Rauber Kopsch Band2. 80

A. 皮膚腺Glandulae cutis, Drüsen der Haut

1. 糸球状腺Glandulae glomiformes, Knäueldrüsen

 糸球状腺は管状腺で,分泌をおこなう終末部が糸だまのようなかたまりをなすものである.糸球状腺はその大きさによって大汗腺と小汗腺に,また分泌のしかたによってエククリン腺とアポクリン腺に分けられる.

 エククリン性の小汗腺がふつうの汗腺の圧倒的多数をしめるのである.アポクリン性の大汗腺はだいてい特殊なにおいのする分泌物を出す.これにはかなり多数いろいろなものがあって,たいていその存在する場所によって次のように名づけられている:睫毛[汗]腺・耳道腺・鼻翼[汗]腺・腋窩[汗]腺・乳輪腺・肛門周囲腺・乳腺.(峯武男(Fol. anat. jap.15,1937)は日本婦人の恥丘(8例中7例)およびこれに隣接する下腹部(92例中31例)にアポクリン腺を認めている.)

S. 707

 Schiefferdecker(Biol. Centralbl., 37. Bd.,1917およびZoologica, 27. Bd.,1922)は形態学的な分泌過程と発生の関係からホロクリン腺holokrine Drüsen(脂腺)とメロクリン腺merokrine Drüsen(大および小汗腺)を区別している.そして後者にはさらに次の2つが区別される:a)メロクリン-アポクリン腺merokrine-apokrine Drüsen(大汗腺と乳腺),b)メロクリン-エククリン腺merolerine-ekkrine Drüsen(小汗腺).アポクリン腺においては分泌のさいに細胞の上端部が離れ落ちる.これに対してエククリン腺の細胞は無傷の表面において分泌物を外にだすのである.

a)小汗腺Glandulae sudoriferae minores(図725, 727, 729, 745, 753, 754, 770, 771)

 これが普通の汗腺であって,枝分れのない長い管であり,分泌をする糸球状部すなわち汗腺体Corpus glandulae sudoriferaeと,汗腺管Ductus sudoriferという導管と,汗口Porus sudoriferという開口が区別される.汗腺は網状層の深層か,さもなければ皮下組織の最上層にある.

 汗腺は全身の皮膚に分布しており,存在しないのは亀頭と包皮内面だけである.その全数は約200万,汗口の総横断面積は38 cm2である.その分布が最も密なところは手掌と足底で,間隔が最もひろいのは胴の背面である.

 Kruaseによると1 cm2あたりの汗腺数は:手掌373,足底366,手背203,頚178,額172,前腕の屈側157,胸と腹155,前腕の伸側149,足背126,上および下腿(内側)79,頬75,項・背・臀部57である.Hörschelmannによると数字の開きは上述のものより小さいが,腺の数じしんはこれより多い:1cm2に足背では641,手掌では1111.(皮膚付属器の数量的研究には岡島敬治およびその門下の人々のなした多数の研究がある.その1つとして,神山清静(Fol. anat. jap.15,1937)の統計的研究によれば,日本人の汗腺の数は20~30才と30~60才ではそれぞれ1cm2あたり次の通り.頭頂部325,194.額424, 251.頚169,160.胸136,122.腹213,146.背199,148.臀部241,153.上腕屈側239,183.同伸側231,153.前腕屈側280,172.同伸側264,174.大腿内側183,125.同外側254,178.下腿伸側191,148.同屈側222,135.また谷口虎年は「人体各部における汗腺の分布」(科学4,1934)において汗口数が年令の増加とともに減少すること,この減少が体表面積の増加に帰せられるらしいことなどを述べ,各人種の簡単な比較をも載せている.)

 汗腺体は丸い形か,少し圧平された形で,半透明で帯黄色またはそれに少し赤味を加えた色をしている.腺体の直径は体部位によって非常に異なっており,ふつう0.3~0.4mmであるが,小さいのは0.06mmしかないものもある.その構造は1本の管がウネウネと何度もまがったものである(図753).管の壁は単層の円柱細胞でできている.これらの上皮細胞は脂肪小滴と色素顆粒を含んでいる.上皮細胞は1枚の繊細な基礎膜の上にのっており,この基礎膜はオルッェインまたはレゾルシン-フクシンでよく染まる.強く発達した糸球状腺では上皮細胞と基礎膜とのあいだに1層の縦走する平滑筋線維(図754)がある.また基礎膜の外側には結合組織性の被膜がある.

