Rauber Kopsch Band2. 76

II. 眼球付属器 Organa oculi accessoria

1. 眼瞼Palpebraeと結膜Tunica conjunctiva(図650657)

 眼瞼(まぶた)Palpebrae, Augentiderは顔面の軟部がつくる小さいひだである.上眼瞼(うわまぶた)と下眼瞼(したまぶた)Palpebra superior et inferior, oberes und ecnteres Lidがあって,いずれも眼球の前にあり,それが上下に動かされることによって眼瞼裂が開いたり閉じたりする(図650652).

 眼瞼の前面は凸で眼瞼皮膚面Facies cutanea palpebraeとよばれ,後面は凹で眼瞼結膜面Facies conjunctivalis palpebraeという.眼瞼にはまた自由縁と付着縁がある.上下の自由縁が内外両側で合するところは内側および外側眼瞼交連Commissurae palpebrarum nasalis, temporalisとよばれる.眼瞼の自由縁は眼瞼縁Margo palpebralisといい,幅およそ2mmで,前稜と後稜がある.これをおよび後眼瞼縁Limbus palpebralis cutaneus, conjunctivalisというが,両者とも鋭く形成されているのは上眼瞼だけである(図652).眼瞼縁において外面の皮膚が折れかえって,粘膜の性質をもつ内面の層につづくのである.この粘膜は眼瞼の後面を眼窩縁の近くまで被い,それから急に方向を変えて眼球の表面にひろがる.すなわちこの粘膜は眼球角膜縁から上下に8~9mm,左右に約10mmはなれたところで眼球の表面に達し,そこから強膜の前面を角膜縁のところまで被っている.それから先は角膜の表層へ移行してここでは異なった形になっている.この粘膜は眼瞼と眼球とを結びつけているので結膜Tunica conjunctlva Bindehautとよばれる.結膜のうち眼瞼の後面をなしている部分を眼瞼結膜Tunica conjunctiva palpebrae,眼球を被っている部分を眼球結膜Tunica conjunctlva bulbiと名づける.眼瞼結膜から眼球結膜に折れかえるところは結膜円蓋Bindehautgewölbeで,これにはおよび下結膜円蓋Fornix conjunctivae superior et inferiorがある.また結膜の全体によってつくられる「粘膜のポケット」には結膜嚢Saccus conjunctivae, Konjunktivalsackという名がついている.結膜嚢の内部で内眼角のところに,粘膜の小さいひだが外側へ凹を向けて斜めに走っているのが見られる.これが結膜半月ヒダPlica semilunaris conjunctivaeで,わずかに第三眼瞼drittes Augenlidというべきものを現出している.多くの動物では第三眼瞼がよく発達して可動性をもち,瞬膜Membrana nictitans, Nickkautとよばれる.

 上眼瞼と額との境をしめすものは眉毛(まゆげ)Supercilium, Augenbrauneである.

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 これは眼窩口の縁の上方にある皮膚の高まりで.前頭筋と眼輪筋の線維をうけており,ここに外側へむいている短い剛い毛が密生している(図650, 651).

 下眼瞼と頬とのさかいは瞼頬溝Sulcus Palpebromalarisという不鮮明な皮膚の溝によって示されている.

 眼を開いているときには(図651),上眼瞼に横走する深い皮膚の溝がとくにはっきり認められる.これは前頭眼瞼溝Sulcus frontopalpebralisとよばれ,眼を閉じているときには浅い溝として見られるにすぎない(図650).これに対応して下眼瞼にあるのが瞼頬溝Sulcus palpebromalarisで,これは下の方を見たときにいっそうはっきりとあらわれる.また上眼瞼の中央を上眼瞼溝Sulcus palpebralis superior,下眼瞼の中央を下眼瞼溝Sulcus palpebralis inferiorが走っている.

[図650]左の眼瞼裂 目を閉じたところ(×1)

[図651]左の眼瞼裂 目を開いたところ(×1)

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 日本人では上眼瞼溝が多くの場合(76%, ONishi)眼瞼縁のすぐ上方にある(Adachi, MitteiL med. Fakultät Tokio,1906).(藤田恒太郎:生体観察(1952)114~121頁に日本人の眼の特徴がまとめてある.)

 眼瞼裂Rima palpebrarum, Lidspalteはおよそ30mmの長さで,眼を開いたときには扁桃形である.外眼角(めじり)Angulus oculi temporalisはとがっており,内眼角(めがしら)Angulus oculi nasalisはまるく彫りこんでいる.(日本人では蒙古ヒダが内眼角にかぶさつて,従って内外の両眼角ともにとがっていることが少くない.(小川鼎三))眼瞼裂のうち内眼角のところでまるく囲まれた部分は涙湖Lacus lacrimalis, Träinenseeとよばれる.涙湖の底には赤みを帯びた低い丘があって涙丘Caruncula lacrimalisとよばれる.その側方に半月ヒダがある.涙湖の囲みが終るところに,上下の眼瞼に1つずつの小さい円錐状の高まりが後眼瞼縁にある.これが涙乳頭Papilla lacrimalisであって,その先端には涙点Punctum lacrimale, Tränenpunktがみられる.

[図652]ヒトの眼瞼と眼球前方部の中央矢状断 ×4(H. Virchowによる)

A. a. 上瞼板動脈弓;A. i. 上眼瞼挙筋の深板;A. s. 同じく浅板;C. b. 眼球結膜;C. T. i., C. T. s. 眼球被膜;Fo. 上結膜円蓋;Fr. 前頭骨の骨膜;L. 上眼瞼挙筋;M. 上顎骨の骨膜;N. 前頭神経;Ob. 下斜筋;0. c.,0. i. 眼輪筋;0. m. 眼輪筋の辺縁部;0. P. i.,0. P. s. 眼輪筋の眼瞼部;O. t. i., O. t. s. 眼輪筋;Per. 眼窩骨膜;P. s. 下斜筋の鞘;Re. i., Re. s. 眼窩脂肪体. R. i. 下直筋の腱;R. s. 上直筋の腱;S. i., S. s. 眼窩隔膜;Sc, 強膜;T. i. 下眼瞼板;T. s. 上眼瞼板;V. 下斜筋の鞘.

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これは涙小管Ductulus lacrimalisという細い管が外へ開くところである.涙乳頭は上のものより下のものの方がよく発達し,またいっそう外側に寄っている(図653).

