Rauber Kopsch Band2. 61

1.頚神経叢Plexus cervicalis, Halsgeflecht CI~CIV(図525, 534536)

 頚神経叢は上部4つの頚神経(CI~CIV と略記(「ある一定の分節神経の前枝」という長い表現を繰り返さなくてもいいように以下においてはC, Th, L, S, Coと呼ぶが,このばあい常に前枝のみを意味し,その分節神経の全体を意味するのではない.ロ一マ数字によりその分節Segmentの順序が示される.(原著註))する)の前枝よりなり,これらの枝が吻合枝により結合して1つの神経叢をなしている.神経が合して作るわな自身は係蹄Ansaeと呼ばれる.

 第1頚神経の前枝はそれが後枝と分れるときには環椎の椎骨動脈溝のなかにあり,椎骨動脈によって被われている.脊柱頚部の前面では前頭直筋と外側頭直筋とのあいだに現われる.CIIは椎骨動脈と第1肋横突間筋とのあいぎから出る.内側および前方には頭長筋・頚長筋・前斜角筋の停止尖頭があり,外側および後方には中斜角筋・肩甲挙筋・頚板状筋の停止尖頭がある.

 頚神経叢はその高さの頚椎の側面で肋横突起の後結節に停止する諸筋の前方にあり,胸鎖乳突筋の上部によって被われている.

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a)頚神経叢の結合枝

1. CIIIから出て副神経が胸鎖乳突筋に入る前にこれと結合する枝.2. CI~CIIIから出て舌下神経と結合する枝.3. 交感神経幹との交通枝.4. CIから出て椎骨動脈神経叢Plexus vertebralisと結合する1小枝.5. CIVから出てCVと結合する1小枝.

b)頚神経叢の皮枝
1. 小後頭神経N. occipitalis minor(図519, 521, 522, 531534)

 これは多くのばあい第2の係蹄より発し,胸鎖乳突筋の後縁でその中央より上方で現われる.頭板状筋の上を急な傾斜で上方に走り,胸鎖乳突筋の停止腱と交叉して,多くは2本の枝に分れる.この両枝が後頭部の外側部に分布し,また大後頭神経および大耳介神経とつながる.

2. 大耳介神経N. auricularis magnus(図519, 521, 534)

 これが普通には頚神経叢の最も太い枝である.CIIIから発して,小後頭神経のすぐ下方で胸鎖乳突筋の後縁で外にあらわれ,直ちにこの筋の外面に進み,外側浅頚静脈の背方を走り,はじめはなお広頚筋に被われていて,耳垂への方向をとって上行する.下顎角の高さで前後各1本の終枝に分れる.その後枝Ramus posteriorは耳の後方にある皮膚ならびに耳介の後面の皮膚で枝分れして,小後頭神経や後耳介神経のだす小枝とここで結合する.前枝Ramus anteriorは耳下腺咬筋部の皮膚・耳垂の皮膚・耳介凹面の皮膚に達する.

3. 頚横神経N. cutaneus colli(図519, 534)

 頚横神経は多くのばあいCIIIから出て大耳介神経のすぐ下方にあり,広頚筋に被われてほとんど水平に胸鎖乳突筋の外面の上を舌骨に向かって前方に走り,各1本の上方の枝と下方の枝とに分れる.その上方の枝は幹の続きであって,上枝Rami cranialesという上行性の枝を舌骨上部の皮膚にあたえている.これらの枝のうち1本が顔面神経の頚枝の下行性の1枝と吻合し,かくして浅頚係蹄Ansa cervicalis superficialisができる.これによって顔面神経の運動性の小枝が広頚筋の下部に達するのである.広頚筋は顔面神経からだけで支配される.

 下方の枝はただ1本の神経をなすか,あるいは(下枝)Rami caudalesといういく本かの小枝よりなり,この下枝が広頚筋を貫いて舌骨下部の皮膚に分布する.

4. 鎖骨上神経Nn. supraclaviculares(図525, 534)

 これはCIVから出るかなり太い束であって,その枝の数は個体により異なっており,胸鎖乳突筋の後縁で頚横神経のすぐ下方で1列にならんだ枝として現われる.

これらの枝はそこから下行しつつ一部は前方に,一部は後方に,また一部は外側方に放散し,広頚筋に被われており,たダ細い枝をもって広頚筋を貫くだけである.これらの枝は3つの群をなして鎖骨を越えて,胸と肩の皮膚に達する.

 その前方群は多くのばあい相当に太い1本の神経をなしていて,それが6~8本の小枝に分れる.これらの小枝は鎖骨の胸骨端のところを越えてすすみ,大胸筋の上内側部を被う皮膚に分布する.また若干の小枝が胸鎖関節に達する.中央群は多くのばあい3本の枝よりなっていて,これらの枝は鎖骨め中央部を越えてすすみ,胸部の上外側部の皮膚で枝分れして第4肋骨の高さにまで達する.

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 後方群は多くのばあい1本の神経であって,これは僧帽筋の前縁を越えて走り,枝分れして三角筋の前部を被う皮膚および肩峰部の皮膚に分布する(図534).1本の運動性の小枝がこの群から枝分れして出て(しばしば独立して発していることもある),副神経と結合し,これといっしょになって僧帽筋に達する(この僧帽筋枝Ramus trapeziusについては下記参照).この神経叢の知覚性の領域については図519, 535を参照せよ.

c)頚神経叢の筋枝
1. 分節的に配列する枝で深部の椎前筋群にいたるもの

 頚長筋・頭長筋,・前頭直筋・外側頭直筋・肋横突間筋・前斜角筋と中斜角筋・肩甲挙筋に分布する.