 汗腺管Ductus sudorifer(図753)はすでに糸球の中ではじまり,軽くまがりながら(時にはまた鋭く屈曲することもあって)真皮をたいてい垂直に貫いて上行し(図753, 770),さらに表皮を貫通する.そのさい皮膚小稜の存在するところでは,その2つの乳頭列のあいだで表皮を貫いて,ロート状にひろがった口をもって皮膚小稜の頂に開口する(図725).小稜のあいだの皮膚小溝には開口しない.かくして分泌物である汗Sudor, Schweißの流出や発散がそれだけたやすく起るようになっているのである.表皮のなかでは汗腺管がかなり強くラセン状に,すなわちコルク栓抜きのように巻いており,その2~16回転を数えることができる(図727, 753).これと同様のラセン状回転は腺管の全長にわたってもみられ,いずれも限られたせまい場所の中で高度の長さの成長が起るということがその原因をなしている.

 すべての汗腺管は縦の方向にのびた形の核をもつ1層の結合組織性被膜と1枚の基底膜をもっている.上皮は2をなしている.外層は縦走筋層のつづきで,内層は腺細胞層のつづきである.内層の扁平な細胞は強い小皮縁Kutikularsaumをもっており,この小皮縁は高さ(汗口からの深さ)によって異なった形状をしている(Heynold) (図754). Hoepke, H., Z. Anat. Entw.-gesch.,87. Bd.,1928.

 血管:汗腺体に分布する血管は皮膚動脈から特別の枝をうけており,この枝はかこのような叢をつくって糸球のまわりにまつわりつき,さらに糸球の深部にも入りこんで,すべての迂曲した管をとりまいている.この動脈叢から起る毛細管網は,汗腺管の毛細管網だけによって皮膚の表層の毛細管網と結合している(図729).

 神経:汗腺体には多数の神経線維が来ており,結合組織性被膜のなかで細かい線維からなる豊富な神経叢をつくっている.

S. 708

[図753] 汗腺1個の全貌を示す ヒトの足底の皮膚から.

[図754] ヒトの鼻翼の汗腺

左下:分泌する終末部の横断,左上:汗腺管の横断,右:分泌する終末部の切線方向の断面.

[図755] ヒトの足底の皮膚の神経乳頭と血管乳頭

S. 709

若干の神経糸は基底膜を貫いて筋層にいたる.しかし腺細胞まで達するかどうかは,最新の染色法をもってしてもまだ確定されていない(Boeke 1934).汗腺に分布する神経は大きい神経に伴って走っているが,おそらくはその大部分が交感神経をへて来るものであろう.

b)大汗腺Glandulae sudoriferae majores

α)腱毛[汗]腺Glandulae sudoriferae ciliares

 この腺はモル腺Mollsche Drüsenとして知られており,PeterおよびHorn(Z. mikr.-anat. Forsch., Bd. 38)によれば,まっすぐな短い導管をもち,この導管は捷毛の毛包に開口し,分泌部へ移行する直前のところで著しく広くなっている.分泌部は枝分れしておらず,コルク栓ぬきのように巻いていて,つよく拡張した部分とごく狭い部分とがある.行きづまりの端のところがはなはだしく広がっている.

β)耳道腺Glandulae ceruminosae, Ohrschmalzdrüsen

 耳道腺は軟骨性外耳道を被う皮膚にあって,皮下組織の中で,毛に付属する脂腺の層の下に,ほとんどひと続きになった1層をつくっている.腺体はふつうの汗腺よりもゆるい糸球をなしている.この腺はたいてい毛包内に開く.その分泌物は苦い味がして耳脂(耳垢)Cerumenとよばれ,耳道の保護に役だっている.

 耳脂はしばしば剥離した上皮細胞および脱落した毛といっしょになって,かなり濃縮されて暗褐色ないし黒色の栓となり,それが外耳道をふさいで耳のきこえを悪くすることがある.