 モーコ系人種では内眼角と涙丘とが上眼瞼から斜めに内側へ走るひだによって被われている.このひだを瞼鼻ヒダPlica palpebronasalisまたは蒙古ヒダMongolenfalteとよぶ.ヨーロッパ人でも同じようなひだが一部の子供にみられて,エピカントゥスEpicanthusとよばれるが,(臨床では内眥贅皮とよぶ人が多いが,内眼角贅皮の方がいくらかでもやさしくなるだろう.epiは上, canthusは眼角を意味する.(小川鼎三))これは成長とともに消失する.

 前眼瞼縁Limbus palpebralis cutaneusに沿って睫毛(まつげ)Cilia, Augenxvimψernがはえている.これはいくつかの列をなして密生する毛で,上眼瞼のものの方が数が多く,長さもやや大で,上方へそっているのに対し,下眼瞼のものは比較的短くて下方へまがっている.腱毛は眉毛と同じように保護装置である.涙湖の周囲には腱毛がなく,眼瞼の前面に生えているのと同様な細くて短い毛があるだけである.後眼瞼縁Limbus palpebralis conjunctivalisに沿って眼瞼腺Glandulae tarseae(マイボーム腺Meibomsche Drtisen)という眼瞼の脂腺の変形したものが整然と1列をなして開口している.眼瞼の前縁と後縁のあいだの面は,眼を閉じたときに,上眼瞼のものと下眼瞼のものとがぴったりと接し合って,しかも眼球とのあいだにもすきまを残さないようにできているのが普通である.

 以前にはここにすきまがあるはずとされて,それは三角形の横断を示すであろうと考えられたので,それを涙河Rivus lacrimalisとよんだ.しかしこのすきまは後眼瞼縁のかどがとれている少数の例にしか発達していない.

 眼瞼はその中にある結合組織性の1枚の線維板によって,その必要な丈夫さをあたえられている.これがすなわち眼瞼板Tarsus palpebraeであって,この板は眼球の弯曲に対応してまがっており,眼瞼の自由縁に近い部分だけにあって,眼瞼結膜に属している.そのために眼瞼の内面はしわのない平滑な面をなしており,眼瞼が眼球にうまく密接するようになっている.上眼瞼じしんが下眼瞼より丈が高いので,眼瞼板も上眼瞼のもの(Tarsus palpebrae superioris)の方が下眼瞼のもの(Tarsus palpebrae inferioris)より丈が高い(10対5) (図653, 654).

 眼瞼板は眼瞼の中央部で最も丈が高く,内外両側へ次第に狭くなっている.長さは約20mmで,最大の厚さは全長の中央のところで0.7mmである.眼瞼板はフェルトのように固く組みあった結合組織束でできている.内眼角のところでは内側眼瞼靱帯Ligamentum palpebrale nasale(図662, 663)が眼瞼板に結合してその線維構成に移行している.内側眼瞼靱帯は斜めに立っている板で,内眼角から起こって上顎骨の前頭突起にまで伸びて,皮膚の直下で涙嚢の盲端部の前面にある.眼を閉じているときにはその前稜を容易に触知することができる.外側眼瞼靱帯Lig. palpebrale temporaleは眼輪筋と眼窩隔膜とのうしろ(Eislerによる)にあって,眼窩口縁の2~3mm後方で頬骨につく.

 眼瞼の外皮は他の場所と同様に表庫と真皮と疎性の皮下組織とがらなるが,脂肪組織がうすくてとぼしいことを特徴としている.真皮の乳頭はわずかしか形成されないが,ただ眼瞼縁のところは例外で,乳頭が高さと数を増している.小さい毛や脂腺や小汗腺が眼瞼の全表面に散在する.真皮には色素細胞と形質細胞が普通にみられる.

[図653]上下の眼瞼板(右)

後方(内側)からみる.上眼瞼の縁に瞼板腺の開口が多数の点としてみられる.

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 日本人の眼瞼は眼輪筋の前にもうしろにも多少とも脂肪組織をもっている(Adachi 1906).ヨーロッパ人にも眼瞼に脂肪組織があらわれる場合があることはToldt-Hochstetterの解剖学図譜(Wien 1951)の第303図が示している.

 眼瞼の皮下組織には内側から眼輪筋の眼瞼部Pars palpebralis m. orbicularis oculiが接している.横の方向に眼瞼を貫く眼輪筋の筋束は,眼瞼縁の近くまで続いている.よく発達した特別な1筋束--リオランの睫毛部Pars ciliaris(Riolani)が後眼瞼縁にまで達していて,後眼瞼縁を眼球におしつけるのに有効に働いている.この筋束の大部分の線維は瞼板腺の導管の前に,小部分はうしろにある.

 上眼瞼においては眼輪筋のうしろに上眼瞼挙筋M. levator palpebrae superiorisの腱がひろがっている.幅が広くて厚さの薄いこの腱は,比較的強力なその後(下)部をもって眼瞼板の上縁と前面とについている.この腱の弱い前(上)部は眼輪筋の後面に沿って下り腱毛の毛包のところまできて,細かく分れて眼輪筋の束のあいだを通りぬけ,眼瞼の皮膚に停止している(図652).

[図654]右眼の眼瞼の瞼板腺

後面(結膜面)からみる.(×4) 腺の内容をスダンIIIで染めてある.

[図655]上眼瞼の結膜の断面 瞼板部の上部.(H. Virchow)

[図656]下眼瞼の結膜の断面(H. Virchow)

C 毛細管, E 上皮, P 形質細胞.

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また側方の腱束は,内側では滑車の下で,外側では上下の涙腺のあいだで,いずれも骨に付着している(図622).

 下眼瞼では上眼瞼挙筋に相当するような特別の牽引筋がない.しかし下直筋と下斜筋とから起こって眼窩隔膜ならびに眼瞼板に結合する筋膜葉が下眼瞼にかなり強い支えをあたえるとともに,それらの筋が収縮するさいに眼輪筋とある程度拮抗するはたらきをしている.

 両眼瞼にはさらにまた瞼板筋Mm. tarseiという平滑筋がひろがっている.上眼瞼の瞼板筋は上眼瞼挙筋の腱が眼瞼板にひろがって終る部分につづいていて,その後面を占めて挙筋の筋質部の前端部から眼瞼板にまで伸び,後者に停止している(図652).また下眼瞼の瞼板筋は結膜の直ぐ下にあって結膜円蓋から瞼板縁にまで伸びている.

