Rauber Kopsch Band2. 70

C. 交感神経系の骨盤部 Beckenteil des Sympathicus
1. 分枝形成および結合関係(図551, 565, 572)

 骨盤部の神経節からは次にのべる枝と結合とがでている:

1. 節間枝Rami intergangliares, 神経節のあいだの縦の索であって,単一であったり,あるいは重複していたりする;--2. 交通枝Rami communicantes,脊髄神経の幹と結合している;--3. 横枝Rami transversi,両側の交感神経幹のあいだを横に結合する枝である.横枝は腰部および胸部でも必ず存在するとは限らないものである;--4. 交感神経幹からでて腸骨動脈神経叢および血管にいたる多数の枝.

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2. 交感神経系の骨盤部に属する神経叢

 下直腸神経叢Plexus rectalis caudalis, kaudales Beckengeflecht.

 これは上直腸神経叢の続きから生じていて,初めは1本の索をなし,これが小骨盤の内腸骨動脈の内側面に接し,さらに直腸の外側面に達している.小骨盤の底では肛門挙筋に密接して,広がって1つの豊富な神経叢となり,これは交感神経幹からの諸枝を受け,さらにSIIとSIIIとの枝を受けることによって著しく強くなっている.

 この神経叢からは骨盤内臓へ多数の神経がでる.直腸神経叢と膀胱神経叢は男女ともに存在する.この2つの神経叢のあいだに男では精嚢腺と精管の神経叢Plexus glandulae vesiculosae et ductus deferentisがあり,これは前立腺神経叢Plexus prostaticusによって陰茎海綿体神経叢に移行し,膀胱神経叢Plexus vesicalisと続いている.女ではこれらの神経叢の代りに子宮腟神経叢Plexus uterovaginalisがある.--下直腸神経叢からは次に述べる2次の神経叢sekunddires Geflechtがでる:

α)膀胱神経叢Plexus vesicalis.膀胱神経叢は下直腸神経叢の前下部ならびに精管神経叢および前立腺神経叢(子冨腔神経叢)からできている.この神経叢から出る枝は初めは血管に沿ってすすみ,後には独立して走るところの膀胱神経Nervi vesicalesである.膀胱神経叢は有髄線維に富み,これらの線維はSIIIとSIVとから来る.尿管の下部に分布する神経は同様に下直腸神経叢から出ており,膀胱神経叢と結合している.尿管に達する神経のうちの1本は骨盤神経叢の初まりの部から発して,尿管と骨盤の血管とが交叉するところで尿管に入る.第2の尿管への枝がさらに下方につづいてあり,第3のものは第1仙骨神経節から出てこれに達する.

β)精管神経叢Plexus ductus deferentis,精嚢腺神経叢Plexus glandulae vesiculosaeおよび前立腺神経叢Plexus prostaticus.

 この3者の合したものは精嚢腺と精管膨大部とを取りまき,神経細胞を含む1つの神経叢でできていて,これから出る線維は精管に伴なって走る.そのうちの1本が鼡径管に達して,精巣動脈神経叢とともに精巣に達する.下方では精嚢腺神経叢は前立腺神経叢に移行し,後者は前立腺と肛門挙筋とのあいだにあって,小さい神経節を含んでいる.

 この神経叢にもSIIIとSIVからの線維が達し,Eckhardtはその中に陰茎の勃起神経Nn. erigentesが存在することを証明した.LovénおよびNikolskyによればこの勃起神経の経路のなかに神経細胞があるという.陰茎の血管を狭くする線維は陰部神経N. pudendalisのなかに含まれている(Lovén).

[図572]新生児の交感神経幹の骨盤部 弱拡大.s1~s4 4個の仙骨神経節;c 対をなしてはいないが,なお2つの神経節が合したものであることを暗示している尾骨神経節とそれから末梢へ出るかなり太い枝,これは尾動脈に伴なって走る.尾骨神経節の背方には小さい介在神経節が1つある;ri 最下部の2個ないし3個の仙骨神経節のあいだを結ぶ横枝.