γ)鼻翼[汗]腺Glandulae sudoriferae nasales

 この腺はAlverdes(Z. mikr.-anat. Forsch.,1932,1934)によれば鼻前庭内で,鼻毛の内方の生えぎわのところにあり,毛包の前がわに開口する.その数はわずかで,各側に平均35個しかない.(この腺は日本人にも谷口虎年によって認められた.また加藤信一(Fol. anat. Jap,14,1936)によれば鼻翼外面の皮膚にもアポクリン腺が33例中12例に認められた.)

δ)腋窩[汗]腺Glandulae sudoriferae axillares, Achselhaardrüsen

 腋窩腺は最も大きい糸球状腺である(2.3:1.32mmに達する).その腺体の全部が真皮のすぐ下の皮下組織のなかで,ほとんどひと続きになった灰赤色の板をなしている.この板の中にはリンパ性組織がかなり豊富にふくまれていることもあるが,その量が少ないこともある.導管は短くて糸球の構成にはあずかっていない.分泌部は長さ約1~2.5cmで,その広さはまちまちである.

 Peter, K., Z. mikr.-anat. Forsch., 38. Bd.,1938, およびGroht, W., 同誌の同巻.

ε)乳輪腺Glandulae areolares mammae

 乳頭と乳輪とにみられるアポクリン汗腺を,今日では乳輪腺とよんでいる.しばしばこれは非常に大きいものである.

ζ)肛門周囲腺Glandulae circumanales.

 この腺は肛門をとりまいて1つの輪をなしており,ふつうの汗腺よりも数等大きい.しかし比較的小型のものは内肛門括約筋のところにまで続いている.この腺は疎性結合組織のなかに散在している(PeterおよびHorn).腺体はゆるく糸球状にまいており,その糸球が長く伸びてほつそりした形で毛根に接している.哺乳動物のいわゆる肛門腺Analdrüsenは胞状腺に属するものであって,これと混同してはならない.

S. 710

η)乳腺Mammae, Milchdrüsen(図756761)

 性的に成熟した婦人の乳房は,左右対称の位置に2つの半球状の高まりをなし,これは第3と第6~第7肋骨とのあいだ,胸骨から腋窩までのあいだの中央部で前胸壁についている.

[図756]婦人の乳房の矢状断(9/10)

[図757]休止状態にある乳腺

分娩後約1年の婦人のもの.

S. 711

左右の乳房は正中線へ向かって相寄り (その接近の程度はさまざまである),そのあいだに乳洞Sinus mammarum, Busenという谷間をはさんでいる.乳洞の広さは個体的に異なる.各乳房の中央よりやや下方で,たいていは第4肋間隙または第5肋骨の高さに,乳房の表面から小さい円錐状の高まりが出ている.これが乳頭Papilla mammae, Brustwarze,であって,やや外側上方へ向いている.乳頭の皮膚は,そのすぐ周りをとりまく輪状の部分すなわち乳輪Areola mammae, Warzenhofとともに,ほかの部分より暗い色調が目立っている.ただ乳頭の先端だけは暗い色がついていない.乳頭と乳輪の色は白人の処女ではバラ色またはそれよりやや暗い赤, 経産婦では褐色を帯びている.なお乳頭の皮膚にはしわがある.また乳頭の先端の近くには12~15の小さい孔があり,これは乳管Ductus lactiferi, Milchgängeの開口である.

 乳房Mammaの基層をなすものは乳腺の腺体すなわち乳腺体Corpus mammaeであって,皮膚の脂肪層の一部である脂肪枕というべきものがこれを包んでいる.この脂肪枕の厚さが乳房の大きさの個体差を生ぜしめる最も主な要素であって,乳腺そのものは乳房全体の高まりにくらべればずっと小さいもので,その大きさの個体差ははるかに少ないのである.乳腺はほず円形で平たくて固く,その内面は乳腺底Basis glandulae mammaeとよばれて平らであるか,または軽くへこんでいる.乳腺底は浅胸筋膜および大胸筋の上に接し,前者とは結合組織によってつながっている.乳腺底が大胸筋の下縁を越えてひろがっていることは稀にしかない.乳腺のもっとも厚い部分は中央部で,すなわち乳頭のあたりである.腺体の周辺部は上および内側方よりも下および外側方が著しく写い(v. Eggeling).乳腺を包む脂肪組織は多数の結合組織中隔によって仕切られている.これは皮膚支帯Retinacula cutisに属するもので,その1端は真皮に,他端は腺をかこむ結合組織ならびに浅胸筋膜と結合し,かくして乳腺の固定に役だっている.

