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 上皮細胞の内部の分化としていま一つの別の種類は脂肪化上皮細胞Fett-oder Pio-Epithelzellenであって,その例は脂腺や乳腺の上皮にみられる.しかしこれらはわれわれが種々の上皮性の腺でみるところの細胞内部の変化についての万掌鏡ともいうべきもののほんのわずかな一部にすぎないのであって,それらの上皮性の腺については後に諸器官の項で述べることとする.

 ここでは脊索Chorda dorsalisの組織について一言しておこう脊索は密に相接しあった細胞の集まりより成っていて,この細胞はやや進んだ段階では細胞膜をもち,細胞間橋(Studnicka)によってたがいに結合しているが,細胞間物質はごく少ししかなくて,そこに初めは膠原CollagenもコンドリンChondrinも含まれていない.しかしそれよりあとになると脊索組織の内部でそこそこに細胞壁が厚くなり,またその化学的性質がかわって,いわゆる脊索軟骨Chordaknorpelができる.それゆえ脊索の組織は学者によって結合組織に数えられ,あるいは上皮組織に数えられたりする(44頁を参照のこと).Schafferはそれが軟骨組織や結合組織に属するものではないと考えた.彼によればそれは支持物質の特殊な一型であって,宗族発生的に“軟骨組織の前進とみなされるものであり,軟骨様支持組織chordoides Stützgewebe”と呼ぶことができるのである(Anat. Anz., 37. Bd.,1910).-Studnicka, Z. Zellforsch.,13. Bd.,1931をも参照のこと.脊索の増殖した残物が成人にもなお存在している.

上皮細胞と神経線維

 近年まで一般に信ぜられた学説は,神経の非常に細かい終末部が上皮細胞の間にある,すなわち上皮細胞間の液の流れている迷路部にあるというのであった.もっとも,それが細胞内にあると主張する声もなかったわけではない.近年のすぐれた研究方法によって初めて,ごく細かい神経線維が上皮細胞の内部に侵入して,その細胞体の中で,しばしば核に近いところで細かい終末網をもって終わることが確実に証明できるようになった.Boekeは“角膜のほとんどすべての細胞が神経をうける”と述べている.彼は扁平上皮を構成する普通の細胞および感覚細胞における細胞内神経終末を特に記載している.(図60~62).

 Eggeling, H., Anat. Anz., 20. Bd.,1901.-Heidenhain, Sitzber. phys. med. Ges. Würzurg,1899.-Studnicka, Sitzber. Böhm. Ges. Wiss. Prag,1899.-Zimmermann, Arch. mikr. Anat., 52. Bd.,1898.

[図57]多列絨毛上皮mehrzeiliges Flimmer epithel. ヒトの鼻腔の呼吸部Regio respiratoria. [多列上皮mehrzeilings Epithelとは本質的には単層であるが,上皮細胞の丈が高低いろいろで,一部のみ表面に達する.従って核の並び方をみると多層のごとくおもわれるものをいう.(小川鼎三)]

[図58]中心鞭毛装置 ヒトの精巣網の上皮細胞.(Alverdes, Z. mikr.-anat. Forsch.11. Bd.,1927より.)

[図59]2個の色素上皮細胞 ヒトの網膜,細胞の側面からみる.細胞の下部は色素を欠き,上方に向かって長い絨毛状の突起ができている.核は示されていない.(M. Schultzeによる.)

 

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最終更新日13/02/03

 

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