 さていままでに述べた諸層のうしろには,眼瞼の瞼板部に眼瞼板そのものがあり,その後面には眼瞼結膜がついている.そのあいだの結合はかたくてずれ動くことがない.これに対し眼瞼の眼窩部では,疎な性質の結膜下組織が結膜をその基盤をなす部分と結びつけている.結膜の表面はここでは平滑であるが,これに反して瞼板部では多数の溝や小窩があるために,ビロードのような感じである.これらの溝やくぼみは網状にたがいに結合し,結膜のいわゆるBuchtensystem(凹窩系)を成すとともに,他方また表面に多数の小突起を生ぜしめており,かくして結膜のビロード状の部分が現出する.しかし後眼瞼縁にごく近いところでは,結膜がまた平滑になっている.この部分には大きい乳頭があるのだが,それらによって生ずるデコボコは,それを被う上皮によって完全に均らされてしまうのである.

 結膜の上皮は眼瞼縁のところだけでなく,後眼瞼縁をこえてさらに1/2~1mmのあたりまでは表皮に似た性状を示すが,それから先は薄くなって重層円柱上皮である.これは上眼瞼では2層であるが,下眼瞼では3層または4層である(図655, 656).杯細胞Cellulae caliciformes, Becherzellenが存在するが,その数はまちまちである.

 結膜の結合組織性の基層すなわち結膜固有層は,瞼板部の結膜の大部分において細網組織の性質をしめし,そこにいろいろな量のリンパ球や形質細胞がみとめられる.

 日本人の眼瞼結膜の上皮には眼瞼縁に近いところに色素があり,稀には眼瞼の中ほどの高さまで色素がある.(松岡秀夫(日眼会誌36巻10号,1932)によると,日本人の健常結膜では,その眼瞼縁部には被検例の100%に,円蓋部には85%に,その中間部には67%においてメラニン色素の沈着を見る.色素は上皮細胞内,上皮細胞間,ときに結膜下に存在する.(小川鼎三))しかしヨーロッパ人でも程度はごく弱いけれども,やはりここの上皮に色素がふくまれることがある(Adachi).黒人ではこの色素が広くゆきわたっている(Pröbsting).

 上下の眼瞼ともに腺がはなはだ豊富である.まず眼瞼の皮膚部には次のものがある:

1. 脂腺Glandulae sebaceae, Talgdrüsenは毛に付属しており毛包から生ずるが,ここには小さいかだちのものしかない.随毛にも脂腺が存在する.

2. 汗腺Glandulae sudoriferae, Schweißdrüsenは小さいものが少数ある.これに属する特別なものに:

2a. 腱毛[]Glandulae sudoriferae ciliaresがある.これはモル腺Mollsche Drüsenともよばれ,普通の汗腺より変形したもので,かえって単純なかたちをした糸球状腺で,眼瞼縁にあり,毛包腔に開口するのが常である.

3. 瞼板腺Glandulae tarseae(マイボーム腺Meibomsche Drüsen) (図652, 654).

 これは上下の眼瞼の眼瞼板のなかにある細長い胞状腺で,眼瞼板のほず全高を占め,後眼瞼縁の近くで小さい孔をもって開口している.上眼瞼に約30個あり,下眼瞼ではそれよりやや少ない.それぞれの瞼板腺は眼瞼縁に向かって垂直に走る1本の長い導管と,この導管の側方について眼瞼板の厚さを越えることのない単純または複合の多数の腺胞からなっている.

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 腺胞の壁は多層上皮でできており,その内方の細胞が脂肪変性におちいる.瞼板腺は特殊な形をした脂腺であって,脂肪性の分泌物をだす.

 結膜には次の腺がある:

1. 杯細胞Becherzellen,その数は個体によってまちまちである.

2. 上皮管Epithelröhrenは眼瞼板を被っている結膜固有層のなかへ上皮が短い円柱状の陥入をしたものである.上皮管は2層の上皮で被われ,その上層の細胞は円柱状であり,下層の細胞は丈がひくいか,または扁平である.上層は粘液細胞をある時は多く,ある時は少なくふくんでいる.

3. 管状瞼板腺Glandulae tarseae tubulosae,これは瞼板部の涙腺tarsale Trdinendrüsen(H. Virchow)ともいい,眼瞼板の中にある小さい腺で,マイボーム腺の底と眼瞼板の眼窩縁とのあいだにある.その構造は涙腺と同じで,単層円柱上皮で被われた管状の終末部をもっている.

4. 副涙腺Glandulae lacrimales accessoriae(クラウゼ腺Krausesche Drüsen)は8~20個あって,上下の結膜円蓋にのみ存在する.小さい塊まりをなして集まっており,涙腺と同じ構造で,涙を分泌することは確かとおもわれる.

 結膜下結合組織subkonjunktivales Bindegewebeはリンパ様組織の性質をもっており,リンパ小節がところどころに散在する.これを結膜リンパ小節Lymphonoduli conjunctivales という.

 リンパ小節は結膜円蓋のところにあって,弓状の線をなして並んでいる.ある1例では30個の小節がかぞえられた.しかしこれら特別のリンパ小節を別としても,結膜嚢の壁には遊走細胞が瀰漫性にたえず浸潤している.

 Adachi, B., Mikroskopische Untersuchungen über die Augenlider der Affen und des Menschen (insbesondere der Japaner), Mitteilungen der med. Fakultät Tokyo 1906.-Virchow, H., Mikroskop. Anatomie der äußeren Augenhaut und des Lidapparates in Graefe-Saemisch, Handbuch der Augenheilkunde, Leipzig 1910.

結膜半月ヒダPlica semilunaris conjunctivae (図651, 657)

 半月級嚢の根もとの所にはいくつかの例において硝子軟骨の小板が見いだされている.これはいろいろな哺乳動物で第三眼瞼の支えをなす著明な軟骨板と相同のものである.またヒトの半月ヒダの根もとで何度か観察されたことのある1つのブドウ状の小さい腺はハルデル腺Hardersche Drüseの痕跡であるといわれる.

 半月ヒダの根もとの軟骨片はサルでは必ず存在するもののようである.Giacominiはこの軟骨片を白人で0.73%に,黒人で75%に見いだした.日本人ではAdachiによれば20%に存在する. Bartels(Arch. mikr. Anat., 78. Bd.,1911)は25人の南アフリカ人で12回この軟骨片を見たのである.

[図657]結膜半月ヒダと涙丘 1婦人のものを水平断 (H. Virchowによる)

B 眼球結膜,P 半月ヒダ,Ga 管状腺,Gs脂腺,J リンパ性浸潤,C 涙丘

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涙丘Caruncula lacrimalis(図651, 657)

 涙丘の山腹の部分の上皮は眼瞼結膜の上皮と同じであるが,頂のところでは上皮網胞がさらにたくさん重なっており,またここには粘液細胞が群をなして存在する.皮下組織は小さいブドウ状の脂肪細胞群をふくんでいる.頂のところにごく小さい毛がはえていることがある.たとえこの小毛があってもなくても,脂腺がこ,ではかな殊良く発達している.また形の変つた糸球状腺や副涙腺の構造をした小さい腺もみられる.