[図758]分泌しつつある乳腺

分娩後14日の婦人

1, 2 内腔の狭い終末部で,腺細胞の内部に脂肪球がある.3, 4広い終末部でその内腔に脂肪球が放出されている.

S. 712

皮膚と脂肪組織をとりさると,腺体の外面が多数の稜状の突起としてみられる(図759, 760).乳頭と乳輪の皮下には脂肪組織がなくて,血管に富むかたい結合組織層があって乳管をかこんでいる.

 乳腺は単一のものではなくて,たがいに分離した15~20の円錐形の葉からできている.これが乳腺葉Lobi mammaeで,乳頭と乳輪のまわりに放射状にならんでいる.脂肪組織をまじえた固い結合組織層が各乳腺葉を包んで,これらを結合して1つの全体にまとめている.それぞれの各腺葉はさらに大小さまざまの乳腺小葉Lobuli mammaeに分れ,ついには乳を分泌する終末腺胞にまで運するのである.

 各腺葉から発する導管がすでに述べた乳管である.乳管は15~20本あって乳頭へ向かって走る.直径は1.7~2.3mmで,乳頭にはいる前に(とくに乳を分泌している時期には)拡張して小さい嚢状のふくらみを生じている.これが乳管洞Sinus lactiferi, Milchsdckchenで,広さが5~8mmあり,一時的に乳を貯える小さい倉庫の役をしている.乳頭のつけねのところで乳管はまたもとの広さにもどり,血管にとりまかれてたがいにかなり密接して乳頭の先端へすすむ.その途中で乳管どうしの間で合流がおこるから,開口の数は腺葉の数よりいくらか少い.開口は乳頭の表面にある小さいへこみの中にあって,そこへ達する腺管よりも狭くなっている.

 多くのばあい,左の乳腺の方が右のより少し大きい.

 それぞれの腺葉は密な結合組織層に包まれ,脂肪組織に充たされた深いくぼみによって,たがいに分けられている.外面と周辺部ではしばしば腺葉がかなり長く脂肪層のなかへ伸びだしている(図756).

[図759, 760] 分娩後まもない若い婦人の乳腺体

左の乳房,2/3(von Eggelingによる) 図759は前方から,図760は左からみる.

S. 713

しばしば腺体の一部が乳房の上外側縁から腋窩の方へ伸ぴている.

 時として乳輪の表面がそのほかの部分よりも低くなっていることがある.また乳輪がかなりもりあがっている場合もある.

 乳輪には大きい脂腺があって,.これは妊娠中にはさらによく発達する.その数は12ぐらいでモントゴメリー腺Montgomerysche Drüsenとよばれ,一種の乳汁分泌を営むにいたることがある.

 それでこの腺は前から迷在乳腺verirrte Milchdrüsenとも呼ばれ,ふつうの脂腺と乳腺との中間型と考えられる.しかしv. Eggeling(Jen. Z. Naturw.,1904)は汗腺と乳腺との中間型であるという.

 この脂腺が存在するのと同じ場所には,また生毛が生えている.乳輪およびそのごく近辺に比較的太い毛が生えていることは,婦人ではごくまれである.さらに乳輪には大きい汗腺すなわち乳輪腺がある.乳頭の皮膚乳頭は大きくてしばしば複合型である.また乳頭と乳輪には平滑筋が豊富に存在する.乳輪ではその筋束が幅ひろくて扁平であり,輪走するが,一部は放射状に走っている.乳頭では多数の筋束が一部は縦走,しかし大部分は輪走の網をなし,乳輪の筋束と編みあっている.乳頭には膠原組織のほかに弾性組織も豊富に存在する.

 乳管は開口のあたりでは8~10層からなる扁平上皮,そのほかの部分では低い円柱上皮で被われている.乳腺,あるいはむしろそれぞれの乳腺葉は,その構造からいって,樹状に分枝する導管(乳管)をもつ複合胞状腺である.

