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 絨毛細胞Flimmer-oder Wimper-Zellenは円柱状または円錐状の細胞で,その自由面には多数の細かい毛が生えていて,その毛が細胞の生きているときは運動bewegen od. flimmernする.この絨毛は小皮縁Kutikularsaumという細胞体の縁の固い特別な1層付着している.そこで基底小体Basalkörperchenというものと結合している(図43~45).これからさらに細胞体の内部に細かい糸状物がのびて,これが集中しながら円錐状をなすので,絨毛根円錐Wimperwurzelkegelとよばれる.楕円に近い形の核が小皮縁からいくらか隔たったところにあり,その長軸は細胞じしんの縦軸と平行している.絨毛細胞の基底部は円錐状に細くなり,尖った突起をなしている.それが数本の細い糸状物に分かれていることがあって,これが上皮の下敷きをなすものに鈎で止めたように付着している.

 一定の細胞でみると,絨毛の運動はいろいろと違ったぐあいにおこなわれるが,毛のなびく方向はいつも変わらないのである.小さい細胞で,しかも弱い拡大でみたのでは,絨毛細胞の特性はなかなか分からない.多くの動物のものを比較してしらべると,はじめて絨毛細胞の複雑な構造がいっそう明瞭にある.絨毛細胞は動物界の全体を通じて大きい役目をしていて,時としてはこれが唯一の運動器具をなしているのである(図45).

 絨毛は単層の扁平上皮や高低のいろいろの円柱上皮にも存在することがある.後者は単層のばあいも銃創のばあいもある(図47).K. Peterの研究(Anat. Anz.,15. Bd.,1898,1899)によれば絨毛細胞の核をもっていない部分にも活発な運動がみられるのである.すなわち核は絨毛の動きには意味をもたない.またその毛だけを原形質の一部が付着しないようにとりだしても,やはりそれが運動するので,原形質もまたこの運動に直接の影響をもたない.絨毛運動をおこす中心はむしろ絨毛装置じしんのなかにあるのであって,基底小体のみがその責任を持つとおもわれる.この考え方と一致するのが精子Spermienの断片についての所見であって,中部Mittelstückとつづいている断片のみが運動をしめすのである.しかしなお基底小体と中心小体とが同じものであるかどうかが決定されていないし,また植物についての問題も容易に決まらない.(これについてはHeidenhain, Plasma und Zelle. Bd. I., Jena ,1907の287頁を参照のこと.)-v. Renyi (Zeitschr. Anat. Entwgesch.,81. Bd.,1926)は絨毛細胞の運動の中心に関する問題を新しい方法(生体染色,微小操作)を利用して研究した結果,“いままでの記載的および実験的な形態学において,絨毛細胞の運動の中心をいくらかでも確実さをもって決定することは,成功していない”という悲観的な結論に達したのである.

 円柱上皮細胞や絨毛上皮細胞のそれぞれの集まりの中に,機能の上からは粘液細胞Schleimzellenとよばれ,形状の受けからは杯細胞Becherzellenとよばれる一種特別な細胞がある.その形は分泌物を含む量によって変わる.分泌物をほとんど有しないときは円柱細胞の観を円柱細胞の観を呈しているが,粘液が増していくると樽のような形になる.それも初めはまだ細長いが,だんだんと丸みをおびて膨れてくる.そうすると核は原形質の残りといっしょに細胞の基底部に移り,核の形が変わる.細胞の自由端のところが開いて粘液が密雲か綿雪のように膨れてその口から出て行く(図42, 47, 56, 57).

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最終更新日13/02/03

 

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