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 温熱は細胞分裂の進行を早くする.両棲類では温度が10℃あがるとその速さが2倍になる(Peter, K., Z. Morph. anthrop. 24. Bd.,1924).しかしこれは一定の好適な温度内のことであって,温度がそれより低いときは遅延因子,それより高いときは加速因子を加えなければならない.いろいろな侵害が有糸分裂の新興に影響をあたえ,あるいはそれを抑制する.例えば比較的高い温度(42℃~45℃) (Wassermann, Verh. anat. Ges.1921), Kokott, Z. Zellforsch.,11. Bd.,1930),冷汗,麻薬薬(Politzer, Z. Zellforsch.,13. Bd.,1931),酸をはたらかせること,気圧を何倍かにすること,レントゲン線(Politzer, Strahlentherapie, 42. Bd.,1931), 細胞の死がいま云ったような侵害として数えられるのである.細胞分裂は創傷ホルモンWundhormoneあるいはNekrohormoneによってもひきおこされうる(Haberlandt, Biol., Zentralbl., 42. Bd.,1922).これは外傷により破壊された細胞あるいは単に傷害されたか,ないし死滅した細胞からでてくる物質である.また細胞分裂はミトゲン線“mitogenetische Strahlen”によってもひきおおこされる(Gurwitsch, Das Problem der Zellteilung. . . Berlin,1926),これは“Organismentrahlung”(Stempell) (有機体放射線の意)というのがいっそう適切である.これは紫外線であって,その波長はこれを発するもの(放射源StrahlungsquelleあるいはInduktor)の如何によって違っている.

 分裂を起こす因が核にあるのか,あるいは原形質か,あるいは中心球にあるのかという問題で学者たちの意見が一致していない.中心球が指導的な役目をしているごとく一応はみえる.しかしこの3つのものの交互作用の上に分裂をおこす因があるとの考えもいま述べたのと劣らず脳裡におく必要があるのであろう.

[図34]ヒトの精母細胞SpermiocyteにおけるX-およびY-染色体(Painter, J. exper. Zool., 37. Bd.,1923による.)

[図35]半翅類カメムシLygaeus turcicusの卵祖細胞Oogonieにおける1組の核係蹄

[図36]Lygaeus turcicusの精祖細胞Spermiogonieにおける1組の核係蹄

[図37]Lygaeus turcicusの精母細胞Spermiocyteの第2分裂におけるX-およびY-染色体.(図35~37はEd. B. Wilson, J. exper. Zool., 3. Bd.,1906による.)

常染色体Autochromosomenと異染色体Heterochromosomen

 多数の動物および植物において(とくに昆虫で明瞭であるが)1個の細胞のなかにある染色体が同じ種類ではないのであって,大きさ,形,そして(たぶん)意義が違っている.いっしょにして染色体の組Chromosomen-Garnitur, ドイツ語でKernschleifensatz(1組の核係蹄の意)とよばれる.

 1個の細胞のなかにある大きさや形のちがう染色体をよく調べてみると,2つずつ同種であって,有糸分裂のときにこの2つがしばしは対をなしていっしょに存在している.これが相同の染色体homologe Chromosomenとよばれる.ところが動物によると,こういう対をなす常染色体AutochromosomenあるいはEuchromosomen(正染色体の意)のほかになお1個の特別な染色体があって,これは対をなす相手をもっていないか(そのばあいX染色体X-Chromosomという),あるいは対をなすがその相手と大きさも形もちがうのである(この相手はY-染色体Y-Chromosomとよばれる).このXとYを合わせて常染色体に対して異染色体HeterochromosomenあるいはIdiochromosomen(特異染色体の意)という.これが性の分化に関係を持つといわれ,したがって性染色体Geschlechtschromosomenともよばれる.しかしこれが性を決定するということがまだ確定されているわけではない.

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最終更新日 13/02/03