後頭神経N. occipitalis major)の皮枝と結合し,あるいは項中隔のすぐそばで単独に僧帽筋の腱を貫いて,皮膚の中を外後頭隆起から頭頂に向かって広がり,大後頭神経の諸枝と結合する.

 その運動性の枝は短い小枝で,多裂筋・横突後頭筋・棘突間筋に達する.

 第2と第3後枝との結合はAnsa cervicalis dorsalis(背側頚ヒモ)とよばれるものである.同じような結合がその他の頚神経の後枝の内側枝のあいだにも見られる.これらの結合は半棘筋の下にあり,Plexus cervicalis dorsalis(背側頚神経叢)と呼ばれる.

S. 491

 1および第2頚神経の後枝は次のようなぐあいになっている(図531より533まで).1頚神経・すなわち後頭下神経N. cervicalis primus s. suboccipitalisは脊柱管からでた後は椎骨動脈の下方で環椎の椎骨動脈溝のなかにある.この溝においてほとんど同じ太さの2枝に分れ,これらの枝はほとんど直角をなしてたがいに離れてゆく.1後枝Ramus dorsalis Iはそれより下方の脊髄神経の後枝とは反対にもっぱら筋に分布する.その筋は大,小後頭直筋と頭掛筋ならびに環椎斜筋である.環椎斜筋を貫通する1枝によって,ときに第2頚神経の後枝と吻合している2頚神経N. cervicalis secundusは脊柱管からでたのちには環椎斜筋の下縁で前枝Ramus ventralisと後枝Ramus dorsalisとに分れる.後枝は前枝よりはるかに太くて,環椎斜筋の縁を廻って背方に走り,後頭骨と脊椎とを結ぶ短い諸筋と横突後頭筋とのあいだに達する.そして3枝に分れる.すなわち1本ずつの上行枝下行枝および上方に凹の弓を画いて走る本幹の続きをなす枝である.上行枝は頭最長筋に分布し,板状筋の内側縁で1皮枝を後頭部に送るが,この皮枝は必ずしもいつも見られるとは限らない.下行枝は横突後頭筋の尖頭の中に入って第3頚神経の後枝と吻合する.第3の枝である大後頭神経N. occipitalis majorは横突後頭筋を貫き,さらに僧帽筋の健を貫いて,かくして正中線より2~3cm離れたところで分界項線のあたりで皮膚の下に達し,ここでは平たくなり,繰り返し枝分れして頭頂部にまで広がり,時にはさらに冠状縫合のあたりにまで達する.

 これらの枝は一部は後頭動脈の枝に沿って走っている.その走行の途中で僧帽筋の腱を貫く場所は,後頭動脈が貫く場所と一致することもあり,またこの神経の一部が分離して後頭動脈とは別のところを通っていることがある.

2. 胸神経12対の後枝(図529, 533)

 これらの後枝は上下に隣り合った2つの横突起のあいだから出てその分布領域にいたるもので,内側枝Ramus medialisと外側枝Ramus lateralisという典型的な2本の枝に分れる.

 頚神経の後枝では外側枝が純運動性,内側枝が運動と知覚の混合性であったのに対して,胸神経の後枝は次の点で相違している.それは内側枝も外側枝も必ず筋神経をもつほかに皮神経をも出しうるということである.最もしばしば見られることは1~第8胸神経の後枝は強い内側皮枝を,9~第12胸神経は強い外側皮鼓を送り出すことである.内側皮枝は脊椎の棘突起のそばで僧帽筋を貫き,さらに下方では僧帽筋と広背筋とを貫いている.下方の4本の外側枝は広背筋のおよそ筋肉と腱との境のところで外に出る.

 外側皮枝Rami cutanei laterales は最長筋の下で分れるとすぐに外側に向い,この筋と腸肋筋とのあいだの隙間に現われ,これら両筋の胸郭の範囲にある部分の全体にわたって分布している.

 内側皮枝Rami cutanei medialesは多裂筋と半棘筋とのあいだに出て,ここから上述の皮枝を棘突起のそばに送りだし,また回旋筋,多裂筋半棘筋および棘筋に分布するのである.

3. 腰神経5対の後枝(図529, 533)

 腰神経の後枝も同様にそれぞれ1本の内側枝外側枝に分れる.

 その内側枝は細くて多裂筋にゆく筋神経であり,ただ下方の腰神経だけが細い内側皮枝を出している.