 乳腺は性的成熟の時期になってはじめて強く発達してくるもので,それまではいわば小児的状態にある.しかし性的成熟も乳腺を1つの前段階にいたらしめるだけで,乳腺はこの状態ではまだ機能を示さないのである.乳腺はその活動期すなわち乳汁分泌期にはいつ初めて充分な発達をとげるのである.すでに妊娠第2月で乳房の外観上の変化があらわれてくる.すなわち乳輪が大きくなり,いっそう暗い色調になる.そしてこの傾向は分娩にいたるまで強まる.したがって乳房のこの状態はかなり確かな妊娠の徴候とみられている.この外観上の変化と足並をそろえて乳腺はますます発達し,未熟ながらその分泌活動をはじめる段階にはいる.乳腺の完成がすすむにつれて,その血管装置も増加して血液の供給が増す.

 腺胞は球形または西洋ナシの形で(図757),導管の端に斜めの方向についている.処女の乳腺では終末部が小さくて,その壁は密に寄り合っている.これに反して授乳期(図758)には終末部が平均0.12mmもの直径をもつ立派な小胞をなし,その広い内腔は無数の脂肪小球をふくむ液体で充たさ流ている.すなわち腺胞の内容は出来上がった腺胞性乳汁alveoläre Milchである.腺胞の壁は核をもつ基礎膜と,その外側に接するごくわずかな結合組織とである.基礎膜の内面は乳腺上皮Milchepithelによって被われている.これは単層の上皮細胞で,その機能と形態がさまざまな段階を示している(図758).しかし同一の腺胞ではかなり同じ状態の上皮型がみられる.個々の上皮細胞は脂肪小球を豊富に含むこともあり,全く脂肪を含まないこともある.各腺胞を分けている腺胞間の組織のなかには血管やリンパ管や神経がゆきわたっている.この組織のなかにさらに形質細胞の群や,量の不定なリンパ球がみとめられる.リンパ球は腺胞性乳汁のなかにも少数ながら散在し,また腺胞の壁を貫いてゆくところが見られる.しかしリンパ球は乳汁の産出にとって特別に意味のあるものではない.

乳房の脈管と神経

 動脈は肋間動脈(内側および外側乳腺枝Rr. mammarii mediales et laterales),内胸動脈の乳腺枝Rr. mammarii,側胸動脈の外乳腺枝Rr. mammarii externiから来ている.

S. 714

 皮下の静脈は乳頭の基部に乳頭静脈叢Plexus venosus mamillaeという多角形をした吻合網をつくっている.これらの皮下静脈は近隣のいっそう大きい静脈に注ぎ,橈側皮静脈V. cephalicaにも注ぐ.また深部の静脈は動脈に伴なっている.

 リンパ管は乳腺を被う皮膚,とくに乳輪において細かい目の網をなしている.腺胞間結合組織のなかにもリンパ管がある.

 神経は皮膚と乳輪および乳頭には豊富であるが,腺の内部にはとぼしくて,ここでは主として血管神経をなしているとおもわれる.乳房の神経は閉鎖上神経,第2~第4肋間神経の前皮枝の内側乳腺枝Rr. mammarii mediales,および第4~第6肋間神経の外側皮枝の外側乳腺枝Rr. mammarii lateralesから来て,皮膚のなかを放射状に乳頭に向かって走り,また腺体じしんにも達している.動脈とともにその交感神経叢も腺の内部に達している.--乳頭の真皮乳頭のなかには触覚小体が,また乳頭の基部には少数のファーテル層板小体がみられる.W. Krauseは大きい乳腺管に接して棍状小体を見いだした.

 Horn, A., Das Epithel der Ausführungsgänge der weiblichen Milchdrlise. Anat. Anz., 70. Bd.,1930.

 乳頭は勃起性erektilであり,その皮膚神経が刺激されると伸びることができるのである.ただしその勃起は乳頭の平滑筋だけの作用であって,静脈腔はこれに関与しない.