γ)陰茎海綿体神経叢Plexus corporis cavernosi penis.これは前立腺神経叢の続きをなして,尿道隔膜部に沿い,次いでいく本かの枝となって深会陰横筋を貫き,陰茎根の背側面に達し,そこで陰部神経の諸枝と結合している.この結合からは陰茎海綿体神経Nn. corporis cavernosi penisが出る.これには若干の小陰茎海綿体神経Nn. corporis cavernosi penis mmoresと各側に1本ずつの大陰茎海綿体神経N. corporis cavernosi majorとがある.このうち前者は陰茎海綿体の根のなかに入る.(大)陰茎海綿体神経は尿道海綿体とそのがわの陰茎海綿体とに枝を出し,後者の背側面に沿って前方に走り,陰茎背神経の諸枝といく重にも結合し,けっきょく陰茎海綿体のなかで終る.

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少数の小枝が他側に達して,他側の陰茎海綿体神経と結合さえしている.陰茎海綿体神経は主として無髄線維よりなっている.

β')子宮腟神経叢Plexus uterovaginalis.女では子宮腟神経叢が下直腸神経叢の下部の主要な部分をなし,腟の上部および子宮頚の外側にあって,ここから枝がでてこれらの器宮(子宮と腟)の前壁と後壁とに達し,また腟に接して下方に走り,子宮に接して上方にすすむ.SIIIとSIVから, FrankenhäuserによればSIIからも,脊髄神経の線維が豊富にこの神経叢にやってくる.子宮腟神経叢の分枝のなかに腟の中央部から子宮頚の上端までの範囲で多数の小さい神経節が存在する.この神経節は腟円蓋のそばでかなり多く集まっている.これらの子宮頚毒神経節Paracervicale Ganglienが板状に融合している1群をFrankenhäuserはCervikalknoten(子宮頚神経節)という名で記載した.この学者によるとその上縁から子宮に分布する神経の大部分がでている.その比較的少部分が直接に直腸神経叢から出るのである.その同じ領域からは子宮の下部へ分布する線維および膀胱と腟への線維も発している.子宮底では子宮神経叢の小枝が卵巣動脈神経叢の枝と結合している. 

γ')陰核海綿体の神経は大陰核海綿体神経N. corporis cavernosi clitoridis majorと小陰核海綿体神経Nn. corporis cavernosi clitoridis minoresであって,これらは子宮腟神経叢に由来して,陰核海綿体神経叢Plexus corporis cavernosi clitoridisを形成している.

D. 交感神経系の頭部Pars cephalica systematis sympathici(図573)

 交感神経系の頭部に属する(副交感性の)神経節としては,その構造および発生からみて次のものがそれとみなされる:すなわち耳神経節Ganglion oticum,翼口蓋神経節Ganglion pterygopalatinum,毛様体神経節Ganglion ciliare,顎下神経節Ganglion submandibulare,舌下神経節Ganglion sublinguale.

 交感神経系の頭部は詳しくいうと次のようなぐあいになっている:

 上頚神経節と舌下神経・迷走神経・舌咽神経との結合はすでに上に述べた(551, 552頁).上頚神経節は2本の上方への枝kraniale Ästeをだし,その1本は太く,他のものは比較的に細いのである.後者は頚静脈神経N. jugularisであって,頚静脈孔の神経部に向い,ここで2本の小枝に分れて,その1本は迷走神経の頚静脈神経節に達し,他の1本は舌咽神経の外神経節に達する.

[図573]交感神経系の頭部(右側)

III, V, VII, IX, XI1, は脳神経の番号である.

1 上頚神経節;2 下方の節間枝;3 上心臓神経;4および5 第2から第4までの頚神経との結合枝;6 第1頚神経および舌下神経と上頚神経節とを結合する枝;7 迷走神経(節状神経節)との結合;8 舌下神経との結合;9 頚静脈神経,それが舌咽神経(IX)および迷走神経(X)と結合することを示す;10内頚動脈神経;11頚鼓神経;12 鼓室枝;13 頚鼓神経;14 耳管枝;15 小浅錐体神経;16大浅錐体神経;17 膝神経節;18 翼突管神経;19 耳神経節;20 翼口蓋神経節;21 毛様体神経節;22 毛様体神経;23毛様体神経節の長根;24 毛様体神経節の交感根;25 3つの眼筋神経と三叉神経の第1枝(眼神経)とにいたる交感神経の小枝;26 眼動脈への交感神経の小枝;27下垂体と硬膜へいたる枝;28半月神経節への枝;29上喉頭神経への枝;30外頚動脈神経叢への枝;31咽頭枝;32および34 内頚動脈;33 眼動脈.

