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それはたがいに反応する物質が溶液の形で遭遇するというかぎりは,原則的としては日常われわれが化学の実験室で行う反応と変わらないである.しかしその反応の多くは触媒的に作用する,ほとんど消費されることのない酵素によって初めて可能となる.これらの触媒物質はコロイドの性質をもっているので,細胞の外に流れ出ることはない.酵素が細胞のもつ化学的用具として本質的なものであることを知るならば,10以上のものそれぞれ違った酵素化学的な過程が同一の細胞のなかで,同時にまたつぎつぎに行なわれうることが理解される.さらに次に述べる2つのことが証明さえているので,その理解はいっそうたやすくなる.1. 同じ1つの酵素が単一の化学物質に働くのみでなく,同じようにできている化学物質の全系列にもはたらく.2. 同一の酵素が条件の変化によって異なるはたらきをする.また個々の反応がたがいにじゃまされずに起こりうるためには空間的に分かれていることが必要であるが,これは酵素がコロイドであり原形質もコロイドであって,酵素が浸透して広がることはほとんどないので,それもはなはだ容易に考えられるのである.それゆえ,細胞の原形質は全体が同じようにできているのではなくて,コロイド性の壁で仕切られた数多くの部屋をもっていて,その壁は部屋の中で起こっている反応に対してかなり抵抗できるものであるにちがいない.この結果は原形質の蜂巣構造の学説とよく合致するのである.Hofmeister, F., Die chemische Organisation der Zelle. Braunschweig. Vieweg & Sohn.

b)成長Wachstum

 細胞の物質代謝と直接につづいて細胞の成長という現象がある.もっとも細胞の物質代謝に伴っていつも細胞の増大がおこるとはかぎらない.収入と支出が平衡をたもっていることがある.収入が支出より多ければ細胞の大きさあるいは密度が増すが,その逆だと細胞は小さくなりあるいは密度が減る.細胞の成長は内部から膨れるようなぐあいにおこる(ein intussuszepionelles, inners Wachstum).

4. 細胞の成生と増殖Bildung und Vermehrung der Zellen

 古くSchwannが動物の細胞の発生について,Schleidenが植物細胞について最初にのべたのは組織をつくる性質のある液eine gewebebildende Flüssigkeitすなわち細胞形成体Cytoblastemaのなかに自然に生ずるというのであるが,その過程はその後の研究によって誤りであることがわかった.この問題に関係したすべての研究の結果をVirchowが総合して“すべての細胞は細胞より生ずる”Omnis cellula e cellulaという1文にまとめたのである.それと関係してFlemmingの文句“すべての核は核より生ずる”Omnis nucleus e nucleoも直ちにここに付属する.RauberはAltomannやPflügerが“すべての顆粒は顆粒より生ずる”Omne granulum e granuloと主張したのを正しいと考えている.おそらく“すべての中心子は中心子より生ずる”Omne centriolum e centrioloということも正しいであろう.最後にこれから導かれて“すべての生物は生物から生ずる”Omne vivum e vivoとなる.少なくとも今日ではそう云える.

 原形質と,それとともに生命がいかにしてはじまったのか,現在のところわれわれは知らないのである.もっともそれについての学説は数多くある.近ごろBalyとButenandtは蛋白質の成分すなわち地球上の生物を構成している物質を人工的につくることに成功した.しかしこれらの物質がいかにして生命をもつに至ったかという問題は今なお未解決である.

 すでに存在する細胞がいかようにしてその数を増やすかは,第19世紀の終わりに近い2, 30年の間の研究によって明らかにされた.

 細胞の増殖は分裂によっておこるのである.

 細胞のすべての成分が分裂する.その減少は中心球および核においてはなはだ目立つのである.それは中心小体と中心球が分裂し,核物質から糸状のものができて,これが分裂する.

 この形式の細胞分裂は間接分裂あるいは有糸分裂indirekte od. mitotische Zellteilungとよばれ,それに対して直接分裂あるいは無糸分裂direkte od. amitotische Zellteilungがある.後者は核に複雑な変化が起こらないので,細胞体と細胞核とが簡単にくびれて分裂するのである. まずこれら2種の細胞分裂を形態学的にくわしくしらべてみよう.

A. 間接分裂すなわち有糸分裂

 この形式が細胞分裂としてははるかに多く行なわれ,またいっそう重要なものである.それに対して直接分裂は従属的な意味を持つにすぎない.

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最終更新日09/07/13

 

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