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 神経細胞にとってとくに特徴的なのはその大きい胞状の核である.この球または楕円に近い形で,はっきりした薄い核膜と1個あるいはそれ以上の数の核小体をもっている(図14,15,118~124).適当な処理によって初めて繊細な核材がそこにはっきり認められ,新鮮なままの標本ではそれがみられない.この核材はリニンLininのみからなるごとくみえる.

 細胞体の内部には次のようないくつかの特別の構造がある.

a)色素好性物質chromophile Substanz (Nissl),

b)神経原線維Neurofibrillen (Bethe, Cajal),

c)内網装置Binnengerüst (Kopsch), Appaato reticolare interno (Golgi),

d)細胞内細管intrazellulare Kanalchen (Holmgren),

e)中心小体zentralkörperchen

a)色素好性物質は普通はニッスル小体Nisslsche Körperchenともよばれ,大小種々の顆粒や細糸がいろいろな形の群をしたものとして存在する.不規則な形で角のある塊があって,その間に狭い明るい場所がはさまれている.その外観はいろいろな種類の細胞で異なっているが,おのおのの細胞種によっては特色がある.細胞の機能状態のによってもちがうので,ニッスル小体を見ることによってニューロンの栄養ないし健康状態をある程度測ることができる.神経突起が切断されたり,神経細胞があまり永くつづけて働いたりすると,ニッスル小体が減少し,また消失することがある.その他の変わり方としては濃縮した塊をなすこともある(図14,15).

 b)神経原線維はすでに古くM. Schultze, Kupffer等がみたものであって,はなはだ細い線状のものとして細胞体の中のみならず,樹状突起および神経突起の中にも見られる.原線維は細胞体の中でニッスル小体のあいだの明るい場所を通っている.原線維が細胞体の中および樹状突起の幹の中にどんな具合になっているか,その詳細の点がしばしば議論されて,しかもなお決定していない.それについては,原線維じしん,あるいはその集束がたがいに直接につづいているのか,もしくはこれらは独立しており,ただ隣り合わせて走っているのかということが議論の種になっている.Betheによると原線維は網をつくらないで,細胞を貫いて走るのが普通なのであって,格子状の構造をなすことはいっそう稀である(これは無脊椎動物に見られ,脊椎動物の脊髄神経節の細胞,シビレエイTorpedo marmorataの電気葉Lobus electricusにもみられる).この説に反してCajalやDonaggioその他の人々は原線維が細胞体の中でも樹状突起の最初の分岐角のところで網状の配列をしていることを断乎として唱えている.最もこの人たちも原線維束の一部が他のものと合したりしないで細胞を貫いてとおることも認めてはいる.また樹状突起や神経突起の中では原線維が束をなして,たがいに隣りあって存在している.

 c)内網装置(図124) (GolgiのApparato reticolare interno)はいろいろの太さの円るい形の索状物が集まってはなはだきれいな網をしているのであって,この索状物が時としては顆粒からできているようにみえることもある.これは細胞体の内部にあって,その表面には達してない.網の一部が核に触れていることもあるが,核の近くでも,また細胞体の辺縁のところでも狭い一体が内網装置を全くもっていないことが普通である.その上に網をなしている糸が側方に枝を出して,まもなくこの枝が単に円く,あるいは頭がふくれた混紡の形で終わったり,また(比較的年配のもので)網の若干の部分が小葉状の配置をとったりするので,この装置の像はますます複雑となる.内網装置の本体と意義については11頁ですでに述べた.

[図123]神経原線維 18才の男の腰髄の大きい前柱細胞.AX神経細胞,a, b. c. dなどはみな樹状突起.原線維はその一部のみが描かれてある.(A. Bethe,1900)

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最終更新日13/02/03

 

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