眼球結膜Tunica conjunctiva bulbi(図605, 623, 652)

 眼球結膜は弾性線維に富む疎な性質の結合組織によって,ずれて移動しうるように強膜についている.乳頭はない.角膜の縁のところで上皮と角膜固有質とのあいだに1層の疎性結合組織がはいって来て,この層は角膜の外境界板が始まるところで終わっている(図623).角膜の縁にあるこの隆起の幅は上方と下方では1~1 1/2 mmであり,内側と外側ではわずか1/2~1mmである.そしてその中に586頁で述べた角膜辺縁係蹄網Randschlingennetz der Hornhautがあり,またここにはたくさんの棍状小体がある.

 眼球結膜の上皮は眼瞼結膜の上皮にくちべるとその厚さも細胞層の数もいっそう大きいことが特徴である.その構造はすでに角膜上皮に似たところがあり,次第にうすくなって角膜上皮へ連続移行している.

 有色人種では眼球結膜の上皮が多少とも色素を含んでいる(Fischer).(日本人では全例に眼球結膜の色素沈着がみとめられる.松岡秀夫,308頁脚註参照.)ヨーロッパ人についても著者(Kopsch)は調査例数のおよそ1/3に,やはり斑紋状の色素沈着を確認することができた.いろいろな人種の眼の色素沈着についてはHauschildがまとめて報告している(Z. Morph. u. Anthrop.,12. Bd.,1909).

眼瞼の脈管と神経

 眼瞼の動脈内側眼瞼動脈Aa. palpebrales nasalesと外側眼瞼動脈Aa. palpebrales temporalesである.前者は眼動脈の前方部からたいてい1本の共通の小幹として起り,あるいはまた眼角動脈からも起る.後者は涙腺動脈の枝であって前者より細い.これらの動脈が上眼瞼動脈弓Arcus tarseus superiorと下瞼板動脈弓Arcus tarseus inferiorとをなしている.上下の両動脈弓は眼輪筋と眼瞼板のあいだで眼瞼縁から遠くないところを走っている(図652).上眼瞼には(より稀には下眼瞼にも),いっそう外方の第2の動脈弓が眼瞼板の外縁の近くにある.

 眼瞼の静脈は内側へは上および下眼瞼静脈Vv. palpebrales superiores, inferioresによって眼角静脈または眼静脈に注ぎ,外側へは浅側頭静脈に注いでいる(第I巻図681参照).

 眼瞼結膜には内側および外側眼瞼動脈から結膜小枝Ramuli conjunctivalesという枝が来ている.眼球結膜には毛様体小枝の結膜枝がきており,これは生体の眼でみることができる.角膜縁のところで毛様体小枝から角膜辺縁係蹄網(図648)が起る.

 結膜の静脈は結膜静脈Vv. conjunctivalesであって,眼瞼静脈および強膜上静脈Vv. episcleralesに注いでいる.

 リンパ路については第I巻図727を参照されたい.

 神経:涙腺神経N. lacrimalisは常に上下の両眼瞼に枝をあたえている.上眼瞼では涙腺神経の枝が前頭神経の外側枝R. lateralis n. frontalisの枝と交わりあっていて,そのために上眼瞼の一部はこの2つの神経によって同時に支配されるのである.さらに内眼角のところから眼窩下神経N. infraorbitalisの枝が上眼瞼にはいっている.

 頬骨顔面神経N. zygomaticofacialisも実際には眼瞼の神経支配にあずかるのである.滑車上神経N. supratrochlearisおよび滑車下神経N. infratrochlearisは内眼角のところで上下の両眼瞼の内側部へ枝をあたえている.

 眼瞼緑では乳頭のなかに多数の棍状小体Endkolbenがある.また眼瞼結膜の瞼板部ではそのひだの中に棍状小体があり,眼球結膜では粘膜固有層のなかにこれがある.どこでも棍状小体は表面近くにあって,球状ないし楕円形をしている.全く同様な棍状小体が角膜の血管のある領域(辺縁部)や眼球結膜にもある.これとは別に有髄の知覚神経線維のなかには,棍状小体に終らないで上皮内に自由終末をなしているものがある.そのほか無髄線維も結膜にあって,これはマイボーム腺および血管に分布している.

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2. 涙器Organa lacrimalia, Tränenorgane

 涙器は涙Lacrimae, Tränenflüßigkeitを分泌する涙腺と,それを導くための排水路ともいうべきものからできている.涙腺は前頭骨の涙腺窩Fossa glandulae lacrimalisの中にある.排水路ははなはだ異なる2つの部分からなっている.その1つは外側部であって,涙腺の導管から先ず涙をうけとる結膜嚢とくにその円蓋である.涙は結膜円蓋を介して涙腺の領域から内眼角へと導かれる.第2は内側部であって涙点からはじまる.内眼角の涙湖に導かれた液体は涙点から吸いとられて,涙小管をへて涙嚢にはいる.涙嚢は下鼻道に開口する鼻涙管の上端部をなしている(図658).

a)涙腺 Glandula lacrimalis, Tränendrüse (図658, 660, 662)

 涙腺は上眼瞼挙筋のひろがった腱によって,大きさの異なる次の2部に不完全に分れている:

a)いっそう大きくて密集した上部-これを眼窩部Pars orbitalis という.

b)ゆるく結合された小葉からなる下部-眼瞼部Pars palpebralis,これは結膜円蓋の上にじかに接している(図662).

 眼窩部(上涙腺)には凸の上面と凹の下面のほか前縁と後縁がある.前縁は眼窩口縁に沿い,後縁は眼窩の奥ゆきの前部1/4のところに達している.矢状方向より横[の方向に長くて,前後には12mm,左右には20mmである.

 眼瞼部(下涙腺)は比較的ゆるく寄り集まった小葉をもっている.これらの小葉が結膜円蓋の外側部の上にあって,外眼角にまで伸びてきている.上涙腺が眼窩の上縁のうしろにかくれているのに対して,下涙腺は眼窩口縁の下に顔を出している.下涙腺は上眼瞼板の上縁に平行し,4~5mmの距離でそれから隔たっている.

 上涙腺には排出管Ductuli excretoriiとよばれる導管が3~5本ある.これらの導管は下涙腺の小葉のあいだを走って結膜円蓋に達し,ここで眼瞼板の縁から4~5 mmはなれたところで,たがいに不定な間隔を保って開口する.最も外側にある排出管が最大の口径をもち(0.45mm),外眼角を通る矢状面上にある.上涙腺の導管は下涙腺の中を通るときに,後者の小葉からの管をたくさんとり入れている.しかし下涙腺にはなお独自の導管が3~9本あって,これは不規則ながら,とくに上涙腺の導管の内側に配置されている.

