Band1.016   

2. 運動性の機能motorische Funktionen

  原形質はすべて収縮する性質をもっている.もっともこの性質の大きさは細胞の種類によってそれぞれちがう.

 いままでに知られている運動の形を(a)原形質運動Protoplasmabewegungと(b)鞭毛および絨毛Geißel-und Flimmerbewegungとに分けることができる.

  a)第1の群のなかでまた,細胞体の形の変化が起こる運動現象と,細胞の内容物が動いて細胞の形は変わらないものとが区別される.“原形質流動Protoplasmaströmung”は主として固い壁をもった植物細胞におこるのであって,細胞壁に接している原形質の全部がその壁にそって流動すること(旋回Rotation),と細胞の内部をつらぬいている原形質索にそっていろいろの方向に運動すること(循環Zirkulation)とがある.

 最も興味があり,同時に生理学や病理学上の諸現象を説明するのにはなはだ重要な運動の形は“アメーバ様の運動amöboide Bewegung”であって,これは細胞の表面に原形質の小さい突起すなわち偽足Pseudopodienができて,これが大きくなったかと思うと,またふたたびそれがひっこめられる.そのあとで表面の他の場所で同じような現象が新たにはじまる.偽足の形成ははじめにほとんど顆粒のない原形質が外方に向かって伸びることで起こる.しばらくして急に押しだされるように顆粒形質のかなり多量あるいは少量がその偽足の方に動いてゆく.その偽足が次にひっこめられないで,細胞の大部分が突起の伸びたところに移るときは,形の変化から位置の変化Ortsveränderungが生じたわけである.この現象は単細胞のアメーバ類で最もきれいにみられるので,それにちなんでこの運動の全部の形がアメーバ様という名前をえたのである.比較的高度な動物の細胞では白血球が最もよくこのアメーバ様の運動をあらわす(図94).

  b)鞭毛あるいは絨毛の運動は細胞の表面にある特殊の器官によって行なわれる.表面にある突起の数は細胞の種類あるいは動物の種類によってちがうが,1つのことも2つのこともあり,また数本のことも,はなはだ多数のこともある.この突起は明るい物質からなっていて,かなりの固さをもち,ある一定の方向に打つ性質をもっている.それによって細胞の体じしんが前に進むことになるのは精子や数多くの下等の動物でみられることであるが,あるいは細胞の位置が固定していて,その範囲に達する物質の集団運動を起こすことになる.その非常によい1例は気管やその枝の内部における粘液とその中に含まれる異物が絨毛の運動によって喉頭の方にむかって運びだされていることである.この運動の形が動物体にとって重要な意味を持つことは上述の点からたやすく理解される.

 この原形質運動がどんな原因で,そしてどんな機序で起こるかはいまのところ確実なことがわかっていない.機序の問題では特別な糸状の成分があって,これがその運動を仲介して,大事な役目をしていることは間違いないようである(29頁を参照のこと).なおまた,いろいろな種類の筋細胞では細胞の原形質の大部分が特別な分化をとげて,,そこでは運動能力の一般的な性質がはなはだしく高度にそなわっているのである.思うに原形質流動といい,アメーバ様の運動といい,絨毛や鞭毛の運動および筋の収縮といい,みな一群に属して,たがいに深いつながりをもつ現象である.上に述べたいろいろの方向における原形質の収縮性という性質はすべて特別な構造があって初めて実現するのである.もしも原形質が単に液性の物質であったならば,その収縮する性質は理解できないわけであろう.

[図18]絨毛をもつ細胞 カエルの口蓋からとりだしたもの.

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最終更新日09/07/13

 

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