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 この細胞は結合組織細胞1)の細胞体に褐色の色素顆粒がつくられるか,あるいは取り込まれることによって生ずる.細胞体が色素顆粒で全く充たされていることがある.しかし核はそのときも色素顆粒を有しないで,それを被いかくそうとする色素の中から明るい小胞としてみえるのである.はなはだ普通に色素細胞は枝分かれして,星形を呈している.

 色素結合組織細胞の存在は人間では眼(眼球中膜と強膜),クモ膜,および皮膚に限られている.

1)色素上皮細胞pigmentierte Epithelzellen, 色素結合組織細胞pigmentierte Bindegewebzellen, 色素神経細胞pigmentiete Nervenzellen, 色素筋細胞と色素筋線維 pigmentierte Muskelzellen und-fasernがある.色素は常に組織細胞Gewebezellenの内部にある.色素上皮細胞は有色人種の皮膚に広い範囲にわたって存在する.白色人種では陰茎,陰嚢,肛門付近,腋窩,眼瞼の皮膚や眼の結膜にそれがある.色素は主として表皮の下部の細胞層にある.色素結合組織細胞は体じゅうどこにも存在し得るが,最もその数の多いのが眼球中膜Tunica media oculi(すなわち脈絡膜と毛様体と虹彩)であり,それについで多いのはすぐ上に述べた皮膚の一部で色素に富む場所である.動物では色素顆粒をもつ軟骨細胞pigmentierte Knorpelzellenも存在する.まだ瞳孔散大筋M. dilatator pupillaeは色素筋細胞よりできている.色素神経細胞は中枢神経系の特別の場所にある(黒核Nucleus niger,青斑Locus caeruleus).比較的年配の人の神経細胞には正常の現象と色素が存在する.(原著註)

10. 内皮組織は脈管の内面を被うごく薄く平たい細胞から成っている.個々の細胞は扁平で,その輪郭は多くの場合不規則な波状である図88,89).ただ2,3の個所,たとえば前眼房の内皮では直線的の境をもった規則正しい五角形あるいは六角形の板状の細胞がならんでいる.モザイック状に配列した細胞の縁のあいだには細胞間橋と細胞間隙とがあり,後者を通って液が通じ,遊走細胞が移動している.内皮細胞の表面は,つまり内皮が囲むところの空所に向かっている表面であるが,個々は平滑であって,比較的固い1層をなしている.扁平な楕円形の細胞核があって,局部的にそこだけ細胞体が高くなっていることが少なくない.

 脾臓の静脈性毛細管(いわゆる脾洞Milzsinusのことである.(小川鼎三))の内皮細胞(II巻をみよ)は特別な形をしている.それは細長くて,両端が尖ってい終わる棒の形であって(杆状細胞Stabzellen),その核は管の内腔の方につよく突出している.

 肝臓の小葉内の毛細管の内皮細胞もまた特異性を示す.その細胞境界が銀液で処理しても検出することができないのであって,従っておそらく合胞体Syncytiumなのである.

11. 胎児性結合組織embryonales Bindegewebeは初めはただ,たくさん枝分かれをした星形の細胞がその枝でたがいに結合して(すなわち吻合して)おり,その細胞のあいだにムチン(粘液素)をもつ膠様の物質があるのみである(図63).その細胞の核は楕円に近い形か,あるいは細胞体の形に応じて不規則な形をしている.

 胎児の結合組織がこの形態にとどまるのは短い期間のみであって,まもなく細胞の中にも外にも膠原性および弾性の原線維が各々の場所によって様子はちがうがあらわれる.しかし細胞間の膠様物質は何しろ後ろまで豊富に存在しているので,出産の時でも臍帯の組織はそのときはなはだしく線維に富んでいるにかかわらず,なおジェリー様の性質を示すのである(ワルトン軟肉Whartonsche Sulze).また胎児の結合組織が永くみられる場所としては内耳の膜迷路のまわりである.これが液化していわゆる外リンパ腔perilymphatische Räaumeが生ずる.

[図87]色素結合組織細胞 眼の脈絡外層Stratum perichoriodeum. ×600.

[図88]脳軟膜の動脈の内皮.硝酸銀で処理して細胞の境をあらわしてある.×300.

[図89]リンパ管の内皮.モルモットの腸の筋層より.×240. (Auerbachによる.)

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最終更新日13/02/03

 

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