 涙腺に属するものとしてさらに副涙腺Glandulae lacrimales accessoriaeと管状瞼板腺Glandulae tarseae tubulosaeがある.これは上に述べた涙腺と発生の由来をともにするばかりでなく,構造も同じである.両者についてはすでに623頁に記した.

[図658]右側の涙器

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 涙腺の徴細構造は耳下腺のそれとはなはだよく似ている(図659).涙腺は複合管状腺に属し,その導管は2層の円柱上皮で被われている.導管は長い介在部Schaltstückにつづく.これは背の低い上皮で被われた細い管である.介在部につづいて分泌を行なうところの終末部がある.これは漿液性の腺細胞でできた厚い壁によって囲まれた部分である.その腺細胞は顆粒をもつ円柱状のもので,長いあいだ分泌をつづけると小さくなり,またいっそう顆粒状になって濁ってきて,鮮明な境界がみえなくなる.基礎膜には核をふくむ星状の肥厚部があって,たがいに吻合しあって1種の「かご状の骨ぐみ(Korbgerüst)」をつくっている.かごの目は基礎膜のうすい部分によって完全にふさがれている.唾液腺の導管で非常に目立っている小棒構造の上皮Stäbchenepithelは,涙腺の導管には全くない.また比較的太い導管では,結合組織性の基底層が外側の輪走線維と内側の縦走線維からできている.ここに筋線維はない.

 神経: 涙腺の(副交感性)神経は橋唾液分泌核Nucleus originis salivatorius pontisからおこり,まず大浅錐体神経を通って翼口蓋神経節にいたる.ここから発する節後線維は頬骨神経および(涙腺神経の)頬骨神経との交通枝Ramus communicans(n. lacrimalis)cum n. zygomaticoを通って涙腺神経にはいり,この神経を介して涙腺に分布する(図499).涙腺にくる神経線維は大部分が無髄であって,腺房の基底膜の上で叢をつくり,それからごく細い小枝や線維がでて基底膜を貫き,細胞上網Überzellennetzをつくる.ここからさらに神経糸が涙腺細胞のあいだに侵入し,細胞間網Zwischenzellennetzをつくっている(図584586).

[図659]ヒトの涙腺の切片

b) 涙小管 Ductuli lacrimales, Tränenkanälchen(図658)

 上下2つの涙小管があって,相寄りながら内側へ走る.両涙小管の内側端が合して長さ0.8~2.2mmの短い共通の集合管をなし,これが涙嚢に注ぐ場合(図658)と,両涙小管が涙嚢の小さい陥凹部に別々に注ぐ場合とがある.

 涙小管の初まりの部分は特有の鉛直方向の走り方をなす.つまり上のものは上方へ,下のものは下方に走る.この鉛直の部分とこれに続く水平方向の部分とは成人では弓状に移行しあっているが,胎児では両部分の境が鋭い折れ曲りを示している.涙小管は涙点で広い開口をもってはじまり,ついで著しく狭くなり,従ってロート状をしているわけである.ロートの狭くなった部分をすぎると,凸側に憩室形成を伴なって著しく広くなった部分がある.ここを涙小管膨大Ampulla ductuli lacrimalisといい,1mmの内径がある.次に続く水平方向の部分は長さが6~7mmあって,内側へ次第に狭くなり,ついに集合管(または直接に涙嚢)に注ぐところでは0.3mmの太さとなっている.内眼角から下の涙乳頭までの距離は6.5mm,上の涙乳頭までの距離は6mmであって,下涙小管の方がいくらか長い.眼瞼をとじると下涙乳頭は上涙乳頭の外側に位置する.両乳頭の先はいくらか後方に向き,同時に上のものは下方を,下のものは上方を向いている.

 微細構造:涙小管の上皮は10~12層の細胞からなる重層扁平上皮で,その厚さは120µである.その最深層は円柱状の細胞で,浅層の細胞は扁平である.

S. 627

 粘膜固有層は主として輪走する弾性線維網を豊富にふくむ結合組織からなる.上皮と固有層とのあいだには細かいギザギザのある基礎膜がある.乳頭部Pars papillarisの固有層は比較的密にできていて瞼板組織に続き,これと同じ性状を示す.固有層は涙小管の水平部では縦またはラセン状に走る横紋筋束をともない,これに対して鉛直部では輪走する横紋筋束をもっている.両筋束ともに眼輪筋の一部である.眼輪筋には涙骨の後涙嚢稜およびその後方から2層をなして起る部分があり(その発達の程度は一定しない),これは眼輪筋の涙嚢部Pars lacrimalis m. orbicularisとよばれるが,涙小管の周辺にある筋肉はこのいわゆる涙嚢部の一部なのである.

c)涙嚢Saccus lacrimalisと鼻涙管Ductus nasolacrimalis

 涙嚢Tränensackは眼窩の涙嚢窩のなかにある.涙嚢窩はうすい1葉の眼窩骨膜Periorbitaで被われており,また前後の涙嚢稜のあいだにはさらに厚い1葉の骨膜が張っているので,涙嚢窩はそのままでは眼窩からは全く見えないのである.

 涙嚢の粘膜は涙嚢窩の内面を被うこの線維性被膜と,たいてい疎性結合組織だけによって結合している.眼窩骨膜に包まれる涙嚢窩は長さ約15mm,深さ7mm,幅4~5mmである.涙嚢の形は涙嚢窩の形と一致し,両端が細くなっている.上端はとくに細くなって涙嚢円蓋Fornix sacci lacrimalisとよばれる.涙嚢の上端は内側眼瞼靱帯によって被われている(図662).

 鼻涙管Ductus nasolacrimalis, Tränennasengangは骨性の鼻涙管Canalis nasolacrimalisより下方へさまざまな長さだけ伸びだしている.それはこの管の内側壁がしばしばかなりの長さにわたって鼻粘膜に被われているからである.従って鼻涙管の長さは個体によって著しくまちまちで,12mmから24 mmのあいだで変化する.鼻涙管は外鼻孔の後縁の30~35mm後方で下鼻道に開口している.

 この開口が骨性鼻涙管の開口と同じ高さにあるときには,その口が広くて縁が鋭いことがある.開口がもっと下方にあるときには,鉛直方向の裂け目になっていることが普通である.鼻涙管の下端が盲端をなしていることがあり,その場合には側方の開口が生じうる.また両方の開口が同時にみられることもある.開口より下方にさらにつづいて,1本の粘膜の溝がかなり長く伸びていることが稀でない.開口を内側から被う粘膜葉がよく発達しているときには,これを鼻涙管ヒダPlica ductus nasolacrimalisとよぶ.これは弁をなして呼気のときに閉じ,吸気のときには開く.