 異常な形成状態:乳腺そのものには変化がなくて乳頭が重複していることがある.第3の乳房といわれるものもこの系列に属する.しかし乳頭(とおそらくは乳腺も)が対称的な2つの縦列をなしてできている状態はこれと別のものである.すなわち正常な乳房の上または下に,さらに1つ過剰の乳房があらわれることがあり,そのようなものが2つ以上存在することもある(副乳Mammae accessoriae,小乳房Micromammae).最高記録として8つの副乳頭accessorische Brustwarzenが観察され,そのうち3つは正常にできている乳房の上方に,1つはその下方にあった.霊長類はすべて乳腺器官を1対しかもっていない.従って過剰乳頭の出現は人類と最も近いところで半猿頚その他に見られる状態に結びついている.これについてはWiedersheim, Bau des Menschen, 4. . Aufl.1908, Abb.12~18を参照せよ.--乳腺と乳頭とが全く存在しない状態は無乳[]Amastiaとよばれる.また乳腺はないけれども,乳頭はたとえ色素斑としてでも存在する場合は,形成不全Aplasiaということになる.多乳房症Hypermastiaというのは完全に発達した副乳腺のみられる場合で,多乳頭症Hypertheliaというのは完全または不完全に形成された余計の乳頭があるが,それに乳腺組織はない場合である.また乳頭がなくて乳腺組織だけ発達し,個々の乳管が皮膚表面に独立の開口をもっている状態に対して,v. Eggelingは多乳腺症Hyperadeniaという名前を提唱している.--過剰の乳腺は乳腺堤Milchleisteの領域ばかりでなく,ほかの場所にも,たとえば大腿・陰部・臀・背なかなどにも生ずることがある(図761).

[図761] 今日まで知られている過剰乳腺の位置の概観(Sürmontによる,Fischel から引用)

男の乳房Mamma masculina

 乳腺は最初の原基のときは男女両性とも全く同じで,その後も性的成熟の時期までは両性において同様の発達をしている.しかし男の乳房は性的成熟の時期以後にもそれ以上発達しないのが普通である.乳輪と乳頭はあるにはあるけれども,周径が小さいし,乳頭の高さは2~5mmしかない.男の乳頭は成人では第4肋間隙にあり,正中線から平均12cmはなれている.腺体はおよそ幅1.5cm厚さO. 5cmで,白色調を呈し,壊されにくくできている.小葉や導管は小さく短い.

 血管とリンパ管は女の場合と同様である.乳頭の神経は乳頭の小さいわりには非常に豊富で,その一部は触覚小体に終わっている.

S. 715

乳頭の基部と腺体の下面にはファーテル層板小体も見いだされている.

 男でまれに乳房が1側性または両側性に大きくなってくることがあり,この状態を女性型乳房Gynäkomastieとよぶ.しばしばこれは生殖器の奇形と結びついている.女性型乳房では実際の乳汁形成が起りうるということがいわれているが,それは充分の証拠があるとはみなされない.いずれにしてもこのように大きくなった男の乳房の構造は,根本的には女の乳房と何らちがわないのである.

 男においても過剰の乳頭がv. Bardeleben(Verh. anat. Ges.,1893)によると,われわれが予期する以上に,かなりの頻度でみられるのである.すなわち7人のうち1人またはそれ以上の割合で過剰乳頭が見られるという.(日本人の副乳を統計的に研究したものは数多いが,その結果はかなりまちまちである.代表的なものを引用すると次の通り.平沢益吉(日本婦人科誌,26巻9号,1931)によれば未産婦3.1%,経産婦6.2%,妊産婦15%,また本間五郎(臨床医学,30巻11号,1942)によれば男子4000人中145人(3.6%)に副乳がみとめられる.しかし副乳の判定規準が研究者によって異なると思われるので,直ちにヨーロッパ人のものと比較はできない.)この大きい頻度の点よりもさらに重要と思われるのは次のことである.すなわちこれらの過剰乳頭は肩と腋窩から陰部にひいた上述の1線の上に現われるばかりでなく,全く定まった場所にみられるので,その位置によってその乳頭の番号を確定することができるのである.それによるとわれわれの正常な乳頭と乳房は4番目のものである.