2. 下行頚神経N. cervicalis descendens

 下行頚神経についてはすでに舌下神経との結合の項で述べた.これはC II-vC IVからでる小枝よりなり,これらの小校は鋭角をなして合して1本の小幹となる.この小幹は胸鎖乳突筋に被われて内頚静脈の前を内側かつ下方に走り,そのさい若午の小枝を頚動脈および頚静脈の神経叢にあたえ,肩甲舌骨筋の中間腱の上方で舌下神経の下行枝と結合して舌下神経係蹄Ansa nervi hypoglossiをなす(484頁および図525参照).下行頚神経によって支配される筋は胸骨舌骨筋・胸骨甲状筋・甲状舌骨筋・オトガイ舌骨筋・肩甲舌骨筋である.

3. 僧帽筋枝Ramus trapezius (B. N. A. およびJ. N. A. にはこの名前がない) (図525, 534)

 この枝はかなりに太いもので,特にCIVから,また一部はCIIIから発し,しばしば鎖骨上神経の構成成分となっている.この枝は副神経のすぐ下方で表面に現われ,この神経のそばを平行して走って僧帽筋に達し,この筋への支配にあずかる.この枝と副神経がたがいに神経叢のような連鎖をなしていることがある.

4. 横隔神経N. Phrenicus(図223, 524, 525, 536, 537, 541)

 横隔神経はCIVから出るが, CIIIあるいはCVも1本の細い根を出してこの神経に加わっている.横隔神経は主として運動性の線維よりなるが,知覚性の線維をも含み,後者は心膜や胸膜や腹膜の諸部にゆくのである.またこの神経は若干の小枝を鎖骨下動脈神経叢に送っている.

 横隔神経は前斜角筋の前面の上を下方,ならびに内側に走り,鎖骨下動脈の前に達す篇そして鎖骨下動静脈のあいだをへて胸鎖関節のうしろで胸腔に入る.胸腔に入るところでは多くのばあい内胸動脈の内側面に接している.次いで心膜横隔動静脈とともに胸膜頂の前面を通りすぎてその内側面にいたり,そこから肺根の前方を通り心膜と壁側胸膜の心膜部とのあいだを下方かつ後方に走って横隔膜の上面に達する.そこで本幹に対して多くは直角に放散するところの終枝に分れる.右の横隔神経からは1本の小枝が下大静脈に達している.

 左右の横隔神経の経路が全く同じではない.左のものは心尖の後方を回って曲り,前方に凹の弓を描いて横隔膜に達するが,右のものは右腕頭静脈の外側面に,次いで上大静脈の外側面に接して走り,大静脈孔のいくらか前方かつ外側で横隔膜に逮する.左のものは右のものよりいっそう長い経過をとり,1/7ほど長い.その横隔膜に入るどころが右の横隔神経ではいっそう後方で内側にあり,左のそれはいっそう前方かつ外側にある(図223).

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 胸腔内では横隔神経は細い心膜枝Ramus pericardiacusを心膜の前面にあたえる.少数の細い少枝がある間隔をおいて胸膜頂と壁側胸膜の縦隔部とに送りだされる.

この神経の太い終枝である横隔枝 Rami phreniciはそのすべての部分が運動性のものというわけではない.右の横隔神経は各1本の前方の終枝と後方の終枝とに分れ,左横隔神経は各1本の前方,後方および外側の終枝に分れる.

 後方の終枝は左右とも1本の腹枝Ramus abdominalisを横隔膜の下面に送る(これは右側ぞは横隔膜の大静脈孔を通り,左側では横隔膜腰椎部の1つの尖頭あるいは食道孔をとおる).この終枝は両がわで交感神経の枝といっしょになって横隔神経叢Plexus phrenicusという神経細胞を含む1つの神経叢を作っている.交感神経の項を参照せよ.

 いま述べた交感神経との下方の結合のほかに上方の結合もある.それはすでに頚の下部において交感神経の下頚神経節あるいは第1胸神経節から,またときには中頚神経節からも細い1本の小枝がでて横隔神経に達しているのである.

 上に述べたC IIIから出る横隔神経の細い根が舌下神経係蹄のなかをある距離だけ走っていることがあり,その根が出てくるところは舌下神経の1枝であるかのごとく見える.また横隔神経はしばしば鎖骨下筋神経からあるいは直接に下部の頚神経の1つからの枝を1本受けとる.この枝は近年はNebenphrenicus(副横隔神経)と名づけられている.副横隔神経はいろいろと異なる経過をしたのちに多くのばあい第1肋骨の高さで,すなわち肺門より上方でCIVからおこるHauptphrenicus(主横隔神経)に達する.肺門より下方でこれに合することは趣めてまれである.--W. FelixはNebenphrenicus(副横隔神経)を20%に見たが,E. Ruhemann(Verh. anat. Ges.,1924)は全例の半数以上に認めている.

[図535]第2,第3,第4頚神経の知覚線維の分布領域 (L. Bolk)

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最終更新日 13/02/03

 

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