 涙嚢の粘膜は骨膜にゆるく付着しているだけであるが,鼻涙管と骨膜の結合はそれより密である.とはいっても粘膜と骨膜とは,下鼻甲介の静脈叢の続きをなす密な静脈叢によってたがいにへだてられているのである.

 微細構造:涙嚢の粘膜も鼻涙管の粘膜も,その結合組織性部分が,多数のリンパ球をもつ細網性結合組織(その発達の程度はまちまちであるが)でできている.涙嚢から鼻涙管の開口にいたるまで粘膜上皮は部分的に線毛をもつ背の高い円柱上皮であって,その基底部に補充細胞Ersatzzellenがある.また杯細胞Becherzellenがしばしばみられる.鼻涙管の下部には粘液腺が存在するが,上部では個体によってあったりなかったりする.

3. 眼球と眼瞼の運動装置(図652, 660664)

 眼窩内での眼球の運動は1群の筋によってなされる.これらの筋はその走向によって直筋と斜筋に分けられる.直筋Musculi recti, gerade Augenmuskelnは4つ,斜筋Musculi obliqui, schrdige Augenmuskelnは2つある.

 眼球の運動は眼球の矢状軸・横軸・鉛直軸のまわりに回転する諸方向に行われる.これらの各方向に眼球を動かすのに2つづつの筋がはたらいている.その2つの筋は眼球で相反する側でしかも対応する点に付着しているのである.このような筋の配列は多様な中間運動をも可能にすることはもちろんである.そして眼球のあらゆる運動は次の要求をみたすことを第一としている.すなわち可視対象から網膜に投ぜられる像が最も正確にはっきりと現われるように,網膜における視軸の終点の位置を定めることである.従ってこれらの筋は角膜の前面と瞳孔とが,見ようとする対象め方へ向けられるように,眼球の位置を変えるのである.

S. 628

 眼窩にはこれらの眼球に付く諸筋のほかに,上眼瞼のなかに停止して上眼瞼をひきあげることを使命とするもう1つの筋がある.これが上眼瞼挙筋である.

 眼瞼にはその他に眼瞼裂を閉じるはたらきをする眼輪筋の眼瞼部がある.なおまた眼瞼には瞼板筋M. tarseusという平滑筋の1層がある.最後にまた眼窩筋M. orbitalisという名前の平滑筋の存在についても触れておかねばならない.これは下眼窩裂の閉塞にあずかっている.

a)眼球の諸筋
1. 眼球直筋Mm. recti bulbi(図660, 661, 662, 664)

 視神経と眼球のまわりに4つの直筋が集まり,それは上・下・内側・外側をそれぞれ1つづつの直筋が走っているのである.すなわち上,下,内側,外側[眼球]直筋M. rectus bulbi superior, inferior, nasalis, temporalisである.これらの直筋は眼窩の尖端から視神経のまわりを囲んで前方へ走り,赤道より前で眼球につく.それらの長さは約4cmである.

 いちばん重量があるのは内側直筋である(0.7479)が,外側直筋の方がいっそう重いこともある.最も細いけれども最も長いのが上直筋である.4つの直筋はその走向によって1つの円錐を囲むことになる.この円錐の底は眼球に,尖端は眼窩の尖端に当たっている.これらの直筋はいわば眼筋円錐Augenmuskelkegelの主成分をなしている.しかし眼筋円錐はなお上眼瞼挙筋と上斜筋の参加によってはじめて完全なものとなる.

 四つの直筋は眼窩の尖端のところで,視神経管のまわりや上眼窩裂のこれに隣接する部分から短い腱をもって起る.上および内側直筋と上眼瞼挙筋と上斜筋は上眼窩裂の上面から起るが,上直筋と上眼瞼挙筋とは同時に視神経管の上面からも起こっている.内側直筋と上斜筋は視神経管の内側から起り,またこの2筋の起始腱は視神経の硬膜鞘にもついている.なお各直筋の起始部が視東を輪状にとり囲んでいる.(ただし視神経は中心からはずれて位置を占め,上内側に偏している.)各直筋の腱にとって共通の起始をなしているこの結合組織塊は総腱輪Anulus tendineus communisとよばれる.外側直筋は2脚に分れた腱をもって始まるのが普通で,大きい方の下脚は総腱輪から,弱い方の上脚は蝶形骨小翼の基部の下面から起こっている.両脚のあいだに1つの孔があって,第3と第6脳神経および第5脳神経の鼻毛様体神経がここを通って末梢への道をたどる(図661).

 さてこれらの直筋は上に述べた起始部から前方へすすんで,眼球の赤道より前にある付着帯Insertionszoneに達するのである.筋質部から停止腱への移行は付着部から4~8mm離れたところにある.腱線維は強膜の線維束と密に交織して,強膜の内部にまでも進入している.付着部は角膜縁から7~8mm離れている.いちばん幅がひろいのは内側直筋で,いちばん間隔がひろいのは内側直筋と上直筋の腱のあいだである.最も相接近しているのは上直筋の腱と外側直筋の腱である.強膜は腱と線維を交織しあうところに,かなり著明な前方の肥厚部をもっている.

 各眼筋をつ,む結合組織性の鞘はすでに述べた眼球被膜Capsula bulbiという結合組織葉とつづいている,また眼筋の鞘は眼窩骨膜および結膜円蓋とも結合し,そのうち2つの鞘はまた筋膜尖Fascienzipfelとよばれる線維索によって眼窩壁とも結合している(図662).頬骨前頭縫合のところはこの筋膜尖の付着部の1つであり,もう1つの付着部は滑車の下のところである.つまりこの2つの場所に外側および内側の筋膜尖がついている.この2つの筋膜尖が結合することによって,眼球はその位置を保証され,その運動が大きすぎないように守られている.また結膜円蓋に行つている筋膜尖は,関節包を緊張する筋と同じように働き,結膜がはさみこまれないようにしている.上直筋は同時に上眼瞼挙筋とも結合組織性のつながりをもっているので,上を見る運動は眼瞼の挙上をたすけることになる.下直筋の鞘からは著明な線維束が下眼瞼へ行つている.

S. 629

[図660]両側の眼窩内の諸筋を上方からみる(9/10)

左側では上眼瞼挙筋の大部分が切除してある.