 A. Kirchner(Anat. Hefte,1898)が890人の男を観察したところによると,被験者の6/7においては左右の乳頭が同じ肋骨の高さにあった.そして両乳頭が同じ高さを示した763例のうちほぼ半数例では乳頭が第5肋骨の高さ,1/3より少し多い例では第4肋間隙の高さ,89例では第4肋骨の高さ,21例では第5肋間隙の高さにあった.

 Eggeling, H. von, Die ausgebildeten Mammardrüsen der Monotremen usw. (Semon, Zool. Forschungsreisen. Jena,1899およびHandb. mikr. Anat., Bd. III,1,1930に収載).

2. 脂腺Glandulae sebaceae, Talgdrüsen(図762, 770, 780)

 脂腺は胞状腺に属し,枝分れしていることとしていないことがあり,真皮の中にあって,大部分のものは毛の存在と結びついており,皮膚の表面に近い一定の場所で毛包内に開口している.それでこの腺は毛包腺Haarbalgdrüsenともいう.比較的太い毛の脂腺は毛包の付属物のごとく見えるが(図770),小さい生毛ではその逆の関係になっている.すなわち生毛はこれにくらべると堂々たる脂腺をもっていて,後者に付属したものという観を呈し,脂腺の導管からごく細い小棒として突きでている(図762).小さい毛には単一の脂腺か,あるいはごく少数の脂腺しか存在しない.しかし大きい毛には脂腺が毛包の全周を冠状にとりまいて,4~6個の腺が集まって脂腺ロゼッテTalgdrüsenrosetteともいうべきものをつくっている.

 脂腺は毛とともに体表の大部分にひろがっており,それが存在しないのは手掌と足底だけである.

 毛に付属しない独立脂腺freie Talgdrüsenがいろいろな場所にある.その場所をあげると:眼瞼,口唇縁(図9),頬粘膜,外皮と鼻粘膜との移行部,肛門の皮膚と直腸粘膜との移行部,亀頭の表面,包皮の内葉,小陰唇の皮膚,陰核亀頭とその包皮,女の乳頭および乳輪.

 脂腺の大きさは長さ0.2~2.2mmで,かなりの幅がある.単一の腺胞から16~20の腺胞をもつものまでいろいろある.

 大形のものは鼻の皮膚にあって,ここではその開口が肉眼でも見える.さらに恥丘.大陰唇・乳輪・陰嚢・耳介などにも大きいのがある.

 眼瞼のマイボーム腺は脂腺の変化した特別の1型である.

 脂腺の導管は毛包の上皮のつづきをなす重層扁平上皮によって被われており(図762),これが細胞層の数を減じて腺体の上皮に移行する.腺体の上皮はいちばん外方の層は低い円柱上皮でできている.その内方にいろいろな大きさの円みをおびた多角形の細胞(脂細胞Talgzellen)があって,内方のものほど数多くの大小さまざまの脂肪小球をふくみ,ついに最内層では細胞がくだけて脂肪が細胞の外に出てしまっている.

S. 716

分泌がつづくと脂肪はついに開口の外へ押し出されて,毛や周辺の皮膚をしつとりうるおすのである.平滑筋である毛包筋Haarbalgmuskeln(=立毛筋)もその収縮によって脂肪の排出を促進する.

 腺細胞の核は脂肪の形成がすすむにつれて変化をうけ,角化のばあいと同様についには死滅する.残った細胞の部分も変化して,ついには脂肪とともに排出されてしまう.

 導管と腺体では上皮の外側に基底膜と結合組織性の被膜とがある.

 血管系はあまり発達していない.神経:腺体は交感神経性基礎叢の豊富な網でかこまれている.今までのところ腺細胞じしんにまで神経線維をたどることは成功していない(Stöhr jr.1928, Boeke.1934).

 脂腺の分泌物は皮脂Sebum cutaneum, Hauttalgとよばれ,体温では液状を呈する脂肪で,これに細胞の遺残もまざつている.

 Schultze, W. (Dissertation, Berlin,1898)は新生児の小陰唇にはまだ脂腺が全く無いことを知った.

 小陰唇の脂腺は生後10年ぐらいで初めて現われ,その内側面に数がいっそう多い.

[図762] ヒトの鼻翼の脂腺の縦断

2-80

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る