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 その糸の配列をよく見ると,明らかな極的差異polare Unterschiedeがあらわれていることがある.つまり糸がそれぞれ1本のわなをなしていて,わなの頂(曲がりかどのところ)が核の1極すなわち極野Polfeldにむかっており,わなの両端はその反対側Gegenpolseiteにむかっている.個々のわな状の糸は,その数が一定しているが,多数の側枝によってたがいに結びついている.側枝は二次糸sekundare Fadenであって,それより太い一次糸primare Fadenとは区別されるのである(Rabl).

[図14]胞状の核をもつ神経細胞で,大小2個の球状の核小体がみられる.

[図15]胞状の核をもつ神経細胞で,核の中央部に1個の球状の核小体がある.

[図16]分葉状の核 サンショウウォの白血球.

[図17]サンショウウォの精巣における休止核のクロマチン糸Chromatinfaden. (W. Flemming)

 核小体またはKernkorperchen (Nucleioli)は核の内部に1個あるいはそれ以上の数で存在する.これはタンパク質およびごくわずかのリポーゼ核蛋白体RiboseNucleotidenより成っていてふつうの核染色剤によっては染まらない.多くはまん丸い形をしていて,生きている細胞においても明らかにみられる.核剤の成分であるクロマチンといかなる化学的および生理学的な関係を持つかは今日まだよく分かっていない.

 Saguchi (Zytolog. Studien 1930,1934)およびBerg (Z. mikr.-anat. Forsch., 28. Bd.,1932)によれば核小体から物質が細胞体に移行するという.

 まだ成熟しない卵で胚斑Keimfleckeといわれるものは,若干の理由によって核小体ともよばれているが,ふつうの核染色剤に対するその態度が真の核小体と違っていて,これに染まるのである.真の核小体はそれには染まらない.神経細胞の核小体は特に大きく,染色しない生の標本でもこれを見ることが困難でないのである(図14,15).

 核液Kernsaftが特別な性質の液であるかどうか決定するのはむつかしい.核膜に孔があいていないならば,そういう膜は透析力をもつから,核液が特別の性質をもちうるのであるが,核膜のないばあい,あるいは膜が囲んでいても,それに孔のあいているような核では核液は細胞体の原形質とその孔を通して直接につづくわけで,核液と脂肪体の液とが本質的にちがうはずがないのである.

 生きている細胞の核内では核小体だけはいつもはっきりと見えるが,その他の諸構造は固定標本で見られるのみで,生の材料ではほとんど見えない.つまり光学的に空つぼoptisch leerであるごとく思える.しかしそれだからといって,2,3の学者が主張するように,核のしめす諸構造がすべて人口産物であるという説にも充分な根拠がないのである.-これについてはWassermann, F., Z. Anat. Entw.,80. Bd.,1926, およびHertwig, G., Handb. mikr. Anat., Bd. I.,1929を比較参照のこと.

 化学的組成:核は2つないし4つの核蛋白質より成っている.最も本質的なものが2つあって,それは1. クロマチンChromatin(ヌクレインNuclein)と2. パラヌクレインParanulcein(ピレニンPyrenin).

 それになお加えて

3.リニンLinin, 4.アムフイピレニンAmphipyrenin,5.核液Kernsaft.

これらの数種の物質のなかで量においてクロマチンがだんぜん多いのである.

 クロマチンは(化学的な)沈殿現象によっていわゆる核染色剤と結びついてつよく染まるものであり,酢酸(1~50%)によって沈殿し,アルカリに溶ける.そしてペプシン塩酸Pepsin-Salzsäureでは消化せず,トリプシンTrypsinでは消化する.

 クロマチンという名称は原形質という語と同じように決して科学的に単一な物質に伏せられたものではなくて,1つの形態学的な概念である.それはアルブミンやヌクレインないし核酸Nucleïnsäureがいろいろ異なる量で合してできている.

 ヌクレインおよび核酸を含む量が多いか少ないかによって酸性の色素に対する反応が変わるので,A. Fischerはクロマチンの定義を次のごとく述べている.“クロマチンは細胞核の成分をなし,核酸を有してよく染まる物質である.それは核酸を含むことが多ければ多いほど,ますます水溶性の酸性色素に染まりがわるくなる”.クロマチンないしヌクレインの呈色反応はメチル緑の酸性溶液を用いてかなり確実になすことができる.またFeulgenの核染色Nuclealfärbungによっても同じ目的が達せられる(Feulgen, Encykl. mikr. Technik,1927).

 パラヌクレインは核小体をなしている物質である.クロマチンとは化学的および呈色的に区別できる.

 クロマチンは酢酸(1~50%)によっていっそう明瞭になるが,パラヌクレインよりなる核小体はそのとき膨化する.なおパラヌクレインはトリプシンに溶けがたく,クロマチンを溶かすようなアルカリ性の液に入れても溶けない.また酸性の色素液にいっそうよく染まり,2,3の色素(エオシンEosin,酸フクシンSäurefuchsinをつよくとる.

 クロマチンとパラヌクレインとの呈色反応のちがいは次の標語で言い表わすことができる:クロマチンは塩基好性basophil,パラヌクレインは酸好性acidophilである.(この問題ははなはだ多く議論されて,しかも解決していない点が多いのであるが,Fischerの文献をよめばその詳細がわかる).

 リニンLinin(Plastin)は細胞核の成分をなす物質で,ヌクレインがその中に宿っているものでる.ふつうの核染色の色素には染まらない.

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最終更新日13/02/03

 

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