S. 630

[図661]左の眼窩内の諸筋を左側からみる(9/10)

[図662]左の眼窩の眼瞼板・上眼瞼挙筋の腱・上および下斜筋を前から剖出してある(9/10)

S. 631

 この線維束のうち眼瞼板にいたる部分には平滑筋が織りこまれている.平滑筋性の瞼板筋M. tarseusというのはこの筋板である.一方上眼瞼の瞼板筋は上眼瞼挙筋の終末腱に伴っている.

2. 斜筋 Mm. obliqui

a. 上[眼球]斜筋 M. obliquus bulbi superior(図660, 662, 664)は諸直筋が起る総腱輪の外で,視神経管の前および内側から,また眼窩骨膜と視神経の硬膜鞘とから起こっている.眼窩の上内側隅で内側直筋の上を前進して滑車小窩の近くで腱性となり,滑車Trochlea, Rotteに達する.ここで円い断面をした腱をもって滑車を通りぬけてから,鋭角をなして後外側へ方向を転じて眼球に向う.その腱が扁平にひろがって眼球と上直筋とのあいだに分け入り眼球に達する.その付着部は眼球の上半で赤道より後方であり,角膜縁から18mmはなれている.滑車をすぎでからの腱の長さは19.5mmであり,付着線は斜めに走っている.

 滑車は上斜筋の腱をうける鞍形をした硝子軟骨で,大よその長さ6min,幅4mmである.短い線維束群によって滑車小窩Foveola trochlearis(または滑車棘Spina trochlearis)ならびに眼窩口縁の骨膜に固定されている,上斜筋の腱は滑車の軟骨の鞍状面の上へ後方から到来し,方向を転換して去るが,そのさいこの腱は滑車滑液鞘Vagina synovialis trochleaeによって包まれている.この腱は滑車を過ぎてから先ではとくに強い結合組織鞘で包まれている.

 変異:明らかに上斜筋から分裂した1筋束が(左の眼窩で)“かなり著明な腱として上斜筋の起始部から起り”滑車を保持する線維に付着していた.同じ個体(ヨーロッパ人)の右の眼窩でも,その発達はいっそう弱いながら,同じ変異がみられた.Fujita, Folia anat. JAponica 1938.

b. 下[眼球]斜筋M. obliquus bulbi inferior(図661, 662)は上顎骨の眼窩面から起る.すなわち眼窩口縁のところで後涙嚢稜の下端の外側から起こっている.筋腹は眼窩底と下直筋とのあい葦を弓状に外側ならびに上方へ向かって走り,眼球の外側に達する.その扁平な腱はやはり赤道より後方で強膜に付着する.

 眼筋の神経:外転神経が外側直筋を,滑車神経が上斜筋を,動眼神経が残りのすべての眼筋を支配している.

 眼筋の 作用:内側直筋は眼球を内側へ,外側直筋は外側へ回転する.上直筋は上方かつやや内側へ,下直筋は下方これまたや」内側へ回転する.上斜筋は角膜が外側下方へ向くよ季に眼球を回転する.下斜筋は角膜がやはり外側へ,しかし同時に上方へ向くように回転する.

 従ってまっすぐ内側への眼球回転は内側直筋が行ない,まっすぐ外側への眼球回転は外側直筋が行なう.まっすぐ上方への回転には上直筋と下斜筋が共に働き,まっすぐ下方への回転には下直筋と上斜筋がいっしょに働く.対角線的な方向の回転には3つの筋が共に働くのである.すなわち内側上方への回転には内側直筋と上直筋と下斜筋がはたらく.また内側下方へは内側直筋と下直筋と上斜筋,外側上方へは外側直筋と上直筋と下斜筋,外側下方へは外側直筋と下直筋と上斜筋がはたらくのである.

b)眼瞼の諸筋

1. および2. 上眼瞼挙筋M. levator palpebrae superiorisと瞼板筋Mm. tarsei(図652, 660, 661, 662).

 上眼瞼挙筋は短い腱をもって視神経管の上部と視神経の硬膜鞘とから起り,そのさい上直筋の起始腱と合してはいるが総腱輪の外にある.そのほつそりした薄い筋腹は眼窩の上壁の下方で,前頭神経の下,上直筋の上を前方へ走り,眼窩口縁のあたりで黄白色の放散する形の腱に移行している.この腱板が2層に分れていて,上(前)の層は浅板Lamina superficialis,下(後)の層は深板Lamina profundaとよばれる(図652, 661).

S. 632

上層の浅板は眼輪筋と上眼瞼板のあいだを走って随毛のところまで下りてゆく.そのさい多数の線維束をだして,これらは眼輪筋の筋束のあいだを貫いて上眼瞼の皮膚に停止する.眼瞼板の前面への付着はH. Virchowによれば存在しない.

 腱板の下(後)層すなわち深板はかなり多量の平滑筋線維--瞼板筋M. tarseusを含んでおり,上眼瞼板の上縁とその前面に付く.挙筋の腱板から内側と外側へ尖頭状に伸びだした線維束は眼窩の内外両側壁に達している(図662).

 上眼瞼の瞼板筋から薄い1筋束が分れでて滑車のあたりにいたることがしばしばあり,これがBudgeの滑車張筋M. tensor trochleae である.下直筋の鞘から結合組織の線条が下眼瞼と眼輪筋の後面とにゆく.これに相当するものが上眼瞼では独立した挙筋の腱になっている.ところで上眼瞼挙筋は上直筋から分離した筋束としての意味をもつのである.下直筋の方はこのように徹底した分裂を示さない.つまり下直筋は上直筋プラス上眼瞼挙筋に相当している.

3. 眼輪筋については顔面筋(第I巻401頁)と眼瞼(621頁)の項ですでに述べた.

c)眼窩壁の筋

 下眼窩裂は眼窩骨膜の一部である眼窩膜Membrana orbitalisによって閉じられている.この膜には平滑筋線維がさまざまな量に織りこまれて眼窩筋M. orbitalisをなしている.とくに眼窩膜の中央3分の1のところには平滑筋線維が豊富である.筋線維の走向はまちまちであるが,Hesserによれば大体に横の方向(前額方向)に走るものが優勢であるという.この筋は交感神経の支配をうけている.

4. 眼窩の内容

 眼球と視神経は眼球を運動させる装置および涙腺とともに骨膜で裏うちされた眼窩の骨壁の内にあって,眼窩脂肪体Corpus adiposum orbitaeとよばれる眼窩内の豊富な脂肪組織によって包まれている.さらに眼球はその周囲の大きい部分を眼球被膜Capsula bulbiという特別の結合組織膜で包まれている.この膜は視神経や眼筋ともつながっている.眼窩の内容は,眼窩口縁をめぐって眼窩骨膜から伸びだす結合組織膜すなわち眼窩隔膜Septum orbitaleによって前方を開ざされている.

a)眼窩と眼窩骨膜

 眼窩Orbitaについてはすでに第1巻187頁に述べた.