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 上頚神経節から上方にでる太い方の枝は内頚動脈神経N. caroticus internusであって,これは内頚動脈に伴なって頚動脈管のなかに入り,そこで内頚動脈を取りまく内頚動脈神経叢Plexus caroticus internusを形成する.この神経叢はいく重にも脳神経と結合している:すなわち

1. 鼓室神経叢 Plexus tympanicusとの1本あるいは2本の結合枝,すなわち頚鼓神経Nn. caroticotympanici(図515).

2. 深錐体神経N. petrosus profundus.これは内頚動脈神経叢の外側枝からでる.それを介して上頚神経節Ganglion cervicale cranialeを翼口蓋神経節Ganglion pterygopalatinumと結合させ,主として灰白線維(無髄)よりなり,節間枝Rami intergangliaresすなわちZwischensträngeの部類に属している.

3. 大浅錐体神経N. petrosus superficialis majorとの1結合枝,これは頚動脈管の内口の近くで大浅錐体神経に接着しており,この神経に沿って後方に走り,顔面神経管裂孔に入り顔面神経に達する.

4. 外転神経N. abducensへの若干の結合枝,これらの枝は外転神経が内頚動脈の外側壁に接して海綿静脈洞のなかを走るあいだにこれに達する.

5. 動眼神経N. oculomotoriusへの若干の結合小枝.

6. 滑車神経N. trochlearisへの1小枝,

7. 半月神経節Ganglion semilunareと三叉神経の第1枝(眼神経)とへいたる細い結合枝.

8. 毛様体神経節Ganglion ciliareの交感根Radices sympathicae.

9. 下垂体Hypophysisへの枝.

10. 内頚動脈そのものへの枝.この枝は内頚動脈の周りに繊細な神経叢を形成し,この血管の諸枝に沿ってすすむ.

4.交感神経の基本構造elementarer Bau des Sympathicus

 交感神経の組立てには本質的な成分,すなわち神経細胞と神経線維のほかに,なお結合組織と血管とが関与している.

1. 完全に出来上がった交感神経vdllig ausgebildeter Sympathicusのなかでは神経細胞はその個体のすべての場所において必ずしも同一の構造をもっているわけでない.たしかに圧倒的に多いのが多極細胞であるが(図574578),しかし双極細胞もあるし,そのうえ単極細胞および無極細胞apolare Zellenも観察されている.突起の数によって交感性のニューロンが決定されるのではなくて,たずその由来によるのである.これらの突起のうちの1つはいうまでもなく神経突起(軸索突起)である.しかしStöhr jr. (1929)によるとほとんどすべての交感性のニューロンにおいては神経突起と樹状突起とを区別することは不可能である(しかし図576, 577を比較せよ).核は多くは1個だけ存在し,それは小さい胞状の典型的な神経細胞核であり,1個あるいはそれ以上の円い核小体をもっている.

 多数の核(2~14個)を有つ神経細胞は精嚢腺神経叢の若干の神経節にみられる(20%).この多核性はすでに胎生後期において存在する.年令がすすむとともに多核性の細胞の数はいっそう少くなってくる.Watzka, M., Anat. Anz. 66. Bd.,1928.

 神経原線維,ニッスル小体(虎斑物質),内網装置Binnengerüstはもちろん交感性のニューロンの細胞体においても証明される.

 クローム親性細胞とその性質を示す小体もまた交感神経において証明されている.

2. 神経線維Nervenfasernは有髄性あるいは無髄性である.有髄性の線維の太さはすこぶるまちまちで,無髄性のものの太さは狭い範囲内で変動する.最も細い無髄線維は二叉に分れており,多くはその表面が全く平滑である.

 神経節のなかで交感性のニューロンが相互のあいだで結合するぐあいは,すでに中枢神経系のニューロンについて説明したのと同じようである(289, 290頁):すなわち1つのニューロンの突起は終末分枝となって他のニューロンの細胞体やその突起の周りに終わっている(図576, 577).Stöhr jr. はこれと反対に交感神経系の合胞体性の構成という見解をもっている.

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 交感神経によって支配される諸器官の内部では交感性の神経線維が終末する前に先ず比較的疎な,次いでいっそう繊細な神経叢あるいは網をなし,これから終末枝が出ている(図569).結合組織の中で交感性の線維がいわゆる「自由」終末“freie”EndigungenをなすことはStöhr jr. によれば無いのであって,これは不完全な染色によって現われ,われわれはそれに欺かれるのであるという.

