Band1.071   

a)シュワン鞘をもつ有髄神経線維が脳および脊髄からでるすべての末梢神経の最も主な成分をなすが,なおその他に交感神経系にもある.

 髄鞘Markscheide, MyelinscheideはミエリンMyelin, Nervenmarkとよばれるつよく光線を屈折して輝いてみえる物質から成っている.これは蛋白質とリポイドの混合物であって,その上になおニューロンケラチンNeurokeratinという角質様の物質を含んでいる.ニューロンケラチンが溶液の形で存在するのか,あるいは髄鞘の中で網状の構造をしているのかは定まっていない.新鮮な神経線維では(図125),髄鞘ははっきりした境界線を示し,髄鞘の存在する範囲ではその中に包まれている軸索を外から見ることができない.しかし死についてある神経線維だと,まもなく第2の,すなわち内方の境界線があらわれてくる.かくしてその線維は複輪郭性doppelt konturiertにみえる.この複輪郭性はそれにつづいて高度におこるところのミエリンの凝固現象の最初のあらわれである.神経にアルコールとエーテルを加えて煮て,ミエリンから脂肪性の部分を除き去ると,それまでミエリンで充たされていた場所にきれいな網状の構造が残るのであって,これが前にも述べたことのある髄鞘の神経角質材Horngerüst, Hornspongiosaである.この構造は染色することによって,例えば鉄ヘマトキシリン(Corning)やその他の方法で切片標本でもみることができる(図126,127).

 髄質の内側と外側の境界をあらわすところの,同一物質より成る2枚の鞘(外および内角質髄äußere und innere Hornscheideとよばれる)があって,その間に多数の小さい梁が張られており,この梁と鞘を合わせたものが神経角質材である.

 シュワン鞘神経鞘Neurilemmともいい,末梢神経線維がもつグリア性の物質であって,ガラスのように明るくて,弾性をもち,無構造にみえる膜で,髄鞘の外面に密接している.そしてシュワン鞘の内面に接して,ある間隔をおいて楕円に近い形の核が存在する.その核のまわりに多くのばあい,細かい顆粒を含む原形質があって,これが特に核の両極のところで集まっている(図128).

 髄鞘にはその他になお特異な切れ込みがある.すなわちランヴィエ絞輪Ranviersche Schnürringeとシュミット・ランターマン切痕Schmidt-Lantermansche Einkerbungenとである.

 ランヴィエ絞輪ではシュワン鞘もまたその形成に大いに与っている.シュワン鞘の深い輪状の絞れが,ある間隔をおいて軸索のすぐ近くまではいりこむので,ここでは髄質が全く欠けていることがある.軸索は絞輪のところで円錐状に太くなっていることがある(図127,129).硝酸銀で処理したばあいに,そのへこみの奥に黒く染まった横走の境界線があらわれる.それは上皮の接合線と似ている.それゆえシュワン鞘は管状をなす分節の集まりでできているのだろうと考えるのである.銀液はここからその程度は個々のばあいによって違うが,多少とも軸索の中に或る距離だけ及ぶのであって,かくしてラテン十字lateinisches Kreuz (Ranvier)[銀十字Silberkreuzと同意語である.(小川鼎三)]とよばれる像が生ずるのである.銀の沈着した軸索がしばしば横の縞模様を呈して,明るいすじと暗いすじが交互に重なり合っている.これがフロムマンの横線Frommannsche Linienである.神経線維じしんは絞輪によって外面的にはいわゆる輪間節interanuläre Segmenteに分かたれている.輪間節の長さすなわち絞輪間の距たりは細い線維で0.08mm,太い線維では1mmに達する末梢の有髄神経線維のすべてが絞輪をもっている.神経根の線維も同じである.

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最終更新日13/02/03

 

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