 外側枝は下方に向かってその太さを減じ,腰肋突間筋と仙棘筋の腰部とに分布する.下方の2対の腰神経の外側枝は筋肉のなかですっかりなくなる.しかし第1~第3腰神経からの外側枝は腸肋筋を貫いてかなり太い皮神経を送り出しており,この皮神経は腸骨稜を越えて下行し,啓部の上部に達し,外側は大転子のあたりに達する.これが上臀皮神経Nn. clunium cranialesである(図558).

S. 492

[図533]全脊髄神経の後枝の広がり 左側は皮枝だけ,右側は筋枝と若干の皮枝を示す(HirschfeldおよびLeveilléによる)

S. 493

[図534]頚部の神経と血管 表層

4. 仙骨神経5対と尾骨神経1対との後枝(図529, 533)

 第1~第4仙骨神経の後枝は大きい後仙骨孔を通り,第5仙骨神経の後枝と第1尾骨神経とは浅後仙尾靱帯の外側部を貫いて背方に出る.これらの枝は上行枝と下行枝によってたがいに結合して後仙滑神経叢Plexus sacralis dorsalisをなすが,この神経叢は仙腸関節の後面と仙結節靱帯の起始の上にあって,次の諸枝を送りだしている.

1. 内側枝.内側枝は多裂筋の下端部と仙骨および尾骨の後面を被う皮膚に分布する.

2. 外側枝.外側枝はただ第1から第3までの仙骨神経にだけ属し,大臀筋の起始を貫いて中臀皮神経Nn. clunium mediiとなり上啓部の内側部の皮膚に達する.--仙腸関節への関節神経Gelenknervenは第1~第3仙骨神経だけからあたえられる.

S. 494

B.脊髄神経の硬膜枝

 各脊髄神経からは1本の硬膜枝が出て,これが直ち 1本の細い枝を受けとるが,この細い枝は交感神経幹の枝からきているのである,硬膜枝はそれゆえ脊髄性の1根(その神経線維は50本)と交感性の1根(その神経線維は約100本)とからなるもので,これができあがるとすぐに椎間孔を通り,逆もどりして脊柱管のなかに達する.

 そこで直ちに太さの異なる2本の枝に分れる.太い方の枝は脊柱管のなかを,その前壁に沿って上方にすすみ,細い方の枝は下方に走る.これらの枝がそれぞれ隣りの硬膜神経N. meningicusの出す枝と相合し,かくして左右各側に長く上下に延びた硬膜枝の係蹄Ansae meningicaeからなる腹方のきれいな縦の連鎖が生じ,これらの係蹄は上下にならんで脊柱の全長にわたっており,上方には頭部に続いている.これは全体としてPlexus meningicus ventralis(前硬膜神経叢)と呼ぶことができる.右側と左側の係蹄の凸縁は内側に向かっていて,細い小枝によってたがいに結合している.脊柱管の後壁にも細い神経が広がっており,これは上に述べた硬膜枝から枝分れしたものであるか,または交通枝から発したものであり,上行枝と下行枝に分れて,反対がわの神経と結合していることもあり,かくしてPlexus meningicus dorsalis(後硬膜神経叢)ができている.

 頭蓋腔の壁における神経の広がりは大体においてこれと同じ規則に従っている.それに属する神経はすでに脳神経の項で三叉神経の3本の枝.迷走神経および舌下神経のそれぞれの硬膜枝Rami meningiciとして記載された.これらにも交感神経の小枝が加わっている.

C.脊髄神経の前枝Rami ventrales(図355, 530, 549)

 概説. 脊髄神経の前枝の分布領域は体壁の前方部の皮膚と筋肉とであって,従って体肢の皮膚と筋肉も含まれる.なぜならば後者は体壁の前方部から伸び出して特別な形をしたものであるからである.体壁の前方部の皮膚の一部が外陰部の形成に使われるので,そのため外陰部もまた脊髄神経の前枝の分布する広い領域の一部をなしている.

 隣り合った脊髄神経の前枝はしばしばたがいに結合し,そのばあい1本の神経が隣りの神経に全部あるいは一部が移行している.かくして鋭角をなしたり,まれには弓状を画くわなが生ずる.これは係蹄Ansaeと呼ばれる.係蹄は胸神経の範囲では存在が不定であるが,ほかのすべての脊髄神経では必ず存在していて,相異なる6つの神経叢の起りをなず.これらの神経叢のおのおのは多くのばあい4本の脊髄神経の前枝が集まってできている.

2-60

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る