 Stöhr, Ph., jr., Handb. mikr. Anat., Bd. 4,1928およびActa neurovegetativa 1. Bd.,1950.

[図574]交感神経細胞(黒)と副細胞(着色してある)

ヒトの腹腔神経節から得たもの(Ph. Stöhr jr.1939による)拡大×200.

[図575]交感神経細胞とその被包形質胞体Hüllplasmodium

ヒトの上頚神経節より得たもの.(Ph. Stöhr jr.1939による)拡大×500

[図576]交感神経細胞,これは樹状突起dと神経突起nとを有っている;e 側枝Cの終末分枝(細胞周囲網Perizellulares Geflecht);f 別の細胞からの線維,これから側枝c が出ている.(SALAによる)

[図577]交感神経細胞

1 細胞体;2~4 隣り合せている交感神経細胞の細胞体,これらは細胞1の樹状突起(d)の終末分枝により作られた細胞周囲の籠perizellulare Körbeの中に閉じこめられている;n 神経突起.(Retziusによる)

3. 副細胞Nebenzellen(A. Kohnはこれを神経原副細胞neurogene Nebenzellenとよんだ)は群をなしたり,索をなしたりして(図574)神経細胞のあいだにあり,また神経細胞の周りに被いとして存在する(図575).これらはPh. Stöhrによれば形質胞体Plasmodiumを形成し,これはまた神経細胞ともつながっている.

 交感神経細胞とその被包形質胞体Hüllplasmodiumを合わせたものはPh. Stöhr jr.(Z. Zellforsch., 29. Bd.,1939)によれば「形態学的にもまた生理学的にも分けることのできない1つの単位である」という.

4. 結合組織はそれぞれの個々の細胞の周りに特別な1つの被いを成し,この被いの内面には外套細胞Kapselzellenがあり,またこの被い(図575)が神経細胞の枝の上にも続いている.

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比較的大きな神経節の内部には線維性の結合組織が豊富に存在する.またこれが各神経節の表面にかたい外方の被いを形成している(図369).

[図578]交感神経細胞の諸型, 成長したウマの上頚神経節よりえたもの

A 短い突起が密な叢をなしている細胞;B細く短くて,分枝した突起を有つ細胞;C 神経突起;D突起の数は少なく,かつ短いもしやもしやした毛のような突起を有つ細胞;F繊細な少数の突起をもつ細胞;G 2つの隣り合った細胞を囲んで終るところの2本の突起を有つ細胞.(Cajal)

5.交感神経の分布する領域,その線維の機能上の分類および線維の走行について

 交感神経の末精での分布領域は身体の全部にわたっている.その枝分れは多くは脳脊髄神経と血答との経過に従ってなされている.しかし他の一部は独立した経路をもっている.

 交感神経に支配される3つの器官領裁Organgebieteがある:それは1. 平滑筋がそれであり,横紋筋も一部それに加わる.2. 脈管および 3. 腸管系と泌尿生殖器系と皮膚系とに属する腺である.

 筋肉Muskulaturに関しては,心筋,食道と腸管との平滑筋,呼吸道・泌尿生殖器ならびに眼の平滑筋を特にあげるべきである.

 脈管Gefäßeに関しては交感神経に支配されている筋層が特に挙げられるが,しかし筋層だけというわけではない.

 腺性の器官drüsige Organeに関しては,これに達している神経の一部は脈管神経に属するが,他の一部は直接に分泌を支配する種類のものである.

 交感神経が分布する上記の器官領域では多少の差はあるがその交感神経系に広い範囲にわたって知覚性の線維が混在している.

 最後にまた求心性に伝導する比較的短い線維について述べると,これらの線維はその一端が粘膜のなかにあり,他端は近くの交感神経節あるいは比較的離れている交感神経節に終り,その神経節が支配する領域の平滑筋に反射が仲介される.この種の線維の存在は生理学的実験によって知られている.

 まとめて見ると,生理学的には次のような線維の種類があるといえる:それは運動性・脈管運動性・分泌性・知覚性の線維と反射線維とである.運動性の線維の一部は抑制神経Hemmungsnervenの性質を示し,他の一部は促進性beschleunigendにはたらき,興奮をおこす神経などのグループに属している(293頁参照).

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最終更新日 13/02/03

 

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