 眼窩骨膜Periorbitaは眼窩の骨壁を被う骨膜で,次のようないくつかの特殊性をもっている.

 眼窩骨膜は視神経管, 上眼窩裂, 眼窩頭蓋管を通じて脳硬膜とつながっており,下眼窩裂によって上顎骨の骨膜に移行している.また眼窩口縁をこえて近くの骨の骨膜につづき,鼻涙管と眼窩篩骨管によって鼻腔の骨膜につづき,視神経管の前縁では視神経の硬膜鞘に接続して両者は密に融合しあっている.脳硬膜の方からたどってみると,この膜が視神経管のところで2葉に分れ,その1葉は眼窩骨膜となり,他の1葉は視神経の硬膜鞘となる.従って硬膜は眼窩のなかでは脊柱管のなかと同様の態度をとり,その2成分すなわち骨膜性と神経性の両部に分離しているのである.

 眼窩骨膜は平滑な骨面ではゆるく付着しているに過ぎないが,骨のいろいろな孔のところではいっそう密についている.眼窩骨膜の内表面からは少数の結合組織索が出て眼窩脂肪体のなかに進入する.

S. 633

涙腺のあたりではかなり強い1本の線維索が出て上涙腺の後縁に達し,この腺を固定するのに役だっている.またかなり厚い線維葉が上斜筋にいたり,この筋のまわりに1つの鞘をつくる.そしてこの線維葉のつづきをなして,眼窩骨膜からの線維索が滑車に達している.また滑車の下方では眼窩骨膜が内外の両側葉に分れて,その外側葉が涙嚢窩を橋わたしして涙嚢を被いかくし,内側葉は涙嚢窩じしんの表面を被っている.外側葉の方が内側葉より厚い.また外側葉は上から3分の1ぐらいのところからは,内側眼瞼靱帯のつづきをなす水平方向の1線維索によって補強されている.

b)眼窩脂肪体Corpus adiposum orbitae

 眼窩脂肪体(または眼窩脂肪Orbitafett)は眼窩内の諸器官のすきまを埋めて,これらの器官のために適当なクッションをつくっている.

[図663]左の眼窩の眼窩隔膜を前方からみる.(9/10)

[図664]眼球被膜(テノン被膜) 左の眼窩のものを眼球をとり除いて示す.(9/10)

S. 634

 眼窩脂肪体は眼筋円錐によって不完全ながら内外の2に分けられる.

 内層は外層にくらべると著しく大きくて,眼筋と視神経と眼球後面のあいだにある.ロート状の場所をみたしている.外層はそれより薄くて,眼筋円錐のまわりを包み,眼窩の後部でうすく,前部で比較的厚くなっている.眼窩脂肪体が減ると眼球がうしろへ落ちくぼんで,視神経はいっそううねって走ることになる.

c)眼球被膜Capsula bulbi(旧名テノン被膜Capsula Tenoni) (図664)

 眼球の中央部と後部は線維性の被膜でゆるく包まれ,この被膜によって眼球は眼窩脂肪体との直接のつながりを絶たれている.眼球被膜から外方へは結合組織葉がでて,脂肪小葉を仕切る結合組織と多くの場所でつながっている.また眼球被膜と眼球とのあいだは多数の微細な小糸によって結合している.ここで結合組織の小梁が貫いている場所はリンパ隙であって,眼球周囲隙Spatium circumbulbareとよばれる.

 眼球被膜は前方は眼球結膜にまで伸びて,結膜円蓋から2, 3mmはなれた所で1つの円周線に沿って結膜下組織の中で消えている(眼球の後極の近辺では眼球被膜がうすくなって,視神経が眼球にはいるところの近くではこの被膜は強膜と癒着(Hesser)している).

 眼筋は眼球被膜に対して重要な関係をもっている.すなわち各眼筋の腱が眼球周囲隙を貫くさいに,眼筋の結合組織鞘は眼球に近づくほど強固になり,眼球被膜へと方向をかえながらこれに移行している.またよく言われるようにこの関係を次のように言いあらわすこともできる.眼筋の腱が眼球被膜を貫くとき,被膜は逆行する鞘を筋にあたえ,この鞘は筋の表面を被い,筋の起始部の近くではうすくなっている.この結合組織性の鞘は外筋周膜Perimysium externumのよく発達したものであつで,眼筋筋膜Fasciae muscularesとよばれる.眼球周囲隙は腱に沿って眼筋の方へ(とくに眼筋の外面で)短い距離だけたどることができる.しかし眼球被膜を貫く腱は,その側稜から発する結合組織束が眼筋筋膜の稜と癒合し,それによって腱が強膜にいたる経路が保証され固定されているのである.眼球被膜を貫く腱の数が6つであることは,前に述べたことから改めていうまでもない(図664).

 H. Virchow, Über Tenonschen Raum und Tenonsche Kapse1. Abh. Akad. Wiss., Berlin 1902.-C. Hesser, Der Bindegewebsapparat. . . . d. Orbita u s w. Anat. Hefte 1913.

d)眼窩隔膜Septum orbitale(図652, 663)

 眼窩隔膜は線維性のうすい板で,眼窩内容を前方から閉鎖している.眼輪筋のすぐ後方にあって結合組織によってこれにつづいている.

 上下の両眼窩隔膜は眼窩口縁から起り,そこでは眼窩骨膜および眼窩口を囲む諸骨の前面の骨膜と結合している.そして眼窩隔膜は上下の眼瞼板の外縁に付着するのであるが,そこへ近づくほどに次第に厚さを減じている.眼窩隔膜の前面からは結合組織束が眼輪筋の筋束のあいだへ伸びている.

5. 眼窩のなかでの眼球の位置

眼球は眼窩のなかで正確にその中軸部にあるのではなくて,内側および下方の壁よりも外側および上方の壁に1~2mmだけ近い.また角膜頂が眼窩口の面にちょうど達しているのが普通である.

 従って眼球は上方と下方で骨性の眼窩縁によって保護されている.内側でも鼻の骨が同様にその保護にあたっている.ところが外側では骨による保護がはなはだ不完全で,眼球の外側面の大きい部分はこの方向から何の抵抗もなく到達されるのである.眼窩を水平断して眼窩の内外両側縁を直線で結ぶと,この線は眼球の外側面を鋸状縁のうしろで切るのに対して,内側面を角膜縁のところで切る.

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最終更新日 13/02/03

 

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